インターネット字書きマンの落書き帳
幸福な終わりというもの。(模造リュータ)
もしもの世界の話をするのが二次創作の醍醐味!
という訳で、今回は佐木竜太のはなしを書きます。
今回の佐木竜太は、自分自身も世界のすべてもどこか作り物のように感じていてビデオカメラから覗く世界だけが唯一、世界を実感できるような性格だったとしたら……。
他人にも自分にも世界にも興味がなかったのに、センパイに興味をもった時から自分の中で何かがかわった……。
そんな佐木くんの話ですよ。
ちょっとメタな感じの話ではあります。
内容は、基本的に竜太視点の一人語りですよ。
という訳で、今回は佐木竜太のはなしを書きます。
今回の佐木竜太は、自分自身も世界のすべてもどこか作り物のように感じていてビデオカメラから覗く世界だけが唯一、世界を実感できるような性格だったとしたら……。
他人にも自分にも世界にも興味がなかったのに、センパイに興味をもった時から自分の中で何かがかわった……。
そんな佐木くんの話ですよ。
ちょっとメタな感じの話ではあります。
内容は、基本的に竜太視点の一人語りですよ。
『あなたが見つけてくれた世界で』
子供の頃からボクは世界のすべてに疎外感を覚えていた。
空も海も、家族も友達も何もかもが作り物のように思えいてそれは自分さえも例外ではなかったのだ。
ボクの意思は本当にボクのものなのだろうか。
普段からそんな事ばかり考えているボクを、両親は別に特別視しなかった。子供の頃というのは空想に身を委ね現実を正しく見据えるだけの力をつける時期だから、ボクのそんな考えも夢想の一つと捉えていたんだろう。
自分が自分ではないような気がする。
あるいは、自分を正しく「佐木竜太」という一個の人格として認識出来ない。
そんな悩みを弟にこぼした事もある。だが弟はあっけらかんとした表情で笑うと「兄さんは頭がいいなぁ」なんて関心したように言うのだった。
弟はボクよりずっと現実主義者で楽観的で人間らしかったのだからその反応は当然だろう。普通は弟のようにあまり深く考えることなく日々を過ごすものなのだ。
だがボクはその普通のことが、どうしても出来ないでいた。
ボク自身がボクという存在を認めようとしなかったのだから、当然ボクは空虚だった。
誰に対しても適当に、あるいは妥当に付き合い目立つことはせず過ごす。
とりわけて問題のない、平穏な学園生活を。普通の子供時代を送っていたと言えただろう。
だけどボクは自分のなかにある虚(うろ)をいつも隣に感じており、空しさばかりを覚えていた。
そんなボクが巨大な虚を忘れられたのは物語の中だけだった。小説に没頭している時だけは、現実を忘れられるからだ。
特に好きなのはミステリ小説で、おおよそ現実ではあり得ないような閉ざされた場所で探偵が鮮やかに事件を解決するものが特にお気に入りだった。 それは非現実な世界だからこそより現実を忘れられたからであり、古今東西の推理小説を読みあさる事で現実を忘れるように努めていた。
父からビデオカメラを送られたのは夢野久作の作品に没頭していた頃だろう。
それを手にした時はじめて、ボクは世界を感じられるようになった。
ビデオカメラを通せばどんな世界でも物語になる。そんな気がしたからだ。ビデオカメラごしならば世界のすべては虚像に思え、そこの写るものすべてが物語となることでボクはようやく今という現実を一つの物語という形で認識し、実感できるようになったのだ。
空も大地も人も、自然の風景や建物が建ち並ぶ景観もすべてビデオカメラのなかにある物語だと思うことでようやくボクは安堵した。
世界は舞台、人は役者とはシェイクスピアの戯曲にあった言葉だったか。
彼はメタ的に物語で語らせたが、ボクはそれを自身の体験として感じていた。
自分は佐木竜太という役を与えられた役者であって、人生を歩む人間ではない。
そしてその役者はスポットライトがあたるような華やいだ存在ではなくその他大勢の端役にすぎないのだ。
きっとそんな事を考えるのはボクが思春期であり学生というモラトリアム人間特有の夢想からで、大人になり社会に出れば自然とそんな事すら考えなくなるのだろうと漫然と思っていた。
そして考えない事が出来るようになるまでビデオカメラの中にある風景にだけ存在を感じ、ミステリ小説という物語に陶酔していられれば良いだろうと、そう思っていた。
「なぁ、佐木。お前っていつもビデオ回してるよな。見せてくれないか?」
そんなボクがその他大勢という脇役から佐木竜太という一人の演者になれた実感を得たのは、センパイに名前を呼ばれた時だった。
センパイが現れたのは学内で起こった殺人事件の時だ。
ミステリが好きだから何となく仲間がいればと入ったミステリ研究会。 そこで調査する事になった学園七不思議についてもボクはとりわけて興味はなかったし、部長である桜木先輩が死んだ時も他人事で悲しいとも辛いとも思わなかった。
それはまだボクが1年で桜木先輩とそれほど親しくなかったのもあるのだろうが世界が空虚なボクの価値観のせいもあっただろう。
だが金田一センパイに声をかけられた時、ボクの中で何かが変わったのだ。
きっとそれはセンパイが本物の名探偵だったからだろう。
センパイに声をかけられた時、ボクは初めて佐木竜太という人間の生を実感した。
事件を前に冷静にそしてひたむきに解決へと向かおうとするセンパイと比べたらボクは脇役程度の存在だろう。それでも今までの主役がだれもいない舞台で漫然と過ごしていた時よりずっといい。
センパイと一緒に過ごして、センパイとともに事件に向き合う。その時だけボクは生きていると実感できていた。
センパイはボクにとって、はじめて興味を抱いた他人だったのだ。
だからボクは旅に出る。
センパイが事件解決のため函館に招かれたのは知ってる。すでに飛行機のチケットもある。 ボクのビデオが少しでも事件解決の手がかりになればうれしいし、センパイの助けになれれば幸運だ。
事件がある限り危険があるのはわかっている。
もしかして自分も巻き込まれるかもしれない、というのを考えない訳でもない。
だけどそれでもボクは行く。
ボクの人生は、センパイに見つけてもらった時にやっと始まったのだから。
もしセンパイの側で終わったとしても、それは幸福なことだろう。
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