インターネット字書きマンの落書き帳
輝きは、二つも必要がないから(ヤマムラとアルフレート)
ヤマムラとアルフレートが出る話を書きました!(元気な挨拶)
それまで自分の生きている理由なんて何もわからねぇぜ!
という、迷走する若者だったアルフレートが、ローゲリウスの言葉を受け啓蒙を得て、輝きに殉じてやるぜ!
そんな心意気いなったところ、パパみたいに優しいヤマムラさんと出会ってしまい、自分の心境の変化にえらく戸惑ってしまう。
そんな話ですよ。
俺は、ヤマムラさんとアルフレートくんが、だいだいだ~い好きッ……!
それまで自分の生きている理由なんて何もわからねぇぜ!
という、迷走する若者だったアルフレートが、ローゲリウスの言葉を受け啓蒙を得て、輝きに殉じてやるぜ!
そんな心意気いなったところ、パパみたいに優しいヤマムラさんと出会ってしまい、自分の心境の変化にえらく戸惑ってしまう。
そんな話ですよ。
俺は、ヤマムラさんとアルフレートくんが、だいだいだ~い好きッ……!
『焚き火と導き』
アルフレートが輝きを手にした時、それまで掃き溜めでしかなかった世界に初めて彩りを感じた。
かつて繁栄していた面影も朽ち、街には人の賑わいより獣の咆哮の方がよほど多かっただろう。
たまにマトモに見える人間も、やれ金色の髪は血族の証だ。あの翠の目は穢れた瞳だ。白く柔らかな肌は淫売により貪られ、清らな場所など一欠片もないのだと陰口をたたく連中ばかり。
腐り果てた医療教会の権威にしがみつき、他者を貶めることでしか自己のプライドを保てない惨めな連中しかいない街で、貶められるために生まれた存在として這いつくばって生きるのが当然と思っていたアルフレートにとって、ローゲリウスの残した言葉も彼の成そうとした事も全てが光に満ちていた。
それまで血と灰にまみれた汚い街が、幾分か色づいて見えたのはその頃からだ。
体にまとわりつく不愉快な獣の血も、瑞々しい鮮血の強い匂いと命が絶える瞬間の輝きを見いだすことが出来るようになっていた。
朽ちていつ倒れてもおかしくないような廃墟ばかりの街でも、血族の足取りをつかむ証拠の一つがあるのではと思えば、まるで宝箱のように輝いて見えた。
口から穢らわしい言葉を吐くだけの老いた狩人の言葉も、処刑隊の栄光を語る時はどんな黄金より価値のあるように思えただろう。
アルフレートは自分の人生が、ようやく始まったような気がした。
そして、これから輝きに満ちあふれ、何の疑問もなく光の道しるべをたよりに進んで行けばいいのだろうと信じて疑ってはいなかった。
『大丈夫かい、最近ずっとここにうずくまっているようだから』
いつものように師の栄光を称えた碑の前で祈りを捧げていたアルフレートの前に、粗末なグラスが差し出される。なみなみと注がれた赤ワインは獣の血が混じっていない上質なものでまだ暖かく、香辛料まで添えられていた。
異邦の狩人なのだろう。言葉はカタコトで辿々しいことから、アルフレートが祈りを捧げる碑の意味も知らなかったのだ。
「ありがとうございます」
この街にいる誰が血族のことを知るかわからないし、誰が無記名の招待状を渡されるかもわからない。そんな理由から、アルフレートは誰にでも親切に振る舞うようにしていた。
男からホットワインを受け取りそれをすすりながら他愛もない話をしたのも、情報を得るための処世術にすぎない。
だが、男はヤーナムに似つかわしくないほど善良な人間だった。
友の仇討ちのためヤーナムに入り、狂った血と冒涜の法に満たされたこの街で、憎むべき獣を探しているのだという。
『その獣を打ち取ったら、どうするつもりですか?』
ヤーナムの医療を受けたのなら、もうここから立ち去ることは出来ない。
血の医療とは、即ち呪いだ。ヤーナムという街に肉体も魂も縛り付けられる青白い鎖だ。 それに絡め取られたのだから、もう逃れる術などないのは男もわかっているだろう。
男はそれに返事をせず、ただ寂しそうに笑うだけだった。
それから、アルフレートは幾度もその狩人と顔をあわせ、いくつか話をするようになった。
男はヤマムラと名乗り、極東から来たのだと語る。 ヤーナムから外に出たことのないアルフレートにとって、ヤマムラの語る極東がどれだけ遠くにあるのかも、ヤマムラが見て来た山々や草木の話、鳥や動物の話、行き交う人々が商売に営む話など、どこまで本当なのか全く想像できなかったが、それでもヤマムラの話を聞くのは楽しかった。
彼の話が心地よいのは、ここではないどこかの、おとぎ話を聞いている気分に浸れるからだろう。
実際この街にいるのは目が8つもある醜悪な豚であり、しゃがれた声で鳴きわめく鴉であり、人の体を喰らうほど巨大な蜘蛛なのだから、ヤマムラの語る外の話が真実なのか、それとも世迷い言なのか判断はつかなかった。
だが、ヤマムラという人間が良き狩人であり良き隣人であるというのは、言葉を重ねるにつれ分かっていった。
『やぁ、アルフレート。腹は減ってないか。露店でとても美味しそうな鶏肉を焼いていたから、君の分も買ってきたんだ。良かったら食べてくれよ』
ヤマムラは、アルフレートに食べ物を差し入れすることが多かった。
それは焼きたてのパンだったこともあれば、今日のように熱々の鶏肉だったこともある。新鮮な肉といえば、獣の肉くらいしかないヤーナムでこのように普通の食材を分けようという狩人は稀だったろう。
『どうして、いつも食べ物をもってきてくれるんですか?』
食糧は貴重なものだ。
不思議に思ってそう、問いかけたことがある。
だがヤマムラは、そう聞かれる方が意外だとでも言いたそうな顔をした。
『どうしてって、キミはまだ若いだろう。沢山食べたいと思うし、その上狩人をしているんだ。空腹のせいで後れを取るなんて、いけないだろう』
アルフレートにとって善業に見える行為も、ヤマムラにとっては日常の延長でしかなかったのだ。 きっとヤマムラはそれほど恵まれた環境で育っていたのだろう。
お人好しというのは蔑まれるような環境では育めない才能なのだから。
『それに、キミは俺よりずっと若いからね。自分より若い人間は……死んでほしくないんだよ。俺くらいの歳になるとさ』
どこか哀しげに笑うのは、きっと多くの若い死を見送ってきたからだろう。
彼のそんな横顔を見る時、アルフレートの胸はチクリと痛んだ。
自分が望むのは死ではない、輝きだ。
それが分かっていてもどこか、ヤマムラを騙しているような気がしたからだ。
ある時、ヤマムラが一人でいるところを邪魔したことがある。
ヤマムラは泥のような色をしたスープを作っていた。
『やぁ、アルフレート。キミも良かったら、少し飲んでみるかい。俺の故郷でよく飲んでいたスープなんだけど』
そういって手渡されたスープはひどく塩辛かった。
塩味に慣れてないアルフレートにとって、血が塩になると思う程度にはひどい味だったろう。
『どうだい、おいしいかい?』
だが不安げにこちらをのぞき込むヤマムラを見て、おいしいと嘘をついたことに自分でも驚いていた。
『そうか、よかった。俺の故郷で日常的に食べているものなんだ。キミも、好きになってくれて嬉しいよ』
そうやって笑うヤマムラの姿を、どうしても見たかったからだ。
アルフレートが生きる理由として、ローゲリウスの言葉は間違い無く輝きだっただろう。
それと同じように、ヤーナムの街においてヤマムラという存在は輝きに見えた。
目立たず、傲らず、誰に対しても親切で、物腰も柔らかである。
アルフレートは意識して善意を演じていたが、ヤマムラはきっと性根が清らかなのだろう。
自分とは、生まれも育ちも違うのだろうから、穢れず生きることが出来ていたのだ。
あるいは、ここではない異国は誰もがそのように生きることができたのかもしれないが、もうそれはアルフレートには永遠にわからぬことだ。
ただ、日に日に思いは募っていく。
ヤマムラのもつ輝きは暖かく、それは道ばたで暖を取るのにちょうどいい、焚き火のような存在のように思えた。
だが、この輝きは自分の目指すものの前で、必ず陰りになる。
輝きは、二つもいらないのだ。
ヤマムラの得物が血族由来の武器だと知ったのは、丁度その頃だった。
ヤマムラが狩人であるのは知っていたが、彼が実際に狩道具の手入れをしているところなどに一度も立ち会ったことがなかったからそれまでは気付かなかったのだ。ヤマムラのような黒髪の男が血族と関係しているなど、思いもしなかったというのもある。
ヤマムラは血族の関係者なのだろうか。一体どのようにしてその武器を得たのだろうか。
理由はどうでもいいし、どうだっていい。
二つもいらない、輝きを一つ消す機会に恵まれた。
今はそれを喜ぶべきだろう。
そう思い愛用の狩道具を握るが、その力は驚くほど弱々しく、思うように力が出ない。
見知った仲間を断罪したのは一度や二度じゃなかったはずだ。邪魔だと思った相手を消すのに躊躇していたら、ヤーナムでは生き残れない。 頭でわかっていても、体が思うように動かないのは初めてのことだった。
「どうして……どうしてなんですか、どうして……どうして貴方は、私などを見つけてしまったんですか……」
絶え間なく霧雨が降る中、天を仰ぎアルフレートは一人呟く。
その声は、石畳の上にはねる雨音が全て消し去った。
その後。 血に酔った狩人の瞳を握り絞めたヤマムラが何処かに消えたのは、アルフレートにとって幸運だったのか、それとも不幸なことだったのか、今となっては知る由も無い。
アルフレートが輝きを手にした時、それまで掃き溜めでしかなかった世界に初めて彩りを感じた。
かつて繁栄していた面影も朽ち、街には人の賑わいより獣の咆哮の方がよほど多かっただろう。
たまにマトモに見える人間も、やれ金色の髪は血族の証だ。あの翠の目は穢れた瞳だ。白く柔らかな肌は淫売により貪られ、清らな場所など一欠片もないのだと陰口をたたく連中ばかり。
腐り果てた医療教会の権威にしがみつき、他者を貶めることでしか自己のプライドを保てない惨めな連中しかいない街で、貶められるために生まれた存在として這いつくばって生きるのが当然と思っていたアルフレートにとって、ローゲリウスの残した言葉も彼の成そうとした事も全てが光に満ちていた。
それまで血と灰にまみれた汚い街が、幾分か色づいて見えたのはその頃からだ。
体にまとわりつく不愉快な獣の血も、瑞々しい鮮血の強い匂いと命が絶える瞬間の輝きを見いだすことが出来るようになっていた。
朽ちていつ倒れてもおかしくないような廃墟ばかりの街でも、血族の足取りをつかむ証拠の一つがあるのではと思えば、まるで宝箱のように輝いて見えた。
口から穢らわしい言葉を吐くだけの老いた狩人の言葉も、処刑隊の栄光を語る時はどんな黄金より価値のあるように思えただろう。
アルフレートは自分の人生が、ようやく始まったような気がした。
そして、これから輝きに満ちあふれ、何の疑問もなく光の道しるべをたよりに進んで行けばいいのだろうと信じて疑ってはいなかった。
『大丈夫かい、最近ずっとここにうずくまっているようだから』
いつものように師の栄光を称えた碑の前で祈りを捧げていたアルフレートの前に、粗末なグラスが差し出される。なみなみと注がれた赤ワインは獣の血が混じっていない上質なものでまだ暖かく、香辛料まで添えられていた。
異邦の狩人なのだろう。言葉はカタコトで辿々しいことから、アルフレートが祈りを捧げる碑の意味も知らなかったのだ。
「ありがとうございます」
この街にいる誰が血族のことを知るかわからないし、誰が無記名の招待状を渡されるかもわからない。そんな理由から、アルフレートは誰にでも親切に振る舞うようにしていた。
男からホットワインを受け取りそれをすすりながら他愛もない話をしたのも、情報を得るための処世術にすぎない。
だが、男はヤーナムに似つかわしくないほど善良な人間だった。
友の仇討ちのためヤーナムに入り、狂った血と冒涜の法に満たされたこの街で、憎むべき獣を探しているのだという。
『その獣を打ち取ったら、どうするつもりですか?』
ヤーナムの医療を受けたのなら、もうここから立ち去ることは出来ない。
血の医療とは、即ち呪いだ。ヤーナムという街に肉体も魂も縛り付けられる青白い鎖だ。 それに絡め取られたのだから、もう逃れる術などないのは男もわかっているだろう。
男はそれに返事をせず、ただ寂しそうに笑うだけだった。
それから、アルフレートは幾度もその狩人と顔をあわせ、いくつか話をするようになった。
男はヤマムラと名乗り、極東から来たのだと語る。 ヤーナムから外に出たことのないアルフレートにとって、ヤマムラの語る極東がどれだけ遠くにあるのかも、ヤマムラが見て来た山々や草木の話、鳥や動物の話、行き交う人々が商売に営む話など、どこまで本当なのか全く想像できなかったが、それでもヤマムラの話を聞くのは楽しかった。
彼の話が心地よいのは、ここではないどこかの、おとぎ話を聞いている気分に浸れるからだろう。
実際この街にいるのは目が8つもある醜悪な豚であり、しゃがれた声で鳴きわめく鴉であり、人の体を喰らうほど巨大な蜘蛛なのだから、ヤマムラの語る外の話が真実なのか、それとも世迷い言なのか判断はつかなかった。
だが、ヤマムラという人間が良き狩人であり良き隣人であるというのは、言葉を重ねるにつれ分かっていった。
『やぁ、アルフレート。腹は減ってないか。露店でとても美味しそうな鶏肉を焼いていたから、君の分も買ってきたんだ。良かったら食べてくれよ』
ヤマムラは、アルフレートに食べ物を差し入れすることが多かった。
それは焼きたてのパンだったこともあれば、今日のように熱々の鶏肉だったこともある。新鮮な肉といえば、獣の肉くらいしかないヤーナムでこのように普通の食材を分けようという狩人は稀だったろう。
『どうして、いつも食べ物をもってきてくれるんですか?』
食糧は貴重なものだ。
不思議に思ってそう、問いかけたことがある。
だがヤマムラは、そう聞かれる方が意外だとでも言いたそうな顔をした。
『どうしてって、キミはまだ若いだろう。沢山食べたいと思うし、その上狩人をしているんだ。空腹のせいで後れを取るなんて、いけないだろう』
アルフレートにとって善業に見える行為も、ヤマムラにとっては日常の延長でしかなかったのだ。 きっとヤマムラはそれほど恵まれた環境で育っていたのだろう。
お人好しというのは蔑まれるような環境では育めない才能なのだから。
『それに、キミは俺よりずっと若いからね。自分より若い人間は……死んでほしくないんだよ。俺くらいの歳になるとさ』
どこか哀しげに笑うのは、きっと多くの若い死を見送ってきたからだろう。
彼のそんな横顔を見る時、アルフレートの胸はチクリと痛んだ。
自分が望むのは死ではない、輝きだ。
それが分かっていてもどこか、ヤマムラを騙しているような気がしたからだ。
ある時、ヤマムラが一人でいるところを邪魔したことがある。
ヤマムラは泥のような色をしたスープを作っていた。
『やぁ、アルフレート。キミも良かったら、少し飲んでみるかい。俺の故郷でよく飲んでいたスープなんだけど』
そういって手渡されたスープはひどく塩辛かった。
塩味に慣れてないアルフレートにとって、血が塩になると思う程度にはひどい味だったろう。
『どうだい、おいしいかい?』
だが不安げにこちらをのぞき込むヤマムラを見て、おいしいと嘘をついたことに自分でも驚いていた。
『そうか、よかった。俺の故郷で日常的に食べているものなんだ。キミも、好きになってくれて嬉しいよ』
そうやって笑うヤマムラの姿を、どうしても見たかったからだ。
アルフレートが生きる理由として、ローゲリウスの言葉は間違い無く輝きだっただろう。
それと同じように、ヤーナムの街においてヤマムラという存在は輝きに見えた。
目立たず、傲らず、誰に対しても親切で、物腰も柔らかである。
アルフレートは意識して善意を演じていたが、ヤマムラはきっと性根が清らかなのだろう。
自分とは、生まれも育ちも違うのだろうから、穢れず生きることが出来ていたのだ。
あるいは、ここではない異国は誰もがそのように生きることができたのかもしれないが、もうそれはアルフレートには永遠にわからぬことだ。
ただ、日に日に思いは募っていく。
ヤマムラのもつ輝きは暖かく、それは道ばたで暖を取るのにちょうどいい、焚き火のような存在のように思えた。
だが、この輝きは自分の目指すものの前で、必ず陰りになる。
輝きは、二つもいらないのだ。
ヤマムラの得物が血族由来の武器だと知ったのは、丁度その頃だった。
ヤマムラが狩人であるのは知っていたが、彼が実際に狩道具の手入れをしているところなどに一度も立ち会ったことがなかったからそれまでは気付かなかったのだ。ヤマムラのような黒髪の男が血族と関係しているなど、思いもしなかったというのもある。
ヤマムラは血族の関係者なのだろうか。一体どのようにしてその武器を得たのだろうか。
理由はどうでもいいし、どうだっていい。
二つもいらない、輝きを一つ消す機会に恵まれた。
今はそれを喜ぶべきだろう。
そう思い愛用の狩道具を握るが、その力は驚くほど弱々しく、思うように力が出ない。
見知った仲間を断罪したのは一度や二度じゃなかったはずだ。邪魔だと思った相手を消すのに躊躇していたら、ヤーナムでは生き残れない。 頭でわかっていても、体が思うように動かないのは初めてのことだった。
「どうして……どうしてなんですか、どうして……どうして貴方は、私などを見つけてしまったんですか……」
絶え間なく霧雨が降る中、天を仰ぎアルフレートは一人呟く。
その声は、石畳の上にはねる雨音が全て消し去った。
その後。 血に酔った狩人の瞳を握り絞めたヤマムラが何処かに消えたのは、アルフレートにとって幸運だったのか、それとも不幸なことだったのか、今となっては知る由も無い。
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