インターネット字書きマンの落書き帳
水族館に行こう(松ガス・BL・ネタバレあり)
水族館が好きだった、山田ガスマスクの話をします。
平和な世界線でもあり、別にそうでもない。
やんわりと罪の意識がある山ガスを水族館につれていき気晴らしするタイプの松田の話ですよ。
松田が学芸員ベースだったら、「好きなものの知識になると饒舌になる」って現象は何度も見ていると思うんだよね。
水族館。
哺乳類の常識を覆す生態がいっぱいある魅惑の館。
平和な世界線でもあり、別にそうでもない。
やんわりと罪の意識がある山ガスを水族館につれていき気晴らしするタイプの松田の話ですよ。
松田が学芸員ベースだったら、「好きなものの知識になると饒舌になる」って現象は何度も見ていると思うんだよね。
水族館。
哺乳類の常識を覆す生態がいっぱいある魅惑の館。
『ショーを見る』
水族館が、好きだった。
たくさんの魚がいて、海獣もいて、イルカやアシカのショーがある。
ショーを見るために座席につく人は、これから始まる賑わいを待ち、みな顔がほころんでいて幸せそうだ。
よほど満員の日でなければ、どこかしらに人のあまりいない場所がある。
その場所にいる水槽の暗がりをのぞき込んで、一体どんな魚がいるのだろうと目をこらして見るのが好きだ。
見知った魚の見知らぬ生態の小さな説明文と写真を見比べて、「これがあの魚なんだな」と思ったり、全く知らない魚がぎょろ目でこちらを見ているところを、にらみ返して見るのも好きだ。
ショーもいいけど、給仕タイムを見るのは特に好きだった。
バケツに入った餌を食べさせられるペンギン。粉々の撒き餌を夢中になってつつく熱帯魚。
大きめの水槽では、隅にいる魚にも餌を食べさせるため、ダイバーがもぐって給仕などして、見ている人に気付くと手を振ったりしてくれる。
クラゲのコーナーはだいたい暗がりだが、ライトアップされていることが多い。
薄い青や緑など、ゲーミングカラーに染まったミズクラゲを見ればやはり綺麗だと思う。
ライトアップしてなくても、毒々しい赤い縞模様や瑠璃のような青い口腕を眺めているだけで楽しい。
それに、海の生き物のことは少しだけ詳しいのだ。
専門家ほどではないけど、ギンブナが全部メスだってことくらいは知っているし、ホヤは定住先を見つけたら脳がなくなるのも知っている。
魚類には生まれた時と、その後で性別がかわるのが当たり前だし、チョウチンアンコウの雄なんかは、メスをみつけるとそのまま一体化してメスの一部になったりする。
クジラなんかもすごいんだ、哺乳類なのに1時間も潜水していられる。その時、肺には一切の空気を蓄えない。 下手に空気を蓄えたら、水圧でおかしくなってしまうから、全部の酸素を筋肉と血液とに流し込んで、それで一時間も潜っていられる。
海の生き物に、人間の常識なんて通用しない。
だから海が好きで。海の生き物が好きで。水族館が好きだ。
「おーい、何そんなとこでボーっと座っとんのや」
松田さんが僕を見つけ、ちょっと手をあげて近づいてくる。
人目につかない場所で、ベンチに座っている僕をいぶかしんでいるのだろう。
当然だ。
水族館に行きたいなんて僕が言ったからわざわざ連れてきてくれたのに、僕はさっきから人影に隠れてばかり。
何も、ろくに見ていない。
「んー、ちょっと疲れちゃって。昨日、徹夜しちゃったし」
曖昧に笑いながら、僕は適当な嘘をつく。
「何や? 楽しみで寝られなかったんか。小学生みたいな奴やな」
「ちがうって。ちょっと忘れてた仕事を終わらせてただけ……」
なんて、僕ってサイテーだ。
松田さんは今日、休みだから連れてきてくれるって約束していたのに。僕も水族館に来るのは楽しみにしていたのに、直前になって怖くなり、しなくていい徹夜をして、わざとコンディションを崩したんだ。
松田さんは僕を楽しませようと思ってくれたのに。
ほんと、サイテーだろう。
でも、僕がここで子供の頃と同じよう、無邪気に楽しむのはもっとサイテーだ。
だって僕、人殺しなんだから。
「半月も前に予定たてといたのに徹夜仕事とは、スケジュールの詰めが甘いやっちゃなァ」
松田さんは僕の隣にこしかける。
人気の水族館だが、平日なのもあり人はまばらだった。
「有名な水族館や、聞いてたけど、今日は思ったより人少ないんやな」
「ん……そうだね。ここ、日本で数少ないシャチのショーをやってる水族館だけど、都心からはかなり離れてるから……」
「シャチって、アレか。イルカのでっかいやつみたいな……恐竜みたいな口の奴やろ」
「んー……そう、イルカの仲間。でも、恐竜に似てるのは収斂進化、ってやつ?」
「しゅ……なんやて?」
「収斂進化……って知らない? へー、松田さんでも知らないことあるんだ」
「当たり前やろ……いくら博物館で仕事してる、言うても全知全能ちゃうで」
「収斂進化ってのは……」
松田さんはいかにも粗暴で自己中な、極道みたいな見た目のくせに結構インテリで、僕の知らないこともたくさん知っている。
だから、松田さんが知らないことを僕が説明できるのが嬉しくて、つい饒舌になっていた。
収斂進化は、進化の過程でまったくの別種がたまたま似た進化になるということ。
収斂進化で最もバリエーションが多いのは、カニの形態であること。
あまりにカニになる生き物が多いので、「カーシニゼーション」なんて言葉まであること。
シャチはモササウルスという俗に恐竜といわれる生き物の収斂進化ともいえるということ。
それでもシャチとモササウルスは骨格から明らかに相違があるということ……。
気付いたらぶっ続けで話していた自分が恥ずかしくなって、ついうつむく。
「ごめん、なんか熱入っちゃった……けど、そんな感じ」
松田さんはきょとんとした顔で僕を見ていた。
ヤバい。
めちゃくちゃはしゃいでる、って思われたかも。
なんか知識ひけらかしたみたいで、すっごく恥ずかしいし、じっと見てるのやめてほしい。
言いたいことがあるなら、言って――。
「何や、おまえめっちゃ楽しそうやん」
ぱっ、と笑顔になり、松田さんは立ち上がる。
「おまえ、ずーっと仏頂面してるから、具合悪いんかつまらんのかと思っとったけど、楽しそうなら良かったわ。じゃ、行くか」
「え? 行く……って、どこ?」
「だから、珍しいんやろ。ここの、シャチのショー。それなら席とっておかんと、いい場所とられてまう。端っこで見てもオモロくないやろ」
「でも……」
僕が、こんなに楽しんでいいはずがない。
そう、思うけど。
「えぇやん。みんなショーに夢中で、お前のことなんて気付いたりせんよ。それに、ショーは楽しくなるために行くもんやからな」
松田さんが笑うと、そんな気持ちになってくる。
「うん……そうだね」
許されようと思わないし、許してくれるとも思っていない。
だけど、松田さんの前で笑顔になることだけは――。
僕のためじゃない、松田さんのためだから、どうか許してほしいと思う。
水族館が、好きだった。
たくさんの魚がいて、海獣もいて、イルカやアシカのショーがある。
ショーを見るために座席につく人は、これから始まる賑わいを待ち、みな顔がほころんでいて幸せそうだ。
よほど満員の日でなければ、どこかしらに人のあまりいない場所がある。
その場所にいる水槽の暗がりをのぞき込んで、一体どんな魚がいるのだろうと目をこらして見るのが好きだ。
見知った魚の見知らぬ生態の小さな説明文と写真を見比べて、「これがあの魚なんだな」と思ったり、全く知らない魚がぎょろ目でこちらを見ているところを、にらみ返して見るのも好きだ。
ショーもいいけど、給仕タイムを見るのは特に好きだった。
バケツに入った餌を食べさせられるペンギン。粉々の撒き餌を夢中になってつつく熱帯魚。
大きめの水槽では、隅にいる魚にも餌を食べさせるため、ダイバーがもぐって給仕などして、見ている人に気付くと手を振ったりしてくれる。
クラゲのコーナーはだいたい暗がりだが、ライトアップされていることが多い。
薄い青や緑など、ゲーミングカラーに染まったミズクラゲを見ればやはり綺麗だと思う。
ライトアップしてなくても、毒々しい赤い縞模様や瑠璃のような青い口腕を眺めているだけで楽しい。
それに、海の生き物のことは少しだけ詳しいのだ。
専門家ほどではないけど、ギンブナが全部メスだってことくらいは知っているし、ホヤは定住先を見つけたら脳がなくなるのも知っている。
魚類には生まれた時と、その後で性別がかわるのが当たり前だし、チョウチンアンコウの雄なんかは、メスをみつけるとそのまま一体化してメスの一部になったりする。
クジラなんかもすごいんだ、哺乳類なのに1時間も潜水していられる。その時、肺には一切の空気を蓄えない。 下手に空気を蓄えたら、水圧でおかしくなってしまうから、全部の酸素を筋肉と血液とに流し込んで、それで一時間も潜っていられる。
海の生き物に、人間の常識なんて通用しない。
だから海が好きで。海の生き物が好きで。水族館が好きだ。
「おーい、何そんなとこでボーっと座っとんのや」
松田さんが僕を見つけ、ちょっと手をあげて近づいてくる。
人目につかない場所で、ベンチに座っている僕をいぶかしんでいるのだろう。
当然だ。
水族館に行きたいなんて僕が言ったからわざわざ連れてきてくれたのに、僕はさっきから人影に隠れてばかり。
何も、ろくに見ていない。
「んー、ちょっと疲れちゃって。昨日、徹夜しちゃったし」
曖昧に笑いながら、僕は適当な嘘をつく。
「何や? 楽しみで寝られなかったんか。小学生みたいな奴やな」
「ちがうって。ちょっと忘れてた仕事を終わらせてただけ……」
なんて、僕ってサイテーだ。
松田さんは今日、休みだから連れてきてくれるって約束していたのに。僕も水族館に来るのは楽しみにしていたのに、直前になって怖くなり、しなくていい徹夜をして、わざとコンディションを崩したんだ。
松田さんは僕を楽しませようと思ってくれたのに。
ほんと、サイテーだろう。
でも、僕がここで子供の頃と同じよう、無邪気に楽しむのはもっとサイテーだ。
だって僕、人殺しなんだから。
「半月も前に予定たてといたのに徹夜仕事とは、スケジュールの詰めが甘いやっちゃなァ」
松田さんは僕の隣にこしかける。
人気の水族館だが、平日なのもあり人はまばらだった。
「有名な水族館や、聞いてたけど、今日は思ったより人少ないんやな」
「ん……そうだね。ここ、日本で数少ないシャチのショーをやってる水族館だけど、都心からはかなり離れてるから……」
「シャチって、アレか。イルカのでっかいやつみたいな……恐竜みたいな口の奴やろ」
「んー……そう、イルカの仲間。でも、恐竜に似てるのは収斂進化、ってやつ?」
「しゅ……なんやて?」
「収斂進化……って知らない? へー、松田さんでも知らないことあるんだ」
「当たり前やろ……いくら博物館で仕事してる、言うても全知全能ちゃうで」
「収斂進化ってのは……」
松田さんはいかにも粗暴で自己中な、極道みたいな見た目のくせに結構インテリで、僕の知らないこともたくさん知っている。
だから、松田さんが知らないことを僕が説明できるのが嬉しくて、つい饒舌になっていた。
収斂進化は、進化の過程でまったくの別種がたまたま似た進化になるということ。
収斂進化で最もバリエーションが多いのは、カニの形態であること。
あまりにカニになる生き物が多いので、「カーシニゼーション」なんて言葉まであること。
シャチはモササウルスという俗に恐竜といわれる生き物の収斂進化ともいえるということ。
それでもシャチとモササウルスは骨格から明らかに相違があるということ……。
気付いたらぶっ続けで話していた自分が恥ずかしくなって、ついうつむく。
「ごめん、なんか熱入っちゃった……けど、そんな感じ」
松田さんはきょとんとした顔で僕を見ていた。
ヤバい。
めちゃくちゃはしゃいでる、って思われたかも。
なんか知識ひけらかしたみたいで、すっごく恥ずかしいし、じっと見てるのやめてほしい。
言いたいことがあるなら、言って――。
「何や、おまえめっちゃ楽しそうやん」
ぱっ、と笑顔になり、松田さんは立ち上がる。
「おまえ、ずーっと仏頂面してるから、具合悪いんかつまらんのかと思っとったけど、楽しそうなら良かったわ。じゃ、行くか」
「え? 行く……って、どこ?」
「だから、珍しいんやろ。ここの、シャチのショー。それなら席とっておかんと、いい場所とられてまう。端っこで見てもオモロくないやろ」
「でも……」
僕が、こんなに楽しんでいいはずがない。
そう、思うけど。
「えぇやん。みんなショーに夢中で、お前のことなんて気付いたりせんよ。それに、ショーは楽しくなるために行くもんやからな」
松田さんが笑うと、そんな気持ちになってくる。
「うん……そうだね」
許されようと思わないし、許してくれるとも思っていない。
だけど、松田さんの前で笑顔になることだけは――。
僕のためじゃない、松田さんのためだから、どうか許してほしいと思う。
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