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インターネット字書きマンの落書き帳

   
重くて苦いチョコレートケーキ(みゆしば)
平和な世界線で普通に付き合っている手塚と芝浦という概念です。
(今日も元気だ1行で幻覚を挨拶となそう)

今回は、バレンタインデーにしばじゅんちゃんから手作りブラウニーをもらったみゆみゆの話だよ。
手作りケーキ……ブラウニー。
ブラウニーはケーキのジャンルでいいかな。OKいいだろう。ここではそのように処す。

バレンタインの話を今していいのかって。
とりあえず「俺のバレンタインは終わってないから別にいいだろ」という判断と「読む人が必ずしもバレンタインに読んでないだろ」という判断でこれでよいとおもいます。

みゆしばに興味は?
今日から興味をもてよ!




『少し重く苦いケーキ』

 手塚はテーブルの上におかれた包み紙を見た。
 丁重にラッピングされているその中には日芝浦が置いていった手作りのチョコレートケーキが
入っている。
 厳密に言えばそれはブラウニーと呼ばれる種類のケーキなのだが普段から甘いものをあまり食べない手塚にはそんな区別はついていない。だが芝浦がバレンタインの日に手作りだといって置いていったその意味は理解していた。

『特別な意味とかじゃなくてさ。たまたま、うちに来てるお手伝いさんが息子さんにケーキ作るって聞いて面白そうだから作り方を教えてもらっただけだから』
『手作りとか重いよなーってわかってるけど、せっかく作ったからやっぱ食べて欲しいかなーって』
『あんまり味が好みじゃなかったら捨ててもいいから! そこまで深い意味はない奴だからさ』

 芝浦は散々と言い訳をして置いていったが、自分のために手作りをしてくれたというのは明らかだった。
 普段から虚言とブラフで生きているような男なのにこういう時の嘘は下手なのが芝浦という男なのだから。
 あるいは嘘だと気付かせるためにそういう態度をとっているのかもしれないが、自分のためにしおらしく恥じらうような演技をしているのだとしたらその策に乗ってやりたくはなる程には見事な演技だろう。

 それに、ケーキの名前に疎い手塚でもお菓子作りは体力勝負である事や専門の料理道具を使う必要があるという事をよく知っていた。レシピ通りにきっちりと作るという方が変にアドリブを利かせるよりも得意な性格の芝浦でも簡単にできる事ではなかったろう。負けん気が強く努力家な所もあるから、きっと綺麗に焼き上がるためにいくつか練習をしていたはずだ。

 芝浦は『捨ててもいい』と言ったのは手塚が普段からあまり甘いものを好んで食べないからだろが、手作りのケーキを渡す事で重い奴だと思われるのも嫌だったということ。普段から甘いものを食べない手塚がと受け取ってくれなかったらと思った予防線の意味が強かったに違いない。

 芝浦が嫌がるような事を言うつもりなど最初から無いのだが、拒絶されるのがよほど怖いのだろう。彼は時々ひどくおびえたようにこちらの顔色をうかがうような仕草を見せる。
 ただ一言でも「愛している」と伝えればきっとそんなにも怯えた顔は見せないのだろうが、上目遣いになり手塚の様子をしきりに気にする姿は酷くそそられるものがありついそれを言いそびれてしまうのもまた事実だった。

 手塚も芝浦のことを愛しているし慈しみたいと思っているが、時々見せる怯えた顔にすこぶる興奮する性質はどうしたって止められない。これが本性だから仕方ないのだろう。
 まったく、芝浦もひどい男に捕まったものだ。手塚はどこか他人事のようにそんな事を考えつつ丁重に施されたラッピングからチョコレートケーキを取り出した。
 その手にずっしりと重い感覚がある。
 あまり大きなサイズには見えなかったが思ったより質量のあるそのケーキは、軽薄そうに見えてひどく重い愛を抱く芝浦自身のようだった。

 斜に構えている癖に純粋で、薄っぺらいようで重い芝浦の不器用な愛し方はどこか彼自身を思わせる。 傍から見ると面倒な男にしか思えないだろうが、手塚はそんな彼の事が何よりも可愛くそして愛おしく思えた。

 つまるところ手塚と芝浦は似たもの同士なのだ。
 お互い重たい感情で相手を縛り続けなければ愛されていると実感できない。そんな愚かな人間なのだ。

 ケーキを切りとひとかけらだけ口に入れればかすかな苦みと深い甘みが一杯に広がった。
 生焼けという訳でもない。店に出す程とは言えないが手作りとして充分に美味しいだろう。
 手塚と会った時は自分で家事をした事もないようなお坊ちゃんだったのに、今では立派な菓子を焼き上げるまでになったのだ。
 その行為がすべて手塚への好意からというのもまた嬉しい。

 美味しかったと伝えるためにメールをしようと携帯電話を手に取るが、すぐに思い直して芝浦へと電話をした。
 数度コールを鳴らした後、すぐに芝浦の声がする。

「あれ、どうしたの手塚。電話って珍しいね」
「そうだな。今もらったチョコケーキを食べたんだが……」 「
チョコケーキというかブラウニーね。って、食べてくれたんだ。何か、その。手塚そんなに甘いもの好きじゃないから食べないのかなーとか思って……」
「美味しかった……メールでも良かったんだが、どうしても言葉で伝えたくてな。ありがとう」

 普段能弁な芝浦の言葉を詰まらせる。
 言葉の意味を計りかねているのだろう。普段あまり手塚はそんな言葉を告げる事がないから驚いているというのも大きい。

「いや、その。ありがとうって。別に、ほんとついでに作った奴だし。手塚のためとかじゃないし。ちょっと腹の足しになればくらいのやつだからそんな、お礼とかっ」

 芝浦は早口でそうまくしたてていたが最後に消え入りそうな声で。

「……マジで嬉しい」

 ひとこと、そう呟くように言ったのが確かに聞こえる。
 何て愛しいのだろうと思う。何て可愛い奴なのだろうとも。
 だが芝浦は酷く恥ずかしがり屋のところがあり自分自身でそれを認めようとしないひねくれ者だから茶化せばきっと気を悪くするだろう。
 そんなところが可愛いと言えば真っ赤になって恥ずかしがるに違いない。

「それじゃ……今度あらためて、礼を言わせてくれ。また、俺の家で」
「うん……また、遊びに行くから」

 手塚はそう伝えると電話を切る。
 嬉しいと、愛してると伝えれば喜ぶのはわかっていたがそれは直接会ってからにしようと思ったからだ。

 その理由は少なからず目の前で赤くなり、それでも幸せそうに笑う芝浦の姿を独り占めしたい。そんな独占欲ばかり募る自分は「重い男」だろうがそれを嬉々として受け入れる芝浦もまた同じような男なのだろう。

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