インターネット字書きマンの落書き帳
どちらの面影も背負って(漆黒5.3ネタバレあり)
漆黒のネタバレがあるので、漆黒基準で話をします。
水晶公関連の話で。
無事に世界がなんとかなった後みたいなイメージで書いておりますぞい。
自ヒカセンを使うか迷ったんですが……。
ここは「万人受け」を目指して、ヒカセンのイメージを「ひろし」にしました。
このヒカセンはひろしです。
ひろし(NQ)です。
水晶公関連の話で。
無事に世界がなんとかなった後みたいなイメージで書いておりますぞい。
自ヒカセンを使うか迷ったんですが……。
ここは「万人受け」を目指して、ヒカセンのイメージを「ひろし」にしました。
このヒカセンはひろしです。
ひろし(NQ)です。
「未来と過去の面影」
石の家に戻ると、グ・ラハ・ティアはすぐさま椅子に腰掛けて大きなため息をついた。
思いの外早い目覚めとなったとはいえ、アラグの秘匿された文明の中に暫くいたのだ。
運動に支障がない状態である、健康的には何ら問題ない……。
そう言われていても、やはりグ・ラハの体調は万全と言い難かった。
水晶公であった頃は、クリスタルタワーの一部となりあまり遠くにいけないといった制約はあったものの、クリスタルタワーの「部品」としてどれだけ膨大な魔力を使ってもさしたる問題はなかったが、今の身体がもつエーテルは人並み程度だ。
封印されていた時間、身体は殆ど眠ったような状態だったから動かすのに違和感もある。
水晶公の頃はアラグ文明の遺物と膨大なエーテルを使って肉体を動かす補助をして動いてきた、その通常なら経験しない感覚がまだ身体に残っているから、普通の何の変哲もない身体で動くということに完全には馴染めないでいたのだ。
とはいえ、暁の背負っている任務は多い。
アラグ文明の研究者という肩書きはあるが、今のグ・ラハに期待されているのはその知恵を使う事より身体を動かし足と使うこと。
冒険者のように時には戦い、時には市民に話しを聞き、時に変装して潜入する……。
傍目からみると「お使い」のような雑務である。
(いやー、まさかこんなに地味な仕事で、こんなにも身体を使うと思っていなかったなぁ……)
グ・ラハは英雄の物語を、記録や伝承として読んできた。
光の戦士は武器を手に蛮神へ挑み、イシュガルドで長く続いてきた竜との戦いに終止符を打ち、アラミゴ奪還の立役者となった。
輝かんばかりの功績ばかりに目が行き、憧ればかり募らせてしまったが実際、冒険者が大業を成すのは小さな事を積み重ねた結果なのだと、改めて思い知る。
(身体が思うように動かない……ってのは、言い訳だよな。まだ、オレの実力があいつに全然おいついてないんだ……オレのもってるアドバンテージなんて、アラグ文明の血をひいてる事くらいだもんな……)
グ・ラハにとって「光の戦士」は憧れであり、灯火であり、道しるべであった。
かつて「隣」にいた彼は約束通り終わりゆく世界で語られ続けていた希望となっており、グ・ラハはその希望を取り戻すために世界も、時も越え……そして今、またあれほど渇望した存在の隣にいるのだ。
『ラハは、もう充分すぎるくらい無茶したんだ。あんまり気負わずにいてくれよ』
優しい彼はそう言ってくれる。
だがその言葉に甘え努力を怠れば、これから彼が挑む戦いから振り落とされかねない。
グ・ラハが水晶公として見てきた世界の歴史は過酷で絶望的なものだった。
同じ轍を踏まないように歩むためには、歴史を動かすだけの大きな力が必用だろう。
個人の戦闘能力はもちろん、知識も人脈も知恵も技術も、使えるものは何だって使いたいし得られるものは何だって欲しい。
(もっと強くなりたいな……もっと強くなれば、あいつのそばにいれるはずだから……)
力が欲しい。知恵も、技術も、魔力も。
気持ちばかりが焦り、何をしても至らないような気がしてならなかった。
そんなグ・ラハの前にほのかなチョコレートの香りがする。
目を開けば、温かなココアが置かれていた。
「よ、ラハ。疲れてるみたいだな。そういう時は、甘いココアでも飲むといい……ココアは飲めるか?」
自分と同じカップをもちながら笑うのは「光の戦士」だ。
イシュガルドでは英雄と呼ばれ、アラミゴでは解放者と呼ばれている彼の見た目はどこにでもいるような、存外に普通の「冒険者」だった。
一見するととても偉業を成し遂げた人物とは思えない故に、普通に外を出歩いていても彼が高名な冒険者だと気付くものが少ないくらいなのだが、グ・ラハにとっては誰よりも尊敬すべき「ヒーロー」だ。
「えっ、ちょ、オレのためにいれてくれたの?」
「いや、俺が飲みたいと思ったからついでにな」
彼はそう言うが、実際はグ・ラハが疲れたように椅子へもたれていたのを見つけ気を利かせてくれたのだろう。この英雄はそういった細かい心遣いが出来る人物であり、そういった所があるからこそ人に好かれていたのだ。
天然の「人たらし」といった所だろうか……。
「ありがと……頂くよ」
幾度か息を吹きかけてから少しだけココアを啜れば、身体全体にその甘さと暖かさが染み渡る。 同時に、その一口で自分が思いの外疲れているという事に気付いた。
自分では「まだまだ出来る」と思っていたが、思いの外無理をしていたのだろう。
「俺や暁のために頑張ってくれるのはいいがな。お前はまだ起きたばっかりなんだから、あんまり無理するなよ」
そんなグ・ラハの様子を見越したように、彼は告げた。
あるいはグ・ラハの動きが鈍っている事に気付いていたのかもしれない。
「い、いや。俺は別に無茶なんてしてないし……」
「本当か? ……無理に俺やアリゼーに会わせる必用はないんだぞ。お前には、お前にしか出来ない仕事もあるんだからな」
彼はそういいながら、グ・ラハの隣に座るとココアを飲む。
「わかってるけど、ホント大丈夫だか……」
「お前の大丈夫は全然アテにならない。忘れたのか? お前は身体をクリスタルタワーの一部にしてまで時間旅行するなんて無茶する奴だって、俺は知ってるんだからな」
「いや、それは俺だけど、今の俺じゃないし……」
グ・ラハはカップを置くと慌ててそう否定した。
だが、彼のいうのは「事実」であるから否定してもしきれないのだが。
「……そう、だな。水晶公は、お前だがお前じゃない。だけどな、俺は……俺は、水晶公が俺の前で一度。たった一度だけ、自分のことを『私』ではなく『オレ』と言った時……嬉しかったんだ。水晶公は、やっぱりおまえ……グ・ラハ・ティアだった男なんだと。そう思ったからな」
そして彼は目を細めると、優しく笑って見せた。
「そして今、俺はラハ。お前が『私』と名乗り、水晶公だった頃の話をするお前に、『水晶公』の面影を感じるんだ。水晶公はこの世界にはいないし、彼の辿った歴史も時間も、もう終ってしまった。だが……そんな彼の思いと記憶が、お前の中で生きているんだ……ってな」
普段より饒舌な彼を前に、グ・ラハは黙ってその横顔を見る。
憧れていた英雄を前に気恥ずかしさが先立ちゆっくりと話をする機会もあまりなかったが、そんな事を思ってくれていたのか。
そう思うと照れくさいような、気恥ずかしいような、何ともいえぬむずがゆさを感じた。
「ラハは俺にとって、盟友の水晶公だった男であり、今は戦友で友人のグ・ラハ・ティア……一人で二人分の面影がある、大切な存在なんだ。だから、あんまり無理をしないでくれよ。やっと、一緒に旅が出来るようになったんだからな」
「ちょ、ちょっ、まって。今なんでそういう事言うんだよ……」
「冒険者なんて仕事は、次になんて思っていたらその『次』がこない時もあるんだ。言える時に言っておくべきだぞ。そんな後悔はしたくないだろう?」
そう語る彼は、少し寂しげな顔をする。
グ・ラハは自分が眠っている合間の冒険を、物語でしか知らない。そこに書かれていないか、あるいはそこでは簡素な記録でしかないような出来事でも、彼にとっては『深い後悔』として残っている出来事があったのかもしれない。
「……それに、俺からは言ってなかったが……俺も、お前と一緒に旅をしたいと思っていた。知らない土地に行った時。珍しいものを食べた時。美しい景色を見た時、ラハがいたらどう思う。なんて考えた事もあったんだぜ」
本当だろうか。
自分のために優しい言葉をかけているだけではないか。
そうは思うが、物語でしか知らない英雄が冒険の最中に「自分を思っていた」のはやはり嬉しいものだ。
「ちょっとまってって……あんまり急にそういう事いわれても、オレどうしていいかわかんないし……」
気持ちを落ち着けようとココアを飲むが、恥ずかしさで顔が赤くなる感覚がする。 それでなくてもミコッテ族は耳や尻尾に感情が出やすいのだ。
(うわ、いまごろオレの耳、メチャクチャぱたぱたしてるだろうな……しっぽだってブンブン揺れてるもん……)
恥ずかしさばかり募るグ・ラハを前に、彼は少し笑って見せた。
「……悪い、お前にはちょっと恥ずかしい話だったかな? だけど……やっぱり、言っておきたくてな。俺は……そういう事を言えないままで別れてしまった戦友も少なくないから……」
やはり、記録にはなくとも彼の記憶にはそんな後悔があるのだろう。
だからこそ、今度は後悔などする事のないよう常に前へ歩こうとしているのかもしれないが。
「だから、今……やっぱり言っておこうと思う。ラハ……この世界で目覚めてくれて、ありがとう。また、一緒に旅をしてくれてありがとう……俺はそれだけで嬉しいから、あんまり無茶はしないでくれよ。俺は1日でも長く、お前と旅をしたいんだからな」
彼はそう告げると、空になったカップを手に席を立つ。
グ・ラハは暫くその背を見つめていたが、改めてココアを少しずつ飲むと。
「……なんだよっ、あんな事言われたら無茶出来ないだろ。オレだって、ずっとあんたと旅していたいんだからさ」
そんな事を、呟く。
その耳も尻尾も、おちつきなく動き続けていた。
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