インターネット字書きマンの落書き帳
もう少し背が伸びたいあらいくん概念(しんあら・BL)
平和な世界線で普通に付き合ってる新堂さんと荒井くんの話をしてます。
(挨拶を兼ねた強めの幻覚の説明)
背が低い事が少しコンプレックスになっている荒井くんの話です。
今回は第三者と話す荒井くんという概念です。
図書館で本棚の高い場所にある本が取れず苦労している荒井くんを見つけて本を取ってあげたら新堂さんと付き合っているのろけ話を滅茶苦茶される上、「これ以上僕に近づかないでください」と釘を刺される話ですよ。
振られ夢小説か?
と思うが僕は「推しCPの当て馬として現れ踏みにじられて推しCPが幸せになるならそれでいい」という俺の屍を超えていけおじさんなので、そういう要素があっても許してください。
あぁ~。
推しCPに踏み台にされ推しCPに幸せになってほしいんじゃ~。
なお、当方は荒井くんは160cmくらいから背が伸びないだろう。
どうか伸びないでくれと祈っている派の「背が低くて華奢だけど身体は雄の荒井くん」が好きなタイプの人間です。(自己紹介)
(挨拶を兼ねた強めの幻覚の説明)
背が低い事が少しコンプレックスになっている荒井くんの話です。
今回は第三者と話す荒井くんという概念です。
図書館で本棚の高い場所にある本が取れず苦労している荒井くんを見つけて本を取ってあげたら新堂さんと付き合っているのろけ話を滅茶苦茶される上、「これ以上僕に近づかないでください」と釘を刺される話ですよ。
振られ夢小説か?
と思うが僕は「推しCPの当て馬として現れ踏みにじられて推しCPが幸せになるならそれでいい」という俺の屍を超えていけおじさんなので、そういう要素があっても許してください。
あぁ~。
推しCPに踏み台にされ推しCPに幸せになってほしいんじゃ~。
なお、当方は荒井くんは160cmくらいから背が伸びないだろう。
どうか伸びないでくれと祈っている派の「背が低くて華奢だけど身体は雄の荒井くん」が好きなタイプの人間です。(自己紹介)
『気にしていない』
あぁ、あなたでしたか。
図書室で会うなんて奇遇ですね、この手の分野もお読みになるのですか。
少し意外ですね、こういった古めかしいミステリ作品にはあまり興味がないと思っていましたよ。古典ミステリは好みもありますがどうしても翻訳の文章に堅さがありますからミステリが好きな人でも実際に手に取る人はあまりいませんから。
それとも僕を探していましたか?
でしたら申し訳ありませんでした、さぞ探した事でしょう。図書室でも特に人気のない書架のなかでも奥まった所にいるんですからね。
あっ、ありがとうございます、本を取ってくださるんですか。
でしたらその、上から二段目の本をお願いします。黒い背表紙の本です。
はい、ありがとうございます。助かりましたよ。
背を伸ばせば届くかと思ったのですがなかなか届かなくて難儀していたんです。
鳴神学園の図書室は広く蔵書も多いので書店ではなかなか見かけなくなった本も手に取る事が出来るのは喜ばしいのですが大きな書架の一番上にまでぎっしりと本が詰め込まれているでしょう。
だからあのように高い場所に置かれた本は少々取りにくいんですよね。
もちろん、踏み台も置いてありますし図書委員に言えば脚立を出してくれるのは知っているんですがこんな細い通路の奥まで脚立を運ぶのも面倒でしょう。
近くに踏み台が置いてあったらそれを運んでいたでしょうが見た所それも置いてない。
そもそも踏み台は人の出入りが多い人気のある書架の前に置いてある事が多いですからね。このように図書室の奥へ追いやられた場所にはあまり置かれてないんですよ。
置いてあっても他の場所に誰かがもって行ってしまうのでしょうね。
だから背を伸ばせば手が届くか、それとも踏み台を探しに行こうかと考えていた所だったんですよ、本当に助かりました。
貴方は見た目によらず紳士的なんですね。
…………あぁ、すいません。
いま、以前も似たような事があったのを思い出していたんです。
僕はクラスメイトと比べると小柄な方でしょう?
気を遣わなくても結構ですよ、自分でも解っていますから。
ですがそれを気に病んだ事はあまりありませんでした。
確かに体育の授業などスポーツをしている時は背がもう少しあれば良かったと思う事はありましたよ。バレーにしてもバスケにしてもさして運動神経がなくとも背が高いというだけで有利なスポーツはありますし、もう少し体格が良ければ当たり負けなどしないと思う事だってあります。
ですけど僕は元々あまりスポーツが得意なほうではありませんし将来スポーツ選手になりたいといった夢をもってる訳でもありませんから、普通に生活をしている分には僕くらいの背丈でもそれほど困る事なんて無いですからね。日常生活では気にする事はありませんでしたよ。
ただ最近になってもう少しばかり背が高ければと思う事が増えてきたのです。
嫉妬よりも羨望が強いものですが、多少は嫉妬もあるんでしょうね。自分が同年代の友人と比べても背が低い上華奢に見えるという自覚はありましたから。
最近はそう、ちょうど今のように僕が本棚で背伸びをしている時でした。
僕が読みたいと思う本は書架の片隅に追いやられている事が少なくないのですが、その時も背の高い本棚の上に置かれていましてね。
今のように踏み台もなく図書委員から脚立を借りてくるには遠い場所だったので手を伸ばして届かないかと思い精一杯背伸びをしていたんですよ。
以前それでダメだった経験があるというのに僕も懲りないものですよね。
本の位置は解っているので指先でも引っかかれば本が取れるはずだと思い背を伸ばしてみるのですが少しでも奥に置かれていると本はまったく取れないのです。
むしろ僕の指先が背表紙を押してしまいかえって奥に追いやって本を取りづらくしている有様なのですが、指先に本が触れるとあと少しで取れると誤認してしまうんですよね。
そうして背伸びをし手を伸ばして必死になっていたところ、ひょいと抱えられた事があるんです。
こう、脇の下に手を入れて、大勢の人混み中央で芸を披露している大道芸人が見れないとぐずる子供のために遠くを見渡せるようにといった案配で僕を抱えたんですよ。
目の前に欲しい本が手に届く場所に来てくれたのはありがたいですが、それじゃあまるで僕が子供みたいじゃないですか。
当然、相手は僕が困っているから手を差し伸べてくれたのはわかりますよ。
だけどあんまりに子供扱いされているようで恥ずかしいやら悔しいやら、何とも言えない気持ちが胸にじわじわ広がってきたのです。
「もう本は取れたので下ろしてくれて構わないですよ」
僕は本を取れたうれしさより恥ずかしさが大きく、僕のそういった羞恥心には一切配慮してくれない相手の無遠慮さに腹が立ってしまいお礼を言う時も少しトゲのある語調になってしまったんですが、その人はただ「そうか」と言うだけでさして気にしてない様子でした。
実際、その人にとって僕を抱える事なんて些末なことなんでしょうね。
散歩中に橋を渡るのを嫌がる犬を抱きかかえて渡らせるのとか、木の上に登って降りられなくなった子猫を下ろす事の延長に僕を抱えて本を取らす事があるような感じなんですよ。
「ありがとうございます。ですが、僕を抱えるくらいなら本を取ってくれたらいいじゃないですか。僕だってそれほど軽くないのはご存じでしょう」
僕がそんな風にぐずるような真似をしたのは小さい子供扱いをされた事に苛立ったからでしょうか。それとも自分が小柄であるコンプレックスを刺激されたからでしょうか。
両方ともだったのかもしれませんし、どちらでも無いのかもしれません。
だけどその人は鈍感ですからね。僕が苛立っていることも気付かず呆けた顔をすると頭を掻きながらさして気にした様子もなく開いた本棚の隙間なんか見ているんですよ。
「そう言うけどよ、テメェが何の本が読みたいのか後ろじゃよくわからなかったからそれならお前を持ち上げて取らせた方が早いじゃ無ぇかよ。それにテメェなんざ全然重いうちに入んねぇよ、どれだけ鍛えてると思ってンだ」
そして悪びれる様子もなく、そんな風に言うんです。
どの本が読みたいか解らないのなら聞いてくれればいいと思いませんか? さっき貴方がしたくらいのコミュニケーションを取る事さえ面倒だと思っているのでしょうか。
それとも、あの人にとっては本当に「どの本が取りたいんだ」と聞くよりも僕を持ち上げて取らせた方が楽なのかもしれませんが、それにしたってデリカシーに欠けていますよ。
普通、いきなり脇の下に手を入れて身体を持ち上げるなんてことをされたら誰だって驚きますよね。あの人は僕が男だから気にしてないのかもしれませんが、場合によってはセクハラ呼ばわりされても仕方のない行動ですよ。
だけどその時の僕も少しばかり気にしすぎていたかもしれません。
「どの本が読みたいのかと聞いてくれれば答えてましたよ」 とか 「別に恥ずかしい本を読んでる訳ではないですから」 とか 「急に抱きかかえられると驚きます」 なんて普段よりつい色々と言ってしまったから、鈍感なあの人も流石におかしいと思ったのでしょう。
「何だよ、ひょっとして俺が抱えたのが気に入らなかったのか。おまえあんまりタッパがある方じゃないからなァ。でも気にすんなよ、おまえだってまだ背ェ伸びるかもしれねぇぜ」
あの人はからからと笑うと僕の頭をくしゃくしゃと撫でてそう言うんですよ。
えぇ、普段のようにさらりと受け流していればそんな事を言われなかったんだろうとは思います。ぐずぐず話していたから劣等感を抱いていると思われてしまったのだろうとも。
だけどそうやって明らかさまに子供扱いされるとやっぱり悔しいじゃないですか。
僕の場合、中学の頃に一気に背が伸びたので高校に入ってからはほとんど背が伸びてないのでこれからあまり伸びない事が何となくわかっているからなおさら腹が立つのです。
えぇ、僕は少し成長期が早く来た方で小学校の頃は背が高い方だったんですよ。それも一時のことで中学に入ったらすぐさま他の生徒に抜かれたちまち小柄な方になってしまいましたけど。
そこで僕はまたぐずぐずと色々言っていたんです。「普段はこの身長でも困っていない」とか「スポーツをしてる時はもっと背が高い方がいい」とかそんな必用のない事をね。
だから普段は鈍感なあの人でも僕が思いのほか背が低い事を気にしているのに気付いたのでしょう。最も、あの時僕は自分でも自分の体格が華奢である事をこんなにも気にしていたなどと思ってもいませんでしたが。
「何だよおまえ、そんな背が低いの気にしてたのか?」
あの人はね、本当にデリカシーのない人なんですよ。
こちらの気持ちに土足でずかずか踏み込んでくる癖にそれに悪気がない。いや、悪いという事にさえ気付かないほど他人の痛みに鈍感なんですよ。
自信家でプライドが高いから自分が虚仮にされるのは蛇蝎の如く嫌っているのに他人を小馬鹿にするのを面白いと思っているんです。
もっとも、あの時のあの人は別に僕を馬鹿にしようなどと思っておらず本当に驚いてそう言ったんでしょうけどね。
「そんな事気にしてんじゃ無ェよ。俺は今くらいの身長でも俺は特に気にしてねぇぜ」
すぐにそう続けて笑いながら頭を撫でる姿を見上げる僕の気持ちなんて、あの人にはわからないんですよ。
実際にあの人は僕の背が今より伸びてあの人を追い越したとしても気にしたりはしないのでしょうし、僕だって以前は自分の背たけをあまり気にした事なんてなかったんです。
だけどあの人の前で幾度も背が足りずにもどかしい思いをしていたから、自分でも思っていない言葉など口走ってしまったんでしょうね。
「僕は気にしてますよ。だって、貴方とキスするとき背伸びをしないと届かないんですから」
言ってから、何て恥ずかしい事を口にしたのだろうと思いましたよ。
でも、そうじゃないですか。あの人は僕より10cm以上も背が高いんですよ。それにまだもう少し伸びるかもしれない。
今だって背伸びをして少し勢いをつけなければ僕からキスするのは難しいんです。不意にキスをしたくなっても感情が高まるまま唇を重ねる事なんてできません。キスしたい時は「こっち向いてください」と声をかけるか座って抱きしめてもらっている時くらいなんですよ。
時々は自分からキスをして驚かせてみたいなんて思うのは贅沢なことでしょうか。
ささやかな夢といえば可愛いのでしょうが、手に入らないものほしがる駄々っ子のようなものです。願いが叶わない事くらい自分でもわかっていますから、だからこそ憧れが募ってついそんな言葉になっていたのでしょう。
言われたあの人は当然驚いたみたいにきょとんとした顔を向けてましたが、言った僕も随分と間抜けな顔をしていたと思いますよ。
言った後で自分がどれだけ恥ずかしい事を口にしていたのか気付いて、頬が紅潮してきたのがわかりましたから。
後悔先に立たずなんて言葉がありますが、まさにその通りです。言ってしまった事は取り返しがつかず、聞かれてしまった言葉は否定したって仕方ありません。
ただただ恥ずかしくて二の句が告げられず俯くばかりの僕をまえに、あの人は普段よりずっと優しい顔をして笑うんですよ。
「そんなこと気にしてたのか? してほしいなら言えばいつだってしてやるぜ 」
「言うのが恥ずかしい時だって僕にもありますよ。それに、僕だってたまにはあなたを驚かせてみたいと思いますから」
言葉を重ねれば重ねるほど僕の羞恥心は募っていくのですが、それでも何か言おうとしてしまったのは耐え難い程の恥ずかしさを誤魔化したい気持ちもあったのでしょう。
だけどあの人は僕の言葉なんて最初からろくに聞いてないといった様子で僕を本棚へ追い詰めると不意に唇を重ねたりするんです。
僕がそうして驚かせてみたいと思っていることを当たり前のようにしてみせるなんて意地悪な人でしょう? しかもこんな場所でですよ、誰が見てるかだってわかりはしないじゃないですか。
最も僕もそれほど他人に隠すつもりもなかったので見られて困る事なんて無いんですけど。
「こういうキス、テメェもしてみたいってのか」
散々と人の唇を舐って弄んだあと、あの人は悪戯っこみたいに笑うんです。笑いながらそう聞いたりするんですよ。
本当、意地が悪いでしょう。ですがそうされて嬉しい自分がいるんですから、こういったのも惚れた弱みというのでしょうか。それとも僕は意地悪く煽られ焦らされ茶化されるような行為でより昂ぶってしまう性分なのかもしれません。
「はい、してみたいですよ。いつも貴方の好きなようにされるのはしゃくに障りますから、僕だって貴方を驚かせてみたいです」
こんな事をいっても仕方ないというのについ、そんな事を言うのは何故なんでしょうね。
自分でも不思議なのですが、弱みを見せても構わないと思えるほどあの人を信頼しているという事なんでしょう。あるいは、あの人ならそういった僕の弱い部分を見たってさして気にしないだろう、そういう部分を含めて好きでいてくれるだろうといった自信があるからかもしれません。
「何いってんだよ、俺はいつもお前には驚かされてるぜ。いい性格してる癖に時々とんでもなく可愛い事を言ったかと思えば逆にこっちを手玉にとるような事も言う、予測が出来ないってのがこんなに面白ェとは思わなかったからな」
あの人はそう言いながら僕の髪をくしゃくしゃと撫でるのです。
飾り気の無い言い方ですが、それがかえってくすぐったくて心地よく変に洒落た言葉よりも響いてくるものなんですよね。
色恋沙汰と無縁に生きてきたあの人ですから、変に飾った言葉を言おうとすると空回りして滑稽に見える事が多いんですよ。ですが、時々何の気なしに口にする言葉はストレートに胸を貫いてくるから恥ずかしくも心地よい気持ちにさせてくれるんですよね。
僕がこんな事を口にするのは意外ですか?
そういう話をしたくなる程度には「好きになって良かった」と思っているのかもしれませんね。
えぇ、あの人は自分がよく驚くといってますが、僕だって随分と驚かされますよ。
予測できないというのがこんなに面白いと思わなかったのも全く同じです。
僕はあの人の言動に驚かされますし予想していなかった行動を楽しんでもいますが、同時に僕自身の変化にも驚き楽しんでいるんですよ。
以前の僕だったら身長を気にする事なんてありませんでした。
あの人を驚かせてみたいとも思わなかったでしょうし、そもそも誰かのために何かをするなんて行動を起こすこと自体あまり好きでは無かったですからね。
それだっていうのに今はあの人の為に何かしたいと思うのですから随分変わるものでしょう。
僕はやっぱり嬉しくて、何かしたいと思ったので思い切って背伸びをしあの人の唇へ触れてみたんですが、やっぱり背丈が違いますからね。キスをするというには物足りない、挨拶するような触れるだけのものに留まってしまいました。
身長差があるせいでキスをするために少し勢いをつけないといけないのもありますから、僕の動きを見て「来るな」というのを察したんでしょうね。あの人は飛びついてくる僕がバランスを崩して転んだりしないようしっかり抱いて支えてくれていて。
「やっぱりこれでは驚かせられないですよね」
自嘲気味に言う僕を前にするように笑えば、あの人は歯を見せて笑うと僕の身体を抱き寄せてキスをしてくれたんです。
こんな場所なのにキスをするのかと思いましたけど、もう今日で三度目ですからね。それに僕もしてほしいと思ったので、素直に受け入れてしまいましたよ。
僕だって好きだと思う相手の前では少しくらい素直になるんです。意外ですか?
なんて、随分と他愛もない話をしてしまいましたね。
あなたは何でも聞いてくれるし口も堅いですからつい色々と話してしまいます。
そろそろ行きましょうか。
あぁ、この件は他言無用でお願いしますね。
僕もあの人も別に隠しているつもりもないですし、秘密が暴かれたらそれはそれとして受け入れるつもりではいるんですけれども秘密は二人だけのものにしておいた方がより甘いものでしょう。
出来る事ならもう少しこの甘美な秘密を抱える時間を楽しんでいたいですからね。
それに、貴方に話した理由くらいもう薄々感づいているんでしょう。
あの時あなたに見られているのは気付いてましたからね。
僕はもうあの人のモノですからあまりアプローチされても困ります……えぇ、僕もかなり嫉妬深いですけどあの人もとても独占欲が強いので、下手をするとあなた、殺されてしまいますよ。
僕にとって大切な友人を殺されたくはないですから、ご自分のためにもどうかこれ以上は深入りなさらないように……。
えぇ、もちろんあの人に何かしようとか思わないでください。
その時は僕が殺しますから。
最も、僕に殺されたいというのなら……それなら別に構いませんけれどもね。
あぁ、あなたでしたか。
図書室で会うなんて奇遇ですね、この手の分野もお読みになるのですか。
少し意外ですね、こういった古めかしいミステリ作品にはあまり興味がないと思っていましたよ。古典ミステリは好みもありますがどうしても翻訳の文章に堅さがありますからミステリが好きな人でも実際に手に取る人はあまりいませんから。
それとも僕を探していましたか?
でしたら申し訳ありませんでした、さぞ探した事でしょう。図書室でも特に人気のない書架のなかでも奥まった所にいるんですからね。
あっ、ありがとうございます、本を取ってくださるんですか。
でしたらその、上から二段目の本をお願いします。黒い背表紙の本です。
はい、ありがとうございます。助かりましたよ。
背を伸ばせば届くかと思ったのですがなかなか届かなくて難儀していたんです。
鳴神学園の図書室は広く蔵書も多いので書店ではなかなか見かけなくなった本も手に取る事が出来るのは喜ばしいのですが大きな書架の一番上にまでぎっしりと本が詰め込まれているでしょう。
だからあのように高い場所に置かれた本は少々取りにくいんですよね。
もちろん、踏み台も置いてありますし図書委員に言えば脚立を出してくれるのは知っているんですがこんな細い通路の奥まで脚立を運ぶのも面倒でしょう。
近くに踏み台が置いてあったらそれを運んでいたでしょうが見た所それも置いてない。
そもそも踏み台は人の出入りが多い人気のある書架の前に置いてある事が多いですからね。このように図書室の奥へ追いやられた場所にはあまり置かれてないんですよ。
置いてあっても他の場所に誰かがもって行ってしまうのでしょうね。
だから背を伸ばせば手が届くか、それとも踏み台を探しに行こうかと考えていた所だったんですよ、本当に助かりました。
貴方は見た目によらず紳士的なんですね。
…………あぁ、すいません。
いま、以前も似たような事があったのを思い出していたんです。
僕はクラスメイトと比べると小柄な方でしょう?
気を遣わなくても結構ですよ、自分でも解っていますから。
ですがそれを気に病んだ事はあまりありませんでした。
確かに体育の授業などスポーツをしている時は背がもう少しあれば良かったと思う事はありましたよ。バレーにしてもバスケにしてもさして運動神経がなくとも背が高いというだけで有利なスポーツはありますし、もう少し体格が良ければ当たり負けなどしないと思う事だってあります。
ですけど僕は元々あまりスポーツが得意なほうではありませんし将来スポーツ選手になりたいといった夢をもってる訳でもありませんから、普通に生活をしている分には僕くらいの背丈でもそれほど困る事なんて無いですからね。日常生活では気にする事はありませんでしたよ。
ただ最近になってもう少しばかり背が高ければと思う事が増えてきたのです。
嫉妬よりも羨望が強いものですが、多少は嫉妬もあるんでしょうね。自分が同年代の友人と比べても背が低い上華奢に見えるという自覚はありましたから。
最近はそう、ちょうど今のように僕が本棚で背伸びをしている時でした。
僕が読みたいと思う本は書架の片隅に追いやられている事が少なくないのですが、その時も背の高い本棚の上に置かれていましてね。
今のように踏み台もなく図書委員から脚立を借りてくるには遠い場所だったので手を伸ばして届かないかと思い精一杯背伸びをしていたんですよ。
以前それでダメだった経験があるというのに僕も懲りないものですよね。
本の位置は解っているので指先でも引っかかれば本が取れるはずだと思い背を伸ばしてみるのですが少しでも奥に置かれていると本はまったく取れないのです。
むしろ僕の指先が背表紙を押してしまいかえって奥に追いやって本を取りづらくしている有様なのですが、指先に本が触れるとあと少しで取れると誤認してしまうんですよね。
そうして背伸びをし手を伸ばして必死になっていたところ、ひょいと抱えられた事があるんです。
こう、脇の下に手を入れて、大勢の人混み中央で芸を披露している大道芸人が見れないとぐずる子供のために遠くを見渡せるようにといった案配で僕を抱えたんですよ。
目の前に欲しい本が手に届く場所に来てくれたのはありがたいですが、それじゃあまるで僕が子供みたいじゃないですか。
当然、相手は僕が困っているから手を差し伸べてくれたのはわかりますよ。
だけどあんまりに子供扱いされているようで恥ずかしいやら悔しいやら、何とも言えない気持ちが胸にじわじわ広がってきたのです。
「もう本は取れたので下ろしてくれて構わないですよ」
僕は本を取れたうれしさより恥ずかしさが大きく、僕のそういった羞恥心には一切配慮してくれない相手の無遠慮さに腹が立ってしまいお礼を言う時も少しトゲのある語調になってしまったんですが、その人はただ「そうか」と言うだけでさして気にしてない様子でした。
実際、その人にとって僕を抱える事なんて些末なことなんでしょうね。
散歩中に橋を渡るのを嫌がる犬を抱きかかえて渡らせるのとか、木の上に登って降りられなくなった子猫を下ろす事の延長に僕を抱えて本を取らす事があるような感じなんですよ。
「ありがとうございます。ですが、僕を抱えるくらいなら本を取ってくれたらいいじゃないですか。僕だってそれほど軽くないのはご存じでしょう」
僕がそんな風にぐずるような真似をしたのは小さい子供扱いをされた事に苛立ったからでしょうか。それとも自分が小柄であるコンプレックスを刺激されたからでしょうか。
両方ともだったのかもしれませんし、どちらでも無いのかもしれません。
だけどその人は鈍感ですからね。僕が苛立っていることも気付かず呆けた顔をすると頭を掻きながらさして気にした様子もなく開いた本棚の隙間なんか見ているんですよ。
「そう言うけどよ、テメェが何の本が読みたいのか後ろじゃよくわからなかったからそれならお前を持ち上げて取らせた方が早いじゃ無ぇかよ。それにテメェなんざ全然重いうちに入んねぇよ、どれだけ鍛えてると思ってンだ」
そして悪びれる様子もなく、そんな風に言うんです。
どの本が読みたいか解らないのなら聞いてくれればいいと思いませんか? さっき貴方がしたくらいのコミュニケーションを取る事さえ面倒だと思っているのでしょうか。
それとも、あの人にとっては本当に「どの本が取りたいんだ」と聞くよりも僕を持ち上げて取らせた方が楽なのかもしれませんが、それにしたってデリカシーに欠けていますよ。
普通、いきなり脇の下に手を入れて身体を持ち上げるなんてことをされたら誰だって驚きますよね。あの人は僕が男だから気にしてないのかもしれませんが、場合によってはセクハラ呼ばわりされても仕方のない行動ですよ。
だけどその時の僕も少しばかり気にしすぎていたかもしれません。
「どの本が読みたいのかと聞いてくれれば答えてましたよ」 とか 「別に恥ずかしい本を読んでる訳ではないですから」 とか 「急に抱きかかえられると驚きます」 なんて普段よりつい色々と言ってしまったから、鈍感なあの人も流石におかしいと思ったのでしょう。
「何だよ、ひょっとして俺が抱えたのが気に入らなかったのか。おまえあんまりタッパがある方じゃないからなァ。でも気にすんなよ、おまえだってまだ背ェ伸びるかもしれねぇぜ」
あの人はからからと笑うと僕の頭をくしゃくしゃと撫でてそう言うんですよ。
えぇ、普段のようにさらりと受け流していればそんな事を言われなかったんだろうとは思います。ぐずぐず話していたから劣等感を抱いていると思われてしまったのだろうとも。
だけどそうやって明らかさまに子供扱いされるとやっぱり悔しいじゃないですか。
僕の場合、中学の頃に一気に背が伸びたので高校に入ってからはほとんど背が伸びてないのでこれからあまり伸びない事が何となくわかっているからなおさら腹が立つのです。
えぇ、僕は少し成長期が早く来た方で小学校の頃は背が高い方だったんですよ。それも一時のことで中学に入ったらすぐさま他の生徒に抜かれたちまち小柄な方になってしまいましたけど。
そこで僕はまたぐずぐずと色々言っていたんです。「普段はこの身長でも困っていない」とか「スポーツをしてる時はもっと背が高い方がいい」とかそんな必用のない事をね。
だから普段は鈍感なあの人でも僕が思いのほか背が低い事を気にしているのに気付いたのでしょう。最も、あの時僕は自分でも自分の体格が華奢である事をこんなにも気にしていたなどと思ってもいませんでしたが。
「何だよおまえ、そんな背が低いの気にしてたのか?」
あの人はね、本当にデリカシーのない人なんですよ。
こちらの気持ちに土足でずかずか踏み込んでくる癖にそれに悪気がない。いや、悪いという事にさえ気付かないほど他人の痛みに鈍感なんですよ。
自信家でプライドが高いから自分が虚仮にされるのは蛇蝎の如く嫌っているのに他人を小馬鹿にするのを面白いと思っているんです。
もっとも、あの時のあの人は別に僕を馬鹿にしようなどと思っておらず本当に驚いてそう言ったんでしょうけどね。
「そんな事気にしてんじゃ無ェよ。俺は今くらいの身長でも俺は特に気にしてねぇぜ」
すぐにそう続けて笑いながら頭を撫でる姿を見上げる僕の気持ちなんて、あの人にはわからないんですよ。
実際にあの人は僕の背が今より伸びてあの人を追い越したとしても気にしたりはしないのでしょうし、僕だって以前は自分の背たけをあまり気にした事なんてなかったんです。
だけどあの人の前で幾度も背が足りずにもどかしい思いをしていたから、自分でも思っていない言葉など口走ってしまったんでしょうね。
「僕は気にしてますよ。だって、貴方とキスするとき背伸びをしないと届かないんですから」
言ってから、何て恥ずかしい事を口にしたのだろうと思いましたよ。
でも、そうじゃないですか。あの人は僕より10cm以上も背が高いんですよ。それにまだもう少し伸びるかもしれない。
今だって背伸びをして少し勢いをつけなければ僕からキスするのは難しいんです。不意にキスをしたくなっても感情が高まるまま唇を重ねる事なんてできません。キスしたい時は「こっち向いてください」と声をかけるか座って抱きしめてもらっている時くらいなんですよ。
時々は自分からキスをして驚かせてみたいなんて思うのは贅沢なことでしょうか。
ささやかな夢といえば可愛いのでしょうが、手に入らないものほしがる駄々っ子のようなものです。願いが叶わない事くらい自分でもわかっていますから、だからこそ憧れが募ってついそんな言葉になっていたのでしょう。
言われたあの人は当然驚いたみたいにきょとんとした顔を向けてましたが、言った僕も随分と間抜けな顔をしていたと思いますよ。
言った後で自分がどれだけ恥ずかしい事を口にしていたのか気付いて、頬が紅潮してきたのがわかりましたから。
後悔先に立たずなんて言葉がありますが、まさにその通りです。言ってしまった事は取り返しがつかず、聞かれてしまった言葉は否定したって仕方ありません。
ただただ恥ずかしくて二の句が告げられず俯くばかりの僕をまえに、あの人は普段よりずっと優しい顔をして笑うんですよ。
「そんなこと気にしてたのか? してほしいなら言えばいつだってしてやるぜ 」
「言うのが恥ずかしい時だって僕にもありますよ。それに、僕だってたまにはあなたを驚かせてみたいと思いますから」
言葉を重ねれば重ねるほど僕の羞恥心は募っていくのですが、それでも何か言おうとしてしまったのは耐え難い程の恥ずかしさを誤魔化したい気持ちもあったのでしょう。
だけどあの人は僕の言葉なんて最初からろくに聞いてないといった様子で僕を本棚へ追い詰めると不意に唇を重ねたりするんです。
僕がそうして驚かせてみたいと思っていることを当たり前のようにしてみせるなんて意地悪な人でしょう? しかもこんな場所でですよ、誰が見てるかだってわかりはしないじゃないですか。
最も僕もそれほど他人に隠すつもりもなかったので見られて困る事なんて無いんですけど。
「こういうキス、テメェもしてみたいってのか」
散々と人の唇を舐って弄んだあと、あの人は悪戯っこみたいに笑うんです。笑いながらそう聞いたりするんですよ。
本当、意地が悪いでしょう。ですがそうされて嬉しい自分がいるんですから、こういったのも惚れた弱みというのでしょうか。それとも僕は意地悪く煽られ焦らされ茶化されるような行為でより昂ぶってしまう性分なのかもしれません。
「はい、してみたいですよ。いつも貴方の好きなようにされるのはしゃくに障りますから、僕だって貴方を驚かせてみたいです」
こんな事をいっても仕方ないというのについ、そんな事を言うのは何故なんでしょうね。
自分でも不思議なのですが、弱みを見せても構わないと思えるほどあの人を信頼しているという事なんでしょう。あるいは、あの人ならそういった僕の弱い部分を見たってさして気にしないだろう、そういう部分を含めて好きでいてくれるだろうといった自信があるからかもしれません。
「何いってんだよ、俺はいつもお前には驚かされてるぜ。いい性格してる癖に時々とんでもなく可愛い事を言ったかと思えば逆にこっちを手玉にとるような事も言う、予測が出来ないってのがこんなに面白ェとは思わなかったからな」
あの人はそう言いながら僕の髪をくしゃくしゃと撫でるのです。
飾り気の無い言い方ですが、それがかえってくすぐったくて心地よく変に洒落た言葉よりも響いてくるものなんですよね。
色恋沙汰と無縁に生きてきたあの人ですから、変に飾った言葉を言おうとすると空回りして滑稽に見える事が多いんですよ。ですが、時々何の気なしに口にする言葉はストレートに胸を貫いてくるから恥ずかしくも心地よい気持ちにさせてくれるんですよね。
僕がこんな事を口にするのは意外ですか?
そういう話をしたくなる程度には「好きになって良かった」と思っているのかもしれませんね。
えぇ、あの人は自分がよく驚くといってますが、僕だって随分と驚かされますよ。
予測できないというのがこんなに面白いと思わなかったのも全く同じです。
僕はあの人の言動に驚かされますし予想していなかった行動を楽しんでもいますが、同時に僕自身の変化にも驚き楽しんでいるんですよ。
以前の僕だったら身長を気にする事なんてありませんでした。
あの人を驚かせてみたいとも思わなかったでしょうし、そもそも誰かのために何かをするなんて行動を起こすこと自体あまり好きでは無かったですからね。
それだっていうのに今はあの人の為に何かしたいと思うのですから随分変わるものでしょう。
僕はやっぱり嬉しくて、何かしたいと思ったので思い切って背伸びをしあの人の唇へ触れてみたんですが、やっぱり背丈が違いますからね。キスをするというには物足りない、挨拶するような触れるだけのものに留まってしまいました。
身長差があるせいでキスをするために少し勢いをつけないといけないのもありますから、僕の動きを見て「来るな」というのを察したんでしょうね。あの人は飛びついてくる僕がバランスを崩して転んだりしないようしっかり抱いて支えてくれていて。
「やっぱりこれでは驚かせられないですよね」
自嘲気味に言う僕を前にするように笑えば、あの人は歯を見せて笑うと僕の身体を抱き寄せてキスをしてくれたんです。
こんな場所なのにキスをするのかと思いましたけど、もう今日で三度目ですからね。それに僕もしてほしいと思ったので、素直に受け入れてしまいましたよ。
僕だって好きだと思う相手の前では少しくらい素直になるんです。意外ですか?
なんて、随分と他愛もない話をしてしまいましたね。
あなたは何でも聞いてくれるし口も堅いですからつい色々と話してしまいます。
そろそろ行きましょうか。
あぁ、この件は他言無用でお願いしますね。
僕もあの人も別に隠しているつもりもないですし、秘密が暴かれたらそれはそれとして受け入れるつもりではいるんですけれども秘密は二人だけのものにしておいた方がより甘いものでしょう。
出来る事ならもう少しこの甘美な秘密を抱える時間を楽しんでいたいですからね。
それに、貴方に話した理由くらいもう薄々感づいているんでしょう。
あの時あなたに見られているのは気付いてましたからね。
僕はもうあの人のモノですからあまりアプローチされても困ります……えぇ、僕もかなり嫉妬深いですけどあの人もとても独占欲が強いので、下手をするとあなた、殺されてしまいますよ。
僕にとって大切な友人を殺されたくはないですから、ご自分のためにもどうかこれ以上は深入りなさらないように……。
えぇ、もちろんあの人に何かしようとか思わないでください。
その時は僕が殺しますから。
最も、僕に殺されたいというのなら……それなら別に構いませんけれどもね。
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