インターネット字書きマンの落書き帳
届かなかった手紙の話(死印:ネタバレ妄想前日談)
死印のSSを書くのにハマってます。(挨拶)
今回は、死印最後の物語で明らかになる真相。
その「災禍の中心」が密かに握りつぶしていた重要な証拠などがあったとしたら……。
そんな「前日談」的なエピソードを書いてみました。
前日談なんですが、当然が如く死印のネタバレがありますのでクリアした人用の話です。
死印を買え!
そして遊べ!
今回は模造ネタ模造手紙シーンがいっぱい入っている、俺の大好きな模造二次創作です。
模造は健康にいいぞ。
今回は、死印最後の物語で明らかになる真相。
その「災禍の中心」が密かに握りつぶしていた重要な証拠などがあったとしたら……。
そんな「前日談」的なエピソードを書いてみました。
前日談なんですが、当然が如く死印のネタバレがありますのでクリアした人用の話です。
死印を買え!
そして遊べ!
今回は模造ネタ模造手紙シーンがいっぱい入っている、俺の大好きな模造二次創作です。
模造は健康にいいぞ。
『弱者からの慈悲は尊大なるものは軽蔑としか取らないのである』
メリイが九条館で一人になり最初に取りかかったのは当主である九条正宗の資料を処分する事だった。
自分の意思で身体を動かすには膨大な力を使うが、かといって自分が「災厄をもたらすもの」だという証拠をこの館になるべく残しておきたくはなかった。
九条正宗は遠き異国の地で死を迎えた。
じきにこの館は新たな当主を迎えるだろう。
その時自分は「無害な人形」と想われておきたい。できれば九条正宗にとって手放したくない大切な品と想われておけば処分される事もなくしばらくは手つかずでこの館に置かれているだろう。
しゃべり、意思をもち、明確な悪意と憎悪で怪異をまき散らす化け物である。
その正体の鱗片を示さぬように振る舞うためにも、極力は物言わぬ人形のふりをしていたい。
九条正宗はその点で鋭い感性をもっていた。
メリイがただの人形ではない事はもちろん、封じられた力の事も気づいていたのだから。
さして霊能力があるようには見えないが、培った知識と九条家に残された資料の多さ。想ったより顔の広い九条家という血筋と、霊感とはまた違う直感・洞察力・感性の鋭敏さは厄介な能力といえた。
「先祖代々に渡り鬱陶しい能力ばかりに長けて……困ったことでございますね」
メリイはそう独りごちる。
まだ誰が当主になるべきかといった話がまとまらないのか九条館は空のままだが近いうちに当主の座につくものもまた霊感か、直感か、感性か、そのいずれか。あるいは全ての才能に長けている場合もあるのだ。
「もしそうだったら、最初から正体を明かし早々にシルシを刻んだ方が良いのでしょうね。怪異たちを調べさせるよう仕向けるのも億劫なものですが……」
メリイはH市で頻発する怪異たちに命を吹き込んだ張本人である。
故に、自ら生み出した怪異は血を分けた子のようなもの……その怪異からシルシを刻まれたのなら判断力を鈍らせ、記憶を曖昧にさせる事ができる。
だが一番の利点は、喋る人形という明らかに異質な存在である自分の言葉を神秘的な啓示のように聞き、疑わなくなるという事だろう。
怪異にあったという所で通常「オカルト」を信じないような人間でも、喋る人形をいぶかしむ事なく受け入れる……これらの判断力が低下する状態もまた、メリイのもたらした災厄ゆえんのものであった。
メリイはぎこちない動きで九条家の室内をくまなくチェックする。
九条正宗の部屋にあるマリイにまつわる記述や資料はあらかた処分した。写真は残してあるが、あれはいいだろう。
仏師の家系である九条正宗は、彼自身も優れた造形作家である。そんな彼の所に自分の写真があるほうが自然に思えるだろう。
(ですが、一応この部屋は閉ざしておきましょう……あまり立ち入って調べられて、私の知らない記述などが見つかると厄介ですから)
メリイは九条正宗の部屋を閉ざすとマスターキーを自分のポケットに入れた。これから誰がこの館の当主になるかは知らないが、開かない鍵をわざわざ蹴破って開けようという事はよほどの限りしないだろう。
普通だったら部屋の鍵を探し、見当たらなければマスターキーを探す。それもまた見当たらなければ後で鍵屋でも呼ぶかと諦める……。
そうこうしてるうち、きっとあの部屋は開かずの部屋になるだろう。実際に開けても以前の当主である九条正宗の持ち物しかないのだから困る事はない。
幸いなほどメリイにまつわる資料は九条家に残っていなかった。
自分の出生についてメリイ自身も知らなかったのでもしそれを知る事ができるのならと想わなかったワケでもないが、怪異というものは正体が明かされれば力が衰えるものだ。
調べても何も出てくることはなく、誰も何もわからない。
元より「知らないこと」「わからないもの」に対して人間は恐怖心や拒絶を覚えるというのだから、怪異として誰にも知られないというアドバンテージは大きい。
あとは余計な資料が見つからない事を祈るばかりだ。
概ね調べたが、念持仏は汚れたとはいえ今のメリイでも近づけないほどまがまがしい存在だ。(メリイにとってまがまがしいのだから、人間にとっては清らかなものだろう)
「あのような作品を作る力がある……そんな人間の血が残っている限り、油断はできませんものね」
館を一通りまわり、気になるような清浄なるものがないのを確認する。
どちらかといえば自分に近い呪具のようなものの方が多く、それを祓えるほど清らかなものはもう無いか。あっても自分の力を無力化できるほど力の強いものは存在しなさそうだった。
力が衰えているといえ、件の念持仏に直接触れる事ができないためあの存在が完全に力を失うのを待つしかないというのはもどかしいが、元より半世紀以上も待ち続けてきた身だ。
あと10年でも20年でも、待つのはもうそれほど苦ではない。
人形のふりをしてソファーにこしかけていよう。必要なら口を開き、相手の求めそうな言葉を一つ、二つ意味深に放ってやればいい。
自我をもってからもう半世紀以上になる。その程度の処世術は心得ていた。
そうしてソファーにこしかけしばし休んでいた。
それがほんの一瞬だったのか、それとも数日は経っていたのかメリイはわからない。
ただガコンという鈍い音とともにポストへ投げ込まれた「モノ」にメリイの理性が引きちぎれる程得体の知れない不快感を与えた。
あれは、きっと清きものだ。
清くて善良な忌むべきものだ。
メリイは周囲に人がないのを確認し、ポストに投げ込まれたそれを手早く回収する。
やや厚みのあるそれは封蝋を施された手紙が同封されていたが、宛名などは一切書いていなかった。
消印などもないのを見ると直接投函されたのだろう。
正体を知られたくない誰かからの手紙か。それにしてもこのおぞましいほどの清らかさは何なのだろう。
メリイは人間だったら唇をかみしめているのだろうと思い、その封書を開けた
中には淡い香りのついた便せんに綺麗な文字で。だが回りくどい言い方で、こんな事が書かれていた。
『九条正宗様
時候の挨拶もそこそこに本題に入る私めをお許しください。そちらもお急ぎでしょうし、私自身もあまり身体の調子が芳しくなく手紙を書くのもやっとの体たらくであり、長らく伏せっておりましたので今の季節がいつ頃なのか。外は暖かいのかさえわからないといった有様なのでございます。
さて、件の人形についてお話しましょう。
いち造形作家として。そしてこの館の現当主としての知識が貴方のお役に立てれば幸いです。
まずはメリイと名付けられた件の人形についてです。
人間の少女と見まごうほど精巧なつくりである件の人形は球体関節を用いた作りでありますので、古くても100年は経っていないかと思います。
100年程度であれば一つか二つ、作成に至った経緯が残されているものでしょうが彼女にはそのような記録は一切残っておりません。
顔は陶器、身体は石膏で作られているのはその手の人形ではよくある事なので割愛しましょう。
精巧な作品ではございますが、当時のドール作家たちが手がけた作品目録に彼女の名前はございませんので、誰かが内々に引き受けた品か。
あるいは才知と狂気を秘めた人形作家が生み出した逸品のいずれかでしょう。
彼女の作風に当時高名であったドール作家の作風が当てはまらないのを見ると、おそらくは後者。彼女を作るために全てを捧げた誰かの作品だと考えるのが妥当かと思います。
最も特徴的といえるのは、その髪の毛が本物の人毛だということでしょう。
私も手を尽くして調べてみましたが、いかんせんお写真と素材だけというのもあり具体的に誰が作ったのか断定する事はできませんでした。
当時の世情とドールの形状を見ても、そのような作品を好んで作る作家も好んで求める好事家もあまりいなかったので、先にも申し上げた通り誰かが個人的な趣味かあるいは何かしらの確固たる理由をもって作られたものかと思われます。
亡き娘の面影を刻んで。あるいは亡き妻、亡き恋人を思ってそのような人形を求める者は少なくはありません。
失った愛しき者への執着は一つの狂気的な作品へと仕上がる事は多々ありますが、彼女の場合はやはり呪術の道具。 魂のよりしろとして作られたのではないか……というのが、私の見解にございます。
そう、彼女はもともと「魂の器」として作られた人形なのです。
何かしらの理由によって早く失われた命の魂を人形に吹き込むために……。
それは悪しき呪詛であり、外法でございます。
我が国でさえ魂を吹き込むという事柄は禁忌とされているのですから、西洋人形などが作られている土地ではなおさらでございましょう。
かの国では、神からもたらされておらぬ魂は人や動物とは違う、魂とは呼べぬ何かでしかないのですから。
我が国では付喪神などという言葉もあり、長く使い続けた道具やものに魂が宿り神になる等といった話もございます。それだけではなく、万物あらゆるものに神が宿り、八百万の神が存在するというのが我が国の信仰であり、我が国で生きていれば自然とつく考えでございます。
しかしながら、欧米諸国ではそうはいきません。
一神教を信仰する土地において、魂とは神によって与えられるものであり死は神の元に導かれる救済です。
そして、神の教えに従わぬ異教徒の魂や神の背信した者の魂は神の御許に向かう事はない……神に見捨てられた魂は決して救われる事はありません。
地獄や煉獄と呼ばれる所へと誘われ縛られるか。あるいはとこしえに何処にもたどり着く事のできぬ場所へ放り出されてしまうのです。
当然、外法により蘇った魂に救いなどありません。
元より一神教において、人間でも動物でもないもの……異形なる人外は、神より魂を与えられてない存在とされております。
神から生まれていない存在は魂をもっておらず、死による救済は存在しないのです。
メリイが九条様のおっしゃるとおり、言葉を話し強い思念を持つというのであれば彼女は生まれた時から神に見捨てられた存在であり、呪われた宿命を背負っているのでしょう。
人形は人の現し身でございますが、魂を受け入れる程の器は持ち得ておりません故……。
彼女は、生まれながらにして何処にも行き着く事のない迷い子なのです。
もし、彼女がそのまま西洋人形として存在していたのならばおそらく彼女の災禍はそこまで肥大していなかったのではと、私は感じております。
西洋では魂を持ち得ぬ人ならざるものは早々に処分されるもの。また、それを始末する事で命を落とす殉教者が当然のように存在しますゆえ。
巡り巡って我が国に来たのは我らにとっても、そして彼女にとっても不運な事だったろうと思います。
我が国では、人にもモノにも魂が宿るとされております。
僅かながらにも人ならざる魂をもつ彼女にとって、その力を増幅させるのにうってつけの場所だと言えましょう。
例えるのならば、彼女は渦の中心のようなもの……。
水が高い所から低い所へと落ちていくように、彼女という器に人間の憎悪、嫌悪、怨嗟、悲哀、その他もろもろの負の感情がいとも容易く注がれていたという事は容易に想像ができましょう。
彼女がいかなる理由で生まれたのかは、もはや知る術はありません。
ですが彼女が人の持つ負の感情を有り余る程に得ていたのは想像に難くないことです。
西洋人形の中に念持仏が封じられていた事を、九条様は疑問に思っていらっしゃったようですね。 ですが、彼女の負の感情は多くは我らのもの。西洋人形の形をしているものの、彼女のもつ恨みや苦しみはより我らに近しいものに相違ございません。
故に、清らかな方法で作られた仏師による念持仏の封じが長らく通じたのでございましょう。
さて、以後は私からの提案でございます。
九条様のおっしゃる通りでございましたら、彼女のもつ負の感情は九条様が想像するよりずっと巨大でずっとまがまがしいものでございましょう。
普通の人間が一生を生きてもめったに触れる事のない憎しみ、悲しみ、惑い、憤り。そのような感情を50余年の合間絶え間なく注がれ続けていたのですから、通常の人間であればとうに心の器を壊し狂い死ぬほどの苦痛だったに違いありません。
彼女は人形だからこそそれを受け入れる事ができたのでしょう。
そして人形であったばかりに、心を壊して忘我の世界に逃避する事すら許されなかったのです。
同時に、もし彼女の中に何かしらの魂が存在していたとしても、おそらくそれはもう正気のものではございません。おおよそ人間の感情を持ち得えない冷酷で狡猾、残忍で恐ろしい人間の悪徳全てをその身に受けた悪の煮こごりのような存在になっているはずでしょう。
念持仏で封じているとはいえ、それも長らくもつものではございません。
一時しのぎを繰り返すうちに新たな憎悪が人形に注がれ、ますます強い力を得る可能性もありましょう。
ですから私から一つの提案として、彼女と同じタイプのドールを作ってみたらと思うのですが、九条様、いかがかでしょうか。
元より人間は、一人でいろいろと思い悩んでも全てを背負って生きていくのは難しい生き物でございます。
人形は、人間に作られたもの。人間のそのような脆さも当然受け継いでいるものと、私はいち造形作家として。そして、かの血をもつ一族として思うのです。
孤独というのは負の感情を加速させるもの……。
ですがその孤独も二人で寄り添い支え合い、思いを通ずる事ができれば幾分か軽くなるものです。
彼女もまた一人で孤独に耐え、負の感情ばかりを見せつけられ、狂気と歓喜の境目もないような時間を長らくすごしていた悲しい子です。
だからせめて彼女に寄り添い、ともにあるよすがをお作りになられたらいかがかと思います。
もちろん、数多の負を抱いた人形に寄り添う存在を作るのは容易ではございません。
本来ならその手の造形を最も得意とする私めが人形をお作りし、あなた様の元へとお届けするべきだというのはわかっておりますが、あいにく今の私は以前のような人形を作る力がございません。
運命にあらがった代償のため、ろくすっぽ動けるような身体でもなくなってしまいました。
ですが、幸い九条様は優れた仏師の家系であります。
また、九条正宗様。あなたは私の目から見ても優れた西洋人形をお作りになられる造形作家でございます。
この難事、是非とも貴方の手で成し遂げてはいただけないでしょうか。
この手紙とともに、西洋人形を作るにあたり必要な品を包みました。 全て清らかな方法で禊ぎを済ませ、私めの祈りを捧げたものでございます。
全盛期の私がもつ力を期待されておりましたのならさぞ落胆される事でしょうが、幸いに貴方もまた優れた血統と能力をもつ存在でございます。
メリイを二つで一つの存在にする事により、呪詛溜まりとなっていた彼女の虚(うろ)にある負の流れが変わる事でしょう。
流れ出た負の思いは元より人のもの。流れ出る度にその無念と向き合うという辛い仕事もございますが、九条様はそれさえお覚悟の上で私めに連絡をくださったのだと思い、今できる精一杯の事をさせていただきました。
負なる心、無念を抱いた魂と向き合うのは九条様にお任せする事になるのは心苦しいのですが、彼女を救い、また彼女の内にある負の楔に穿たれ身動きがとれなくなった思いを救うため、この方法は有効ではないかと思い、ご提案させていただきます。
他により良き方法などございましたら、そちらの方法をとっていただいても結構です。その点はどうぞ、私めなどにお構いなくご自身の使命を全うしてくださいませ。
最後になりましたが、九条様。
どうかあまりご自身をお責めにならぬようお願いいたします。
彼女を見つけた事。九条家のしたこと。それらは確かに忌むべき事だったでしょう。
ですが、全ては過去の人々による無知からくる愚かさが招いた事であり今の貴方がその全てを背負う必要はないと、私は思います。
たとえ九条家ゆかりの品だったとしても。たとえあなた様が九条家の末裔だったとしても、それが責務の全てを負う理由にはなりません。
どうか、一人で思い悩む事なくこの私を頼ったように、他の誰かと語らい頼ってみてください。 一人では思いつかぬような事も、別の視点で妙案が出る事もございましょう。
また、貴方自身にある心の重荷も幾分か軽くなるに違いありません。
ですからどうか、どうか全てを一人で背負い込む事なく生きてくださいませ。
全てを一人で背負い込んで運命に抗い、結局は何も得られぬまま自由にならぬ身体だけを残す今の私めのようにならないようお祈り申し上げます。
それでは。
私が存命中に良き報告が聞けるのを願っておりますが、たとえこの命がつきたとて貴方の幸福を願っております。』
メリイは手紙の全てに目を通す。
嘲笑する、という言葉があるがきっと今抱いている感情はそれに近いのだろう。
そして何も言わず手紙は焼き捨て、入っていた諸々の道具や素材なども残らずゴミへと放り投げた。
確かにあれは忌々しい程に浄化されたものだが、それを感じるのは一部の際立った感性や霊力をもつもの、そして魂に血と憎悪が注がれた「神に見放されたもの」だけだろう。
「人間は面白い事を考えます。私を、もう一つなどと……」
もう一つなど、必要ない。
この呻きも、痛みも、憎悪も苦しみも悲しみも何もかも、全部自分のものなのだ。脳みそがあればとろけている程に甘美な魂の味わいを、どうして誰かに分け与えてやらなければならないというのだ。
馬鹿馬鹿しい。
誰にだってこの感情を渡してなどやるものか。
「さて……いずれこの当主が決まり……また、九条正宗。あの人が私の前に現れたとしたのなら……」
その時は、どれだけ美味な魂となっているだろう。
闇という闇をかかえ、絶望を目の当たりにし、数多の憎悪その中心にいるあの男はどれだけ熟してくれるのだろう。
彼女には心がない。
だがその空洞の胸には、美味なる魂の味わいへの渇望だけしか存在していなかった。
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