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インターネット字書きマンの落書き帳

   
仮初めの月と、真実の思い(ヤマアル)
決して二人で幸せに過すコトがない世界線で、それでも二人でいるコトを望む。
そんなヤマアル概念の話を……していこうぜ!
(幻覚の説明を兼ねた挨拶)

今回は、ヤーナムからあまり離れたコトがないアルフレートくんと、各地を旅し色々な世界を見てきたヤマムラさんが二人で、禁域の森で月を見る話しです。

あそこは月しか見えてないイメージだったけど……星はどうだっけ。
月が眩しすぎると星が見えなくなるからね……。
と記憶が申しているので、もう月しかなかったコトにしました。

ヤマムラさんは輝いている存在しか見えてないから、月とアルフレートくんしか見えてないといった理由なのでしょうがないと思って下さい。



『どの月よりも今日の月が美しく見えるから』

 ヤマムラはよく禁域の森にいた。
 それは連盟のアジトが禁域の森にある事も理由だったろうし、禁域の森に住む蛇はよく虫を飼っているというのも理由だったろう。
 ヤーナムでは余所者の狩人が嫌われているといった事情もあるいはあったかもしれない。

 禁域の森は、いつも銀色の夜に包まれている。
 空と思しき場所はヤーナムの地下であり、その空を模した大地には銀色に輝く仮初めの月が満ちているからだ。

 全ては偽りの空で、本当の空ではない。
 だが仮初めの月はそれでも……いや、あるいは仮初めの月だからこそ、淡く美しく輝いて見えた。

 死体が下水にうち捨てられ、埋葬も億劫になった骸がうずたかく積まれている。
 そんなヤーナムの空はいつでも何処か濁って見え、星の輝きすら届いてないように思えたから一層この偽りの月が美しく見えたのかもしれない。
 いつも濁った空のヤーナムでも、月の美しさを愛でるコトくらいは出来たとは思うが。

「あぁ、アルフレート。来てたのか」

 仮初めの月を眺めるヤマムラの邪魔をしてはいけないと密かに近づいたつもりだったが、足音に気付かれていたらしい。
 そこはヤマムラも狩人といった所か。近づいてくる他人の足音に警戒しないはずもない。

「すいません、驚かすつもりとかは無かったんですが。月を見ていたようだったので……」

 アルフレートは気まずそうに癖毛を指で弄る。
 別にヤマムラの寝首をかこうとか、驚かして茶化そうとかそういった気持ちは本当になかったから見つかって困る事はない。
 だが一応は気配を消して忍び寄ったつもりなのに、それが容易く露見したことが狩人の技術不足を見透かされたような気がして恥ずかしかったのだ。

「……私の気配、明らか様でした? これでも一応、忍んできたんですけど」
「いや、たいしたものだったよ。俺はキミの足音を聞き慣れているから気付いただけさ」

 ヤマムラは草地に腰掛け、得物である千景を手元においたまま空を見ている。

「私の足音がわかるんですか?」
「当たり前だろう」
「そんな、変な癖を出して歩いてますかね……もしそうなら、ちゃんと直しておかないと……」 「いや、そうじゃないよ……キミが来るのを心待ちにして部屋にいる日も多いから、自然とその足音を覚えてしまうものさ」

 ヤマムラは「好き」だとか「愛している」といった言葉を告げる時は非道く赤面してうまく言えない事が多いくせに、こういった言葉をさらりと言う時がある。
 その言葉の方が「愛している」の一言よりずっと胸をざわつかせる言葉だと思うのだが、ヤマムラにとっては「愛している」という言葉のほうがよほど恥ずかしいのだろう。

「……月を見ているんですか?」

 思わぬヤマムラの言葉に対する胸の高鳴りを誤魔化すよう問いかければ、ヤマムラは静かにうなずく。
 彼はここがヤーナムの地下であることも、この月が偽物であるのも全て知っているのだろう。

「あぁ、ここは静かで、この月はいつだって綺麗だからね」

 変わらない絵画のような月だが、ヤマムラはそれを美しいといった。
 アルフレートもヤマムラの隣に座り一緒に空を眺める。
 そこには相変わらず銀色の月が、朧な光を放っていた。

 ヤーナムの街は夜に月を見上げるほど浮かれてはいられない。
 獣の病に罹患したものが隠れて移動し、完全に獣となったものが徘徊しはじめる。その獣を狩る、という名目で医療教会やら、異邦人の狩人やら、時には血族が現れては血と血が交ざる戦いとなるからだ。
 騒ぎに乗じてのこそ泥や人さらいなんかもいる。
 それを考えれば、ヤーナムで静かに月を見上げる余裕のある場所は禁域の森くらいなのかもしれない。

 ここは秘匿された場所であるから、医療教会もあまり立ち入ろうとはしないビルゲンワースの領域だからだ。  
 それでも、ここにあるのは作り物の月だ。
 この輝きも、美しさも全てまやかしだと思うのだが。

「ここだと星は見えませんね……ヤマムラさんは、ここに来るまでに星が綺麗な空も見てきたんでしょう?」
「あぁ、そうだね……厳しい冬の時期や、高い山の上なんかは綺麗な星が見えるよ。空から星が落ちてくるんじゃないかと思う程に星が近くに見える事もあったかな……」

 ヤマムラは、ヤーナムよりずっと東方からきた異邦人だ。
 その口からは長い旅で見た景色や人々、アルフレートの知らない文化や風習などをよく語ってくれていた。
 この空よりも美しい星空に出会った事もあるだろう。

(ヤマムラさんは、私よりずっと広い世界を知っているんですから当然ですよ……)

 ヤマムラはアルフレートより年上で、アルフレートよりずっと長い旅をしてきた。
 彼の知らない過去があるのは当然のことだったが、その事実はヤマムラが自分には手の届かない遠くの世界にいるような気がしてひどく寂しく思えるのだった。

 そんなアルフレートの視線に気付いたのだろうか。
 ヤマムラはふっと優しい表情に変わると。

「あぁ、でも今まで見たどんな空より、この月は美しい。キミと一緒に見れる月だからね」

 幸せそうに笑いながら、そんなことを言うものだから。

「な、に……言ってるんですか。もう……」

 アルフレートは思わず顔を背け、口元を隠す。
 そうしないと赤くなった顔が銀の光に照らされてすぐにわかってしまいそうで、それが恥ずかしかったからだ。

 ヤマムラはそんな彼を横に、朧気に輝く月を見る。
 仮初めの月は柔らかく優しい光で、禁域の森を包んでいた。

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