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インターネット字書きマンの落書き帳

   
蛇と兄と(マダラスの弟・模造ネタ)
マダラスの弟って何者なんだろう……。
なぁ……何者なんだろうな……。

そんな思いを時々、ふっと抱いたりしますね。
それであれこれ思案するというワケです。

今回はそんな思案のひとひらです。
たとえば、蛇に育てられて兄と過していた、何も知らない青年だったのなら。
そんなマダラス弟の話ですよ。




『知恵の果実』

 マダラスの弟は、蛇に育てられた……。
 初めてそれを聞いた時、ヤマムラは単純に比喩として受け取った。

 蛇のように狡猾な狩人に育てられたのだろう。
 その程度にしか思っていなかったのだ。

 だがマダラスに触れ、彼が殆どの会話を理解しないという事やヤーナムに潜む「蛇」がヤマムラの知る蛇と似て非なるモノだと知り、マダラスが本当に蛇に育てられたのだという事を理解した。

 ヤマムラの知るマダラスの弟は、無口な男であった。
 その上に自分の感情を読み取らせまいとするように腑分けの頭巾……それは獣を切り裂いて臓腑を抜き取り肉と骨とに分ける作業で顔に血が飛び散っても問題ないように顔をすっぽりと覆うようなマスクに近いものだったから、何を考えているかも分らなかった。

 僅かに時々「あぁ」「うん」といった短い言葉を発するのとジェスチャーとで何を言いたいのか、何を言っているのかはおおむね伝わるのだったが、本心から何を思って行動しているかはさっぱりだった。

「俺がヤーナムに来た時、マダラスの兄弟はもうあの姿だった。腑分けの装束を身につけ、獣の皮を剥ぎ肉を削ぎ落として売るような生活をしていたんだ」

 マダラスの姿を見ていた事に気付いたのか、ヴァルトールが口を開く。
 その顔は普段つけてるバケツのような兜に覆われており、表情は読み取れなかった。

「蛇に育てられたか? 本当の事は知らんよ。ただ、俺が会った時には言葉を喋る事はなく、送られてくる獣を解体(バラ)す事を生業にしていた。言葉を喋らないからヤーナムの連中はココが悪いのか、遅れてるのか。とにかく普通じゃないといった様子から積極的に近づく奴は居なかったがね」

 ヴァルトールはそう言いながら、こめかみの辺りをトントンと軽く叩く。
 ヤーナムは戦いの末に家族を失ったものも多く、孤児になってからはろくな教養も受けず捨て置かれた子供たちも覆いから、あるいはマダラスもそういった少年たちの一人だったのかもしれない。

「ただ、俺は……何というのだろうな。マダラスの兄弟は別に知恵がないワケではないと、そう思ってはいた。いつも同じ顔、同じ姿をした二人は、ヤーナムの言語とも違う奇妙な言葉で話しているのを幾度か見た事があるからな。こちらの会話は通じないが、こちらの話はある程度なら理解してるんじゃないかと思ってな……」

 ヴァルトールは僅かに天を仰ぐ。禁域の森は作られた月が今日も銀色に輝いていた。

「……蟲の話を聞かせたのは、手持ち無沙汰だったのもあったか。ここに来て誰も俺の言うことに耳を貸そうとはしなかった。ヤーナムの民は閉鎖的だからな、俺のような余所者の。しかも故郷の官憲服を後生大事に着ているような変人の相手なんてする奴ぁいなくてな……俺も誰かに話しを聞いて欲しかったのかもしれんがね」

 そう語るヴァルトールの言葉には、微かな後悔の色が滲んでいた。
 これは懺悔なのだろう。
 まともに取り合ってくれる人間なんて誰もいないから、ただ何者でもない通りすがりの異邦人であるヤマムラに聞いて欲しかったのだろうか。

「それから暫く経ったあとだったよ。マダラスが蟲を箱につめて、俺の前に見せたのは。そして俺の前で、覚悟を決めたように潰したのは……それから、マダラスは連盟の一員として迎え入れる事になった。淀みのカレルもないというのに、蟲に気付きそれを見る事が出来るだから俺にとっては充分な才能だよ。それに……」

 兜の下から、唇を噛みしめる音がする。

「それに、もし知らなければあるいはマダラスは今でも家族と、兄弟と過していたのかと思うと、せめて居場所を与えるのが俺の責務のように思えてな……」

 ヤマムラはマダラスの兄を知らない。
 本当に蛇に育てられたのかも知らないし、その姿を見た事もない。

 だがただ一人でぼんやりと立ち付くすマダラスの寂しげな背中を眺めていると、何とはなしに見えるのだ。

 彼の隣に笑って話せる家族がいたという過去を。
 たとえ蛇でも彼らを自分たちの同胞として迎え入れていた、そんな静かな光景が。

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