インターネット字書きマンの落書き帳
静かに怒る(松田と山ガス、少し黒沢/二次創作)
本気で怒っている時はものすごく綺麗な標準語を喋る松田って概念、浴びたくないか?
浴びた~い!
そう思ったので書きました。
何かしら無茶をする山田ガスマスクにマジギレをして綺麗な標準語で説教をはじめる松田の話です。
黒沢に対して少なからず思いを抱いている。
その思いを今でもズルズル引きずりながら、松田に対してもぼんやりと憧れや「見捨てられたくない」という願望を抱いている。
屈折した山田ガスマスクが出ますよ。
わぁい屈折したおとこ。
とうご屈折したおとこだぁいすき。
浴びた~い!
そう思ったので書きました。
何かしら無茶をする山田ガスマスクにマジギレをして綺麗な標準語で説教をはじめる松田の話です。
黒沢に対して少なからず思いを抱いている。
その思いを今でもズルズル引きずりながら、松田に対してもぼんやりと憧れや「見捨てられたくない」という願望を抱いている。
屈折した山田ガスマスクが出ますよ。
わぁい屈折したおとこ。
とうご屈折したおとこだぁいすき。
『二重ガラスに影を』
ソファーにどっかり腰掛け、顔の前で両手を組み俯きがちに思案する松田を見た瞬間、彼が今までにないほど本気で怒っているのだと理解した。
松田は粗暴に見えて繊細で、厳つい外見や声の大きさから誤解されがちだが至って常識人だ。
常に不機嫌そうな口調かつ他人を威圧する気質があるためいつも怒っているように見えるが、顔に似合わぬお堅い仕事をしているうえ、古代史方面の知識に関して造形が深いインテリという側面からもわかるように、実は思慮深くかなり慎重な性格だ。
犯罪者というレッテルを貼られている立場上、そうして茶化す連中や見下す相手を避けるため意図して不機嫌に振る舞って付き合いを極限までふるいにかけているだけで、心の底から怒ることはむしろ少ないのだろう。
きちんとした教養があるということは、きちんとした両親に育てられ、きちんとした教育を与えられ、自分のことはもちろん他者を慮る余裕がある人間だということだ。人並みの常識があり、思いやりがあるマジョリティ側の人間だということでもある。
だからこそ、赤の他人である山田に対しても怒りを感じるのだろう。
山田の行動が常にどこか自分自身の命を勘定に入れないような軽率さを見せているのならなおさらだ。
自分なんて死んでも誰も悲しまないだろう。
腕一本折れても、周りが笑っているのならそれでいいじゃないか。
あらゆる事に、自分を勘定に入れず傍目からすると無謀にも見える山田の行動は人並みの常識と倫理観をもつ松田から見れば理解しがたく、また度しがたいほど憤ろしい行為なのだろう。
「あー……松田サン、怒ってる?」
恐る恐る口を開ければ、山田が最後まで言い切らぬうちに
「いいから、前の椅子に座れ。それから、しっかり話を聞かせてもらう」
松田はピシャリとそう告げる。
その言葉は普段使っているどこか荒っぽい関西弁ではなく、イントネーションも美しい標準語だった。
松田が普段は意識的に関西弁を使っているのは薄々感づいていたし、話し方か仕草から東京暮らしの方がよっぽど長く仕事では標準語を喋っているのだろうとは想像していた。
だが、まさか感情が高ぶった時に標準語が出るタイプだとは思ってもみなかった。
普段、親しい人間の前では使うことがない言葉を使い、腹の底から響くような落ち着いた低音で話す松田がいまどのような心境にいるのか、想像もできない。
「あ、あっ……あ、あの。ごめ、ごめんなさい……僕、別にそんなつもりじゃ……そ、そんなに怒るとか思ってなくて……」
つい反射的に、謝罪の言葉が出る。
怒っている相手には口先だけでも謝っておけばその場はしのげるという成功体験が多かったため、真っ先に誠意を表すのが自然と身についていたからだ。
「いいから、座れ。俺は謝罪が聞きたいんじゃないんだ。どうして、お前がそんなことをしたか。それを聞きたいからな」
だが、一切の謝罪を松田は拒絶する。
話を聞きたいと言ったのに言い訳と謝罪から始めようとした山田の態度に、少なからず苛立っている風にも見えた。
山田は全身に冷や汗をかいているのに気付く。
何をこんなに恐れて、怯えているのだろう。松田と知り合ったのはごく最近で、幾度か顔をあわせ話をし、一緒に酒を飲んだり食事をしたり、その程度の付き合いだったのではないか。
確かに山田は年上の男を好きになる性分ではある。
幼い頃から父性というものを知らず、怒声と暴力で家庭を支配してきたアルコールとギャンブル狂いのクズを見てきたから、人並みの常識をそなえ鷹揚にこちらを迎え入れてくれる男に対し、自分もそうなりたいという欲望と、そんな相手に思い切り甘え甘やかされたいという願望が混ぜこぜになった羨望を抱いているのだ。
そういう点で、山田にとって一回りも年上で、しかも一端の研究者として細々ながら実績をあげている松田は山田が憧れるのに充分すぎるほどの存在だった。
憧れている。
だからこそ、自分を拒絶しないでほしい。
松田はうちに秘めた叫びを必死に抑え、震えながら椅子へ腰掛けた。
「……それじゃ、話をしようか。どうして、あんな真似をしたのか。その理由をちゃんと、俺が納得できるよう説明してくれるか」
「あ、あの……ぼ、僕……」
「説明、できるよな?」
説明という二文字が、腹の中に注がれ鉛のような重量感で山田の心を塞ぐ。
どうしたらいいんだろう。どうすれば正しいのだろう。どうすれば許してもらえるのだろう。
山田の頭にはそんな言葉がぐるぐると渦巻いていた。
説明しろと言われたのだから、素直に自分のした事を認め説明するのがスジだろう。
松田もきっとそれを求めている。
だけど、松田が知る件はどう説明したって自分が悪いのだ。
自分の軽率さと浅薄さが招いたことであり、自分の事を大切にするという概念が元々希薄なため、どこまでやると他人が心配するのかなんて全くわからないから起こってしまったアクシデントであり、説明を求められたら自分の悪しき様が松田の前につまびらかになる。
自分の生まれ持った因業が松田に暴かれるというのが、山田にはひどく恐ろしく、そして恥ずかしかった。
どうして心配なんかするんだ。
つい妙な場所まで深入りした結果、ひどいしっぺ返しを食う事はしょっちゅうだった。
今は誰も山田の身体を気に掛ける人間などいないと思ったから、何の心配もなく好きなだけ自分を切り売りできると思っていたのに、松田はどうも山田の無茶に対し真摯に向き合おうとする。
お節介だから。
余計なお世話だし、松田さんには関係ないんだから放っておいてよ。
そういえば、松田は本当に放っておくのだろう。
そして金輪際、山田と関わる事もないのだ。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
たった一言で松田は永遠に自分へ興味を失う。
煩わしさから解放されるはずなのに、山田はそれが怖かった。
謝れとは言われてないのに、謝罪の他に言葉が出ない。
本当のことを言ったら嫌われると思ったからだ。
最悪、自分のしてきたどうしようもなく下らない事件が明らかにされ、嫌われるのは構わない。生まれ持った性分で、自分を傷つけ苦しめなければ生きているような心持ちになれないというどうしようもない性癖が暴かれて、蔑まれるのだってかまわない。
だが絶対に、見捨てられたくない。
それは、黒沢と離れてから久しく抱かなかった感情だった。
『山田、なんであんな真似をした? ……説明しろ。言い訳じゃない、説明だ。できるよな?』
目の前で手を組み、じっと山田を。山田の姿だけを見据える松田の姿に、黒沢の姿が重なる。
洗練された佇まいで、一部の隙も無い所作を見せる黒沢。
一流であることを誇示することはなく、仲間内には寛容で、いつでもチームのためこちらを慮り話をしてくれた黒沢も、山田が無茶をし大怪我して戻ってきたときに、厳しい目をして山田を諭した。
今の松田のように静かな怒りを抱え、青白く燃える炎を宿した目でこちらを見て、ただ静かに向き合ってくれたのだ。
あの時、山田ははじめて「見捨てられたくない」と思ったのだ。
この人に認められなくてもいい。好きになってもらおうとも思わないし、手駒の一つとして使い潰されてもいい。
ただ、飽きられ呆れられ見捨てられるのだけは、怖い。
黒沢に必要とされていた、5Sの活動は山田にとって幸福な時間だった。
だが時間は永遠ではなく、蜜月が呆気なく終わりを迎え、5Sは解散する。
一人になり、背後からひたひたと罪悪感よりも強い虚無感に迫られ生きていた。
誰もがもう、山田ガスマスクというコンテンツとしてしか自分には興味がなく、一人の人間である山田と向き合おうなんて考えないだろうと思っていた。
だが、松田は思ってくれるのだ。
見つめて、話そうとしてくれる、そういう男だったのだ。
「謝らなくていいと言っただろう。今は、話を聞きたい。泣きたいなら、泣いた後でもいい。だから、お前の話を聞かせてくれ。俺は、他のだれでもない。お前の話が聞きたいんだ」
静かに、滔々と語る松田を前に、山田は引きつった笑いを見せる。
「……最低だよ、僕って」
無意識に言葉が零れた。
今、愛し、羨望し渇望する松田という男の影に、かつて愛して憧れた黒沢の姿を重ねている。重ねることで、確かに喜びを覚えている。
自らのどうしようもない性分が、憎らしくも穢らわしいと思っているのに、山田という人間がそういった部分にしか愛を見いだせないのもまた、事実だった。
ソファーにどっかり腰掛け、顔の前で両手を組み俯きがちに思案する松田を見た瞬間、彼が今までにないほど本気で怒っているのだと理解した。
松田は粗暴に見えて繊細で、厳つい外見や声の大きさから誤解されがちだが至って常識人だ。
常に不機嫌そうな口調かつ他人を威圧する気質があるためいつも怒っているように見えるが、顔に似合わぬお堅い仕事をしているうえ、古代史方面の知識に関して造形が深いインテリという側面からもわかるように、実は思慮深くかなり慎重な性格だ。
犯罪者というレッテルを貼られている立場上、そうして茶化す連中や見下す相手を避けるため意図して不機嫌に振る舞って付き合いを極限までふるいにかけているだけで、心の底から怒ることはむしろ少ないのだろう。
きちんとした教養があるということは、きちんとした両親に育てられ、きちんとした教育を与えられ、自分のことはもちろん他者を慮る余裕がある人間だということだ。人並みの常識があり、思いやりがあるマジョリティ側の人間だということでもある。
だからこそ、赤の他人である山田に対しても怒りを感じるのだろう。
山田の行動が常にどこか自分自身の命を勘定に入れないような軽率さを見せているのならなおさらだ。
自分なんて死んでも誰も悲しまないだろう。
腕一本折れても、周りが笑っているのならそれでいいじゃないか。
あらゆる事に、自分を勘定に入れず傍目からすると無謀にも見える山田の行動は人並みの常識と倫理観をもつ松田から見れば理解しがたく、また度しがたいほど憤ろしい行為なのだろう。
「あー……松田サン、怒ってる?」
恐る恐る口を開ければ、山田が最後まで言い切らぬうちに
「いいから、前の椅子に座れ。それから、しっかり話を聞かせてもらう」
松田はピシャリとそう告げる。
その言葉は普段使っているどこか荒っぽい関西弁ではなく、イントネーションも美しい標準語だった。
松田が普段は意識的に関西弁を使っているのは薄々感づいていたし、話し方か仕草から東京暮らしの方がよっぽど長く仕事では標準語を喋っているのだろうとは想像していた。
だが、まさか感情が高ぶった時に標準語が出るタイプだとは思ってもみなかった。
普段、親しい人間の前では使うことがない言葉を使い、腹の底から響くような落ち着いた低音で話す松田がいまどのような心境にいるのか、想像もできない。
「あ、あっ……あ、あの。ごめ、ごめんなさい……僕、別にそんなつもりじゃ……そ、そんなに怒るとか思ってなくて……」
つい反射的に、謝罪の言葉が出る。
怒っている相手には口先だけでも謝っておけばその場はしのげるという成功体験が多かったため、真っ先に誠意を表すのが自然と身についていたからだ。
「いいから、座れ。俺は謝罪が聞きたいんじゃないんだ。どうして、お前がそんなことをしたか。それを聞きたいからな」
だが、一切の謝罪を松田は拒絶する。
話を聞きたいと言ったのに言い訳と謝罪から始めようとした山田の態度に、少なからず苛立っている風にも見えた。
山田は全身に冷や汗をかいているのに気付く。
何をこんなに恐れて、怯えているのだろう。松田と知り合ったのはごく最近で、幾度か顔をあわせ話をし、一緒に酒を飲んだり食事をしたり、その程度の付き合いだったのではないか。
確かに山田は年上の男を好きになる性分ではある。
幼い頃から父性というものを知らず、怒声と暴力で家庭を支配してきたアルコールとギャンブル狂いのクズを見てきたから、人並みの常識をそなえ鷹揚にこちらを迎え入れてくれる男に対し、自分もそうなりたいという欲望と、そんな相手に思い切り甘え甘やかされたいという願望が混ぜこぜになった羨望を抱いているのだ。
そういう点で、山田にとって一回りも年上で、しかも一端の研究者として細々ながら実績をあげている松田は山田が憧れるのに充分すぎるほどの存在だった。
憧れている。
だからこそ、自分を拒絶しないでほしい。
松田はうちに秘めた叫びを必死に抑え、震えながら椅子へ腰掛けた。
「……それじゃ、話をしようか。どうして、あんな真似をしたのか。その理由をちゃんと、俺が納得できるよう説明してくれるか」
「あ、あの……ぼ、僕……」
「説明、できるよな?」
説明という二文字が、腹の中に注がれ鉛のような重量感で山田の心を塞ぐ。
どうしたらいいんだろう。どうすれば正しいのだろう。どうすれば許してもらえるのだろう。
山田の頭にはそんな言葉がぐるぐると渦巻いていた。
説明しろと言われたのだから、素直に自分のした事を認め説明するのがスジだろう。
松田もきっとそれを求めている。
だけど、松田が知る件はどう説明したって自分が悪いのだ。
自分の軽率さと浅薄さが招いたことであり、自分の事を大切にするという概念が元々希薄なため、どこまでやると他人が心配するのかなんて全くわからないから起こってしまったアクシデントであり、説明を求められたら自分の悪しき様が松田の前につまびらかになる。
自分の生まれ持った因業が松田に暴かれるというのが、山田にはひどく恐ろしく、そして恥ずかしかった。
どうして心配なんかするんだ。
つい妙な場所まで深入りした結果、ひどいしっぺ返しを食う事はしょっちゅうだった。
今は誰も山田の身体を気に掛ける人間などいないと思ったから、何の心配もなく好きなだけ自分を切り売りできると思っていたのに、松田はどうも山田の無茶に対し真摯に向き合おうとする。
お節介だから。
余計なお世話だし、松田さんには関係ないんだから放っておいてよ。
そういえば、松田は本当に放っておくのだろう。
そして金輪際、山田と関わる事もないのだ。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
たった一言で松田は永遠に自分へ興味を失う。
煩わしさから解放されるはずなのに、山田はそれが怖かった。
謝れとは言われてないのに、謝罪の他に言葉が出ない。
本当のことを言ったら嫌われると思ったからだ。
最悪、自分のしてきたどうしようもなく下らない事件が明らかにされ、嫌われるのは構わない。生まれ持った性分で、自分を傷つけ苦しめなければ生きているような心持ちになれないというどうしようもない性癖が暴かれて、蔑まれるのだってかまわない。
だが絶対に、見捨てられたくない。
それは、黒沢と離れてから久しく抱かなかった感情だった。
『山田、なんであんな真似をした? ……説明しろ。言い訳じゃない、説明だ。できるよな?』
目の前で手を組み、じっと山田を。山田の姿だけを見据える松田の姿に、黒沢の姿が重なる。
洗練された佇まいで、一部の隙も無い所作を見せる黒沢。
一流であることを誇示することはなく、仲間内には寛容で、いつでもチームのためこちらを慮り話をしてくれた黒沢も、山田が無茶をし大怪我して戻ってきたときに、厳しい目をして山田を諭した。
今の松田のように静かな怒りを抱え、青白く燃える炎を宿した目でこちらを見て、ただ静かに向き合ってくれたのだ。
あの時、山田ははじめて「見捨てられたくない」と思ったのだ。
この人に認められなくてもいい。好きになってもらおうとも思わないし、手駒の一つとして使い潰されてもいい。
ただ、飽きられ呆れられ見捨てられるのだけは、怖い。
黒沢に必要とされていた、5Sの活動は山田にとって幸福な時間だった。
だが時間は永遠ではなく、蜜月が呆気なく終わりを迎え、5Sは解散する。
一人になり、背後からひたひたと罪悪感よりも強い虚無感に迫られ生きていた。
誰もがもう、山田ガスマスクというコンテンツとしてしか自分には興味がなく、一人の人間である山田と向き合おうなんて考えないだろうと思っていた。
だが、松田は思ってくれるのだ。
見つめて、話そうとしてくれる、そういう男だったのだ。
「謝らなくていいと言っただろう。今は、話を聞きたい。泣きたいなら、泣いた後でもいい。だから、お前の話を聞かせてくれ。俺は、他のだれでもない。お前の話が聞きたいんだ」
静かに、滔々と語る松田を前に、山田は引きつった笑いを見せる。
「……最低だよ、僕って」
無意識に言葉が零れた。
今、愛し、羨望し渇望する松田という男の影に、かつて愛して憧れた黒沢の姿を重ねている。重ねることで、確かに喜びを覚えている。
自らのどうしようもない性分が、憎らしくも穢らわしいと思っているのに、山田という人間がそういった部分にしか愛を見いだせないのもまた、事実だった。
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