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インターネット字書きマンの落書き帳

   
同棲しているふたりのハナシ(みゆしば)
平和な世界線で普通に付き合っている手塚と芝浦の話をします。
(正月が終わっても幻覚が終わらない自己紹介)

今回は、付き合いはじめてはや数年。
社会人になった芝浦くんと二人で生活しているものの、本来自分で住む家よりもかなりランクの高い場所に住む事になったし収入そのものも新卒社会人の芝浦くんに抜かれてて「フツーのサラリーマンじゃない自分」にちょっと劣等感などを抱く手塚の話をしてますよ。

説明が……説明が長い!
けど! そういうはなしです!

いかなる劣等感を抱いてもハッピーエンドですよ。
俺が言うならハッピーエンドなんです。



『サラリーマンとフリーランス』

 芝浦淳は家に帰るなりネクタイを緩めるとスーツも脱がぬうちにソファーへ腰掛ける手塚海之の膝へ転がるように頭を預けていた。

「あー、もー、疲れたァー。学生の頃はさァ、よくオッサンたちに『まだ学生なんだね~』とか『楽しいでしょ~、学生は楽だよね~』なんて言われて、何が楽だよ課題とかレポートで一杯一杯だってーのって結構腹立ったんだけどさ。実際自分が働くようになるとほんっと忙しいし、仕事なんてぜーんぜん楽しくないしもー嫌になっちゃうよー」

 横に転がるなり流れるように愚痴が口を突く芝浦の頭を手塚は無言のまま撫でてやる。
 大学を卒業した後、芝浦は父が経営する企業の一つへ就職した。
 卒業前は大学院に進んでモラトリアム期間をもっと延ばし悠々と過ごすか、父の傘下にはない企業に勤め独り立ちをするか、いっそ起業してしまうかあれこれ考えていたようだが結局は父の傘下にある会社の一つへと就職する道を選んだのは手塚と二人で暮らすため最も安定した収入があるというのが大きかっただろう。
 それでも芝浦はずっと父の威光を借りるつもりも無いらしく今の職場では父の事を公にはしていないし、仕事もいずれ起業し独り立ちする時のためのノウハウを学ぶというのが目的のようではあった。

「いつもありがとう、淳。おまえが頑張ってくれているから、俺も自分の仕事に集中できる」

 手塚はそう言いながら芝浦の髪や頬を撫で精一杯ねぎらってやる。
 いま、二人は同じマンションで暮らしていた。芝浦が会社勤めをすると同時に家を出て正式に同棲するようになったのだ。 芝浦家が手塚の事を完全に認めたという訳でもなければやはり跡取りの話など問題は山積みのままだが今のところは大きな問題なくやっている。
 新しいマンションに移ってから手塚は仕事の幅を多少は広げ以前は小規模で行っていたメールでの鑑定依頼のほか、ネット通話を利用した相談も請け負うようになった。 相変わらず収入はまちまちではあるものの気まぐれに公園へ出て客待ちをしている時と比べればずっと安定して稼いでいるといっていいだろう。今でも公園に出て客を待つ日もあるが、最近は自宅で事前予約をしている依頼人との仕事も増え商売道具が雨ざらしになるような日々もずっと減っていた。
 それでもこんな高級マンションに住めるのは芝浦が名を知られた企業へ就職し忙しいながらも充分すぎる給金を稼いできてくれているからで、手塚だけの稼ぎではとてもこんなマンションに住む事は出来なかった。
 そもそも手塚は人に使われるというのが全く向かないから今の仕事をしているのだ。 誰かと友に暮らすという事も考えていなかったから自分一人の食い扶持だけを稼ぎ先の事など花と散れば良いなどと刹那的に生きてきたのだが、芝浦と二人で暮らすとなれば色々と考えるようにもなってくる。
 別に世間体を気にして格好付けたい気はさらさらないのだが、それでも圧倒的に収入差がある今の状態で自分には不相応なほど高級マンションに暮らしているなど周囲からはヒモ扱いでもされやしないかと心配になってくる。
 当然芝浦はそんな事微塵も気にしてないのだが、こういう時にスーツを着て出勤を必用とするような世間一般でいう「普通のサラリーマン」とは違う生活をしているのが少なからず負い目を感じていた。

「そういえば、海之は社会人だったけどけっこう俺にかまってくれてたよね」

 しばらく手塚の膝へ頭を預けていた芝浦はふと思い出したような顔を手塚へと向ける。ちょうどその事を考えていた手塚はつい苦笑いを浮かべていた。

「俺は淳みたいに真面目な社会人じゃぁなかったからな。会社勤めもしてないし生活はその日暮らし、将来の事なんてろくに考えもせず貯金もない体たらくだ。はは、人の運命を見る占い師が自分の人生を顧みない生活をしていたなんてとんだお笑いぐさだな」

 手塚は自嘲気味に言うが芝浦は特に気にした様子も見せず手塚の膝へ頭を預けたまま手を伸ばして頬へと触れると目を細めた。

「俺さ、海之がフツーのサラリーマンじゃなくて本当によかったなーって思うんだよね。そもそものハナシ、海之が普通のサラリーマンだったら絶対に俺たちって出会ってなかっただろうし、休日なんか疲れてどこかに行くとか無理だったんじゃないかなー。学生の俺にいっぱい時間あわせてくれて、いーっぱい思い出作ってくれてさ……いま、自分が社会人になってそれがどれだけ難しい事かってわかるからさ。俺、本当に海之に大切にしてもらってたんだなーって思えて嬉しいんだ」

 実際のところフリーの占い師である手塚は時間に融通が利くからこそ学生の芝浦にあわせて行動が出来たといえよう。かわりに稼ぎにはならなかったから旅行する事さえままならない有様だったが、それでも一緒に過ごす時間だけは長かったのは確かだ。手塚の家が芝浦が通う大学の傍にあった事もあり付き合い始めて一年ほど経った頃には週の半分は二人で過ごしていたと思う。半同棲状態だったからこそ卒業した芝浦がすぐマンションを借りそちらで同棲する事になった時も大きなトラブルもないまま過ごせているのだろう。

「海之がフツーのサラリーマンじゃなくて本っ当、良かったァ。今日だって家に帰ればすぐこうやって抱きしめて慰めてくれるし、ご飯も作ってくれるし。ほんと海之って最高の恋人だよねー」

 確かに過ごす時間は長かったが、それだけだ。
 面白い場所に連れて行った事もなければ豪華なディナーなどとも縁の無い生活をしていたのだが、それでも芝浦は嬉しそうに笑う。
 きっと芝浦にとってそんな思い出よりも共に過ごせた時間のほうがよっぽど大切なものなのだろう。彼は芝浦はありのままの手塚を愛してくれているのだし、手塚もべつに芝浦が将来実入りのよい会社へ勤めると思って好きになったわけではなく芝浦だから好きになったのだから。

「俺も、淳が仕事を始めてもまったく変わらない淳のままで本当に良かったと。そう、思う」

 芝浦の頬を撫でれば彼は嬉しそうに目を細めてその手に寄り添う。その姿は学生時代の頃と何ら変わりの無い、無邪気で可愛い芝浦そのものだ。 きっと芝浦はずっと自分の事を変わらず愛してくれるのだろう。それは嬉しく思うのだが。

(あぁ、それでも俺も少しシッカリしないとな……芝浦が気にしなくとももう少し稼ぎを良くして、コイツを心配させない程度にはしないと10年後『芝浦主任は家で占い師のヒモを養ってる』なんて言われるのは流石に格好付かないもんな……)

 それでも頑張ろうと思うのは世間体というよりも芝浦に何かしてやりたいと思う気持ちがあるからだろう。
 互いに互いを愛し大切に思っているからこそ、より相手に何かしたいと思う。与えたいと思い、尽くしたいと思う。それは愛と献身の区別も曖昧なものだったろうが、それでも二人は幸せな日々を過ごしていた。

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