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インターネット字書きマンの落書き帳

   
しゅがはるセンセがdziと逃避行をする話。(はるだざ)
しゅがはる先生とdziは「誰の手も届かない所へ二人で逃げてしまおう」というのが似合うよな。
と思って書きました。

はるだざです。
(書いた人は年下受けが主成分なので)


何となくダラダラ書いてしまったけど……わりと悶々と考えて書いたので。
頑張ったから読んでください!
頑張ったから! よろしくおねがいします!

頑張ったので誉めてくれると嬉しいです!
傷つくばかりの正論ではなく、上辺だけの美辞麗句で誉めてくださいッ!(正直すぎる欲求)




「薄氷のように儚く脆くとも、強くありたいと信じて」

 二人で、何処か遠くに行きませんか。
 太宰治がそう口にしたのは、黄昏時のことだった。

 元より赤い太宰の髪は茜色に染まり、やけに輝いて見える。
 佐藤春夫はそんな彼を見ていると愛おしいと思うと同時に非道く怖くなるのだ。

 斜陽の光に飲まれて闇へと消えてしまうのではないか。
 あの時のように不意に自分の手から離れて、永久の深淵に飲まれてしまうのではないか。
 そんな風に思えるから。

「二人で、どこか遠くに……か」

 太宰がそんな事を言い出すのは、別に本心からじゃないだろう。
 多分、疲れているのだ。

 図書館に来てからの日々は殆どが浸食者と呼ばれる存在との戦いだったが、戦いのない間は自由な時間が過ごせている。
 以前と比べて共に戦える文豪たちがずっと増えたため最近は非番の日が多いくらいだ。

 この世界は「現実」ではない。
 太宰が憧れて続けていた芥川もいれば、太宰の理解者である檀もいる。
 太宰にとっては盟友である安吾も織田も彼を慕ってよく連んでいたし、親のように太宰を見つめてきた井伏が常に彼を気遣ってくれてもいる。

 太宰にとってこの場所では、生きていた頃に得られなかったもの全てがあるはず場所のはずだ。むしろ、無いものを探す方が難しいくらいに今の太宰は恵まれているだろう。

 それは太宰自身もよくわかっているはずだ。
 だがそれでも。
 いや、それだからこそ太宰は感じてしまうのだろう。

 自分の中にある孤独を。
 あるいは焦燥を。

 生前に抱いたそれは「芥川のいない世界に生まれたからだ」と理由付けが出来た。
 だがこの世界に芥川は存在している。
 太宰の事を「赤い髪の面白い子」と認識し、彼の作品を読んで「すごいね」と笑ったりもする。

 全ては生前の太宰が求めても得られなかったものだ。
 だが、それを得てもなお彼は満たされる事がなかったのだろう。

 つまるところ、太宰という男は今でも孤独であり、死に羨望し、今に焦燥する。
 そのような人間だったのだ。

 人間というものは、生来孤独だ。
 自分と近い思想であっても、同じような嗜好をもっていたとしても『自分とまったく同じ存在』というものはあり得ない。

 本当に心から自分を理解してくれる人間と出会える事が出来たのなら、それは人生の上で何ものにも代えがたい『宝』となり得るだろうが、そんな相手と出会う可能性はまず無い。
 それに、例え心から自分を理解し手を差し伸べてくれる相手がいたとしても、自分の中にある痛みや悲しみ、焦り、嫉妬、そういった感情までも共有する事は不可能だろう。

 そして、常に死は孤独に訪れるのだ。

 普通の人間であれば、そういった死や孤独を恐れる暇もなく日々を過していくものだろう。
 他人と本当に、心の底から理解し合いたいとも思わず、多少同じような趣味嗜好をしていれば話を弾ませ楽しい時を過ごすことができる。
 友人でも、盟友でも、親友でも恋人であっても過去の恥や罪など言いたくない事は存在し、それを胸に秘めておく事は罪でも何でもない、誰でもする事だ。

 そういった事の全てを理解していてもなお、太宰は孤独を感じずにはいられないのだろう。

 人一倍に死や孤独に対して敏感なのが理由か。
 それとも自分の出生に対する劣等感が肥大した結果なのか。

 太宰が何故そのような気質になり、そして望んだもの全てがある今に至ってもそのままである理由は分らない。
 けれども、太宰が求めていたもの全てが「ある」この場所でさえ彼の「消失願望」が存在しているという事はやはり太宰は永遠に満たされる事など知らない存在なのだろう。

 存在している間はどこか空虚であり、それが故に飢えて渇き求めすぎる程求めてしまう、愚かで愛しい「人間」なのだ。

「そうだな、今から少しばかり遠くへ行くか。ここじゃぁない、何処かへ」

 春夫は顔をあげると、鬱屈とした表情で机に伏す太宰の手を引く。
 そして驚き声をあげる太宰の言葉を聞く事もなく外に出ると、行きがてらに鞄を買い、弁当を買い、切符を買って電車に乗った。

 行き先はどこでもよかった。
 ただここでなければいい。終点までゆっくりと旅をして、それで少しでも太宰の孤独と渇きが癒されば僥倖だ。
 そう思いながら車内にあるボックス席に座ると二人分の弁当を広げる。

「春夫先生。すいません……すいません……」

 太宰は譫言のようにそう呟くと、ぼそぼそと弁当を食べ始める。
 傾きかけていた太陽は街の彼方へと沈み、車窓からは外灯の光が零れ始めた。

 行ける所まで行こう。
 終点まで到着してからでも、宿は何とかなるだろう。
 まったくの無計画で電車に乗った春夫は、こんな形で太宰と旅行する事になるとはと内心苦笑いをしていた。

 本当は、太宰の故郷に行く予定があった気がする。
 そこで太宰の好きな景色を見て、太宰の好きな料理を食べ、太宰と思い出を分かち合う予定だったのだが……。

(俺のせいで叶わなかった……か)

 方杖をつきながら、春夫はそんな事を考えていた。
 喧嘩というのはどちらが一方的に悪いという事はない。
 どちらも正しくて、どちらも悪く、そしてお互い子供っぽいが故におこるものだ。

 あの時はあのまま、終ってしまったが……。

(やり直しが出来るのなら……今度は一緒に行ってやるか。あいつの故郷へ……)

 だがこの世界に、太宰の故郷はあるのだろうか。
 太宰の愛した風景や人、食べ物はあるのだろうか……。

 車窓からはガス灯に照らされた紫陽花が雫を滴らせながら寂しげに咲いていた。

「ごめんなさい」「春夫先生、ごめんなさい」「……ごめんなさい」

 太宰はたまに顔を上げれば、まるで口癖のように繰り返し同じ言葉ばかりを呟く。
 一体何に対して謝っているのだろう。太宰は何もしていない。自分が勝手に連れ出したというのに。

「……気にするな。俺がしたいからやっただけだ」

 春夫はそう言うと、太宰の手を握っていた。
 入梅を過ぎ、すっかり暑くなってきたというのに太宰の指先はまるで氷ったように冷え切っていたのがやけに印象的だった。

 終点まで電車に乗り、降り立った先は見慣れぬ繁華街だった。
 夜も遅かったが何とか宿は空いており、乏しい金で一夜を過す。
 安普請の木賃宿は非道く狭い上に汚くて、悪酔いしそうな濁酒の臭いがしみついているし、呼んでもいない芸者娘が顔を出したりして落ち着けるような場所ではなかったが、太宰は疲れていたのだろう。
 喧騒の中にある酒臭い部屋でも蒲団を敷いたらころりと転がり、そのまま寝息をたてていた。

 これで、起きてくれれば少し気が晴れているといいが。
 いつものように無邪気に笑って、下らない話をしてくれればいいのだが……。

(いや、それは残酷な願い、か……)

 春夫はそう思い、太宰に蒲団をかけてやる。
 太宰が無邪気に見せて笑っているのも「演技」である部分が大きいのだろう。
 自ら道化を演じて、明るく楽しい「太宰」という人間を演じて、死の影や恐怖など忘れたふりをして、そうして楽しい姿を見せていなければ周囲が心配するのを知っているから、わざと無邪気に振る舞っているのだ。

 凍てつく程に冷たい死への憧憬を、覆い隠すために。

 「先生、春夫先生。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 蒲団をなおした時、太宰は僅かに目を開ける。
 そして春夫の姿を認めぬままに、何度もそう繰り返した。

「いいんだ。いいんだ、太宰。いいんだよ。いいんだ、いいんだ……」

 一体太宰は、何に対して謝っているのだろう。
 そして春夫は太宰の、何を許してやれるのだろう。

 それすら分らないまま、知らぬ間に朝を迎えていた。
 太宰の傍らに添い寝していたから、とうとう蒲団を敷かないまま眠ってしまったようだ。
 磨りガラスの向こうから朝日の気配がする。

 妙な体勢で寝ていたから痛む身体を伸ばし、水でも飲もうと一階へと降りればそこには思いがけぬ男がいた。

「よぉ、佐藤先生。太宰も一緒にいると思っていいかな?」

 朝早くから宿を無理矢理開けさせたのだろう。
 白米のおにぎりに味噌と胡瓜を齧りながら粗末な椅子に座っているのは「特務司書」と呼ばれている男だった。

 図書館でも特に浸食者との戦いを専門としながら、文豪たちの世話や雑用までこなす「お使いのスペシャリスト」のような存在だ。
 普段から仕事をしているのかしていないのか非道く曖昧で、いないと思ったら急に姿を見せたりと気まぐれな人物ではある。

 彼がここに来ているというコトは、春夫と太宰を連れ戻しに来たのだろう。
 昨夜、気まぐれに飛び出て今朝にはもう迎えに来るとは流石に根回しがいいと感心すると同時にどこか安心している自分がいるのに春夫は気付いていた。

 そう、安心していたのだ。
 この「逃避行ごっこ」が長くは続かない事など最初から分っていたのだから。

 春夫は、この図書館で一番最初に呼び出された文豪である。
 浸食者との戦いに関していえば徳田秋声と同じように初期から参加しており、特務司書との付き合いも最も長い方だと言える。

 そんな春夫が考えもなしに逃げ出す事はない。
 特務司書はきっとそう思って居ただろうし、同時にこうも思っていただろう。

 あの佐藤春夫が浸食者という驚異から逃げる事などない、と。

 実際、この「逃避行」もあくまで太宰の気持ちを落ち着けるための行動にすぎなかった。
 言い換えるなら演出、パフォーマンスだ。

 太宰が満足して、幾分かは気持ちを落ち着けてくれればまた元の場所に戻るつもりだった。
 そもそもこの世界のどこにも、誰も手の届などないのだ。
 本気で全力で逃げたとしても、逃げ切れるはずがないのである。

「太宰はまだ寝てるのか?」
「……あぁ、疲れてるようだったからな。昨日は床についたらすぐに寝ちまったよ」
「ホントかぁ? 何かしたんじゃ無ぇだろうな……」
「してないッ! 誓って、疚しい事はないッ」

 特務司書は肩をふるわせて笑うと、指についた米粒を舐める。

「はいはい、わかってますよ。春夫センセーはこれでロマンティストだからなぁ。こんなムードもない安宿で致すような事はしないよな」
「だから違うと言ってるだろッ、俺は別に……」

 あまりに騒がしくしていたからだろうか。それとも起きたら隣に春夫の姿がなく不安に思ったのだろうか。そんな他愛もない会話をしていると、おずおずと太宰が一階へと降りてきた。

「あ、春夫先生……」

 その顔は春夫を見た時、不安に押しつぶされそうな表情をしていたというのに。

「それに、司書さんもいるじゃーん。なーに、やっぱ天才の俺がいないから不安になっちゃった?」

 特務司書の顔を見ると、おどけたように笑って見せる。
 まるで何の不安もないように道化を演じる彼を前に、春夫は無意識に下唇を噛みしめる。

 そう、太宰はそういう男だ。
 人前では死にたがりを隠して、面白おかしく過しているように演じて見せる。
 そういう男だ。

 自分なんぞ取るに足らない人間だと、心のどこかでそう思って居るから。
 自分の他にある「特別な存在」に対して、どこか卑屈になるのだろう。

 太宰のような男は二人ともいないというのに……。

「当たり前だろ、給料払ってんだからしっかり仕事してもらわないとな……なぁに、半日もあればいつもの図書館まで帰れるさ……さ、戻ろうぜ。宿の支払いは済ませてるんだろ? とっとと着替えて、サッサと帰る。俺も暇じゃないからな」

 特務司書にせっつかれ、太宰は春夫と二階に荷物をとりに上がる。
 その時、太宰は春夫の傍らで寂しそうに呟いた。

「これで、もう終わりですね。駆け落ちごっこ」

 太宰も最初から分っていたのだろう。
 自分たちは逃げられない、少なくとも浸食者が現れている間はその仕事を放り出す事は出来ないのだ。
 そしてもし、全ての浸食者を消し去る事が出来たとしたら、その先に自分達がどうなるかは分らない。

 少なくとも今の自分たちは浸食者を退治するためにあり、その対応のために働いている。
 世界から見ると急場しのぎのような存在だろう。
 用が済めば、文豪としての意識や自我をもって生き続ける必用はない。

 そうなったら自分たちはどうなるのだろう。
 どう……。

「……ごっこじゃない、予行練習だ」

 荷物を探す太宰の背中を抱きしめると、春夫は殆ど無意識にそう囁いていた。

「今は、無理でも……全て終ったら、二人でゆっくり旅行をしよう。お前の故郷に行くのもいいな」
「春夫先生……」
「……そしたら、二人で。誰の手も届かない所に行くんだ。二人だけで、誰にも知られない所でゆっくり暮そう。太宰、ちょっとは料理出来るようにしておけよ?」

 それは叶うかどうかもわからない話。
 夢物語のようなものだろう。
 だけど、それでも。

「……これは、約束のかわりだ」

 唇を交した後その言葉を付け加えれば、太宰はどこか安心したように笑う。
 そして道化ではない本当の、太宰の笑顔を浮かべながら。

「約束ですよ。俺、信じてますから」

 そんな風に、語る。
 それは蜘蛛の糸のような。あるいは薄氷のようなか細く、脆く、儚い約束だったろう。

 だけど今の二人には必用なことだった。
 どんなに儚く脆くとも、お互いを思っているという証が。

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HN:
東吾
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職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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