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インターネット字書きマンの落書き帳

   
彼の輝きにそれはいらない(ヤマアル)
ヤマアルは俺の健康にいいから書く!(挨拶)
夏の暑さを乗り切るにはいい栄養素をとらなければいけなくて、いい栄養素とはつまりヤマアルなんですよ、わかりましたね?

わかったなら良し!
わからなければ、そのうちわかるようになればよし!

今回は、ヤマアルだけど明確な恋人というより淡い恋慕か憧れとか執着とかそいうい系に重きを置いてますが、アルフレートくんを旅立たせたくないヤマムラさんとヤマムラさんを置いて行くのに後ろ髪引かれてるアルフレートくんみたいなねちっこい話ですぞい。

梅雨みたいにねちっこい愛情を大事にしていこうズェ……。




『すべては輝きのため』


 ヤマムラは微笑むと深紅のワインをアルフレートの前へと差し出した。
 グラスに注がれたワインはゆらゆらと揺れ燭台の炎をより赤く輝かせる。

 大切な話があるから、今日は二人だけで話したい。
 ヤマムラにそう誘われた時はどれだけ重大な話が飛び出るのだろうと身構えていた所、ワインなどを差し出されアルフレートは暫くグラスを眺めていた。
 話をする前に酒を出すなんてマネを普段のヤマムラはしなかったからだ。

 そんなアルフレートの困惑したまなざしに気付いたのだろう、ヤマムラは向かいの椅子へ腰掛けると自分にもワインを注いだ。

「たまには洒落たもてなしをしてみたくてね。柄じゃないとは思うが、よかったらどうぞ。ヤーナムでは珍しい、血の混じってないワインだ」

 ヤマムラは普段と変わらぬ様子でグラスに注いだワインを燭台の明かりにかざして見せる。アルフレートはそんなヤマムラの姿とワインを交互に見つめながら自然と胸に触れる。その場所にはカインハーストへの招待状が収められていた。

 それまでのアルフレートは自分の生きる道を示してくれたローゲリウスの名誉を挽回するため、そして自らが輝きの使徒となるためなら命を賭してもかまわないと思いヤーナム中を走り回っていた。カインハーストの影があればそれがどんな怪しい噂でも飛び込んでいったし、騙されていると分かっていても赴いた。
 だが血族は影をつかむ事すらできないまま時間だけが過ぎていく。
 毎日疲れ切って塒へ戻れば泥のように眠る生活をしても何の成果もない日々がいったいどれだけ続いただろうか。
 徒労と呼ぶにふさわしい時間を積み重ねるアルフレートに寄り添ってくれたのがこのヤマムラであった。

 ヤーナムの街で処刑隊という過去の遺物を好んで名乗るアルフレートの存在はほとんど狂人か道化のように扱われていたのだが、ヤマムラはアルフレートの言葉を真摯に受け止めてくれていたのだ。
 それはヤマムラ自身が復讐という目的でヤーナムを訪れたという変わり者だった事もあるだろうし、異邦人であるためヤーナムの価値観に染まっていない事もあるだろう。
 あるいはローゲリウスという一人の男に執着しその名誉を復活させるという目的にだけ邁進するアルフレートの姿に過去の自分を重ねていたというのもあるかもしれない。

 毎日を同じように何ら成果の無いまま過ごしていたアルフレートにとって、ヤマムラという理解者が生まれた事は幸運だった。
 代わり映えのない日々の中、ヤマムラはアルフレートの話を何でも聞いてくれたしまたアルフレートが求めるあらゆる事を受け入れてくれたからだ。

 疲れきった身体をベッドに投げ出す時そっと触れ慈しんでくれるヤマムラの姿を眺める日々はあまりに幸福すぎたから、このまま何ら成果のない日々が続いても彼が傍にいてくれればそれでいいのでは等という甘い夢へ逃げ込む事すらあったほどだ。

 だが、夢は同時に二つ見る事はできない。
 カインハーストへの招待状を手に入れた今、アルフレートは処刑隊としての輝きを目指す事を密かに決めていた。

「ありがとうございます、ヤマムラさん」

 アルフレートは微笑みを浮かべるとワインの香りを確かめる。 突き刺すようなアルコールのにおいばかりが鼻についたが確かに錆にも似た血の匂いはしない。試しに一口飲めば、口の中が痛い程のアルコールが突き抜けていく。ワインというのはこういう味わいなのだろうか。それともこのワインがあまり良い酒ではないのだろうか。外の世界にあるワインを知らなかったアルフレートにはよくわからなかったが、こんなにも鋭い味のワインならヤーナムにある血の混じった錆臭いワインの方が美味いように思えた。

「うーん……ワインというより安っぽい蒸留酒みたいだな。これは。少し水で薄めるか、アルフレート? 葡萄のジュースもあるが……」

 ヤマムラはワインを一口飲むと苦笑いをして見せる。どうやらヤマムラの口からしてもあまり一般的なワインではないようだ。 テーブルに置かれた水差しを向けるヤマムラに、アルフレートは静かに首を振って見せた。確かにひどく尖った味わいの酒ではあるがそれでもヤーナムの酒場によくある温くて気の抜けたエールと比べればよっぽど美味いと思ったからだ。
 アルフレートはもう一度ワイングラスを傾け鋭い味わいのワインを舌の上で転がしながらヤマムラの方を見た。

 二人で話したい。
 そう言われてアルフレートはヤマムラの部屋までやって来たのだが、ヤマムラはまだ何も言おうとはしない。
 カインハーストへの招待状を手に入れたのだからすぐにでも旅立とうと思っていたが判断が鈍り今までヤーナムにいたのはヤマムラに旅立ちを伝えるかどうか迷っていたからだ。
 もし伝えたのならヤマムラは引き留めるのだろうか。それとも快く送り出してくれるのだろうか。どちらをされても困るのだが、どちらもされないのはあまりにも悲しい。
 ヤマムラからの誘いを受けたのはそんな思いを抱いていた最中だったのだから断る理由は無かったろう。

 アルフレートはなみなみとつがれたワインを一気に飲み干せばヤマムラはそんな彼を穏やかな笑顔で見つめていた。

 ヤマムラは優しい男であり、アルフレートの行動を愚かだとも狂っているとも思わず今のような優しい顔で見つめてくれていた。
 それは決して正しくはない狂った許容だったろうが、それでもアルフレートにとってヤマムラは数少ない理解者であり処刑隊の一人としてではなく人間アルフレートとして感情を揺さぶられる程度には大切な存在でもあった。

 だが、やはりヤマムラは何も告げようとはしない。 ただゆっくり食事をして酒を飲み他愛も無い話をするだけだ。

 「あの、ヤマムラさん。話したい事があると言ってましたよね。私に、何か御用でもあったのでしょうか」

 流石におかしいと思い、アルフレートは口を開いた。
 ヤマムラから二人で話したいと誘うのは初めての事であり、呼び出した理由がただ二人でワインを飲むためだとは到底思えなかったからだ。
 それに、ワインのせいか疲れていたのかひどく眠くなってきた。もしヤマムラが大事な話をしたいのなら、早く聞かなければこのまま眠ってしまいそうだった。  

「随分と眠くなってきたみたいだね?」

 アルフレートが睡魔に襲われているのに気付いたのだろう、ヤマムラはそう問いかける。
 眠気はますます強くなり、世界の半分が灰色がかって見えていた。それだけではなく頭がやけに重い。まぶたを開けるのも億劫なほどの眠気は異常なほどだ。
 そう、異常すぎる。まるで薬でも飲まされたかのようだ。
 それに思い至り、アルフレートはようやく自分が何かしら薬を盛られているのを確信した。

「ヤマムラさん……私に、何を……」

 もしかして、そうじゃないかという予感はあった。
 あまりにも尖ったアルコールの匂いばかり漂わせるワインを手にとった時、このワインなら薬を入れてもきっと気付かず飲んでしまうだろうと思ったからだ。
 それでもワインを一気に飲み下したのは、もし仮に何かしらの毒が盛られていたとしてもヤマムラがそれをしたのならば仕方ないだろうと、そう思っている自分がいたからだろう。

 処刑隊ではなく人として生きるのならばヤマムラの傍がいい。
 そんな事を思う自分が確かに存在していたのだ。

「……キミは、行ってしまうんだろう?」

 意識が遠のく最中、ヤマムラの声を聞く。
 何も伝えていなかったが、気付いていたのだろう、だから薬を盛って自分を手元に置きたいと思ってくれたのかもしれない。
 思考力がどんどん低下していく中でもアルフレートは漠然とそんな事を考えていた。

「俺は、キミが……キミの命が潰えてしまうことを知っている以上、キミの旅立ちを喜ぶ事が出来ない愚かで弱い人間さ」

 遠くでそんな声が聞こえる。急に訪れたこの異常な睡魔はやはり薬のせいなのだろう。 普段から物静かで優しい視線を向けていたヤマムラも内にはそんな欲望を飼っていたのだ。
 もしこれが他の狩人が仕向けたのなら卑怯だと罵るだろう。意識が飲まれそうなほどの睡魔に襲われても相手の息の根を止めるつもりで挑んでいたに違いない。
 だがヤマムラがそれを望みそれを選んだのならば受け入れたいという気持ちがアルフレートには確かに存在した。

 ヤマムラが自分を手元に置いて閉じ込めてでも求めてくれるのならば、それはきっと人間としての幸せだ。
 処刑隊として輝く事を諦めてもいいと僅かでも思わせる唯一の存在がヤマムラだったから、彼に何をされても恐れなど何もなかったのだから。

「ヤマムラさん……」

 途切れそうな意識の中、アルフレートは精一杯の笑顔を見せる。

「わたし、も。そうです……わたしの弱さは、アナタの……あなたの傍にいたいと思ってしまったこと、だから……愛してます、誰よりも……アルフレートは、あなたを……あなただけを……」

 そう告げ手を伸ばしたが、その手に触れられたのかも分からぬままアルフレートはまどろみへと落ちていった。



 目覚めた時、アルフレートは柔らかなベッドに横たわっていた。
 そこにヤマムラの姿はなく、昨日飲んだワイングラスもすべて片付けられている。

 昨夜の事はすべて夢なのだろうかと思ったが、テーブルの上に置かれたカインハーストの招待状がすべて夢ではないという事を告げていた。

 ヤマムラは薬を飲ませたアルフレートをベッドへと寝かせたのだ。
 そして招待状がある事を知って、アルフレートに何もせず解放したのだ。

 もし行かせたくないのであれば閉じ込めるなり痛めつけるなりしていただろう。
 カインハーストへの未練を断ち切るため、招待状を隠すなり燃やすなりしてもいい。

 それらのすべてが出来る状態であったにも関わらず、ヤマムラはアルフレートを突き放したのだ。
 彼の求める輝きのために。

「ヤマムラさん、どうして……どうして、あなたは……」

 アルフレートは自分の拳を血がにじむ程に握りしめる。
 アルフレートにとって人間としてのよすがとしての存在がヤマムラであった。このヤーナムを離れることを躊躇わせる存在があるとするのならそれはヤマムラの事であり、カインハーストへの招待状を手に入れた時に思い浮かべた姿がヤマムラであったことを、彼はきっと知っていたのだ。
 知っていたからこそ、アルフレートの運命を奪うチャンスを得ながらあえてそれを手放したのだ。

 ヤマムラが自らアルフレートを手放す事で、アルフレートが後悔せず処刑隊として生きられるように。
 人間・アルフレートの未練をすべて自分の中に置いていけるように。

「どうしてアナタは残酷なほど、優しいんですか。ヤマムラさん……」

 一人残されたアルフレートは嗚咽を漏らす。
 哀しみは静寂が飲み込み、消えかけた蝋燭の炎は最後の勢いを増しますます激しく燃え輝くのだった。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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