インターネット字書きマンの落書き帳
黄昏の街に欠けたるものなど無しと思えば(ホラー)
雰囲気ホラー創作です。
永遠に夕方でありつづける街の病室で目覚めた男が見る風景のはなし。
熱が出た時に見るタイプの悪夢っぽい話、というイメージで書いていた作品です。
以前、自分で作ったTRPG作品「ルリヲを殺しに行きなさい」をモチーフにしているので、風車男ルリヲのテイストが入っております。
これは実際、作品じゃなく作品のプロットで……。
ぼくはこのプロットを元に話を書くんですが、プロットもある程度読めるような形になっているし……。
インターネットらくがきマンとしては「見て見て!」をしたいタイプの人間なのでこちらも「見て見て」をしておきます。
見て見て~!
出来れば褒めて~!(キャッキャ!)
永遠に夕方でありつづける街の病室で目覚めた男が見る風景のはなし。
熱が出た時に見るタイプの悪夢っぽい話、というイメージで書いていた作品です。
以前、自分で作ったTRPG作品「ルリヲを殺しに行きなさい」をモチーフにしているので、風車男ルリヲのテイストが入っております。
これは実際、作品じゃなく作品のプロットで……。
ぼくはこのプロットを元に話を書くんですが、プロットもある程度読めるような形になっているし……。
インターネットらくがきマンとしては「見て見て!」をしたいタイプの人間なのでこちらも「見て見て」をしておきます。
見て見て~!
出来れば褒めて~!(キャッキャ!)
「終わらない黄昏のまち」
その街はこの時期はずっと黄昏時なのだというが病室の窓から観覧車を眺めていた入院患者の「ぼく」はずっと黄昏時の街などあるものかと思っていた。
窓から望む観覧車はこの街にある唯一の遊園地であり幸せの象徴だ。
ポッペパンピッペッポーン
得体の知れないメロディは遊園地から遠く離れた病院にも聞こえてくる。その音は「ぼく」にとって不愉快極まりなく音が聞こえるたびに頭がギリギリと痛むのだ。
「わかっている、あなたの命は一人のものじゃないの」「あなたの肩口にある傷のこと忘れないで」
優しくも悲しい声が頭の中で膨れ上がり風船のようになった脳髄が脳漿をぶちまけそうになる。 僕は自分の服を脱ぎ肩に傷など何処にもないのを確認し、長い安堵の息を吐いた。
安心するのだ。傷などない、僕の命は僕のものだ。決して■■■のものであってたまるか。
あれはもう死んだのだから。
いや、正しくは死ぬ事さえできなかったのだ、生まれてすらいないのだから。
ポッペパンピッペッポーン
遊園地の賑やかな音は病院にも届く。壊れたオルゴールのように調子外れの音はやけに腹立たしい。どうしてこんなに近くで聞こえるのだと苛立ちばかりが募る。 こんなにやかましいというのに病室の人間はみんな寛容だった。
「賑やかだねぇ」「楽しい音だ」「家族が楽しむ遊園地だもの」「恋人だって楽しむさ」「一人でも楽しめるさ」「遊園地は幸せの象徴なのだから」
目玉の外れたウサギやら顔が砕けたビスクドールやら手足があべこべに付けられたブリキのロボットなどベッドに寝転ばされた壊れた玩具たちは楽しそうに口々に話ている。何も言わないカエルの置物はマーブルチョコを全部混ぜて溶かしたような色をした点滴を注がれカエルなのに虹色に変色していた。
みんな楽しそうにそう言うが、こんなのただうるさいだけだろう。玩具は耳がないから雑音さえ気にならないのか。
そう思って外を見ればさっきまでゆっくりと動いているか動いていないかさえ曖昧だった観覧車がまるでハムスターが入った回転車のように勢いよくぐるぐるまわっているのだ。 遠くからも観覧車から影が飛び出しぼろぼろと墜ちていく姿が見えたから、ぼくはつい身を乗り出し外の様子を凝視した。
事故だろうか、それとも何か事件でもあったのか 。どちらにしても、きっと沢山の人が死んだに違いない。
そう思うとぼくの心は高鳴った。
見たいじゃないか、沢山の死体を。感じたいじゃないか、他人の死で自分が生きているという実感を。
躍動する思いが抑えきれぬまま、ぼくは病室を飛び出していた。
病院の長い廊下には慌ただしく働くナースの姿がある。看護師ではなくナースだと思ったのはみんながみんな白のタイトスカートをはいて頭にナースキャップをかぶっていたその外見からだろう。誰もかれも皆、背たけが2mくらいありそうな顔のないマネキンで着ている制服はちゃんとしたものではなくディスカウントストアで売るようなコスプレに使う丈の短いスカートばかりだ。これは本物の看護師じゃない、偽物のナースかナースのコスプレをしている誰かだろう。
そんなマネキンのナースたちはカートに人間の手足を乗せて「どうしましょう、どうしましょう」と嘆いていた。すぐ隣に並ぶナースは人間の心臓をトレイに乗せて「誰に入れましょうか、これは誰に入れましょうか」と騒ぎ立てるのだった。
他にもナースらしいマネキンは10ばかりいたがその全てが人間の手やら首やら脳みそやらバラバラになった臓器をもてあまし右往左往しているのだ。
彼、あるいは彼女たちを導く医者がいないからこんな事になってるのだろう。ぼくもまたどうしていいのかわからずぼんやりとその光景を見ていれば、唐突に「手術室」とかかれた緑のランプが輝いた。
「あら手術の時間だわ」「お医者様がいらっしゃるわ」「この心臓を入れる人間を」「この脳髄はどうしましょう」「あらこれは肺、随分縮んでしまったわ」
マネキンのナースは口々につぶやいて手術室の中へと入っていく。廊下の先にあるから小さく見えた手術室の扉は実際すごく小さくてネズミが入るのがやっとといった扉だというのに看護婦たちは身体を器用に折り曲げると次々とその中へ入っていったのだ。
折り曲げているときボキボキと骨が折れるような音がして、ぼくは何となく心地よさを覚えながら病院から外へと向かう。
入院患者の部屋は二階だったが、出口は一階だろう。一階には通院患者が来ているはずだ。そう思い階段を探しながら一階を覗けば待合室に患者はなくかわりにうずたかく土が積まれていた。こんな所に土なぞ積んで邪魔じゃないか、誰がこんな真似をしたのだろう。
不思議に思い階段を降り傍によってみればそれは土ではなくバラバラに砕け散った人間のミンチ肉をいっぱい集めたものだと気付いて、さすがのぼくもぎょっとした。
そういえばマネキンのナースは心臓やら脳といった内臓ばかり集めていたが外側の肉は全部ミンチにでもしてしまったのだろうか。
そのミンチ肉の隅っこにコック帽をかぶったドブネズミが鼻歌を歌いながら肉団子をせっせと丸めているのが見えた。今日のディナーにでもするのだろうか、休みなく肉団子を作って並べている団子は軽くみても千個は超えていそうだ。
あぁ、だがずっと夕方のこの街でいつ食べたものがディナーというのが正しいのだろうか。いちばん美味しくて上等のものを食べた時がディナーという考えでいいのだろうか。そもそもどうしてこの街はずっと黄昏時なのだろうか。
「どうしてこの街はずっと夕方なんですかね」
ふと思った疑問に、ネズミのコックは短い尻尾をふってこたえた。尻尾が短いのは以前猫にひっかかれて喰われてしまったからだというのは別に説明されてないが何となく想像できた。
「地球は軸があるのを知っているかい。地軸っていうんだ。それがこの前おおきな隕石があたった時にその地軸がぐぃんと大きく傾いてね、ほぅら地球は自転しているだろう、だから毎日、お日様が昇ったり沈んだりしていたんだがこの街はちょうどお日様が沈みかけたところで時間が動く野を止めてしまったって訳さ」
なんだ、ネズミのくせに賢いじゃないか。きっとSF小説を愛読しているに違いない。
もっともらしい答えに「ふぅん」と思い、ぼくは街の外に出る。
そうして遊園地に向けて歩き出すのだ。
遊園地からは相変わらず無数の影が振り落とされていた。ハムスターがこれこそが自分の仕事だとでもいうように回転車を必死に回しているのか、観覧車の速度はますます上がっている。
だけど外に出てみたはいいが遊園地まではどうやって行くのだろう。
入院していた病室からふらりと出かけてしまったけど今のぼくはお金もない。服も病室で使っていた患者用の服のままだし靴なんて室内用のサンダルだ。 こんな有様で遊園地に行けるのだろうかという心配もあったが、行けば何とかなるだろうという気楽さから僕は鼻歌を歌っていた。 ポッペパーンピッポッペーン
いけない、あの得体の知れないメロディを覚えてしまった。耳障りだというのに癖になる、ポッペパーンピッポッペーン、焼いたばかりのポップコーンだよ。おいしいおいしいポップコーンだ。そんな事をいうポップコーン販売機があったのを思い出す。
1つ300円もしたからぼくには高すぎるお菓子だった。だから一度も買ってもらえなかったし、そもそもバターをいっぱい使ったポップコーンというものを食べるなんて許してはもらえなかっただろう。ぼくは皆が食べているのを羨ましそうに見ていたらぼくに気付いたクラスメイトがポップコーンを貪りながらぼくの周りを囲むのだ。
「おまえは食べないの」「そいつは食べないよ、貧乏だから」「ボシカテーでお金ないんだもんね」「だいたい、そいつのママはこういうジャンクフードを食べさせないんだよ。自然派とかそういうのだから」
一人だと思ったら複数の子供たちがぼくのまわりに集まっている。
あぁ、確かに買えなかったのは貧しかったからだけどそれ以上に母が体に悪いものを食べてはいけないとうるさかったのだ。 母はオーガニックとか自然由来の成分といったものをぼくにずっと与え続けていた。病院のことを天敵のように憎んでおり、ぼくは子供の頃からワクチンや予防接種というのを全く受けてこなかった。そのせいで修学旅行に海外へ行くという時、ぼくだけは置いてけぼりだったのだ。それはあまり金が無かったのもあるのだけれども、ぼくの母が予防接種などをするならぼくを殺す、予防接種に殺されてしまうのなら自分の手で殺してやるとしたからだ。
「あの子を■■■みたいに殺してしまうつもりなんだろう、おまえたち医者はいつだってそうだ。金ばっかりとって、別にこっちのことを治しはしないんだよ」
それは母の口癖だった。
母はもともと自然派とかそういったものと無関係だったようだが、■■■が生まれた時からずっと医者を信頼しなくなっていた。■■■が失われてからそれはますます熾烈になっていったのだ。
きっと失ったその時から母の時間は動いていないのだろう。そして母は■■■が失われた悲しみの方が大事で、今生きているぼくにはさして興味がないのだ。
最もぼくもそうだ、子供の頃は母に愛されたいから色々と気を引くために頑張った。テストの成績だって運動だって人よりずっと出来ていた。だけど母はいつだってぼくの隣にいるはずだった■■■を見ていて、そこに■■■がいないことを嘆くのだ。
だからぼくは母も、■■■のこともすべてどうでもよくなった。
そういえば、あのネズミは隕石で自転が止まってしまったと言ったっけ。だから時間が止まっていて、ずっとここは黄昏時なのだと。 だけど自転が止まったらそれは重力が無くなるって事だからぼくたち地球に住んでる限りみんな宇宙にはじき出されてしまうんじゃ無いのだろうか。しょせんネズミの考えだ、自転が止まるなんて世迷い言だ。だけどここがずぅっと黄昏時なのは他の理由があるのだろう。
ネズミが言うのを信じる訳ではないが、地球の傾きが何かしらの理由で大きくなってずっと夕方が終わらないようになってしまったのは案外にそうかもしれない。
ポッペパーンピッポッペーン
鼻歌を口ずさみ歩いているが遠くに影をうつす遊園地に近づいてる風には見えなかった。
それもそうだ、ぼくは遊園地に行く道を知らない。バスや電車に乗るような金もない。歩いていくしか無いのだがどこの道が近いのかもわからない。
蜃気楼じゃないのだから見ている影を目指していればじきに付くのだろうが。 そうしてふらりと歩いていると僕の目の前に夕焼けとは違う赤が飛び込んできた。それは大きな赤い水たまりだった。強い錆のようなニオイがするから血だまりのように見えるが赤いインクなのかもしれない。そう思ってしばらく赤い水たまりを眺めていたら、そこからもぞもぞと蜘蛛のようなものが這い出てきた。
初めて見る生き物だ、そう思ってそれを追いかける。蜘蛛のように思えたその虫に見えてみたものは赤い水たまりからずるずると手首が現れ、第一関節が現れて一本の腕になり、さらに真っ赤にそまった裸体の少女がずるずるもぞもぞ這い出てきた。
裸体の少女なんて随分とエロティックなものが現れたと思ったが、その子は頭から血を浴びたように真っ赤だし目玉はぎょろりと剥き出しで濁った色をしており生きている風には思えない。例え裸で歳の頃なら15,6。女子高生くらいでも身体中真っ赤にし目は死んだ魚のように蕩けてしまっていたのならエロティックよりオカルティックの方が随分と強いだろう。
赤い水たまりから這い出た彼女はそのままずるずるイモムシのように路地を蠢き這って時には転がりすすんで行くから僕はそれに導かれている気がして必死でその後を追いかけていった。 追いかけているうちに赤く染まった少女たちがひとり、ふたりと増えていき気付いたらそれは数千にもあつまって路地を埋め尽くす。そして影絵のように浮かぶ遊園地を目指してアーチを描き道を作るのだ。
あぁ、これに乗っていけばぼくは簡単に遊園地につくなぁ。そう思ってぼくが蠢く少女の腹を踏み階段を上るように少女たちの顔を胸を股間を太腿を踏みつけ乗り越え登っていくと道の先にいる少女たちはまるでぼくを遊園地に誘うことが使命であるかのように加速して光の速さでぼくを影絵の遊園地まで送り届けてくれたのだ。
名も知らぬ少女たち、その命を削ってぼくへの献身をありがとう。
ぼくはそうやってようやく目的地である遊園地にたどりついた。
ポッペパーンピッポッペーン
賑やかな音と同時にあちこちからすさまじい爆音が響く。どこかで花火をしているのかと思ったが、これは花火ではない、爆音だ。
一人の人間が確固たる意思をもちつくった時限式の爆弾が破裂し周囲を破壊する音だ。時限式って言ったって立派なものなんだよ、威力に加減なんて一切ない。
一般人でも手に入る素材をあれこれ利用して作った素人爆弾もいくつかもってきたけどちゃんとイチから研究し実験し火力の調整も気を遣って高層ビルだって粉塵にするようりっぱな奴をいくつも作ったんだから。
ぼくはこれでとてもデキが良かったんだ。生まれてもいないから死んでだっていない■■■がもし生きていたからってぼくみたいに1日で100人も殺せないだろう。
だけどぼくは出来るんだよ。生まれているし死ぬこともできるのだから。
「あぁ殺せないよそんなことはしない」
どこかで■■■が話す声が聞こえた。生まれてないくせに話をするなんて生意気なやつだ。声帯なんてなかったくせに。
「なんでそんな事をするんだ、可愛そうだろう。遊園地は幸せの場所なんだ。楽しい所なんだ。家族や親子、恋人、友達。そういった人が一時のたのしみを共有するための場所に、どうしてこんなにも血と火薬のにおいが漂っているんだ」
愚問だなぁ、可愛そうなんて感情の話でしかない。楽しいもまたそう。ぼくは別にここを楽しい場所だと思わないし、ここに来て遊んでいる人たちも可愛そうだと思わない。
キミの価値観をぼくに勝手に押しつけないでほしいなぁ。
「こんなに沢山の人を殺して何ともないのかい」
愚問だなぁ、愚問しかできないくらい頭が悪いんだろうなぁ、ぼくは沢山の人を殺したけど沢山の人を殺すために今までほとんど何も殺さないで生きてきたんだ。15歳のころからずっと菜食主義者で肉は食べないし毛皮や革製品も使ってない。魚も鶏肉も食べないうえ虫だって殺さないんだからぼくの一生で殺した数はあの日殺した100人くらいの知らない人たちよりずっとずっと少ないさ。
「詭弁だよ、人間とほかの動物の命は違う。それにキミが肉を食べないといってもこの世界で殺される動物の数が減った訳でもないだろう、せいぜい食べ残しが増えたくらいの話じゃないのか」
そうだとしたらなおさら、ぼくの殺した100人は有意義だ。100人減れば無駄な資源をつかわなくてもすむからとってもエコじゃないか。地球に優しい。地球のエネルギーをいちばん消費しているのは人間だろうから、それを減らす事ができたぼくはとっても地球思いだよね。
最も地球がそんなエコ、再送から望んでもいないだろうしエネルギーを使われようが使われまいが別にどうだっていいんだろうけど、まぁ別にいいじゃないか。
死んだ100人のうちにぼくも入るのだから、死んだ人が可愛そうならぼくだって可愛そうだろう。ぼくは別に生き残ろうなんて思っちゃいない。
こうして打ち上げた爆弾で色々な人が困ればいい。それがぼくの存在理由さ。
「本当にそうなのか」
ぼくは気付いた時、観覧車のそばにいた。観覧車からは灰色の影が墜ちてきてどしゃりと床に落ちて弾ける。遠くから見て何かが飛んでいる風に見えた影は爆発で吹き飛び今にも崩れそうになった観覧車から飛び降りて逃げようとする少女たちだった。
その日は学生の修学旅行か何かで観覧車にはとても沢山の女子高生が乗っていたから、それを爆発させたのだ。支えを失った観覧車は大きく傾いて回転車のようにカラカラと回り、遠心力で吹き飛ばされたり怖れから逃げるために飛び降りたりしてそこだけ爆風の死者よりもずっと落下したトマトの方が多かった。
「本当はキミはずっと変わらない縛られているだけ、自分の母と、このぼくに」
僕の目の前にはゴムまりのようなものが蠢いている。 だけどぼくはそれがゴムまりなんかじゃないのを知っている。
だってこれは小学校の頃までぼくの肩口にくっついて僕とともに過ごしていたのだから。
生まれてないから死ぬ事もないくせに生きているみたいに扱われていたぼくと双子の兄、■■■の姿なのだから。
「キミは結局、こうして自棄をおこした破壊で沢山の命を犠牲にして、その責任をたった一つの死とも向き合えなかった母に押しつけたかったんじゃないのかなぁ」
生まれてないおまえに、何がわかる。生まれてないくせにずっとぼくを翻弄したおまえが、偉そうな事をいうな。 気付けば僕の手に大きなハンマーが握られていて、僕はそのハンマーで何度も何度も何度も何度もただのゴムまりにしか見えない兄を叩き潰す。
ぱん、と皮が弾けたゴムのような瘤の中身からは目や髪の毛、歯のなりかけと脳髄らしい形をしたものなどがドロドロと流れ出してきた。
なぁんだよ、やっぱりこんなの全然人間じゃないじゃないか。やっぱりおまえは、生まれてもいないだから死にもしないんだ。生まれてもいない死にもしない名前だけあるおまえ。ぼくの兄であるいは弟だった、ずっとぼくの肩にあったデキモノだ。
「おまえが羨ましいなぁ、ずっとおまえだけが愛されていたんだから」
ぼくは、おまえになりたかった。なれなかったからこんな方法で母にぼくの名前を刻む事しかできなかったけど、ぼくがお前になれていたら。
「俺だってそうだ、俺はお前が羨ましかった。生きているおまえが、とても。とても」
気付けば僕の肩に傷口がぱっくりと開いている。ドロドロの目玉と髪の毛と歯とはぼくの傷口に入っていって、ぼくの肩にゴムまりくらいの大きさの腫瘍になっていた。
小学校のころまでぼくはずっとこの腫瘍と一緒に生きていていた。小学校の頃には流石に大きくなりすぎて痛みも出るようになったからと母から離され親族のすすめで腫瘍を取り除いたのだけれども、それから母はますます僕ではなく■■■を見るようになり医者というものだけではなく親類縁者も信じなくなった。
肥大する腫瘍から、ぼくの血が失われていく。ちっぽけだと思っていた腫瘍のなかにある脳髄が浸食し腫瘍は僕に成り代わっていくのがわかった。
やがてぼくの目は見えなくなり、うっすらとあかね色の光が漏れる球体のなかにぼくがいる。このあかね色が永遠に夕焼けの街がはなつ色なのか、それとも光に透けた血管の色なのかはわからない。 だけどとても穏やかで心地よく、ずっとここで眠れたら幸せだろうと思えるほど優しいこの場所はぼくが生まれて初めてみつけた幸福のゆりかごだった。
「おまえがダメだったなら、次は俺がいく」
ぼくの影はどこかに消える。これでぼくは、ずっとこのゆりかごで幸せな眠りにつく。
そんなぼくの耳に
「どうしてこの爆弾魔の殺人鬼だけが生き残っちまったんだ」
だれかの
「仕方ないだろう、どうしてこんな事をしたのか、自分の罪と向き合ってもらわないと困るんだ。こいつだけでも、生かしてやる」
こえが、聞こえる。
静かに揺れる幸福なゆりかごはこの黄昏の街でしかなく、僕は間もなくこの街から出なければいけないようだった。
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