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インターネット字書きマンの落書き帳

   
興家に助けられる弓岡概念(ネタバレあり)
パラノマ伊勢をクリアしたので、興家彰吾を書きたいと思います!

……なんで!?
でも、一度書いてみたかった「興家と弓岡」コンビをやりたかったので!
やりました!
やってやるぜ!

いろいろと「裏」を仕切ってきた弓岡と、興家みたいな話ですよ。
すべてがパラノマ本所のネタバレになるので、真エンドを見てから読んでね♥



『ベルガモット・パルファム』

 起床、出社、業務、帰宅。
 サラリーマンの生活ルーチンはほぼ固定されている。
 それは、会長の秘書という立場である弓岡も変わりない。

 強いて違うところがあるとするのならば、普通の会社員が焦るのは納期や他社とのトラブルだろうが、弓岡が悩まされるのは会長直々に依頼された、極秘の任務だった。

 初めて会長から仕事を任された時、正直困惑した。
 やれ不老不死だの蘇りの秘術といった、おおよそ現実的とは思えぬ与太話の真偽を確かめること。
 それが弓岡に求められた使命だったからだ。

 ――女傑と言われたヒハク石鹸の会長も、さすがに耄碌したか。

 正直、そう思わなかった訳ではない。
 それでも、主に求められたのなら必要なこたえを提示するのが使命だ。

 不老不死につながる人魚の肉やトキジクの実、西王母の桃など、多くの伝承を調べた。
 蘇生の秘術など、時に伝説が残る土地へ赴き現地調査もした。

 そうして多くの人と接し、時に裏の世界に足を踏み入れると、オカルトと切り捨てるにはあまりに生々しい記録や、真実味のある儀式の記載と出くわすものだ。

 深入りすればこちらの身も危ういような修羅場をいくつかくぐり抜け、弓岡は確信する。

 オカルトと呼ばれ、真偽が議論され、半ばファンタジーとして扱われている不老不死も、死者蘇生も、全知全能の証左である賢者の石も、すべてがあり得る。

 だがそれは、多くの死体を積み重ねようやく姿を現した、禁断の秘術。
 普通に生きているのなら、決して踏み入れてはいけない領域に存在するのだ。

 ――会長は、死を恐れている。
 若さを渇望し、不老不死を求め、永遠に生きたいと願っている――。

 それは、弓岡にも分かっていた。
 ヒハク石鹸を一大企業にのし上げ財をなした後も、老いさらばえ忘れ去れることに恐怖を抱くのは当然だろう。

 山森会長は高齢で、先があまり無いという焦りもある。
 もし、本当に死を超越できるのならば、私財をなげうってでも「そちら側」に行きたいと思うのも、やむを得ないことだろう。

 だが、多くの闇に触れるたび弓岡は確信していた。
 山森会長は、とても不老不死などという巨大な力を受け入れるような器ではない。
 力に溺れるか、持て余すか。どちらにしても待っているのは破滅だ。

 弓岡が触れた不死や、蘇生、全知といった人類の夢や野望は、あまりにも業が深い。
 血と因業の彼方に秘匿された知識を成就させるためには、人間の人生なんてあまりにも短いのだ。

 オカルトの知識を得るため、山森会長自身が拝み屋稼業に手を染めているのも、弓岡を悩ませた。
 会長の霊能力は人並み程度であり、悩める現代人へのアドバイスはそれっぽいが、霊的な所感は適当なことばかり。
 呪詛や儀式を実際に扱える側の人間たちから見た会長の評価は、霊感ゼロのくせに裏を土足で踏み荒らすやかましい老婆、といった所でしかない。

 『オタクの会長さんだろ? ショバを荒らされて面倒になってるから、オタクは入れられないよ』

 出先でそう、追い返されたこともある。

 ――そろそろ潮時か。

 頭ではそう思うが、会長にひろわれ助けられたという立場から離れることもできぬ日々を過ごしていた。

 今日も、出勤したら会長のスケジュールを確認する。
 必要なら車を出し送迎。社内だけでことが足りるなら資料を作り提出。合間に、不老不死の調査だ。

 出社し、タイムカードを押す。
 それからスケジュール確認。会長は昼にならないと来ない。必要な資料もできている。それなら、調査のためファイルに目を通すか。

 裏の資料を整理してあるファイルを手に取り、弓岡は違和感を抱く。

 ――資料が、抜けている。

 以前、ここには別の資料が一式存在していたはずだ。
 不老不死や蘇生とは少し毛色が違うが、何かしらの儀式と、それにまつわる組織について記録していたはずだ。
 降霊術の類いだった気がするが……。

『――ダメだよ。弓岡さんみたいな人が、来る場所じゃないから』

 シトラスの淡い香りとともに、誰かの声が蘇る。
 男か女かもわからない、ノイズがかかった言葉は思い出してすぐぽろぽろと崩れて消えていった。

 あれは、誰だ。
 思い出せないが、何となくわかる。

 顔も、声も思い出せない誰かがそこにいて、弓岡を助けた。
 そして記録をそっと抜き去り、二度と近づかないようにした――。

 それほどまで、まずい相手の尻尾を踏んだか。
 だが、助けられるとは思わなかった。

 弓岡は裏の人間とつながることは多かったが、霊能力は専門外。
 会長のため奔走しているが、霊媒師、拝み屋というような類いとは縁が無く、この手の調査で知り合いらしい人間など、誰一人いないのだ。

 会長が、霊媒師連中に嫌われている、という事実も大きかっただろう。

 それなのに、一体どこの誰が、どうして自分を知っていたのだ。
 会ったことがあったとしても、弓岡の事情を見ても、助けてもらえるはずはないのだが――。

 考えても、頭にかかる霧が深くなるばかりだ。
 思い出そうとやっきになるほど、記憶がこぼれていく。

 こうなっては仕方が無い。
 思考を切り替えた方がよさそうだ。

 少し休憩をして……コーヒーでも飲んでから仕事にとりかかることにしよう。
 就業前だ、まだそれだけの時間はある。

 弓岡は階段を下りると、ほかの社員もつかう休憩室のドアを開けた。

「あっ」

 そこに、驚いて立ち尽くす青年の姿がある。
 ヒハク石鹸の社員証をつけている。どこかで見た顔だが、社員の一人だろうか。休憩室から出ようとした時、先にドアが開いたから驚いたようだ。

「どうぞ」

 ドアを開き、先に出るよう促す。
 すると青年は、はにかんだ笑顔で頭を下げた。

「いやー、すいません。弓岡さん」

 こっちの名前は、ちゃんと知っているのか。会長の秘書という立場だから、普段は社員と話すこともないのだが。
 最も、社員名簿も出ているから熱心な社員なら上層部の顔を覚えているのは不思議ではない。

 だが、ふわりと香るこの柑橘の香りは……。

『弓岡さんみたいな人が来る場所じゃないですよ、ここは。会長のためとはいえ、引き際はわきまえないと』
 月光の下、うっすら笑う顔。

『おれが来たのは偶然だし、弓岡さんが生きていられたのはただ運が良かっただけ。拾った命、大事にしたほうがいいよ』
 前を見据えながら、差し出す手。

『おっと、変な気はおこさないでよ。弓岡さんも、裏の仕事はわきまえてるだろうけど……おれの相手は分が悪いってやつ? おれ、今ならあんたに触れなくても殺(や)れるからね』
 余裕で、軽快だが、一切の嘘が見えない声色。

 本当に何度も、人を殺している声。
 その男は、血と宿業をごまかすよう、淡くも軽いシトラスの香りを漂わせていた。

 パルファムか。コロンか。
 やや女性向けの香水のような気がしたから――。

『女性の香水ですか?』

 少し意地悪く聞けば、男ははにかんだように笑う。

『そ、形見。いろいろあって、ゲン担ぎ』

 友情と呼ぶには執着が強く、愛と呼ぶには薄っぺらい。
 それでも魂の片割れを失ったような虚無が、弓岡の心に吹き付ける。

 呪術師は――負のエネルギーを形にする。
 時に呪符を、時に言葉をもって呪詛を行使する彼らの言葉は、わずかでも多くのイメージを投影することがあった。

 彼は無意識だったろうが、弓岡の心に強い決意が注がれる。

 ――彼女のために、殺す。

 弔いや巡礼のかわりに、死体を踏み越える。
 おぞましくも純粋な決意をもち、先に進んでいく背中は弓岡よりずっと小さかっただろうが、ずっと業が深い。

 ――敵うわけがない、このような化け物と一緒に深淵を覗けば、深淵に飲み込まれる。

 だが、この記憶は何だ。
 いつの出来事かは、何も覚えていない。

 それでも体の微かな疼きが、記憶にない過去をなぞる。

 自分は、あの日、どこかに出向いた。
 やっかいな仕事のせいで追われ、追い詰められた時、助けられた。
 この、シトラスのにおいに――。

「待っ……」

 声をあげ、振り返った時、すでに誰の姿もない。
 廊下は長く、途中に身を隠せる場所などないはずなのだが……。

 誰かいた。そう思ったが、気のせいか。
 それともただの見間違いだったか――。

 弓岡は小さくため息をつくと、休憩室に入り、誰とも知らぬシトラスの香りに思いを巡らせる。

  ――やはり、潮時なのだろう。
 裏稼業に精通しているという自負はあるが、あいにく霊媒の心得はない。
 このまま蛇の道を歩めば、ルールもわからぬ相手を前に食い殺されるがオチだろう。

「忠告は、ありがたく受け取っておきましょう」

 だが、もう少し香りに酔うのも悪くない。
 どこの誰かは知らないが、借りばかりつくるのは、プロとして座りが悪いからだ。

「ですが、借りは返します。それが、私の流儀ですので……」

 自分のための目的があるのなら、退屈な役目にも張り合いが出るだろう。
 再び、シトラスの香りにたどり着くこと。
 それは裏で長く生きた弓岡が初めて得る、自分のための目標だった。


 数ヶ月後。
 興家彰吾という会社員がヒハク石鹸を辞めた。

 実家の家業をつぐといい姿を消したのだが、彼がどこに行ったのか、知るものは誰もいないという。

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東吾
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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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