インターネット字書きマンの落書き帳
あらいくんを監禁犯から助けてあげようその7
自分でもこんなに長くなるとは思っていなくて少しひいてます。(挨拶)
でも、逆に「どうしてこの話が短く終わると思ったの?」って気持ちもありますね。
短くなる訳ねぇんだわ!
開き直って脳に存在する話を一通り書く事にしました。
一通り書いてもそれが全体ではないのがなかなか残念だし、多分このブログで書いた奴が一番短くまとまった話になるのが我ながら怖いですね。
天才過ぎて怖い。(ポジティブ)
今回の話は……日野先輩視点。
館の主は「絶対にクロだろ」と確信しているけど向こうがボロを出してくれないかな……と窺っている最中、館の主から「シンドーっている?」と声をかけてくる話です。
<前回までのあらすじ>
荒井くんは記憶を操作した上で自分の事を「兄さん」と呼ばせたい変態に捕まっていた。その変態は荒井くんに恋人がいるのをにおわせられただけでぶち切れて拷問虐待DV彼氏へ変貌していた。
いっぽう鳴神学園の生徒たちは「館の主やべぇだろ」という方向で荒井くんを助けに行った。館の探索をする坂上くんと綾小路さんは隠し部屋を見つけ、マジで荒井くんが犯罪に巻き込まれてドン引きしてたら館の主に閉じ込められてしまった。
<俺の楽しい要素>
・基本的にすべて新堂×荒井が前提で話をしている
・新堂の荒井に対する感情も荒井の新堂に対する感情もクソデカ
・黒髪で長身痩躯の美形な男が荒井くんを監禁拷問する変態(たぶん浪川大輔の声帯)
・智将の日野さんが今回の計画を全て立てている
・岩下さんはキモが座っている
・新堂さんの暴力を真似したらいけない
・監禁も拷問も法に触れるからよいこはやったらいけないぞ!
そろそろ終わるような気がする!
俺も頑張るから読んでる皆さん(いるのかな)(いるのだろう)も頑張って生きましょう!
でも、逆に「どうしてこの話が短く終わると思ったの?」って気持ちもありますね。
短くなる訳ねぇんだわ!
開き直って脳に存在する話を一通り書く事にしました。
一通り書いてもそれが全体ではないのがなかなか残念だし、多分このブログで書いた奴が一番短くまとまった話になるのが我ながら怖いですね。
天才過ぎて怖い。(ポジティブ)
今回の話は……日野先輩視点。
館の主は「絶対にクロだろ」と確信しているけど向こうがボロを出してくれないかな……と窺っている最中、館の主から「シンドーっている?」と声をかけてくる話です。
<前回までのあらすじ>
荒井くんは記憶を操作した上で自分の事を「兄さん」と呼ばせたい変態に捕まっていた。その変態は荒井くんに恋人がいるのをにおわせられただけでぶち切れて拷問虐待DV彼氏へ変貌していた。
いっぽう鳴神学園の生徒たちは「館の主やべぇだろ」という方向で荒井くんを助けに行った。館の探索をする坂上くんと綾小路さんは隠し部屋を見つけ、マジで荒井くんが犯罪に巻き込まれてドン引きしてたら館の主に閉じ込められてしまった。
<俺の楽しい要素>
・基本的にすべて新堂×荒井が前提で話をしている
・新堂の荒井に対する感情も荒井の新堂に対する感情もクソデカ
・黒髪で長身痩躯の美形な男が荒井くんを監禁拷問する変態(たぶん浪川大輔の声帯)
・智将の日野さんが今回の計画を全て立てている
・岩下さんはキモが座っている
・新堂さんの暴力を真似したらいけない
・監禁も拷問も法に触れるからよいこはやったらいけないぞ!
そろそろ終わるような気がする!
俺も頑張るから読んでる皆さん(いるのかな)(いるのだろう)も頑張って生きましょう!
『corroboration』
坂上たちもそろそろ戻ってくる頃合いだろうか。俺はスマホで時間を確認し辺りの様子をうかがっていた。
庭の中でも特に大きな木の下で物憂げな表情を浮かべながら立つ岩下を時田は熱心に撮影している。 あくまで撮影はフェイクであり本来の目的は洋館の捜索、そして荒井がいたのならその保護ではあるのだが演劇部の部長であり鳴神学園でもその美しさを語るものは多い岩下の姿を撮影出来るチャンスなど滅多にないことだ。時田の撮影にも随分と熱が入っているように見えた。
「やぁ、精が出るねぇ」
そうして熱心な撮影を続ける俺たちに館の主が声をかけてくる。 先ほどから何度か洋館に出入りしていると思ったが、ガーデンテーブルの上にはティーポットと焼き菓子が並んでいた。
「よかったら少し休憩しないかい? お茶を煎れてきたんだけれども」
館の主は穏やかな笑顔を向ける。柔らかな口調や紳士的な物腰に一切の悪意も敵意も感じないが果たしてあちらの真意はどこにあるのだろうか。
お茶の準備が出来たという声のあと、集まった皆の視線が一斉に俺へと向けられる。新堂の視線からは露骨に「おい日野、どうするんだ」という訴えすら感じた。
確かにここまで準備されて「撮影中だから後にします」とは少し言いづらい。丁重に皿に並べられた焼き菓子は断れば破棄されてしまうのは明白で、それがまた断れない空気を作っていた。
「……そうだな、皆。せっかくのご厚意だ、ありがたく受け取っておこう」
俺は皆にそう声をかける。
だが口ではそう言うが慌てて書いたスケッチブックを開き「食べ物・飲み物には手をつけないように」と、館の主に見えないうよう皆へと見せておく。
お茶は飲んだふり、お茶菓子は手をつけないでおいた方が絶対に良いだろう。この男、人の良さそうな顔をして何をしてくるのかわからないのだから。
皆はそれを見て静かに頷いてみせた。
俺は、この主を限りなく「クロ」だと思っている。
荒井が行方不明になりスマホにあのメッセージが残されていたのを知った後、俺は自分なりの伝手を頼って館について調べてみた情報がそう警鐘をならしているのだ。
いくつか調べた限り、ここは別荘地で人の出入りは激しく館のオーナーもコロコロと変わるような場所のなかで唯一この館はオーナーがかわっていないことを知った。だが長らくオーナーが変わっていないというのに、周囲からは良い噂も悪い噂も何も出てきていないのだ。
普通に生きていて周囲の誰からも何の評価もない……誰からも知られていない、というのはかえって妙な話じゃないか。人間は普通、一人では生きていけないのだ。買い物にも行くだろうし趣味の集まりなどに顔を出すことだってあるだろう。別荘地に住んでいたとして長らくそこにいるのなら地元の人間に顔を知られていても不思議ではない。
だが男はそういった事が一切ないのだ。
それに、登録情報を信じるのならこの館の主は現在70を過ぎた老人のはずである。独身で身内もいない老人が一人で住んでいる……書類上はそうなっているのだが、いま目の前に現れた男はどう見たって老人には見えない。せいぜい30代前半かいっていても半ばくらいの歳だろう。
周囲に人のいない別荘地に住む。辺りの人間に名前すら知られていない。書類上は老人が住んでいる事になっている建物に住む壮年の男。
これがどれか一つなら「そんなこともあるだろう」で済むかもしれないが、このような正体不明の情報が三つも存在している時点でかなり怪しい人物だと言えるだろう。
おまけのこの洋館はさして広くないのだが窓の位置や間取りなど傍目に見ても不自然なところが多い。 二階の窓の高さが極端に違ったり、必用があると思えない格子がついていたりとまるで牢獄のような建物になっているのだ。
この建物が建てられた当初の写真と見比べれば一目瞭然なのだが、昔は窓に格子などついてはいなかったし二階の窓が不揃いな状態でも無かったからどこかのタイミングで改築されたのだろう。
とはいえ、ただ単純に怪しいというだけで騒ぎをおこせば不利なのは俺たちだ。
学生という身分で妙な動きをすればすぐさま学校へ報告され、下手すれば退学にだってなる。もっと非道ければ警察のお世話にもなり、そうすれば人生に圧倒的な不自由さが加わってしまうだろう。
だからこそ、俺は確証が欲しかった。
俺たちが多少暴れても許されるような確証、この男が荒井を誘拐し、監禁しているであろう確証がだ。
坂上が荒井をつれて戻ってきてくれればそれが一番なのだが、あいにく坂上はまだ戻ってきていない。
それにこの館の主にも思惑があるようで、撮影しながら様子を見ているがほとんど隙を見せないのだ。
何か少しでも隙があれば良いのだが……そう、わずかなきっかけでもあれば……。
「ところで、君たちの中に『シンドウマコト』って人はいるのかな」
お茶を準備しながら、館の主は不意にそう聞いてきた。
俺たちは一瞬、お互いの顔を見合わせる。
相手に名前を知られたくないと思ったから、すでに館の主から名前を知られている時田意外はこれまで誰も名乗っていなかったはずだ。
だが館の主は新堂のことを指名してきた。これが突破口になるかもしれない。
俺は新堂に目配せすると、新堂もまた小さく頷いて見せた。
そして一歩、前に出る。すると館の主は嬉しそうな笑顔を向けた。
「へぇ……きみが、シンドウ……マコトさん、か」
館の主と対峙する二人を横に、他のメンバーはガーデンテーブルへと向かう。茶を勧められたのだからあまり不自然な動きをする訳にはいかないからだ。 だがそれがわかっていても俺の視線は自然と館の主へと向かっていた。
「荒井くんから君の名前を聞いていてね。素敵な人だという話だから少し気になっていたんだよ。今日、来てるとは思わなかったけど会えて光栄だな」
荒井から名前を聞いたというのは嘘ではないだろう。だが荒井が自然な話の流れで新堂の話をするとは到底思えない。
荒井にとって新堂の話はそれほど大事なものなのだ。
だがこの男は荒井から新堂の名前を聞いていると言った。それはおそらく、普通の方法ではないだろう。
荒井にとって新堂との関係は周囲に隠しておきたいモノである……というのも当然あるのだが、それ以上に荒井の独占欲が新堂の話をすすんで人にしない理由だろうと俺は思っていたからだ。
新堂とすごす何でもない日常の風景であってもすべてを自分の心だけに留めておきたい。
自分が話す事で他の誰かのなかに「自分しか知らない新堂誠の姿」が出来てしまうのは極力避けたいと思うのが荒井昭二という男なのだ。
……だからこの男が新堂を知っているというのなら、それはもう充分な確証だ。
男を前に、冷たい視線を向ける。 その視線を受け、男は大げさに肩をすくめて見せた。
「あぁ、そんな怖い顔しないでくれるか? ……でも、驚いたよ。シンドウさんがまさかこんなミステリアスな美人だなんて……」
男がそう言うと、「新堂と呼ばれて無言で一歩前に出た」岩下は長いため息をつく。
やはり、そうだ。この男は「新堂誠」の名前しか知らない。荒井から名前しか聞いてないから、俺たちの誰が新堂なのかわからなかったのだろう。
そうじゃなければ、「新堂誠」と言われ一歩前に出ただけの岩下を新堂と間違えるはずがないのだ。そしてこれは、俺が待っていた男の「隙」をつく絶好のチャンスだった。
「……何を勘違いしているのかしら」
岩下は男に冷たい笑みを浮かべ、嘲るように見据える。
元より他者に近づきがたいような威圧感を与える岩下が挑発するような笑みを浮かべ意図的に相手の心を抉るような視線を向けているのだから気の弱い人間だったら卒倒していただろう。
男も岩下の様子がおかしいと思ったのか、一歩後ずさっていた。流石岩下、他人を威圧する事に関しては天性の才能すら感じる。実際、ただ遠目に見ているだけの俺でも正直すこし怖いくらいだ。
「何だ……君が、シンドウさんじゃないのか? 今、名前を呼んだ時に君が前に出てきたからてっきり……」
「ねぇ、あなた。荒井くんとどんな話をしたの? ちゃんと話をしていたのなら、新堂くんが男なのか女なのかくらいは聞いてるでしょう? 女の私を新堂くんと間違えるなんて、さすがにおかしいんじゃなくて?」
「!? ……マコトというのは、男の名前だったのか。確かに男にもある名前だが……」
「ふふ……新堂くんなら後ろにいるわよ。振り返ってごらんなさいな……でも、ちゃんと顔を見れるかしら? 彼……とっても怒っているから」
男はそこでようやく自分の背後にいる人の気配に気付いたようだった。
新堂だと勘違いして近づいた岩下へ視線が向いていた、この隙に新堂は館の主がもってきたティーポットをすでに振りかぶっていたのだ。
「よォ、おっさん。俺が新堂だぜ……最も、覚えなくてもいいけどなぁ!」
振りかぶったティーポットをそのまま男の頭に振り下ろす。陶器が割れる鈍い音と中の湯が全て男の頭へとぶちまけられる音がした。
うーむ……紅茶の抽出温度は90度以上だったか? だとしたらあのポットはだいぶ熱くなっているかもしれないが……そもそも陶器で頭を殴って大丈夫なものだろうか。
まぁいいか、新堂がしたことだし。
男は突然頭からお湯をぶちまけられその場に膝をつこうとしたが、さらに新堂は追い打ちをかけるよう腹のあたりに横蹴りを喰らわす。 その衝撃が随分とあったのか、男の身体はすこし宙に浮くと派手に後ろへひっくり返ってしまった。
……人間って、本気の蹴りを入れるとゴムボールみたいに飛ぶんだな。
俺はそんな事を思いながら新堂へ走り寄った。流石にこれ以上やらせたら相手を殺しかねない。相手もたぶん犯罪者だが、こっちまで犯罪者になるのはまずいだろう。 陶器のポットで頭を殴った時点でヤバかったかもしれないが。
「これ以上は流石にやめておけ、新堂。相手が死んだらどうしようもないだろう。おい、時田! 何か縛るものもってこい……このまま確保するぞ!」
俺の声で時田は荷物からロープを取り出しそれをもって駆け寄る。
そんな俺を前に、新堂はどこか虚ろな目をしたまま言った。
「止めんなよ日野……これからもっと面白い時間だろうが……」
相手を殴っても殴り足りないというのは本音なのだろうが、どこか浮ついた様子が見えるのは荒井の無事がまだ確認出来てないからだろう。
この男の口から新堂の名前が出ている限り、この男が荒井とかなり長時間話していたのは間違いない。荒井が簡単に新堂の話をするとは思えないし、するのなら無理矢理に口を割らせた可能性が高いからだ。
だからここで男を拘束してもさして問題にはならないという確信はあるのだが、それでも荒井自身がどうなっているのかは早く確認がとりたいところだ。
そう思っていた俺のスマホが震える。 見れば坂上から着信が入っていた。
「どうした、坂上」
「日野先輩ー、助けてください~! あの、二階に閉じ込められてて! 隠し扉が閉められて、荒井さん記憶喪失みたいで! あっ、そうだ。そいつ新堂さんの事探してるみたいで! 僕がうっかり新堂さんのこと喋っちゃったから……とにかく急いで大変なんです!」
坂上はまとまりのない言葉を一気にまくし立てる。きっと坂上の方でも色々あって混乱しているのだろう。
「大丈夫だ、こっちは終わった。それより、そっちは大丈夫なのか? ……荒井はいたんだな? 無事なのか?」
「荒井さんはいました! でも、ひどい怪我で……それに、僕たち二階に閉じ込められているんです! 日野先輩、早く助けに来てください~」
俺は一度通話を終えると皆の方を見る。
「今、坂上から連絡があった。荒井が見つかったそうだが、随分と怪我をしているらしい……だから岩下はすぐに警察と救急に連絡をしてくれ。時田は縛り付けたその男を見張っていろ。何をするかわからないから、あんまり近づいたりするなよ。新堂は、俺と洋館に入るぞ。坂上たちが閉じ込められたみたいだからな」
そしてそれぞれに指示をして洋館へと向かった。 時田と岩下の二人だけで男の見張りをさせるのは心許ない気持ちもあったが新堂が暴走したらあの二人だけでは止められない。何か間違って男を殺したりしたらそれこと一大事だ。
それなら男と離した方がいいだろうし、新堂も荒井の姿を見るまでは心配だろう。 坂上の言う「記憶喪失」という言葉は少し引っかかる所だが……。
「いってらっしゃい、日野くん。心配しなくとも、逃がしはしないわよ」
岩下は冷たく笑うと劇の小道具だというナイフを男へと突きつけた。小道具だから偽物だとは思うのだが鋭い切っ先は鈍く光っている。
時田はうなだれる犯人を興味深そうにカメラにおさめていた。
……二人だけなのは心配だが、この二人なら何となく大丈夫だろう。
俺はそう思い、新堂をつれて館へと向かうことにした。
「二階の書斎みたいな部屋にある本棚の本を正しい順番で入れると隠し扉が開くんですよぉ~」
坂上に連絡し、やや要領を得ないところは綾小路に変わってもらいつつ二階の書斎を言われた通りの順番で本を入れると本当に本棚がスライドし隠し扉が現れたのは感動した。
所得隠しをする金持ちを捜査するといった内容の映画でとんでもないカラクリをもちいた隠し部屋が作られているシーンは見た事があったがまさか本当にこんな隠し部屋を作る奴がいるなんてな。 中に隠しておくのが金か、誘拐してきた男子高校生かで犯罪の度合いもまた違うのだろうが。
「日野先輩~!」
扉を開けたらすぐに坂上が泣きそうになって飛びついてきたのを見た時は普段通り変わらぬ姿につい微笑んでしまったが、そのすぐ後に綾小路がシーツにくるんだ荒井を抱きかかえて出てきたのを見て流石の俺も驚愕した。
抱えたシーツから強い血のにおいがしたのもあるが元より色白の荒井の顔色がますます悪くなっており死んだように眠っていたからだろう。
「あの男に閉じ込められた後、荒井くんが非道いパニックをおこしてしまってな……坂上くんと落ち着かせようとしていたら連絡が遅くなってしまった。悪かったな……最も、ここに新堂が来ているのなら大事なかったという事だろうが」
綾小路は抱えている荒井を新堂へ自然と受け渡す。新堂も特に文句など言う事もなく荒井の身体を抱きかかえると何も言わず静かにその身体を強く抱きしめ、額を重ねる。
何も言ってないが綾小路も思う所はあったのだろう。少なくとも荒井を抱えている状態なら新堂が無茶をする事はないとも思ったのかもしれない。
俺たちは歩きながら軽く違いの情報をすりあわせをした。
綾小路は隠し部屋に荒井が閉じ込められていた事やひどい有様ですぐにでも病院に連れて行かなければいけない程衰弱していた事、館の主が新堂を探していたことなどを告げる。
俺たちも館の主がこちらに来た事ことや岩下を新堂と勘違いしていたこと、すでに館の主は新堂がぶちのめしている事と警察や救急の連絡が住んでいる事を説明した。
「すいません、日野先輩も新堂さんも……僕がうっかり新堂さんの名前を口にしたから皆さんが危険な目に……」
坂上はうなだれていたが結果としてそれで危険人物を確保できたのだから問題はないだろう。少々暴力的な解決になってしまったが、今の荒井を見れば決してやり過ぎとも言えないはずだ。言えないだろう。言えないといいんだが……。
大丈夫だよな、陶器が割れる程頭をかち割ってしまったが。
「戻ったのね日野くん」
「あの男、気付いたみたいですよ」
俺たちが庭に出た時、まだ警察も救急も到着はしてないようだったが椅子に縛り上げた男は意識を取り戻したようだ。 一応は生きていたらしく、正直ほっとする。
ポットのせいで頭から血は流れている上そこそこ熱い湯に振れ若干肌も赤くなっているがこちらを憎々しげに見つめる姿を見る限りは命に別状はなさそうだ……等と思っていたら新堂が椅子の背もたれを蹴って男の前に凄んでいた。
「やっとお目覚めかテメェ……テメェ、自分が何したかわかってんのかおい?」
うーん、腕に荒井を抱えていれば無茶はしないだろうと思っていたが軽く蹴飛ばすくらい日常生活の一部みたいな新堂には些細な事にすぎなかったか。
「おい新堂、あんまり無茶をするな! ……荒井は怪我してるんだからな」
俺がそう声をかけると、新堂は納得していないが仕方ないといった様子で男を睨み付ける。
そんな新堂の姿を。もっと正確に語るのなら、荒井を抱きかかえる新堂の姿を見ると館の主はどこか諦めたような顔をし長く息を吐いた。
「あぁ……そうか、まだ高校生のガキどもなんかもっとチョロいと思ってたんだが油断したなァ。このくらいの人数、どうとでもなると思ってたのが敗因か?」
「はぁ? ごちゃごちゃ言ってんじゃ無ぇぞテメェ。最初からテメェは負けてんだよ。スポーツでも何でもよ、ルールを守らねぇで得たモンなんて簡単に崩れちまう。その先に道なんて無ぇことくらい当然だろうが」
珍しく新堂がまともなことを言ってるが、そう言いながら椅子の背もたれをガツガツ蹴飛ばしているのはやはり頂けない。
新堂、ステイ。と思っていたら俺の思いが通じたのか、綾小路が止めた。すまん綾小路。流石の俺も狂犬スイッチが半分入りかかっている新堂はちょっと怖いんだ。
一方の男は椅子を蹴られてもさして驚いた様子は見せず、ただ荒井の姿だけを見ていた。
「荒井くんのことはね、ひとめ見て気に入ったんだよ。綺麗な顔をしていると思った。僅かに話しても高い知性を感じた。それと強い好奇心もね……理想的な存在だと思ったよ。青年と少年の揺らぎにあるあどけなさとたくましさ……その年頃の少年は一番よい時期だと言われているが、一目で衝撃を受けるほど僕の心を揺さぶるほどの存在なんて本当に一世紀ぶりだったから……どうしても、手元に欲しいと思ったんだ」
男はぼそぼそとつぶやくように語る。 独り言のようだが、独り言にしてはやけに大きい。だが人に聞かせるには随分と偏った愛を美しい声で語り続けるのだ。
なまじ美しい声だからこそ、言っている内容のおぞましさも囀りのように聞こえてしまう。だが男のそういった美しい声も顔立ちもどこか作り物のように思えた。
「だけど荒井くんがその美しさでいられるのはあと何年だろうか。1年? 2年? あるいはもっと短いのかもしれない。そう、あと半年くらいで急激に背が伸びるかもしれないし声変わりもするんだろう。そうしたらその美しさが少しずつ枯れ果ててしまう……だけど、僕ならもっと長くそのままにしていられる。あと1世紀はその姿の荒井くんを保っていられるんだ。なぁ新堂くん。君の元にいたらいずれ老いさらばえて枯れ果てる花なんだが、僕に預けたらずっと美しいままだ。だから僕の手元にあったほうが良いと思わないか。確かにそれは彼は幸せではないだろうが、その方が世界のためだよ……美しいものをより長く芸術として存在させられるのなら……そのほうが世界にとってずっといい」
やっぱり犯罪に手を染める人間は頭のどこかがおかしいか倫理観が狂っているのだろう。その模範例みたいな事をさも当然のようにまくし立てる男に新堂は返事などせずただ椅子の背もたれを蹴飛ばした。
それを綾小路も止める様子もなかったが、その時は俺も「こいつは蹴飛ばした方がいい」と思ったから当然だろう。
「……あなた、バカなの? 花の美しさを留めても心を縛ろうとすることなんて誰にも出来ないことくらいわかっているでしょう。心を縛りつけようと自分の手元におくなんて、人形遊びと大差ないじゃない」
岩下は吐き捨てるように言う。
男は岩下を一瞥すると、また長く息を吐いた。
「そうだよねぇ、理解されると思ってないよ。僕も……あぁ、できれば心も僕へ向けてくれたのならもっと満たされていただろうけれども、それが出来なかった上、これから育てようとした花を奪われてしまったのだから完全に僕の負けだ。こんなの負け犬の遠吠えだよ。無様だなぁ、本当に無様だ……だけど僕は無様だが引き際は心得ているんだよね」
その時、男の手が僅かに動く。 ただ縛っただけで男のポケットなどは確認していなかったが何かもっているのだろうか。
「みんな、そいつから離れろ! ……そいつ、何かもってるぞ!」
俺はその時、男が自害するのだろうと思っていた。だから本来は男を止めるように言うべきだったのだろう。
だが男がもっているのがもし毒の塗られたナイフだったら、うかつにこちらが切りつけられたら仲間の誰かが死ぬかもしれない。 その思いが「離れろ」と言わせ、俺の言葉に気付いた皆は男から距離を取る。
「……僕を追い詰めるよう計画を練ったのはそこのメガネの君かい? 君に感謝するよ。この負け犬に最後くらいちょっとはマシな終わり方をさせてくれてありがとう」
男はこの状況に不似合いなほどの笑顔を見せるとポケットから銀色の何かを取り出す。
それはかなり大きな針のようにも見えたしアンプルのようにも見えた。それを自分の太腿に突き刺した時、男の身体はびくりと跳ね上がると突然虚空を向いた。
目を見開き口を呆けたように開け暫くその場で藻掻き苦しんだ後、男の身体がどろりと液状化していくのだ。 銀色の粘りが強い液体になり皮も骨も内臓もすべてとろけていく男の姿を俺たちはただ黙って見つめていた。
液状化し消えていく人間。そんなあり得ない光景を、俺たちはただ見つめる事しかできなかったのだ。
遠くからサイレンの音が聞こえてくるころ、男の身体はすべて溶け土へと還っていた。
まるで最初からそんなもの、どこにもいなかったかのように。
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