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インターネット字書きマンの落書き帳

   
学生時代にいい感じで付き合っていた風の黒ガス概念(BL)
劣等感やら自暴自棄やら。
そういうグチャグチャな感情手に入れたいじゃーん!(挨拶)

という訳で、学生時代の黒沢×山ガスの話をしたいので……書きました。
話としては昨日かいた この話 の翌日をイメージしてます。
この話は、家庭環境に問題のある山ガスですけどね。

漠然と黒沢に憧れをもってる山ガスと、山ガスにあまり無茶してほしくない黒沢の話ですよ。

とてもラブラブに書けたと思います♥


『零れる、あるいは溢れる』

 山田が目を覚ました時、見覚えのないソーシングライトが目に入り一瞬驚いたが、すぐに昨夜の出来事を思い出し深いため息をついた。

 ショットバーで飲んでいたら、近くの席に座った男が気に入らない話題で騒ぎ立てた。
 女がどうしたとか、風俗遊びの是非についてなど山田にとって何が面白いか全くわからない自分本位の自慢話に嫌気がさして

「あーあ、頭の悪い奴ってどうして声ばっかデカいんだろ。デカい声を出したら優勝とか思ってんのかな。ダッサ」

 独り言の体裁で呟けば、そばで飲んでた男の手が止まる。
 男は山田を威嚇するようテーブルを叩いて立ち上がると、ズンズンと近づいてきた。顔が真っ赤だったのは、酒に酔ったせいだけではないだろう。

「何だお前、嫌な目つきして……」

 すっかり酒に酔っていたからか、男の呂律は回っておらず何を言っているか聞き取りづらかったが、ようするに腹が立ったということと、山田の発言が気に食わないということ、そして誠心誠意謝れば許してやるということを、全く謝る気にならない下品な語彙と口汚い喋り方でまくし立た。

 真っ赤な顔して、目を丸く見開いて、歯をむき出しにしいまにも噛みつきそうな顔は、ちょうどネジを巻けばシンバルを叩く猿のオモチャを連想させたものだから、山田はつい笑ってしまう。

「はぁ、ばっかみたい。僕みたいなガキの言葉真に受けて、そーんなに怒っちゃってるとか大人げないんじゃなーい? オジサン、もう立派な大人なんでしょ? ガキの言うことを真に受けてゴリラみたいにイキんないでよ。それともアレ? 僕みたいなガキの言葉が図星だったとか。だとしたら、ウケるんだけど。たかが学生に論破される社会人とか、人間性も社会性もゴミだって認めるようなもんでしょ」

 男はますます顔を赤くし、山田の襟首を掴むと勘定だけはしっかり済ませてから仲間とともに路地裏へ連れ去る。
 男と一緒に話していた仲間たちは、とても男の話を楽しんでいたとは思えずしらけた様子で聞いていたが、それでも男が喧嘩をする時、やってられないとその場を離れられるような立場でもなかったのだろう。
 山田は逃げないように押さえつけられ、散々と殴り倒された。

「弱いくせに妙な口なんか聞くんじゃねぇ!」

 唾を吐いて立ち去る男の姿を、山田はずっと録画していた。
 別に、警察に行く必要はない。今までの所業をずっと録画していたのだ。山田が喧嘩をうるような発言はカットするが、それ以外の所なら人前で風俗自慢をするウザい男を注意したら逆ギレして暴行に走ったという動画になる。

 これをネットに流すだけで、あいつは社会的に終わるだろう。

「オッサンもさ、ネットに疎いクセしてイキった真似あんまりしないほうがいいっての。最近は、悪しきを罰する正義の人ってインターネットには多いんだからさ」

 山田は録画がきちんと撮れているのを確認すると、誰に聞かせるでもなく呟いた。
 身を挺して作った犯罪動画なら、中々に数字もとれるだろう。男はどこかの社員らしいバッジもしていたし、店の位置からある程度職場も絞れる。
 この動画を流すだけで、自称・正義の人が集まり男の情報を色々と漏らしてくれるに違いない。そうしてぱっと広がった勢いのまま、男は散々糾弾され一ヶ月もすれば職場にいられなくなるのだろう。

 5Sになってから今まで、そういった活動は何度もしてきた。
 殴られ、蹴られ、時にはアバラにヒビが入るような大怪我をしたこともあるが、それでもあの手の我欲が強く、自分の機嫌すらコントロールできず、大声で他人を威嚇し萎縮させ、それで解決できない相手には暴力と蛮行で黙らせようとする輩が社会的に潰されると思うと喜びのほうが遙かに勝ったのだ。

 だが、今回は少し殴られすぎたか。
 何とか黒沢のマンションに転がり混むことができたが、ソファーの上に倒れて傷を冷やしているうちにそのまま眠ってしまったようだ。
 窓から日差しが差し込んでいるあたり、時刻はもう昼頃だろう。横になってぼんやりしていたのはまだ夜の10時頃だったから、思いの外長く眠ていた。

 しまった、今日は学校で何の授業をとっていたか。
 腫れ上がった瞼のせいで普段より視野が狭くなっており、傷が熱をもっているせいか頭もぼんやりする山田の頬に、冷たい缶が押し当てられた。

「つめたっ!」

 つい、素で反応してしまう山田の前に現れたのは黒沢だった。
 山田と視線を合わせるよう座ってこちらを見る。片手には冷たいビールを持っている。今さっき山田の頬に押し当てられた缶はきっとこのビール缶だろう。

「よぉ、起きたか山田。眉崎から聞いてるぜ。昨日、顔腫らしてここに転がり混んできたんだってな」

 この部屋の借主は黒沢だが、普段黒沢はここに住んでいない。歓楽街と大学の近くにあるマンションは、黒沢が5Sとして活動するため、メンバーが集まるために借りた部屋だ。どのメンバーも自由に出入りできる場所で、普段は次の動画の企画会議や編集作業などに使われているのだが、山田は怪我をした逃げ場として。眉崎は近くホストとして働く店があるため、特に意味のない日でも出入りしていた。

 だが、黒沢が顔を出すのは珍しい。
 それでこそ、会議の時は編集作業の時など、5Sの活動のために来る時以外はほとんどこちらの部屋には来ないからだ。
 どうして黒沢がここに。
 不思議に思いながら身体を起こせば、黒沢は山田の隣に座るとビールを開けて差し出した。

「ほら、飲めよ。どうせもう、今日は学校なんか行かないだろ。その顔で学校行ったら、何言われるかわかんないもんな」

 黒沢はおどけた様子でそう言うと、ゆっくり立ち上がる。
 そして山田の前にナッツやチーズ、サラミなどビールのつまみになりそうなものを並べ、自分もビールを取り出した。

「ほら、乾杯しろ山田。かんぱーい」

 黒沢はビール缶を開けると、乾杯のつもりなのか山田の前に置かれたビールを底のほうでコンとぶつけてから、ビールを呷る。
 飲み込むたびに喉仏が上下し、黒沢の首から少し開いたシャツの隙間より彼の鎖骨が浮かんで見えたので、山田は何となく気恥ずかしくなり目をそらし、自分用に開けられたビールを舐めるように飲み始めた。

「てかさ、黒沢サンなんでこんなところにいるの? 普段、コッチにあんまり来ないよね」
「だから言っただろ、眉崎から聞いたって。喧嘩でボロ負けして顔腫らしたって言うし、連絡もないしで死んだんじゃないかと思って確認に来たんだが……」

 と、そこで黒沢は山田の腫れた瞼に軽く触れる。突然触られつい「痛い!」と声をあげれば、黒沢は満足げに笑って見せた。

「痛がる元気はあるようだな。安心したよ」
「なにそれ……ってかさ、黒沢サン。僕が怪我したの知ってるなら、ビールのお土産ってないんじゃない? 口の中も結構切れてて、アルコールってメチャクチャ染みるんだけど?」
「アルコールで消毒したら早く治るだろうと思ってな」

 ムチャクチャな言い分ではあるが、山田のことを心配して来てくれたのは本当なのだろう。
 黒沢はビールを飲み干すと、救急箱を持ちだして山田の傷を丁寧に見る。

「瞼は結構腫れてるな。青あざになってる部分はガーゼで保護しておくけど、これ段々と色が下に落ちてくるからな。動画の時、メイクで消えるかどうか……」
「ん、別にいいよ。アザになってるところは、仮面でもつけて誤魔化しておくから。あるよね、なんか顔の半分くらい隠せるマスク」
「ヴェネツィアマスクみたいなのか? お前はしょっちゅう怪我をしてくるからな……いっそマスクでも被ったらどうだ。覆面レスラーみたいでいいんじゃないか」
「やだよ、レスラーみたいに強靱な身体ってわけじゃないし。どうせなら、ガスマスクにしようかな。インパクトあるよね。僕の顔って地味だから、そういうほうが面白いかも」

 と、そこで山田は昨日とった動画のことを思い出し黒沢へ差し出した。

「そうだ、昨日僕を散々殴ったオッサンの動画、ガッツリ撮っておいたよ。話してた愚痴とかから、会社の特定も出来そうだし。上手く編集すれば、社会的に殺せちゃうんじゃない? タイトルは、そうだな……令和の古代生物! 風俗遊び自慢のイキり男の正体は! なんてノリで、視聴者に男の正体特定してもらうように煽れば、きっと数字出ると思うんだよね」

 早口になっているのは、興奮しているからだろう。
 か弱い存在として散々殴られる苦痛の後にある、正義の鉄槌というカタストロフを体験するために、山田は率先して身を差しだし、傷と痣に包まれても笑っていられるようになったのだ。

 視聴者の怒りを煽り、正義感を昂ぶらせる動画はウケが良く数字もとれる。
 黒沢もきっと喜んでくれるだろうと思っていたのだが

「……山田。いつも身体張ってくれて嬉しいんだけどな。もう少しだけ、自分を大事にしてくれないか?」

 思わぬ言葉を前に、山田は唖然とする。
 今まで黒沢から突き放されるような言葉を受けたことがなかったからだ。

「えぇっ? 何でそんなこというのさ。黒沢サン、いつもこういうの喜んでくれたよね? 黒沢サンと僕で……5Sのみんなで、社会にはびこるエラそうな奴とかムカつく奴に鉄槌を与えるって、法で裁くのが無理だったり、警察が放っておいたりする事件をさぁ! 僕たちで暴いて、煽って解決するって……そういうの、やるのが5Sの使命だっていって、僕のこと引き込んだよね?」

 黒沢に見捨てられたくない。認められたい。笑っていてほしい。そうだと受け入れてほしい。
 自分の正義を、黒沢にだけは否定されたくない。
 その思いが山田の内にある強く根深い劣等感を刺激していたことに、山田自身も気付いていなかっただろう。

「待ってよ、黒沢サン。僕のこと、そういう風に否定しないでって……僕さ、頑張るから。だから、僕を……」

 僕のことを見捨てないで。
 最後の言葉は恐ろしくて口に出すことすらできなかった。口にして否定されたら、きっともう立ち直れないと思ったからだ。
 黒沢は両手を組むと、山田の言葉をじっと聞いていた。

「山田。お前は本当に、感情が昂ぶると自分でも制御できないほど能弁になるよな」
「ご、ごめん黒沢サン。でも……」
「心配しなくても、お前を否定するつもりはない。俺はただ、その……何というんだろうな」

 黒沢はゆっくり立ち上がると、まだ腫れて熱を帯びた山田の瞼に唇で触れる。
 ただ触れるだけの挨拶のようなキスだったが、それでも山田を動揺させるには充分dぎるほどの効果があった。

「なぁっ、なっ、何するの黒沢サン!」
「いや、その……お前には、あまり無茶はしてほしくないんだ。俺は、怪我をして痛々しいお前の姿なんてあまり見たくはないからな」

 思いも寄らぬ黒沢の言葉に、山田は自分の顔が熱を持っているのに気付く。
 憧れていた黒沢が、そんなことを思ってくれていたのか。
 喜びと照れくささの入り交じった感情が胸の中に渦巻くが、素直にそれを受け入れることがどうしてもできない。

 どうせからかっているだけだ。自分は誰かに大事にされるほどの価値はない。ずっと家族からも疎まれてきたのに、どうして黒沢のようなエリートが認めてくれるというのだ。

「えー、そんな甘いこといって、僕のこと騙してる?」

 照れ臭さと、生来の猜疑心から試すようなことが口から出る。
 違う、素直に嬉しいといえばいいのに。言ってから内心後悔するが、黒沢はさして気にする様子は見せなかった。

「騙してはいないさ。ただ……うん、そうだな。俺が誤解されやすい性格だというのは自覚している。腹を見せないように見えるようだからな。お前が信頼する方法で、親愛を示すってのはどうだ?」
「それって、何でも言うこときいてくれるってこと?」
「そういうことだ。さ……俺に、どうしてほしい?」

 山田は少しだけ考えると

「……僕とキスしてくれる。そうしてくれたなら、本気だと信じてあげる」

 悪戯っぽく笑う。
 きっと嘘なのだ、冗談なのだから何を言ってもいい。黒沢なら笑って受け流してくれるだろう。

 そう思っていた山田の唇に、黒沢の唇が触れる。

「黒沢さっ……」

 言葉を遮るように重ねられた唇から、さらに声すら封じるよう舌が絡まる。
 思わぬ情熱的なキスを前に狼狽えすぎて肘が缶ビールに当たり、中身が床に零れているのすら気にする余裕はないまま舌が絡まり唇を貪るようなキスが続いた。

「……信じてくれるか?」

 キスの最中、僅かに笑う黒沢を前に、山田はただ何も言わず必死に縋り付き唇を求める。
 嘘じゃない。自分の思いも、黒沢の言葉も。
 今まで一度も得たことがない幸福が、からっぽの器に注がれるような気がして、山田はただ嬉しかった。

 そんな彼らの隣で、倒れた缶は床に落ち零れたビールはラグマットを汚していた。

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プロフィール
HN:
東吾
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非公開
職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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