インターネット字書きマンの落書き帳
腐れ縁で助けてくれるタイプのダーマツ(松ガス)
付き合っているかいないか微妙なラインの松ガスの話しま~す。
いま、比較的にシビアな原稿をかいているので……。
何となく優しく、決して揺らぐ事のないタイプの関係を……書けているといいなッ。
何となく、松田は「面倒くさいけど優しい人」みたいな着地点が好きです。
善人とは言い難いが、悪い奴じゃないライン……いいよねッ。
いま、比較的にシビアな原稿をかいているので……。
何となく優しく、決して揺らぐ事のないタイプの関係を……書けているといいなッ。
何となく、松田は「面倒くさいけど優しい人」みたいな着地点が好きです。
善人とは言い難いが、悪い奴じゃないライン……いいよねッ。
『ふさわしくない指先』
温かな白い湯からは、淡くミルクの香りがする。
山田はそれを手ですくうと、バシャバシャと顔を洗った。
染みる。
頬や背中を強かに蹴られた痛みだ。
『お前、元・山田ガスマスクだろ?』
出所した後、街に出れば時々そう、声をかけられる事はあった。
嘲笑。罵倒。揶揄。それくらいなら別にいい。
『お前のせいで、すげぇ迷惑したんだよ。なぁ、土下座して靴の裏舐めろよ、ほら。今すぐに。ほらさぁ』
ニヤニヤしながら襟をつかみ、そのまま思い切り突き飛ばす。
昨晩降った雪は土と水とが混ざり合い、山田の尻に冷たく染みた。
刑務所には入った。社会的な制裁は十分受けている。
今さら個々の人々に謝罪行脚などしたところで許されるはずもないし、謝罪する時間も足りないだろう。
それに、こんなイキることしか能の無い連中に頭を下げるのは死んでもゴメンだ。
『僕のせいっていうけど、人に見せてマズいことしてたのそっちじゃない? で、何がバレて起こられたのさ。浮気? 横領? それとも、麻薬だったりして。いかにもシャブやってるみたいに頭悪そうだもんね』
顔から鈍い音がする。
それからは、袋だたきだ。四方八方を水の入った頭陀袋で叩かれているような音が響き、それが自分の身体からしているのに、全て他人事のように見えた。
『死ね、クソ野郎』
男の吐いた唾が、血に混じる。
山田はしばらく身動ぎせず、泥水と血と唾が雪解け水と混じるのを見ていた。
――あぁ、一度家に戻って着替えないと。
めんどくさいな。着替え、あったかな。
ちょっとコンビニで食事でも買いに行こうと思っただけなのに。面倒くさいからこのままコンビニまで行っちゃおうか。
悲鳴をあげられるかな。顔とか、酷いことになってるだろうな。
やだ、ほんと。めんどくさい。
このまま、死ねればいいのに。
願いとは裏腹に、空は抜けるように青い。
今日も一日、晴天なのだろう。
動かないと、寒くて死んじゃう。
まだ動けないかな。痛くて死んじゃう。
二つの思いを交互に繰り返し続けた、その時。
「――おまえ、山田か?」
見つかりたくない男に、見つかってしまった。
何さ。やめてよ。どうでもいいから。放っておいて。
口が動くより先に、男は手を差し伸べる。
「ひっどいもんやなぁ、濡れ鼠。ちゃうな、泥ネズミやわ。あー、こんなバッチイもん拾って、正月早々ついてないわー」
男は名を松田といった。
尊大で、横柄で、身体も声も大きな関西弁の男だ。
押しつけがましい性格で、そういうところが嫌な奴だが――。
「や、やめてよ松田さん。別に、僕……」
「うっさいわ! 怪我人は大人しくしとけ。人の親切は素直に受け取らんかい!」
なぜか、山田を放っておかない。
そのまま引きずられるように松田のマンションへ連れてこられ、「ばっちい服で家に上がるな」と脱衣所に追いやられ、今は温かな浴槽に身を預ける。
濁った湯は心地よい。
傷も罵声も全て他人事のように思えていたのに、今はすりむいた背中がジンジンと痛む。
「着替え、置いといてやったで」
はいはい。どうせダッサいトランクスとかなんでしょ。
そう思って湯をあがれば、予想通りの安くてぴらぴらの下着と、松田の私物らしいブカブカのトレーナーが乱雑に投げ出されていた。
あー、やだやだ。オジサン臭い。加齢臭すごい。
服もぶかぶか。ズボンとか抑えてないと落ちてくるし。
内心舌打ちをしリビングを見れば、松田は眼鏡をかけ何やら難しそうな本を読んでいる。
「お風呂、出たよー。松田さん、何それ老眼鏡?」
「何やおまえ、それがボロ雑巾みたいになって萎れてた奴が助けてもらって言う台詞か?」
「別に。助けてほしいとか言ってないし」
「捨てられた子猫みたいにションボリしてたくせに何いうとるんや。ほれ……」
と、そこで松田は山田の腕をつかみ、自分の方に引き寄せる。
何するのさ。痛いし。やめて。
そう思っているのは間違いない。だがそれ以上に。
「怪我しとるんやろ。背中見せてみぃ。薬つけてやるわ」
松田が、優しくしてくれることに期待している。
山田は頬を膨らませて、怒っているアピールをしながら上着を脱げば
「何や、ごっつぅやられとるやないか。まったく、しゃーないな……」
傷薬を塗りガーゼを当てる温かな指先が背中に触れる。
今、風呂からあがったばかりなのに、松田の指のほうが温かく感じる。
きっと、松田は元々そういう人間なのだろう。
「仕方ないでしょ。僕ってこういう奴だから」
罵声を浴びせられ、足蹴にされ嘲笑を受け止めるためにある器とは違う。
松田は普通の人間だ。
声も態度も大きくて偉そうで押しつけがましい性格だが、それでも至極真っ当。
悪い人じゃないけど、いい人というには我が強い。そのくらいの人間性は、どこにでもいる面倒な上司や口うるさい父親にもなれたのだろう。
――全て山田が、壊してしまったが。
「ほれ、これでえぇやろ」
ガーゼをあてた背中を、ポンと叩く。
「いいわけないでしょ。どうすんの、こんなダッサい加齢臭のトレーナーじゃどこにも行けないし。ほんと、お節介」
「しゃぁないやろ、ズボンもシャツもぐちゃどろだったんやで。ま、洗い終わるまで大人しゅうしてろってことやな……」
松田はふらりと立ち上がり、のそのそと玄関へ向かう。
えっ、嫌だ。行くの? 僕をここで、一人にするの?
まって……。
「は、行って欲しくないって顔してるで」
「ちが……そんな顔してないし」
「心配せんでも、ちょっと飯と煙草買いに行くだけやから。お前も腹減っとるやろ。何か喰いたいもんあったら言うといてな。オゴったるわ」
「別に、食べたいものもないし」
口をとがらせそっぽ向く山田の頭を、松田はぐしゃぐしゃに撫でる。
何するのさ。整えなくちゃいけないじゃないか。僕になんかかまってるから、結婚できないんだ。もう、僕のことなんか放っておいて。
松田さんは松田さんで、幸せになればいい。
玄関口でサンダルを履くと、松田は一瞬振り返る。
「あんな、山田。……今の俺、お前が思ってるより楽しんどるからな」
「なに、それ……」
「じゃ、行ってくるわ」
バタンと閉まるドアの中、エアコンの温い風が部屋を満たす。
栞が挟まった本。灰皿いっぱいの吸い殻。伸び放題の観葉植物。山田の好きなものなど一つもない部屋だが。
「仕方ないな……じゃ、まっててあげるね」
山田はソファーにごろりと寝そべり、ぐっと大きく背伸びをする。
天上には、オレンジのシーリングライトがテラテラと山田のためだけに輝いていた。
温かな白い湯からは、淡くミルクの香りがする。
山田はそれを手ですくうと、バシャバシャと顔を洗った。
染みる。
頬や背中を強かに蹴られた痛みだ。
『お前、元・山田ガスマスクだろ?』
出所した後、街に出れば時々そう、声をかけられる事はあった。
嘲笑。罵倒。揶揄。それくらいなら別にいい。
『お前のせいで、すげぇ迷惑したんだよ。なぁ、土下座して靴の裏舐めろよ、ほら。今すぐに。ほらさぁ』
ニヤニヤしながら襟をつかみ、そのまま思い切り突き飛ばす。
昨晩降った雪は土と水とが混ざり合い、山田の尻に冷たく染みた。
刑務所には入った。社会的な制裁は十分受けている。
今さら個々の人々に謝罪行脚などしたところで許されるはずもないし、謝罪する時間も足りないだろう。
それに、こんなイキることしか能の無い連中に頭を下げるのは死んでもゴメンだ。
『僕のせいっていうけど、人に見せてマズいことしてたのそっちじゃない? で、何がバレて起こられたのさ。浮気? 横領? それとも、麻薬だったりして。いかにもシャブやってるみたいに頭悪そうだもんね』
顔から鈍い音がする。
それからは、袋だたきだ。四方八方を水の入った頭陀袋で叩かれているような音が響き、それが自分の身体からしているのに、全て他人事のように見えた。
『死ね、クソ野郎』
男の吐いた唾が、血に混じる。
山田はしばらく身動ぎせず、泥水と血と唾が雪解け水と混じるのを見ていた。
――あぁ、一度家に戻って着替えないと。
めんどくさいな。着替え、あったかな。
ちょっとコンビニで食事でも買いに行こうと思っただけなのに。面倒くさいからこのままコンビニまで行っちゃおうか。
悲鳴をあげられるかな。顔とか、酷いことになってるだろうな。
やだ、ほんと。めんどくさい。
このまま、死ねればいいのに。
願いとは裏腹に、空は抜けるように青い。
今日も一日、晴天なのだろう。
動かないと、寒くて死んじゃう。
まだ動けないかな。痛くて死んじゃう。
二つの思いを交互に繰り返し続けた、その時。
「――おまえ、山田か?」
見つかりたくない男に、見つかってしまった。
何さ。やめてよ。どうでもいいから。放っておいて。
口が動くより先に、男は手を差し伸べる。
「ひっどいもんやなぁ、濡れ鼠。ちゃうな、泥ネズミやわ。あー、こんなバッチイもん拾って、正月早々ついてないわー」
男は名を松田といった。
尊大で、横柄で、身体も声も大きな関西弁の男だ。
押しつけがましい性格で、そういうところが嫌な奴だが――。
「や、やめてよ松田さん。別に、僕……」
「うっさいわ! 怪我人は大人しくしとけ。人の親切は素直に受け取らんかい!」
なぜか、山田を放っておかない。
そのまま引きずられるように松田のマンションへ連れてこられ、「ばっちい服で家に上がるな」と脱衣所に追いやられ、今は温かな浴槽に身を預ける。
濁った湯は心地よい。
傷も罵声も全て他人事のように思えていたのに、今はすりむいた背中がジンジンと痛む。
「着替え、置いといてやったで」
はいはい。どうせダッサいトランクスとかなんでしょ。
そう思って湯をあがれば、予想通りの安くてぴらぴらの下着と、松田の私物らしいブカブカのトレーナーが乱雑に投げ出されていた。
あー、やだやだ。オジサン臭い。加齢臭すごい。
服もぶかぶか。ズボンとか抑えてないと落ちてくるし。
内心舌打ちをしリビングを見れば、松田は眼鏡をかけ何やら難しそうな本を読んでいる。
「お風呂、出たよー。松田さん、何それ老眼鏡?」
「何やおまえ、それがボロ雑巾みたいになって萎れてた奴が助けてもらって言う台詞か?」
「別に。助けてほしいとか言ってないし」
「捨てられた子猫みたいにションボリしてたくせに何いうとるんや。ほれ……」
と、そこで松田は山田の腕をつかみ、自分の方に引き寄せる。
何するのさ。痛いし。やめて。
そう思っているのは間違いない。だがそれ以上に。
「怪我しとるんやろ。背中見せてみぃ。薬つけてやるわ」
松田が、優しくしてくれることに期待している。
山田は頬を膨らませて、怒っているアピールをしながら上着を脱げば
「何や、ごっつぅやられとるやないか。まったく、しゃーないな……」
傷薬を塗りガーゼを当てる温かな指先が背中に触れる。
今、風呂からあがったばかりなのに、松田の指のほうが温かく感じる。
きっと、松田は元々そういう人間なのだろう。
「仕方ないでしょ。僕ってこういう奴だから」
罵声を浴びせられ、足蹴にされ嘲笑を受け止めるためにある器とは違う。
松田は普通の人間だ。
声も態度も大きくて偉そうで押しつけがましい性格だが、それでも至極真っ当。
悪い人じゃないけど、いい人というには我が強い。そのくらいの人間性は、どこにでもいる面倒な上司や口うるさい父親にもなれたのだろう。
――全て山田が、壊してしまったが。
「ほれ、これでえぇやろ」
ガーゼをあてた背中を、ポンと叩く。
「いいわけないでしょ。どうすんの、こんなダッサい加齢臭のトレーナーじゃどこにも行けないし。ほんと、お節介」
「しゃぁないやろ、ズボンもシャツもぐちゃどろだったんやで。ま、洗い終わるまで大人しゅうしてろってことやな……」
松田はふらりと立ち上がり、のそのそと玄関へ向かう。
えっ、嫌だ。行くの? 僕をここで、一人にするの?
まって……。
「は、行って欲しくないって顔してるで」
「ちが……そんな顔してないし」
「心配せんでも、ちょっと飯と煙草買いに行くだけやから。お前も腹減っとるやろ。何か喰いたいもんあったら言うといてな。オゴったるわ」
「別に、食べたいものもないし」
口をとがらせそっぽ向く山田の頭を、松田はぐしゃぐしゃに撫でる。
何するのさ。整えなくちゃいけないじゃないか。僕になんかかまってるから、結婚できないんだ。もう、僕のことなんか放っておいて。
松田さんは松田さんで、幸せになればいい。
玄関口でサンダルを履くと、松田は一瞬振り返る。
「あんな、山田。……今の俺、お前が思ってるより楽しんどるからな」
「なに、それ……」
「じゃ、行ってくるわ」
バタンと閉まるドアの中、エアコンの温い風が部屋を満たす。
栞が挟まった本。灰皿いっぱいの吸い殻。伸び放題の観葉植物。山田の好きなものなど一つもない部屋だが。
「仕方ないな……じゃ、まっててあげるね」
山田はソファーにごろりと寝そべり、ぐっと大きく背伸びをする。
天上には、オレンジのシーリングライトがテラテラと山田のためだけに輝いていた。
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