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インターネット字書きマンの落書き帳

   
褪せ人×流浪の商人と楽器のはなし。
エルデンリングではまだ王になれてません。(もはや恒例となった挨拶)

進んでない訳ではないです!
ただ、進んでも「もっとここのダンジョン探索してみよう!」と思ったりして、浮かんでは消えていくルーンを眺めているだけなんです!

という訳で、虚空に向かって今日も何かに語りかけるように、褪せ人×流浪の商人さんを書きました。

流浪の商人さん。
その設定が結構過酷なんだ……というのを理解してきたので、作中にも繁栄していこうとおもいました。(作文)

今回のお話は、流浪の商人はみんな同じような弓を兼ねた楽器をもっている!
けど、その楽器で賑やかな旋律を奏でる事が出来ない流浪の商人さんと実は楽器が弾ける褪せ人さんのお話ですぞい。

流浪の商人さんは細身で背が高いえっちな体型。
オラ知ってるんだな、そういう体はえっちなんだって……。




『幸福はいずれ旋律となり夜を導く』

 焚き火に薪をくべる褪せ人の背に寄りかかりながら、放浪の商人はは弓を鳴らしていた。
 彼ら放浪の民がもつ弓は特殊な形をしており、武器にもなるが楽器にもなる。そしてその音色はどこか陰鬱でもの寂しいような陰気な音を奏でるのだった。

 これは、獣よけでもあり近くに同胞がいるという知らせとしても使われている。
 奏でる旋律が届く範囲に仲間がいるのを知らせると同時に楽器の音が聞こえる場所では商売をしないようにする、というのは彼らの中では暗黙の了解であった。
 これは近すぎる場所に店を出すとお互いを食い潰し兼ねないという懸念からである。

 また、この楽器を売りに出す輩がいたらその相手に必ず報復するように伝えられてもいる。
 放浪をしているにしろ隠遁をしているにしろ、商人である彼らがこの楽器兼武器を自ずから手放す事はない。もし他人がそれを持っているのなら商人を殺して奪ったか死体から奪ったかでありどちらにしても見過ごす訳にはいかない、という訳だ。

 あらゆる意味で放浪の商人を指し示す道具であり、武器であり、楽器なのだ。

「いつも悲しい音色ばかりだなお前は。もっと明るい曲は出来ないのか」

 火の様子を確かめながら、褪せ人はふとそんな事を言う。
 そう言われ、男はつい首をかしげる。明るい曲と言われても、孤独な放浪を続け安らぎなど知らぬ男はそれがどんなものなのか知らなかったからだ。

 放浪の商人は、人々の中で過ごす事は出来ない。
 忌まわしい狂い火を宿している者は流浪の身となる定めであり、男もまた物心ついた時はすでに各地を放浪し安寧とは無縁の生活をしていた。そして世界が半ば崩壊した今をもってしても狂気に逃げ出す慈悲を得られぬまま、危険を承知で各地を彷徨う定めにある。

 放浪の民は生まれもって魂を蝕む狂気を宿している。
 それ故に狭間で暮らす他の弱き民のように絶望に耐えかね狂気に落ちて心を守る事すら許されずにいた。

「そういわれてもなぁ、お得意様。あいにくとこの弓は陰鬱な音しかでなくてね。明るい曲をやろうとしても葬式ですすり泣く縁者のような音しか鳴らないようになってるのさ」

 男はそう告げ、声を殺し笑えば蛙が鳴くように喉が震えた。
 褪せ人はそうやって不器用に笑う男を訝しむように見据える。その顔は彼の言葉に納得しかねているといった様子であった。

「それともこいつを試してみるかい。陰気な音しかしないのが、少し触ってみればあんたにもわかるだろうよ」

 男はそう言いながら弓を手渡す。
 いつも身の丈ほどある剣を担ぎ洞窟でも砦でも己の興味に従って飛び込んではそこにある者を鏖(みなごろし)にするような褪せ人に楽器の心得などないと高をくくっていたのは正直なところだった。不慣れな楽器を少し弾けばその陰鬱な旋律に嫌気がさすだろうとも思っていたのもある。だが褪せ人はなれた様子で楽器を構える。そして優しく踊るように弓を滑らすと、普段男が手にしているものと同じものから出たとは思えないほど、荘厳で美しい旋律を奏で始めた。

  まずは一曲、清らかな聖堂を前に祈りでも捧げたくなるような楽曲を弾けば褪せ人は踊り出したくなるような軽やかな曲や道化師が曲芸をする時のような賑やかな曲などいくつかやってみせる。どれも男の知らぬ曲であり、男では思いつかないような華やかな旋律ばかりであった。

「確かに音は暗いが、明るい曲も出来なくはないな」

 褪せ人はひとしきり楽曲を愉しむと、普段と変わらぬ涼しい顔へと戻り男へ楽器を返す。手渡された楽器と褪せ人を交互に見ながら、男は素っ頓狂な声をあげた。

「何だよ、お得意様。楽器なんて出来たのか。知らなかった……えらい上手じゃないか。どこで習ったんだ?」

 背丈は男より低いが屈強かつ強面とも言える褪せ人の風体と繊細な音楽とはどうにも釣り合わなかったので思わずそう声に出せば、褪せ人は何処か寂しげに笑って見せた。
 まだ世界がこんなにも壊れていなかった頃の事を思い出していたのかもしれない。

「何だ、普段から血を求め狭間を彷徨うような男には楽器をたしなむ教養なんて無いとでも思ったか?」
「そこまでは言ってないだろうが、嫌味な取り方をするねぇあんたは……」
「いや、だがそれも仕方ないか。実際に楽器なんてものに触るのも何年ぶりかはわからないからな。今日久しぶりに弓をとって弾けたのは奇跡みたいなもんさ」

 褪せ人が以前何をしていたのか、男は知らない。
 狭間の地にいる褪せ人は過を語るものなどほとんどないし、流浪の商人である彼らも昔のことをあれこれ詮索するほど野暮じゃないからだ。

 記憶では、褪せ人と初めて出会った時は二本指に使える一派の密使が好むような黒服をまとっていたがその姿もまた正しく褪せ人の過去を示すものとは思えなかった。
 そもそも密使の好む服は流浪の商人らも時たま取り扱っている商品の一つなのだから。

 だが、これだけ軽やかな楽曲を即興で弾けるのなら楽器の手ほどきを受けた事があるのは確かだろう。陽気な曲が流れるのは陽気な街だけ。つまり褪せ人は、かつて賑わいある大きな街で過ごした経験があるということだ。

「上手いもんだよ。世界がこんなじゃなければ、吟遊詩人なんかで喰っていけたんじゃぁないのか」

 男はそう言いながらまた弓をもち褪せ人を真似て弾いてみる。彼と同じように陽気な曲が弾けるのではないかと思ったが、奏でる曲は葬式ですすり泣く女のような音ばかりだった。
 そんな男に背を預けたまま、褪せ人は新しい薪をくべる。湿気ていたのかくべた薪は少しばかり多く煙を出していた。

「なぁに、別に音楽が好きだからやってた訳じゃない。ただ、こういった特技が必要な時があったか必死で覚えたというだけだ。最も今では聞かせる相手もいないのだから無用の長物だろうな」

 褪せ人は煙たそうな顔をし、目を閉じため息をつく。 賑やかな街中で楽器をかき鳴らし雑踏の中にいた頃でも思い出しているのだろうか。
 多くの人々で賑わう街など、放浪の民である男には想像もつかなかった。男にとってのそれは自らの周りでおこるものではなく、遠巻きに眺めるだけのものだったからだ。

「うらやましいな。たとえ一時でも雑踏に祝福されていたってのは……こっちは楽しい思い出なんてろくすっぽないもんでね、賑やかな曲なんて習う機会もなければ聞く機会もなかった。おかげで奏でる旋律はいつもしみったれた曲ばかりになっちまったって訳さ」

 弓を弾き楽器を奏でるが、何度試しても流れるのは棺を墓へと運ぶ葬列のすすり泣きのような音しか出なかった。放浪の旅ですっかり疲弊した心と体とでは歓喜に満ちた音すらも奏でる事が出来ないのだろうか。そう思うと楽器を奏でるのも嫌になってくる。
 放浪はどこまでも放浪の民であり狂気を宿した忌むべき存在なのだ。
 誰かに愛し、愛されるような存在ではないのだと、そう言われているような気になり卑屈になってしまうのだ。

「今となっては意味などない思い出だ」

 褪せ人は手にした小枝を折るとそれを焚き火へ投げ入れる。
 湿気た薪は燃え尽きたのか燻すような煙は消え失せていた。

「意味はなくとも、今もこうして美しい曲を奏でる事が出来るのは良い子とだろう? 俺は即興で賑やかな音色が思いつく経験がすらないからな」

 人生の大半を、馬とともに商売をして過ごしていた。街は遠くから眺めるものであり旅はいつでも孤独だった。
 こんな恨み言を褪せ人に告げても仕方が無いし自分たちが流浪の境遇にあるのもまた褪せ人のせいではない。 むしろ祝福を瞳から失っている褪せ人の境遇はよっぽど流浪の民よりも厳しいとといえよう。

 それでも褪せ人は笑っていた。
 色を失った目をしてもなお今を楽しんでいるかのように。

 そして褪せ人の背にもたれている男を体を包み込むよう抱きしめる。
 突然抱きしめられて驚きはしたが拒む気持ちがなかったのは、心のどこかで褪せ人に抱かれるのを期待していたからだろう。

「どうした、明るい曲が弾けないのに引け目を感じてるのか?」
「そういう訳じゃ無いが……羨ましい、というのは正直な気持ちだよ。俺は、そういうのをまだ知らないから……」
「それなら俺が教えてやる。楽器の弾き方を手ほどきするくらい訳はないし、明るい曲というのがどうにもわからないのなら俺といる時くらいは楽しいと思えるようにしてやるさ」

 褪せ人の大きな手は服の上からも温かく、男の体を確かめるように撫でる。
 彼のもつ戦士の腕は太く逞しく、だからこそ傍にある事で安心することが出来ていた。

 狭間の地は厳しい。正気を失い脳みそが蕩けた人間が徘徊し、肥大した獣は牙と爪を容赦なく放浪の民へも向けるのが日常茶飯事だ。
 そんな狭間で一人ではない夜というのはそれだけで寂しさが薄らぐ。
 共に過ごす相手が背中を守るのにふさわしい褪せ人なら尚更だ。

 それに、男はこの褪せ人の体を良く知っていた。
 男にとって初めての相手であり、それから何度も試されすっかり褪せ人の体に馴染むよう夜の営みを教えられたのだ。すでに褪せ人が極上の心地良さを与えてくれる存在だというのは体の芯で理解していた。
 こんな風に心細い夜には人肌を求め違い慰め合うのが一番だというのもわかっている。

 「俺を誘ってくれるのか? ……期待してもいいんだよな」

 夜に抱かれるのは不安もある。
 闇夜にだけ現れる獣は多く、熱情を交わす合間はどうしても無防備になるからだ。

 だが誘われて断るのに褪せ人の体はあまりにも惜しかった。
 褪せ人が次にいつ来るかはわからないし、二人でいる時はできる限り肌を重ねたいというのが男の密かな本心であったからだ。

 褪せ人は男の折れそうなほどに細い体を抱き、弄ぶと唇で男の口を覆う布を剥ぎとる。

「……今日はそういうつもりではなかったんだが、お前に喜びなど知らないといった顔をされれば与えてやりたいと思うだろう。今、俺がその体に刻んでやる。愛されるという幸福と蕩ける程の歓喜をな。だから次は、今夜を思い出して楽しい旋律を奏でてられるようになっててくれるな」

 男は今し方楽器を扱う褪せ人を見て意外に思ったが、こうして情熱的な言葉を紡ぐ褪せ人を見ると彼にその程度の嗜みがあっても不思議ではないと思った。
 夜に誘おうとする時の褪せ人はいつも詩人のように軽やかな言葉で愛を囁いて見せるのだから。

「そんな物欲しそうな口ぶりだったか、俺は」

 羨んでたのは本当だが、求めていたような口ぶりに聞こえていたら恥ずかしい。
 そう思い上目遣いに褪せ人を見れば、褪せ人は優しく笑って見せた。

「そうじゃない。ただ、俺がお前にくれてやりたくなっだけだ……俺の知る、愛するということ全てをな。だが、お前は受け入れてくれるか? 愛するというのは幸福だ、愛されるのもまた。だが少しばかり不自由なところもある……」

 鼻先に熱を帯びた吐息がかかる。 褪せた瞳は男の姿を慈しむように捉えていた。
 褪せ人にとって男は旅の最中に出会う数多い商人の一人にすぎないのだろう。自分が褪せ人の特別でいられるのは肌を重ね快楽を貪っている時だけだ。
 ずっとそうであり、それ以上の事はないと心のどこかで決めつけていたのだが。

「本気で愛してくれるのか? 俺たちが流浪である事情を知らない訳じゃないだろう。忌み嫌われて疎まれている理由を知らないほど無知でもないだろう。それでも……」

 他の商人たちと同様に男もまた狂い火の病を燻らせていた。
 生まれもって火種を瞳に残していたが故に忌み嫌われて捨てられ、流浪の民として生きるために体に証を刻んでいる。
 王がいた頃も王が不在の今も流浪の身であるのは変わらず、生涯孤独に生きるのを求められているのが流浪の商人たちだ。

 それを知った上でなお褪せ人は、愛そうというのだろうか。
 今まで抱いた時も一時の慰みではなく、いずれ彼の心も欲しいと望んで抱いていたのだろうか。

 期待してはいけない。
 褪せ人はしょせん褪せ人であり流浪の民よりよほど危うい存在だ。不意にいなくなって二度と帰らない事なんてざらにある。
 だから仮に心から愛してくれたとしてもそれは一時の幻惑にすぎず、今日に歓喜があっても明日にはそれが潰えているかもしれないのだ。

 それは褪せ人もわかっているようだった。

「俺の愛なんていつか突然潰えるかもしれない。褪せ人である限り、いつ死ぬかもわからない身の上だからな。だがそれでも、俺といる時くらいはお前に幸せを感じさせたいんだ。それが、俺の幸せでもあるから……だから、その器に注がせてくれ。俺の思いと、熱情を。俺がいない時でもお前が幸福な音を奏でられるように……」

 男はもう、言葉を語るのもじれったくなり褪せ人と唇を重ねる。
 こんなにも愛そうとしている相手を前にして素直な思いを託さない理由などなかった。
 褪せ人もまたそれを拒む事なく受け入れ、彼の体をより強く抱きしめた。

 その夜、男はたっぷりと幸福の味を知る。
 それはいずれ穏やかな旋律となり、狭間の空に響き渡ることだろう。

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東吾
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インターネット駄文書き
自己紹介:
ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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