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インターネット字書きマンの落書き帳

   
占い師にはままあること
タイトルはこんな風だけど実際は「ないよこんなこと」みたいな話を書きました。

ある占い師が、散々と飲み食いをした後でお財布がないことに気付いてしまい
「うーん、どうしよっかなァ~」
と迷った後スマートにその場を対処するような話ですよ。

この占い師、以前に書いた「女の幽霊を見た話」とか「心霊スポットでタクシー運転手してる人の話」の人物と同一です。
個性が強いタイプの語り部。



『特別出張鑑定』

 俺は焦っていた。
 はじめて入った喫茶店でモーニングのセットをたっぷりと楽しんだ後で財布を忘れているのに気付いたからだ。
 この駅に来るまで定期で事足りたから財布を忘れている事にさえ気付かなかった。いまさら金がないというのは何となしに言い出しづらいが、かといってここまで金を払いに来てくれるような親しい友達もいない。
 無銭飲食をするつもりは無いが「財布を忘れた、必ず取ってくるからツケにしておいてくれ」なんて言い分を店主が聞いてくれるだろうか。財布を忘れたなんてマヌケな事を言い出すのにも抵抗があるし、何より恥ずかしい。
 念のため鞄の中を探してみたが、いくら確認しても財布だけが入っていない。ここまで財布を出し入れした事はなかったし、昨日はコンビニに財布だけもって出かけたから確実に入れ忘れていた自覚がある。落としてしまったより困惑は少ないが、絶望的なのは変わりないだろう。
 スマホは手元にあるが、カード類は一切持たずあらゆる場面で現金払いのみを貫いてきたのが今は仇となった。
 どうしたものかと考えあぐねている所、喫茶店のドアベルが鳴り新たな客が入ってくる。
 年の頃は二十歳前後か、店に入るなり周囲を見渡し席に座る気配はない。店には俺とマスターの他に客はなく、男はあまり広くはない喫茶店を一周すると店を出ようとしたものだからこれぞ天の助けと思い、男へ声をかける事にした。

「そこの学生さん、誰かお探しかな」

 すると、男は足を止めてこちらを見る。自分のことを呼ばれたのに気付いたのだろう。

「どうして僕が人を探しているってわかったんですか」

 男は俺の物言いに驚いたといった様子で声をかけていた。
 別に驚くような話じゃない、誰もいない店内で周囲の様子をうかがって注文もしないまま外に出ようとするなんて、明らか様に人捜しをしている人間の行動だ。
 もしこの店で待ち合わせをしているなら注文して座って待てばいい。
 明らか様に人を探しているのは、待ち合わせの場所を知らないか、待ち合わせ場所を聞いてなかったか忘れたかして場当たり的に探していたか、あるいは相手がいる場所の検討も付かず行きつけの場所を探しているんだろう。
 財布を落としたとか大事なモノを無くしたというのなら視線はもっと下に向くだろうし、黙って出て行こうとはせず店員に「落とし物はなかったか」と一つくらい声をかけるだろうから、目的が人捜しだってのはすぐにわかる。
 学生だとアタリをつけたのは彼がどう見たって二十歳前後の若造だからだ。
 今の時刻は一般企業ならとっくに就業時刻だし、彼は会社員のようにスーツを着ていない。こんな時間に外でフラフラ出歩るくのが許されるのは俺のような根無し草か、授業のない学生のいずれかだろう。
 彼くらいの歳ならフリーターで食いつないでいても何ら不思議じゃないから学生と呼んだのは実のところ適当で、この程度なら違っていても「失礼、聡明そうなんで」とでも言っておけばごまかせるので些末なことだ。
 大事なのは、ツカミでコッチを信頼させるということ。
 初対面であたかもお前の事を何でも知っているといった様子で振る舞い、ちょっとでもコッチに興味を惹きつける事ができたのなら後は堂々と振る舞って徹底的に信用を勝ち取りに行く。

「なに、これでも俺はけっこう名の知れた占い師でね。困ったら力になれるけど、どうだ。格安で……」

 いかん、つい金ほしさに気がはやった。金の話をすると、向こうはぐっと身構える。
 まぁそうだよな、急に金を払えといわれてホイホイ金を出す奴はいないだろうし、今のご時世学生は何かと生活が苦しいもんだ。
 落ち着け、ここでコイツを逃がすのは得策じゃない。

「いや、随分焦ってるようだしな。要件だけ聞かせてくれないか? 普段はこれでも結構なお高い占い師なんだが、随分焦ってるようだ。俺が分かりそうなら一つ、アドバイスをくれてやる。アドバイスがアンタの要求に見合うようだったらこの店のモーニング代だけ置いていってくれ。自分でいうのも何だが、ココであったのも何かの縁、破格の対応させてもらうぜ」

 ホント、ここの代金だけ払ってもらえれば結構なんで何とかしてくれねぇかなぁ。
 祈るような気持ちだ。
 いっそのこと「財布忘れて金がないから占いをするのでモーニング代立て替えてください」と頼んでみようか。
 そんな事が脳裏によぎるが、幸いにも向こうは俺を無碍にする事はなく向かいの席に座ってくれた。

「……占い師さんなんですか、貴方」

 ありがたい、少しでも聞く気になってくれたらしい。
 よし、ここはハッタリでも何でも堂々としておいたほうが良いだろう。

「これでもそのスジじゃ名の知れた占い師さ」

 名の知れた占い師という部分は大嘘だ。
 占いでは日銭を稼ぐがやっとだから他の仕事をかけもちでしている。何ならバイトのほうが稼ぎがいいからフリーターが占いで時たま小銭を巻き上げているといったほうが正しいくらいだ。  しかも占いの大半が相手の容姿や雰囲気で適当に話をでっちあげる、話術のごまかしが中心といった有様だからまさに何も売らないタイプの占い師が俺なのだ。
 それでも男は俺に興味をもったのか、身を乗り出して俺を見た。

「占い師さんなら、ひょっとして、トモキの居場所、占えたりしますか」

 誰だよ、知らねぇよトモキ。
 だが、占い師である俺に話を聞きたいというのなら、ただの行方不明ではなさそうだ。オカルト絡みの失踪だとしたら、大学生くらいなら興味本位で心霊スポットに行ってから調子が狂ったか、大学でサークルに擬態した宗教関連に巻き込まれたか、インターネットの陰謀論にでもはまり込み言動がおかしくなってきたか、そういう系統かもしれない。

「占ってみないとわからないが、キミの友達は随分と影を引きずっていたようだからね。よくない、よくない。ま、ちょっと見てやろうか」

 トモキの事全然知らねぇけど、何かしら居なくなりそうな気配をもってるなら「影」とか「妙なもの」とでも言って漠然と不安を煽っておけば向こうがいい風に解釈してくれるだろう。

「何でわかるんですか。じ、実はそうなんです。トモキ、動画配信サイトで心霊スポットに突撃! なんて企画をしてて……」

 すると、男はやや食い気味に話をし出す。
 よし、チャンスだと思ったよね。うまくいけば、ここの支払いを乗り切る事ができる訳だから。

「ま、話してみろよ。そのかわり、アドバイス料はいただくぜ。ここのモーニング代、よろしくな」

 男は何度も頷いて、伝票を手に取る。
 助かった……どうやら藁にもすがりたい状態だったようだ。ここのモーニングが1000円もしない、ってのも良かったんだろう。最初俺が仕掛けた話術で随分とこっちを信頼してくれていた事や、ハッタリをきかせて揺さぶれたのもデカい。
 せっかくだからちゃんと占い師らしくカードを取り出して一応はリーディングとやらをしておいてやるか。とにかく俺は今、この飯代さえ稼げればいいんだからな。
 あぁ、だが……少しばかり面倒な相手に声をかけちまったかもしれない。
 声をかけてから気付いちまった、こいつ何処かで呪詛を踏んでいやがるな。トモキって奴を探しているといったが、コイツもそいつが消えたのに心当たりがあるのか。何か夜の領域に足を踏み入れた、独特の湿度がまとわりついてやがる。
 嫌だねぇ面倒くさい。
 きっと探してる奴もろくなことになってないぜ、せいぜいこの呪詛が俺の所にこないよう、上手い具合に誤魔化しながら占いだけしておくか。
 飯代だけ稼げればいいとは思っていたけど、モーニングセット一食分の値段で命が陰るような怨嗟を背負いたくはないもんな。
 俺は適当にカードをステアする。
 失踪したトモダチはたぶん、手遅れだろう。今、どうこうしても仕方がない。命があっても以前のような状態には戻らない。だからせめてコイツが二の舞にならないよう、うまいこと話してやるとしよう。
 飯屋であった飯代の救世主だ、それくらいはしてやらないとな。

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東吾
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職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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