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インターネット字書きマンの落書き帳

   
世界でただ一つの温かい場所(ザグタナ)
Hadesの推しCPを書きました!(挨拶)
ザグレウスに対しての感情をどう処理していいかわからない、これが好きなのか。愛なのかと戸惑っているタナトスと、タナトスがそんな事を考えているとはミリとも思わず以前と同じようにワンちゃんのようになついてくるザグレウスくんの話です。

タナトスはザグレウスが自分のこと思ってるとか全然考えてないし自分だけが勝手に好きになってると思い込んでいるんだけど、実はザグレウスも少なからずタナトスを意識してる……。
位のさじ加減でやってます。両片思いだけどお互いそれに気付いてない感じ。
一番美味しい時期ですねわかります。

今回は勝手に自分が一方的に好きだと思っているタナトスが、ザグレウスから「一緒に寝ようぜ!」って提案されて狼狽える話ですよ。
一緒に寝るけど何もしません。だってたぶん、何もしないと思うから……。




「腕から逃がしたくない雛鳥」

 たまには一緒に寝てみないか。
 ザグレウスからそんな提案を受けた時、タナトスは自分がどんな顔をしているのかわからない程に内心は狼狽えていた。
「タナトスがいつも仕事で忙しいのはわかってるさ。だけどいつも仕事ばかりじゃ息がつまるだろ。たまには休憩したらどうだ?」
 ザグレウスがそう声をかけたのはタナトスを気遣っての事だろう。僅かだが人間の血が混ざっているザグレウスは神でありながら人間の感性を持ち、人間のように疲れたり落ち込んだり傷ついたりもする。そして人間のような血が流れ人間のような死が訪れるからか、そんな人間らしい提案をすることが時々あった。
 もちろん、神であるタナトスが疲れるという事はほとんどない。「仕事ばかりで疲れる」なんて考えもザグレウスが人間に近い感覚をもつからこそ出る発想でありタナトスには存在しない概念でもあった。
 実際、ザグレウスよりずっと古くから神であり死を与えるという使命を持ち続けているタナトスは疲れといったおおよそ人間らしい感覚を持ち合わせておらずその気遣いは無用のものである。それを何度かザグレウスに説明したこともあるのだが、忘れてしまうのか理解できていないのか同じような事を繰り返し言うことが度々あった。
「別に心配することはない。以前も言ったと思うが、俺は疲れる事などないからな……」
 だからいつもと同じような返事をする。大概の場合ザグレウスはそれで納得をするからだ。
「またそう言うが、本当は遠慮してるんじゃないのか?」
 だがタナトスの言葉をザグレウスは誤解したようだ。提案されるたびに丁重に説明しているつもりだったが、それが逆に遠慮しているように思わせたのかもしれない。あるいはザグレウスから見ても最近のタナトスは無理をしているようにみえたから余計にそう思わせたのだろう。
 ザグレウスはやや鈍感な所があるがそれでも親友であるタナトスの変化に気付かないほど愚鈍ではない。タナトスが最近やけに気が急いていること、焦燥にかられ激昂し冷静になれない時がある事はタナトス自身も自覚しているのだ。近くで見ているザグレウスも当然気付いているだろう。きっと彼なりにタナトスのことを気にかけており、らしくなく粗暴にふるまう様子を見せるタナトスの変化が疲れからくるものだと思ったのだろう。いかにも人間らしい赤い血が流れている神の考えそうなことである。そしてその気遣いもまた冥府の神々にはないものだった。
「遠慮はしてないんだがな……」
 だがタナトス自身もどうして最近こんなにも焦り浮ついてしまうのか理解出来ないでいた。仕事に不満を感じた事はないが疲れているとも思えないのだが……。
「いや、疲れてる。最近のお前は少しおかしいからな……少し寝てみたらどうだ? 俺の部屋にあるベッドなら自由に使っていいから、内緒で少しまどろむといい」
 タナトスは眠らない。死の神であり死の兄弟である「眠り」とは無縁なのだ。だいたい、自分が寝ている間にも死の運命は迫っている。うっかり寝過ごして死を後回しにしていたら運命の三姉妹が何をするかわかったものではない。
 自分が本調子ではないのを自覚していてもなお、タナトスは職務に忠実な男であった。
「気持ちは嬉しいがザグレウス、俺は休んでいる訳にはいかない」
 眠る必要もないしその暇もない。そう告げようとする前に、ザグレウスは何かを閃いたような顔をすると半ば強引にその手を握りしめた。
「そうだ、それなら一緒に寝てやろうか。いいだろ、たまには一緒に寝てみるのも……大丈夫、ちゃんとお前のこと寝かしつけてやるからな」
「なぁっ……」
 タナトスの口から驚きの声が漏れる。その次の言葉が告げられなかったのは想像してなかったザグレウスの言葉が完全に想定外だったからだ。ザグレウスの提案はそれだけ突飛でありタナトスにとって理解の範疇をこえたものだったのだ。
 タナトスがここまで狼狽した理由の一つは、タナトスがザグレウスより深く人間の営みを知っていたからだろう。愛し合うものがその肌を感じ重ねる場所は大概ベッドの上であることはタナトスも知っていた。
 だがザグレウスは人間らしい感情をもっているくせに人間の営みを理解しきっていない所があるのだ。子どもであるならいざ知らずお互いに成長した身体をもつ二人が一つのベッドで眠ることに一定の意味があることなど当然に理解していない。
 ザグレウスの師匠であるアキレウスは戦友であり恋人であるパトロクロスとよく寝所をともにしていた話も多少はしているようだが、そういう行為をしらないザグレウスはただ親友同士が仲良く枕を並べてただ眠るだけのことだと思っているのだろう。
 死の神であるタナトスも子細を承知している訳ではないが生命を得るには性があることくらいは知っている。そして性は生命を得るだけではなく、互いの愛を確かめるためにあることもだ。
「だ、ダメだザグレウス。俺は……」
 ザグレウスが自分を愛しているというのなら、そういう事があってもいいのだろう。だが少なくとも今のザグレウスにとって自分は家族の一員くらいの存在に違いない。ザグレウスにとってのタナトスは親友のような存在でありそれ以上の関係ではないだろう。そんな曖昧な気持ちで同じベッドに入るのは気が咎めるし、何よりタナトス自身がどうなるのかわからない。
 タナトスは自分がザグレウスに抱いている感情を理解しかねている。だがザグレウスが自分の目の前から消えてしまうことが恐ろしかったし、自分以外の誰かに傷つけられ殺されてしまうのは何とも言えず悔しかった。ザグレウスを目の前にすると苛立ったり不必要な緊張を抱くというのに、いないと何処にいるのかと探してしまう。寂しいと思うのだが、それは今まで存在した中で感じたことのない気持ちだったからだ。
 自分でさえ理解しきれてない感情でザグレウスにこれ以上踏み込まれては困る。そう思っての言葉だったが、ザグレウスはタナトスがまだ遠慮しているのだろうと勘違いしたのだろう。
「気にしなくていいから、ほらほら。遠慮するなって」
 ザグレウスはそう言って掴んだ手にいっそう力を入れ強引にタナトスの手を引くと無理矢理自室へとつれていくのだった。
 普段であればザグレウスの部屋の前にはタナトスの母でもあるニュクスが思案にふけり立ち尽くしているのだが今日は出かけているようで、誰にも気付かれる事なく室内へと入る。
「部屋は汚いけど、ベッドはちゃんと寝られるようにしてあるよ」
 彼の言う通り、その部屋には雑多なものにあふれていた。一つ目巨人の頭蓋骨に丸められた書簡、練習の痕跡が残る楽器。遊ばれた形跡のない盤上ゲームなど、様々なものは一見無駄なものばかりにみえる。 だがこの無駄こそがザグレウスの象徴とも言えただろう。彼は特に何かを司るような神ではないが、それが故に何でも出来る。他の神々と違い心にある余暇で時に勤勉に、時に享楽的に刹那の生を楽しめる存在なのだ。
 それが死の神であるタナトスと生命をもつザグレウスの違いであり、アキレウスがいうにはタナトスがザグレウスに惹かれるのもまたザグレウスのもつ生の活力だろうという話だ。
 そう、アキレウスはタナトスがザグレウスに惹かれている、と言っていた。アキレウスから見るとタナトスはザグレウスを愛しているようにみえるのだろうか。オリュンポスの神々は愛することを喜びとし楽しんでいるが愛とはこんなにも神を盲目にさせ焦燥させそして独占欲に満たすものなのか。だとしたら楽しいものではなく、酷く苦しいものではないか。聞いている愛とは違うのだから、やはりこれは愛とは違う感情じゃないのだろうか。
「ほら、早く横になれって!」
 頭の中を廻る思考を断ち切るよう、ザグレウスはタナトスをベッドの上に押し沈める。タナトスが逃げるとでも思ったのか、ザグレウスは彼の上に馬乗りになると舌なめずりをしながら悪戯っぽく笑ってみせた。
「おっと、逃げようと思わないでくれよ? ……タナトス、お前はよくやってる。でも真面目すぎるんだよ。たまにはこうして、サボってダラダラしていいだろ? それで、もっと俺と話しをしよう。最近、昔みたいに話しもしてくれないだろ」
 ザグレウスはまっすぐにタナトスを見る。
 確かに以前のように彼を見て話はしてないだろう。だがそれはザグレウスの目を見ていると上手く話せなくなってしまったからだ。
 ザグレウスは両目の色が違う。父であるハデス譲りの黒と赤い目と、母に似た翠の瞳をもっている。彼のその目で見据えられると存在しないはずの血が疼き鼓動が高まるような心持ちになるのだ。そしてその目を見つめて話そうとすると酷く気恥ずかしく以前のように気軽に話す事ができなくなるのだ。
「逃げ、るなんて。俺はべ、つに……」
 だから自然と、つい視線を背ける。そんなタナトスの頬に触れるとザグレウスは強引に顔を彼の方へと向けた。
「そう言いつつ、目が逃げてるだろ。何だよ、前はそんな風じゃなかったよな?」
 無理矢理顔を押さえつけられ視線を合わせようとするザグレウスは相変わらず無垢な笑顔を浮かべる。何て残酷な無垢さだろう。ザグレウスは笑っているがそれはザグレウス自身が楽しいから笑っているのであって、タナトスのために見せている笑顔ではない。自分が欲しいのは自分のための笑顔であり、誰にでも見せるザグレウスの笑顔ではないのに。
 どうしたらザグレウスにとって特別になれるのだろう。その身体を抱きしめたら? それとも唇を塞いだら? それとも……それとも。
「俺の事、嫌いになっちゃったのか?」
 ザグレウスは笑顔から一転し悲しそうな顔でタナトスを見る。彼の表情はよく変わり、それは感情を露わにすることが少ない者が多い冥界では特殊な存在だった。
 タナトスの弟であるヒュプノスはいつも明朗に笑っているが、彼はただ笑っているだけで楽しいとか悲しいといった感情があるからという訳ではない。笑っている存在だから笑っているのだ。だがザグレウスは違う。悲しい時は表情を歪め嬉しい時は顔いっぱいに笑顔になる。心があるままに表情を変えることができる存在であり、そしてその特異性がタナトスの感情をかき乱した。今し方笑っていたくせに急に真面目な顔になる、その理解しがたいザグレウスの起伏が不可思議であり、それを理解したいと思ってしまうのだ。
「馬鹿なこと、言わないでくれ。俺は、ザグ……おまえの、ことを……」
 好きか嫌いかで言われれば好きなのだろうと思う。ザグレウスの事は小さい頃からよく知っているし成長した今は盟友とも言える存在だ。 だがザグレウスの言う好きと自分の抱いている好きとは齟齬がある気がする。 ザグレウスは自分の身体を心配し気遣って優しくしてくれているだけなのだ。それは親愛だろう。ザグレウスが父母に向ける愛情やペットのケルベロスと接している時の愛情に近い。だが自分の思いはどうだろう。自分はザグレウスに何を望んでいる。彼を独占し自分だけのものにして慈しんでみたいと、そう思っているのではないか。その身体を抱きしめ唇を交わしお互いの肌を確かめるような夜を共に過ごしたいと、そう願っているのではないか。
 こんなにもお互いの好きという言葉が違うのだから、今のザグレウスに安易に「好き」とは言えなかった。だが「愛している」というのもまた違う気がする。タナトスは誰かを愛した事がないから自分の気持ちが本当に愛なのか測る事ができなかったからだ。
「俺は……おれは、ザグ……」
 口ごもるタナトスを前に、ザグレウスは一瞬悲しそうな顔をして見せた。そして唇だけで、何かを囁く。『どうして』と呟いていた気がしたが、気のせいだったろうか。何を言いたいのだろう、それを聞くまえにザグレウスは普段と変わらぬ笑顔になると。
「なーんてな! ……俺はタナトスの事、好きだからな。お前が俺の事を嫌いになっても、俺が嫌いになってやるもんか」
 また屈託のない顔で告げ、タナトスをベッドに押しつけるよう強く深く抱きしめた。
「お、おい! ザグ……くる、苦しい! 離れろ……」
「ダメだめ。離れたら逃げるだろ? 今日はお前が寝るまでずーっとこうしてやるからな。すこし、休むといいんだ。お前はよく働いてるし……俺も、おまえと一緒にいたい」
 一瞬だけ、ザグレウスはいつもの無垢な表情とは違う顔を見せる。 その表情はタナトスと同じ、自分の気持ちを持て余しやり場のない感情に迷っているような気がしたがそれもほんの一瞬だった。
「ほら、寝ろ寝ろ! 心配しなくても、二人だけの秘密にしてやるから……寝付くまで俺が見た冥府の話でもしてやろうか?」
 これは簡単には放してくれなさそうだ。仕方ない、といった様子でタナトスはザグレウスの頭を撫でてやる。
「……そうだな、俺が寝付くまで、おまえの話を聞かせてくれ。お前は俺の知らない冥府を知っているだろうし……お前の声が好きだからな」
「よし、わかった。それじゃ、ステュクスの河に落ちそうになった時の話だけど……」
 ザグレウスはタナトスを逃すまいとしっかり身体を抱きしめ、ただまっすぐにタナトスを見つめ語る。
 そうだ、自分はザグレウスのこういう所が好きなのだ。無鉄砲で頑固だが一途で懸命で、運命に縛られようとせず誰かのために何かをしてやろうと他者を思いやれる優しいところが。誰にでも優しいのが少し悔しくも思うしその優しさが自分だけに向けばどれだけ幸福だろうと思わずにはいられないが、誰にでも分け隔て無く愛を注ぐザグレウスがタナトスにとっては特別なのだ。
 彼のそういう部分に好ましさを憶えるのが、愛しいという事なのだろうか。
 冥府でおきた些末なことから王であるハデスが聞けば卒倒しそうな経験まで様々なことを語るうち、ザグレウスが先に眠りへと落ちていた。当然だろう。僅かながらでも人間の血が混じっているザグレウスは眠気があるが純粋な神であるタナトスは眠る必要などないのだから。
 だが今、この腕にあるザグレウスは自分だけのものだ。自分のために話をし、自分のために尽くしてくれた。眠ってもまだタナトスを逃がすまいとしっかり抱きついたままであるザグレウスを抱きしめ返し、タナトスはその温もりを確かめる。
 温かい。こんなに温かい場所は冥府のどこを探しても。いや、世界の何処を探したってないはずだ。
「ザグレウス……俺も、お前が好きだ。だがきっと、お前の好きと意味が違う。だから……おまえに、それを言う事ができない。だが……」
 もしも自分の思いとザグレウスの気持ちとが重なるようになるのなら、そのときは彼の目を見て告げようと思う。
 好きだと。あるいは、愛しているのだと。
 腕に抱いた温もりはタナトスにとってやはり特別で、そして誰にも渡したくないほどに愛しいものだった。

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東吾
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職業:
インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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