インターネット字書きマンの落書き帳
竹のような笹に願掛けをする荒井とお手伝いをする新堂パイセン(新堂×荒井)
どうも、平和な世界線で新堂×荒井が付き合うと信じている幻覚をまき散らしているものです。
最近は荒井は新堂のことずっと好きで憧れてるし、新堂も荒井のこと憎からず思っているけどまだ付き合うには至っていない、両片思いの二人……。
みたいなのを書きたい気分なので、書いてます。
今回は七夕だよね、やっぱり季節のネタはやりたいよね!
そう思って七夕のネタを勇んで書いたんですが、「おやすみプンプン」が7日限定で全話無料公開という頭のおかしいこと(褒め言葉)をしていたので「せっかくだから! 7日で読みたいから!」と頭のおかしい事を言いながら読んでしまい、upが遅れました。
人生ってそういう事もあるよね!
ボクの心はプンプンにギッタギタにされちまいましたが、七夕の新堂と荒井はハートウォーミングになっていると思いますのでよーろしーくねー。
最近は荒井は新堂のことずっと好きで憧れてるし、新堂も荒井のこと憎からず思っているけどまだ付き合うには至っていない、両片思いの二人……。
みたいなのを書きたい気分なので、書いてます。
今回は七夕だよね、やっぱり季節のネタはやりたいよね!
そう思って七夕のネタを勇んで書いたんですが、「おやすみプンプン」が7日限定で全話無料公開という頭のおかしいこと(褒め言葉)をしていたので「せっかくだから! 7日で読みたいから!」と頭のおかしい事を言いながら読んでしまい、upが遅れました。
人生ってそういう事もあるよね!
ボクの心はプンプンにギッタギタにされちまいましたが、七夕の新堂と荒井はハートウォーミングになっていると思いますのでよーろしーくねー。
『星に願いを』
誰が持ちこんだのかは知らないが、2年の教室棟の昇降口に竹ほどの笹がおかれていたのは朝一番に練習へやってきたサッカー部員たちが見かけたのだというから昨晩のうちから運び込まれたものだろう。
色とりどりの折り紙で飾られているのをみると七夕用の飾りのつもりかもしれない。
当然、鳴神学園の高校行事に高校行事に七夕などはない。
どこかの物好きが持ちこんだのだろうとか、大金持ちの道楽だろうとか、ハッピー・ピース・カンパニーから幸福のお裾分けですとか様々な憶測が流れたが、そこに竹のような笹が「七夕仮です」といった顔をして鎮座しているのにはかわりがなかった。
荒井は登校してすぐ、件の七夕飾りを確認するとすぐに友人と、以前「学校の怖い話しを特集する」といった集会で出会ったこわい物好きな友人たちへ連絡をとっていた。「教室棟の出入り口に笹と呼ぶには大きすぎる飾りが置かれている」という事を伝えれば、坂上と日野から「こっちにも置いてある」とすぐに返事が飛んで来たので、どうやら全ての教室棟の出入り口に似たようなものがおかれているのだろう。
傍らには机と短冊、マジックペンまで準備され「さぁ、笹に願い事を自由に描くがいい」と言った案配である。
すでに短冊は何本もぶら下がっており、近くの短冊へと目を向ければば「世界征服」や「不老不死」といった子供じみた願い事や「今度のテストで赤点が免れますように」といった切実な願い事、そして「先輩と両思いになれますように」といった当人にはまさに星に願いたいような願望が色とりどりの短冊に書かれぶら下げられていた。
高校生になれば季節を感じるような行事など滅多にすることがない。
七夕飾りを飾るなど小学校の頃を思い出して懐かしい気持ちにはなるが、何処からか笹を手に入れ、七夕飾りを吊り下げ短冊まで準備するなどかなり手間がかかる事だろう。一体だれがこんな事をしtのだろうか。ただ季節を感じたいからという思いだけではとてもやれるような事には思えないのだが。
日野もそれが気になるのだろう。「誰がこんなデカい竹みたいな笹をもってきたんだろうな」「これだけ大きな竹を切って運ぶならトラックくらいは必用そうだが」「調達できる場所も限られているよな、そこから当たれば誰が持ちこんだかくらいは暴けるか」とあれこれ推論を立てていた。
一方で福沢は「みなさーん、願い事は書きました?」なんてどこかお気楽だ。「私は、素敵な彼氏が出来ますようにーって書きましたよー、あっ、風間さんはNGでーす」なんてグループメッセージを飛ばしている。
風間は「何でボクはNGなんだい!? 遠慮しなくても、今日だけ玲子ちゃんのノゾムンでいてあげるよ」等返事をおくっていたものだからあやうく風間のアカウントをミュートしそうになっていた。
それにしても、本当に誰がこんなものをもってきたのだろう。何のために運んだのか、何の利点もなさそうだが。
不思議に思いその竹のような笹を見上げていれば、不意に袖山が声をかけてきた。
「荒井くんも、何か願い事書いてみるつもりなのかな」
声のほうをみれば、袖山は短冊を手にしていた。
この竹のような笹を誰がもってきたのかはわからないが、どう見ても普通の竹のようにしか見えない。袖山はそう判断し、何か願い事でも書いてみようと思ったのだろう。
「もし願い事を書くなら、荒井くんも一緒にどうかな。なんか僕一人だけだと恥ずかしいし……」
袖山はそう言いながら顔を赤くする。
荒井は別に願い事をする気はなかったが、友人の袖山が何か頼むというのなら付き合ってもいいと思っていた。
「袖山くんは何か叶えたい願い事があるの?」
「いや、すごく叶えたいとかそういうのは思いつかないんだ。でも、みんながやっているのを見ると楽しそうだろう。この先、七夕で短冊を飾る機会もないかもしれないと思うとやってもいいんじゃないな、って思ったからさ……でも、すぐに願いが浮かばないから教室にもちかえって、ゆっくり願い事を考えてみようと思うんだ」
荒井は何気なく短冊を見る。時々に名前を書いている生徒もいるが、殆どが無記名の内容だからだろう。短冊には様々な願い事がかかっていた。
「シャイでかわいいHさんが僕に告白できますように」「新作ゲームの発売が延期になりませんように」なんて、願いに現実的か馬鹿馬鹿しい事かと差はあるものの袖山の言う通り、どの短冊も楽しそうに願い事を書いている。
この「映画の撮影が無事に済みますように」は時田が書いたものだろうか。「M市全域のトイレとカレー店を制覇できますように」は細田かもしれない。
「荒井くんも書いてみようよ。荒井くんも一緒に何か願い事をかいてくれるなら、僕もちゃんと考えて書けるかな、って思うんだ」
袖山はもっていた短冊を荒井へと差し出す。
別に神頼みしたいような事はなかったのだが、袖山の頼みを無碍に断るのは気が引けた。
「わかったよ袖山くん。僕も何か願い事を考えてみるから、昼休みになったら二人でここに来てみよう」
荒井は袖山へ笑みを向けると短冊をカバンに入れ、二人並んで他愛もない話しをしながら教室へ戻って行った。
とはいえ荒井は神頼みしたいような事などない。
自分の願いは自分でなければ叶えることなど出来ないというのが彼の基本的な考え方だったし、勉強も運動も現状に大きな不満はなかったからだ。
新堂の事を思っているのは確かではあるが、それはあくまで自分の問題だ。
密かに思うだけで充分に満足だったし、胸に秘めておくだけで今のところ打ち明けるつもりはない。ましてや学校の昇降口なんてに目立つ場所に置かれた竹のような笹にぶら下げておくつもりは毛頭なかった。
もし自分の事を願うのなら、「今度のテスト平均点を今以上に上げるようにする」とか「全国模試の順位を上げる」いった具体的な目標を書くだろうが、それは七夕の願いにしては味気ない気がする。
そうして暫く考えているうち、別に短冊へ書くのが自分の願いでなくてもいいという事に思い至った荒井は空き時間に短冊へ「今度の大会で良い成績が残せますように」と書いていた。
これは自分の願いではない、いよいよ三年最後の大会が近づき練習にも力が入ってきた新堂が全力で大会に打ち込めるよう願ってのものだ。
自分の気持ちを明かす事ができなくとも、これくらいの願いは抱いてもいいだろう。
昼休みになり荒井は短冊をポケットにしまうと袖山と連れ立って昇降口まえに置かれたあの、竹のような笹のところまで来た。
高校生になっても子供っぽいと言われてしまえばそれまでだが、それなりに大きな竹に紙細工がぶら下がっている様子を見れば自分も七夕という行事に浮かれてみたいと思うのだろう。
朝見た時と比べれば随分と短冊の数は増えていた。
「けっきょく、昼休みギリギリまで願い事が決まらなくてねぇ。こんなだから僕ってダメなんだな、と思って『優柔不断が直りますように』って書いたんだ」
袖山は照れたように笑って自分の短冊を見せる。
「そんな、袖山くんは今のままでも充分努力していると思うけどね。あんまり無理しないで、出来る範囲でいいと思うよ」
荒井は素直にそう告げると、竹の前に集まる生徒らを後ろで眺めていた。
今は女子たちが好きな先輩の話題で盛り上がっているようだ。 恋愛ごとに熱が入った集団の間には何となく入りづらく遠目で眺めていたところ。
「よぉ、荒井に袖山じゃ無ェか。何してんだよ」
竹のような笹を見ている二人の後ろから声がしたので振り返れば、そこには新堂が立っていた。隣には日野もいてスマホで写真を撮っている。
「新堂さん。それに日野さんも、どうしてこんな所にいるんですか」
驚き声をあげる荒井に返事をしたのは日野だった。
「突然あらわれた竹みたいな笹の正体を探るべく新聞部としての取材をしようと思ってな。三年の教室棟で写真を撮っていたら新堂と会ったから、ついでの他の学年にある竹みたいな笹も見に行くかと誘ってみたら一緒ついて来たって訳だ」
「そうそう、一年と二年の昇降口にも笹が……いや、こいつは竹か? ま、とにかくデカイ笹が立てかけてあるって言うだろ。三年の笹には願い事書いてぶら下げといたけど、どうせなら二年と一年の笹にも何か願い事書いてこようと思ってな。ほら、三つ願い事が叶う気がしてお得じゃねぇか、なぁ」
新堂はそう言いながら楽しそうに笑っている。
七夕は別に願い事が一つしか出来ないなんて決まりはないのだから三年の昇降口にある竹に好きなだけ短冊をぶら下げればいいと思うのだが、わざわざ二年の竹を見に来るなど面白い暇つぶしくらいに思っているのだろう。
最も、暇つぶしという点だけを見れば短冊を書いてきた自分たちも似たようなものだろうが。
「で、荒井と袖山は何してんだよ。まだ短冊かけられないんなら俺がつるしておいてやろうか?」
新堂は袖山が短冊をもっているのに気付いたのだろう、手早く袖山から短冊を手にとると女子たちの集団の上から垂れ下がった竹に短冊をひっかけた。
「へぇ、優柔不断をなおしたい、か。はは、袖山らしいな。でも俺はオマエ、けっこう根性キまってていいと思うぜ」
「し、新堂さん……ありがとうございます、何かすいません」
袖山は緊張した面持ちとなりぺこりと頭を下げる。彼は去年までサッカー部に在籍しており、サッカー部の合宿でコーチ代わりに指導をしていた新堂とは顔見知りなのだ。
体力も運動神経も人並み以下の袖山だが実直な性格なので言われたメニューは必ずこなし最後までやり遂げた根性を新堂にはとても気に入られ、袖山がサッカー部を辞めた後も何かと気に掛けているのだということは袖山からも新堂からも聞いていた。
「荒井も短冊かいてきたんだろ? よこせよ、俺が一番高いところにつるしてやるからよ」
次いで新堂は荒井のほうへ視線を向ける。
彼は善意で言っているのはわかるが、この短冊を彼に見られるのは気が引けた。
何せ自分の願い事ではなく、目の前にいる新堂のための願掛けのようなものなのだから、それを見られるのは気恥ずかしい。
「い、いえ。僕は書いてきてませんので……袖山くんの付き合いで来たんです」
とっさにそんな嘘が口から出てしまい、言ってから後悔する。
袖山と一緒に願い事を昼休みまでと言ったのに書いてこなかったと言うのは袖山が訝しむだろう。 だがこの短冊は他人に見られたくはない。
「何いってるんだ荒井、ポケットから短冊出てるじゃないか」
そう思っていたというのに、日野は目聡く短冊を見つけるとかくす間もなく荒井のポケットから抜き取った。
「ちゃんと書き終わってるみたいだな。新堂、せっかくだから荒井の願い事もその竹みたいな笹に下げてやってくれ」
しかもわざわざ新堂に手渡すとは日野も意地が悪いと思うが、荒井は別に新堂への思いを誰にも告げていないのだから仕方ない。 それでも日野の背丈なら新堂に手渡さなくてもそのまま彼が笹に下げてくれればいいのに、日野はこういう時にやけに気が利かない事があるので意味も無く苛立ってしまう。
荒井が内心狼狽えているのをよそに新堂は短冊を受け取るとすぐさまそれを竹のような笹へとぶら下げた。さして気にする様子はなかったから中身までは見てないか、それなら良いのだが。
「下げておいたぜ荒井。でも、おまえなんか大会とか出る予定あるのか? いい成績が残せるように、なんてオマエなら願掛けしなくても良さそうだけどな」
そう思ったが、しっかり読まれていたようだ。いや、ぶら下げようとしたら否が応でも文字が目に入るだろうから仕方ないとはいえ、やはり恥ずかしい。
「ぼ、僕じゃないですよ、知り合いが……大きな大会を控えているので、それでです。僕自身は願い事なんてありませんでしたからね」
だから正直にそう告げる。
荒井と新堂の関係は知り合い程度でそれ以上にはなり得ないと、少なくとも荒井はそう心得ているのだから嘘ではないだろう。
「そっか、自分の願いを書かないなんて殊勝なやつだなァ」
新堂はニヤリと笑いながらまだ残ってる短冊を一枚とると手持ちのサインペンで願い事を書きはじめた。本当に、二年の昇降口にある竹のような笹へ願い事を書きに来たのか。
そう思っていた荒井の鼻先に短冊を向けた。
「じゃ、俺も他人の願掛けでもするかな。『もう少し先輩に素直になれますように』なんて、いいと思わねぇか荒井?」
短冊には先輩の「輩」の字がかけず「パイ」になっている事以外、新堂の言葉通りに書かれている。
あの願いが新堂のためのものだというのが彼にはわかったのだろうか。だとすると素直になったほうが良い後輩とは自分の事ではないか。
「……本当、ウザいですよ。風間さんみたいになってきましたよね」
「何だよテメェ、ほんとに素直じゃねぇな。ま、いいけどな……おっと、おまえが後で願い事を破り捨てないよう、少し高ェところにつるしておかねぇとな」
新堂は茶化すように笑うと、竹のような笹のてっぺん近くに短冊を結ぶ。
そして「次があるから」と言い、日野とともに去って行った。 恐らく次は一年の教室棟に行き突如現れたこの竹のような笹を見物に行くのだろう。
「いやぁ、ビックリしたね荒井くん。まさかこんな所で新堂さんに会うなんて……でも、変わりなさそうでよかったよ」
「うん、本当に……相変わらずだったね」
新堂に妙な絡まれ方をしなかった事で安心したのだろう。胸をなで下ろす袖山を横に、荒井は僅かに笑う。
その目は自然と、新堂の書いた短冊の方を向いていた。
誰が持ちこんだのかは知らないが、2年の教室棟の昇降口に竹ほどの笹がおかれていたのは朝一番に練習へやってきたサッカー部員たちが見かけたのだというから昨晩のうちから運び込まれたものだろう。
色とりどりの折り紙で飾られているのをみると七夕用の飾りのつもりかもしれない。
当然、鳴神学園の高校行事に高校行事に七夕などはない。
どこかの物好きが持ちこんだのだろうとか、大金持ちの道楽だろうとか、ハッピー・ピース・カンパニーから幸福のお裾分けですとか様々な憶測が流れたが、そこに竹のような笹が「七夕仮です」といった顔をして鎮座しているのにはかわりがなかった。
荒井は登校してすぐ、件の七夕飾りを確認するとすぐに友人と、以前「学校の怖い話しを特集する」といった集会で出会ったこわい物好きな友人たちへ連絡をとっていた。「教室棟の出入り口に笹と呼ぶには大きすぎる飾りが置かれている」という事を伝えれば、坂上と日野から「こっちにも置いてある」とすぐに返事が飛んで来たので、どうやら全ての教室棟の出入り口に似たようなものがおかれているのだろう。
傍らには机と短冊、マジックペンまで準備され「さぁ、笹に願い事を自由に描くがいい」と言った案配である。
すでに短冊は何本もぶら下がっており、近くの短冊へと目を向ければば「世界征服」や「不老不死」といった子供じみた願い事や「今度のテストで赤点が免れますように」といった切実な願い事、そして「先輩と両思いになれますように」といった当人にはまさに星に願いたいような願望が色とりどりの短冊に書かれぶら下げられていた。
高校生になれば季節を感じるような行事など滅多にすることがない。
七夕飾りを飾るなど小学校の頃を思い出して懐かしい気持ちにはなるが、何処からか笹を手に入れ、七夕飾りを吊り下げ短冊まで準備するなどかなり手間がかかる事だろう。一体だれがこんな事をしtのだろうか。ただ季節を感じたいからという思いだけではとてもやれるような事には思えないのだが。
日野もそれが気になるのだろう。「誰がこんなデカい竹みたいな笹をもってきたんだろうな」「これだけ大きな竹を切って運ぶならトラックくらいは必用そうだが」「調達できる場所も限られているよな、そこから当たれば誰が持ちこんだかくらいは暴けるか」とあれこれ推論を立てていた。
一方で福沢は「みなさーん、願い事は書きました?」なんてどこかお気楽だ。「私は、素敵な彼氏が出来ますようにーって書きましたよー、あっ、風間さんはNGでーす」なんてグループメッセージを飛ばしている。
風間は「何でボクはNGなんだい!? 遠慮しなくても、今日だけ玲子ちゃんのノゾムンでいてあげるよ」等返事をおくっていたものだからあやうく風間のアカウントをミュートしそうになっていた。
それにしても、本当に誰がこんなものをもってきたのだろう。何のために運んだのか、何の利点もなさそうだが。
不思議に思いその竹のような笹を見上げていれば、不意に袖山が声をかけてきた。
「荒井くんも、何か願い事書いてみるつもりなのかな」
声のほうをみれば、袖山は短冊を手にしていた。
この竹のような笹を誰がもってきたのかはわからないが、どう見ても普通の竹のようにしか見えない。袖山はそう判断し、何か願い事でも書いてみようと思ったのだろう。
「もし願い事を書くなら、荒井くんも一緒にどうかな。なんか僕一人だけだと恥ずかしいし……」
袖山はそう言いながら顔を赤くする。
荒井は別に願い事をする気はなかったが、友人の袖山が何か頼むというのなら付き合ってもいいと思っていた。
「袖山くんは何か叶えたい願い事があるの?」
「いや、すごく叶えたいとかそういうのは思いつかないんだ。でも、みんながやっているのを見ると楽しそうだろう。この先、七夕で短冊を飾る機会もないかもしれないと思うとやってもいいんじゃないな、って思ったからさ……でも、すぐに願いが浮かばないから教室にもちかえって、ゆっくり願い事を考えてみようと思うんだ」
荒井は何気なく短冊を見る。時々に名前を書いている生徒もいるが、殆どが無記名の内容だからだろう。短冊には様々な願い事がかかっていた。
「シャイでかわいいHさんが僕に告白できますように」「新作ゲームの発売が延期になりませんように」なんて、願いに現実的か馬鹿馬鹿しい事かと差はあるものの袖山の言う通り、どの短冊も楽しそうに願い事を書いている。
この「映画の撮影が無事に済みますように」は時田が書いたものだろうか。「M市全域のトイレとカレー店を制覇できますように」は細田かもしれない。
「荒井くんも書いてみようよ。荒井くんも一緒に何か願い事をかいてくれるなら、僕もちゃんと考えて書けるかな、って思うんだ」
袖山はもっていた短冊を荒井へと差し出す。
別に神頼みしたいような事はなかったのだが、袖山の頼みを無碍に断るのは気が引けた。
「わかったよ袖山くん。僕も何か願い事を考えてみるから、昼休みになったら二人でここに来てみよう」
荒井は袖山へ笑みを向けると短冊をカバンに入れ、二人並んで他愛もない話しをしながら教室へ戻って行った。
とはいえ荒井は神頼みしたいような事などない。
自分の願いは自分でなければ叶えることなど出来ないというのが彼の基本的な考え方だったし、勉強も運動も現状に大きな不満はなかったからだ。
新堂の事を思っているのは確かではあるが、それはあくまで自分の問題だ。
密かに思うだけで充分に満足だったし、胸に秘めておくだけで今のところ打ち明けるつもりはない。ましてや学校の昇降口なんてに目立つ場所に置かれた竹のような笹にぶら下げておくつもりは毛頭なかった。
もし自分の事を願うのなら、「今度のテスト平均点を今以上に上げるようにする」とか「全国模試の順位を上げる」いった具体的な目標を書くだろうが、それは七夕の願いにしては味気ない気がする。
そうして暫く考えているうち、別に短冊へ書くのが自分の願いでなくてもいいという事に思い至った荒井は空き時間に短冊へ「今度の大会で良い成績が残せますように」と書いていた。
これは自分の願いではない、いよいよ三年最後の大会が近づき練習にも力が入ってきた新堂が全力で大会に打ち込めるよう願ってのものだ。
自分の気持ちを明かす事ができなくとも、これくらいの願いは抱いてもいいだろう。
昼休みになり荒井は短冊をポケットにしまうと袖山と連れ立って昇降口まえに置かれたあの、竹のような笹のところまで来た。
高校生になっても子供っぽいと言われてしまえばそれまでだが、それなりに大きな竹に紙細工がぶら下がっている様子を見れば自分も七夕という行事に浮かれてみたいと思うのだろう。
朝見た時と比べれば随分と短冊の数は増えていた。
「けっきょく、昼休みギリギリまで願い事が決まらなくてねぇ。こんなだから僕ってダメなんだな、と思って『優柔不断が直りますように』って書いたんだ」
袖山は照れたように笑って自分の短冊を見せる。
「そんな、袖山くんは今のままでも充分努力していると思うけどね。あんまり無理しないで、出来る範囲でいいと思うよ」
荒井は素直にそう告げると、竹の前に集まる生徒らを後ろで眺めていた。
今は女子たちが好きな先輩の話題で盛り上がっているようだ。 恋愛ごとに熱が入った集団の間には何となく入りづらく遠目で眺めていたところ。
「よぉ、荒井に袖山じゃ無ェか。何してんだよ」
竹のような笹を見ている二人の後ろから声がしたので振り返れば、そこには新堂が立っていた。隣には日野もいてスマホで写真を撮っている。
「新堂さん。それに日野さんも、どうしてこんな所にいるんですか」
驚き声をあげる荒井に返事をしたのは日野だった。
「突然あらわれた竹みたいな笹の正体を探るべく新聞部としての取材をしようと思ってな。三年の教室棟で写真を撮っていたら新堂と会ったから、ついでの他の学年にある竹みたいな笹も見に行くかと誘ってみたら一緒ついて来たって訳だ」
「そうそう、一年と二年の昇降口にも笹が……いや、こいつは竹か? ま、とにかくデカイ笹が立てかけてあるって言うだろ。三年の笹には願い事書いてぶら下げといたけど、どうせなら二年と一年の笹にも何か願い事書いてこようと思ってな。ほら、三つ願い事が叶う気がしてお得じゃねぇか、なぁ」
新堂はそう言いながら楽しそうに笑っている。
七夕は別に願い事が一つしか出来ないなんて決まりはないのだから三年の昇降口にある竹に好きなだけ短冊をぶら下げればいいと思うのだが、わざわざ二年の竹を見に来るなど面白い暇つぶしくらいに思っているのだろう。
最も、暇つぶしという点だけを見れば短冊を書いてきた自分たちも似たようなものだろうが。
「で、荒井と袖山は何してんだよ。まだ短冊かけられないんなら俺がつるしておいてやろうか?」
新堂は袖山が短冊をもっているのに気付いたのだろう、手早く袖山から短冊を手にとると女子たちの集団の上から垂れ下がった竹に短冊をひっかけた。
「へぇ、優柔不断をなおしたい、か。はは、袖山らしいな。でも俺はオマエ、けっこう根性キまってていいと思うぜ」
「し、新堂さん……ありがとうございます、何かすいません」
袖山は緊張した面持ちとなりぺこりと頭を下げる。彼は去年までサッカー部に在籍しており、サッカー部の合宿でコーチ代わりに指導をしていた新堂とは顔見知りなのだ。
体力も運動神経も人並み以下の袖山だが実直な性格なので言われたメニューは必ずこなし最後までやり遂げた根性を新堂にはとても気に入られ、袖山がサッカー部を辞めた後も何かと気に掛けているのだということは袖山からも新堂からも聞いていた。
「荒井も短冊かいてきたんだろ? よこせよ、俺が一番高いところにつるしてやるからよ」
次いで新堂は荒井のほうへ視線を向ける。
彼は善意で言っているのはわかるが、この短冊を彼に見られるのは気が引けた。
何せ自分の願い事ではなく、目の前にいる新堂のための願掛けのようなものなのだから、それを見られるのは気恥ずかしい。
「い、いえ。僕は書いてきてませんので……袖山くんの付き合いで来たんです」
とっさにそんな嘘が口から出てしまい、言ってから後悔する。
袖山と一緒に願い事を昼休みまでと言ったのに書いてこなかったと言うのは袖山が訝しむだろう。 だがこの短冊は他人に見られたくはない。
「何いってるんだ荒井、ポケットから短冊出てるじゃないか」
そう思っていたというのに、日野は目聡く短冊を見つけるとかくす間もなく荒井のポケットから抜き取った。
「ちゃんと書き終わってるみたいだな。新堂、せっかくだから荒井の願い事もその竹みたいな笹に下げてやってくれ」
しかもわざわざ新堂に手渡すとは日野も意地が悪いと思うが、荒井は別に新堂への思いを誰にも告げていないのだから仕方ない。 それでも日野の背丈なら新堂に手渡さなくてもそのまま彼が笹に下げてくれればいいのに、日野はこういう時にやけに気が利かない事があるので意味も無く苛立ってしまう。
荒井が内心狼狽えているのをよそに新堂は短冊を受け取るとすぐさまそれを竹のような笹へとぶら下げた。さして気にする様子はなかったから中身までは見てないか、それなら良いのだが。
「下げておいたぜ荒井。でも、おまえなんか大会とか出る予定あるのか? いい成績が残せるように、なんてオマエなら願掛けしなくても良さそうだけどな」
そう思ったが、しっかり読まれていたようだ。いや、ぶら下げようとしたら否が応でも文字が目に入るだろうから仕方ないとはいえ、やはり恥ずかしい。
「ぼ、僕じゃないですよ、知り合いが……大きな大会を控えているので、それでです。僕自身は願い事なんてありませんでしたからね」
だから正直にそう告げる。
荒井と新堂の関係は知り合い程度でそれ以上にはなり得ないと、少なくとも荒井はそう心得ているのだから嘘ではないだろう。
「そっか、自分の願いを書かないなんて殊勝なやつだなァ」
新堂はニヤリと笑いながらまだ残ってる短冊を一枚とると手持ちのサインペンで願い事を書きはじめた。本当に、二年の昇降口にある竹のような笹へ願い事を書きに来たのか。
そう思っていた荒井の鼻先に短冊を向けた。
「じゃ、俺も他人の願掛けでもするかな。『もう少し先輩に素直になれますように』なんて、いいと思わねぇか荒井?」
短冊には先輩の「輩」の字がかけず「パイ」になっている事以外、新堂の言葉通りに書かれている。
あの願いが新堂のためのものだというのが彼にはわかったのだろうか。だとすると素直になったほうが良い後輩とは自分の事ではないか。
「……本当、ウザいですよ。風間さんみたいになってきましたよね」
「何だよテメェ、ほんとに素直じゃねぇな。ま、いいけどな……おっと、おまえが後で願い事を破り捨てないよう、少し高ェところにつるしておかねぇとな」
新堂は茶化すように笑うと、竹のような笹のてっぺん近くに短冊を結ぶ。
そして「次があるから」と言い、日野とともに去って行った。 恐らく次は一年の教室棟に行き突如現れたこの竹のような笹を見物に行くのだろう。
「いやぁ、ビックリしたね荒井くん。まさかこんな所で新堂さんに会うなんて……でも、変わりなさそうでよかったよ」
「うん、本当に……相変わらずだったね」
新堂に妙な絡まれ方をしなかった事で安心したのだろう。胸をなで下ろす袖山を横に、荒井は僅かに笑う。
その目は自然と、新堂の書いた短冊の方を向いていた。
PR
COMMENT