インターネット字書きマンの落書き帳
愚痴っぽくなる利飛太とそれを聞く興家くん
興家彰吾と櫂利飛太が二人で酒を飲むような話です。
ゲーム中では「ちょっと変わった格好をした人だ……」と引き気味の興家くんだったけど、話をしてみると「ちょっと変わっている興家」と「至極まともな利飛太」というバランスになりそうで、存外に仲良くなれそうですよね。
そう思わないかい?
今日からそう思おうぜ!
という訳で酒飲む二人。
俺が書くとどうしても利飛太が湿っぽい男になりますが、湿っぽい利飛太という概念が好きなのでバグではなく仕様です。
ゲーム中では「ちょっと変わった格好をした人だ……」と引き気味の興家くんだったけど、話をしてみると「ちょっと変わっている興家」と「至極まともな利飛太」というバランスになりそうで、存外に仲良くなれそうですよね。
そう思わないかい?
今日からそう思おうぜ!
という訳で酒飲む二人。
俺が書くとどうしても利飛太が湿っぽい男になりますが、湿っぽい利飛太という概念が好きなのでバグではなく仕様です。
『友達には言えない愚痴』
琥珀色の液体に満たされたグラスを傾けると櫂利飛太は自然とため息をついていた。
何も考えないように酒でも飲んで気を紛らわそう。そのつもりでBARへと向かったのだが、酒如きで全てを忘れられるほど利飛太という人間は図太くもなければ強かでもなかったのだ。
自然とため息ばかりが増える利飛太の横で、興家彰吾もまた釣られたように大きなため息をついていた。
「相変わらず酒の場でも辛気くさい顔するよね、櫂さんは」
興家は呆れた様子で言うと、グラスの酒を一息で煽る。
彼の言う通り、利飛太は酒の席でいつでも大体こうだった。眉間にしわを寄せながら過去の事件や自らが関わった仕事についてあれこれと考え気分が塞いでしまうのだ。
すでに起こってしまった事をあれやこれやと考えても今さら詮無き事だとわかっていてもつい考えてしまうのは、きっと生まれ持っての性分なのだろう。
「悪かったね、気の利いた事も言えないような男で」
グラスで口を湿らすと、利飛太はふたたびため息をつく。
そして、言った傍からこんな事だから辛気くさいなんて言われるのだと小さな後悔をした。
「ま、別に最初から櫂さんに洒落た事を言ってもらおうなんて思ってないからいいよ。そもそもおれと飲みに行こうなんて思ったのも、ちょっと気晴らししたかったからだよね」
興家は新たに酒を注文しながら僅かに笑みを向ける。
利飛太が酒を飲もうと思う時、大体が思い悩んでいる時だということを興家も心得ていたのだろう。
事実として、利飛太はいま悩みあぐねていた。最近ひとつ大きな事件を解決したのだが、真実を明らかにするのが本当に良かった事なのか分からなかったからだ。
当然、依頼人は長年知る事が出来なかった部分が明らかになったんは良い事だろう。だが明るみに出た真実は、依頼人にとって残酷なものでもあったのだ。
失ったものを取り戻せた訳ではない。その上で、さらに残酷な事実すら目の当たりにした結果が依頼人にとって本当に良い結果だったといえるのだろうか。
利飛太は、公的な立場だと救いきれない誰かに寄り添いたいと思い警察官を辞めた。覚悟をもって挑んだつもりであるが、明らかになる現実を前に何ともやるせない気持ちになることが思いの外多く、それはいつもため息となり現れるのだ。
「分かってても誘ってくれるんだね、キミは」
「まぁね。これでも結構、トモダチ思いのつもりだから」
どこまで本気なのか分からぬ様子で興家は、新しく置かれた酒を傾ける。彼はいつもこのような態度でつかみ所がなく、友達とは言うが本人が何処か壁をつくり踏み込んだ関係にならないというか、あるいは他人との距離を推し量れる能力が欠如しているとでもいうのだろうか。
何事に対してもどこか他人事のようにとらえる所があり、友人というほど親密ではないが知人というには互いの事情をよく知っているという距離感ではあった。
「……時々に自分でも嫌になるんだよ。僕には公的な立場で出来ないような仕事をしようと思って独立したし、今でもその思いは変わらない。自分の信念を貫いてるつもりだが、現実なんて綺麗なものじゃぁないだろう。過去、明らかにならなかった事実を曝いても起こってしまった出来事は変わる訳ではない。それを知る事で誰かが必ずしも救われる訳ではない。その事実がね……わかっていても、嫌になるのさ」
つい、つらつらと愚痴をこぼしてしまうのも興家のそのような雰囲気があるからだろう。
自分をよく知る友人や慕ってくれる仲間には言えないような胸の内を吐露すると利飛太はどこか諦めたような顔で天を仰いでいた。
「あぁ、つくづく腹立たしいよ。結局、僕は自分の好奇心が望むままに真実を暴露しているだけなんじゃないかと思うのだけれども、それならいっそそんなエゴで凝り固まった自分を認めてしまえばいいもののそれさえ出来ないのだからね」
それにしても、何と湿っぽい話ばかりしてしまうのだろうか。
覚悟をし、これこそが自分の生きる道だと決めてあえてこちら側へと来たというのに現実を見て吐き気すら覚える自分がいかに理想ばかり求めていたのかと改めて思い知る。
ふがいない自分の無力さを思い知ると、利飛太の脳裏にはいつでも警察時代の同期である襟尾純の姿が浮かぶのだ。
正義を信じて職務のため前を向く彼はいつだって迷う事なく任務のために走り続けていた。
例えどんなに過酷な事件を前にしても、襟尾は泣き言を漏らす事もなく事件解決のために靴をすり減らす事も厭わない。どんなに辛い出来事が目の前でおこっても取り乱す事はなくつとめて冷静に仕事をし、悲しみを前に涙を見せることもない。
言動は明るく態度も大らかな襟尾はまさに太陽のような存在と言えるだろう。
利飛太は、依頼人に寄り添う太陽のような人間になれればと思っていた。
だが実際は襟尾と比べると自分はどうにも湿っぽい、相手を慮ろうとしてかえって陰気な言い回しになるし慎重すぎる言葉から言い訳がましい言葉を使いがちだ。
「僕もエリオのようになれれば、キミだって少しは楽しい酒が飲めていたんだろうけどね」
そう口に出してからまた後悔をする。
今日は興家が誘ってくれたというのに、つい自虐的な物言いをしてしまう。こんな有様だから呆れられるのだろうと思っても、襟尾と比べれば自分はよっぽど湿っぽい人間なのは事実だとも思うのだから仕方ない。
だが興家は変わらぬ様子でグラスの縁を指先で軽く撫でて見せた。
「櫂さん。おれも襟尾さんとはタイプ違うとはいえ、けっこうポジティブな人間だと思っているんだけど、ポジティブな人ってどうしてポジティブに見えるのかって考えた事ある?」
「さぁて、生憎とこっちはウェットな人間なんでね」
「そっか。実はおれ、他人にあんまり期待してないんだよ。最初から誰かに何か期待していないから何を言われても大丈夫だし、何があっても落胆なんかしない。ま、そんなもんだって思うだけ。それが周囲からは明るくポジティブに見えるってだけだと思うんだ」
溶けた氷がグラスにぶつかりカランと軽やかな音を響かせる。
「襟尾さんもそういう所、あるよね。あの人、自分が好きな事話して、相手が反応してもしなくても別に怒ったりしないでしょ。ただ自分がやりたい、やるべきだって思った事だけに集中する。あれって、他人にあんまり興味がないか、興味があっても好かれるようには媚びたりしない。あるがままの自分が嫌われたら仕方ない。そういう、ある意味では自己中心的さがある人の特徴なんだよ。ある意味で……他人に優しくないんだ」
興家飲んでるカクテルはソルティドッグだろうか。軽やかな柑橘類の香りが塩のリングに包まれており、興家は指先を舐めながらその味を確かめていた。
「ま、おれはこんなだから襟尾さんと比べればもっとずぅっとドライだろうけど、だからこそ辛気くさくて湿っぽい櫂さんと飲みたいって思うんだよね。そうじゃないと、時々自分が人間だってこと忘れちゃいそうだからさ」
彼は笑っていたが、それが心から笑っているのかそれとも顔の筋肉をどう動かせば笑顔に見えるのか計算し作り笑いをしているのか櫂には判別できなかった。
興家という人間がどこまで本当に人間なのか、そもそも元々人間らしい感情をもっているのかわからなかったからだ。
「なるほど、ポジティブでいるのも困りものということか」
「そういうこと。だからおれからすると、辛気くさいくらいが丁度いいかなぁ。実際に、櫂さんのそれは優しいから。というわけで……さ、飲もうか。楽しめなくてもいい、人間らしい酒にしよう」
「そうだね、ボクも友人が化け物になって退治されたら悲しい」
興家が差し出すグラスに自分のグラスをぶつけ、二人は静かに乾杯をする。
乾いたガラスの音が薄暗い店内に小さく響き、静かな夜が過ぎようとしていた。
琥珀色の液体に満たされたグラスを傾けると櫂利飛太は自然とため息をついていた。
何も考えないように酒でも飲んで気を紛らわそう。そのつもりでBARへと向かったのだが、酒如きで全てを忘れられるほど利飛太という人間は図太くもなければ強かでもなかったのだ。
自然とため息ばかりが増える利飛太の横で、興家彰吾もまた釣られたように大きなため息をついていた。
「相変わらず酒の場でも辛気くさい顔するよね、櫂さんは」
興家は呆れた様子で言うと、グラスの酒を一息で煽る。
彼の言う通り、利飛太は酒の席でいつでも大体こうだった。眉間にしわを寄せながら過去の事件や自らが関わった仕事についてあれこれと考え気分が塞いでしまうのだ。
すでに起こってしまった事をあれやこれやと考えても今さら詮無き事だとわかっていてもつい考えてしまうのは、きっと生まれ持っての性分なのだろう。
「悪かったね、気の利いた事も言えないような男で」
グラスで口を湿らすと、利飛太はふたたびため息をつく。
そして、言った傍からこんな事だから辛気くさいなんて言われるのだと小さな後悔をした。
「ま、別に最初から櫂さんに洒落た事を言ってもらおうなんて思ってないからいいよ。そもそもおれと飲みに行こうなんて思ったのも、ちょっと気晴らししたかったからだよね」
興家は新たに酒を注文しながら僅かに笑みを向ける。
利飛太が酒を飲もうと思う時、大体が思い悩んでいる時だということを興家も心得ていたのだろう。
事実として、利飛太はいま悩みあぐねていた。最近ひとつ大きな事件を解決したのだが、真実を明らかにするのが本当に良かった事なのか分からなかったからだ。
当然、依頼人は長年知る事が出来なかった部分が明らかになったんは良い事だろう。だが明るみに出た真実は、依頼人にとって残酷なものでもあったのだ。
失ったものを取り戻せた訳ではない。その上で、さらに残酷な事実すら目の当たりにした結果が依頼人にとって本当に良い結果だったといえるのだろうか。
利飛太は、公的な立場だと救いきれない誰かに寄り添いたいと思い警察官を辞めた。覚悟をもって挑んだつもりであるが、明らかになる現実を前に何ともやるせない気持ちになることが思いの外多く、それはいつもため息となり現れるのだ。
「分かってても誘ってくれるんだね、キミは」
「まぁね。これでも結構、トモダチ思いのつもりだから」
どこまで本気なのか分からぬ様子で興家は、新しく置かれた酒を傾ける。彼はいつもこのような態度でつかみ所がなく、友達とは言うが本人が何処か壁をつくり踏み込んだ関係にならないというか、あるいは他人との距離を推し量れる能力が欠如しているとでもいうのだろうか。
何事に対してもどこか他人事のようにとらえる所があり、友人というほど親密ではないが知人というには互いの事情をよく知っているという距離感ではあった。
「……時々に自分でも嫌になるんだよ。僕には公的な立場で出来ないような仕事をしようと思って独立したし、今でもその思いは変わらない。自分の信念を貫いてるつもりだが、現実なんて綺麗なものじゃぁないだろう。過去、明らかにならなかった事実を曝いても起こってしまった出来事は変わる訳ではない。それを知る事で誰かが必ずしも救われる訳ではない。その事実がね……わかっていても、嫌になるのさ」
つい、つらつらと愚痴をこぼしてしまうのも興家のそのような雰囲気があるからだろう。
自分をよく知る友人や慕ってくれる仲間には言えないような胸の内を吐露すると利飛太はどこか諦めたような顔で天を仰いでいた。
「あぁ、つくづく腹立たしいよ。結局、僕は自分の好奇心が望むままに真実を暴露しているだけなんじゃないかと思うのだけれども、それならいっそそんなエゴで凝り固まった自分を認めてしまえばいいもののそれさえ出来ないのだからね」
それにしても、何と湿っぽい話ばかりしてしまうのだろうか。
覚悟をし、これこそが自分の生きる道だと決めてあえてこちら側へと来たというのに現実を見て吐き気すら覚える自分がいかに理想ばかり求めていたのかと改めて思い知る。
ふがいない自分の無力さを思い知ると、利飛太の脳裏にはいつでも警察時代の同期である襟尾純の姿が浮かぶのだ。
正義を信じて職務のため前を向く彼はいつだって迷う事なく任務のために走り続けていた。
例えどんなに過酷な事件を前にしても、襟尾は泣き言を漏らす事もなく事件解決のために靴をすり減らす事も厭わない。どんなに辛い出来事が目の前でおこっても取り乱す事はなくつとめて冷静に仕事をし、悲しみを前に涙を見せることもない。
言動は明るく態度も大らかな襟尾はまさに太陽のような存在と言えるだろう。
利飛太は、依頼人に寄り添う太陽のような人間になれればと思っていた。
だが実際は襟尾と比べると自分はどうにも湿っぽい、相手を慮ろうとしてかえって陰気な言い回しになるし慎重すぎる言葉から言い訳がましい言葉を使いがちだ。
「僕もエリオのようになれれば、キミだって少しは楽しい酒が飲めていたんだろうけどね」
そう口に出してからまた後悔をする。
今日は興家が誘ってくれたというのに、つい自虐的な物言いをしてしまう。こんな有様だから呆れられるのだろうと思っても、襟尾と比べれば自分はよっぽど湿っぽい人間なのは事実だとも思うのだから仕方ない。
だが興家は変わらぬ様子でグラスの縁を指先で軽く撫でて見せた。
「櫂さん。おれも襟尾さんとはタイプ違うとはいえ、けっこうポジティブな人間だと思っているんだけど、ポジティブな人ってどうしてポジティブに見えるのかって考えた事ある?」
「さぁて、生憎とこっちはウェットな人間なんでね」
「そっか。実はおれ、他人にあんまり期待してないんだよ。最初から誰かに何か期待していないから何を言われても大丈夫だし、何があっても落胆なんかしない。ま、そんなもんだって思うだけ。それが周囲からは明るくポジティブに見えるってだけだと思うんだ」
溶けた氷がグラスにぶつかりカランと軽やかな音を響かせる。
「襟尾さんもそういう所、あるよね。あの人、自分が好きな事話して、相手が反応してもしなくても別に怒ったりしないでしょ。ただ自分がやりたい、やるべきだって思った事だけに集中する。あれって、他人にあんまり興味がないか、興味があっても好かれるようには媚びたりしない。あるがままの自分が嫌われたら仕方ない。そういう、ある意味では自己中心的さがある人の特徴なんだよ。ある意味で……他人に優しくないんだ」
興家飲んでるカクテルはソルティドッグだろうか。軽やかな柑橘類の香りが塩のリングに包まれており、興家は指先を舐めながらその味を確かめていた。
「ま、おれはこんなだから襟尾さんと比べればもっとずぅっとドライだろうけど、だからこそ辛気くさくて湿っぽい櫂さんと飲みたいって思うんだよね。そうじゃないと、時々自分が人間だってこと忘れちゃいそうだからさ」
彼は笑っていたが、それが心から笑っているのかそれとも顔の筋肉をどう動かせば笑顔に見えるのか計算し作り笑いをしているのか櫂には判別できなかった。
興家という人間がどこまで本当に人間なのか、そもそも元々人間らしい感情をもっているのかわからなかったからだ。
「なるほど、ポジティブでいるのも困りものということか」
「そういうこと。だからおれからすると、辛気くさいくらいが丁度いいかなぁ。実際に、櫂さんのそれは優しいから。というわけで……さ、飲もうか。楽しめなくてもいい、人間らしい酒にしよう」
「そうだね、ボクも友人が化け物になって退治されたら悲しい」
興家が差し出すグラスに自分のグラスをぶつけ、二人は静かに乾杯をする。
乾いたガラスの音が薄暗い店内に小さく響き、静かな夜が過ぎようとしていた。
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