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インターネット字書きマンの落書き帳

   
死inクリア記念の主人公×元刑事BLです。
死印をクリアした記念にBLを書きます。(挨拶)
いや、端的にいって「何をいってるんだおまえは」ですが、生まれちまったもんは仕方ねぇな!

というワケで、主人公×真下のBL小説です。
なんか唇がやけに綺麗な真下に突然キスをしてみる話ですよ。

主人公はデフォルト名(八敷一男)です。
イメージ的に八敷おじさんの方が真下より年上だと思っているので、八敷おじさんが年上っぽく振る舞ってます。



『気のない返事と気になる唇』

 人と話をしていてもどうにも頭に入ってこない日というのはきっと誰にでもあるだろう。 その日の俺はまさにそんな状態であった。
 新聞を読んでも、本を読んでもどうにも頭に入ってこない。
 テレビをつけていてもただ音が鳴っているだけで必死に何かを訴えるレポーターの言葉もただ耳を通り過ぎていくだけでどんな事件があったのかどころか彼らが何を話しているのかすら頭に入ってこない体たらくだ。

「おい、八敷。何を呆けているんだ? まさかシルシが現れた記憶喪失ってワケではあるまいな」

 向かいのソファーに座り何やら話し続けていた真下は鋭い目つきでこちらをにらむ。
 いや、あの顔は地顔だ。目つきが悪いのは生来のものだろう。
 だがそれにしても何処か人を値踏みするような、推し量ろうとするような目をする男だと思う。

 災厄を退けてから数ヶ月が経ち、秋も終わろうとしている。
 最近、真下はしばしば九条館に訪れるようになっていた。
 というのも、以前真下の誘いで受けた「雨の赤ずきん」事件から、どうもこいつは俺を怪異向けの調査担当にしたいらしく、しばしばオカルトじみた事件の話をもちかけてくるようになったのだ。

 メリイの正体が何ら明らかになるかもしれない。
 明らかにならなかったとしても、メリイが目覚めた時に怪異の気配が少しでも減っていれば楽だろう。
 そんな大義名分を並べているが、ようは自分の手に余る仕事を押しつけたいのだ。

 もちろん、俺だって真下の言うことが理解できないワケでもない。
 メリイが眠った今でもこのH市に怪異が現れるというのならその理由や原因を突き止めたいとは思うし、そのようなオカルトじみた事件はすでにいくつも場数のある俺のような人間の方が普通の人間より適しているのだろう。
 占い師の安岡が言うには、俺はこの手の「怪異に対する事件」を扱うのに向いているタイプでもあるらしい。
 俺は霊感が飛び抜けて高いという訳ではない。
 むしろ九条家の人間としては霊に対して疎い方なのだそうだが、怪異のもつ災禍の中心……恨みであったり、憎しみであったり、悲しみであったり。そのような寄る辺ない心をすくい上げるという面において、いわゆる他の「霊媒師」と呼ばれる存在たちよりも優れているのだそうだ。

 実際に、H市で顕在化したいくつかの怪異と対峙し、俺は生きているし俺の元にたどり着いた「印人(シルシビト)」も皆無事に自分たちの生活に戻っている。

 希有な才能だと、安岡は言った。
 人を救える素晴らしい能力だとも。

 だがそうまで持ち上げられても動く気になれなかったのは、怪異と対峙するのは命がけであるという事を幾度も味わっているからだろう。
 花彦くんの時も、森の染み男の時も、俺は運が良かっただけ。たまたま仲間に恵まれていただけだ。
 九条家には妹・サヤの残したオカルト関連の書物や先祖から伝わる呪具の類いもいくつか見られるので、そういった面でも一般人よりずっと「怪異退治」に向いているのは理解しているのだが……。

「聞いてるのか貴様。さっきから生返事ばかりだぞ」

 真下はまた俺を睨み付ける。年齢を聞いたら俺より年下だったのだが、真下が俺の事を貴様呼ばわりする癖は相変わらずだった。
 年上に敬意がない奴だ。最も、俺もそこまで気にしていないから真下もそれを改めないのだろう。今更真下から敬意を持たれて恭しく接せられても気味が悪いだけだ。
 そういう意味で俺は今の自然体である真下が気に入っているのだろう。

「あぁ、聞いてるよ。何となく……な」

 俺は曖昧な返事をした。
 実のところ何の言葉も頭に入ってきておらず、H市はずれにあるトンネルの話題が頻繁に出ている程度の把握しかしてないのだがそれを言えば真下はまた不機嫌そうに嫌味をいうのだろう。

 聞く気になれないのは今日が頭に何か入ってくるような日ではないのもあるが、真下がいかに熱心な説得をしようと俺は仕事などするつもりはないというのもある。
 だがこれだけの資料をまとめるのも大変だったろう。もう少し真面目に聞いてやったほうがいいかもしれない。
 断るにしても断りやすい理由を一つか二つ見つけておかなければいけないだろうからだ。
 再び話し始める真下の唇を、俺はじっと見つめていた。

 ……やけに艶のある唇だと思う。
 グロスでも塗っているのだろうか。濡れた唇は九条館の薄明かりでは滴るような輝きを見せていた。
 今は普段愛用している分厚いコートも脱いでいるからか、首筋も無防備に開いている。
 初めて会った時は猜疑心の塊のような男だと思い、得体の知れない印象ばかりが先立っていたが言葉を交わし酒を飲み幾度かの事件を乗り越えてきた今の印象は違う。
 ただ、自分と真下の間にある感情が何なのかは上手く自分でも説明ができなかった。
 単なる仕事仲間と割切るには、おそらくもっと執着が強い。真下は俺をしきりに探偵業へ誘うし俺も何かあると真下の耳にも入れておこうと思う事が多かったからだ。
 大門が俺に対して「戦友」という言葉を使ったが、感覚的にはそれは強い気がする。だが大門を前にした時の感情と真下を前にした時の感情はまた少し違った気がした。
 大門と会う時はもっと気さくに話しかける事ができるのだが、真下を前にすると妙に気恥ずかしさが勝る事があるのだ。  

 真下は……本人が自覚しているのかは知らないが、時々妙に艶めかしい仕草をする事がある。
 元々顔立ちが整っているのもあるだろうが、動き一つにやけに色気があるのは存外と遊び慣れているのだろうかと思う。
 いや、だが真下が女性相手に紳士に振る舞う姿は想像できない。デリヘルを呼んだら来た相手に説教をしそうな男なのだから。
 だとしたらこの色気は生まれつきのものか。
 そもそも唇が濡れて見えるのはグロスか、ただそういった色艶をしているだけなのか……不意に確かめてみたくなった俺は。

「真下、少しいいか」

 と彼を呼び止め、顔を上げた真下が油断している隙を見て唇を重ねた。 唇ごしに油のような滑りを感じる。グロスではなくリップクリームか何かか。そういった事を気にしていなさそうだからリップを塗っているだけでも意外だが……。

「何をしてるんだ貴様はッ!」

 等と思っているうちに怒られた。身体を突き離すとお得意の鋭い視線を向ける。

「いや、唇が濡れてるように見えたからな。グロスでも塗っているのかと思って」
「ぬる訳がないだろう! ……リップクリームだ」
「リップを塗るようにも見えなかったからな……」
「これで乾燥肌が酷いんだ。おまえが思っているより繊細な身体なんだぞ、くそッ。見ろ、指だってこの有様だ」

 真下はそう言いながら手を開いてこちらに向ける。指先がそこここ割れていた。水仕事などををするとすぐに指が切れる体質なのだろう。

「それより、確かめるにも方法があるだろうが……触るだけでもいいし、聞くだけでも……」
「話の途中で何か口を挟むとおまえはすぐ怒るだろう」
「このやり方だったら怒られないとでも思ったのか!」

 確かにそうだ。だが俺は、怒っている真下の言葉を聞いてある種の確信を得ていた。
 以前から薄々そう思っていた事だが、やはり「そう」だ。間違いない。

「あぁ、そうだな……怒りはしても、嫌がりはしないと思っていた」
「なんだと、貴様ッ」
「だっておまえは、俺の事が好きだものな」

 突然の言葉に、真下は虚を突かれたような顔になる。だがすぐにいつもの鋭い眼光に戻っていた。

「いつから……気づいていた」
「いや、いつからとかそういった感じではないんだ。ただ……俺と会っている時のおまえの雰囲気だな。おまえは……俺と話してる時の呼吸の音も、匂いも……少し違う。そんな違和感みたいなものからか」
「そんな根拠のない理由で……くそ、今のはブラフか。俺ははめられたのか?」

 真下はやけに悔しそうに唇を噛む。別にはったりやかまをかけたつもりではなかった。ただ漠然とそうだろうなと思っていた事を口にしただけなのだがそれでも真下は一杯食わされたとでも思っているのだろう。
 あるいは意外とこの手の色恋沙汰にまつわる話は苦手なのかもしれない。実際に真下は普段からその手の話を避けている傾向は確かにあった。

「ハメられたとか酷い言い草だな。別にいいだろう? 俺もおまえの事は嫌いじゃない」
「ッ……」

 真下は声をつまらせて僅かにうつむきながらシャツの袖で唇を拭っていた。俺のキスが汚いみたいじゃないか、と思ったがより面倒になりそうだから言わないでおこう。

「……貴様は、わかってるのか。俺の……それは、この程度のものじゃないぞ」

 それとかこのとか曖昧な言葉ばかりで酷く遠回しに言われている気がするが、ようはキスだけでは済ませたくないと言いたいのか。そうなら素直になればいいとは思うが、俺もいい加減に良い歳だから真下がそんな態度をとる意味も気持ちもわかる。
 年を取るとまっすぐに気持ちを伝えるのが酷く億劫になるものだ。それがどちらかといえばマイノリティの趣味・嗜好だとなおさらだ。
 俺がどこまでするつもりなのか……今のように戯れにキスをする程度の関係で終わらせるつもりなのか。それとももっと深い身体の付き合いを望んでいるのか、そういった部分を見定めているのだろう。

 俺としては何をされても別にかまわないのだが、真下がどんな趣味嗜好をもっているかはわからない。確かめる必要はあるだろうが、真下の性格から口で聞いても答えてくれるようには思わなかった。
 まぁいい。
 どうせ、今日は誰に何を言われても耳を通り過ぎるだけの日なのだから、それなら何かしていた方が有意義だろう。
 俺はそのまま真下をベッドに押し倒す。真下は特に抵抗する事なく素直に身体を預けてきたのは少し意外だったが最初からその気だったのだろうか。いや、今そんな事を聞いても意味のないことだ。

「それなら、お互いどこまで許せるのか確かめてみるか? ……今日は時間があるんだろう? 忙しいなら辞めておくが」
「時間は……ある……が、後悔するなよ?」
「後悔させるくらいの自信はあるのか。良い事だな」

 真下はどこか引きつったような顔を向ける。笑おうとしているのだが笑い方を忘れて、顔の筋肉が強張っているような表情だ。
 俺はその顔を見てきっと笑っていただろう。

 唇を重ねれば自尊心と猜疑心の塊であるかのようなこの男を一時支配したような優越感を得る。
 つけっぱなしのテレビから流行の曲が流れる最中、俺はまだ知らぬ男の身体を確かめるよう探っていく。

 何も頭に入らない日だと思ったが、その吐息と鼓動はやけに指先に熱く残っていた。

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東吾
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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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