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インターネット字書きマンの落書き帳

   
【遺言、あるいは遺書(逆転裁判6のネタバレSSだよ)】
逆転裁判456がリマスターされるよう! です!
比較的に他の媒体でも移植が多い逆転裁判123と比べて実質、DSくらいでしかプレイできなかった456がいよいよ他の媒体でも遊べると思うとわくわくしちゃいますね。

みなさまにも是非とも、オドロキくんの人生がどんどん暴露され大変な事になってしまうのを観測してほしいと思います!

それはさておき、逆転裁判6の2つめの事件……。
その事件で殺害される「被害者」が残した手紙という体裁の話を以前書いたので、それをここに残しておこうと思います。

逆転裁判6の、2つめの事件の「犯人」側のお話はこちらに置いてありますのでよかったら一緒に楽しんでね! → 犯人側の視点の話こちら

一緒に楽しんでね!(笑顔)

『遺言』

 もしこの手紙を読む人がいるのだとしたら、それはきっと僕が死んだという事なんでしょう。
 我ながら生き急いでしまったかなとは思います。
 ですが、僕は元より長生きしたいなど思っていません。
 華々しい舞台でスポットライトを浴び観客を魅了する最高のマジック・ショーを演じる事ができたのなら僕の人生はそれだけでもう、充分すぎるほど幸福だったので僕が如何様なる理由で死んだとしても、どうか悲しまないでほしいと思います。

 えぇ、僕は幸せです。
 この手紙を書いている今も、そして恐らく死ぬ直前も。きっと、死んでからもずっと。

 僕はずっと、マジシャンになりたかった。
 そのために生きていたのですから。

 そもそも長生きしたいと思っている人間は命の危険すらある脱出マジックや、自分から火だるまになって見せる炎のマジックなどを披露するはずも無いでしょう。
 だから僕の一生が、例え人より短い間だったとしても駆け抜けてきた人生に後悔などありません。
 だからどうか、僕の事を哀れんだり、悲しんでほしくはないと思います。
 
 ところで、僕はいったいどのように死んだのでしょうか?
 もし余命幾ばくもないような身体であれば、僕はこの手紙を破いて捨てて別な事を書いていると思いますので、きっと予定されたような死ではなく突発的に死を迎えたのだろうと考えています。

 そうなると、やはり事故死でしょうか?
 僕は大型のバイクも乗る最中でもつい手品のタネばかり考えるような性分ですから、操縦を誤って事故で死ぬ事もあるでしょう。
 もし僕が事故で誰かを巻き込んで死んだのなら、僕がもっている財産は巻き込まれた誰かに全て与えてもらえると嬉しいです。
 それで償いになるかはわかりませんが、死んでしまっては相手に謝りにいくことすらできません。僕には手品の他には僅かばかりの貯金があるだけですから、他に与えられるものがないのでお手数ですがそうしてください。

 それとも、突発的な病気などでしょうか?
 身体に無理をすると脳の血管が切れて倒れたり、急に心臓が止まったりするなんて良く聞きます。
 僕ときたら食事の時間はまちまちで偏食だってもひどいものですし、舞台のリハーサルがあればろくに眠らず練習に打ち込むなんていうのもしょっちゅうです。
 おおよそ健康的とは言えない生活を送っているという自覚はありますが、それを直す努力が出来ないのだから急な病気にもなるでしょう。
 そんな手品漬けの生活をしているくせに、昔から度胸のほうはからっきしで、いつでもマジックに失敗してお客様に笑われるんじゃないのか、落胆されるんじゃないのかと心配してばかりの有様ですから、毎日が羞恥心と恐怖心で板挟み。いつだってストレスを抱えている状態ですから突然倒れても不思議なことは何ひとつありません。

 だからそう、もし僕が事故や病気で死んだとしても、それは「残念な事故」でも「惜しい病気」でもなく、紛れもなくそれが僕の寿命だったと思って下されば幸いです。
 誰のせいでもない、天命というものなのです。

 もし貴方が僕の死について悼んだり、悲しんだり、自分のせいだったのだろうと思い悩んだのだとしたら、どうかあまり思い詰めないでほしいと思います。

 僕はいつだって死ぬ覚悟ができていたんですから。

 大体のところ、僕は手品師、マジシャンなんです。
 手品師というのは舞台の上ではいつだって危険と隣り合わせです。

 僕だって箱の中にはいりサーベルで貫かれてみるなんて曲芸は当たり前のようにやります。
 鍵付きの牢屋に入ったまま水中に放り込まれたこともありますし、火だるまになりながら空を舞っている所をテレビで見た人もいるでしょう。
 そんな危険な事をして驚いた観客を前に喜んでいるような人間ですから、いつ死んでも仕方がないというものです。

 それでも僕は、観客の皆様に一瞬の幻想を届けることが出来るのなら死んでもいいと思っているからますます、仕方が無いものです。
 手品師というより、道化師というほうが正しいのかもしれません。
 僕は、いつだって死ぬ覚悟ができている。
 1分1秒の時間、運命に生かされている事に感謝しながら自分の努力と技術の結晶を皆様に見ていただく、それだけが喜びでありその中にしか幸福を見いだせないような運命なのですから、どうしようもないのです。

 ですから、何度でも申し上げますが例え僕が死んでも悲しまないでほしいのです。
 笑顔を生み出すのが僕ら手品師の仕事でもあるのですから、僕の死が涙に変わるのは望んでいないのです。

 あぁ、そうだ、僕はマジシャンなのですから舞台の上で死ぬような事もあるでしょう。
 僕が一等に得意で、一等に好きな炎のマジックは華々しく絢爛でとても美しいのですが、少しの手違いで死んでしまうほど危険な手品でもあります。

 だからもし、僕がマジックショーの途中で死んだのならそれは、僕にとって一等に幸せな死に方と言えるでしょう。
 僕は最後までマジシャンだった。
 マジックを魅せるために舞台へと立ち、幻想を紡ぐために言葉を放ち、喝采を浴びるために奇術を見せる。その全ての時間が僕にとっては輝きそのものなのですから、そんな数多のきらめきに身を捧げて死ぬ事が出来たのなら、何て立派な事だろうと誉めてもらいたいくらいです。

 実際ぼくも心の底から、そう思っております。
 もし死に場所が選べるなら、僕は舞台の上がいい。

 なんて、これでもし僕が本当に舞台の上で死んだのなら、さぞ美しい事でしょう。
 だけど、そう、本当のことを言うと僕は薄々気付いているのです。
 この手紙を書いた理由も、自分がどうやって死ぬのかがおおよそ分かってしまったからだと、そう言ってもいいでしょう。
 たぶん僕が死んだ理由は病気でもなければ事故でもない。

 僕は、誰かに殺された。
 そうなのでは無いですか?

 そして僕を殺したのは、これを読んでいる「あなた」なのだろうと、そう思っているのです。

 この手紙がある場所は、僕が死んだ時に真っ先に貴方が探すであろう場所。
 貴方が僕に教えてくれて、今では僕の全てでもある、とっておきの手品のタネがぎっしりと詰め込まれている僕の奇術の源です。
 これは僕の命ですが、きっと貴方の命でもある。
 だからきっと貴方ならこの手紙に気付くだろうし、きっと貴方しかこの手紙には気付かないだろう。
 僕はそう思って、この手紙を残しておくのです。

 僕は貴方に殺されるのかもしれない。
 それに気付いたきっかけは、ほんの些細な事でした。

 貴方はマジシャンとして駆け出しだった僕に、マジックの基礎をたたき込んでくれましたよね。
 貴方が一番に得意とした炎のマジックを僕に教えてくれた時は本当に嬉しかった。
 ようやく演目も板に付き、アルバイトの傍らでマジックをする生活からマジシャン一本で仕事が出来るようになった頃、貴方はいつも愛想のよい笑顔を浮かべて
「いいショーだったぞ」
 そう言って、僕の手品を褒めてくれていましたよね。

 その時の貴方は優しい笑顔をしていて、僕の成長を純粋に喜んでいてくれて、嫌味もなく真っ直ぐに僕の手品を見てくれていたから、僕は本当に嬉しかった。
 貴方が僕に貴方の名前を預けてくれてからも、拙かった手品が上手くなるのを喜んでくれていた。
 僕は貴方から認められたことが、何よりも嬉しかった。
 あなたの後継者になれた事は誇りであり、栄誉であり、僕の輝きだったのです。

 そう、僕は貴方に認められたと、そう信じておりました。
 がむしゃらに練習をしたのも、寝る間を惜しんで他の技を研究してきたのも、ただあなたの名前を汚さないようにするため。
 その一心だったのは間違いありません。

 貴方は僕の憧れで、理想で、希望で、生き方で、全てだ。

 そんな貴方から注がれる視線に熱が喪われているのに気付いたのが、全てのきっかけでした。
 最初、僕は何かしら重大なミスを犯したのだろうと考えました。
 もしそうなら、何がいけなかったのだろう。手品の技術が未熟だからだろうか、それとも立ち振る舞いが不自然だからだろうか。貴方の名を継ぐ者として素行が悪かったのか、無意識に不躾な発言をしていたのではないか。
 悩み考え夜も眠れない日々をどれほど過ごした事でしょうか。

 貴方が怒るのだとしたら、僕の手品が下手だからだろう。
 僕の腕がまだ未熟だから以前のように笑ってくれなかったのではないだろうか。
 あるいは最近、腕をあげたと自負して天狗になっていたから貴方は怒ってしまったのではないか。
 そう考えていた頃はいつもより無茶な練習で自分を追い込んだりもしたものです。

 だけど、それは違うんですよね。
 僕は日に日に貴方の所作を、あなたの技を、あなたの奇術を学び得ていくうちに段々と貴方の心が分かるようになってきた。
 貴方が胸の内に秘め、今でも燻らせ焦がしている貴方の憎しみ。
 その正体を、僕も分かってしまったのです。

 貴方が時々僕の技を忌むべきものを見るかのように見据えているのは、別に僕の技術が至らないからという訳ではなかったのですよね。
 僕は貴方と同じ技をもち、貴方のような舞台にあがり、拍手喝采を一身に浴びるうち、段々と貴方がどのような世界を見て、感じて、そしてそれを奪われてしまったのか。

 それが痛い程にわかるように、なってしまったのです。

 僕にとって貴方は、憧れでした。
 天の上の存在で、近づけない人でした。

 本当は近づいてはいけなかったのでしょう。
 僕は街の片隅で貴方の手品に憧れ、不器用にそれを真似して、場末のBARで酒を飲む人間を前に陽気な手品を見せて場を和ませる。そのくらいが本当は身の丈にあっていたのです。

 それなのに、僕は貴方に気付いてしまった。
  憧れから僕は、少し貴方に近づきすぎた。

 貴方の指先から繰り出される数々の奇術は少年だった僕にとって、本当の魔法だったから。
 貴方が魅せた炎の輝きは僕にとって幻想で、神秘でもあったから。
 目の前に現れた貴方のことを、奇跡の魔術師だと信じた少年のままで僕は声をかけてしまった。

 幻想は幻想のままでいたほうが、よっぽど美しいのを知っていた癖に僕はそれが出来なかったのです。
 僕は強欲で矮小な人間でしたから、我慢が出来なかったのです。

 だからもし、間違いがあるとしたらそれは貴方のせいじゃない。
 貴方に気づき声をかけた、僕の過ちだったのです。

 奇術は魔術でも幻想でもない。
 タネも仕掛けも存在し、血の滲むような努力と練習を重ねて作られた世界だと分かっていながら近づいた。

 全ては僕の罪なのですから。

 天に近づきすぎた塔が神の怒りに触れたらどうなるのか。
 太陽に近づきすぎたイカロスの翼がどうなってしまったのか。
 全てを知ってもなお、僕はそのようにしたのですから。

 かつてあなたが見せた奇跡のすべてを、そろそろ僕は覚えたでしょう。
 この名前も、姿も、もう全てが僕のものになろうとしています。
 誰もが僕こそ「Mr.メンヨー」その人だと疑いもせずスポットライトを浴びせ、拍手を浴びせ、歓声をあげて僕を出迎えてくれています。

 そしていよいよ僕は、あなたの魂でさえも奪おうとしている。
 わかっています、僕はそれをしようとしている。
 わかっている上で、それを止めることがもう出来ないのです。

 そう、僕が貴方を殺してしまった。
 殺したのは、僕なんです。

 だけど、僕は思うのです。
 貴方が何より恐れていたのは、僕が貴方の名声をまるごと奪うことじゃない。

 過去の貴方が。
 炎の魔術師と言われ喝采を浴びた貴方という天才がこのまま誰にも知られずに、まさに幻影として消えてしまう事。
 貴方が本当に怖れていたのは、誰にも知られず気付かれず「Mr,メンヨー」であった貴方が消されてしまうことだったのではないでしょうか。

 貴方が僕のことを殺したいと思っている。
 明確に殺意を向けていると確信したのは、あなたの命とも言える利き腕を奪った一座の正当な後継者と僕が舞台で共演するようお膳立てされた頃でした。

 貴方の目には煮えたぎるような憎悪と凍える程の殺意が宿り、僕の姿などすでに見えてはいないようでした。

 だけど僕は、このままでいようと思います。

 これは、別に贖罪ではありません。
 貴方の名を奪い、姿を奪い、栄誉を奪って喝采を浴びる事には罪悪感もありますし、貴方を殺したという自覚も僕にはありますが、それを命で贖おうなど微塵も思いはしませんから。

 僕は貴方になら殺されてもいい。
 いや、僕は貴方に殺されたい。

 貴方に憎まれるのが嬉しく誇らしかったのは、事実といって良いでしょう。
 貴方が僕を憎むということは、それだけ僕が優れているいうこと。貴方が心の底から僕を認め、僕に嫉妬してくれたという事です。
 
 貴方に憎まれ、妬まれる事で優越感に浸っていた。
 これはどうしようもない事実であり、僕の卑劣なところです。

 もちろん、貴方自身が二度と手品が出来ない身体だと。
 もし手品をやれたとしても、僕ほど卓越した技を披露するには及ばない身体であることも、僕の優越感に拍車をかけておりました。

 それを知った上で僕は、わざと多く貴方の技を盗み、意図して貴方のタネを真似て、コインを消す仕草や癖も、ほとんど完璧に模写した上で舞台に上がっていたのです。

 そうする事であなたの焦りをもっと煽る事ができると思っていた。
 僕はもっと貴方に憎まれ、恨まれて、それが僕には嬉しかった。
 どす黒い憎しみの鎖で貴方の感情を縛り付けることが、僕にとっては舞台に上がる快感に勝るとも劣らない歓喜となっていたのです。

 あぁ、出来る事ならば貴方があの一座への恨みなど消し去ってしまうほど僕を憎んでくれたのなら、どれだけ良い事でしょう。
 貴方が憎しみの果てに殺すのが一族の正式な後継者ではなく、この僕だとしたら。
 それを思うと胸が高鳴って仕方ないのです。

 だからもし、ぼくの死に場所が舞台だったとしたらそれはぼくにとって満足行く死であったと、そう言ってもいいでしょう。

 そもそも、僕の人生はもう成功していました。
 貴方という理解者に出会い、欲しかった貴方の名で舞台に立つ事ができたのだから、やり残した事など何一つありません。

 その上で、貴方が僕を殺してくれるというのなら。
 僕の血で汚れた手で今後の世界を生きてくれるというのなら、僕の死を背負っても生き続けなければいけないというのなら、その影に僕を楔のように打ち込んでくれたのならば、僕はそのために生まれてきたのだと、そう思う事さえ出来るのです。

 これが貴方に焦がれた男の希望であり、どうしようもない絶望なのです。

 最後になりましたが、この手紙を読み終わったら焼き捨ててくれればいいと思います。
 マッチでもライターでもいいのですが、もしあなたが気のきいた手品師ならば是非、炎の手品でお願いします。

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東吾
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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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