インターネット字書きマンの落書き帳
「白い■■と人魚」のおまけ
春Cityで出した「白い■■と人魚」のおまけ的な話を書きました。
この同人誌そのものはトシカイの同人誌で、モブ男×山ガスのBL小説だったですが……。
おまけの内容は、山ガスほとんど出てない、モブ男の独白だけなので、「サークル参加のおまけ小説」として放流します。
作中では「何だこいつ……」な行動しかしてない男の、「なんだこいつ……」っぷりをお楽しみください。
※自死描写があるよ! 気をつけてね!
※異常成人男性だよ!
この同人誌そのものはトシカイの同人誌で、モブ男×山ガスのBL小説だったですが……。
おまけの内容は、山ガスほとんど出てない、モブ男の独白だけなので、「サークル参加のおまけ小説」として放流します。
作中では「何だこいつ……」な行動しかしてない男の、「なんだこいつ……」っぷりをお楽しみください。
※自死描写があるよ! 気をつけてね!
※異常成人男性だよ!
『赤い■■の人魚』
バスタブにぬるい水が溜まる。
男はその音を聞きながら、賛美歌を歌うよう、お気に入りの物語を諳んじていた。
――いつからだろう、男がこんなに人魚姫に焦がれるようになったのは。
どうしてこんなに、この物語に魅せられ、心惹かれたのだろう。
純愛か。失恋か。身を挺して自らの愛を証明した献身か。泡になる散りざまか、それとも――。
――足を奪われ、どこにも行けず、ただ縛られすがるだけの運命か。
「ははぁ……」
男はため息交じりに笑うと、ちらりと、外を見た。
何か、よくない気配を感じていたのは一週間ほど前からだったか。
それが自分の追跡者であるのはわかっていた。
追われるのが当然な立場だということもだ。
はじめて「山田ガスマスク」という人間を見たのは、いつ頃だったろう。
一目見て、あぁ、美しいなと。そう思っていた。
ネット動画という一瞬の娯楽のなかにいるには、すこし影を引きずっているところも。口元を歪め、眉間にしわをよせてくしゃっと笑うところも好きだった。
一目惚れではある。
同時に、虚構を愛し、その愛が届かないのも理解していた。
画面の向こうに愛しい造形の人間がいる。
見ただけで心奪われるほど美しいと思った存在を見ていられるのなら、それだけで幸運だ。
人生において、見ているだけで満たされるほどの宝を見つけることができたのだから、それは十分に幸せなことだろう。
思いをかみ締め、新たな配信を追う。
それだけの日々が、幽鬼のような蒼白いレールを照らしてくれた。
寄り添うことができなくても、遠くで見つめて――自分の愛が届くことのないまま、ただ星のように輝いてくれるだけで良かった。
自分の愛など気付かれず、消えていくだけならいい。
彼が光り輝いていれば――。
「その願いは、かなわなかったけど――」
配信が途絶えたのは、それからしばらく後のことだ。
グループでやっていた配信で、ほかの面々は各々、別のことをして生きていた。
ネットから距離を置くことはなく、配信やSNSでの露出も多かったろう。
そんな中、山田だけは顔を隠して、姿そのものを消してしまった。
――何か、あったのだ。
男はそれを直感し、過去の映像を何度も見返した。
輝いていたはずの星はいつも、どこかぎこちない作り笑いをしていた。
自分を売り込むため、虚構を演じている。
空虚をかかえ、からっぽの心を光らせている。
本当の彼は、このような場に出るような性分ではなかったのだろう。
人付き合いもせず、少ない友人と小さな共同体で趣味について語り合う方が似合いの人間だったに違いない。
それなのに、彼は人前に引きずり出された。
理屈っぽく皮肉屋だがフラットな感覚で、言葉を選び的確に本質を射貫くように振る舞う。そのような玩具としてパッケージされ、配信動画で売り出されていたのだ。
見世物から開放されて、影に潜っても、Webライターという立場で活動を続けている。
表に出なくなったからこそ、その姿を見たいと思い、以前より深く、彼の生活をたどるようになった。
最初はSNSの言動で。わずかなパーツを組み立て、家の場所を知り、身辺調査は探偵を雇う。
わかったのは、孤独と拒絶に満ち、砕けた歯車ばかりだった。
彼は、人を殺したのかもしれない。
男がそれに気付いてから数年後、実際その通りだったことが暴かれた。
裁判の傍聴には幾度も行った。
軽率さが引き起こした事件は大きな渦となり、彼の罪は誹謗中傷の的となった。
刑期を終え、出所した後も、名を変え同じ仕事をしていたようだが、近づくものなどなかった。
彼が住むアパートのドアに貼られた「死ね」という張り紙。
張ったのは、普通に生きていると思い込んでいるだけの、人並みの生活をしているとは言いがたい人間だったことを、男は知っている。
男の宝石は、ままならぬ世の中の鬱憤を晴らすために消費される玩具になっていた。
救い出さなければいけない。
そのような高尚さはなかったが、このまま壊れてうち捨てられるには、彼は美しすぎる。
彼の美しさを理解してない人間に消費され、壊されていいものではない。
粗雑に踏みにじられ、ボロボロにされてしまうくらいなら……。
――どうかその美しい時間を、私の手で飾らせてくれないか。
一日だけ。いや、一秒だけでいい。
キミがどれだけ嫌がり、罵倒し、嫌悪しても、ほんの一瞬だけ。
蒼白いラッピングで、キミを包んで飾れたら、私は一生を終えてもいいから。
「私はね、キミの王子になりたかった。それは、本当なんだ。愛を知らず、人に知られず、傷を背負ったまま泡になるキミを、一瞬でも人魚のまま、とどめていたかった――」
罪であり、エゴであるのも理解した上で、実行した。
思った通り、彼は清らかで冷たく透き通った人魚だった。
理想通りに飾られ、理想通りに憎まれて、理想通りに嫌われる。
そうして王子は退場する。
男の役目はそれだけだった。
「はず、なんだけどねぇ」
足を切り裂いた血が、床に広がる。
人魚姫であるのなら、こうしないと嘘になる。
彼の言葉が幾度も反響する。
彼は、男を愛してなどいない。
信頼はせず、うっすらと憎しみ、うっすらと嫌い、うっすらと気味の悪い存在だと思っている。
わかっていた。男は彼に、好かれるようなことは何一つしていない。
薬で自由を奪い、屈服させるように辱め、体中を貪って、好き放題に蹂躙する。
飾りたいという欲求は、強いエゴだ。
尖ったエゴを貫いたのなら、どれだけの罪を重ねても同じ。
自分は罪深く、救われぬ、人の形をした化け物に成り下がったのだから、彼に何をしてもいい。
多少は自棄になり、実際そのようにした。
それなのに――。
「きみが、君自身で、人魚であることを望んだのは――私の、誤算だったよ」
自分の手で、完璧に飾り付けをしたかった。
いくら着飾らせても、どんな豪奢な待遇を与えても、気に入った絵にはならなかった。
自分では彼の美しさを、少しだって表現できなかったのに、彼は彼自身を最も美しく飾ってみせたのだ。
閉ざされた蒼と白の世界で、赤い鎖に絡まれた彼は――。
「――綺麗だった」
男は微かに笑い、窓へ視線を向ける。
まもなく、警察が乗り込んでくるのだろう。
出たのは逮捕状か、捜査令状か。どちらでもいいし、どちらでも関係ない。
バスタブからぬるい水があふれていたから、男は蛇口を止める。
それから、少し強い薬を飲んだ。
これが効くのは、おおよそ5分。
あとは眠れば、すべて終わる。
服も脱がぬままバスタブにつかり、ぬるい液体に包まれる。
ほどなく微睡みが訪れ、男の瞼を重くする。
このまま、水のなかに引きずられて眠れば、ゆるゆると死ぬのだろう。
――自分は、死に至るだけのことはした。
幕引きに、一切の迷いも後悔もない。
瞼の裏に、蒼白い光に照らされた、壊れそうな笑みが浮かぶ。
――あぁ、彼は本当に綺麗だった。
よかった。それだけで、本当によかった。
私の人生は、あれで完成したのだろう。
神に許されようとは思わない。
救済されるに値しないのは、最初からわかっていた。
それでも、願うことを許されるのなら――。
どうか、この魂のほんのひとかけらでも、彼の中に残り続けられますように。
ただそれを祈り、男は浅く沈んでいった。
バスタブにぬるい水が溜まる。
男はその音を聞きながら、賛美歌を歌うよう、お気に入りの物語を諳んじていた。
――いつからだろう、男がこんなに人魚姫に焦がれるようになったのは。
どうしてこんなに、この物語に魅せられ、心惹かれたのだろう。
純愛か。失恋か。身を挺して自らの愛を証明した献身か。泡になる散りざまか、それとも――。
――足を奪われ、どこにも行けず、ただ縛られすがるだけの運命か。
「ははぁ……」
男はため息交じりに笑うと、ちらりと、外を見た。
何か、よくない気配を感じていたのは一週間ほど前からだったか。
それが自分の追跡者であるのはわかっていた。
追われるのが当然な立場だということもだ。
はじめて「山田ガスマスク」という人間を見たのは、いつ頃だったろう。
一目見て、あぁ、美しいなと。そう思っていた。
ネット動画という一瞬の娯楽のなかにいるには、すこし影を引きずっているところも。口元を歪め、眉間にしわをよせてくしゃっと笑うところも好きだった。
一目惚れではある。
同時に、虚構を愛し、その愛が届かないのも理解していた。
画面の向こうに愛しい造形の人間がいる。
見ただけで心奪われるほど美しいと思った存在を見ていられるのなら、それだけで幸運だ。
人生において、見ているだけで満たされるほどの宝を見つけることができたのだから、それは十分に幸せなことだろう。
思いをかみ締め、新たな配信を追う。
それだけの日々が、幽鬼のような蒼白いレールを照らしてくれた。
寄り添うことができなくても、遠くで見つめて――自分の愛が届くことのないまま、ただ星のように輝いてくれるだけで良かった。
自分の愛など気付かれず、消えていくだけならいい。
彼が光り輝いていれば――。
「その願いは、かなわなかったけど――」
配信が途絶えたのは、それからしばらく後のことだ。
グループでやっていた配信で、ほかの面々は各々、別のことをして生きていた。
ネットから距離を置くことはなく、配信やSNSでの露出も多かったろう。
そんな中、山田だけは顔を隠して、姿そのものを消してしまった。
――何か、あったのだ。
男はそれを直感し、過去の映像を何度も見返した。
輝いていたはずの星はいつも、どこかぎこちない作り笑いをしていた。
自分を売り込むため、虚構を演じている。
空虚をかかえ、からっぽの心を光らせている。
本当の彼は、このような場に出るような性分ではなかったのだろう。
人付き合いもせず、少ない友人と小さな共同体で趣味について語り合う方が似合いの人間だったに違いない。
それなのに、彼は人前に引きずり出された。
理屈っぽく皮肉屋だがフラットな感覚で、言葉を選び的確に本質を射貫くように振る舞う。そのような玩具としてパッケージされ、配信動画で売り出されていたのだ。
見世物から開放されて、影に潜っても、Webライターという立場で活動を続けている。
表に出なくなったからこそ、その姿を見たいと思い、以前より深く、彼の生活をたどるようになった。
最初はSNSの言動で。わずかなパーツを組み立て、家の場所を知り、身辺調査は探偵を雇う。
わかったのは、孤独と拒絶に満ち、砕けた歯車ばかりだった。
彼は、人を殺したのかもしれない。
男がそれに気付いてから数年後、実際その通りだったことが暴かれた。
裁判の傍聴には幾度も行った。
軽率さが引き起こした事件は大きな渦となり、彼の罪は誹謗中傷の的となった。
刑期を終え、出所した後も、名を変え同じ仕事をしていたようだが、近づくものなどなかった。
彼が住むアパートのドアに貼られた「死ね」という張り紙。
張ったのは、普通に生きていると思い込んでいるだけの、人並みの生活をしているとは言いがたい人間だったことを、男は知っている。
男の宝石は、ままならぬ世の中の鬱憤を晴らすために消費される玩具になっていた。
救い出さなければいけない。
そのような高尚さはなかったが、このまま壊れてうち捨てられるには、彼は美しすぎる。
彼の美しさを理解してない人間に消費され、壊されていいものではない。
粗雑に踏みにじられ、ボロボロにされてしまうくらいなら……。
――どうかその美しい時間を、私の手で飾らせてくれないか。
一日だけ。いや、一秒だけでいい。
キミがどれだけ嫌がり、罵倒し、嫌悪しても、ほんの一瞬だけ。
蒼白いラッピングで、キミを包んで飾れたら、私は一生を終えてもいいから。
「私はね、キミの王子になりたかった。それは、本当なんだ。愛を知らず、人に知られず、傷を背負ったまま泡になるキミを、一瞬でも人魚のまま、とどめていたかった――」
罪であり、エゴであるのも理解した上で、実行した。
思った通り、彼は清らかで冷たく透き通った人魚だった。
理想通りに飾られ、理想通りに憎まれて、理想通りに嫌われる。
そうして王子は退場する。
男の役目はそれだけだった。
「はず、なんだけどねぇ」
足を切り裂いた血が、床に広がる。
人魚姫であるのなら、こうしないと嘘になる。
彼の言葉が幾度も反響する。
彼は、男を愛してなどいない。
信頼はせず、うっすらと憎しみ、うっすらと嫌い、うっすらと気味の悪い存在だと思っている。
わかっていた。男は彼に、好かれるようなことは何一つしていない。
薬で自由を奪い、屈服させるように辱め、体中を貪って、好き放題に蹂躙する。
飾りたいという欲求は、強いエゴだ。
尖ったエゴを貫いたのなら、どれだけの罪を重ねても同じ。
自分は罪深く、救われぬ、人の形をした化け物に成り下がったのだから、彼に何をしてもいい。
多少は自棄になり、実際そのようにした。
それなのに――。
「きみが、君自身で、人魚であることを望んだのは――私の、誤算だったよ」
自分の手で、完璧に飾り付けをしたかった。
いくら着飾らせても、どんな豪奢な待遇を与えても、気に入った絵にはならなかった。
自分では彼の美しさを、少しだって表現できなかったのに、彼は彼自身を最も美しく飾ってみせたのだ。
閉ざされた蒼と白の世界で、赤い鎖に絡まれた彼は――。
「――綺麗だった」
男は微かに笑い、窓へ視線を向ける。
まもなく、警察が乗り込んでくるのだろう。
出たのは逮捕状か、捜査令状か。どちらでもいいし、どちらでも関係ない。
バスタブからぬるい水があふれていたから、男は蛇口を止める。
それから、少し強い薬を飲んだ。
これが効くのは、おおよそ5分。
あとは眠れば、すべて終わる。
服も脱がぬままバスタブにつかり、ぬるい液体に包まれる。
ほどなく微睡みが訪れ、男の瞼を重くする。
このまま、水のなかに引きずられて眠れば、ゆるゆると死ぬのだろう。
――自分は、死に至るだけのことはした。
幕引きに、一切の迷いも後悔もない。
瞼の裏に、蒼白い光に照らされた、壊れそうな笑みが浮かぶ。
――あぁ、彼は本当に綺麗だった。
よかった。それだけで、本当によかった。
私の人生は、あれで完成したのだろう。
神に許されようとは思わない。
救済されるに値しないのは、最初からわかっていた。
それでも、願うことを許されるのなら――。
どうか、この魂のほんのひとかけらでも、彼の中に残り続けられますように。
ただそれを祈り、男は浅く沈んでいった。
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