インターネット字書きマンの落書き帳
父親と決別する御曹司という概念(BL)
平和な世界線で恋人同士として普通に過ごす占い師×大学生という強めの幻覚を皆様に見て頂くわくわくコンテンツです。(一行でサックリと説明する楽しい幻覚)
模造設定マシマシのマシにしても書きたい話があったので、今回は堂々と模造設定を盛りだくさんにしましたよ。
具体的に言うと「大学生の父親という概念が出る」「大学生の母親という概念がパージしている」「大学生の家庭環境回りの描写が多め」になってますので、設定模造やオリジナルキャラが出張るような話が苦手な人はそっとしておくか、今日から好きになってください!
自分の好みをてんこ盛りにしたので、俺にはとても楽しい作品になっています。
元々「強めの幻覚」の幻覚度数がテキーラ以上の強さになってますが、作者が面白いと思って書いてますので皆さんも今日から面白いと思ってください!
あーあ、もう発言が無茶苦茶だよー!
今回はやりたい放題シリーズ最終回です。
占い師の言葉を背に受けて、実父に直談判をする大学生という概念が出ます。
そもそも大学生の実父という元より深めの幻覚がさらにマシマシになっています。
それまで隠し事や演技で続けていた歪な家庭環境をもつ御曹司という概念が好きすぎるので許して頂きたい。いや、許しなど乞うつもりなら最初から書いてないわ! ガハハ!
以上、pixivにこの作品がいた頃のキャプションでした。
模造設定マシマシのマシにしても書きたい話があったので、今回は堂々と模造設定を盛りだくさんにしましたよ。
具体的に言うと「大学生の父親という概念が出る」「大学生の母親という概念がパージしている」「大学生の家庭環境回りの描写が多め」になってますので、設定模造やオリジナルキャラが出張るような話が苦手な人はそっとしておくか、今日から好きになってください!
自分の好みをてんこ盛りにしたので、俺にはとても楽しい作品になっています。
元々「強めの幻覚」の幻覚度数がテキーラ以上の強さになってますが、作者が面白いと思って書いてますので皆さんも今日から面白いと思ってください!
あーあ、もう発言が無茶苦茶だよー!
今回はやりたい放題シリーズ最終回です。
占い師の言葉を背に受けて、実父に直談判をする大学生という概念が出ます。
そもそも大学生の実父という元より深めの幻覚がさらにマシマシになっています。
それまで隠し事や演技で続けていた歪な家庭環境をもつ御曹司という概念が好きすぎるので許して頂きたい。いや、許しなど乞うつもりなら最初から書いてないわ! ガハハ!
以上、pixivにこの作品がいた頃のキャプションでした。
『蟠り(わだかまり)』
芝浦の父が仕事から戻った時、見慣れぬ靴が玄関に置かれている事に気付いた。
見慣れぬ靴ではあるが見覚えのある靴であるそれは紛れもなく自分の息子である芝浦淳にオーダーで作らせた革靴だ。
一流を思わす外見は交渉時において武器となる。常にそう考えていた男は息子も正しい経営者として育つよう常に一流の身だしなみをするよう指導しており、この靴は教育の一環として買い与えたものである。
息子が来ているのだろうか。
そうは思ったが、男はすぐにそれを否定した。
ここは仕事用に買ったマンションであり普段から自分以外の誰も立ち入る事はない。息子である芝浦淳には当然鍵を預けてあるが彼が来る事はないと思っていたからだ。
男自身、自分たち家族が歪である事を理解していた。
息子である芝浦淳が自分に対して友好的な感情を抱いていないのは知っていたし、自分の前では優等生を演じているのにも気付いていた。
親子の愛情なんてとっくに枯渇していたのだからそれも仕方ないだろう。
だがそれでも男は芝浦家の人間であり、芝浦の下には幾千の従業員がいるのもまた理解していた。彼らの生活を守るため経営者として判断を誤らせるわけにはいかなかったし、もし自分が倒れた時すぐに代替えが効くスペアとしての存在として息子である芝浦淳の果たすべき役割は大きいと、その認識でいる。
大局を見誤り多くの従業員たちを路頭に迷わすような経営者を育てるわけにはいかない。
それが男の経営者としての責任だと思っていた。
「あぁ、オヤジ。帰って来たんだ。おかえり」
そんな事を思いながらリビングへ向えば、ソファーでゴロ寝しながらゲームで遊んでいる息子の姿だった。
勿論、ソファーで寝転がり足を投げ出しながらゲームをする事など芝浦の家では許していない。自室で一人でいる時は自由だが自分の前では決してさせないよう躾けていたはずだ。
「何てザマだ淳。それに言葉使い。お前が俺の事を『父さん』なんて行儀良く呼んでないのは知っていたが少なくとも俺の前ではお前は『いい子』を演じてたんじゃないか。足を降ろせ。そしてすぐ不躾を詫びろ。そうしたら少し躾しなおすだけで許してやる」
男は無表情のまま息子の姿を見下ろす。
だが可愛い優等生の息子はどこか呆れたように笑うと男の方を見た。
「いや、初めてオヤジの別宅に来てみたけど、なーんもないね。不必要なもの全部処分して必用最低限のものしか置いてない。ウチとおんなじだ。良い家は余計なモノをもたない……あまり華美な装飾をごちゃごちゃと置けば成金に見えるからだっけ? かといって普段使いしてる自分の部屋まで徹底して何ももってないなんて、アンタほんとさ……ちょっと頭おかしいよ」
「俺に頭を下げろと言ってるんだ。聞こえなかったのか?」
「聞こえてるけど従ってやるつもりはないって俺の態度見て分らないかな? いいでしょもうさ、俺はアンタと違う。アンタのスペアにも模倣品にもなれない。アンタだって本当は最初からそんな事分ってたんだろ。もう止めようってこんな無駄な事さ」
男は椅子に腰掛けると静かに目を閉じる。
これまで息子に施した教育を振り返っても、指導者としてはまぁまぁの素質ができていると言えるだろう。
だが歳はまだ若い。突然のプレッシャーや環境の変化などに臨機応変な対応ができるかといえばそれは難しいと判断している。
躾も教育もまだまだ足りないと思い完全に支配していたつもりだったがこんなに早く制御を失うとは思っていなかったのだ。
経営者として完成しないうちは子供のように甘やかしこちらに依存させコントロールしていく予定だったのだがこんなにも早く反発するとは。
理由は何だ。息子の成長が思ったより早かったか、あるいは……。
「そんなに『手を切れ』と言われたのがこたえたのか」
男の言葉に、芝浦淳は僅かに動揺して見せる。
使用人の報告から息子の行動に変化があり、それは恋人あるいはそれに近い存在が出来たからだろうと推測したから早めに牽制しておこうと思ったのだが、どうやらすでに『のめり込んでしまった後』だったようだ。
自分の息子が飽き性で享楽主義に見えるが好奇心旺盛で一つの事になるとそればかり見てしまう気質である事は理解していた。それ故に特定の恋人を作らせるのは早いと思って警戒していたのだがこちらの警戒が足りなかったか。
何も言わない息子を見て、男は深くため息をついた。
「まったく、こんな事なら大学でも送迎をつけて監視しておくんだったな。大学のレベルの相手ならお前と価値観が合致する輩などいないだろうと甘く見ていたが、よもや俺に口答えをさせるほど『大切』な相手が出来ていたとは」
そして冷たく笑う。
こうして宣戦布告を申し出た割りに相手の名前を伝えないという事は、相手はおおよそ芝浦家とは釣り合わないような家柄なのだろう。
貧しい育ちをしてきたか、夜の商売で生きている相手か、あるいは……。
思慮を廻らす男を前に、芝浦淳は封筒を投げ出した。
中身を覗けば簡単な略歴と写真がいくつか添えられている。
「それ、俺の彼氏のデータ。名前は手塚……手塚海之。俺より3つ年上の24才で、職業はフリーの占い師。ま、おおよそ芝浦って家に似合わない相手だとは思うよ。根無し草だし、お世辞にもお金持ちの名家とはいえないしね」
あるいは同性か。というのは想像していたが、まさか先に息子の方からそれを宣言するとは思っていなかった。
いきなり出された情報の多さに困惑はするが、そこで判断を鈍らせるような情は持ち合わせていなかった。
「そちらから開示してくるとは思わなかった。が、お前の評価通り、何処の馬の骨か分らない相手に引っかかったものだな」
「そ、我ながらそう思うよ。顔がいいから遊んであげるつもりだったけど、気付いたらハマってたから」
「一気に情報を渡したのは俺の判断を狂わせる為か? だとしたら上策だな。実の息子が無職同然の男にたぶらかされていたと思えば普通の親なら冷静ではいられないものな」
「アンタはその『普通の親』じゃないでしょ? ……情報を開示したのは単純に手塚困らせたくなかっただけ。俺が黙ってれば探偵やら何やら使って手塚の身辺調査とかするつもりだったんじゃないの?」
男は息子の顔を一瞥する。
「信頼されてないとは思っていたが、そこまでとはな。正式に俺の跡取りとして教育するまでそこまで野暮な事をするつもりはなかったが」
「正式に跡取りになる頃に調査されるんだったら、今出しても一緒でしょ」
「一緒じゃないだろう、その頃には切れてる可能性が充分ある。愛だの恋だのといった感情は一時の熱病のようなものだ。今はお前の判断を狂わせているが、3年後、5年後ともなればどうなってるか分らないからな」
男の言葉に、芝浦淳は満面に笑みを浮かべる。
それは、父として接してきた男も見た事がないような朗らかな笑顔だった。
「俺は3年後も5年後も手塚と一緒にいるつもりだから、今見せても全然問題ないでしょ」
迷わず、躊躇わない真っ直ぐな言葉だ。
若いからこそ言えるのだろう。あるいは熱病に浮かされているからこそ出る言葉だ。
それらを幻想としか捉えてなかった男には息子の言葉は薄っぺらく心に響かないものだと思っていた。だが不思議と「そうなるような気がしている」のもまた事実だった。
本当に芝浦淳という男は、3年後も5年後もあるいはその先の人生も隣にこの男を置いているのではないか。すでにその覚悟が互いに出来ているのではないか。
そんな予感がしたのだ。
「言うもんだな……この経歴じゃ、将来的にお前のヒモになりかねんぞ」
「俺はそれでもいいかなって思ってるけど? ……俺が仕事して帰って来て、家に手塚がいてくれるなら会社勤めも悪くないかもね」
「社会に出た事のない学生らしい理想論で気楽な事だ。まぁいいだろう。元々お前の交友に関しては俺の跡取りとして正式な教育をするまではとやかく言うつもりは無かったしな。これでもし俺の跡取りとして教育が始まった時にお前達の関係が破綻していたら、今後一切恋愛なんて下らない感情に振り回されるな。お前のための伴侶も何もかも俺が準備しておいてやる……それでいいなら好きにしろ」
「言われなくても、好きにするつもりだし。この件でアンタの指図は受けないよ」
男は書類をすぐさまシュレッダーにかける。
下手な情報を残しておいては後々厄介になると思ったからだ。
「……いつまでその虚勢が持つか楽しませてもらうとするさ」
「いつまでも持つだろうからずっと楽しんでなって」
芝浦淳はそう言うとさも楽しそうに笑う。
こんな風に笑う息子の顔を見るのはどれくらいぶりだろうと、そんな事を思って見ていた。
「じゃ、俺帰るから。邪魔したね」
そう言い立ち上がる息子の背中に、男は声をかける。
「まて、淳。もう遅いからタクシーを呼ぶ。お前に何かあったらいけないからな」
「急に保護者ヅラするんだ? ……だいじょうぶ、彼氏が待ってるから。送ってくれるって」
「そうか。せいぜい今だけの幸福とやらを噛みしめていろ」
男は小さくため息をつく。
息子が本性を隠して賢く優秀な跡取りを演じていたのは知っていたし、本来はあの調子で話しているのもとっくに気付いていた。
乱れた言葉使いもどこか人を見下すような態度もおおよそ上に立つ者らしくない。男の主義主張からすれば「無様な姿」に思えたが、それでも何処か安心している自分がいるのも事実だった。
本当の姿を見せて話す事が、こんなにも心地よいものであるという事を久しく忘れていたのもあるのだろうか。
「……それとな、淳」
「何だよオヤジ」
「これからもお前は俺の跡取りとして出たくもないパーティに引っ張り出す事はあるだろう。その時はお前の得意な『優等生のお坊ちゃま』の演技を続けろ。だが家にいる時や家族の前では、その無礼で口の悪い他人を見下したような態度のお前で別に構わない。どうせ使用人にはその態度でいるんだろう?」
男の言葉に、芝浦淳はやや意外そうな顔を向ける。
だがすぐに両手を広げて笑うと。
「了解、了解。実は前からオヤジと話す時まで演技しなきゃいけないの面倒くさいし息が詰まると思って他んだよねー。でもね、一応使用人の皆さんには気を遣って労ってるからそのへん誤解しないで欲しいな。これでもプライベートとビジネスの間柄はハッキリ分けて考えてるつもりだから。そのへんは、アンタの教育の賜物ってやつかな」
そう告げてから悪戯っぽくウインクする姿に今は存在しない妻の姿が重なる。
「それじゃ、またね。いつ会えるか分らないけど、たまには家にも帰ってきなよ」
背中を見送った後、男は椅子に腰掛けたまま深くため息をついた。
「そうだな……もっと家に帰って、これからもう少しお前と話をしてみるか……」
そしてそう独りごちる。
大事に育ていた一人息子に突然裏切られたというのに、何故か男は晴れ晴れとした気持ちに満ちていた。
芝浦の父が仕事から戻った時、見慣れぬ靴が玄関に置かれている事に気付いた。
見慣れぬ靴ではあるが見覚えのある靴であるそれは紛れもなく自分の息子である芝浦淳にオーダーで作らせた革靴だ。
一流を思わす外見は交渉時において武器となる。常にそう考えていた男は息子も正しい経営者として育つよう常に一流の身だしなみをするよう指導しており、この靴は教育の一環として買い与えたものである。
息子が来ているのだろうか。
そうは思ったが、男はすぐにそれを否定した。
ここは仕事用に買ったマンションであり普段から自分以外の誰も立ち入る事はない。息子である芝浦淳には当然鍵を預けてあるが彼が来る事はないと思っていたからだ。
男自身、自分たち家族が歪である事を理解していた。
息子である芝浦淳が自分に対して友好的な感情を抱いていないのは知っていたし、自分の前では優等生を演じているのにも気付いていた。
親子の愛情なんてとっくに枯渇していたのだからそれも仕方ないだろう。
だがそれでも男は芝浦家の人間であり、芝浦の下には幾千の従業員がいるのもまた理解していた。彼らの生活を守るため経営者として判断を誤らせるわけにはいかなかったし、もし自分が倒れた時すぐに代替えが効くスペアとしての存在として息子である芝浦淳の果たすべき役割は大きいと、その認識でいる。
大局を見誤り多くの従業員たちを路頭に迷わすような経営者を育てるわけにはいかない。
それが男の経営者としての責任だと思っていた。
「あぁ、オヤジ。帰って来たんだ。おかえり」
そんな事を思いながらリビングへ向えば、ソファーでゴロ寝しながらゲームで遊んでいる息子の姿だった。
勿論、ソファーで寝転がり足を投げ出しながらゲームをする事など芝浦の家では許していない。自室で一人でいる時は自由だが自分の前では決してさせないよう躾けていたはずだ。
「何てザマだ淳。それに言葉使い。お前が俺の事を『父さん』なんて行儀良く呼んでないのは知っていたが少なくとも俺の前ではお前は『いい子』を演じてたんじゃないか。足を降ろせ。そしてすぐ不躾を詫びろ。そうしたら少し躾しなおすだけで許してやる」
男は無表情のまま息子の姿を見下ろす。
だが可愛い優等生の息子はどこか呆れたように笑うと男の方を見た。
「いや、初めてオヤジの別宅に来てみたけど、なーんもないね。不必要なもの全部処分して必用最低限のものしか置いてない。ウチとおんなじだ。良い家は余計なモノをもたない……あまり華美な装飾をごちゃごちゃと置けば成金に見えるからだっけ? かといって普段使いしてる自分の部屋まで徹底して何ももってないなんて、アンタほんとさ……ちょっと頭おかしいよ」
「俺に頭を下げろと言ってるんだ。聞こえなかったのか?」
「聞こえてるけど従ってやるつもりはないって俺の態度見て分らないかな? いいでしょもうさ、俺はアンタと違う。アンタのスペアにも模倣品にもなれない。アンタだって本当は最初からそんな事分ってたんだろ。もう止めようってこんな無駄な事さ」
男は椅子に腰掛けると静かに目を閉じる。
これまで息子に施した教育を振り返っても、指導者としてはまぁまぁの素質ができていると言えるだろう。
だが歳はまだ若い。突然のプレッシャーや環境の変化などに臨機応変な対応ができるかといえばそれは難しいと判断している。
躾も教育もまだまだ足りないと思い完全に支配していたつもりだったがこんなに早く制御を失うとは思っていなかったのだ。
経営者として完成しないうちは子供のように甘やかしこちらに依存させコントロールしていく予定だったのだがこんなにも早く反発するとは。
理由は何だ。息子の成長が思ったより早かったか、あるいは……。
「そんなに『手を切れ』と言われたのがこたえたのか」
男の言葉に、芝浦淳は僅かに動揺して見せる。
使用人の報告から息子の行動に変化があり、それは恋人あるいはそれに近い存在が出来たからだろうと推測したから早めに牽制しておこうと思ったのだが、どうやらすでに『のめり込んでしまった後』だったようだ。
自分の息子が飽き性で享楽主義に見えるが好奇心旺盛で一つの事になるとそればかり見てしまう気質である事は理解していた。それ故に特定の恋人を作らせるのは早いと思って警戒していたのだがこちらの警戒が足りなかったか。
何も言わない息子を見て、男は深くため息をついた。
「まったく、こんな事なら大学でも送迎をつけて監視しておくんだったな。大学のレベルの相手ならお前と価値観が合致する輩などいないだろうと甘く見ていたが、よもや俺に口答えをさせるほど『大切』な相手が出来ていたとは」
そして冷たく笑う。
こうして宣戦布告を申し出た割りに相手の名前を伝えないという事は、相手はおおよそ芝浦家とは釣り合わないような家柄なのだろう。
貧しい育ちをしてきたか、夜の商売で生きている相手か、あるいは……。
思慮を廻らす男を前に、芝浦淳は封筒を投げ出した。
中身を覗けば簡単な略歴と写真がいくつか添えられている。
「それ、俺の彼氏のデータ。名前は手塚……手塚海之。俺より3つ年上の24才で、職業はフリーの占い師。ま、おおよそ芝浦って家に似合わない相手だとは思うよ。根無し草だし、お世辞にもお金持ちの名家とはいえないしね」
あるいは同性か。というのは想像していたが、まさか先に息子の方からそれを宣言するとは思っていなかった。
いきなり出された情報の多さに困惑はするが、そこで判断を鈍らせるような情は持ち合わせていなかった。
「そちらから開示してくるとは思わなかった。が、お前の評価通り、何処の馬の骨か分らない相手に引っかかったものだな」
「そ、我ながらそう思うよ。顔がいいから遊んであげるつもりだったけど、気付いたらハマってたから」
「一気に情報を渡したのは俺の判断を狂わせる為か? だとしたら上策だな。実の息子が無職同然の男にたぶらかされていたと思えば普通の親なら冷静ではいられないものな」
「アンタはその『普通の親』じゃないでしょ? ……情報を開示したのは単純に手塚困らせたくなかっただけ。俺が黙ってれば探偵やら何やら使って手塚の身辺調査とかするつもりだったんじゃないの?」
男は息子の顔を一瞥する。
「信頼されてないとは思っていたが、そこまでとはな。正式に俺の跡取りとして教育するまでそこまで野暮な事をするつもりはなかったが」
「正式に跡取りになる頃に調査されるんだったら、今出しても一緒でしょ」
「一緒じゃないだろう、その頃には切れてる可能性が充分ある。愛だの恋だのといった感情は一時の熱病のようなものだ。今はお前の判断を狂わせているが、3年後、5年後ともなればどうなってるか分らないからな」
男の言葉に、芝浦淳は満面に笑みを浮かべる。
それは、父として接してきた男も見た事がないような朗らかな笑顔だった。
「俺は3年後も5年後も手塚と一緒にいるつもりだから、今見せても全然問題ないでしょ」
迷わず、躊躇わない真っ直ぐな言葉だ。
若いからこそ言えるのだろう。あるいは熱病に浮かされているからこそ出る言葉だ。
それらを幻想としか捉えてなかった男には息子の言葉は薄っぺらく心に響かないものだと思っていた。だが不思議と「そうなるような気がしている」のもまた事実だった。
本当に芝浦淳という男は、3年後も5年後もあるいはその先の人生も隣にこの男を置いているのではないか。すでにその覚悟が互いに出来ているのではないか。
そんな予感がしたのだ。
「言うもんだな……この経歴じゃ、将来的にお前のヒモになりかねんぞ」
「俺はそれでもいいかなって思ってるけど? ……俺が仕事して帰って来て、家に手塚がいてくれるなら会社勤めも悪くないかもね」
「社会に出た事のない学生らしい理想論で気楽な事だ。まぁいいだろう。元々お前の交友に関しては俺の跡取りとして正式な教育をするまではとやかく言うつもりは無かったしな。これでもし俺の跡取りとして教育が始まった時にお前達の関係が破綻していたら、今後一切恋愛なんて下らない感情に振り回されるな。お前のための伴侶も何もかも俺が準備しておいてやる……それでいいなら好きにしろ」
「言われなくても、好きにするつもりだし。この件でアンタの指図は受けないよ」
男は書類をすぐさまシュレッダーにかける。
下手な情報を残しておいては後々厄介になると思ったからだ。
「……いつまでその虚勢が持つか楽しませてもらうとするさ」
「いつまでも持つだろうからずっと楽しんでなって」
芝浦淳はそう言うとさも楽しそうに笑う。
こんな風に笑う息子の顔を見るのはどれくらいぶりだろうと、そんな事を思って見ていた。
「じゃ、俺帰るから。邪魔したね」
そう言い立ち上がる息子の背中に、男は声をかける。
「まて、淳。もう遅いからタクシーを呼ぶ。お前に何かあったらいけないからな」
「急に保護者ヅラするんだ? ……だいじょうぶ、彼氏が待ってるから。送ってくれるって」
「そうか。せいぜい今だけの幸福とやらを噛みしめていろ」
男は小さくため息をつく。
息子が本性を隠して賢く優秀な跡取りを演じていたのは知っていたし、本来はあの調子で話しているのもとっくに気付いていた。
乱れた言葉使いもどこか人を見下すような態度もおおよそ上に立つ者らしくない。男の主義主張からすれば「無様な姿」に思えたが、それでも何処か安心している自分がいるのも事実だった。
本当の姿を見せて話す事が、こんなにも心地よいものであるという事を久しく忘れていたのもあるのだろうか。
「……それとな、淳」
「何だよオヤジ」
「これからもお前は俺の跡取りとして出たくもないパーティに引っ張り出す事はあるだろう。その時はお前の得意な『優等生のお坊ちゃま』の演技を続けろ。だが家にいる時や家族の前では、その無礼で口の悪い他人を見下したような態度のお前で別に構わない。どうせ使用人にはその態度でいるんだろう?」
男の言葉に、芝浦淳はやや意外そうな顔を向ける。
だがすぐに両手を広げて笑うと。
「了解、了解。実は前からオヤジと話す時まで演技しなきゃいけないの面倒くさいし息が詰まると思って他んだよねー。でもね、一応使用人の皆さんには気を遣って労ってるからそのへん誤解しないで欲しいな。これでもプライベートとビジネスの間柄はハッキリ分けて考えてるつもりだから。そのへんは、アンタの教育の賜物ってやつかな」
そう告げてから悪戯っぽくウインクする姿に今は存在しない妻の姿が重なる。
「それじゃ、またね。いつ会えるか分らないけど、たまには家にも帰ってきなよ」
背中を見送った後、男は椅子に腰掛けたまま深くため息をついた。
「そうだな……もっと家に帰って、これからもう少しお前と話をしてみるか……」
そしてそう独りごちる。
大事に育ていた一人息子に突然裏切られたというのに、何故か男は晴れ晴れとした気持ちに満ちていた。
PR
COMMENT