インターネット字書きマンの落書き帳
松田と黒沢に愛されてるのに気づかない山ガス(BL)
俺は、ひょっとしたら黒沢と松田からかわいがられている山ガスを見たいのでは。
甘やかされて元気にのびのびとクソガキに育ってしまう、そんな山ガスを見たいのでは!?
そう思って試しに書いてみました。
松田とシェアハウスしている家が壊れたので黒沢邸に泊まる山ガスみたいな話です。
これはどういう設定の世界なんだって?
俺が俺のために考えた俺に都合のいい世界だよ♡
松田も黒沢も特に山ガスと付き合ってはいません。
付き合ってないけど距離感がおかしい山ガスをどうぞ。
甘やかされて元気にのびのびとクソガキに育ってしまう、そんな山ガスを見たいのでは!?
そう思って試しに書いてみました。
松田とシェアハウスしている家が壊れたので黒沢邸に泊まる山ガスみたいな話です。
これはどういう設定の世界なんだって?
俺が俺のために考えた俺に都合のいい世界だよ♡
松田も黒沢も特に山ガスと付き合ってはいません。
付き合ってないけど距離感がおかしい山ガスをどうぞ。
『睡眠事変』
松田が暮らすマンションの壁がボコリという音とともに突然、景気よく穴が開いた。
それを見ていた仮住まいの山田は
「すっごいこれ! ドリフのコントみたい。なんか、なつかしの映像とかで見た奴だ!」
とゲラゲラ笑いながら写真をとり、SNSに勝手にUPしたので、少しキツめにしめてやった。
とはいえ、このまま住み続ける訳にもいかないだろう。
そう思い管理会社に連絡をしたところ、修理に二週間ほどかかるという。
工事は日中だけではあるが、キッチンや寝室まで養生シートが敷かれるというから、ここで生活を続けるのは難しいだろう。
「僕の家にこれればよかったんだけどねー。松田さんとルームシェアするって決めた時、引き上げてきちゃったから。一緒に公園でキャンプでもする?」
山田はどこかのんきにスマホをいじる。
この状況でも余裕があるのは、仕事のほとんどが在宅なことと、自分の車を持っているのがあるからだろう。
いざとなれば車中泊をすればいい、くらいに考えているのかもしれない。
普段からソロキャンプをするくらいだから、車中生活にもなれているはずだ。
だが松田は違う。週に5日、通勤し8時間労働の後、しばしば残業もある。この生活を続けるには、ゆっくり過ごせる自宅は必要不可欠だ。
それに山田の車はミニバンだから、松田には狭すぎる。
さて、どうする。
知り合いの家に泊まらせてもらうにも、松田と同年代の友人は子供がいて、家庭がある。独身の松田とはライフスタイルが違いすぎるから、世話になるのは気が引ける。
ホテル暮らしも考えるが、都内はインバウンド需要でホテル代が高くつく。安いホテルを考えると、勤務先からかなり遠くになる。
それに、山田を放っておく訳にもいかないだろう。知らない間にふらふら出かけてそのまま帰ってこなくなれば、折半で使っている家賃が倍額になる。
あれこれ考えていると。
「松田さーん。知り合いが、僕たち二人をしばらく泊めてくれるって。部屋も余っているし、二週間くらいなら気にしなくてもいいっていうから。試しに行ってみる?」
手を振りながら、山田はそういう。
場所は都内で、今より松田の勤務先にも近くなる。
渡りに船と思い、荷物をまとめた松田だったが――。
「やぁ、待ってたぞ山田。それと、松田さんだっけな」
まさか、受け入れ先が黒沢優弥の家だったのは、完全に想定外だった。
「二週間ほど、と聞いているけど、いつまでいてくれてもかまわないよ。あまり気を遣わなくても大丈夫だ。自分の家だと思って、ゆっくりくつろいでくれよ」
にこやかな様子で近づき、やさしく握手をする黒沢は物腰も柔らかく声もやさしい。
本当に、松田が困っているのを見るのが忍びなく助けてくれたといった様子だが――。
「やったー、久しぶり黒沢さん!」
山田は黒沢に飛びつくと、椅子に座っていた彼の膝に当然のように腰掛ける。
「んー、黒沢さんの膝。なつかしー、5Sの頃は、よくこうしてたよね」
「おい、山田。あんまりじゃれるなよ。ほら、せっかくお客様も来ているんだから。それに、おまえも荷ほどきくらいはあるんだろ」
「あるけど、もうちょっと黒沢さんの匂いに包まれていたいなー。だって黒沢さん、いっつもいい匂いするんだもん」
「仕方ないな……少しだけだぞ」
黒沢は口角をあげて笑うと、ちらりと松田を見る。
――見せつけてくれるやんけ。
わざとか? わざとなんか?
松田は、内心にたぎる思いをぐっと飲み込んだ。
「それじゃ、部屋を軽く案内するよ。山田は知っているだろうから、松田さん。ついてきてくれ」
黒沢はソファーに山田を座らせると、松田とともに部屋を回る。
キッチンはいつでも使っていい。冷蔵庫は、中に入っていてどうしても食べられたくないものがあったら、名前を書いておけばいい。 ほかに入っている材料も食べ物も、好きに飲み食いしてもいい。
リビングの出入りは自由。風呂は、入浴前と入浴後に声をかけておくこと。浴槽に湯をためた時、次に入る人がいなければ湯を抜いてもいい。
客間を一つ開けておいたから、当面はそこに荷物をおいていいし、着替えもそこにするといい。急ごしらえだがクローゼットもおいてあるし、簡易式のテーブルも出せるから仕事があるならそこですればいい。
黒沢の提示するルールは寛容すぎるくらいに思えた。
曰く、「山田の知り合いなら、山田より変な奴ではないだろうから信頼している」とのことだ。
「山田は寝るとき以外リビングを使うから、一人になりたいときは客間を自室代わりにすればいいと思う」
当たり前のように山田の行動を予想して決めつける黒沢の言い方に、わずかだが苛立ちを覚える。
――何や、知った口ききおってからに。
せやけど、こいつがそういうんなら、そうなんやろうな。
松田は、普段からリビングで仕事をする山田の姿を思い出す。
松田の家でもそうなんだから、山田がリビングを中心に生活を組み立てる癖があるのは、きっと5S時代からそうなのだろう。
「山田は、あれでけっこう寂しがり屋でな。テレビでも何でも、音がある場所のほうが好きだし、リビングなら誰が来たとかすぐわかるだろう? そういう、人の気配を感じるのは嫌いじゃないんだよ。一人になりたいけど、孤独に耐えられるタイプじゃないからな」
しかし、山田のことを知った顔で説明されると、やはりイラっとする。
――なんでや。
あいつなんて、ただのルームシェア相手やないか。別になんもしとらんし、特別な関係でもないっちゅーんに。
行き場のない感情を鎮めるため、ガシガシと頭を書く。
書斎にある本は好きに読んでいいが、部屋から持ち出したら一声かけるかメモを残してほしい。
黒沢の私室は、基本的に入らないように。
いくつかの注意を受けながら部屋を進む。
それにしても、部屋が多い。そして、思ったよりものが少ない。
――本物のお金持ちのボンボンやから、質のいい家具あつらえてもろて、ゆとりのあるスペースで暮らしてんねんな。
いうても、まだ30になったばかりのガキやないか。
わざわざコイツの言動を気にしてもしゃーないやろ。
だいたい、山田だって、今は一緒に住んでるだけやし。急に転がり込んできた、ネコみたいなもんやないか。
俺のもんと、違う――。
「それで、寝室だけどな」
黒沢は扉を開け、部屋を見せる。
モノトーンの落ちいた装飾に、重厚だが決して古くさくならない香りが漂うこの部屋は、おそらく黒沢が普段使っている寝室だ。
「客室にも簡易ベッドはあるんだけど、一つじゃさすがに二人は狭いだろう? こっちにも、ソファーベッドがおいてある」
「ん、せやな……」
松田は、仮住まいの客間におかれたベッドを思い出す。
黒沢の言う通り、松田一人なら余裕で寝転がれるが、山田の寝るスペースはなさそうだ。
いや、最初から「一緒に寝る」という選択はないのだが。
「だから、俺の寝室は山田に使ってもらうことにした。それでいいよな」
「いや、何でやねん!」
黒沢はさも当然のようにいうから、松田はついツッコむ。迅速に。非常に反応よく。関西人らしい研ぎ澄まされたなんでやねん。である。
「なぜ、といわれると困るな。昔から山田は俺の寝室で寝ていたから、慣れていると思ったんだ」
――ほぅ、昔から親密アピールとはいいご身分やな。
「俺は眠りが深いから、山田が夜遅くまで仕事をして寝室に出入りしても、多分気づかない」
それやったら、俺だって気づいてないし、気づいてもすぐ寝とるわ。
「客間と比べてリビングから近いのもあるし、山田にも都合がいいと思ってな」
松田は軽く唇を噛む。
黒沢は、あくまで合理的に。メリットとデメリットを理解した上で、メリットが多いからそうした、という風体だ。
「それに、俺の寝室で寝るのは松田さんも嫌じゃないか?」
黒沢はさらにたたみかける。それを言われると、少し弱い。確かに、初対面である黒沢と同じ空間で寝るのはお互いに気まずい。
だが、黒沢と馴染みのある山田と一緒に寝かせたりしたら――。
※※※
「僕のベッド小さいから黒沢さんのほうで寝よーっと、いいよね」
「別にいいが、一緒にねることになるぞ」
「いいよー、僕、黒沢さんのにおいだーいすき。おやすみー」
※※※
なんて、ことになるのは簡単に想像できる。
松田が認識している山田は、他人と心の距離感をかなりとるタイプ。
だが、一度懐に入ると、まるで家族のように密接になり甘えるし、わがままもいうようになるのだ。
付き合いの長い黒沢には、当然心を許しているだろう。だが――。
――許せるわけないやろ!
何で山田が、ほかの男と、同衾せなあかんねん!
うちかて、ベッド別やで!
いや、別に俺と何かあるって訳ちゃうから、別なのは当然なんやけどな!
「そ、それも最もやけど。一応、山田にも聞いとかなアカンと違うか? 山田も、一人で寝たいかもしれへんし」
あくまで提案ベースで。自然なつもりで意見するが、なぜか声がうわずってしまう。
「それだと、山田がいやだっていったら松田さんが俺の部屋で寝ることになるんだけど。それは大丈夫なのか?」
「あー、まぁ、それはしゃーない。大丈夫やから、な……」
あまり大丈夫ではない。
だが、黒沢の部屋に山田がいることは、もっと大丈夫ではないのだ。
「せかやら、山田の意向はちゃんと聞いておくべきやて」
「うーん。それで松田さんが納得するなら、俺はいいけど。山田はどこだ?」
「まだリビングにいるやろ。おーい、山田ぁ」
松田がドカドカ歩く後ろを、黒沢もついていく。
しかしリビングにも、キッチンにも、山田の姿はない。
「さっきまでソファーに座ってたみたいだけどな」
リビングのソファーが沈んだ様子を見て、黒沢は不思議そうな顔をする。
「山田って、時々ふらっと思いもよらない行動をするからな。俺も、そういう点であいつを理解しきれていないんだ」
黒沢は呆れ顔だが、その顔はどこかうれしそうだ。
懐かしい友人の変わらない姿を見れた喜びからだろうか、それとも――。
「玄関に靴もあるし、外には出とらんやろ」
そうして、再度、家の中を回る。
すべての部屋を一通り見直した後、松田の部屋として準備されていた客間を開けると、そこに山田がいた。
すでにベッドを占領し、ぐっすりと眠っている。
「何だ、もう寝てるじゃないか」
松田におくれて、黒沢もベッドをのぞき込む。
そういえば、昨日は締め切り前の記事があるといってずっと作業をしていたか。工事に入るとか、どこで生活するかなんてやりとりをずっとしていたから、ほとんど寝てなかったのだろう。
「起こして聞くのも悪そうだな」
「せやな、寝かしておいたろか」
「――でも、このままだと今日は松田さん、俺の寝室で寝ることになるけど、いいのか?」
あんまりよろしくはない。
しかし、山田が黒沢の部屋で寝ると思うと、それよりずっと気が楽だ。
何より――。
「ん……」
今はあの生意気でわがままな男が、おとなしく寝息をたてている姿を眺めていたい。
黒沢も似たようなことを考えているのか、山田の寝顔を眺めながらずれたタオルケットをかけなおしていた。
松田が暮らすマンションの壁がボコリという音とともに突然、景気よく穴が開いた。
それを見ていた仮住まいの山田は
「すっごいこれ! ドリフのコントみたい。なんか、なつかしの映像とかで見た奴だ!」
とゲラゲラ笑いながら写真をとり、SNSに勝手にUPしたので、少しキツめにしめてやった。
とはいえ、このまま住み続ける訳にもいかないだろう。
そう思い管理会社に連絡をしたところ、修理に二週間ほどかかるという。
工事は日中だけではあるが、キッチンや寝室まで養生シートが敷かれるというから、ここで生活を続けるのは難しいだろう。
「僕の家にこれればよかったんだけどねー。松田さんとルームシェアするって決めた時、引き上げてきちゃったから。一緒に公園でキャンプでもする?」
山田はどこかのんきにスマホをいじる。
この状況でも余裕があるのは、仕事のほとんどが在宅なことと、自分の車を持っているのがあるからだろう。
いざとなれば車中泊をすればいい、くらいに考えているのかもしれない。
普段からソロキャンプをするくらいだから、車中生活にもなれているはずだ。
だが松田は違う。週に5日、通勤し8時間労働の後、しばしば残業もある。この生活を続けるには、ゆっくり過ごせる自宅は必要不可欠だ。
それに山田の車はミニバンだから、松田には狭すぎる。
さて、どうする。
知り合いの家に泊まらせてもらうにも、松田と同年代の友人は子供がいて、家庭がある。独身の松田とはライフスタイルが違いすぎるから、世話になるのは気が引ける。
ホテル暮らしも考えるが、都内はインバウンド需要でホテル代が高くつく。安いホテルを考えると、勤務先からかなり遠くになる。
それに、山田を放っておく訳にもいかないだろう。知らない間にふらふら出かけてそのまま帰ってこなくなれば、折半で使っている家賃が倍額になる。
あれこれ考えていると。
「松田さーん。知り合いが、僕たち二人をしばらく泊めてくれるって。部屋も余っているし、二週間くらいなら気にしなくてもいいっていうから。試しに行ってみる?」
手を振りながら、山田はそういう。
場所は都内で、今より松田の勤務先にも近くなる。
渡りに船と思い、荷物をまとめた松田だったが――。
「やぁ、待ってたぞ山田。それと、松田さんだっけな」
まさか、受け入れ先が黒沢優弥の家だったのは、完全に想定外だった。
「二週間ほど、と聞いているけど、いつまでいてくれてもかまわないよ。あまり気を遣わなくても大丈夫だ。自分の家だと思って、ゆっくりくつろいでくれよ」
にこやかな様子で近づき、やさしく握手をする黒沢は物腰も柔らかく声もやさしい。
本当に、松田が困っているのを見るのが忍びなく助けてくれたといった様子だが――。
「やったー、久しぶり黒沢さん!」
山田は黒沢に飛びつくと、椅子に座っていた彼の膝に当然のように腰掛ける。
「んー、黒沢さんの膝。なつかしー、5Sの頃は、よくこうしてたよね」
「おい、山田。あんまりじゃれるなよ。ほら、せっかくお客様も来ているんだから。それに、おまえも荷ほどきくらいはあるんだろ」
「あるけど、もうちょっと黒沢さんの匂いに包まれていたいなー。だって黒沢さん、いっつもいい匂いするんだもん」
「仕方ないな……少しだけだぞ」
黒沢は口角をあげて笑うと、ちらりと松田を見る。
――見せつけてくれるやんけ。
わざとか? わざとなんか?
松田は、内心にたぎる思いをぐっと飲み込んだ。
「それじゃ、部屋を軽く案内するよ。山田は知っているだろうから、松田さん。ついてきてくれ」
黒沢はソファーに山田を座らせると、松田とともに部屋を回る。
キッチンはいつでも使っていい。冷蔵庫は、中に入っていてどうしても食べられたくないものがあったら、名前を書いておけばいい。 ほかに入っている材料も食べ物も、好きに飲み食いしてもいい。
リビングの出入りは自由。風呂は、入浴前と入浴後に声をかけておくこと。浴槽に湯をためた時、次に入る人がいなければ湯を抜いてもいい。
客間を一つ開けておいたから、当面はそこに荷物をおいていいし、着替えもそこにするといい。急ごしらえだがクローゼットもおいてあるし、簡易式のテーブルも出せるから仕事があるならそこですればいい。
黒沢の提示するルールは寛容すぎるくらいに思えた。
曰く、「山田の知り合いなら、山田より変な奴ではないだろうから信頼している」とのことだ。
「山田は寝るとき以外リビングを使うから、一人になりたいときは客間を自室代わりにすればいいと思う」
当たり前のように山田の行動を予想して決めつける黒沢の言い方に、わずかだが苛立ちを覚える。
――何や、知った口ききおってからに。
せやけど、こいつがそういうんなら、そうなんやろうな。
松田は、普段からリビングで仕事をする山田の姿を思い出す。
松田の家でもそうなんだから、山田がリビングを中心に生活を組み立てる癖があるのは、きっと5S時代からそうなのだろう。
「山田は、あれでけっこう寂しがり屋でな。テレビでも何でも、音がある場所のほうが好きだし、リビングなら誰が来たとかすぐわかるだろう? そういう、人の気配を感じるのは嫌いじゃないんだよ。一人になりたいけど、孤独に耐えられるタイプじゃないからな」
しかし、山田のことを知った顔で説明されると、やはりイラっとする。
――なんでや。
あいつなんて、ただのルームシェア相手やないか。別になんもしとらんし、特別な関係でもないっちゅーんに。
行き場のない感情を鎮めるため、ガシガシと頭を書く。
書斎にある本は好きに読んでいいが、部屋から持ち出したら一声かけるかメモを残してほしい。
黒沢の私室は、基本的に入らないように。
いくつかの注意を受けながら部屋を進む。
それにしても、部屋が多い。そして、思ったよりものが少ない。
――本物のお金持ちのボンボンやから、質のいい家具あつらえてもろて、ゆとりのあるスペースで暮らしてんねんな。
いうても、まだ30になったばかりのガキやないか。
わざわざコイツの言動を気にしてもしゃーないやろ。
だいたい、山田だって、今は一緒に住んでるだけやし。急に転がり込んできた、ネコみたいなもんやないか。
俺のもんと、違う――。
「それで、寝室だけどな」
黒沢は扉を開け、部屋を見せる。
モノトーンの落ちいた装飾に、重厚だが決して古くさくならない香りが漂うこの部屋は、おそらく黒沢が普段使っている寝室だ。
「客室にも簡易ベッドはあるんだけど、一つじゃさすがに二人は狭いだろう? こっちにも、ソファーベッドがおいてある」
「ん、せやな……」
松田は、仮住まいの客間におかれたベッドを思い出す。
黒沢の言う通り、松田一人なら余裕で寝転がれるが、山田の寝るスペースはなさそうだ。
いや、最初から「一緒に寝る」という選択はないのだが。
「だから、俺の寝室は山田に使ってもらうことにした。それでいいよな」
「いや、何でやねん!」
黒沢はさも当然のようにいうから、松田はついツッコむ。迅速に。非常に反応よく。関西人らしい研ぎ澄まされたなんでやねん。である。
「なぜ、といわれると困るな。昔から山田は俺の寝室で寝ていたから、慣れていると思ったんだ」
――ほぅ、昔から親密アピールとはいいご身分やな。
「俺は眠りが深いから、山田が夜遅くまで仕事をして寝室に出入りしても、多分気づかない」
それやったら、俺だって気づいてないし、気づいてもすぐ寝とるわ。
「客間と比べてリビングから近いのもあるし、山田にも都合がいいと思ってな」
松田は軽く唇を噛む。
黒沢は、あくまで合理的に。メリットとデメリットを理解した上で、メリットが多いからそうした、という風体だ。
「それに、俺の寝室で寝るのは松田さんも嫌じゃないか?」
黒沢はさらにたたみかける。それを言われると、少し弱い。確かに、初対面である黒沢と同じ空間で寝るのはお互いに気まずい。
だが、黒沢と馴染みのある山田と一緒に寝かせたりしたら――。
※※※
「僕のベッド小さいから黒沢さんのほうで寝よーっと、いいよね」
「別にいいが、一緒にねることになるぞ」
「いいよー、僕、黒沢さんのにおいだーいすき。おやすみー」
※※※
なんて、ことになるのは簡単に想像できる。
松田が認識している山田は、他人と心の距離感をかなりとるタイプ。
だが、一度懐に入ると、まるで家族のように密接になり甘えるし、わがままもいうようになるのだ。
付き合いの長い黒沢には、当然心を許しているだろう。だが――。
――許せるわけないやろ!
何で山田が、ほかの男と、同衾せなあかんねん!
うちかて、ベッド別やで!
いや、別に俺と何かあるって訳ちゃうから、別なのは当然なんやけどな!
「そ、それも最もやけど。一応、山田にも聞いとかなアカンと違うか? 山田も、一人で寝たいかもしれへんし」
あくまで提案ベースで。自然なつもりで意見するが、なぜか声がうわずってしまう。
「それだと、山田がいやだっていったら松田さんが俺の部屋で寝ることになるんだけど。それは大丈夫なのか?」
「あー、まぁ、それはしゃーない。大丈夫やから、な……」
あまり大丈夫ではない。
だが、黒沢の部屋に山田がいることは、もっと大丈夫ではないのだ。
「せかやら、山田の意向はちゃんと聞いておくべきやて」
「うーん。それで松田さんが納得するなら、俺はいいけど。山田はどこだ?」
「まだリビングにいるやろ。おーい、山田ぁ」
松田がドカドカ歩く後ろを、黒沢もついていく。
しかしリビングにも、キッチンにも、山田の姿はない。
「さっきまでソファーに座ってたみたいだけどな」
リビングのソファーが沈んだ様子を見て、黒沢は不思議そうな顔をする。
「山田って、時々ふらっと思いもよらない行動をするからな。俺も、そういう点であいつを理解しきれていないんだ」
黒沢は呆れ顔だが、その顔はどこかうれしそうだ。
懐かしい友人の変わらない姿を見れた喜びからだろうか、それとも――。
「玄関に靴もあるし、外には出とらんやろ」
そうして、再度、家の中を回る。
すべての部屋を一通り見直した後、松田の部屋として準備されていた客間を開けると、そこに山田がいた。
すでにベッドを占領し、ぐっすりと眠っている。
「何だ、もう寝てるじゃないか」
松田におくれて、黒沢もベッドをのぞき込む。
そういえば、昨日は締め切り前の記事があるといってずっと作業をしていたか。工事に入るとか、どこで生活するかなんてやりとりをずっとしていたから、ほとんど寝てなかったのだろう。
「起こして聞くのも悪そうだな」
「せやな、寝かしておいたろか」
「――でも、このままだと今日は松田さん、俺の寝室で寝ることになるけど、いいのか?」
あんまりよろしくはない。
しかし、山田が黒沢の部屋で寝ると思うと、それよりずっと気が楽だ。
何より――。
「ん……」
今はあの生意気でわがままな男が、おとなしく寝息をたてている姿を眺めていたい。
黒沢も似たようなことを考えているのか、山田の寝顔を眺めながらずれたタオルケットをかけなおしていた。
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