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インターネット字書きマンの落書き帳

   
盗賊に墓はいらない(アサシンギルドに関わらなかったジャミルの話)
アサシンギルドはジャミルにとって運命の分岐点になりかねないイベントである……。
と、勝手に思っています、どうも、僕です。(自己紹介)

普段は自分の目の前でダウドを失うジャミルを書いてるんですけどね。
Twitterのフォロワーさんが、「ジャミルはダウドが死んだコトを誰かから聞いても、それで狼狽えたり泣き崩れたりは表向きにはしないし、墓が何処にあるのかとかも聞かないだろう」と言ってて。

俺も何となく「そうなんじゃないかな」と思ったのと。
そのように冷淡にも見えるとらえ方をする反面、心中は推し量れないほどの何かを抱えてそうだな。とおもったので、そんな話をします。

この話はイメージとして「ホークが主人公の時、アサシンギルドのイベントが起った後にジャミルが仲間になったパターン」を想定して……ます!

アサシンギルドのイベント、ジャミルがいない時は現れるのは「暗殺者」なのでは? とな。
いや、俺たちに面識がないから「暗殺者」と便宜上よんでただけで、彼がダウドだったとは否定できねぇぜ……!

存在してないクジャラートの設定を脳内補完でいっぱいつけたが、気にしないでくれて結構だぜ!(謎の国設定をつけるのが好きなので)




『運命の歯車は当人の預かり知らぬ所で』


 以前、この街で宿をとった時に悪い輩に襲われたな。
 キャプテン・ホークは温いエールを口にしながら、何気なくそう呟いた。
 向いには、最近ホークの仲間となった盗賊・ジャミルが座っている。

「そっか、この街は治安が悪いからなぁ」

 ジャミルはさして気にした様子もなくそう言いながら、エール瓶を傾けた。
 ここは南エスタミル。路上では物乞いの子供たちがうろつき、目を合わせれば喧嘩をふっかけてくるようなチンピラがいる街だ。
 何がおこっても「治安が悪いから」の一言で済んでしまうのも当然だろう。
 ジャミルはこの街で産まれ育ち、日常的に盗みや暴力を目の当たりにしてきたのだから尚更だ。

「盗まれてもいいような小銭の入った鞄をわかりやすい所に置いておいた方がいいくらいだぜ、ここは安宿と盗賊が手を組んでるような街だからな」

 ジャミルはそう言いながら、エール瓶に口を付ける。

 エスタミルはクジャラートの首都ではあるが、川を隔てた北と南では大きく治安が違う。
 北エスタミルは美しく整備され上流階級の人間が行き交い、夜歩きをしても不幸な事件や事故に見舞われるのは稀だが、南エスタミルを夜に一人歩きすれば命の保証がないほどだ。

「それくらいは、陸にあがったばっかりの俺だってわかってるぜ。クジャラートの治安の悪さは海の上でも有名だからな」

 ホークはジョッキに入ったエールを一気に煽る。

 クジャラートにも一応は統治者がいるが、北と南。
 価値観や宗教観、風土などが違う二つの都市をまとめるのに手間取っているのは明らかだった。
 そんな風に首都すらもまだまとめ上げてないというのに、さらに北にあるローザリアが戦争の準備をしているという噂がまことしやかに囁かれるようになり、慌てたのだろう。
 統治者は金にものを言わせ北エスタミルの整備だけを急ピッチで進めた。隣国であるローザリアを牽制する目的で行なった急な発展は、結果として北エスタミルと南エスタミルの貧富の差を露わにし、南エスタミルの治安は悪化。統治者の言葉が届かない無政府状態となり、今は盗賊ギルドの介入なしにしてはまとまらないといった有様である。

 指導者が若い女性をさらい密かにハーレムをつくっているなんて噂があるのなら尚更だ。

「安宿なんてたいがい、盗賊ギルドにおさめる上納金をちょろまかすために宿の人間から財布を抜いたりするもんだぜ」

 よくある話だ、といった顔でジャミルは言う。実際にこの街だとその通り、「よくある話」なのだろう。
 だがホークは静かに首を振って見せた。

「だが、その時は盗賊ギルドからの依頼を受けてたんだ。盗賊ギルドの依頼を受けてる俺たちが狙われるのはおかしいだろう?」
「盗賊ギルドの? だったら普通の盗賊や宿はあんたらに手出しなんかしないはずだがなぁ……南エスタミルで盗賊ギルドの影を踏むのは命綱を自分で切るようなもんだぜ」
「だから、相手はただの賊じゃなかったんだよな……この話はまだお前にしてなかったか」

 ジャミルは南エスタミルで孤児として育ってきたのでエスタミルの情勢には詳しいが、ホークの仲間になってからはまだ日が浅い。
 お互いにあまり過去には干渉しないのが暗黙の了解だったからこれまでホークが辿ってきた戦いなどを話していなかったため、『アサシンギルド』についてジャミルに話すのはこれが初めての事だった。

「ありゃぁ、盗賊ギルドの依頼だったな……クジャラートを中心に、かつて存在したアサシンギルドを名乗る奇妙な集団について調べる事になったんだよ」
「アサシンギルド? 聞いた事あるぜ。百年以上は前に存在した、暗殺集団だろ。エスタミルでは詩人が語る悪党の黒幕、みたいな役回りが多いけどな」
「あぁ、多分そいつの事になったんだな。その『存在しないはずのギルド』がまた復活したみたいだから、俺たちがちょっくら調べてみる事になったんだ。どうにも奴さん、サルーインの息がかかった連中っぽくてな……まったく、陸に上がってから俺はずっとあのサルーインとかいう野郎に振り回されっぱなしだぜ」

 ホークは苦笑いをしながら空になったジョッキを眺め、少し考えてから新しいエールを注文する。アイシャからは『あんまり飲み過ぎたらダメですよ』と言われているが、海の男が一杯のエールだけでは満足できなかったのだろう。

 一方のジャミルは、瓶の底にまだエールが残っていないか名残惜しそうに眺めていた。

「あぁ、以前そんなコトを言ってたな。サルーインが洗脳された人間をあつめてアサシンギルドを作ってたとか何とか……アサシンギルドってもともと、盗賊ギルドの前身だったんだよな」
「そうなのか?」
「そういう話だぜ。アサシンギルドの『暗殺』を生業にして、高貴なものや著名なものを屠ってきた。だがあまりにお偉方の秘密を抱え込みすぎて邪魔になったってのも、解散の理由だったみたいだな。で、その暗殺ギルドのノウハウ……忍び足やら、鍵開けやらを引き継いで諜報の面で暗躍するようになったのが、今の盗賊ギルドなんだと」

 もう瓶の中には一滴もエールが残ってないのを見ると、ジャミルは諦めたように新しいエールを頼む。
 ホークの前には新しいジョッキが。ジャミルの前には細い瓶に入れられたエールが置かれた。

「俺たちを襲ってきたのは、そのアサシンギルドの暗殺者だったんだよ……洗脳されて自我を失っていたが、たいした腕だったのを覚えているぜ。まだおまえくらいの若造だったな……」
「へぇ……」

 ジャミルは気のない返事をしながら、瓶のエールに口を付ける。
 元よりこの南エスタミルは路上に餓死した死体が転がっているような街だ。命の軽さは戦場の兵士並なのだろう。
 そんなジャミルの様子をよそに、ホークはあの日現れた暗殺者の姿を思い返していた。
 自分より年若い、何も知らないまま利用された人間をその手にかけた罪悪感を少しでも軽くしたかった。そんな思いもあったのかもしれない。

「……茶色い毛の、そばかすのある……子供みたいな奴だったな。死ぬ間際になって洗脳が解けたんだろう。譫言みたいに誰かの名前と、死にたくない。死にたくないって繰り返して……ありゃ、後味悪かったぜ」
「そばかすのある、茶色の毛……?」

 その言葉を聞いた瞬間、ジャミルの手が止まった事にホークは気付かなかった。
 あるいはほどよく回ったエールとあの後味が悪い死に対する憤りがホークの勘を鈍らせていたのかもしれない。


「背はお前より少し低いかな……お前はあんまりクジャラート人って感じしないが、あいつはいかにもクジャラート人って感じの若造だったか。茶色の癖毛で……歳はたぶんお前と近いんだが、お前よりずっとあどけないような顔をしてた。クジャラート人ってのは髭がないと幼く見えるんだな」
「髭がはえてなかったのか? 俺くらいの年頃なのに?」

 クジャラートの権力者は髭を生やしているものが多く、大人になると髭を伸ばすのが普通だ。 髭が権力の象徴であり、大人の男である証でもあるため、髭がない男は下に見られがちだからだ。
 ジャミルは南エスタミル出身の孤児ではあるが、顔立ちを通り純粋な南エスタミルの民ではない。恐らくは混血か、まったく別の土地で生まれた赤子だったのだろう。それ故にほとんど髭が伸びなかったため、彼は髭を伸ばしてはいなかった。
 それ故に南エスタミルではいつでも若造扱いをされていた事や、ホークが伸ばす立派な髭を見てうらやましがっていたのは記憶にも新しい 。

 ……そういえば、とホークはジャミルが以前話していた事を思い出しす。
 ジャミルの幼馴染みはクジャラート人のようだったが、ジャミルが髭を伸ばさないので自分も伸ばさずまめに剃っていたのだという話をだ。
 それを聞いて、長く付き合いのある友人とわかり合えるのは羨ましいと思ったものである。
 ホークが長く顔を合わせてきた相手がブッチャーだから尚更だ。

「あぁ、髭はなかったな。お前くらいの年齢だと、伸ばしていても当たり前なんだろう? そう考えると、もっと子供だったのかもな。まったく、ガキを洗脳するとか忌々しい奴らだぜ」

 吐き捨てるように語るホークを前に、ジャミルはエールを飲む手を止める。
 そして暫く何かを思案するように俯いたあと。

「俺、ちょっと用事を思い出したからさ。出かけてくる。すぐに戻るから心配しなくてもいいからな」

 そうとだけ言い、部屋を出て行った。

「何だ急に? まぁいいがな……」

 ここは南エスタミル。夜に一人で出歩くにはお世辞にも安全な街ではない。
 だがジャミルはこの街で産まれ育ったのだ。危険な街でも彼にとっては庭のようなものだろう。
 ホークは空になった席を眺めながら、一人で酒を飲む。
 その日のエールはやけに苦く思えた。


 これは、後で聞いた話である。

 ジャミルは幼馴染みと盗賊をやっていたという。
 だが、時の統治者から反感を買い、南エスタミルでの活動が難しくなったので暫く身を隠すために各地を転々と旅をして生活していたそうだ。
 そろそろほとぼりが冷めるかという頃、ジャミルの相棒はすっかり気が滅入っているようだった。ホームシックという奴だろう。
 旅を続けるのが苦痛になっていく相棒を見かねて、ジャミルは彼を故郷に帰した。

 統治者が狙っているのは自分なのだし、相棒には危害を加えないだろう。
 それに、ジャミルの相棒も南エスタミルで育っていたのだ。治安が悪く人の多いあの街に潜んでいても簡単に尻尾を捕まれる事はないだろう。
 そう思って相棒と別れた後、久しぶりにエスタミルへ戻ってみたらもおう相棒はどこにも居なかった。
 暫くは南エスタミルで大人しく過していたのは間違いないが、ある日を境に突然姿を消してしまったらしい。

 ジャミルの旅は子供の頃から憧れだったディスティニィストーンを盗み出す事から、消えた相棒がどこに行ったのかを知る旅へと変化した。
 そこで出会ったのがホークだったのだという。

(まさか、アサシンギルドのはなった刺客の正体が、あいつの幼馴染みだったというのか……?)

 それを知った時、ホークはそう思った。
 だがそれなら、倒した刺客はどこに埋めたのかとか、墓はどうしたとか、そういった事を聞かれてもおかしくないはずだ。だがジャミルはそういった事を今でも一切聞いてはこなかった。
 ジャミルの真意はわからなかったので、ホークは何も言わず、何も聞かない事にした。
 相手が語りたがらない事は、あえてふれない。それが冒険者の間では当然だったからだ。

 ただ、ホークがジャミルにその話をした夜。
 アイシャは窓からジャミルの姿を見かけたのだという。

 エスタミルを別つ川に、エールを注ぐジャミルの姿を。
 その背はどこか悲しげでもあり、寂しげでもあった。
 だが同時に激しい怒りにも憎悪にも、あるいは憤りにも思えるような深く暗い『負』の感情を抱えていたように見えて、声をかけるコトなどできなかったそうだ。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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