インターネット字書きマンの落書き帳
山田ガスマスク誕生日会場です(松ガス)
山田ガスマスクの誕生日の話を……します!
・本編のネタバレあり
・なぜか松田の家に転がり込んでいる山田概念
・向き合え(何かと)
誕生日を祝え~~
祝福しろ
誕生日にはそれが必要だ
実際ちょっと早いんですけどね!
書けたので早めに出しておきます♥
我慢できないから仕方ないねッ
ま、ごゆるりとお読みくだせぇ
・本編のネタバレあり
・なぜか松田の家に転がり込んでいる山田概念
・向き合え(何かと)
誕生日を祝え~~
祝福しろ
誕生日にはそれが必要だ
実際ちょっと早いんですけどね!
書けたので早めに出しておきます♥
我慢できないから仕方ないねッ
ま、ごゆるりとお読みくだせぇ
『シナモン入りのアップルパイ』
仕事を終えた松田が自宅マンションの扉を開けると、甘い香りが漂ってきた。
バター、砂糖、シナモン。それと、バニラビーンズか。
松田はすぐに、焼きたてのアップルパイを思い浮かべる。甘い菓子にはあまり興味がない松田だったが、この香りは少し懐かしく思えた。
「あ、おかえり。松田さん」
匂いに誘われるようキッチンを覗けば、オーブンを掃除する山田が目に入る。
テーブルには焼きたてのアップルパイが一つ置かれていた。
少し不格好だが大きく、しっかり円形になっており、見るからに美味しそうだ。
「これね、初めて作ってみた。僕、あんまり料理ってしないんだけどね。お菓子作りって、レシピが完全に決まってるから、化学実験みたいで、料理より性に合ってるかも」
松田の視線に気付いたのか、山田はどこかふざけたように笑う。
綺麗なきつね色のアップルパイは、初めて作ったにしては上出来だろう。
しかし、どうしてこんなものを焼いてみる気になったのか。
「……実はね、僕、今日誕生日なんだ」
突然言われ、松田は驚いてカレンダーを見る。
今日が誕生日だなんて、一言も聞いていなかったからだ。
「ホンマか。何で早う言わんのや。言うてくれれば、手土産の一つくらい……」
松田は誕生日に、山田から万年筆をプレゼントされていた。
普段から世話になっている礼だからお返しはいらないと言われていたが、それでももらいっぱなしは悪いと思い、何度か山田の誕生日を聞いたこともある。
常にはぐらかされて答えてもらえないまま、何となく日々が過ぎていたが、まさか今日だったとは。
そう思っていると、山田は椅子に座り、大きなアップルパイを自分にだけ取り分けた。
「うん、一応、ちゃんと焼けてるみたい。生焼けだったらどうしようと思ったけど」
「自分で作って自分で食うんか」
「そうだよ。いつも、この量で作るっていってたから」
綺麗に焼き目のついたアップルパイに、ミントと生クリームがのせてある。
このスタイルのアップルパイに、既視感があった。
どこかのケーキ屋で見たのだろうか。いや、違う。ケーキ屋や喫茶店ではない。もっと身近で、もっと当たり前のように見ていた記憶があるのだが……。
「……このレシピね。野村さんの妹さんから聞いたんだ」
松田の疑問に答えるよう、山田が告げる。
そうだ、野村が時々職場のケーキをもってくる事があった。
妹の手作りで、作りすぎたからお裾分けという体裁で、何度か松田ももらったことがある。
クリームもジャムも甘さが控えめで食べやすいアップルパイ。
『妹が焼いたアップルパイを、僕が美味しいって褒めて食べたら、何度も作るようになって……でも、妹が作るお菓子で一番好きなんですよ』
食べながら、そんなことを話した記憶が蘇る。
「野村さん、これ好きだったって。何度も作ったって。もう作る機会はないって。だから、僕が作って。僕、一人で食べようと思って作ったんだ。思ったより手間取っちゃって、松田さん帰って来る時間になっちゃったけど。ま、僕はしっかり食べきるから。見ててよ」
――これは、贖罪だ。
自分の罪はもう、誰にも許される事はないというのを、山田は知っている。
法で裁かれたとしても、それだけで全てが清算される訳ではない。
生きていたはずの野村と、その面影は世間からは薄れていくだろう。
だが、野村を奪われた家族と、事件に巻き込まれた松田にとって一生涯残り続け、燻り続ける痕跡だ。
山田はこれまで、何度もそれから逃げようとした。
自分の命を絶つ事で、いち早く罪から逃れようとしていた。
自暴自棄になり、他人に傷つけられるような行動ばかりして、痛みと穢れで罪を覆い隠そうともしていた。
長い逃避から、罪と向き合うようになったとき、改めて野村という人間を知るようになった。
消えかけていた野村の記憶は、徐々に山田の中にも芽生えていき、それまで山田にとって名前だけしか知らない、死なせてしまった他人だった野村が、形になって心にあるのだろう。
だからこそ、彼の愛したものを知ろうとしている。
一人で、向き合おうとしているのだ。
そうすることでしか、償える方法を思いつかなかったのだろう。
山田は、頭がいいのだが――。
(ほんま、アホやなァ)
松田はキッチンから皿とフォークを取り出すと、アップルパイを切り分ける。
「えっ、松田さん。何してんの」
そして、驚き目を丸くする山田の前でアップルパイを一口囓った。
普段食べない、甘ったるくてもっちゃりした食感。本来はそこまで好きな味ではないが、今は懐かしい。
「あー、確かにこんな味やったわ。野村のもってきた、アップルパイ。妹さんが作っとったんやなぁ」
「どうして……」
「どうしてもこうしてもあるかい。こんなデカいパイ焼いて、一人で食い切れる訳もないやろ」
「そ、そんなことないし。毎日食べれば、減るでしょ」
「そうかもしれんけどな……」
二口目も食べるが、やはり甘い。シナモンが強いので松田でも食べれるのだが、得意な味ではない。
そういえば、野村からお裾分けと無理矢理押しつけられた時も、牛乳で飲み下してなんとか食べていたか。
申し訳なさそうに笑う野村の顔が、ぼんやりと思い浮かぶ。
まだ、生きている。
忘れかけていたが、いま、蘇った。
「……何でもかんでも、一人で背負う必要もないやろ」
「そ、そうかな」
「それにな。お前が野村を忘れんでいてくれれば……俺だって、たまには思い出せる。いけ好かない奴やったけどな。それでも……」
思い出せれば、また会える。
甘いアップルパイの香りと、野村の困ったような笑顔を思い浮かべたのは、何年ぶりだろう。
「――お前が向き合う覚悟したんやったら、俺もそれに付き合うたるわ」
忘れてしまったら、終わってしまう。
山田が野村の面影を追い、彼の香りを辿るのは松田にとっても嫌な思い出を掘り返す事になるだろう。
松田が語る、野村の過去を聞くことが、山田にどれだけ大きな罰になるかも、当然わかっている。
共に背負うといえば聞こえはいいが、実際はきっと、もっと山田を追い詰めるのだろう。
それでも――。
「ありがと。松田さん。本当に……」
山田は大粒の涙と、口についていたクリームを袖口で拭う。
ぐしゃぐしゃの顔のまま食べるアップルパイは甘いはずもなく、山田の涙は喜びからだけではなかったのだろうが――。
その日、山田は笑っていた。
まるで今日、生まれ変わったように。
だからきっと、今日のアップルパイは誕生日にふさわしい晩餐だったのだろう。
仕事を終えた松田が自宅マンションの扉を開けると、甘い香りが漂ってきた。
バター、砂糖、シナモン。それと、バニラビーンズか。
松田はすぐに、焼きたてのアップルパイを思い浮かべる。甘い菓子にはあまり興味がない松田だったが、この香りは少し懐かしく思えた。
「あ、おかえり。松田さん」
匂いに誘われるようキッチンを覗けば、オーブンを掃除する山田が目に入る。
テーブルには焼きたてのアップルパイが一つ置かれていた。
少し不格好だが大きく、しっかり円形になっており、見るからに美味しそうだ。
「これね、初めて作ってみた。僕、あんまり料理ってしないんだけどね。お菓子作りって、レシピが完全に決まってるから、化学実験みたいで、料理より性に合ってるかも」
松田の視線に気付いたのか、山田はどこかふざけたように笑う。
綺麗なきつね色のアップルパイは、初めて作ったにしては上出来だろう。
しかし、どうしてこんなものを焼いてみる気になったのか。
「……実はね、僕、今日誕生日なんだ」
突然言われ、松田は驚いてカレンダーを見る。
今日が誕生日だなんて、一言も聞いていなかったからだ。
「ホンマか。何で早う言わんのや。言うてくれれば、手土産の一つくらい……」
松田は誕生日に、山田から万年筆をプレゼントされていた。
普段から世話になっている礼だからお返しはいらないと言われていたが、それでももらいっぱなしは悪いと思い、何度か山田の誕生日を聞いたこともある。
常にはぐらかされて答えてもらえないまま、何となく日々が過ぎていたが、まさか今日だったとは。
そう思っていると、山田は椅子に座り、大きなアップルパイを自分にだけ取り分けた。
「うん、一応、ちゃんと焼けてるみたい。生焼けだったらどうしようと思ったけど」
「自分で作って自分で食うんか」
「そうだよ。いつも、この量で作るっていってたから」
綺麗に焼き目のついたアップルパイに、ミントと生クリームがのせてある。
このスタイルのアップルパイに、既視感があった。
どこかのケーキ屋で見たのだろうか。いや、違う。ケーキ屋や喫茶店ではない。もっと身近で、もっと当たり前のように見ていた記憶があるのだが……。
「……このレシピね。野村さんの妹さんから聞いたんだ」
松田の疑問に答えるよう、山田が告げる。
そうだ、野村が時々職場のケーキをもってくる事があった。
妹の手作りで、作りすぎたからお裾分けという体裁で、何度か松田ももらったことがある。
クリームもジャムも甘さが控えめで食べやすいアップルパイ。
『妹が焼いたアップルパイを、僕が美味しいって褒めて食べたら、何度も作るようになって……でも、妹が作るお菓子で一番好きなんですよ』
食べながら、そんなことを話した記憶が蘇る。
「野村さん、これ好きだったって。何度も作ったって。もう作る機会はないって。だから、僕が作って。僕、一人で食べようと思って作ったんだ。思ったより手間取っちゃって、松田さん帰って来る時間になっちゃったけど。ま、僕はしっかり食べきるから。見ててよ」
――これは、贖罪だ。
自分の罪はもう、誰にも許される事はないというのを、山田は知っている。
法で裁かれたとしても、それだけで全てが清算される訳ではない。
生きていたはずの野村と、その面影は世間からは薄れていくだろう。
だが、野村を奪われた家族と、事件に巻き込まれた松田にとって一生涯残り続け、燻り続ける痕跡だ。
山田はこれまで、何度もそれから逃げようとした。
自分の命を絶つ事で、いち早く罪から逃れようとしていた。
自暴自棄になり、他人に傷つけられるような行動ばかりして、痛みと穢れで罪を覆い隠そうともしていた。
長い逃避から、罪と向き合うようになったとき、改めて野村という人間を知るようになった。
消えかけていた野村の記憶は、徐々に山田の中にも芽生えていき、それまで山田にとって名前だけしか知らない、死なせてしまった他人だった野村が、形になって心にあるのだろう。
だからこそ、彼の愛したものを知ろうとしている。
一人で、向き合おうとしているのだ。
そうすることでしか、償える方法を思いつかなかったのだろう。
山田は、頭がいいのだが――。
(ほんま、アホやなァ)
松田はキッチンから皿とフォークを取り出すと、アップルパイを切り分ける。
「えっ、松田さん。何してんの」
そして、驚き目を丸くする山田の前でアップルパイを一口囓った。
普段食べない、甘ったるくてもっちゃりした食感。本来はそこまで好きな味ではないが、今は懐かしい。
「あー、確かにこんな味やったわ。野村のもってきた、アップルパイ。妹さんが作っとったんやなぁ」
「どうして……」
「どうしてもこうしてもあるかい。こんなデカいパイ焼いて、一人で食い切れる訳もないやろ」
「そ、そんなことないし。毎日食べれば、減るでしょ」
「そうかもしれんけどな……」
二口目も食べるが、やはり甘い。シナモンが強いので松田でも食べれるのだが、得意な味ではない。
そういえば、野村からお裾分けと無理矢理押しつけられた時も、牛乳で飲み下してなんとか食べていたか。
申し訳なさそうに笑う野村の顔が、ぼんやりと思い浮かぶ。
まだ、生きている。
忘れかけていたが、いま、蘇った。
「……何でもかんでも、一人で背負う必要もないやろ」
「そ、そうかな」
「それにな。お前が野村を忘れんでいてくれれば……俺だって、たまには思い出せる。いけ好かない奴やったけどな。それでも……」
思い出せれば、また会える。
甘いアップルパイの香りと、野村の困ったような笑顔を思い浮かべたのは、何年ぶりだろう。
「――お前が向き合う覚悟したんやったら、俺もそれに付き合うたるわ」
忘れてしまったら、終わってしまう。
山田が野村の面影を追い、彼の香りを辿るのは松田にとっても嫌な思い出を掘り返す事になるだろう。
松田が語る、野村の過去を聞くことが、山田にどれだけ大きな罰になるかも、当然わかっている。
共に背負うといえば聞こえはいいが、実際はきっと、もっと山田を追い詰めるのだろう。
それでも――。
「ありがと。松田さん。本当に……」
山田は大粒の涙と、口についていたクリームを袖口で拭う。
ぐしゃぐしゃの顔のまま食べるアップルパイは甘いはずもなく、山田の涙は喜びからだけではなかったのだろうが――。
その日、山田は笑っていた。
まるで今日、生まれ変わったように。
だからきっと、今日のアップルパイは誕生日にふさわしい晩餐だったのだろう。
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