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インターネット字書きマンの落書き帳

   
アポカリプス山田って……なんなんだろうな……
アポカリプス山田って何だろうな……。
と思って、書いてみました。

終末世界で生き延びているアポカリプス山田が、アポった世界で、アポった理由を探す話です。
アポる。(動詞)

自分でも何をやっているのやら……。
オリジナル主人公が出ます、夢男子です。
今回の夢男子は異常成人男性ではありません。



『アポカリプス・ホワイト・ライド』

 焚き火の炎がチロチロと揺れている。
 もう少し火を入れた方がいいだろうか。そう思い、昼間乾かしておいた雑誌のページを数枚破って焚き火に入れた。
 火は幾分か勢いを取り戻し、炎と呼べる程度に当たりを燃やして温める。

 暖かさを感じると、まだ生きているのだと思う。
 いや、死に損なったというべきか。

 空になったアルミカップを床に置き、空を眺める。
 破壊され人影がなくなった無数の高層ビルは針山のように空へと突き出ており、それは星を渇望する腕のように天へ伸びていた。

 これまで生き残れたのは、偶然に偶然が重なっただけだ。
 崩壊した建物の隙間に、偶然入りこんだだけ。生き残った人間が、偶然穏健だっただけ。略奪が起こった時、偶然持ち場を離れていただけ。
 おかげで今でも、わずかな食糧と燃料とで、一人喰うには困らずに過ごしている。

 生き延びることに執着し、誰もいなくとも孤独を感じない。
 おおよそ人間らしくないからこそ、破壊の後でも生き残れたのだろう。

 さて、明日はどうするか。
 ガスや電気なんて贅沢は言わないが、水道がまともに出る場所があるのならしばらくそこを拠点にして生活するのだが――。

 空になったカップに温くなった湯を注ぎ、ぼんやりと考える。
 これでもまだ、何かをし生き延びようとするのだから、我ながら生き汚いものだ。

 自嘲しながらカップの湯を啜ると、遠くからゆらりと影が動くのが見えた。

 見間違いだろう、この周辺にまだ生きている人間がいるはずもない。
 だが、大きさや動きから徘徊型の化け物(クリーチャー)ではなさそうだ。
 僅かだがチラチラと明かりを掲げているのもわかる。

 ……人が、夜歩きをしているのか?
 しかも、明かりの数と足音から単独行動だ。
 珍しいを通り越して、滑稽だ。
 まだ自分以外にも、この世界で生きている人間がいるとは……。

 腰につっこんだ銃を手に取る。
 廃墟を探索している中で見つけた武器は、かつては所持するだけで違法であったが今は身を守る最適解の一つだ。

 一体誰が、何のためにこんな所へ……。
 闇を見据え、じりじりと待てば、向こうから声をかけてきた。

「ストーップ! 怪しいものじゃないよ。と、言っても信頼してもらえないだろうけど……普通の人間だし、狂ってもいない。だから、少し火に当たらせてくれないかな?」

 暗闇から浮かび上がるよう現れたのは、まだ青年と呼んでも差し支えのない年頃の男だった。
 小柄ではないがひどく細身で、背負っている荷物にすっぽり隠れて見える。
 青年はこちらが断らないのを見ると、離れた場所にこしかけた。

「ふぅ、火を見るのも久しぶりな気がするな。ここのところ、燃料を切らしちゃっていて、ずっと廃屋の影を塒にしてたから……あっ、僕はね。こういうもの」

 青年はそう言うと、ポケットから折れた名刺を取り出す。
 そこには「Webライター 山田ガスマスク」と書かれていた。

「律儀だな、この時代に名刺なんか持ち歩いてるのか」
「うん。これ出しとけば、一応は人間だって認めてもらえるし。コッチの素性もある程度信頼してもらえないといけないからね」

 文明なんて一切、消え失せているであろうに、未だ「Webライター」の肩書きが書かれた名刺を持ち歩くとは、面白い。

「お近づきのしるしに、これ」

 さらに山田ガスマスクを名乗る男は、こちらに包み紙を向ける。
 見れば中にはスティックサイズのコーヒーがいくつか入っていた。

「知り合ったばかりの人間を信用させるには、貢ぎ物って相場が決まってるでしょ」

 確かにそうだ。が……。

「……わかった、コーヒーを二つ入れよう。砂糖を入れてな」
「えっ? いいの。貴重品じゃない?」
「俺は、変なところで貸し借りを作りたくないんだ」

 ぬるくなっていたポットを火に掛けなおすと、二人分のコーヒーを入れる。
 山田はそれをありがたそうに飲むと、「んー」と声をあげた。

「暖かいし、おいしい。久しぶりだね、こういうの」

 山田は人懐っこい話し方で、あれこれ聞いてきた。
 どうやって生き残ったのか、これまでどんな化け物(クリーチャー)を見てきたのか、安全そうな場所はあるかなどだ。
 知っている事もあれば、知らない事もある。
 そうして小一時間ほど話した後、俺は山田を睨み付けた。

「……それで、俺に何の用だ?」

 まさか、人恋しくて話し掛けてきた、という訳ではあるまい。
 そんなマトモな神経をしている人間は、孤独に耐えかねとっくに首をくくっている。

 すると、山田は口角だけを僅かにあげると、薄汚れたボイスレコーダーをこちらに差し出した。

「僕はね、今こうして世界が荒廃している。その理由を知りたいんだ。あんた、何か知らないかな? 知らなくても、どうしてこうなっていたのかとか、今まで見た変なものとか、違和感のある物体とか、行動とか。何でもいい。心当たりがあったら、教えてくれないかな」

 目は爛々と輝き、心底楽しそうな様子がうかがえる。
 いまさらそんな事を知ってどうする。もう、真実などこの世界に何の価値もないというのに……。

「知りたいんだよね。いや、真実があるからとかじゃなくて。ただの好奇心。僕みたいな人間が生き残って、まだ生き延びてるのを見るとさ。世界にも、生きていることにも、なーんの価値もないんだろうなーって思うから。この価値のない世界をぶち壊した話も、きっとたいして価値がないんだろうなーと思って」

 山田はそう言うと、けらけら笑う。
 本当に、この男も……この状況で生き延びて、まだ生き抜くつもりでいる、生き汚いクズなのだろう。

「それに、記録を残しておけば、後でそれを読み返すことができるでしょ。そういうの、暇つぶしにはなるしね」

 あっけらかんとした様子は、この状況を楽しんでいるようにも見えた。
 正気だとは言ったが、冷静さを擬態した狂人なのだろう。最も自分も、人のことを言えた立場ではないが。

「そうだな……」

 目を閉じ、焚き火にもう一枚、破った雑誌を放り込む。
 そしてゆっくり口を開くと、望み通り、何の価値もない話をはじめた。

 周囲には瓦礫が積み上げられ、見渡す限りの廃墟には人の気配はない。
 湿った泥臭い風が吹く最中、わずかに思うのだ。

 つまるところ、世の中というものは、価値のないものが積み重なって形に見えているだけなのだろう。

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紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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