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インターネット字書きマンの落書き帳

   
その花は枯れて久しく(カーレさんとブライヴさんのはなし)
エルデンリングのブライヴさんとカーレさんの話です。
特にボーイズのラブとか、男CP要素を意識して描いた訳ではないんですが、いかんせん生産ラインに貴腐騎士がいるので、腐敗と呼ぶにはあまりにもパトスが多い何かが混じっている可能性はあります。

今回は、たまたま自分のところに顔を見せたブライヴさんにカーレさんがお花の冠をつくってあげる話ですよ。
ほのぼのな世界観に、強烈な鬱要素を速攻ボディブローで入れてありますので、情緒が死んでくれればいいなと思います。




『その花は枯れて久しく、そしてこれからも枯れたままなのだ』

 そこにはかつて一つの骸があり、今はもはや影すらも残していない。
 かわりに枯れ果てた花冠がひとつ置き去りにされていた。
 花冠は茶褐色に色あせ元の彩りを示すものは何もない。そして今でも人知れずその場所で、枯れ果てたまま捨て置かれている。

 話しをしよう。
 半狼のブライヴという騎士がいた。カーリア王家のものであり魔女あるいは傀儡と呼ばれた女王レニに使えていたという彼は獣人の容姿を色濃く残しており特にその身体は2mをゆうに越す巨躯であったという。
 彼は長らくレニの求めに応じ狭間の地を旅していた。そんな中で常に流浪している商人たちと顔なじみになるのは必然と言えただろう。

 ブライヴが最初に出会った流浪がカーレであり、また最も親しく接していたのもカーレである。
 流浪の商人は群れる事はなく商売っ気の無いものや狭間で生きるにはあまりにも自信に乏しい者など様々な個性をもつが、カーレほど愛想がよく顔の広い商人はそうそういないだろう。
 ブライヴはカーレの数多いお得意様の一人であった。

 その日、狼のブライヴがカーレの元を訪れた時カーレはいくつかの花を前に手遊びをしていた。 茂みをゆらし影から現れたブライヴに対してカーレはさして驚く様子もなく少し顔を見ると無言でまた手遊びに興じる。
 カーレは聡い男であった。ブライヴの足取りや血の臭いその濃さで大事ないのをこちらに来る以前から察していたのだろう。あるいはブライヴがあまりお節介な言葉をかけられるのを好いてないのを知ってあれこれ詮索するのを控えてくれたのかもしれない。
 だが普段のカーレならやれ食事はどうしたとか何処まで足を伸ばしていたのだとか目的のものは見つかったのかと矢継ぎ早に質問を投げかけてくるからそれがないのは僅かに寂しいと思っていた。
 ブライヴも知らないうちにカーレのもつ陽気さに救われていたのだろう。

「久しぶりだな、カーレ」

 沈黙に耐えられなくなり、ブライヴから声をかける。するとカーレはようやく手をとめブライヴの方へ視線を向けた。別段ブライヴに気付いていなかったという訳ではないが珍しく手遊びに熱中していたのだろう。流浪の商人は大概が器用で熱中しやすい気質なのだ。危険ではない限り自分の仕事に集中する者が多い。

「あぁ、ブライヴか。悪かったな、気付いていたんだがおまえなら妙な真似なんぞしないと思ってな……さぁ、商売か? 特に新しいものを仕入れてる訳じゃないが多少は安くしておくぞ」

 カーレはいつもの調子で声を張ると荷馬から商品を探そうとするが、ブライヴは黙ってそれを手で留める。今は食料も薬も充分にあり特に必要な道具はなかったからだ。それなら商人であるカーレに話しかける必要など無かったのだろうが、カーレは特に用の無い客でも雑談を交わす事を苦にしない。そうして顔をつないでいく事でいずれまた良き商売相手になってくれればいいと、そう考える男であった。

「そうか、特に必要ないか……いや、出会った頃は何が入り用だかわからないお前さんには随分と妙なものを押しつけたりもしたからなぁ」

 カーレはそう言うと、喉を鳴らして笑う。カーレがブライヴと出会ったばかりの頃、ブライヴはまだ狭間の歩みになれてないひよっこの旅人だった。危なっかしく不器用で火炎壺すらろくに作れない有様の癖に危険な場所にほいほいと首を突っ込むものだから土産話と称してブライヴから語られる恐ろしい話しに何度も肝を冷やしたものである。
 だが最近はすっかりしたたかな冒険者の顔となっている。以前ほど頻繁に毒消しやら止血の草やら買い込まなくとも旅に支障はないのも明白であり荷物も最小限に留まっていた。
 カーレとしても長く生き残ってくれてればそれだけ良き常連客として小銭を落としてくれて有り難い存在なのだが、元より肉体に恵まれたブライヴがより速やかに殺すための剣技を覚えてますます屈強な戦士になることは嬉しくもあり少し寂しくもある。
 己で獲物がとれぬ狼の幼子が自分で狩りをし群れを率いていくのを見ていく喜びより自分の手を離れより遠くへ行ってしまうブライヴに一抹の寂しさを覚えていたのである。
 あるいは、狭間にいる大概の旅人が同族の商人たちを含め何処へと消え帰らぬものとなるのを幾度も見送ってきた事実がカーレを感傷的にさせるのかもしれないが。

「そうか。それなら火にあたって行くといい。なぁに、焚き火に当たるだけで金をとりはしないさ」

 カーレはまた手遊びをしながらそう告げればブライヴは小さく 「すまない」 と感謝をしカーレの隣へと座る。 全身が長毛に包まれているから意外にみえるがブライヴはこれでかなりの寒がりである。夜の合間も旅を続けるのも一人で過ごすのも本当は苦手なのだ。カーレの元へとやってきたのも一人で所在なさげに歩いていたところ火の明かりを見つけたからに違いない。
 ブライヴはしばらく赤々と燃える焚き火にあたっていたが、ずっと手遊びをやめないカーレの事が気になったのかその手元を覗いた。

「さっきから何をしているんだ、カーレ? 商品でも作ってるのか」
「いや、あいにく商品になるような素材が手元になくってねぇ。それでもどうにも性分なのか、何もしてないと手持ち無沙汰で……素材にならない花ばかり山ほどあるから、花冠をつくってるのさ」
「花冠?」

 花冠という言葉を知らないのか、ブライヴは首をかしげて不思議そうな顔をする。戦士としての宿命を背負い生まれてきたカーレは花に触れ合うような生活とは無縁だから知らなくても至極当然かもしれない。
 傍にレニもいただろうが、レニもまた普通の少女が背負うにはおおよそ大きすぎるものを背負っており心を慰めるために花を手折る暇などなかったろう。
 そもそも、花が育つにはカーリアはあまりにも寒すぎるのだ。特にレニの周りは凍えるほどの冷気に包まれているのだろうから彼女の傍に生花はないのだろう。ブライヴなら彼女が見ぬものにあまり興味を抱かなくとも不思議ではない。

「花冠を見た事はないか? こうして色とりどりの花を編んで輪にして冠を模すのさ。輪がもっと大きければ首飾りにするし、小さければブレスレットにする。昔は花畑があれば少女たちがこうして花を編みお互いに冠を乗せたりして遊んだんだが、見た事はないかねぇ」

 カーレはそう言いながらすでに作ってあった花冠を引っ張り出すとそれを自らの頭へ乗せおどけて見せる。赤い帽子の上にのせた花冠は小ぶりの黄色い花で編まれており日中に見ればもっと綺麗だったろうが夜のとばりが降りた今は焚き火の色に混じって色合いなどわからなくなっていた。
 それでも編まれた花冠がブライヴには珍しかったのだろう。カーレの頭へ鼻先を向けるとスンスンと鼻をひくつかせる。旅人として花など幾度も見ただろうが細工された花は物珍しいのだろう。

「なるほど、花を輪にして冠に見立てるのか。いや、器用なものだなお前は……それに、微かにいい匂いもする。売り物にならないのかそれは?」
「ははっ、いまこの狭間で花冠なんて愛でる奴はいないさ……もはや無用の長物ってやつだろうな。最も、平和だったころこの程度の細工は子どもの遊びだ。子どもたちは集まるが売れはしないだろうよ」

 カーレはそういい、また花を編む。

「手遊びしながらで悪いな。どうも俺は昔からじっと黙って座ってられない性分でねぇ。こうして手を動かしてないとどうにも落ち着かないんだ。だからこんな金にもならん児戯に興じたりするわけだ」

 言い終わるのとほとんど同時に、新しい花冠をもう一つ仕上げる。それを火に掲げると 「そうだ」 と小声で呟き隣に座るブライヴの頭へと乗せてやった。薄紅色の花が混じった花冠はブライヴの尖った耳の根元に留まり、甘やかな香りを漂わせる。

「ほら、おまえさんの分だ。はは……似合ってるぞ」
「なっ、何するんだ、お前……俺はこんなもの、似合わん。それにこんな近くに花があると臭くてたまらん」

 ブライヴは慌てて花冠を外す。狼の容貌を色濃く残すブライヴは嗅覚も普通の人より遙かに優れている。カーレたちにはうっすら甘い香りがするだけの花も思った以上に強い匂いになるのだろう。

「おっと、それは済まなかったな。だが時には花を愛でるのも悪くないだろう」

 カーレはそう言い、残りの花もまとめて編み始める。結構な数を摘んできたと思ったが残りはほんの一握り程度になっていた。
 一方のブライヴは頭にのせられていた花冠を物珍しそうに眺めると、その花一つひとつに触れる。狼の顔が牙を剥くような表情になり、怒っているのかと一瞬カーレは怯えたがどうやらそれがブライヴの笑顔のようであった。

「そうだな……旅をしていれば花なんて当たり前に思えてただ通り過ぎていくだけだが、こうして眺めてみれば美しいものだ。俺も、もう少し立ち止まり世界を見る時間があってもいいのかもな……」

 ブライヴはそう語るが、生真面目なこの男はきっと生涯をカーリア王家の忠臣として生き、その目が安寧の中で自然を愛でる日など来ないのだろう。
 いや、そもそも狭間の何処にだってもう静かに自然を眺める時間などない。この世界はどうしようもなく壊れており、これからも壊れていくのだろうから。
 たとえ、王が戻ってきたとしても。

 だが目を細め花を眺めるブライヴを見ると、そのような日が来て欲しいと願わずにはいられなかった。
 今ではない別の時、別の命でその大きな身体を丸めて花を愛でる姿はきっとどの時代でも可愛らしくみえるだろう。想像し、カーレも自然と笑顔になる。
 巨躯の狼と花、まったく不釣り合いな取り合わせだが存外にいいではないか。

「おい、どうして笑っている、カーレ。俺が花なんぞ愛でるのがそんなにおかしいか?」
「そう斜に構えるな、へそ曲がりは相変わらず素直じゃない。ただ可愛いもんだな、と。そう思っただけさ。戦士だろうが半狼だろうが花を愛でるだけの心があるなら、そりゃぁ美しいことだ」

 語り合う合間に、残り僅かだった花もまた一つ輪となる。
 今度は小さめの花輪だったからそれをブレスレットのようにあしらい、またブライヴにつけてやった。

「やめろ、花なんて俺には似合わないと言ってるだろう」

 言葉こそ嫌そうだが視線や仕草で花が嫌いではないのがわかる。猛々しい戦士である事と花をを美しいと思える事は何ら矛盾せず存在できる感情だとカーレは思うが、ブライヴはそういった感傷的な部分はらしくないと思っているのかもしれない。

「いいじゃないか、いつかこうして花を眺めて綺麗だと言い、風を受けて心地よいと言い、星の輝きに感銘を受けるような生活ができるといいもんだ」
「あぁ、そう……だな」

 カーレは火を焚き、ブライヴは花冠を荷物袋へと押し込む。
 狭間の世界はどうしようもなく壊れており、破滅へと邁進している。そんな中でも花を見て綺麗だなんて思える友人と出会えた奇跡が、今は喜ばしかった。
 そして願えるのならば、壊れていない世界でゆっくりと。何ら使命もなく、何ら誓約も無い旅をして二人で馬鹿騒ぎ出来る時が来てくれればいいなどと叶いもしない思いを抱いたりするのだ。
 過酷な狭間なのだから、夢を見るくらいの自由は許されてもいいだろう。

 瓦解した世界の片隅に、かつて半狼と呼ばれた骸があった。
 もはや骸は影もなかったが、何故か捨て置かれた花冠は枯れ果てたままずっとそこに残り今でも枯れたまま、朽ちずに捨て置かれているという。

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東吾
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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