インターネット字書きマンの落書き帳
「アッシュ・グレイの肖像」の残骸
今日は、「アッシュ・グレイの肖像」のプロットとか見せちゃおうかなッ……。
と、思ったので、出します。
「アッシュ・グレイの肖像」が出来るまでのゴタゴタや、 試行錯誤の痕跡を残しておけば、「思ったより無様ね……」みたいな部分が見れて面白いかな?
そう思うので、残しておきたいとおもーいまーす。
人間アピール!
人間アピールだよ!
僕は小説を独学でやってきたから、無駄な作業とか変事も結構やっていて「じたばた」度合いが凄まじいと思うので、よかったら見ていってください。
折りたたみにしてあるのでよーろしーくねー。
と、思ったので、出します。
「アッシュ・グレイの肖像」が出来るまでのゴタゴタや、 試行錯誤の痕跡を残しておけば、「思ったより無様ね……」みたいな部分が見れて面白いかな?
そう思うので、残しておきたいとおもーいまーす。
人間アピール!
人間アピールだよ!
僕は小説を独学でやってきたから、無駄な作業とか変事も結構やっていて「じたばた」度合いが凄まじいと思うので、よかったら見ていってください。
折りたたみにしてあるのでよーろしーくねー。
では、プロット公開していくよ~。
よーろしーくだよ~。
<最初のプロット>
「リゾートサイド・マーダーケース」(初期のタイトルはミステリーぽさを目指していた)
・プロローグ
テレビを見ていた男の耳に、知った名前が聞こえる。
男は雑誌編集者で、かつて山田ガスマスクと一度だけ仕事をした。
そして、名の意味を知り、当時のことを思い出す。
・取材シーン(回想にあたる)
山田ガスマスクは編集と心霊スポットの撮影をしていた。
かつてラブホテルだったという廃屋は、数十年前に実際に殺人事件がおこったと噂がある場所で、全国的に有名な心霊スポットの一つだ。
今回は定番の心霊スポットに実際に行ったルポとしての記事を書くための取材であり、その取材に使う写真をとるため実際に心霊スポットに行ったのだ。
とはいえ、そこはただの荒れ果てたラブホテルにすぎなかった。
経営者が夜逃げ同然だったということで店の備品がやけに多いが、時々不良連中が肝試しに来るのか、スプレーで書かれた落書きなども多い。
よくある心霊スポット、よくある噂だと思いながら山田は一通り写真をとる。
・車中
取材を終えた山田は、依頼人である編集者(冒頭の男)とともに車に乗る。
編集は、山田と出会った事を回想する。
【回想に使う予定だった話は後述する「1:山田ガスマスクという概念」を参照】
編集は山田を偽名だと思い、何かしらワケアリで本名の名乗らないのだろうと察する。
・旅館
今回の取材は遠出だったため、旅館に泊まることになる。
ホテルではなく旅館だったことに、潔癖の所がある山田は多少不服そうな顔をする。
編集は山田に、実はこの旅館も心霊スポットとして有名なのだという。
何でもこの旅館には男のうめき声のようなものが聞こえるのだという。また、足音や女の幽霊が出るという噂である。
山田は女の幽霊はまだしも、幽霊譚に男が出るのは珍しいと考える。
また、この旅館にいる従業員のほとんどが、少し変わった名字だが同じ名字であることに気づき、この地域全体が同一の名字なのだと知る。
そこで、編集は「一応、過去の事件の裏取りをしたい」という理由で地域の図書館に行くという。
山田もついていこうとするが、編集は山田が体力がなく、心霊スポットが山中にあり結構歩いたことで疲れているだろうと指摘し、ゆっくり休むよう伝える。
休んでいる最中、山田は気になった情報をSNSで収集する。
そして、旅館の中を軽く歩く。
旅館は一見して何の変哲もないが、二階に上る階段が一つしかないことや、二階にトイレが設置されてないことなど、違和感を抱く。
さらに歩いている最中、男のうめき声を聞く。だが、それがどこからするものかわからない。
・帰還
編集は図書館であれこれ調べ、資料になりそうな部分をコピーしてきたという。
そして編集もまた、この旅館の心霊部分が気になる様子だった。
風呂の後、少しだけ気になる事があると編集は呟いていた。そのまま眠るが、夜に起きた時山田は編集がいなくなっていることに気付く。
山田は嫌な予感を憶えつつ、編集の残した資料を確認する。
心霊スポットで事件があったこと。
それは殺人事件ではなく強姦事件だったこと。
強姦の犯人は軽微な罪で前科になったこと。
強姦された女子学生はそれを苦に自殺したことなどが明らかになり、また自殺した女子学生がこの地域の特徴的な名字であることを知る。
山田は、この旅館に隠し部屋があると確信し、場所を探る。
そして二階の奥にある部屋から一階へ降りる階段を発見する。
そこで殴られ気を失っていた編集を見つけ助けると、従業員に取り囲まれる。
・真相
山田は従業員を前に、真相を暴露する。
女子学生が自殺したが、強姦男は地元に戻ってきて安穏と生活をしていた。
悪い男は存外にモテるようで、他の女をたぶらかし結婚しようとまでのたまった。
自殺した少女の遺族たちは男を許すことができず、旅館内に監禁。拷問のようなことをして死なないよう苦しめながら日々を過ごしていることを全てわかっていると伝える。
その上で山田は「法律は人間の心をもっていない」点を指摘。「私刑を肯定するつもりはないが、そいつが私刑に値する人物なのは理解を示す」と伝え、従業員がやっていることを見逃すと告げる。
そのかわり、自分や編集を助けてほしいと伝える。
編集も「警察沙汰になるのはゴメンだ」と、従業員の所業を見逃すことを約束する。
助かると思っていた拷問を受けていた男は、絶望のまま、また暗い部屋に閉ざされる。
・終幕
山田は「罪とは一番嫌なタイミングで暴露されるものだ」と呟く。
同時に「事件が大きくなるタイミングで暴露されたとき、最も大きな衝撃となって世論が動けば、私刑の恐怖から法改正に繋がる可能性」も指摘する。
編集は山田に、罪悪感は傲慢といった話をする。
山田は自らの傲慢さを認め、だからこそこれ以上理想を踏み外したくないと泣き言のような本音をもらす。
あまりに悲しそうな本音を前に、編集もまた自分も名乗れない人間なのだと告げる。
山田は編集に自分の本当の名を告げ、「もしこの名前を聞いたら、今日の答え合わせだと思ってほしい」と去る。
【メモ】
「アッシュ・グレイの肖像」になる前は、ちょっとミステリぽいタイトルにしたいと思ってたのでマーダーケースが入ってますね。
決定稿を見ると分かる通り、「プロローグ」部分が最終稿で「エピローグ」になってます。
また、主人公は当初「編集視点」になる予定だったのもわかりますね。
本編では山田視点で全部進むようになったので、これは良かったんじゃないかなーと思います。
最初のプロットは、「プロローグ部分にエピローグを入れることでキャッチーさを出す」というのが目的だったんですが、この状態だと回想に回想が重なる構成になり、回想だらけにナッチャウヨー! と思ったので、大筋は同じで再構築することにしました。
とはいえ、主題は全て現在の状態でまとまってますね。
これはブログにもある記事ですが……。
「回想の途中に入れる予定だった原稿これです:山田ガスマスクという男」
も入れておきます。
この原稿を、使う予定でした。
始発の電車がようやく走り始めた頃、まだ日も昇りきらず街全体がぼんやりとした薄明かりの中にある。男は街灯と自販機をたどるように歩きながら、待ち合わせの公園へと向かっていた。 T市Y公園にある大時計の下。
待ち合わせは確かこの場所だったはずだ。
男は腕時計を見る。予定時間より30分ほど早く到着していたが、男にとってはそれこそが予定通りだった。
誰かと外回りになる仕事をする時は常に早く到着しておく。
たったそれだけの事でも、相手に「待たしてしまった」というわずかな引け目を感じさせる事ができれば儲もので、こうして無意識に着せた恩が積み重なれば、次の仕事の縁を結んだりもするものだ。
それが、長年B級やアングラなんて言われる業界でフリーの編集者として身を立てている男が自然と身につけた処世術だった。
さて、待ち合わせした相手はまだ来ていないだろうか。来ていなければすぐに見つけられる場所で、スマホに入った電子書籍の積ん読山を少しは崩しておきたいのだが。 そんな事を考えながら辺りを見渡せば、そこにすでに彼はいた。
きっちり整えた髪型にオーバーサイズのパーカーを着た青年は、細身で猫背なこともあり本来の身長よりやや小柄に見える。
まさか、自分より先に来ているとは。
この業界は時間にルーズな人間が多く、待ち合わせに30分以上遅刻してくる手合いも珍しくないのだが、時間にキッチリしているタイプなのだろうか。あるいは、自分と同じような手段を処世術の一つとしてすでに身につけているのかもしれない。
どちらにしても、神経質で思慮深いタイプの人間に多い行動だ。これで仕事にプライドや矜持を抱くタイプだと記事の質やら仕事のやりがいなどを理由にさして金にならない案件でもダラダラと仕事を続けてなかなか片が付かない事態にもなりかねないのだが、彼の場合はどうだろうか。
仕事なんてとっとと片付けて、出来るだけ余暇を楽しみたいと思うタイプなら良いのだが。
「山田さん。待ちましたか、山田さん」
男は不安と億劫さを覆い隠すよう普段より大きめの声で、目的の人物へ声をかけた。
男は青年より一回りほど年上だったが、相手の年齢関わらず敬称をつけて呼ぶのを当たり前にしている。これは、自分の仕事にプライドがあるタイプの手合いや常に周囲からチヤホヤされるのを当然とする手合いとトラブルを避けるため、男が当たり前にしている行動の一つだった。中には敬語をつかうことで格下に見る相手もいるが、そういった相手は一回目に受けた仕事より良い案件をもってくることはほとんど無いので、次からは相手にしない。仕事と付き合いをふるいに掛けるのに、敬語というのは実に扱いやすい試金石だったのだ。
「……山田さん」
だが、山田は自分が呼ばれているのに気付いていないのか、手持ち無沙汰な様子でスマホを眺めるばかり。こちらの声に気付いた様子はない。まだ距離があるから呼ばれているのが自分だというのに気付いてないのだろうか。それにしても、反応が鈍い気がする。まさか、人違いをしているのだろうか。
「山田ガスマスクさん、ですよね」
そばに行き、少し声を大きくして読んだ時、青年はわずかに目を見開いて驚いたようにこちらを向いた。そして、ばつが悪そうな顔をしながら、こちらの顔をのぞき見る。
「えぇっと、すいませんでした。今日一緒に仕事をする予定の、T出版の……」
やはりそうだ、この「山田ガスマスク」という人間は、自分の名前が山田ガスマスクだということにまだ慣れていない。
ガスマスクが本名ではないのは当然のことだが、ありがちな山田という名字のほうも本名と無縁なのだろう。語呂がいいからつけたか、急に名乗る必要があった時に仮に名乗った名前を今でもつかっているに違いない。呼ばれ慣れている名前であれば、もっと早くに気付いているはずだからだ。
だが、男はあえてそこを詮索するのはやめておくことにした。
男は心霊やオカルトといった類いの、いわばB級と言われる本作りに多く関わっているフリーの編集者で、ニッチ業界やアングラと言われる世界で長らく糊口をしのいでいる身だ。この業界で本名を名乗らない人間などゴロゴロいる。こんな界隈で名前を知られたくない、といった者が多いからだ。最近売り出し中の若手ライターである彼もまた、何かしら理由があり名前を変えたばかりでまだ自分の筆名に馴染んでいないのだろう。
男は少し思案して、それから穏やかに笑って見せた。
「いいですよ、私のことは編集さんとでも呼んでください。先日会ったばかりで名刺も交換してませんでしたから、まだ名前を覚えてないですよね」
「すいません、不躾な真似をして。フリーになってまだ間もないから色々と準備が後手になってしまって」
「気にしないでください。こちらこそ、今回の突発的な企画を請け負ってくれてありがとうございます。担当ライターが夜逃げして行方知れずなんて案件を回すような失礼な真似をしてるのはこちらなので、どうぞお気になさらず。他人の尻拭いみたいな仕事を投げてしまったんですから偉そうなこと言えませんし、今回だけの仕事になるかもしれませんから、わざわざ私の名前なんて覚えなくてもいいですよ」
「いえ、そういうワケには……」
「別にいいんですよ。そもそも私は編集として関わってますが、あまり表に名前は出さない人間なんです。名前なんて記号ですから、お互い呼んでわかる名前で充分なんですよ。あなたもそうなんじゃないですか、山田さん」
男の言葉に、山田は少し困ったような顔をして曖昧に頷いた。
やはり、山田ガスマスクというのは筆名であり本名とは無縁の名なのだろう。山田という名字も、本名とは無関係のありふれた名字だからつけたに違いない。
ライターとして顔の出るような仕事をする時は必ずガスマスク姿をしているのも、素顔をあまり見られたくないからだろう。
山田とは今回、先に語ったライター夜逃げの件から突発的にコンビを組む事になった相手ではあるが、仕事をする相手のことを何も知らないというのは失礼だろうと思った男は事前に彼の経歴を調べていた。
今まで扱っていた案件はネット上に流れた噂の検証からゲテモノ系の特殊な食べ物を出す店の食レポといわゆるB級ネタを主とした内容ばかり。心霊や怪異などを取り扱ったオカルト案件も何度か受けているので、抜けた穴としては申し分ない人物だ。
常にガスマスクを付けた見た目のインパクトと淡々としながらも切れ味の鋭い視点から、ライターとしてデビューが浅いとは思えない程にこなれた印象がある。
元々は複数人のチームで動画配信をしており、その頃は素顔で活動していたという。
端正な顔立ちから一定のファンも得ていたと聞いているが、同時に当時は迷惑系配信者やら不謹慎系動画を主に扱っていた関係で賛否両論ある活動もしていたようだ。
何年か前にリーダー格の人物が起業したあたりをきっかけにチームは解散し、それからは各々が個人で活動をしているといった話だが、件のメンバーのなかで配信者時代と名前を変え、容姿を隠し、配信からも距離を置き全くの別業種で活動をしているのはこの山田と、起業したリーダー格の黒沢の二人だけのようだ。
SNSなどで話題になった時も配信者だった頃の活動に触れた事はないあたり、配信者はあくまで学生時代の戯れで社会人になった今はフリーライターとして己の腕一本でやってみる気になったのかもしれない。
彼と会うまではそう思っていたが、実際本人を見てきっと違うのだろうとぼんやりとした確証を得ていた。
山田が過去に扱った記事を見てみたが、彼ほど辣腕家ならB級ライターの活動だけではなく、もっと大きな仕事をとり大きなスクープを扱えるだけの才知もあるはずだ。B級やアングラ界隈で嘘の報道をでっち上げずとも自分の目と足で得た情報で大事件をすっぱ抜けるだけの知識も情報網もある。
だが、今の彼の活動はあくまで日銭を稼ぐための最低限の生活費と、時々お気に入りのカフェで何もせずぼんやりと過ごす事ができればそれで充分といった程度の仕事しか受けていないようだ。興味の沸いた仕事にしか首を突っ込むこともなく、また気乗りしない相手と組むこともあまり無いようだ。
意図して大きな功績をあげず、都会の雑踏に隠れ潜むようにして生きるような立ち振る舞いをしているのは明白だろう。
彼は、有名人になりたいワケでもなければ野心があるわけでもない。
目立たず、息をひそめて暮らすのが何よりも大事なのだ。
「すいません、じゃぁ……編集さん、でいいですか」
口では申し訳なさそうにしているが、山田青年はこちらをうかがうような視線を向ける。
男がどんな人間なのか推し量りかねているのだろう。
元より周囲の人間など誰一人信頼してはいないのだが、一緒に仕事をする相手が敵になるような人間ではないか。敵になったとしても、相手にする必要もない小物であれば捨て置けるのだが。そんな心配の色がわずかに見えるあたり、やはりまだ年若い青年だ。
男は敵意もなければ山田の境遇に何ら興味がない、というアピールをするようなるべく無害に見える笑顔を浮かべた。
「えぇ、それで結構ですよ。行きますかガスマスクさん」
「……山田でいいですよ。流石に移動の時はガスマスクしてないんで」
「それでは、山田さん。そろそろ出ましょう、現場はここから電車で2時間ほどかかりますから」
男はスマホで地図を開きながら、山田と並んで歩き出す。
すると山田から話し始めた。
「編集さんから事前に資料を頂いてるんでネットで出来る下調べだけはしておきましたけど、心霊スポットになってるラブホテルの廃墟で撮影と、その記事を書くのが目的ですよね」
「はい、その通りです。過去に実際に事件があり、そのせいで経営が回らなくなったため夜逃げした……という経緯なので、廃墟のなかでは当時の品がかなり沢山残されているようです。心霊スポット紹介の形になると思いますが、色々とモノが置いてあるタイプの廃墟ですからわざわざ写真を加工しなくても充分いい素材になると思いますよ」
そうでない、がらんどうの廃墟や樹木に覆われ草だらけでろくに中に立ち入れないような心霊スポットの場合、多少は写真に加工をしたり存在しなかった霊現象を大げさに掻き立てる必要があるのだが、この現場はそこまでする必要はない。
過去に事件があったという事実を添えれば充分すぎるくらいの内容になるので、実質写真をとりにいくようなものだ。
「そうみたいですね……事件も調べました。内容が結構エグい事件みたいですね」
「えぇ。その点は凄惨な事件、という事で濁しておきましょう。実際の事件内容に立ち入りすぎると、オカルト系の読者はかえって引くんですよ。オカルトってファンタジーですから、現実に人の生き死にが関わってくる話よりにおわせている方が楽しんでくれますから」
「ふぅん……そういうもんなんですね。あぁ、一応聞いておきますけど、撮影許可は?」
山田の質問に対し、男は曖昧に笑う。それを見ただけで、彼は委細承知したようだ。
「……ま、何か言われたら道路から撮影したからとでも言えばいいですからね」
全てを説明せずともわずかに聞いて理解するのは、アングラな世界を心得ているのもあるがそれ以上に彼自身が聡明なのだろう。
同時に、男の内部にあるどこか捨て鉢な心持ちを抱いているのがはっきりと見てとれた。
彼ほど頭が切れるのなら、わざわざフリーにならずとも一般企業の就職だって出来ていたはずだろう。どこか他人を見下すような所作こそ鼻につくが、実際に社会に出て人前で立ち回れば尖った性格を隠して潜み上司へのおべっかから同僚、後輩のフォローまで何でもこなせる立ち回りなどもできるはずだ。
だが、彼はそうしなかった。
まるで自分の居場所が、光の中にはないように望んで闇へと転がってきたのだ。
名を変えて、その端正な顔を隠し、華々しい実績であるはずの配信者の世界にもすがらなかった理由は、察するに余りある。
過去というのもはひた隠しにしてもどこからか漏れ出て、いずれ露わとなること。そして露わとなる時は、己にとって最も栄華を極めている時だということを彼は心得ているのだろう。
そのように転落するのなら、最初から高いところになど登らなければいい。
低い所から己を欺き、高みに登っていった他の連中や登ろうと足掻く連中などをぼんやりと眺めていることを、彼は選んだのだろう。
男は、その心境を理解できた。
何故なら男もまた、本当の名を名乗れば好奇の視線を向けられ、あれこれ過去を邪推される立場だったからだ。
「えぇ、そうですね。捨て置かれて随分経つ場所ですが、警察に見つかって説教されるのはゴメンですから目立つことは避けましょう。そこまでする程金になる仕事でもないですから」
「まったくその通りですよ……旅費と交通費が出ていなければ、僕だってこんな仕事してません」
「夜逃げしたライターのぶんをキャンセルしてキャンセル料をとられるのが勿体ないと思って、お声がけしたくらいの所がありますからね。山田さんはあまり気負わず、C県にある海の幸と一泊旅行を楽しむくらいの気持ちで来てくださいよ。あそこは、料理の味付けはぼんやりして名物も特にないんですが、魚の鮮度だけはいいですから」
いずれ罪が這いよりその背を掴むのならば、今は一時でも楽しいことをしていよう。
どれほど重い咎を背負っていても、すでにこの男はそれを一生のものとして受け入れる道を選んでいるのだから、それくらいはいいだろう。
この業界は、とりわけそういう人間が多いのだから。
男の言葉に、山田の表情も幾分かは和らぐ。
どうやら少なくとも、こちらに敵意がなくまた今後も敵意を示すつもりは「いまのところ」ないということを察してくれたようだ。
「そうですか。それなら、本当に気楽にやらせてもらいますよ。とはいえ、写真と、記事のPRはしっかりやらせてもらいますよ。SNSのPRは任せてください、一応それなりにファンが多い方なんで」 「ありがとうございます。私はSNSに関してはシロウトで……自分のアカウントはもっているんですけど、ほとんど稼働してない状態で……」
「そうですか? 僕がちょっと宣伝しましょうか。すぐに1000人くらい増えますよ」
「いえ、流石にオジサンの日常がいきなり1000人に見られるのは恥ずかしいので……」
「ははッ……そんなに気負わなくてもいいのに。SNSは見られているようで、そこまで見られていませんよ」
男の言葉に、山田はクスクスと笑う。
その笑顔だけは、まだ年相応の青年らしいあどけなさを残していた。
【メモ】
長ッ!
これブログにも置いてあるやつですね。
当初は「海野虫太郎」という人間は最後まで名前を名乗る予定はなく、編集で通す予定でしたが、山田視点になったら名前があったほうが便利なので「海野」にしました。
山田だから海……ではなく、海野虫太郎の本名が十三だから、というどうでもいいネタがあります。
<キャラクター設定>
初期プロットでのキャラクター設定項目も残ってますので出しますね。
編集のおじさん
一人称は私。
二人称は基本的にキミ。
山田より一回り以上は年上の壮年男性。
中肉中背で短髪、見た目は比較的にしっかりした大人に見える。
長年フリーランスの編集者をしており、特に心霊やオカルト系の媒体に関わっている事が多い。
ただし、本名を出す事は滅多になく、編集のアシスタント的な立ち回りが多い。
時に原稿の仕上がらなかった時は自信が原稿を提出するという荒技も披露する。
ロートルを自称し、オカルト記事もコタツ記事にせず、現場に行き実際の話や事件など調査するタイプ。
最新機器は苦手ではあるが、入稿などはデータで行っている程度の知識はある。
SNSはあまり触れてないが、一応はアカウントをもっているレベル。
ただし仕事の話は一切しない趣味のアカウントとして運用している。
父はとある宗教団体の教祖であり、その教祖は問題を起こしたため宗教団体そのものは解散している。
彼は元々その二代目として高い能力を秘めていたが、意図的に教団から離れそれからは名前を言わず生活している。
本名を名乗ればすぐにその宗教団体と事件に思い至る程度には有名な事件である。
それが、彼が名乗らない最大の理由である。
山田ガスマスク
一人称は僕。
基本的にはキミやあなたと、語彙は全体的に丁重。
最近売り出し中のWebライターだが、内容は主にB級、アングラ、サブカルと呼ばれるジャンルが多い。
顔出しをするタイプの仕事ではガスマスクを着用し、本名を名乗ることはない。
過去におこした事件に対する罪悪感と、それが明らかになった時に転落する恐怖感を同時に抱いており、世を忍ぶような振る舞いをする。
潔癖な性格で、衛生概念が強い。
人が作ったおにぎりなど食べられないタイプ。
【メモ】
編集のおじさんは海野ベースではあるものの、実際はけっこう違う感じに出来てますね。
山ガスの設定は「この話のなかで、編集が知るくらいの距離感の情報はこのくらい、という意味で出してます。
<プロットのおまけ>
初期プロットを書きやすくするため、話の筋道を箇条書きにしたものが残っているので、それも出しておきますね。
基本的に「どこで伏線をいれてどう組み立てるか」の基本設計みたいなやつです。
これは基本的に、自分の描き忘れメモですね。
<プロットの流れ>
・主人公(山田ガスマスク)の相棒が旅館で消える
・主人公は相棒の持ち物を見て、日中の回想をする
・回想シーン、相棒と心霊スポットの取材をする主人公
・主人公はオカルト雑誌の記事のため相棒と心霊スポットにやってくる
・主人公が、確認のため相棒に「ここで自殺があったんだよね?」と聞く、相棒は「そんな風に伝わってるんですね、とはぐらかす」
・少しひっかかりを覚えつつ、心霊スポットなのに何もなくて拍子抜けする主人公
・それを見越したように相棒が、「実は旅館で幽霊が出るらしい」と話す
・幽霊は、髪の長い女。男のうめき声もする。 ・女の幽霊なのに男の声なんて、オカマ? と馬鹿にする主人公
・再度現実のシーン ・廊下には女の幽霊らしい人物が壁の向こうに姿を消す
・そして、男のうめき声「本当じゃん」って顔する主人公
・回想シーン
・旅館で手続きを相棒に任せ、主人公はテレビを見る ・みちびきの光と名のる宗教の特集が組まれている。10年以上前に指導者「じゅうざさま」により信徒が集団自殺した、という教団
・何となく見ていると、相棒がテレビを消して「部屋に戻ろう」と話す
・食事をし、酒を飲んで普通に過ごす
・主人公は相棒が「心霊スポット」の話をしたとき「そういうふうに伝わっているんですね」と言ったのが気になって調べてみる
・心霊スポットでは事件があったが、自殺の話はなかった。かわりに、教師が生徒に悪い事をした事件がいくつかあがってきた
・部屋にかえる主人公は、相棒が「●●容疑者、懲役●年」という小さな記事を見ている
・「何ですかそれ」「別件の調査資料です、ははは」「仕事熱心だなぁ」で終わる
・再度、現実のシーンに戻る ・全ての事実をつなげた主人公は「心霊スポットで自殺があったのは、当時の教師が生徒に悪い事をした、それを絶望した生徒が自殺したから」というものが省略して伝わっただけと気付く
・さらに、この旅館をやっている家族が、その自殺した女の子の家族なのに気付く
・出所した当時の教師を監禁したのでは、相棒もそれに気付いたから浚われたのではと思う
・幽霊が消えた箇所を調べると隠し扉が
・そこで気絶している相棒と、拷問を受けひどい姿になった教師を目の当たりにする
・主人公は「自分たちは罪を裁くつもりもない、その権利もない」と去って行く
・主人公は、ある事件で人を殺めていたが、その事件は解決してなかったのを思い出す
・相棒も、「罪に向き合う覚悟があってしている行動を、止める気はない。そのかわり、私たちがここに来たのも知らないでいてほしい」と告げる
・親族に「帰ってほしい」と言われた二人は、夜明にさっさと追い出される
・車中で夜明をむかえる主人公と相棒
・これでよかったのか、と自問自答する中、相棒は「善し悪しは彼らの中で、もう決まっている」「罪と向き合う必要があるとき、それは偶然ではなく必然、あるいは運命として目の前に現れる」と告げる
・それまで偽名をつかっていた主人公が、相棒に名前を伝える
・エピローグ、海外の仕事を終えてかえってきた相棒が、テレビのニュースで主人公の「本名」を聞く
この箇条書き部分が、「アッシュ・グレイの肖像」のプロットに近いですね。
ただ、「じゅうざさま」の下りは入れてないです。
この削った部分は、ここんで話すと無駄に文章が増えるし、本編とは関係ないから、という理由で削ってます。
そして、最終的なプロットがこちらですねー。
<最終稿を書くために使ったプロット>
「罪深き者よ、汝の名は傲慢」(仮題・これは「アッシュ・グレイの肖像」になってます)
<登場人物>
山田ガスマスク
フリーのWebライター。 オカルト系の取材のため、田舎のリゾート地へとやってくる。
上野天誅事件という殺人事件に関与しており、その事件で一人の男性を殺めている。
また、その事件は犯人と目された人物が、SNSの噂などのせいで自死している。
ぼんやりと、罪悪感を抱いており、本名や素顔を明かさないよう生活をし、自罰的な行動をとりがち。
基本的に慎重で神経質。
海野虫太郎
フリーの編集者で、主にオカルト雑誌や媒体の編集にかかわる。
ライターが夜逃げしたので、急遽山田に依頼をもちかける。
鷹揚な喋り方はやや慇懃無礼さもある、飄々とした人物。
かつて十三断光会という宗教団体の教祖をしており、自らその教団を破滅に追いやっている。 血縁である「サタ」という人物も教祖であり、サタもまた人体を欠損させるという教義を率先して行っていた危険人物であった。
そのこともあり、自身を「先天的な犯罪者」という認識でいる。
【メモ】
海野の細々した背景は、「とりあえず作ったけど今はこの設定であるかは不明みたいなライン」です。
丸尾保仁
25年前、教師をしていたが自分の生徒に手を出す。
だが、その件は示談となりのうのうと生活をしていた。
自分が手を出した生徒のことなどすっかり忘れ、被害者の旅館に泊まってしまったため、被害者家族につかまり監禁され、私刑にあう。
高坂香織
25年前、保仁に乱暴され、その後周囲の噂にたえかね自死した少女。
高坂
旅館の経営者。
被害者遺族であり、丸尾保仁に対して恨みをもち、私刑に走る。
【メモ】
プロットの段階では、高坂香織と高坂詩織の名前は両方決まってなかったですよね。
この二人という起点の名前が決まったのは最後の最後で、書き始めるまでは「高坂一族が全員でやっていたのか」「詩織個人の私怨だったのか」は決めてなかったです。
・導入
山田ガスマスクは焦りながら室内に残された相棒の編集者・海野虫太郎の荷物を探る。
山田が目覚めた時、すでに海野は姿を消していた。
探しても姿はなく、外には車もない。
海野が急に消えるはずがない。そう思った山田は、彼の荷物を探り、彼が消えた理由を探る。 その最中、ぼんやりと海野とのやりとりを思い出していた。
「この旅館は、幽霊が出るって噂なんですよ」
「長い黒髪の、女の幽霊です。定番ですよねぇ」
「それと、草木も眠る丑三つ時、男のうめき声が夜な夜な聞こえてくるそうですよ」
時刻はまさに丑三つ時。
消えた海野の荷物を探るうち、彼が明確に、何かを調べていたことに山田は気づきはじめる。 だがその最中、ギシギシと足音が聞こえてきたので外の様子を覗えば、噂に聞いた通り、長い黒髪の女が廊下にゆらりと現れる。
まさか、噂の幽霊。
そう思いすくみ上がる山田の脳裏に、海野の声が浮かぶ。
「幽霊なんかより、人間がいたほうが怖いですよ」
そうして笑う海野の姿を思い出し、山田は日中の出来事を回想する。
・序盤
山田は心霊スポットの取材として、山の藪にある廃屋に来ていた。
元々はラブホテルだったが、経営が立ち行かなくなり潰れ、夜逃げ同然で経営者が消えたので、廃屋のわりに様々なものが残っていた。
何かしら事件があったらしく、その理由もあって心霊スポットととしてはかなり有名らしい。
廃ホテルの写真を一通り撮り終わった山田に、海野が声をかけてくる。
「どこ行ってたんですか」
「ちょっと、オネエ言葉のかわいいオジサマと楽しいお話をしてきたところですよ」(※このオネエのおじさまは、公安の刑事である)
オネエのオジサマとはいったいなんだと思いつつも、山田は、今回の取材のことを振り返る。 この取材は本来、山田ではなく別の人物が行く予定だったこと。
そして、その別のライターが直前に行方をくらましたので、急遽声をかけられたことを回想する。
山田は海野と知り合いではなかった。
ただ、山田がWebライターとして仕事を得るため、暇な時間に雑誌編集者などが良く通うという喫茶店に出向き、幾人かの編集者に名刺を配っていた。
海野はその時、ゲラ読みをしていた編集者で、その内容が気になり少し話した相手である。 名刺は交換しなかったが、「山田ガスマスク」という名前にインパクトがあったのか、海野がそれを覚えていて声をかけたのだ。
「穴埋めの仕事なんで、そこまで無理はさせませんよ。旅費はこっち持ちで、記事もテンプレがありますから……一拍旅行のつもりで来て下さい」
海野に言われ、山田はオカルト系の仕事も経験したいと思い、彼について行くことにしたのだ。
仕事をする気になったのは、依頼料が美味しいというのもあったが、海野の名刺が「海野虫太郎」と、完全に偽名とわかる名前だったことに、同じように偽名で活動する親近感をもったからだ。
山田ガスマスクは当然、本名ではない。
SNSで写真をUPする時も、ガスマスク姿をメインにして素顔を出す事は滅多にないし、山田すら本名ではない。
というのも、彼は後に「上野天誅事件」と呼ばれる殺人事件に関わっている犯人の一人であり、その罪が露見するのを恐れ、顔も名前もあまり出さないようにしていたのだ。
物思いにふける山田の顔を覗き込むよう、海野は告げる。
「罪悪感は、傲慢ですよ」
「急に何言ってるんですか?」
「いえ、何かしでかしたー。という顔をしてらっしゃるので。罪悪感は、自分はそんなことをする人間ではない。自分は、そんな罪を犯すのにふさわしくない。そのような傲慢さが、罪悪感の根源です。そう思うと……罪悪感を抱く自分が恥ずかしくなるでしょう? だからあんまり難しく考えないようにしましょう。不法侵入くらいなら、軽い注意ですみますから」
海野は、廃ホテルに立ち入った事に、山田が罪悪感を抱いていると思ったようだ。
「わかってますよ。それより、ここより途中にあった道の廃墟のほうが心霊スポットっぽくなかったですか? 何か、施設みたいな……」
「あ、アレはダメです。殉教者の光、って教団の分派だった施設ですから」
殉教者の光は聞いた事がある、一昔前にあった新興宗教のことだ。
色々ヤバい話も聞いている。 山田は合点をし、海野の車に乗って今日の宿泊場所へと向かう。
「そういえば、あのホテルって事件があったんでしょ? 人が死んでるとか。そういう所、オカルトで扱ったら不謹慎って言われちゃうんじゃない?」
「オカルトなんて不謹慎でデリカシーのないものですよ。それに……事件はありましたが、あの場所では誰も死んでませんから」
軽く笑い飛ばす海野は、思いついたように語る。
「実は、これから行く旅館は幽霊が出るらしいんですよ。心霊スポットだけじゃ物足りないかと思って、幽霊の出る宿を取ったんです。面白いでしょう?」
「何でも、髪の長い女の幽霊とか。これは鉄板ですよね。それと、丑三つ時に男のうめき声がするとか」
嬉々とした様子で語る海野に、山田は呆れる。
「女の幽霊で男のうめき声なんて、デタラメすぎません? 女装してる男ってことですか?」
「あはは、たしかにチグハグですねぇ。でも、女性の姿で男の声なんてのは珍しくないですよ。八尺様とかもそうですから……」
二人はそのまま、流行りの怪談話をして宿を目指す。
・中盤
宿につき部屋でくつろぐ山田は、従業員が全員「高坂」という名字なのに気付く。
あまりない名字が複数人いるので「家族経営なんですか?」と聞くと、「家族ではないけど、この周辺は全員親戚みたいなもんで。ほとんど同じ名字なのだ」という話を聞く。
山田は、「高坂」という名字にどこか聞き覚えがあり、引っかかるものを感じるが、食事が来た事ので考えるのをやめる。
その後、大浴場もあると聞いた山田は一人、大浴場に向かい戻る。
すると、海野が真剣な顔でスクラップブックを読み込んでいるのに気付く。
声をかけると、海野は驚いた様子で慌ててスクラップブックをしまう。
「何読んでたんですか?」
「次の仕事の資料ですよ。事前にこっちでも調べておかないといけませんから」
そう告げる海野に、山田は少しばかり違和感を覚えるものの、編集者と仕事をしたのは始めてだったので「フリーの編集者とかこんなものか」「それに、詮索されるのは自分も嫌だし、向こうだって偽名を使うんだから理由があるのだろう」そう思って、気にしない事にした。
だが、記事のタイトルがぼんやりと記憶に残る。
女子高生が教師に無惨……といったタイトルを断片的に思い出した山田は、海野が大浴場に行く最中にスマホで事件について調べる。
その事件は、当時まだ学生だった少女が教師に無理矢理ホテルに連れ込まれ、性的暴力を受けたというものだった。
古い事件だったことや、教師が比較的に名士の血縁だったこと、教師の評判がよく男っぷりもよかったことなどから、事件の当時は「女が誘った」「教師は悪くない」と、被害者女性を叩く記事が多いのを見て、山田はどの時代も、噂は人を苦しめるものだと呆れる。
そして、この事件がおきた場所があの心霊スポットとなっている廃ホテルなのを知り「あの場所であったのは、この事件だったのか」と気付く。
山田自身がおこした上野天誅事件も、犯人と噂された人物がつるし上げられ、自殺していたのだ。
自分の起こした事件で、人が二人死んでいる。だが、一人は自分ではない、大衆が殺したのだ。
苦い事実を誤魔化すよう、山田は部屋にあるビールを飲むとそのまま布団に転がる。
それから、海野が部屋に戻り、誰かと電話で話している声をぼんやりと聞く。
「そうですねぇ……殉教者の光とは関連性が薄いと思いますけど、気になるのでちゃんと調べておきますよ、富入さん(※公安刑事の名前)」
ぼそぼそと話し声を子守歌に、眺めながら山田は眠りに就く。
・中盤~終盤
序盤のシーンに、ここで戻る。
目覚めてから海野がいないのに気づき、海野の荷物を改めた山田は廊下にいる幽霊の様子を覗う。
ギシギシと足音をたてる姿から、あれは幽霊ではない、人間だと思い、眠ったふりをしてその場を耐えて幽霊が去るのを待つ。
そして改めて、海野の荷物を確認する。
スクラップブックには、教師の暴行罪が周囲の圧力により示談となったこと。
その後、心ない噂や事件の苦しみから被害者の少女が自死したことが調べられている。
また、加害者の「丸尾保仁」はその後、この地域を離れて結婚。 子供をもうけた後、幸せに暮らしていたが現在は離婚しつつ、普通に暮らしているというメモも見つける。
それらの話を裏付けるかのように、海野の残したボイスレコーダーには、地域の名士・丸尾家の長男・保仁について悪く言うのを避ける地域住民の声や、保仁本人らしい男の「俺に抱かれたなら喜べ」などという軽率な発言、被害者の少女の母の「私のせいだった」という苦渋に漏れた訴えなどが残されていた。
そして、被害者の少女が「高坂香織」だったことを知った山田は、これまでの事件がすべて、この旅館の出来事と関連しているのに気付く。
山田は息をひそめ、幽霊が消え去った廊下へ向かう。
そこに人の姿はなく、やはり幽霊だったのかと怯える山田だったが、改めて気を取り直し、スマホのライトで行き止まりの廊下を調べる。
廊下はついたてがあるだけで、その下には階段が伸びていた。
・終盤
階段を降りた山田は、床に転がって気を失っている海野を見つける。
あわてて海野のそばに近づく山田の前に、髪の長い女が姿を現す。
山田は、髪の長い女はこの旅館の女将であることを告げる。
そして、この旅館がいまから25年前、強姦被害にあったのを苦にして自死した高坂香織の縁者ではないかと推測する。
山田の話を聞いた女は、自分が高坂香織の実の姉であることを告げる。
妹を失ってから、母が狂い新興宗教にのめり込み自死し、父は心労で倒れ、旅館をやるのも苦労したこと。
その状況なのに地元の名士である丸尾家に対し畏れのある田舎のムラ社会のせいで、大っぴらに文句も言えなかった事。
そして、加害者の保仁がのうのうと暮らし、離婚した後はこの地域に戻ってきて、名士の看板を背に市議会などに立候補するつもりと吹聴していたことなどを話す。
高坂家は保仁に恨みを忘れておらず、この旅館に来た保仁をとらえて監禁し、毎日のように拷問を行っていた。
そのうめき声が周囲に漏れたのが心霊現象の正体だったのだ。
強い恨みと覚悟をもって私刑に及ぶ被害者遺族たちを前に、山田は告げる。
「僕は別に、あなたたちの罪を暴きにきた訳じゃない。僕にはその資格もない」
「でも、海野さんにまで手を出したら、だめだと思う。そこまでしたら、きっとあなた達の中にある罪が変わってしまう気がする」
「だから、海野さんは返して」
必死の説得に、高坂家は黙り込む。
そこで目覚めた海野も告げる。
「私は、今日、この事件で調べた資料を全部もってきてます。それを、あなたたちにお預けしますよ。コピーなんかない、原本だけです。その男の罪と、あなたたちの後悔の記録です」
「私は、公安に頼まれて殉教者の光と関係がないか調べにきただけです。宗教と無関係なら、公安に無関係だったと報告するだけ。あなた達を罰するつもりはありませんから」
やさしく諭すような声を前に、高坂家は山田と海野の言葉をのむ。
そして、海野から資料一式を全て預かった後
「あなたたちを信じてない訳ではないです。ですが、もうお帰りください。これ以上、この場にいてほしくない」
そう言われた山田と海野は、荷物をまとめて車に乗り込む。
世があけ空は白み始めていた。
・ラスト
夜明の近い灰色の空と水平線を眺めながら、山田は黙り込む。
本当にこれでよかったのか。
自分も、このままでいいのだろうか。
いつか、自分の罪が暴かれる時があるのか。
あの事件を、自分はどう捉えているのだろう。
考えれば考えるほど沈む思いを振り切るよう、山田は海野にいった。
「でも、いいんですか本当に。あの……私刑ってヤバいですよね。見過ごしちゃって」
「別にいいですよ。あの家族が、私たちの事を口外するとは思えませんし。それに……あの家族は、己の罪を向き合い、背負う覚悟がありますから。罪が暴かれるのは……彼女たちにとって、最も適切でふさわしい時です」
最もふさわしい時に、罪が暴かれるのだとしたら。
自分の罪は、いつ、どのように暴かれるのだろう。
「……空も、海も灰色ですね。全部燃え尽きたみたいだ」
ぽつり呟く山田に、海野は笑う。
「えぇ。でも、灰は再生の色ですよ……全て燃え尽きて無くなったようでも、新たに肥沃な大地を生みます。何も残らないなんてことはありません。罪もまた、正しく浄化されれば新たな大地へと戻る糧になる。そのように、向き合えればいいですよね」
程なくして、広々としたパーキングエリアにたどり着く。
道の駅というやつか。田舎のリゾート地でオフシーズンなのもあって閑散としている。
「旅館で眠り損なったので、ここで少し休憩してもいいですか?」
海野に言われ降り、ベンチに座ってぼんやりと海と空を眺める。
「コーヒーを飲んだら行きましょうか」
海野からコーヒーを手渡された山田は、意を決したように海野を見た。
「あの、海野さん。僕、山田ガスマスクってペンネームなんですよ」
「えぇ、そうでしょうね。流石に本名がガスマスクさんはご両親のセンスが尖りすぎてますから」
「ですよねぇ……それで、僕の本名なんですけど……」
山田は、海野に本名を告げる。
「……覚えていたら、いい事あるかもしれませんよ」
そして、吹っ切れたように笑ってみせた。
・エピローグ
海野は予定より長い海外の出張から戻る。
世界中を大混乱に陥れた大きなテロ事件、GR(グレートリセット)がおこった影響で帰国が遅れたのだ。
乱雑な部屋で一息つき、コーヒーを入れ始める海野はテレビのニュースで、GRの報道を聞く。
ずっと海外にいたので詳細な情報を聞いていなかったな。
そう思った海野はニュースの中で、「かつて聞いた山田の本名」が流れているのに気付いた。
「……そうだったんですね。山田くん」
海野は呟く。
「あなたの罪が浄化され、新たな導きを得るよう……」
そして小さく祈りを捧げる。
【メモ】
これはほぼ、本編に全部書いてあると思います。
僕はプロットを「これ書いたかな?」という伏線管理表みたいに使っているので、プロットでも結構言わせたい台詞をバンバン入れる方です。
台詞の違いとか、実際の展開との差異なんかは、是非! 本編を買って読んでみてね!
<余談>
一応、ホラーっぽく「導入からちゃんとやる」方法で書いてはいたんですよ。
こんなかんじで1000文字くらい。
これは、最初に書いたプロットに準じた書き方です。
新緑眩しい初夏の頃、人里から離れた山間の廃屋におおよそ似つかわしくないシャッター音が鳴り響いていた。
中に入るのも躊躇われるほど荒れ果て傾き歪んでいる眼前の建物は、かつてのラブホテルで、もう20年以上まえに経営者が夜逃げしてからそのままなのだそうだ。
まだ営業している当時から幽霊が出るという噂が絶えなかったいわくつきのホテルであり、今でも心霊スポットとして語り継がれている。
だが、見る限りただの廃墟だ。
外観は半ば崩れはて、床の半分は落ち葉に覆われた手つかずの廃ホテルの壁には地元の不良やヤンキーと呼ばれる連中が残していったと思われる大仰な落書きと卑猥な言葉が書き殴られていた。
デジカメを構えながら青年は、どこの廃墟は心霊スポットの類いにもこの手の落書きがあることを思い出す。
道中、今回の仕事で相棒を務める編集者から、
「場所に迷ったら、地元にいるいかにもって不良に場所を聞いてみるといいよ。大体の不良は、心霊スポットで肝試しをしているもんだから」
なんてアドバイスをされた時は、まさかそんな馬鹿なことがあるかと思ったが、どこの壁にも一カ所は先人がきた証拠のようにスプレー缶で落書きされているところを見ると、心霊スポットには不良やヤンキーが行くというのはあながち間違いでもないようだ。
ひとしきり撮影を終えた青年は、その場で写真を確認する。
幽霊が出た、女の幽霊を見たという評判で有名なホテルには、確認する限り心霊らしいものは映り込んでいなかった。シャイな幽霊なのか、あるいはカメラで写真を撮られるのは恥ずかしいのだろう。
幽霊こそ映ってはいないが、ここがすでに廃棄さえた場所でありうち捨てられた建物が持つ特有の哀愁とそこはかとない不気味さは充分味わえるだろう。プロカメラマンという訳ではないからお世辞にも綺麗な写真とは言えないが、多少ブレていたり違和感のある構図のほうが読者ウケがいいとも言われている。最低限の仕事はしたと思っていいだろう。
「山田さーん、どうですかそっちの方は」
撮れた写真を確認していると、廃墟の中から壮年の男が顔を出す。
その姿を見て、山田と呼ばれた男は眉間にしわを寄せて訝しげな視線を向けてしまった。
「えぇ、4,50枚は撮っておきました。似たりよったりの写真なんでどれがいい、ってのはわかりませんが、1枚くらいはモノになりますよ、それより、大丈夫なんですか? 今、ホテルの中から出てきましたよね。公道から撮影したなら許可なしでもセーフでしょうけど、中に入るのは流石にマズイんじゃないですか」
山田は男と廃墟、交互に視線を向ける。
だが、男は特に悪びれる様子も見せず穏やかな笑顔を見せた。
「ははは、大丈夫ですよ。中で撮影した写真は、読者から提供された写真ってことにしておきますから」
手をひらひらと振りながら心配するなとアピールする姿から、このような取材で不法侵入をして写真をとるのも相手にとって日常茶飯事のようだ。
山田は一つため息をつくも、自分が巻き込まれないのならあえて口出しする必要もないと思い直して男にカメラを差し出した。
「外観の撮影、ありがとうございます山田さん。写真お上手ですね、これなら充分使えますよ……あ、私の写真も見ます?」
「そうですね。確認させてもらいます」 山田は男の手からデジカメを受け取り、写真を確認する。
【メモ】
別に悪い書き出しじゃないとは思うですけどね。
でも、これだいたい、1000文字くらいあるんだけど。 ここまで書いて「ダレる!」「順番にかくと、読者はだれるよ!」と思って、決定稿はいきなり事件から始めるようにしました。
だいたい、プロット周りはこんなところかな?
僕はかなり独学でヘンテコなことをやるタイプではあるし、変な方向で思い切りがよかったりもするので「何やってんの!?」みたいなことは頻繁にあるんですが……。
それでも、「何でもやっていいんだな!」って感じで。、誰かの役に立ったりすれば幸いです。
よーろしーくだよ~。
<最初のプロット>
「リゾートサイド・マーダーケース」(初期のタイトルはミステリーぽさを目指していた)
・プロローグ
テレビを見ていた男の耳に、知った名前が聞こえる。
男は雑誌編集者で、かつて山田ガスマスクと一度だけ仕事をした。
そして、名の意味を知り、当時のことを思い出す。
・取材シーン(回想にあたる)
山田ガスマスクは編集と心霊スポットの撮影をしていた。
かつてラブホテルだったという廃屋は、数十年前に実際に殺人事件がおこったと噂がある場所で、全国的に有名な心霊スポットの一つだ。
今回は定番の心霊スポットに実際に行ったルポとしての記事を書くための取材であり、その取材に使う写真をとるため実際に心霊スポットに行ったのだ。
とはいえ、そこはただの荒れ果てたラブホテルにすぎなかった。
経営者が夜逃げ同然だったということで店の備品がやけに多いが、時々不良連中が肝試しに来るのか、スプレーで書かれた落書きなども多い。
よくある心霊スポット、よくある噂だと思いながら山田は一通り写真をとる。
・車中
取材を終えた山田は、依頼人である編集者(冒頭の男)とともに車に乗る。
編集は、山田と出会った事を回想する。
【回想に使う予定だった話は後述する「1:山田ガスマスクという概念」を参照】
編集は山田を偽名だと思い、何かしらワケアリで本名の名乗らないのだろうと察する。
・旅館
今回の取材は遠出だったため、旅館に泊まることになる。
ホテルではなく旅館だったことに、潔癖の所がある山田は多少不服そうな顔をする。
編集は山田に、実はこの旅館も心霊スポットとして有名なのだという。
何でもこの旅館には男のうめき声のようなものが聞こえるのだという。また、足音や女の幽霊が出るという噂である。
山田は女の幽霊はまだしも、幽霊譚に男が出るのは珍しいと考える。
また、この旅館にいる従業員のほとんどが、少し変わった名字だが同じ名字であることに気づき、この地域全体が同一の名字なのだと知る。
そこで、編集は「一応、過去の事件の裏取りをしたい」という理由で地域の図書館に行くという。
山田もついていこうとするが、編集は山田が体力がなく、心霊スポットが山中にあり結構歩いたことで疲れているだろうと指摘し、ゆっくり休むよう伝える。
休んでいる最中、山田は気になった情報をSNSで収集する。
そして、旅館の中を軽く歩く。
旅館は一見して何の変哲もないが、二階に上る階段が一つしかないことや、二階にトイレが設置されてないことなど、違和感を抱く。
さらに歩いている最中、男のうめき声を聞く。だが、それがどこからするものかわからない。
・帰還
編集は図書館であれこれ調べ、資料になりそうな部分をコピーしてきたという。
そして編集もまた、この旅館の心霊部分が気になる様子だった。
風呂の後、少しだけ気になる事があると編集は呟いていた。そのまま眠るが、夜に起きた時山田は編集がいなくなっていることに気付く。
山田は嫌な予感を憶えつつ、編集の残した資料を確認する。
心霊スポットで事件があったこと。
それは殺人事件ではなく強姦事件だったこと。
強姦の犯人は軽微な罪で前科になったこと。
強姦された女子学生はそれを苦に自殺したことなどが明らかになり、また自殺した女子学生がこの地域の特徴的な名字であることを知る。
山田は、この旅館に隠し部屋があると確信し、場所を探る。
そして二階の奥にある部屋から一階へ降りる階段を発見する。
そこで殴られ気を失っていた編集を見つけ助けると、従業員に取り囲まれる。
・真相
山田は従業員を前に、真相を暴露する。
女子学生が自殺したが、強姦男は地元に戻ってきて安穏と生活をしていた。
悪い男は存外にモテるようで、他の女をたぶらかし結婚しようとまでのたまった。
自殺した少女の遺族たちは男を許すことができず、旅館内に監禁。拷問のようなことをして死なないよう苦しめながら日々を過ごしていることを全てわかっていると伝える。
その上で山田は「法律は人間の心をもっていない」点を指摘。「私刑を肯定するつもりはないが、そいつが私刑に値する人物なのは理解を示す」と伝え、従業員がやっていることを見逃すと告げる。
そのかわり、自分や編集を助けてほしいと伝える。
編集も「警察沙汰になるのはゴメンだ」と、従業員の所業を見逃すことを約束する。
助かると思っていた拷問を受けていた男は、絶望のまま、また暗い部屋に閉ざされる。
・終幕
山田は「罪とは一番嫌なタイミングで暴露されるものだ」と呟く。
同時に「事件が大きくなるタイミングで暴露されたとき、最も大きな衝撃となって世論が動けば、私刑の恐怖から法改正に繋がる可能性」も指摘する。
編集は山田に、罪悪感は傲慢といった話をする。
山田は自らの傲慢さを認め、だからこそこれ以上理想を踏み外したくないと泣き言のような本音をもらす。
あまりに悲しそうな本音を前に、編集もまた自分も名乗れない人間なのだと告げる。
山田は編集に自分の本当の名を告げ、「もしこの名前を聞いたら、今日の答え合わせだと思ってほしい」と去る。
【メモ】
「アッシュ・グレイの肖像」になる前は、ちょっとミステリぽいタイトルにしたいと思ってたのでマーダーケースが入ってますね。
決定稿を見ると分かる通り、「プロローグ」部分が最終稿で「エピローグ」になってます。
また、主人公は当初「編集視点」になる予定だったのもわかりますね。
本編では山田視点で全部進むようになったので、これは良かったんじゃないかなーと思います。
最初のプロットは、「プロローグ部分にエピローグを入れることでキャッチーさを出す」というのが目的だったんですが、この状態だと回想に回想が重なる構成になり、回想だらけにナッチャウヨー! と思ったので、大筋は同じで再構築することにしました。
とはいえ、主題は全て現在の状態でまとまってますね。
これはブログにもある記事ですが……。
「回想の途中に入れる予定だった原稿これです:山田ガスマスクという男」
も入れておきます。
この原稿を、使う予定でした。
始発の電車がようやく走り始めた頃、まだ日も昇りきらず街全体がぼんやりとした薄明かりの中にある。男は街灯と自販機をたどるように歩きながら、待ち合わせの公園へと向かっていた。 T市Y公園にある大時計の下。
待ち合わせは確かこの場所だったはずだ。
男は腕時計を見る。予定時間より30分ほど早く到着していたが、男にとってはそれこそが予定通りだった。
誰かと外回りになる仕事をする時は常に早く到着しておく。
たったそれだけの事でも、相手に「待たしてしまった」というわずかな引け目を感じさせる事ができれば儲もので、こうして無意識に着せた恩が積み重なれば、次の仕事の縁を結んだりもするものだ。
それが、長年B級やアングラなんて言われる業界でフリーの編集者として身を立てている男が自然と身につけた処世術だった。
さて、待ち合わせした相手はまだ来ていないだろうか。来ていなければすぐに見つけられる場所で、スマホに入った電子書籍の積ん読山を少しは崩しておきたいのだが。 そんな事を考えながら辺りを見渡せば、そこにすでに彼はいた。
きっちり整えた髪型にオーバーサイズのパーカーを着た青年は、細身で猫背なこともあり本来の身長よりやや小柄に見える。
まさか、自分より先に来ているとは。
この業界は時間にルーズな人間が多く、待ち合わせに30分以上遅刻してくる手合いも珍しくないのだが、時間にキッチリしているタイプなのだろうか。あるいは、自分と同じような手段を処世術の一つとしてすでに身につけているのかもしれない。
どちらにしても、神経質で思慮深いタイプの人間に多い行動だ。これで仕事にプライドや矜持を抱くタイプだと記事の質やら仕事のやりがいなどを理由にさして金にならない案件でもダラダラと仕事を続けてなかなか片が付かない事態にもなりかねないのだが、彼の場合はどうだろうか。
仕事なんてとっとと片付けて、出来るだけ余暇を楽しみたいと思うタイプなら良いのだが。
「山田さん。待ちましたか、山田さん」
男は不安と億劫さを覆い隠すよう普段より大きめの声で、目的の人物へ声をかけた。
男は青年より一回りほど年上だったが、相手の年齢関わらず敬称をつけて呼ぶのを当たり前にしている。これは、自分の仕事にプライドがあるタイプの手合いや常に周囲からチヤホヤされるのを当然とする手合いとトラブルを避けるため、男が当たり前にしている行動の一つだった。中には敬語をつかうことで格下に見る相手もいるが、そういった相手は一回目に受けた仕事より良い案件をもってくることはほとんど無いので、次からは相手にしない。仕事と付き合いをふるいに掛けるのに、敬語というのは実に扱いやすい試金石だったのだ。
「……山田さん」
だが、山田は自分が呼ばれているのに気付いていないのか、手持ち無沙汰な様子でスマホを眺めるばかり。こちらの声に気付いた様子はない。まだ距離があるから呼ばれているのが自分だというのに気付いてないのだろうか。それにしても、反応が鈍い気がする。まさか、人違いをしているのだろうか。
「山田ガスマスクさん、ですよね」
そばに行き、少し声を大きくして読んだ時、青年はわずかに目を見開いて驚いたようにこちらを向いた。そして、ばつが悪そうな顔をしながら、こちらの顔をのぞき見る。
「えぇっと、すいませんでした。今日一緒に仕事をする予定の、T出版の……」
やはりそうだ、この「山田ガスマスク」という人間は、自分の名前が山田ガスマスクだということにまだ慣れていない。
ガスマスクが本名ではないのは当然のことだが、ありがちな山田という名字のほうも本名と無縁なのだろう。語呂がいいからつけたか、急に名乗る必要があった時に仮に名乗った名前を今でもつかっているに違いない。呼ばれ慣れている名前であれば、もっと早くに気付いているはずだからだ。
だが、男はあえてそこを詮索するのはやめておくことにした。
男は心霊やオカルトといった類いの、いわばB級と言われる本作りに多く関わっているフリーの編集者で、ニッチ業界やアングラと言われる世界で長らく糊口をしのいでいる身だ。この業界で本名を名乗らない人間などゴロゴロいる。こんな界隈で名前を知られたくない、といった者が多いからだ。最近売り出し中の若手ライターである彼もまた、何かしら理由があり名前を変えたばかりでまだ自分の筆名に馴染んでいないのだろう。
男は少し思案して、それから穏やかに笑って見せた。
「いいですよ、私のことは編集さんとでも呼んでください。先日会ったばかりで名刺も交換してませんでしたから、まだ名前を覚えてないですよね」
「すいません、不躾な真似をして。フリーになってまだ間もないから色々と準備が後手になってしまって」
「気にしないでください。こちらこそ、今回の突発的な企画を請け負ってくれてありがとうございます。担当ライターが夜逃げして行方知れずなんて案件を回すような失礼な真似をしてるのはこちらなので、どうぞお気になさらず。他人の尻拭いみたいな仕事を投げてしまったんですから偉そうなこと言えませんし、今回だけの仕事になるかもしれませんから、わざわざ私の名前なんて覚えなくてもいいですよ」
「いえ、そういうワケには……」
「別にいいんですよ。そもそも私は編集として関わってますが、あまり表に名前は出さない人間なんです。名前なんて記号ですから、お互い呼んでわかる名前で充分なんですよ。あなたもそうなんじゃないですか、山田さん」
男の言葉に、山田は少し困ったような顔をして曖昧に頷いた。
やはり、山田ガスマスクというのは筆名であり本名とは無縁の名なのだろう。山田という名字も、本名とは無関係のありふれた名字だからつけたに違いない。
ライターとして顔の出るような仕事をする時は必ずガスマスク姿をしているのも、素顔をあまり見られたくないからだろう。
山田とは今回、先に語ったライター夜逃げの件から突発的にコンビを組む事になった相手ではあるが、仕事をする相手のことを何も知らないというのは失礼だろうと思った男は事前に彼の経歴を調べていた。
今まで扱っていた案件はネット上に流れた噂の検証からゲテモノ系の特殊な食べ物を出す店の食レポといわゆるB級ネタを主とした内容ばかり。心霊や怪異などを取り扱ったオカルト案件も何度か受けているので、抜けた穴としては申し分ない人物だ。
常にガスマスクを付けた見た目のインパクトと淡々としながらも切れ味の鋭い視点から、ライターとしてデビューが浅いとは思えない程にこなれた印象がある。
元々は複数人のチームで動画配信をしており、その頃は素顔で活動していたという。
端正な顔立ちから一定のファンも得ていたと聞いているが、同時に当時は迷惑系配信者やら不謹慎系動画を主に扱っていた関係で賛否両論ある活動もしていたようだ。
何年か前にリーダー格の人物が起業したあたりをきっかけにチームは解散し、それからは各々が個人で活動をしているといった話だが、件のメンバーのなかで配信者時代と名前を変え、容姿を隠し、配信からも距離を置き全くの別業種で活動をしているのはこの山田と、起業したリーダー格の黒沢の二人だけのようだ。
SNSなどで話題になった時も配信者だった頃の活動に触れた事はないあたり、配信者はあくまで学生時代の戯れで社会人になった今はフリーライターとして己の腕一本でやってみる気になったのかもしれない。
彼と会うまではそう思っていたが、実際本人を見てきっと違うのだろうとぼんやりとした確証を得ていた。
山田が過去に扱った記事を見てみたが、彼ほど辣腕家ならB級ライターの活動だけではなく、もっと大きな仕事をとり大きなスクープを扱えるだけの才知もあるはずだ。B級やアングラ界隈で嘘の報道をでっち上げずとも自分の目と足で得た情報で大事件をすっぱ抜けるだけの知識も情報網もある。
だが、今の彼の活動はあくまで日銭を稼ぐための最低限の生活費と、時々お気に入りのカフェで何もせずぼんやりと過ごす事ができればそれで充分といった程度の仕事しか受けていないようだ。興味の沸いた仕事にしか首を突っ込むこともなく、また気乗りしない相手と組むこともあまり無いようだ。
意図して大きな功績をあげず、都会の雑踏に隠れ潜むようにして生きるような立ち振る舞いをしているのは明白だろう。
彼は、有名人になりたいワケでもなければ野心があるわけでもない。
目立たず、息をひそめて暮らすのが何よりも大事なのだ。
「すいません、じゃぁ……編集さん、でいいですか」
口では申し訳なさそうにしているが、山田青年はこちらをうかがうような視線を向ける。
男がどんな人間なのか推し量りかねているのだろう。
元より周囲の人間など誰一人信頼してはいないのだが、一緒に仕事をする相手が敵になるような人間ではないか。敵になったとしても、相手にする必要もない小物であれば捨て置けるのだが。そんな心配の色がわずかに見えるあたり、やはりまだ年若い青年だ。
男は敵意もなければ山田の境遇に何ら興味がない、というアピールをするようなるべく無害に見える笑顔を浮かべた。
「えぇ、それで結構ですよ。行きますかガスマスクさん」
「……山田でいいですよ。流石に移動の時はガスマスクしてないんで」
「それでは、山田さん。そろそろ出ましょう、現場はここから電車で2時間ほどかかりますから」
男はスマホで地図を開きながら、山田と並んで歩き出す。
すると山田から話し始めた。
「編集さんから事前に資料を頂いてるんでネットで出来る下調べだけはしておきましたけど、心霊スポットになってるラブホテルの廃墟で撮影と、その記事を書くのが目的ですよね」
「はい、その通りです。過去に実際に事件があり、そのせいで経営が回らなくなったため夜逃げした……という経緯なので、廃墟のなかでは当時の品がかなり沢山残されているようです。心霊スポット紹介の形になると思いますが、色々とモノが置いてあるタイプの廃墟ですからわざわざ写真を加工しなくても充分いい素材になると思いますよ」
そうでない、がらんどうの廃墟や樹木に覆われ草だらけでろくに中に立ち入れないような心霊スポットの場合、多少は写真に加工をしたり存在しなかった霊現象を大げさに掻き立てる必要があるのだが、この現場はそこまでする必要はない。
過去に事件があったという事実を添えれば充分すぎるくらいの内容になるので、実質写真をとりにいくようなものだ。
「そうみたいですね……事件も調べました。内容が結構エグい事件みたいですね」
「えぇ。その点は凄惨な事件、という事で濁しておきましょう。実際の事件内容に立ち入りすぎると、オカルト系の読者はかえって引くんですよ。オカルトってファンタジーですから、現実に人の生き死にが関わってくる話よりにおわせている方が楽しんでくれますから」
「ふぅん……そういうもんなんですね。あぁ、一応聞いておきますけど、撮影許可は?」
山田の質問に対し、男は曖昧に笑う。それを見ただけで、彼は委細承知したようだ。
「……ま、何か言われたら道路から撮影したからとでも言えばいいですからね」
全てを説明せずともわずかに聞いて理解するのは、アングラな世界を心得ているのもあるがそれ以上に彼自身が聡明なのだろう。
同時に、男の内部にあるどこか捨て鉢な心持ちを抱いているのがはっきりと見てとれた。
彼ほど頭が切れるのなら、わざわざフリーにならずとも一般企業の就職だって出来ていたはずだろう。どこか他人を見下すような所作こそ鼻につくが、実際に社会に出て人前で立ち回れば尖った性格を隠して潜み上司へのおべっかから同僚、後輩のフォローまで何でもこなせる立ち回りなどもできるはずだ。
だが、彼はそうしなかった。
まるで自分の居場所が、光の中にはないように望んで闇へと転がってきたのだ。
名を変えて、その端正な顔を隠し、華々しい実績であるはずの配信者の世界にもすがらなかった理由は、察するに余りある。
過去というのもはひた隠しにしてもどこからか漏れ出て、いずれ露わとなること。そして露わとなる時は、己にとって最も栄華を極めている時だということを彼は心得ているのだろう。
そのように転落するのなら、最初から高いところになど登らなければいい。
低い所から己を欺き、高みに登っていった他の連中や登ろうと足掻く連中などをぼんやりと眺めていることを、彼は選んだのだろう。
男は、その心境を理解できた。
何故なら男もまた、本当の名を名乗れば好奇の視線を向けられ、あれこれ過去を邪推される立場だったからだ。
「えぇ、そうですね。捨て置かれて随分経つ場所ですが、警察に見つかって説教されるのはゴメンですから目立つことは避けましょう。そこまでする程金になる仕事でもないですから」
「まったくその通りですよ……旅費と交通費が出ていなければ、僕だってこんな仕事してません」
「夜逃げしたライターのぶんをキャンセルしてキャンセル料をとられるのが勿体ないと思って、お声がけしたくらいの所がありますからね。山田さんはあまり気負わず、C県にある海の幸と一泊旅行を楽しむくらいの気持ちで来てくださいよ。あそこは、料理の味付けはぼんやりして名物も特にないんですが、魚の鮮度だけはいいですから」
いずれ罪が這いよりその背を掴むのならば、今は一時でも楽しいことをしていよう。
どれほど重い咎を背負っていても、すでにこの男はそれを一生のものとして受け入れる道を選んでいるのだから、それくらいはいいだろう。
この業界は、とりわけそういう人間が多いのだから。
男の言葉に、山田の表情も幾分かは和らぐ。
どうやら少なくとも、こちらに敵意がなくまた今後も敵意を示すつもりは「いまのところ」ないということを察してくれたようだ。
「そうですか。それなら、本当に気楽にやらせてもらいますよ。とはいえ、写真と、記事のPRはしっかりやらせてもらいますよ。SNSのPRは任せてください、一応それなりにファンが多い方なんで」 「ありがとうございます。私はSNSに関してはシロウトで……自分のアカウントはもっているんですけど、ほとんど稼働してない状態で……」
「そうですか? 僕がちょっと宣伝しましょうか。すぐに1000人くらい増えますよ」
「いえ、流石にオジサンの日常がいきなり1000人に見られるのは恥ずかしいので……」
「ははッ……そんなに気負わなくてもいいのに。SNSは見られているようで、そこまで見られていませんよ」
男の言葉に、山田はクスクスと笑う。
その笑顔だけは、まだ年相応の青年らしいあどけなさを残していた。
【メモ】
長ッ!
これブログにも置いてあるやつですね。
当初は「海野虫太郎」という人間は最後まで名前を名乗る予定はなく、編集で通す予定でしたが、山田視点になったら名前があったほうが便利なので「海野」にしました。
山田だから海……ではなく、海野虫太郎の本名が十三だから、というどうでもいいネタがあります。
<キャラクター設定>
初期プロットでのキャラクター設定項目も残ってますので出しますね。
編集のおじさん
一人称は私。
二人称は基本的にキミ。
山田より一回り以上は年上の壮年男性。
中肉中背で短髪、見た目は比較的にしっかりした大人に見える。
長年フリーランスの編集者をしており、特に心霊やオカルト系の媒体に関わっている事が多い。
ただし、本名を出す事は滅多になく、編集のアシスタント的な立ち回りが多い。
時に原稿の仕上がらなかった時は自信が原稿を提出するという荒技も披露する。
ロートルを自称し、オカルト記事もコタツ記事にせず、現場に行き実際の話や事件など調査するタイプ。
最新機器は苦手ではあるが、入稿などはデータで行っている程度の知識はある。
SNSはあまり触れてないが、一応はアカウントをもっているレベル。
ただし仕事の話は一切しない趣味のアカウントとして運用している。
父はとある宗教団体の教祖であり、その教祖は問題を起こしたため宗教団体そのものは解散している。
彼は元々その二代目として高い能力を秘めていたが、意図的に教団から離れそれからは名前を言わず生活している。
本名を名乗ればすぐにその宗教団体と事件に思い至る程度には有名な事件である。
それが、彼が名乗らない最大の理由である。
山田ガスマスク
一人称は僕。
基本的にはキミやあなたと、語彙は全体的に丁重。
最近売り出し中のWebライターだが、内容は主にB級、アングラ、サブカルと呼ばれるジャンルが多い。
顔出しをするタイプの仕事ではガスマスクを着用し、本名を名乗ることはない。
過去におこした事件に対する罪悪感と、それが明らかになった時に転落する恐怖感を同時に抱いており、世を忍ぶような振る舞いをする。
潔癖な性格で、衛生概念が強い。
人が作ったおにぎりなど食べられないタイプ。
【メモ】
編集のおじさんは海野ベースではあるものの、実際はけっこう違う感じに出来てますね。
山ガスの設定は「この話のなかで、編集が知るくらいの距離感の情報はこのくらい、という意味で出してます。
<プロットのおまけ>
初期プロットを書きやすくするため、話の筋道を箇条書きにしたものが残っているので、それも出しておきますね。
基本的に「どこで伏線をいれてどう組み立てるか」の基本設計みたいなやつです。
これは基本的に、自分の描き忘れメモですね。
<プロットの流れ>
・主人公(山田ガスマスク)の相棒が旅館で消える
・主人公は相棒の持ち物を見て、日中の回想をする
・回想シーン、相棒と心霊スポットの取材をする主人公
・主人公はオカルト雑誌の記事のため相棒と心霊スポットにやってくる
・主人公が、確認のため相棒に「ここで自殺があったんだよね?」と聞く、相棒は「そんな風に伝わってるんですね、とはぐらかす」
・少しひっかかりを覚えつつ、心霊スポットなのに何もなくて拍子抜けする主人公
・それを見越したように相棒が、「実は旅館で幽霊が出るらしい」と話す
・幽霊は、髪の長い女。男のうめき声もする。 ・女の幽霊なのに男の声なんて、オカマ? と馬鹿にする主人公
・再度現実のシーン ・廊下には女の幽霊らしい人物が壁の向こうに姿を消す
・そして、男のうめき声「本当じゃん」って顔する主人公
・回想シーン
・旅館で手続きを相棒に任せ、主人公はテレビを見る ・みちびきの光と名のる宗教の特集が組まれている。10年以上前に指導者「じゅうざさま」により信徒が集団自殺した、という教団
・何となく見ていると、相棒がテレビを消して「部屋に戻ろう」と話す
・食事をし、酒を飲んで普通に過ごす
・主人公は相棒が「心霊スポット」の話をしたとき「そういうふうに伝わっているんですね」と言ったのが気になって調べてみる
・心霊スポットでは事件があったが、自殺の話はなかった。かわりに、教師が生徒に悪い事をした事件がいくつかあがってきた
・部屋にかえる主人公は、相棒が「●●容疑者、懲役●年」という小さな記事を見ている
・「何ですかそれ」「別件の調査資料です、ははは」「仕事熱心だなぁ」で終わる
・再度、現実のシーンに戻る ・全ての事実をつなげた主人公は「心霊スポットで自殺があったのは、当時の教師が生徒に悪い事をした、それを絶望した生徒が自殺したから」というものが省略して伝わっただけと気付く
・さらに、この旅館をやっている家族が、その自殺した女の子の家族なのに気付く
・出所した当時の教師を監禁したのでは、相棒もそれに気付いたから浚われたのではと思う
・幽霊が消えた箇所を調べると隠し扉が
・そこで気絶している相棒と、拷問を受けひどい姿になった教師を目の当たりにする
・主人公は「自分たちは罪を裁くつもりもない、その権利もない」と去って行く
・主人公は、ある事件で人を殺めていたが、その事件は解決してなかったのを思い出す
・相棒も、「罪に向き合う覚悟があってしている行動を、止める気はない。そのかわり、私たちがここに来たのも知らないでいてほしい」と告げる
・親族に「帰ってほしい」と言われた二人は、夜明にさっさと追い出される
・車中で夜明をむかえる主人公と相棒
・これでよかったのか、と自問自答する中、相棒は「善し悪しは彼らの中で、もう決まっている」「罪と向き合う必要があるとき、それは偶然ではなく必然、あるいは運命として目の前に現れる」と告げる
・それまで偽名をつかっていた主人公が、相棒に名前を伝える
・エピローグ、海外の仕事を終えてかえってきた相棒が、テレビのニュースで主人公の「本名」を聞く
この箇条書き部分が、「アッシュ・グレイの肖像」のプロットに近いですね。
ただ、「じゅうざさま」の下りは入れてないです。
この削った部分は、ここんで話すと無駄に文章が増えるし、本編とは関係ないから、という理由で削ってます。
そして、最終的なプロットがこちらですねー。
<最終稿を書くために使ったプロット>
「罪深き者よ、汝の名は傲慢」(仮題・これは「アッシュ・グレイの肖像」になってます)
<登場人物>
山田ガスマスク
フリーのWebライター。 オカルト系の取材のため、田舎のリゾート地へとやってくる。
上野天誅事件という殺人事件に関与しており、その事件で一人の男性を殺めている。
また、その事件は犯人と目された人物が、SNSの噂などのせいで自死している。
ぼんやりと、罪悪感を抱いており、本名や素顔を明かさないよう生活をし、自罰的な行動をとりがち。
基本的に慎重で神経質。
海野虫太郎
フリーの編集者で、主にオカルト雑誌や媒体の編集にかかわる。
ライターが夜逃げしたので、急遽山田に依頼をもちかける。
鷹揚な喋り方はやや慇懃無礼さもある、飄々とした人物。
かつて十三断光会という宗教団体の教祖をしており、自らその教団を破滅に追いやっている。 血縁である「サタ」という人物も教祖であり、サタもまた人体を欠損させるという教義を率先して行っていた危険人物であった。
そのこともあり、自身を「先天的な犯罪者」という認識でいる。
【メモ】
海野の細々した背景は、「とりあえず作ったけど今はこの設定であるかは不明みたいなライン」です。
丸尾保仁
25年前、教師をしていたが自分の生徒に手を出す。
だが、その件は示談となりのうのうと生活をしていた。
自分が手を出した生徒のことなどすっかり忘れ、被害者の旅館に泊まってしまったため、被害者家族につかまり監禁され、私刑にあう。
高坂香織
25年前、保仁に乱暴され、その後周囲の噂にたえかね自死した少女。
高坂
旅館の経営者。
被害者遺族であり、丸尾保仁に対して恨みをもち、私刑に走る。
【メモ】
プロットの段階では、高坂香織と高坂詩織の名前は両方決まってなかったですよね。
この二人という起点の名前が決まったのは最後の最後で、書き始めるまでは「高坂一族が全員でやっていたのか」「詩織個人の私怨だったのか」は決めてなかったです。
・導入
山田ガスマスクは焦りながら室内に残された相棒の編集者・海野虫太郎の荷物を探る。
山田が目覚めた時、すでに海野は姿を消していた。
探しても姿はなく、外には車もない。
海野が急に消えるはずがない。そう思った山田は、彼の荷物を探り、彼が消えた理由を探る。 その最中、ぼんやりと海野とのやりとりを思い出していた。
「この旅館は、幽霊が出るって噂なんですよ」
「長い黒髪の、女の幽霊です。定番ですよねぇ」
「それと、草木も眠る丑三つ時、男のうめき声が夜な夜な聞こえてくるそうですよ」
時刻はまさに丑三つ時。
消えた海野の荷物を探るうち、彼が明確に、何かを調べていたことに山田は気づきはじめる。 だがその最中、ギシギシと足音が聞こえてきたので外の様子を覗えば、噂に聞いた通り、長い黒髪の女が廊下にゆらりと現れる。
まさか、噂の幽霊。
そう思いすくみ上がる山田の脳裏に、海野の声が浮かぶ。
「幽霊なんかより、人間がいたほうが怖いですよ」
そうして笑う海野の姿を思い出し、山田は日中の出来事を回想する。
・序盤
山田は心霊スポットの取材として、山の藪にある廃屋に来ていた。
元々はラブホテルだったが、経営が立ち行かなくなり潰れ、夜逃げ同然で経営者が消えたので、廃屋のわりに様々なものが残っていた。
何かしら事件があったらしく、その理由もあって心霊スポットととしてはかなり有名らしい。
廃ホテルの写真を一通り撮り終わった山田に、海野が声をかけてくる。
「どこ行ってたんですか」
「ちょっと、オネエ言葉のかわいいオジサマと楽しいお話をしてきたところですよ」(※このオネエのおじさまは、公安の刑事である)
オネエのオジサマとはいったいなんだと思いつつも、山田は、今回の取材のことを振り返る。 この取材は本来、山田ではなく別の人物が行く予定だったこと。
そして、その別のライターが直前に行方をくらましたので、急遽声をかけられたことを回想する。
山田は海野と知り合いではなかった。
ただ、山田がWebライターとして仕事を得るため、暇な時間に雑誌編集者などが良く通うという喫茶店に出向き、幾人かの編集者に名刺を配っていた。
海野はその時、ゲラ読みをしていた編集者で、その内容が気になり少し話した相手である。 名刺は交換しなかったが、「山田ガスマスク」という名前にインパクトがあったのか、海野がそれを覚えていて声をかけたのだ。
「穴埋めの仕事なんで、そこまで無理はさせませんよ。旅費はこっち持ちで、記事もテンプレがありますから……一拍旅行のつもりで来て下さい」
海野に言われ、山田はオカルト系の仕事も経験したいと思い、彼について行くことにしたのだ。
仕事をする気になったのは、依頼料が美味しいというのもあったが、海野の名刺が「海野虫太郎」と、完全に偽名とわかる名前だったことに、同じように偽名で活動する親近感をもったからだ。
山田ガスマスクは当然、本名ではない。
SNSで写真をUPする時も、ガスマスク姿をメインにして素顔を出す事は滅多にないし、山田すら本名ではない。
というのも、彼は後に「上野天誅事件」と呼ばれる殺人事件に関わっている犯人の一人であり、その罪が露見するのを恐れ、顔も名前もあまり出さないようにしていたのだ。
物思いにふける山田の顔を覗き込むよう、海野は告げる。
「罪悪感は、傲慢ですよ」
「急に何言ってるんですか?」
「いえ、何かしでかしたー。という顔をしてらっしゃるので。罪悪感は、自分はそんなことをする人間ではない。自分は、そんな罪を犯すのにふさわしくない。そのような傲慢さが、罪悪感の根源です。そう思うと……罪悪感を抱く自分が恥ずかしくなるでしょう? だからあんまり難しく考えないようにしましょう。不法侵入くらいなら、軽い注意ですみますから」
海野は、廃ホテルに立ち入った事に、山田が罪悪感を抱いていると思ったようだ。
「わかってますよ。それより、ここより途中にあった道の廃墟のほうが心霊スポットっぽくなかったですか? 何か、施設みたいな……」
「あ、アレはダメです。殉教者の光、って教団の分派だった施設ですから」
殉教者の光は聞いた事がある、一昔前にあった新興宗教のことだ。
色々ヤバい話も聞いている。 山田は合点をし、海野の車に乗って今日の宿泊場所へと向かう。
「そういえば、あのホテルって事件があったんでしょ? 人が死んでるとか。そういう所、オカルトで扱ったら不謹慎って言われちゃうんじゃない?」
「オカルトなんて不謹慎でデリカシーのないものですよ。それに……事件はありましたが、あの場所では誰も死んでませんから」
軽く笑い飛ばす海野は、思いついたように語る。
「実は、これから行く旅館は幽霊が出るらしいんですよ。心霊スポットだけじゃ物足りないかと思って、幽霊の出る宿を取ったんです。面白いでしょう?」
「何でも、髪の長い女の幽霊とか。これは鉄板ですよね。それと、丑三つ時に男のうめき声がするとか」
嬉々とした様子で語る海野に、山田は呆れる。
「女の幽霊で男のうめき声なんて、デタラメすぎません? 女装してる男ってことですか?」
「あはは、たしかにチグハグですねぇ。でも、女性の姿で男の声なんてのは珍しくないですよ。八尺様とかもそうですから……」
二人はそのまま、流行りの怪談話をして宿を目指す。
・中盤
宿につき部屋でくつろぐ山田は、従業員が全員「高坂」という名字なのに気付く。
あまりない名字が複数人いるので「家族経営なんですか?」と聞くと、「家族ではないけど、この周辺は全員親戚みたいなもんで。ほとんど同じ名字なのだ」という話を聞く。
山田は、「高坂」という名字にどこか聞き覚えがあり、引っかかるものを感じるが、食事が来た事ので考えるのをやめる。
その後、大浴場もあると聞いた山田は一人、大浴場に向かい戻る。
すると、海野が真剣な顔でスクラップブックを読み込んでいるのに気付く。
声をかけると、海野は驚いた様子で慌ててスクラップブックをしまう。
「何読んでたんですか?」
「次の仕事の資料ですよ。事前にこっちでも調べておかないといけませんから」
そう告げる海野に、山田は少しばかり違和感を覚えるものの、編集者と仕事をしたのは始めてだったので「フリーの編集者とかこんなものか」「それに、詮索されるのは自分も嫌だし、向こうだって偽名を使うんだから理由があるのだろう」そう思って、気にしない事にした。
だが、記事のタイトルがぼんやりと記憶に残る。
女子高生が教師に無惨……といったタイトルを断片的に思い出した山田は、海野が大浴場に行く最中にスマホで事件について調べる。
その事件は、当時まだ学生だった少女が教師に無理矢理ホテルに連れ込まれ、性的暴力を受けたというものだった。
古い事件だったことや、教師が比較的に名士の血縁だったこと、教師の評判がよく男っぷりもよかったことなどから、事件の当時は「女が誘った」「教師は悪くない」と、被害者女性を叩く記事が多いのを見て、山田はどの時代も、噂は人を苦しめるものだと呆れる。
そして、この事件がおきた場所があの心霊スポットとなっている廃ホテルなのを知り「あの場所であったのは、この事件だったのか」と気付く。
山田自身がおこした上野天誅事件も、犯人と噂された人物がつるし上げられ、自殺していたのだ。
自分の起こした事件で、人が二人死んでいる。だが、一人は自分ではない、大衆が殺したのだ。
苦い事実を誤魔化すよう、山田は部屋にあるビールを飲むとそのまま布団に転がる。
それから、海野が部屋に戻り、誰かと電話で話している声をぼんやりと聞く。
「そうですねぇ……殉教者の光とは関連性が薄いと思いますけど、気になるのでちゃんと調べておきますよ、富入さん(※公安刑事の名前)」
ぼそぼそと話し声を子守歌に、眺めながら山田は眠りに就く。
・中盤~終盤
序盤のシーンに、ここで戻る。
目覚めてから海野がいないのに気づき、海野の荷物を改めた山田は廊下にいる幽霊の様子を覗う。
ギシギシと足音をたてる姿から、あれは幽霊ではない、人間だと思い、眠ったふりをしてその場を耐えて幽霊が去るのを待つ。
そして改めて、海野の荷物を確認する。
スクラップブックには、教師の暴行罪が周囲の圧力により示談となったこと。
その後、心ない噂や事件の苦しみから被害者の少女が自死したことが調べられている。
また、加害者の「丸尾保仁」はその後、この地域を離れて結婚。 子供をもうけた後、幸せに暮らしていたが現在は離婚しつつ、普通に暮らしているというメモも見つける。
それらの話を裏付けるかのように、海野の残したボイスレコーダーには、地域の名士・丸尾家の長男・保仁について悪く言うのを避ける地域住民の声や、保仁本人らしい男の「俺に抱かれたなら喜べ」などという軽率な発言、被害者の少女の母の「私のせいだった」という苦渋に漏れた訴えなどが残されていた。
そして、被害者の少女が「高坂香織」だったことを知った山田は、これまでの事件がすべて、この旅館の出来事と関連しているのに気付く。
山田は息をひそめ、幽霊が消え去った廊下へ向かう。
そこに人の姿はなく、やはり幽霊だったのかと怯える山田だったが、改めて気を取り直し、スマホのライトで行き止まりの廊下を調べる。
廊下はついたてがあるだけで、その下には階段が伸びていた。
・終盤
階段を降りた山田は、床に転がって気を失っている海野を見つける。
あわてて海野のそばに近づく山田の前に、髪の長い女が姿を現す。
山田は、髪の長い女はこの旅館の女将であることを告げる。
そして、この旅館がいまから25年前、強姦被害にあったのを苦にして自死した高坂香織の縁者ではないかと推測する。
山田の話を聞いた女は、自分が高坂香織の実の姉であることを告げる。
妹を失ってから、母が狂い新興宗教にのめり込み自死し、父は心労で倒れ、旅館をやるのも苦労したこと。
その状況なのに地元の名士である丸尾家に対し畏れのある田舎のムラ社会のせいで、大っぴらに文句も言えなかった事。
そして、加害者の保仁がのうのうと暮らし、離婚した後はこの地域に戻ってきて、名士の看板を背に市議会などに立候補するつもりと吹聴していたことなどを話す。
高坂家は保仁に恨みを忘れておらず、この旅館に来た保仁をとらえて監禁し、毎日のように拷問を行っていた。
そのうめき声が周囲に漏れたのが心霊現象の正体だったのだ。
強い恨みと覚悟をもって私刑に及ぶ被害者遺族たちを前に、山田は告げる。
「僕は別に、あなたたちの罪を暴きにきた訳じゃない。僕にはその資格もない」
「でも、海野さんにまで手を出したら、だめだと思う。そこまでしたら、きっとあなた達の中にある罪が変わってしまう気がする」
「だから、海野さんは返して」
必死の説得に、高坂家は黙り込む。
そこで目覚めた海野も告げる。
「私は、今日、この事件で調べた資料を全部もってきてます。それを、あなたたちにお預けしますよ。コピーなんかない、原本だけです。その男の罪と、あなたたちの後悔の記録です」
「私は、公安に頼まれて殉教者の光と関係がないか調べにきただけです。宗教と無関係なら、公安に無関係だったと報告するだけ。あなた達を罰するつもりはありませんから」
やさしく諭すような声を前に、高坂家は山田と海野の言葉をのむ。
そして、海野から資料一式を全て預かった後
「あなたたちを信じてない訳ではないです。ですが、もうお帰りください。これ以上、この場にいてほしくない」
そう言われた山田と海野は、荷物をまとめて車に乗り込む。
世があけ空は白み始めていた。
・ラスト
夜明の近い灰色の空と水平線を眺めながら、山田は黙り込む。
本当にこれでよかったのか。
自分も、このままでいいのだろうか。
いつか、自分の罪が暴かれる時があるのか。
あの事件を、自分はどう捉えているのだろう。
考えれば考えるほど沈む思いを振り切るよう、山田は海野にいった。
「でも、いいんですか本当に。あの……私刑ってヤバいですよね。見過ごしちゃって」
「別にいいですよ。あの家族が、私たちの事を口外するとは思えませんし。それに……あの家族は、己の罪を向き合い、背負う覚悟がありますから。罪が暴かれるのは……彼女たちにとって、最も適切でふさわしい時です」
最もふさわしい時に、罪が暴かれるのだとしたら。
自分の罪は、いつ、どのように暴かれるのだろう。
「……空も、海も灰色ですね。全部燃え尽きたみたいだ」
ぽつり呟く山田に、海野は笑う。
「えぇ。でも、灰は再生の色ですよ……全て燃え尽きて無くなったようでも、新たに肥沃な大地を生みます。何も残らないなんてことはありません。罪もまた、正しく浄化されれば新たな大地へと戻る糧になる。そのように、向き合えればいいですよね」
程なくして、広々としたパーキングエリアにたどり着く。
道の駅というやつか。田舎のリゾート地でオフシーズンなのもあって閑散としている。
「旅館で眠り損なったので、ここで少し休憩してもいいですか?」
海野に言われ降り、ベンチに座ってぼんやりと海と空を眺める。
「コーヒーを飲んだら行きましょうか」
海野からコーヒーを手渡された山田は、意を決したように海野を見た。
「あの、海野さん。僕、山田ガスマスクってペンネームなんですよ」
「えぇ、そうでしょうね。流石に本名がガスマスクさんはご両親のセンスが尖りすぎてますから」
「ですよねぇ……それで、僕の本名なんですけど……」
山田は、海野に本名を告げる。
「……覚えていたら、いい事あるかもしれませんよ」
そして、吹っ切れたように笑ってみせた。
・エピローグ
海野は予定より長い海外の出張から戻る。
世界中を大混乱に陥れた大きなテロ事件、GR(グレートリセット)がおこった影響で帰国が遅れたのだ。
乱雑な部屋で一息つき、コーヒーを入れ始める海野はテレビのニュースで、GRの報道を聞く。
ずっと海外にいたので詳細な情報を聞いていなかったな。
そう思った海野はニュースの中で、「かつて聞いた山田の本名」が流れているのに気付いた。
「……そうだったんですね。山田くん」
海野は呟く。
「あなたの罪が浄化され、新たな導きを得るよう……」
そして小さく祈りを捧げる。
【メモ】
これはほぼ、本編に全部書いてあると思います。
僕はプロットを「これ書いたかな?」という伏線管理表みたいに使っているので、プロットでも結構言わせたい台詞をバンバン入れる方です。
台詞の違いとか、実際の展開との差異なんかは、是非! 本編を買って読んでみてね!
<余談>
一応、ホラーっぽく「導入からちゃんとやる」方法で書いてはいたんですよ。
こんなかんじで1000文字くらい。
これは、最初に書いたプロットに準じた書き方です。
新緑眩しい初夏の頃、人里から離れた山間の廃屋におおよそ似つかわしくないシャッター音が鳴り響いていた。
中に入るのも躊躇われるほど荒れ果て傾き歪んでいる眼前の建物は、かつてのラブホテルで、もう20年以上まえに経営者が夜逃げしてからそのままなのだそうだ。
まだ営業している当時から幽霊が出るという噂が絶えなかったいわくつきのホテルであり、今でも心霊スポットとして語り継がれている。
だが、見る限りただの廃墟だ。
外観は半ば崩れはて、床の半分は落ち葉に覆われた手つかずの廃ホテルの壁には地元の不良やヤンキーと呼ばれる連中が残していったと思われる大仰な落書きと卑猥な言葉が書き殴られていた。
デジカメを構えながら青年は、どこの廃墟は心霊スポットの類いにもこの手の落書きがあることを思い出す。
道中、今回の仕事で相棒を務める編集者から、
「場所に迷ったら、地元にいるいかにもって不良に場所を聞いてみるといいよ。大体の不良は、心霊スポットで肝試しをしているもんだから」
なんてアドバイスをされた時は、まさかそんな馬鹿なことがあるかと思ったが、どこの壁にも一カ所は先人がきた証拠のようにスプレー缶で落書きされているところを見ると、心霊スポットには不良やヤンキーが行くというのはあながち間違いでもないようだ。
ひとしきり撮影を終えた青年は、その場で写真を確認する。
幽霊が出た、女の幽霊を見たという評判で有名なホテルには、確認する限り心霊らしいものは映り込んでいなかった。シャイな幽霊なのか、あるいはカメラで写真を撮られるのは恥ずかしいのだろう。
幽霊こそ映ってはいないが、ここがすでに廃棄さえた場所でありうち捨てられた建物が持つ特有の哀愁とそこはかとない不気味さは充分味わえるだろう。プロカメラマンという訳ではないからお世辞にも綺麗な写真とは言えないが、多少ブレていたり違和感のある構図のほうが読者ウケがいいとも言われている。最低限の仕事はしたと思っていいだろう。
「山田さーん、どうですかそっちの方は」
撮れた写真を確認していると、廃墟の中から壮年の男が顔を出す。
その姿を見て、山田と呼ばれた男は眉間にしわを寄せて訝しげな視線を向けてしまった。
「えぇ、4,50枚は撮っておきました。似たりよったりの写真なんでどれがいい、ってのはわかりませんが、1枚くらいはモノになりますよ、それより、大丈夫なんですか? 今、ホテルの中から出てきましたよね。公道から撮影したなら許可なしでもセーフでしょうけど、中に入るのは流石にマズイんじゃないですか」
山田は男と廃墟、交互に視線を向ける。
だが、男は特に悪びれる様子も見せず穏やかな笑顔を見せた。
「ははは、大丈夫ですよ。中で撮影した写真は、読者から提供された写真ってことにしておきますから」
手をひらひらと振りながら心配するなとアピールする姿から、このような取材で不法侵入をして写真をとるのも相手にとって日常茶飯事のようだ。
山田は一つため息をつくも、自分が巻き込まれないのならあえて口出しする必要もないと思い直して男にカメラを差し出した。
「外観の撮影、ありがとうございます山田さん。写真お上手ですね、これなら充分使えますよ……あ、私の写真も見ます?」
「そうですね。確認させてもらいます」 山田は男の手からデジカメを受け取り、写真を確認する。
【メモ】
別に悪い書き出しじゃないとは思うですけどね。
でも、これだいたい、1000文字くらいあるんだけど。 ここまで書いて「ダレる!」「順番にかくと、読者はだれるよ!」と思って、決定稿はいきなり事件から始めるようにしました。
だいたい、プロット周りはこんなところかな?
僕はかなり独学でヘンテコなことをやるタイプではあるし、変な方向で思い切りがよかったりもするので「何やってんの!?」みたいなことは頻繁にあるんですが……。
それでも、「何でもやっていいんだな!」って感じで。、誰かの役に立ったりすれば幸いです。
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