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インターネット字書きマンの落書き帳

   
あおきさんの夢デリヘル嬢を書きました
突然気がフれたので、アオキさんの夢デリヘル嬢を書きました。

主張でハッコウシティにやってきたアオキさんの所に行くデリヘル嬢の話です。
えっちなシーンはありません。

自分の人生に迷っているデリヘル嬢のミツキ。
上司の付き合いでデリヘル嬢をホテルに呼んだもののその気が一切ないアオキさん。
二人の出会いと別れ、そして新しい旅立ちを見送るアオキさんを書いた青春ストーリーですよ。

俺がそう言い張るんだからそうなのでよろしーくねー。
愛とかそういう話はしません。(そのへん、アオキさんはドライだと思っているので)
ミツキの名前はポケモン主人公ではなく実際にデリ嬢の源氏名でありそうなやつです。

俺からは以上だよろしくな!



『夢に見た路行き』

 アオキはムクホークを戻すと膝をつく女性へ目を向ける。
 彼女は相棒のノコッチを胸に抱きながら肩で呼吸を整えていた。

「どうでしたか、旅は楽しかったでしょうか」

 一歩、彼女に近づいて問いかければ彼女は驚いたように顔をあげる。それはまさか自分の事など覚えていないだろうといった驚きの表情だったがすぐに気を取り直したように屈託ない笑顔を向けると胸に抱くノコッチを撫でていた。

「結構楽しかったかなー。美味しいものもいっぱい食べれたし、綺麗な景色も見れたし、時々ビックリするくらい凶暴なポケモンと出会って驚いちゃったりして。あはは、でもねー、憧れだったトレーナーになる目標は、全然だめ! 私、ハイダイさんにも負けちゃったしナンジャモちゃんにも負けちゃったんだ。そのクセに、二人よりももっと強いって噂のアオキさんとはどうしても戦ってみたいからって無理してここまで来たんだけど、やっぱりアオキさんってすっごく強いんだね。私ってトレーナーの素質全然無かったんだーって諦めがついたかな」

 ノコッチは心配そうに彼女の傍に寄り添い、その大きな顔を懸命にこすりつける。そんなノコッチを彼女は愛しそうに抱きしめると沢山のキスをした。

「あ、慰めてくれるの。ありがとー、だいすき!」

 彼女に抱きしめられたノコッチもまた幸せそうに小さな羽を揺らす。彼女がノコッチを愛しているように、ノコッチもまた彼女を深く信頼しているのだろう。
 本当に心からの笑顔を見せる彼女と相棒の姿を前に、アオキは目を細めるのだった。



 それはいつかの日、ハッコウシティの片隅でのことだ。
 部屋に日光が入る頃になり、ミツキはようやく目を覚ます。 昨日は深酒をしてそのままソファーで寝落ちしたのだろう。メイクも落とさなかったせいか肌も目もやけに乾いていた。

「あー、もうサイアクだよー肌バッサバサだし睫毛痛いし。もー面倒だけどシャワー浴びなきゃ」

 一人で文句を言いながら軽く背伸びをし、ミツキは部屋においてあるノコッチのぬいぐるみを撫でる。

「おはよ、のこたん。今日も一日がんばるからねー」

 そして一人シャワールームに入ると化生と一緒に全身の垢や汚れを落とそうと髪や肌を泡立てるのだ。

 ミツキはあまり裕福な家の娘ではなかった。
 アカデミーに通えるほどの稼ぎもなくオリーブ畑で一年中オリーブを積み、出荷してまたオリーブを育てるという日々を当然のように送っていたのだ。
 近くにはむし使いのジムがあるからよくむしポケモンのバトルを見ており、アカデミーの宝探しでジムバトルに挑む学生たちを見ると自分もいつかアカデミーへ通い宝探しに行くのだと、そんな夢を抱く普通の少女だった。
 アカデミーがどんな場所だかわからないし、ジムでチャンピオンになるという意味も難しさもわからなかったが、多くの学生たちが当然のようにそういった生活をしているのだから自分も同じようにそれが出来ると信じていたのだ。
 だが、彼女の環境はそれを許さなかった。
 オリーブ畑の育成で忙しい彼女は長期間アカデミーに通えるような時間を作る余裕もなく、当時畑の規模を広げ大きな機材も導入した彼女の家にそのような余裕はとてもなかったのだ。

「アカデミーに行かなくとも学べる事はある」
「おまえは、もっとオリーブと真剣に向き合え」
「畑を真面目に見られないお前がアカデミーに行っても時間も無駄だ」

 アカデミーに行きたいという彼女の願いはいつも冷たい言葉で突き放された。
 いくら望んでも彼女の願いは叶えられる事はなく、皆が当然のように与えられた環境を自分は得られないと知った時、ミツキの心は折れてしまったのだ。
 悲嘆に暮れ、境遇を怨み、そして束縛から逃れるため一念発起してハッコウシティへと向かう。等といえば聞こえがいいが、実際は家出だった。何も言わずに荷物をまとめ書き置きだけで出て行ったのだ。
 ハッコウシティに向かったのは、常にまばゆいハッコウシティに身を置けば新しい自分が見つけられるかもしれないという微かな期待からだった。
 自分は一生涯オリーブと向き合うつもりは毛頭ないのだ。
 アカデミーに行く事は出来ず宝探しも出来ないが、それでも何か自分らしい仕事があるはず。ずっと見てきた泥臭いオリーブ畑とは違う何かが自分にはあるはずだ。
 その思いとは裏腹に、ハッコウシティでもミツキの出来る仕事はあまりにも少なかった。

 最初はアルバイトなどで喰いつないでいたが、住む場所も高ければ物価も高いハッコウシティでアルバイトだけではとても生活できない。 もう少しお金が欲しいと思いバイトを掛け持ちすれば忙しすぎて目が回る程のスケジュールをこなさなければいけなくなり、しばらくは金を稼ぐための生活が続いた。

「このままじゃ、ハッコウシティまで来た意味とかない。私、変わりたくてわざわざここまで来たんだもの」

 お金が欲しい、時間にも余裕が欲しい、ハッコウシティにある色とりどりの服やメイクをもっと楽しみたい、美味しいものも食べたいし楽しい生活をしたい。
 そう考えるようになった時、ミツキは自然と花を売る業界へ足を踏み入れていた。 短時間で余暇のある生活をするにはそれが彼女にとって一番効率の良い方法だったのだ。

 それから数年、ミツキはハッコウシティの雑居ビルにある小さな店でデリバリーヘルスの一員となっていた。当然かつての友人にそんな事は言えるはずもなく、もし連絡があった時は「バイトリーダーをやっている」などと誤魔化しながら生きている。

「ふー、いいお湯だった」

 ミツキはタオルを巻いてシャワールームから出るとチェストの上におかれたノコッチのぬいぐるみを膝に乗せていた。
 ミツキの実家には「のこたん」と言うノコッチがいる。ミニーブやミツハニーが多くいるオリーブ畑で珍しく現れたノコッチを見つけたミツキはすっかりその姿に魅了されどこに行くのもいつも一緒だった。食事も気を遣い、せいっぱいの世話をして愛情をあたえ育てたノコッチはつまらないオリーブ畑の思い出で唯一、ミツキに安らぎをくれる存在だったのだ。
 もしいつかアカデミーに行く事になったら宝探しはノコッチの「のこたん」と一緒にやろうと思っていたし「のこたん」をつれてトレーナーと戦える日を夢見ていたのだ。
 だがその「のこたん」は実家のオリーブ畑においてきてしまった。ポケモンと一緒に住める物件はハッコウシティに来たばかりのミツキにはとても手が出なかったのもあるし、家出同然で出ていってしまったのもあるだろう。

「のこたん、元気かなぁ」

 ベッドに寝転がりミツキは一人ため息をつく。
 家族もノコッチを見て嫌がる事はなかったし、母親はとくに親身に世話をしていたからきっと元気でいてくれるに違いない。だがもう2年近く会ってない自分を覚えていてくれているだろうか。
 ハッコウシティに来てからようやく貯金も増えてきた。化粧も服も流行りのものを抑えられているし、お金に不自由はしてないから毎日も充実している。

「のこたん……」

 だけどミツキはいつも、どこか心の中に冷たい風が吹いているような空虚さを抱いていた。


 さて、その日ミツキが店に出向くより前より電話がかかってきた。オーナーからの連絡であり「ハッコウホテルでサラリーマン二人から予約あり、ミツキは21時に1035室へ。先方の名前はアオキ、基本コース120分」なんていう仕事のメッセージだ。
 だけどハッコウホテルならラッキーだ。ハッコウシティでも比較的に綺麗なホテルだから行ってみたら風呂がカビだらけだったとかほこり臭いタオルが出るといった嫌な目にはまずあわない。それだけでも随分と気が楽になるというものだ。
 それにホテルで無茶な要求をする客はほとんどいないし恫喝してくるような恐ろしい客に当たる可能性も普通の仕事よりずっと低い。普通の客を相手に出来たうえで身の安全も約束されて稼げるというのはミツキの仕事で重要な事だった。
 デリヘルは相手の懐に入るような仕事なのだ。足の踏み場のないような家もあれば契約にないようなブツを隠し迫る相手だっている。
 オーナーは腕っ節もポケモンバトルも強い人間だがそれだって何があるかわからないのだからいつでも気が抜けないのだ。

「やったー、今日はこの仕事終わったらすぐ帰ってくるね。のこたん」

 ミツキは長い爪をつけた手でノコッチのぬいぐるみを撫でると部屋を出る。 目的のハッコウホテルはミツキの自宅マンションからのほうが近かったから直行することにしたのだ。

「オーナー、ハッコウホテルついたんで今から部屋いきますね。おっけー、1035室のアオキさん。たぶん、出張で使ってる人? 基本コースだけですね、了解ですーサービス入ったらコールしますね」

 ミツキは慣れた様子でハッコウホテルへと入る。
 ここはビジネスマンも良く利用するホテルであり、出張でハッコウシティへやってきて流行りを全身にあびたサラリーマンが昂ぶる気持ちをおさえられずミツキのような仕事をする相手と一晩のお楽しみをするなんて良くあるため、ミツキもすっかりこのホテルのことは覚えていた。
 ホテルのほうも心得ているのだろう、ミツキたちが明らかにホテルの客ではないと知っていても全て了解しているといった様子で丁重に対応してくれる。

「1035だから、10階ね。けっこう良い所だ、お金持ちか一流サラリーマンかなァ」

 ミツキは独り呟きながらホテルの長い廊下を確認する。 お金持ちならチップを弾ませてくれるといいな。だけど急に変なプレイを求められたらどうしよう。あんまり不潔そうな相手は嫌だな。 太っている人は嫌いじゃないけど、やっぱり重たいから大変。扉を開けるまで彼女はいつもぼんやりとそんな事を考えていた。

「あ、ここだ。1035室」

 目当ての部屋を見つけ、ミツキは軽快にノックをする。

「すいません、ハッコウ・デリバリーの方から来ましたーアオキ様はこちらでしょうか」

 わざと格式張った声をかけるのはビジネスマン相手にはビジネス資料でも届けにきたよう振る舞うのがミツキの店での決まりだったからだ。 最もこんな派手な服をきた女性が夜中に何を届けるのかという話ではあるのだが、それでも体裁というのは大事なのだろう。
 ホテルのドアならノックをすればすぐに相手も気付くはずだ。声も聞こえてないはずはない。だが客はすぐに出てこなかった。大概の場合、デリヘルの予約をしたサラリーマンは待ってましたとばかりに出迎えてくれるものなのだがひょっとして留守だったのだろうか。いや、予約して留守にするような客はいまい。あれこれ考えているうちにミツキの前にやや疲れた顔立ちの壮年男性が姿を現した。

「お待たせしました、えぇと、あなたは」
「あ、ミツキと申します。ハッコウ・デリバリーの……」
「話は室内でしましょうか、どうぞ」

 促され部屋に入れば、男の身体からはメントールの涼しい匂いが漂う。 髪も濡れ着替えも住んでいるのを見ればシャワーを浴びていたのは明白だった。
 基本コースでは一緒に風呂へ入り身体を洗うというサービスが入っているのだがそれを知らないワケではないだろう。 それとも風呂はいいからもっと別のサービスに時間をとって欲しいのだろうか。そういう客もいるから要望にはこたえるが口だけで、等となるとかなり難儀なことになる。
 あれこれと考えるミツキを前に、男はベッドに転がると一つ大きなため息をついていた。

「くつろいでくれても結構ですよミツキさん。私は今日、乗り気ではないのでこのまま休ませてもらいます……心配しないでください、代金はきっちり払いますから」

 男の言葉に、ミツキは困惑する。
 くつろいでいい、とは特に何もしないでいいという事だろうか。乗り気ではないとは、プレイする気がないという事か。それでも代金を払ってくれるのならありがたいのだが、120分、自分は休憩するだけで代金がもらえるなど良いのだろうか。

「えぇえぇ、ちょっとまってください、おじさん」
「私はアオキといいます」
「あっ、すいません。アオキさん。それって、私が何もしなくてもいいって事ですか? 何もしなくても、お金をくれるって事です?」

 アオキは億劫そうに起き上がると肩を軽く回し頷いた。

「そういう事ですね、私はもともとこの手の行為は好みではないんです」
「えぇー、それならどうして私を呼んだんですか」
「大人の付き合い、といえばよろしいでしょうか。出張で同行した上司が少しばかりハメを外したいようでして。一人でやるより私も巻き込んで同罪にしてしまえば口封じが出来るだろう、そう思ったのでしょうね。大人にはそういった駆け引きもありますので」

 濡れた髪をかき上げるとアオキは再び長いため息をつく。

「はぁ、本当に面倒なことですよ。社会人というのは付き合いで色々ありますからね。ですが、そういった面倒な客が多いのは貴方も一緒でしょう。ここは英気を養うつもりで少し休んでいくといいですよ。あぁ、何なら今お支払いしましょうか。そうしたら残り時間を私に気にせず外で過ごせるでしょうからね」

 どうやらアオキは本当に何もするつもりはないようだ。 お金さえもらえれば良いのは確かだが、120分の残り時間をどこでどう過ごすかという問題はある。 下手に店の人間に見つかったら説明も面倒だし、店に帰ったら帰ったで追加の仕事をする事にもなりそうだ。当然、追加の仕事があるのは金になるのだがまた知らない相手に付き合うのはひどく億劫に思えた。
 それにアオキは客のなかでかなり紳士的に見える。自分に対して横柄に振る舞ったり、金を払っているのだから何でもしろという威圧的な態度もない。 どうせなら120分ここでゆっくりするのもいいだろう。だが、120分何もしないというのは気が引ける。

「あ、あの。アオキさん、だったら私、マッサージとかしましょうか」
「マッサージ、ですか。別にそのようなサービスは……」
「ふ、普通のですよ普通のー。私、コッチきてエステティシャンになりたくてボディの指圧とかフェイスマッサージとか色々知ってるんで、身体スッキリすると思いますよー」

 アオキは暫く思案したが、ミツキからの「何もしないでいるのは落ち着かない性分ですから」という言葉に押されたのだろう。 「それでは、お願いします。あまり無理しなくても良いですからね」  その言葉のあと、ベッドへと横になった。
 昔はエステティシャンになりたくて講習を受けにいったのは本当で、今もお客さんに対してするマッサージはおおむね好評である。 ミツキはアオキの腰あたりに膝立ちでまたがると背中を撫でながら身体のラインを確かめた。薄手の身体をしているのに筋肉が予想以上についている。そして随分と堅い。

「アオキさん、背中かなりバキバキじゃないですかぁ。デスクワークなんですか?」
「いえ、営業なんですが。そんなに凝ってますかね」
「はい、アオキさん背が高いからかなぁ、首まわりと肩周りの筋肉が強張ってるみたいですよー。いつも誰かを見る時に猫背になっちゃうんですかね」
「それは、心当たりがありますね……」
「時々ストレッチをするといいですよ。寝る時に、タオルを背中に入れてぐーっと伸びるんです。後で教えてあげますね」

 そういいながら、アオキの身体をもみほぐす。
 出張であちこち出向いたのか背中だけではなくふくらはぎもパンパンに張っていた。こういった身体を触ると働く男の苦労を感じられる。きっと上司に付き合わされてあちこちへと出向き、鞄持ちなどをしていたのだろう。
 マッサージが心地よかったのか、アオキはウトウトしながら寝息のようなものをたてていた。

「お力加減、どうでしょうか」
「あ、あぁ、とても良いです。ありがとうございます」
「はーい、もし痛かったり、触ってほしくない場所があったら言ってくださいね。もう少し強くしてほしい時も一言おねがいします」

 マッサージをするなんて久しぶりだ。昔取った杵柄なんて言葉があるけど一度覚えたことは忘れないもので数年やってなかったマッサージも身体がきちんと覚えていた。 もしオイルをもってきていたらオイルマッサージをしていただろうが、流石にローションでそんな事をするワケにはいかない。
 いまのミツキはアオキとのこの特に何ら色気のない雰囲気のまま接する時間がとても大切に思えていた。

「次は少し頭のマッサージをしていきますね-」

 すでにされるがままになっているアオキの頭に触れ丁重にマッサージをするうち、ミツキはふと彼の部屋におかれた鞄を見た。 少し分厚い鞄は明らかに書類用のものではなくポケモンキャリー用の鞄だ。見ればモンスターボールが一つ、机に置かれている。中にいるのはムクホークか、出張先でも心配で連れてきたのかあるいはどこでも機会があればポケモンバトルに応じるつもりなのだろう。

「あれ、ひょっとしてアオキさんってトレーナーさんなんですか」

 驚いて声をあげれば、アオキもまた少し驚いたように目を開いた。

「はい。あぁ……机にモンスターボールが置かれたままでしたね。終わったらあの子たちの食事にしようと思っていたので……私は、ノーマルポケモンのジムリーダーを努めてます」
「ジムリーダー? それってすごい事じゃないですか。サラリーマンをやりながら、ジムリーダーをやっているんですね」

 パルデアでは本業がありジムリーダーを兼務しているという人間は多い。 ミツキの地元にいたむしポケモンのジムリーダーも本職はパティシエだし、くさポケモンのジムリーダーは有名なアーティストだったはずだ。だけど一般会社員をやりながらジムリーダーをするというのは初めて聞いた。普通の業務をこなしポケモンも管理しているなどさぞ大変だろう。

「あなたもトレーナーだったんですか?」

 ベッドに顔を伏せながら、アオキはつぶやく。
 パルデアでは誰だってポケモンを連れていても不思議ではないのだから、モンスターボールを見て過剰に反応するのはトレーナーくらいなのだ。 その言葉にミツキは少しばつが悪そうに笑っていた。

「あ、私はトレーナーになりたかったんですけどね。ちょっと、うまくいかなくて出来なかったんです。だからトレーナーは憧れですね」
「そうですか……」

 アオキは少し残念そうな顔をする。 しかし、アオキの身体が年齢よりもよほど酷使されているのは合点がいった。会社員という時間の融通がきかぬ仕事をしながらジムリーダーなど兼務していれば多忙なんて話ではないだろう。 身体全体が悲鳴をあげるほど疲れているのも無理はない。気苦労だってきっと多いはずだ。

「無茶してるんじゃないですか、アオキさん。触った時から身体がカチカチですごく辛そうでしたよ」

 別にアオキが苦労してようがミツキには関係ないのだが、ついそう口に出てしまう。 だがアオキはミツキに優しい目を向けると、微かに笑うのだった。

「無理はしてませんよ。私はジムリーダーも今の仕事も、どちらも好きですからね」

 その言葉が、ミツキの胸を打つ。
 好きだからやっている、好きだから辛いと思わない、そんな気持ちを抱いた事など今までに一度だってあっただろうか。
 ミツキの人生は辛さと嫌な事に耐え忍ぶ事ばかりだった。オリーブ畑の仕事も好きではなかったが、今の仕事だって決して楽しいからやっているワケではない。
 自分の人生にもし楽しいだけの時間が存在したのだとしたら、それはノコッチを。「のこたん」を育てているときだったろう。
 自分の街では珍しいポケモンだったから何を食べるのかもわからず、色々なものを食べさせた。散歩につれていったら勝手に隠れてとても探した事もある。お風呂にいれたら暴れて大変だったり、雨の時にうっかり外に出てびしょ濡れになったのこたんが部屋も床も全部塗らした日もあった。
 だけど全て楽しく、全てが愛おしい時間だ。
 ミツキにとって好きなことを全力でしていたのは、ノコッチののこたんと過ごしていた時間だけ。のこたんといるときだけ、オリーブ畑でただ漫然と仕事をする今の自分から目を背けていられたから、いつかのこたんと旅が出来ればと思ったのだ。
 今の自分は、どうしてこんなに嫌なことをやっているのだろう。これだったらオリーブ畑にいた頃と何もかわらないじゃないか。

「どうしました、ミツキさん」

 マッサージの手が止まった事を不思議に思ったのだろう。首を傾げこちらを見るアオキに、ミツキは作り笑いを浮かべる。

「すいません、昔のこと思い出しちゃって……」
「昔とは、トレーナーになりたかった頃でしょうか」
「あは、アオキさんの前では嘘ってつけませんね。えぇ、そうです。私、いつかアカデミーに行ってのこたん……私のノコッチと一緒に宝探ししたかったんですよ。でも、親はダメだっていって。親にとってはオリーブ畑を見るほうが大事だったんですよね。それで、喧嘩して家出みたいになって。のこたんとも離ればなれで……」

 ミツキは息を吐いた勢いで思いを吐露する。

「私、アカデミーも行ってないしトレーナー経験も全然ないんです。でも、ノコッチと。私ののこたんと旅に出たかったな……それで、トレーナー目指すんです。バッジとかとって、チャンピオンになれなくてものこたんと宝探しして……なんて、今さら遅いですよね」
「いえ、遅くなんてないですよ」

 ミツキの目を見て、アオキははっきりそう告げた。

「やりたい事に、遅い事はないです。ノコッチは比較的に長命ですし、もしあなたが故郷に戻ってノコッチがあなたを覚えていたのなら、宝探しをしてみてはいかがでしょうか」
「でも、それってアカデミーの伝統行事ですよね。私、アカデミーは……」
「アカデミーは社会人にも間口を開いてますよ。それに、仮にアカデミーへ所属していなくても愛しいポケモンと旅をして世界を見る。それを誰が止められるというのでしょうか」

 目を閉じたミツキに、去り際悲しそうな顔を見せ彼女を必死においかけるノコッチの姿が鮮明に浮かぶ。
 やりたくない事を我慢してやりつづけるということ。
 やりたい事をして辛い思いをすること。
 どちらも同じように我慢が必用で辛い事があるのなら、どちらが良いのだろう。
 いや、どちらが良いのかではない。 自分はどちらをしたいのか、というのが大事なのだ。

「ねぇねぇ、アオキさん。ジムリーダーなんでしょう。もし私がジムテスト受けにきたら、ちゃんと戦ってくれますか」

 ミツキの言葉を聞いてアオキはゆっくりと起き上がると微かな笑みを浮かべた。

「当然です。私のジムテストは少々難解ですが、それを乗り越えたのならお相手しましょう。私も、貴方の来訪をまっておりますよ」

 その笑顔は最初に見せていたくたびれたサラリーマンとは違う、闘士に満ちた男の顔だったからミツキは強く思ったのだ。
 いつか自分が一番大事にしているポケモンをつれてこの人と戦う事が出来ればいい。
 いま、自分がやりたいことはきっとそれなのだろうと。

 ハッコウシティからミツキが消えたのは数ヶ月後であり、ノコッチをつれたバックパッカーが現れたのはその頃だった。
 決して強くはないがいつでもノコッチを大切にし、歩んできた彼女はジムリーダーの対決どころか野生ポケモンですら苦戦する有様だったのはノコッチが傷つかないよう気を遣いすぎてしまうからだろう。
 それでも少しずつ強くなり、一つだけジムバッジをもってチャンプルシティへとやってきた彼女はアオキと戦い、そして敗れたのだ。

「はー、ごめんねアオキさん。せっかく出てきてもらったのに、もう惨敗」

 彼女は立ち上がるとノコッチを抱き上げる。 かなり大型のポケモンになるノコッチは彼女の腕にすっぽり収まるよう綺麗に抱かれており、彼女の腕に抱かれるのにはすっかり慣れているようだった。それだけで強い信頼関係が築けているという事だろう。

「いえ、あなたもノコッチだけでよくここまで来たと思いますよ。アカデミーで宝物探しをしている生徒もそのこだわりで挑む方は滅多にいませんから」
「あはは、私にとってポケモンはノコッチが一番だから」

 アオキは、初めてこの女性と。ミツキと出会ったときの事を思い出す。
 確かその時は花を売る仕事をしていたはずだ。自分に負けてトレーナーに向いてない事も感じているようだが、これからどうするのだろう。

「アオキさん。私ね、親のやってるオリーブ畑を手伝おうかなーって思っているんだ」

 まるでアオキの心を見透かしたかのように、ミツキは話し始めた。

「別にオリーブ畑が好きってワケじゃないけどね。色々見てきて、のこたん……ノコッチと一緒にいたら、もっとノコッチも食べられるオリーブとか作りたいなーとか、色々なポケモンが食べられるオリーブ、木の実の栽培もっとしたいなーって思えるようになったの。特にノコッチの身体にいいオイルね! ポケモンにつけられる身体にいいオイルとか研究したいなーって。そのためにも、オリーブ畑で真面目に働こうかなって」
「それは……良い案ですね。ポケモンの身体につけるオイルというのも興味深いです」
「でしょー、ノコッチの脱皮で時々肌とか痛めて可愛そうだからさ。そういうのケアできる用品とか作りたいなーって旅してて思ったんだ。だから、私の旅はいったんおしまい。で、これからは新しい旅をはじめようかなって」

 話を聞く限り、彼女はきっと随分前からその思いを固めていたのだろう。
 それでもアオキの前に現れたのは、彼女なりのけじめに違いない。

「それを、私に聞かせるためにここへ」
「えへ、そうかなぁ。そうかも。それもあるけど、はじめてアオキさんと出会った時、アオキさんが見せたカッコイイ顔を見たかったからってのもあるかな。アオキさん、戦おうって時のかお、すごーくかっこ良かったよ」

 彼女は笑うとアオキへと手を振る。

「それじゃあね、アオキさん。私はこれから好きなこと頑張るから、アオキさんも好きなことを頑張る私のヒーローでいてね!」

 アオキはヒーローとは程遠いくたびれたサラリーマンだ。
 営業成績だって決して良くないし、ポケモンバトルでジムリーダーを務めているのも上からの命令があるからというのも大きい。
 それでもポケモンは好きだしバトルは好きだから、もしそれが彼女の救いになったとしたのならそれはそれで良いのだろう。
 アオキは去りゆく彼女を見送る。
 彼女の隣にはノコッチが寄り添い、同じ道を進んでいた。

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