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インターネット字書きマンの落書き帳

   
永遠に輝く記憶と生誕。(エメトセルクとヒカセン)漆黒5.3ネタバレ
タラニスくんの中の人が誕生日だったので、そのプレゼントとして。
タラニスくんに「ハッピーバースデー」をいうエメトセルクの話を書きました。

うちよそでさえない「よそNPC」です!

内容としては漆黒5.3が終了した事前提ですので、漆黒5.3以後のネタバレがあります。
漆黒を走りきってない人は見ないであげてください。

タラニスくんは、銀髪細面のエレゼン男性。
メインジョブは竜騎士で、最初は冒険というものに憧れを抱いていたけれども漆黒を過ぎる頃にはすっかり「英雄とは」という者の考え方が変わってしまった……。
みたいなキャラ立ちになっております。

タラニスくん@やぶろさん、お誕生日おめでとう!
なおこの文章は誕生日から二日遅れで掲載されていますが、俺が祝いたい日が誕生日だよ!




『その魂が欠片となって舞い散り』

 皆は俺の事を英雄と呼び讃えるものだから、俺はいつもそれに笑顔で答えていた。
 別段無理にそんな事をする必要はないと頭ではわかっている。
 俺だって人間だ。時には笑顔になれない程に苛立っている時や落ち込んでいる時、泣き叫びたくなるほど感情が揺さぶられた時などだってあるのだから。
 だがそんな時でも「英雄」と。あるいは「解放者」と呼ばれれば無意識に笑顔になっていたのは、平和を与えてくれた俺への感謝を込めての呼び名であるのは誇らしかったし、争いから解き放たれた民の柔らかな表情を見ると嬉しかったのもあっただろう。

 だがそれでも心のどこかでそんな自分がどこか他人のように思える事が最近は増えてきた。
 英雄という賛辞も解放者の呼び声も全て耳を通り過ぎていき、まるで実感がないのだ。

 グ・ラハ・ティアもまた、俺を英雄として憧憬を浮かべそれを標(しるべ)として歩み、生きてきてくれていた。

 彼と出会った頃、俺はすでに光の戦士と呼ばれていたが俺自身がまだ冒険者として未熟だと思っていたから英雄という言葉にまだ憧れがあった。
 あんな別れ方をしたから、「もし彼が目覚めた時、歴史に残るような英雄になれていたら」なんて希望も抱いていたのも事実だ。
 あの頃の俺は強くてたくましくどんな困難にも負けず誰からも慕われ愛される、何不自由ない神のような存在が英雄だと思っており、そのような人間になりたいという漠然とした希望を抱いていたのもあったろう。

 だが現実はどうだ。
 俺をかばってオルシュファンは死んだ。俺のために最大限の力を貸し、何ら見返りを求める事なく俺を盟友(とも)と呼び信頼してくれた。
 この関係が永遠に続くのだと思っていた俺は、いつか彼の役に立てる時があったら同じようにしてやろうと甘い空想に浸っていたが永遠にそれが叶うことはなかった。

 竜詩戦争は終わり、イシュガルドは平和になった。

 今のイシュガルドは戦争用の兵器であった砲台の類いも無用の長物となり兵器とは別の利用法がないか模索されている。
 争いのため荒れ放題だった国も復興に向かい、戦争で家を失った者や孤児たちが住める地域もできている。
 貴族と平民に差異は無く、民衆の代表が街を納めるという形にし新たな政治を模索している。
 古い慣習から抜け出し新たに歩み出したイシュガルド。
 だがそれを、オルシュファンはついぞその目で見る事はできなかったのだ。

 ほかでもない、この俺のせいで。

 守りたいと思って手を伸ばしたが届かなかったのはそれ一度だけではない。
 イゼルやヨツユの心にもっと寄り添う事ができれば彼女たちが蛮神として命を賭す事などなかったのかもしれないし、アラミゴ開放の時だってそう。自分がもっと注意を向けていれば助かっていた命もあったはずだ。
 いつだって、守りたいと思ったものはその指の間をすり抜けて俺だけが生きている。

 英雄だとかいわれるが実際の俺はそう、ただほんの少しだけ運が良かっただけだろう。
 たまたま「死」が隣をかすめていき、ほかの誰かが変わりに死んだだけ。運良く難を逃れただけでありその偶然がいくつも重なってきただけにすぎない。
 俺はどこまでもただの人間であり、何てことのない冒険者なのだ。

『あなたが自分の事をいかように思っても、あなたが私の光であり縁(よすが)であった事に変わりはないよ』

 水晶公はそう言ってくれた。
 俺は君が思っているような英雄ではない。そう言ったつもりはないが態度に出ていたのかもしれない。

 彼の思いに嘘はないのだろう。
 長く生き、クリスタリウムという街を統治してきたのだから「英雄」という名の持つ重荷もまたわかった上で受け入れてくれたのだろうとも思う。

 だがやはりどうしても、思ってしまうのだ。
 俺は果たして英雄なのかと。
 ただ人より死ぬのが下手なだけで、人より殺すのが少しだけ上手かった、そんな化け物なのではないかと。

『俺とおまえは同じだ、友よ』

 ゼノスは執拗なまでに俺を「友」と呼んだ。ゼノスと俺とは世界でも数少ない同胞だと。同じように力を持て余し破壊を好む同類だと。
 俺はあいつと違うと、激しく心が拒絶する。あの激しい拒絶は今思ってみれば俺自身がそれを認めたくないだけだったのだろう。
 化け物である自分と向き合いたくなかっただけで、本当はあいつの言う通り化け物なのかもしれないのだから。

『あと一歩進めれば……あいつに勝てるなら……』

 アルバートが背を押してくれた時に立ちあがれたのは、俺の目の前でこぼれ落とした命を少しでも拾いたいと思ったからだ。
 第一世界で出会った人々が背中にあると思えば、どうして退く事ができる。俺のような男でもこの体が朽ち果ててもただ一太刀浴びせられてそれで世界が救えるなら俺の命なんて安いものだ。
 そうして必死に立ち上がり力を振り絞って向かった先にも安寧の死はなく、ただ「エメトセルクを殺した」という事実だけが残る。
 また俺は死に損なったのだ。

 エメトセルク。
 彼もまた、その背に数多の同胞たちの影を背負い生きてきた。その数多の命のために一歩だって退く事はできなかった。
 お互いに譲れない命。譲れない世界のために戦ったのだからそれに関してお互いを責める事はできないだろう。
 そうだとしても、完全に割り切れたワケではない。
 エメトセルクたちアシエンは俺たちにとって「悪」だ。「侵略者」だ。その手にかかり死んだものは山ほどいる。運命を狂わされたものはもっと多いだろう。
 だがエメトセルクが「悪」だったのか聞かれるととたんにわからなくなる。
 彼は悪人だったろうか。
 善人とはいえないだろう。だが彼の世界、彼の規律の中で彼の行動を「悪人だ」と決めつけるのは違う気がする。

 彼は同胞のために戦い続けた。その決意が揺らぐ事はなかったよのだから。

 その点でいえば俺もほとんど同類だ。
 いや、エメトセルクと違い「同胞を殺す」という行為に手を染めてない分、俺の方がよほどに汚れているかもしれない。
 俺がこの手にかけてきた「人間」は数多い。
 冒険者家業として悪漢を相手にした事は少なくないし、教皇や鉄仮面も心を悪しきものに売り渡したとはいえ元々は人間だ。
 俺は多くの人間をも殺してきたのだ。

 ……やはり、どう考えても俺は英雄と呼ばれる器ではない。
 そう呼ばれるにしてはあまりに血が流れる道を歩みすぎたし、俺自身もまた自分の体に染みついた血の臭いが強すぎるように思っていた。

 そもそも俺は英雄の器などではないのだ。
 泣き叫びたい程に悲しく呻きもがく程に辛い事ばかりをこの身に受けて耐えられぬような弱い弱い人間なのだ。
 こんなにも英雄に向いてない俺より、もっとずっと英雄に向いている人物はいただろう。

 例えば俺のことを相棒と呼び良き仲間でいてくれる蒼の竜騎士エスティニアンであれば。
 あるいはラウバーンの養子にして右腕であるピピンであれば、あるいは。
 あるいは……。

「何だ、だからおまえは英雄から逃げ出したいとでもいうのか。まったく、馬鹿馬鹿しい。ほかに適任がいるだと? そんな事今更いっても詮無いことじゃぁないのか。やれやれ……こんな意気地なしに負けたとなると、つくづく自分のふがいなさにあきれるものだ。これも年を取り過ぎたせいかね……」

 そんな俺の耳に、聞き覚えのある声がする。
 いや、正確にいうのならそれは声ですらない、奇妙な音が震えるだけにも思える。 だが俺はその声を知っていた。
 どこか気怠げで達観し投げやりにも見えるが、その口ぶりとは裏腹に何も捨てるもできず全てを背負って飲み込んだ男……エメトセルク。
 いや、ハーデスの声だ。

「まったく、つい最近に『忘れるな』と告げたはずなのに、その矢先にもう生まれてくるべきでは無かったみたいな顔で落ち込むとは。やっぱり貴様らは不完全な奴だな。どうしてその程度の力で我らに打ち勝つ事ができたのか……まったく、理解しがたい力というのを持っているもんだ。理不尽な奴らだ」

 どうして、どうしてここへ。
 疑問を口にする前に、エメトセルクその影はこちらを見据えた気がした。その姿は見えない。声もただそのように響いているだけだ。
 存在していないのだが、そこにいる。確かに近くにいる。その気配だけを頼りに俺は闇を見据える。

「どうして、か。そうだな……いや、おまえ自身忘れているのか? 今日が何の日か……」

 エメトセルクに言われて、俺はようやく思い出した。
 今日は……そうだ、誕生日だ。俺の生まれた日だ。いろいろあってすっかり抜け落ちていたが……。

「誕生日、だけど……今更祝われてもな……」

 エレゼンは成長期を過ぎると一気に背が伸び大人になるが、そこからまた年齢が少し留まるようなところがある。
 ヒューラン族やミコッテ族(第一世界ではヒュム族、ミステル族か)とは違い、年々の変化に乏しいためどうにも誕生日はおろそかになりがちなのだ。
 俺のそんな気のない様子を、エメトセルクは頬杖をつき眺めているように見えた。

「いやはや、誕生日なんて覚えているうちが花だぞ。長生きすると、1年が1日とほとんどかわらず生まれた月日なんてのを祝う気にもなれん。最もその点では永遠に生きていた我らは元々、それを祝う習慣なんてなかったとも言えるが……」
「だから祝ってくれるっていうのか? おまえが? ……おまえにとって俺こそが、生まれて来ない方がよっぽど良かった存在ではないのか?」
「ふん……こちらからすれば、この分断された世界そのものの誕生が忌々しいものだ。が……私個人の話をするのなら。そうだな……」

 エメトセルクは一瞬顔を伏せ、目を閉じる。 だが再び前を向いた時、彼は穏やかに。どこか懐かしむように目を細めて笑っていた。
 姿は見えないけど彼の笑顔がはっきりと目の前に浮かんできたのだ。

「……生まれてきてくれて良かったと、そう……思っている。おまえという存在に出会えて。おまえという存在が、私を留めてくれて良かったと、な……」

 それは懐かしい親友を見るような優しい口ぶりであり、その中に一切の怨み辛みや皮肉の類いは感じられない。
 本心から俺を。そして俺たちがこれからを生きるこの世界を祝福してくれるように思えた。

「さてさて、英雄サマはもっと沢山の者に祝福されるべきだろう。ふてくされてないでさっさと行ったらどうだ?」

 エメトセルクの気配が急激に薄れていく。
 同時にうっすらと理解した。これは夢か、あるいは夢と現実の狭間だ。その狭間で彼の残渣がささやいてくれたのだろう。

「あ、ありがとう、エメトセルク……いや、ハーデス!」

 その言葉に、エメトセルクは手を頭でひらつかせる。

「……ハッピーバースデー、アゼム。いや……タラニス」

 その言葉は彼方から聞こえ、その姿は湯に落とした氷のように跡形もなく消えていく。
 だが俺はそれでも嬉しかった。

 生まれてきてくれてよかったと。
 同じような境遇から逃げる術がなく、全てを背負い生きる道を選んだ同胞から。そしてかつて「魂の盟友」であった存在から祝福されたというそのことが。

 エメトセルクは「覚えていろ」といった。「忘れるな」とも。
 だが永遠に変わらぬ記憶など、人づてではいずれ形も色も変えてしまうものだ。

 もし永遠があるのなら、それは今この瞬間。
 俺の中にあるこの刹那こそが永遠に輝く記憶となるのだろう。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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