インターネット字書きマンの落書き帳
お化けテレビと襟尾のはなし(パラノマ二次創作)
襟尾純が出る話をかきました。(挨拶)
内容は、テレビを見ていると存在していない未来の記憶が映し出されてその世界があたかも現実が如く感じてしまうみたいな話です。
澤村伊智の本をいっぱい読んだので、そういう系統の話が書きたくなったので書きました。
パラノマサイトのOPに出てくるテレビの話とかもっと呪物や都市伝説や妖怪っぽい要素を入れてみたかったはなしです。
襟尾は何となくそういった妖怪っぽいものとか、怪異に好かれそうな気がするんですよね。
ポジティブだけど、幽霊とか怪異は基本的にいい男・いい女が好きなので。
だいたいそうでしょ、怖い話の被害者は美男美女が多いもんだってね。
適当なことを言ってます。
内容は、テレビを見ていると存在していない未来の記憶が映し出されてその世界があたかも現実が如く感じてしまうみたいな話です。
澤村伊智の本をいっぱい読んだので、そういう系統の話が書きたくなったので書きました。
パラノマサイトのOPに出てくるテレビの話とかもっと呪物や都市伝説や妖怪っぽい要素を入れてみたかったはなしです。
襟尾は何となくそういった妖怪っぽいものとか、怪異に好かれそうな気がするんですよね。
ポジティブだけど、幽霊とか怪異は基本的にいい男・いい女が好きなので。
だいたいそうでしょ、怖い話の被害者は美男美女が多いもんだってね。
適当なことを言ってます。
『都市伝説妖怪』
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
薄暗い部屋の中でテレビだけが爛々と輝いていた。
誰かが電源を入れっぱなしにしてその場を離れたのだろうか。そんな事を思いながら襟尾純が画面をのぞいて見れば白と黒との砂嵐が耳障りな音をたてている。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
不愉快な気持ちをやたらと書き立てる音は襟尾の心を苛立たせ焦らせる。この音は不快だ、気分が悪い。何とか止めなければと思って電源のツマミに触れるが押しても画面が切り替わる様子はない。テレビが壊れているのだろうか、接続が悪いのかもしれない。
だが生憎と電気系統には詳しくなかった襟尾はどこを触ればテレビが直るのかなどすぐには思いつかなかったので、ひとまず横っ面を叩いてみる。電化製品は叩けば直る、というのはこの頃によく流布していた噂であり、どういうワケだかそれで直るという話が随分とあったのだ。
程ほどの力で叩いたテレビは暫く画面が歪んで揺れていたが、やがてやけに緑がかった風景を映すようになった。直ったのだろうか。確認のため画面を覗けば緑のフィルムが貼られたように一面が緑色に染まっていた。
砂嵐よりはマシだろうが直っているとは言い難いだろう。空も河もすべてが緑色に塗られ黒い輪郭だけが辛うじて人と風景を映し出していた。
ふと、その画面をよく見れば映し出された人影は紛れもない、襟尾の上司である津詰徹生だという事に気付く。津詰は襟尾の知らぬ女性と真剣に話し込んでいるようであった。
津詰はいつの間にテレビ取材など受けたのだろうか。それにしては対話している女性はおおよそキャスターらしくない、女子大生くらいの年頃に見える。そもそもこの風景は見覚えがある、都内のどこかにこのような場所があった気がするのだが、あれは何処だったろう。
思い出そうとしても思考がどうにも定まらない。頭が考える事を拒んでいるような心持ちのまま襟尾は食い入るように流れる映像を見ていた。
どんな会話をしているのかは聞こえない。画面は直ったがスピーカーは壊れたままなのだろう。 津詰と女性が向かい合い話している、ただそれだけだというのに非道い不安が胸から突き上げてくる。
何だろうこの光景は。これから何がおこるのだろうか。
そう思った矢先、津詰の身体は奇妙に捻れその場で踊るように浮き上がった。見えない何かが津詰の身体を力一杯に打ち据えているのだ。人間の身体が宙に浮き、踊るように見える程の威力で何度も何度も打ち叩かれ、それは一向に止む様子はない。
「いや、何で……ボス。誰か、誰か止めてくれ! 止めて、止め……」
思わず叫び声が上がるが津詰の身体に見えない暴力は土砂降りのように降り注ぎ、ついに限界が来たように血をまき散らしその場へと倒れた。
「ボス、まってください。どうして、ボス……ボス、ボスっ……」
襟尾が敬愛する津詰は死んだ。見えない何かに殺されたのだ。
しかも、津詰はそうすることを選んだのだ。
色々と考え、様々な覚悟を背負った上で全てを受け入れ死ぬという道を選んだ、そうする事で己を貫いたのだ。
全てを理解した襟尾はその場で膝をつき項垂れる。目からは自然と涙が溢れていた。
あの時の自分も今のように泣く事ができたのだろうか。あの女性に何を言っただろうか。周囲に心配かけまいと気丈に振る舞い笑っていたような気がするが、あの時周囲には誰がいたのだろうか。
何も覚えていないが、強い喪失感だけは胸に強く残っていた。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
不愉快な音に急かされ顔を上げれば砂嵐の世界が広がっている。やはり壊れているテレビなのだろう、そうでなければ緑が一色だけブラウン管に広がるワケはないし、何度も砂嵐で画面が乱れるはずもない。
色の三原色があり、テレビはそれを使って色彩を表現しているのだ。だからブラウン管のテレビが壊れたとき、赤や緑の色だけが一面に広がる事がある、そう珍しい事でもない。
そんな事を言っていたのは実家のテレビを修理しにきた電気屋だったろう。こうなったら買い換えた方が早いとも言っていたか。
今、テレビははっきりと白と黒の砂嵐をうつしている。今しがた何かを映し出したから完全に故障している訳でもなさそうだが、あれはテレビ中継には見えなかった。だとしたらビデオの画像だったのかもしれないが、テレビには他の機械が繋がっている様子はない。
だとしたら、あの映像は何だったのだろう。ただの幻覚か、それとも夢だったのだろうか。それにしてはやけに生々しく、そしてリアリティがある。本当にそんな出来事があったかのような錯角を抱くほどだった。
襟尾は思考が定まらぬまま何となくダイヤル式のチャンネルを回してみる。このチャンネルは映らないが他のチャンネルならうつるかもしれないと思ったし、その中にはまた襟尾にとって見覚えのある世界が映し出されるかもしれないと、そんな事を考えたからだ。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
砂嵐が続くなか力なくダイヤルを回せば、今度は青い画面が広がる。
橋の上だろうか、背景はやはり河のように見える。拳銃を構えている手は自分のものよのようだった。
見覚えのない男が河を背にして周囲を見渡している。野次馬か、思ったより一般人が多く集まっていた。あるいはこの男が集めたのかもしれないと思ったのは、集まった人間が皆一様にその男を見ていたからだろう。
男は一見すると何ら悪事が出来るようには見えぬ、ニヤけた笑いを浮かべる痩せた壮年男だった。人当たりの良さそうな少し大きめのシャツを羽織っている。
男は津詰の方ばかりを気にし彼とばかり会話をしていたが、襟尾はその話を聞く暇などなかった。
銃を構えているのは相手は凶悪犯だからだ。必要なら発砲しても問題はないだろうが周囲に一般人があまりにも多い。応援はまだこないのだろうか。もし外したら一般人に当たる危険性もある。下手をすれば津詰に当ててしまうかもしれない。威嚇射撃はいいが相手を射殺する訳にはいかない。もし狙うなら足を狙え。
様々な思考が一気に襟尾へ流れ込む。
そう、この時の自分はかなり焦っていた。滅多にない大捕物で応援は来ない。自分と津詰二人で対応しなければいけない状況で、相手は殺人犯なのだ。
絶対に失敗することは出来ない。
その焦りが襟尾から冷静な判断力を奪っていたのは間違いないだろう。
それまで穏やかに津詰と話していた男は突如豹変し怒声に近い声をあげ、襟尾はひどく動揺した。男が何を言ったのかは聞こえない、あるいは覚えていない。ただそれが今までの穏やかな語り口調とは違うあまりにも大きく恐ろしい声だったから、怯える気持ちが勝ってしまったのだ。トリガーにかけた指に力が入ったのは無意識に身の危険を感じたからであり、冷静な判断が出来なくなっていたからだろう。
撃ってしまう、撃ったら当たってしまう、危険だ、照準をずらさなければ。瞬時に思いが巡り弾丸は誰にもあたらず空を切る。すると、男はまるでこちらが外す、あるいは最初から当てる気などなかったのを知っていたかのように欄干へ足をかけ淀んだ河へと飛び込んでいった。
橋から河まではかなりの高さだ。お世辞にも綺麗な河でもない。泳いで逃げようなど自殺行為だし近場の岸辺に警察を総動員すれば程なく捕まるだろう。
頭では冷静に考えようとしても心が追いつかない。逃げおおせるのではないかと考えてしまうし、例え捕まえようとしてもあの男だ。警察官を殺してでも生き延びるのではないかとさえ考えてしまう。
そしてその予感と焦燥は的中し、まだ年若い学生が、少女が、罪もない老人や妊婦といった守るべき人たちの命が指から零れていくのだ。
ただ一瞬、自分が判断を焦ったばかりに。
ひどく目がくらむ。吐き気がこみ上げてきて膝をつきそうになる。
全てテレビの向こうにある虚構だ、現実ではない。そのはずなのに、襟尾の身体は生々しいほどの現実感を覚えていた。
津詰の死も自分の失敗もまるで本当にあったかのように感じていたのだ。
「あなたのおかげで、私は成し遂げることができた」
誰かが背後で笑う。優しく甘い女性の声だ。
振り返ってはいけない、振り返ってしまえば恐ろしいものを見てしまう。
「あなたが認めれば、どの世界においても私は完成するの。ね、お願い襟尾さん。どうかこっちを向いて、私の手に触れて……」
確かに人の気配がする。街の雑踏で振り返っても目をひくような目立った外見ではない普通の、だがそれだからこそ異質な女性の声だ。
彼女はしきりに振り返ることを求め、こちらへ手を伸ばす仕草が背中越しにわかる。振り返れば戻れない、それが分かっているというのに身体は首は自然と後ろを見ようとしていた。
何かに導かれるように、あるいは糸に繋がれ操られるかのように。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
その時、襟尾の身体がぐっと後ろに引っ張られた。
目の前には一台の家具調テレビがショーウィンドウに飾られている。
行き交う人々の雑踏、車の排気ガス、信号機から流れる通りゃんせのメロディ。それらを聞いて、空気の流れや太陽の光を浴びて襟尾は自分が街の中にいるのだと実感する。
もう砂嵐の音は聞こえず、目の前にあるテレビは何も映してはいない。
今、何を見ていたのだろう。非道く恐ろしいものを見ていた気がするのだが。
「大丈夫でしたか」
呆ける襟尾に見知らぬ男が心配そうに声をかけてきた。山高帽を目深にかぶったその人物は両手は黒の革手袋をしており仕立ての良い背広を着ている。 男性に見えたのは背広を着ていたからであり顔が見えたワケではないから後で考えれば女性だったのかもしれないが、何故か顔がよく見えなかった。
「え、あ。いや……オレ……」
額から汗を滲ませながら周囲を見渡すが、普段通りに賑わった町中だ。さっきまで自分は夢の中にでもいたような気持ちだが、何を見ていたのかも非道く曖昧である。
やけに現実味のある嫌な気持ちだけがじっとりと背中に張り付いてはいたが、思い出そうとしても何も思い出せない。 ひどく耳障りな砂嵐の音だけが耳の奥底にこびりついていた。
「顔色が悪いように見えましたので少しばかり気になって、ご気分はいかがです?」
「いえ、大丈夫です。少しばかりそこのテレビが気になって……」
優しい語調で語る人物を前に、襟尾は丁重に頭を下げる。何となくあのテレビでは不可解な映像が流れていた気がするが、今は何も思い出せない。
襟尾がそう告げると、その人は口元に手をたててショーウィンドウにあるテレビを見た。
「ところで貴方、古くから使われた道具に魂が宿るという話はご存じでしょうか」
すると唐突にそんな事を聞いてくる。
何の話だろうと思ったが、全く聞いた事のない話でもなかった。襟尾の祖父母が道具を大事にしないと妖怪になるだとか、神様になるなんて話をしていた記憶があるからだ。
「詳しくは知らないですけど、聞いた事はあります。大事にした道具は魂が宿るとか、そういうのは付喪神って言うんですよね」
「はは、お若いのに博識でらっしゃる。結構なことでございます。はい、貴方のおっしゃる通り、長い年月が過ぎた道具にはタマシイが宿り人の知恵をもち話などをすることもあるとは昔から色々な逸話があるのですが、その中でもいっとうに古くからタマシイが宿るといわれ、いっとうに多くの逸話が残っている道具が何だかご存じでしょうか」
「え、さぁ……それは……」
「私はおそらく、鏡じゃぁないかと思うのでございますよ。古くから人の魂を映すとされ、神事にもあつかわれる。神聖とされながら怖れの対象でもある鏡は、かつて向こう側に別の世界があると思われておりました。あるいは人の魂をもち、知恵をもって語らうとも。そうでなくとも、夜中に合わせ鏡をすれば自分の死に顔が見られるとか、口にカミソリをくわえて鏡を覗けば将来の結婚相手が映し出されるなどという噂もある。人は自分に似た姿を映す鏡というものに畏怖の気持ちと神秘性を抱くのでしょうな」
何の話だろう。
呆ける襟尾を前に、その人物は言う。
「映し出す、という意味で鏡もテレビも似たようなもの……虚構をあたかも現実のように作り出し映し出すものですから、なるほど魂が宿っても不思議ではない、ということですよ」
そして笑うと、襟尾へ恭しい一礼をした。
「等と、つまらない戯言で若い人を呼び止めてしまいましたな。お急ぎだったのではありませんか」
言われて襟尾は時計を見る。今日は津詰と直接現場へと出向き聞き込みに行く予定だったのを思い出したからだ。待ち合わせ時刻にはまだ余裕があるが尊敬する津詰を待たせるわけにはいかない。それに、この場所に長居をするのは良くない気がした。
「すいません、ありがとございます。自分はこれで失礼しますので」
相手へ一礼すると襟尾は慌てて待ち合わせ場所へと走り出す。
一人になり、その人物はショーウィンドウに飾られたテレビを見て誰に聞かせるでもなく呟いた。
「なるほど、なるほど。テレビなど最近出来たものだと思っておりましたが、もうそのようなモノへと化ける呪物が生まれているとは。いやはやこれは僥倖、僥倖……ちょうどおまえのように多面と層を成した運命すら見通せるモノを欲していたところ、これは運がいい。少しばかり手伝ってもらったあと、しかるべき手段をもってあるべき場所へと戻してやるとしようか。だがその前に少しばかり、力を貸してもらおう……そう、己を忘れた魂が因果を収束さえるためにもな」
そして帽子を少し直すと襟尾が走り去った道へ一度だけ目をやる。
電源の入っていないテレビはざぁざぁと耳障りな音をたて白と黒が入り交じる砂嵐の画面を映し出していた。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
薄暗い部屋の中でテレビだけが爛々と輝いていた。
誰かが電源を入れっぱなしにしてその場を離れたのだろうか。そんな事を思いながら襟尾純が画面をのぞいて見れば白と黒との砂嵐が耳障りな音をたてている。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
不愉快な気持ちをやたらと書き立てる音は襟尾の心を苛立たせ焦らせる。この音は不快だ、気分が悪い。何とか止めなければと思って電源のツマミに触れるが押しても画面が切り替わる様子はない。テレビが壊れているのだろうか、接続が悪いのかもしれない。
だが生憎と電気系統には詳しくなかった襟尾はどこを触ればテレビが直るのかなどすぐには思いつかなかったので、ひとまず横っ面を叩いてみる。電化製品は叩けば直る、というのはこの頃によく流布していた噂であり、どういうワケだかそれで直るという話が随分とあったのだ。
程ほどの力で叩いたテレビは暫く画面が歪んで揺れていたが、やがてやけに緑がかった風景を映すようになった。直ったのだろうか。確認のため画面を覗けば緑のフィルムが貼られたように一面が緑色に染まっていた。
砂嵐よりはマシだろうが直っているとは言い難いだろう。空も河もすべてが緑色に塗られ黒い輪郭だけが辛うじて人と風景を映し出していた。
ふと、その画面をよく見れば映し出された人影は紛れもない、襟尾の上司である津詰徹生だという事に気付く。津詰は襟尾の知らぬ女性と真剣に話し込んでいるようであった。
津詰はいつの間にテレビ取材など受けたのだろうか。それにしては対話している女性はおおよそキャスターらしくない、女子大生くらいの年頃に見える。そもそもこの風景は見覚えがある、都内のどこかにこのような場所があった気がするのだが、あれは何処だったろう。
思い出そうとしても思考がどうにも定まらない。頭が考える事を拒んでいるような心持ちのまま襟尾は食い入るように流れる映像を見ていた。
どんな会話をしているのかは聞こえない。画面は直ったがスピーカーは壊れたままなのだろう。 津詰と女性が向かい合い話している、ただそれだけだというのに非道い不安が胸から突き上げてくる。
何だろうこの光景は。これから何がおこるのだろうか。
そう思った矢先、津詰の身体は奇妙に捻れその場で踊るように浮き上がった。見えない何かが津詰の身体を力一杯に打ち据えているのだ。人間の身体が宙に浮き、踊るように見える程の威力で何度も何度も打ち叩かれ、それは一向に止む様子はない。
「いや、何で……ボス。誰か、誰か止めてくれ! 止めて、止め……」
思わず叫び声が上がるが津詰の身体に見えない暴力は土砂降りのように降り注ぎ、ついに限界が来たように血をまき散らしその場へと倒れた。
「ボス、まってください。どうして、ボス……ボス、ボスっ……」
襟尾が敬愛する津詰は死んだ。見えない何かに殺されたのだ。
しかも、津詰はそうすることを選んだのだ。
色々と考え、様々な覚悟を背負った上で全てを受け入れ死ぬという道を選んだ、そうする事で己を貫いたのだ。
全てを理解した襟尾はその場で膝をつき項垂れる。目からは自然と涙が溢れていた。
あの時の自分も今のように泣く事ができたのだろうか。あの女性に何を言っただろうか。周囲に心配かけまいと気丈に振る舞い笑っていたような気がするが、あの時周囲には誰がいたのだろうか。
何も覚えていないが、強い喪失感だけは胸に強く残っていた。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
不愉快な音に急かされ顔を上げれば砂嵐の世界が広がっている。やはり壊れているテレビなのだろう、そうでなければ緑が一色だけブラウン管に広がるワケはないし、何度も砂嵐で画面が乱れるはずもない。
色の三原色があり、テレビはそれを使って色彩を表現しているのだ。だからブラウン管のテレビが壊れたとき、赤や緑の色だけが一面に広がる事がある、そう珍しい事でもない。
そんな事を言っていたのは実家のテレビを修理しにきた電気屋だったろう。こうなったら買い換えた方が早いとも言っていたか。
今、テレビははっきりと白と黒の砂嵐をうつしている。今しがた何かを映し出したから完全に故障している訳でもなさそうだが、あれはテレビ中継には見えなかった。だとしたらビデオの画像だったのかもしれないが、テレビには他の機械が繋がっている様子はない。
だとしたら、あの映像は何だったのだろう。ただの幻覚か、それとも夢だったのだろうか。それにしてはやけに生々しく、そしてリアリティがある。本当にそんな出来事があったかのような錯角を抱くほどだった。
襟尾は思考が定まらぬまま何となくダイヤル式のチャンネルを回してみる。このチャンネルは映らないが他のチャンネルならうつるかもしれないと思ったし、その中にはまた襟尾にとって見覚えのある世界が映し出されるかもしれないと、そんな事を考えたからだ。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
砂嵐が続くなか力なくダイヤルを回せば、今度は青い画面が広がる。
橋の上だろうか、背景はやはり河のように見える。拳銃を構えている手は自分のものよのようだった。
見覚えのない男が河を背にして周囲を見渡している。野次馬か、思ったより一般人が多く集まっていた。あるいはこの男が集めたのかもしれないと思ったのは、集まった人間が皆一様にその男を見ていたからだろう。
男は一見すると何ら悪事が出来るようには見えぬ、ニヤけた笑いを浮かべる痩せた壮年男だった。人当たりの良さそうな少し大きめのシャツを羽織っている。
男は津詰の方ばかりを気にし彼とばかり会話をしていたが、襟尾はその話を聞く暇などなかった。
銃を構えているのは相手は凶悪犯だからだ。必要なら発砲しても問題はないだろうが周囲に一般人があまりにも多い。応援はまだこないのだろうか。もし外したら一般人に当たる危険性もある。下手をすれば津詰に当ててしまうかもしれない。威嚇射撃はいいが相手を射殺する訳にはいかない。もし狙うなら足を狙え。
様々な思考が一気に襟尾へ流れ込む。
そう、この時の自分はかなり焦っていた。滅多にない大捕物で応援は来ない。自分と津詰二人で対応しなければいけない状況で、相手は殺人犯なのだ。
絶対に失敗することは出来ない。
その焦りが襟尾から冷静な判断力を奪っていたのは間違いないだろう。
それまで穏やかに津詰と話していた男は突如豹変し怒声に近い声をあげ、襟尾はひどく動揺した。男が何を言ったのかは聞こえない、あるいは覚えていない。ただそれが今までの穏やかな語り口調とは違うあまりにも大きく恐ろしい声だったから、怯える気持ちが勝ってしまったのだ。トリガーにかけた指に力が入ったのは無意識に身の危険を感じたからであり、冷静な判断が出来なくなっていたからだろう。
撃ってしまう、撃ったら当たってしまう、危険だ、照準をずらさなければ。瞬時に思いが巡り弾丸は誰にもあたらず空を切る。すると、男はまるでこちらが外す、あるいは最初から当てる気などなかったのを知っていたかのように欄干へ足をかけ淀んだ河へと飛び込んでいった。
橋から河まではかなりの高さだ。お世辞にも綺麗な河でもない。泳いで逃げようなど自殺行為だし近場の岸辺に警察を総動員すれば程なく捕まるだろう。
頭では冷静に考えようとしても心が追いつかない。逃げおおせるのではないかと考えてしまうし、例え捕まえようとしてもあの男だ。警察官を殺してでも生き延びるのではないかとさえ考えてしまう。
そしてその予感と焦燥は的中し、まだ年若い学生が、少女が、罪もない老人や妊婦といった守るべき人たちの命が指から零れていくのだ。
ただ一瞬、自分が判断を焦ったばかりに。
ひどく目がくらむ。吐き気がこみ上げてきて膝をつきそうになる。
全てテレビの向こうにある虚構だ、現実ではない。そのはずなのに、襟尾の身体は生々しいほどの現実感を覚えていた。
津詰の死も自分の失敗もまるで本当にあったかのように感じていたのだ。
「あなたのおかげで、私は成し遂げることができた」
誰かが背後で笑う。優しく甘い女性の声だ。
振り返ってはいけない、振り返ってしまえば恐ろしいものを見てしまう。
「あなたが認めれば、どの世界においても私は完成するの。ね、お願い襟尾さん。どうかこっちを向いて、私の手に触れて……」
確かに人の気配がする。街の雑踏で振り返っても目をひくような目立った外見ではない普通の、だがそれだからこそ異質な女性の声だ。
彼女はしきりに振り返ることを求め、こちらへ手を伸ばす仕草が背中越しにわかる。振り返れば戻れない、それが分かっているというのに身体は首は自然と後ろを見ようとしていた。
何かに導かれるように、あるいは糸に繋がれ操られるかのように。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
ざぁーーーーーーーーーーざぁーーーーーーーーーー。
その時、襟尾の身体がぐっと後ろに引っ張られた。
目の前には一台の家具調テレビがショーウィンドウに飾られている。
行き交う人々の雑踏、車の排気ガス、信号機から流れる通りゃんせのメロディ。それらを聞いて、空気の流れや太陽の光を浴びて襟尾は自分が街の中にいるのだと実感する。
もう砂嵐の音は聞こえず、目の前にあるテレビは何も映してはいない。
今、何を見ていたのだろう。非道く恐ろしいものを見ていた気がするのだが。
「大丈夫でしたか」
呆ける襟尾に見知らぬ男が心配そうに声をかけてきた。山高帽を目深にかぶったその人物は両手は黒の革手袋をしており仕立ての良い背広を着ている。 男性に見えたのは背広を着ていたからであり顔が見えたワケではないから後で考えれば女性だったのかもしれないが、何故か顔がよく見えなかった。
「え、あ。いや……オレ……」
額から汗を滲ませながら周囲を見渡すが、普段通りに賑わった町中だ。さっきまで自分は夢の中にでもいたような気持ちだが、何を見ていたのかも非道く曖昧である。
やけに現実味のある嫌な気持ちだけがじっとりと背中に張り付いてはいたが、思い出そうとしても何も思い出せない。 ひどく耳障りな砂嵐の音だけが耳の奥底にこびりついていた。
「顔色が悪いように見えましたので少しばかり気になって、ご気分はいかがです?」
「いえ、大丈夫です。少しばかりそこのテレビが気になって……」
優しい語調で語る人物を前に、襟尾は丁重に頭を下げる。何となくあのテレビでは不可解な映像が流れていた気がするが、今は何も思い出せない。
襟尾がそう告げると、その人は口元に手をたててショーウィンドウにあるテレビを見た。
「ところで貴方、古くから使われた道具に魂が宿るという話はご存じでしょうか」
すると唐突にそんな事を聞いてくる。
何の話だろうと思ったが、全く聞いた事のない話でもなかった。襟尾の祖父母が道具を大事にしないと妖怪になるだとか、神様になるなんて話をしていた記憶があるからだ。
「詳しくは知らないですけど、聞いた事はあります。大事にした道具は魂が宿るとか、そういうのは付喪神って言うんですよね」
「はは、お若いのに博識でらっしゃる。結構なことでございます。はい、貴方のおっしゃる通り、長い年月が過ぎた道具にはタマシイが宿り人の知恵をもち話などをすることもあるとは昔から色々な逸話があるのですが、その中でもいっとうに古くからタマシイが宿るといわれ、いっとうに多くの逸話が残っている道具が何だかご存じでしょうか」
「え、さぁ……それは……」
「私はおそらく、鏡じゃぁないかと思うのでございますよ。古くから人の魂を映すとされ、神事にもあつかわれる。神聖とされながら怖れの対象でもある鏡は、かつて向こう側に別の世界があると思われておりました。あるいは人の魂をもち、知恵をもって語らうとも。そうでなくとも、夜中に合わせ鏡をすれば自分の死に顔が見られるとか、口にカミソリをくわえて鏡を覗けば将来の結婚相手が映し出されるなどという噂もある。人は自分に似た姿を映す鏡というものに畏怖の気持ちと神秘性を抱くのでしょうな」
何の話だろう。
呆ける襟尾を前に、その人物は言う。
「映し出す、という意味で鏡もテレビも似たようなもの……虚構をあたかも現実のように作り出し映し出すものですから、なるほど魂が宿っても不思議ではない、ということですよ」
そして笑うと、襟尾へ恭しい一礼をした。
「等と、つまらない戯言で若い人を呼び止めてしまいましたな。お急ぎだったのではありませんか」
言われて襟尾は時計を見る。今日は津詰と直接現場へと出向き聞き込みに行く予定だったのを思い出したからだ。待ち合わせ時刻にはまだ余裕があるが尊敬する津詰を待たせるわけにはいかない。それに、この場所に長居をするのは良くない気がした。
「すいません、ありがとございます。自分はこれで失礼しますので」
相手へ一礼すると襟尾は慌てて待ち合わせ場所へと走り出す。
一人になり、その人物はショーウィンドウに飾られたテレビを見て誰に聞かせるでもなく呟いた。
「なるほど、なるほど。テレビなど最近出来たものだと思っておりましたが、もうそのようなモノへと化ける呪物が生まれているとは。いやはやこれは僥倖、僥倖……ちょうどおまえのように多面と層を成した運命すら見通せるモノを欲していたところ、これは運がいい。少しばかり手伝ってもらったあと、しかるべき手段をもってあるべき場所へと戻してやるとしようか。だがその前に少しばかり、力を貸してもらおう……そう、己を忘れた魂が因果を収束さえるためにもな」
そして帽子を少し直すと襟尾が走り去った道へ一度だけ目をやる。
電源の入っていないテレビはざぁざぁと耳障りな音をたて白と黒が入り交じる砂嵐の画面を映し出していた。
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