インターネット字書きマンの落書き帳
ウンタマルと地球人という概念(新堂×荒井/BL)
ウンタマル星人の新堂さんと地球人の荒井という概念の話です。
新堂のことウンタマル星人だと気付いているのかいないのか……の荒井が、新堂に対して好意を向けている。
新堂もちょっとだけそれに気付いてるけど、母星のことがまだ気になっている……。
そんな話を……しています。
新堂×荒井のこと好きかい?
今日から好きになろうぜ!(合い言葉)
新堂のことウンタマル星人だと気付いているのかいないのか……の荒井が、新堂に対して好意を向けている。
新堂もちょっとだけそれに気付いてるけど、母星のことがまだ気になっている……。
そんな話を……しています。
新堂×荒井のこと好きかい?
今日から好きになろうぜ!(合い言葉)
『ほしのこえ』
新堂誠は、今日も屋上で寝そべるとラジオにつながれたイヤホンをつけた。
目を閉じ、全神経をイヤホンへと傾けるがときたまノイズが響く他は何も聞こえることはない。
わかりきっていた事だ。もうこのラジオに。いや、地球でラジオの形に見えるよう偽装した母星との通信機に故郷が反応することはない。何せ新堂の故郷は、その存在ごと抹消されているのだから。それがわかっていても新堂は諦めきれぬ気持ちを引きずりながら、胸の上にラジオを置くとチューナーを弄ったりアンテナの角度をかえたりして、何かしら聞こえてこないか試してみた。
もし母星に一人でも誰かが生きていれば、何かしらの助けを求めているかもしれないからだ。
だが思いとは裏腹に嫌補からは耳障りなノイズが走るばかりだった。
新堂誠は、俗に言う宇宙人と呼ばれる存在だ。ウンタマルという名の星ではしがない会社員をしており、社員旅行として地球へ観光している時に母星が攻撃を受け水蒸気の如く蒸発してしまった。
星を侵略し支配して土地や資源を我が物にするのではなく、星ごと消滅し浄化するという方法をとる事から、母星ウンタマルを攻撃したのはあの悪名高いスンバラリア星の工作員たちだろう。スンバラリア星人は極めて高い技術力と汎用性の高い生態をもつが故に、自分たちのような存在だけが宇宙にいれば何ら問題なく平和に宇宙の存続が出来る、というやや選民主義的な思想が強く、他の星に存在する生命も自分たちから見て学ぶものがない、下等な存在だと思えば気まぐれに破壊していくのだ。しかも星ごと蒸発させるよう消してしまうのでタチが悪い。
これまでスンバラリア星の襲撃を受けて生き残ったのは、現地でスンバラリア人と接触しそれに気に入られ実験用、サンプルとして持ち帰られた個体だけだというのだからもはや気に入った玩具だけを持ち帰る子供のようなものである。そして、その子供のような相手に新堂の母星は消されてしまったのだ。
たまたま地球に来ていた新堂は災厄からは免れたが、地球への社員旅行そのものが一人旅のようなものだったので突然孤独になってしまった。日帰り程度の旅行予定だったから持ってきた荷物もなく途方に暮れたものの、幸いだったのが地球では自分と同じくスンバラリア星人に突然母星を奪われた異星人を多く迎える土地があり、また新堂の外見が当時は地球人の中高生くらいだったのも幸いし、新堂誠という地球人に偽装し多くの異星人が留学する鳴神学園ですごすことができた事だ。
肉体も適応しているし、寿命や性別の概念なども地球人と大差ないのだから地球人離れした桃色の地毛を隠す事ができればこのまま地球人として生涯を終えることも出来るだろう。
生き残れたのを幸運だと思えば、死んでいった他のウンタマル星人と比べて自分は幸福だ。
だが、世界でたった一人だけ、という孤独は抗いがたいほど暗い影となり新堂の内側に広がっていった。
今日も何も聞こえない、やはりウンタマル星人は全て消えてしまったのだろう。いや、生き残りがいて助けを呼ぶ電波を発信しているかもしれない、そうなれば自分が助けに行かなければ。あれからどれだけ経っているというのだ。一瞬で星が蒸発したのなら、生き残りのはずがない。今何かしらSOS信号を受信したのなら、それは生き残りのウンタマル星人を抹殺するかサンプルとして捕獲を目的にしたスンバラリアの罠である可能性が高いだろう。それでも……。
「またここにいたんですか、新堂さん」
巡る思考を留めるよう、涼しい声が響く。見ればそこには荒井昭二の姿があった。
先日行われた七不思議の集会からよく新堂に話しかけてくるようになった後輩だ。あまりにこちらに興味をもつから自分と同じ異星人かと思い、一度身体をスキャンした事があるのだが、紛れもなく人間で、ただ新堂に興味があり話しかけてくるようになったらしい。
荒井のタイプからすると、不良っぽく粗暴で短絡的な新堂という人間像は興味の対象外だったはずだが、人間は興味対象にならない相手ともコンタクトをするのが珍しくないから不思議なものだ。
新堂は古めかしいラジオに偽装した通信機を後ろ手に隠す。荒井はよく新堂が屋上に来てこのラジオを弄っているのを知っているから、妙な勘ぐりをされるのを避けたかったのだ。
「またラジオを聞いてるんですか。いつも思ってたんですけど、変わった形ですよね。見せてもらえませんか」
だが荒井の興味はどうやらこのラジオのようだ。外側は80年代に市販されたラジオだが、中身はウンタマルの通信機だ。一見したら地球で売られているラジオと大差ないように見えるだろうが、聡い荒井なら違和感を抱くかもしれない。だが隠し立てするとかえって彼の好奇心を刺激し、無理矢理にでも奪うかもしれない。
「これなぁ、ラジオじゃ無ェよ。通信機だ、通信機」
だからわざと真実を伝える。
有りそうな嘘をつくより胡乱な真実を伝える方が荒井には効果的だと判断したからだ。
「古道具屋で汚ねぇラジオが置いてあると思ったら、店主が宇宙人と通話できる通信機だ、って言うんだよな。晴れた日に高いところで通信するといいっていうから、学校きて試してんだけどなーんも聞こえねぇんだよ、ホレ」
新堂はイヤホンをはずすと、ラジオごと荒井へむける。荒井はしばらくそのラジオを観察すると、イヤホンをつけチャンネルを回したりアンテナの向きを変えるなどして見せた。
「見るかぎり、ラジオを開けて修理か改造をした形跡がありますから、本当に通信機に改造されているかもしれませんが……」
荒井に指摘され、新堂は内心ひやりとする。やはり通信機だと告げてよかった。ヘタにかくして誤魔化して、ラジオを聞いているなどと言ったら荒井はきっと疑いをもち迷うことなくラジオを分解していただろう。
もし、自分が宇宙人という秘密を知られたら、しかるべき手段をとらなければならない。だが、新堂はできれば鳴神学園の生徒に、普通の地球人たちにそんな事はしたくなかった。これは、ウンタマル星人が元来穏健な気質をもつというのもある。
「何だよ、偽物つかまされたってことか」
「作った当人は偽物だと思っていないかもしれませんよ。重さからすると、中身はかなり改造してありそうですから。開けてみないとわかりませんが」
荒井は両手でラジオを掴むと、珍しそうにじっと見る。ドライバーが手元にあればすぐさま分解しかねない勢いだ。
「やめろよ、壊れたら困るだろ。宇宙との交信が本当に出来ないと決まった訳じゃ無ェんだ」
新堂はあわててラジオを取り上げると、自分の裏へひっこめた。
荒井は思ったよりも好奇心が強い。もう、学校にはあまり通信機をもってこないようにしよう。元より繋がるアテもないもので荒井を危険な目にあわせる訳にもいかないのだから。
「そんなに宇宙人に興味があるんですか、新堂さんは」
荒井は新堂の隣に座ると、少しあきれたように笑っていた。新堂が宇宙人だとは思っていないのだろう。無邪気な子供を見るような視線から、新堂が本当に宇宙人を信じ、通信機を買ったのだと思っているようだった。
「そりゃ、宇宙人はロマンだろ。俺たちの知らないカガクの力とかもってたら、すげぇ事出来るかもしれねぇし。宇宙に招待されるかもしれねぇもんな」
高校生・新堂誠のいかにも子供っぽい演技を混ぜてはいたが、宇宙に行くのが好きだったのはウンタマルである新堂自身の性格でもある。
新堂は有名なレジャー施設に囲まれた星よりも誰も行かないような星に向かうのが好きで、社員旅行も実質個人旅行になるのがわかっていて地球を選んでいる。他の星で知らない文化に触れるのが好きだったし、その土地に住む異星人と話すのも好きだった。
故郷を失った悲しみもあるし、母星が無事なら戻りたいという思いはある。だが地球の事が嫌いだという訳ではないのだ。
「そのロマンで周囲を威嚇しているんですか」
「威嚇なんてしてるつもり無ェよ。どういうことだ?」
「三年の教室棟屋上は新堂のシマだ、いつも怖い顔してラジオを聴いてるから。なーんて噂になってるんですよ」
言われてみれば、通信機を弄っている時は切迫した表情になり周囲を寄せ付けない雰囲気も出していただろう。元々声を掛けづらい雰囲気の新堂がいっそう近寄りがたい雰囲気を放ち屋上を陣取っていれば誰も近づかないのも当然だ。
「近づいてこない奴の根性が無ェだけだろ。別にとって食いやしねぇってのになァ」
口ではそう言ったが、新堂は通信に夢中でいかに周囲を見ていなかったか思い知った。まさか地球人にそこまで軽快されていたとは。勿論、通信のために人が少ない方がいいとは思っていたが、自分のせいで生徒達が憩いの場としている屋上を奪うのも本位ではない。やはり、学校で通信するのは止めておこう。
無言のままじっと通信機を見つめていると、荒井はゆっくり立ち上がり出口へと向かった。
「宇宙に憧れるのもいいですけど、ちゃんと周囲も見てあげてください。それでなくても新堂さんは怖い顔しているんですから」
怖い顔は生まれつきだ。むしろ、故郷のウンタマルではこの顔は優しい顔立ちだったのだ。
地球人とそこまで体格や外見の変化がないのだが価値観は違うのだから不思議だ。
ぼんやりとそんな事を考える新堂を一度振り返ると、荒井はどこか悲しげな笑顔をむけた。
「本当に、宇宙ばっかり見てないでくださいね。ここにだって、貴方のことを好きだと思う人がいるんですから」
そして新堂が何も言わぬうちに屋上の扉を閉める。
「そう、そうだよな。わかっているんだ、俺だって……でも」
あきらめきれない心から、自然と通信機に目が向く。
わかっている。地球の人間が自分をもう地球人と認めてくれていることも、このまま地球人に擬態しても何ら問題ない寿命を自分がもっていることも、荒井が自分に思いを寄せ、愛してくれていることも。
それでも故郷を諦められずぐずぐずここで足踏みしている自分を、新堂自身がひどくもどかしく思っていた。
新堂誠は、今日も屋上で寝そべるとラジオにつながれたイヤホンをつけた。
目を閉じ、全神経をイヤホンへと傾けるがときたまノイズが響く他は何も聞こえることはない。
わかりきっていた事だ。もうこのラジオに。いや、地球でラジオの形に見えるよう偽装した母星との通信機に故郷が反応することはない。何せ新堂の故郷は、その存在ごと抹消されているのだから。それがわかっていても新堂は諦めきれぬ気持ちを引きずりながら、胸の上にラジオを置くとチューナーを弄ったりアンテナの角度をかえたりして、何かしら聞こえてこないか試してみた。
もし母星に一人でも誰かが生きていれば、何かしらの助けを求めているかもしれないからだ。
だが思いとは裏腹に嫌補からは耳障りなノイズが走るばかりだった。
新堂誠は、俗に言う宇宙人と呼ばれる存在だ。ウンタマルという名の星ではしがない会社員をしており、社員旅行として地球へ観光している時に母星が攻撃を受け水蒸気の如く蒸発してしまった。
星を侵略し支配して土地や資源を我が物にするのではなく、星ごと消滅し浄化するという方法をとる事から、母星ウンタマルを攻撃したのはあの悪名高いスンバラリア星の工作員たちだろう。スンバラリア星人は極めて高い技術力と汎用性の高い生態をもつが故に、自分たちのような存在だけが宇宙にいれば何ら問題なく平和に宇宙の存続が出来る、というやや選民主義的な思想が強く、他の星に存在する生命も自分たちから見て学ぶものがない、下等な存在だと思えば気まぐれに破壊していくのだ。しかも星ごと蒸発させるよう消してしまうのでタチが悪い。
これまでスンバラリア星の襲撃を受けて生き残ったのは、現地でスンバラリア人と接触しそれに気に入られ実験用、サンプルとして持ち帰られた個体だけだというのだからもはや気に入った玩具だけを持ち帰る子供のようなものである。そして、その子供のような相手に新堂の母星は消されてしまったのだ。
たまたま地球に来ていた新堂は災厄からは免れたが、地球への社員旅行そのものが一人旅のようなものだったので突然孤独になってしまった。日帰り程度の旅行予定だったから持ってきた荷物もなく途方に暮れたものの、幸いだったのが地球では自分と同じくスンバラリア星人に突然母星を奪われた異星人を多く迎える土地があり、また新堂の外見が当時は地球人の中高生くらいだったのも幸いし、新堂誠という地球人に偽装し多くの異星人が留学する鳴神学園ですごすことができた事だ。
肉体も適応しているし、寿命や性別の概念なども地球人と大差ないのだから地球人離れした桃色の地毛を隠す事ができればこのまま地球人として生涯を終えることも出来るだろう。
生き残れたのを幸運だと思えば、死んでいった他のウンタマル星人と比べて自分は幸福だ。
だが、世界でたった一人だけ、という孤独は抗いがたいほど暗い影となり新堂の内側に広がっていった。
今日も何も聞こえない、やはりウンタマル星人は全て消えてしまったのだろう。いや、生き残りがいて助けを呼ぶ電波を発信しているかもしれない、そうなれば自分が助けに行かなければ。あれからどれだけ経っているというのだ。一瞬で星が蒸発したのなら、生き残りのはずがない。今何かしらSOS信号を受信したのなら、それは生き残りのウンタマル星人を抹殺するかサンプルとして捕獲を目的にしたスンバラリアの罠である可能性が高いだろう。それでも……。
「またここにいたんですか、新堂さん」
巡る思考を留めるよう、涼しい声が響く。見ればそこには荒井昭二の姿があった。
先日行われた七不思議の集会からよく新堂に話しかけてくるようになった後輩だ。あまりにこちらに興味をもつから自分と同じ異星人かと思い、一度身体をスキャンした事があるのだが、紛れもなく人間で、ただ新堂に興味があり話しかけてくるようになったらしい。
荒井のタイプからすると、不良っぽく粗暴で短絡的な新堂という人間像は興味の対象外だったはずだが、人間は興味対象にならない相手ともコンタクトをするのが珍しくないから不思議なものだ。
新堂は古めかしいラジオに偽装した通信機を後ろ手に隠す。荒井はよく新堂が屋上に来てこのラジオを弄っているのを知っているから、妙な勘ぐりをされるのを避けたかったのだ。
「またラジオを聞いてるんですか。いつも思ってたんですけど、変わった形ですよね。見せてもらえませんか」
だが荒井の興味はどうやらこのラジオのようだ。外側は80年代に市販されたラジオだが、中身はウンタマルの通信機だ。一見したら地球で売られているラジオと大差ないように見えるだろうが、聡い荒井なら違和感を抱くかもしれない。だが隠し立てするとかえって彼の好奇心を刺激し、無理矢理にでも奪うかもしれない。
「これなぁ、ラジオじゃ無ェよ。通信機だ、通信機」
だからわざと真実を伝える。
有りそうな嘘をつくより胡乱な真実を伝える方が荒井には効果的だと判断したからだ。
「古道具屋で汚ねぇラジオが置いてあると思ったら、店主が宇宙人と通話できる通信機だ、って言うんだよな。晴れた日に高いところで通信するといいっていうから、学校きて試してんだけどなーんも聞こえねぇんだよ、ホレ」
新堂はイヤホンをはずすと、ラジオごと荒井へむける。荒井はしばらくそのラジオを観察すると、イヤホンをつけチャンネルを回したりアンテナの向きを変えるなどして見せた。
「見るかぎり、ラジオを開けて修理か改造をした形跡がありますから、本当に通信機に改造されているかもしれませんが……」
荒井に指摘され、新堂は内心ひやりとする。やはり通信機だと告げてよかった。ヘタにかくして誤魔化して、ラジオを聞いているなどと言ったら荒井はきっと疑いをもち迷うことなくラジオを分解していただろう。
もし、自分が宇宙人という秘密を知られたら、しかるべき手段をとらなければならない。だが、新堂はできれば鳴神学園の生徒に、普通の地球人たちにそんな事はしたくなかった。これは、ウンタマル星人が元来穏健な気質をもつというのもある。
「何だよ、偽物つかまされたってことか」
「作った当人は偽物だと思っていないかもしれませんよ。重さからすると、中身はかなり改造してありそうですから。開けてみないとわかりませんが」
荒井は両手でラジオを掴むと、珍しそうにじっと見る。ドライバーが手元にあればすぐさま分解しかねない勢いだ。
「やめろよ、壊れたら困るだろ。宇宙との交信が本当に出来ないと決まった訳じゃ無ェんだ」
新堂はあわててラジオを取り上げると、自分の裏へひっこめた。
荒井は思ったよりも好奇心が強い。もう、学校にはあまり通信機をもってこないようにしよう。元より繋がるアテもないもので荒井を危険な目にあわせる訳にもいかないのだから。
「そんなに宇宙人に興味があるんですか、新堂さんは」
荒井は新堂の隣に座ると、少しあきれたように笑っていた。新堂が宇宙人だとは思っていないのだろう。無邪気な子供を見るような視線から、新堂が本当に宇宙人を信じ、通信機を買ったのだと思っているようだった。
「そりゃ、宇宙人はロマンだろ。俺たちの知らないカガクの力とかもってたら、すげぇ事出来るかもしれねぇし。宇宙に招待されるかもしれねぇもんな」
高校生・新堂誠のいかにも子供っぽい演技を混ぜてはいたが、宇宙に行くのが好きだったのはウンタマルである新堂自身の性格でもある。
新堂は有名なレジャー施設に囲まれた星よりも誰も行かないような星に向かうのが好きで、社員旅行も実質個人旅行になるのがわかっていて地球を選んでいる。他の星で知らない文化に触れるのが好きだったし、その土地に住む異星人と話すのも好きだった。
故郷を失った悲しみもあるし、母星が無事なら戻りたいという思いはある。だが地球の事が嫌いだという訳ではないのだ。
「そのロマンで周囲を威嚇しているんですか」
「威嚇なんてしてるつもり無ェよ。どういうことだ?」
「三年の教室棟屋上は新堂のシマだ、いつも怖い顔してラジオを聴いてるから。なーんて噂になってるんですよ」
言われてみれば、通信機を弄っている時は切迫した表情になり周囲を寄せ付けない雰囲気も出していただろう。元々声を掛けづらい雰囲気の新堂がいっそう近寄りがたい雰囲気を放ち屋上を陣取っていれば誰も近づかないのも当然だ。
「近づいてこない奴の根性が無ェだけだろ。別にとって食いやしねぇってのになァ」
口ではそう言ったが、新堂は通信に夢中でいかに周囲を見ていなかったか思い知った。まさか地球人にそこまで軽快されていたとは。勿論、通信のために人が少ない方がいいとは思っていたが、自分のせいで生徒達が憩いの場としている屋上を奪うのも本位ではない。やはり、学校で通信するのは止めておこう。
無言のままじっと通信機を見つめていると、荒井はゆっくり立ち上がり出口へと向かった。
「宇宙に憧れるのもいいですけど、ちゃんと周囲も見てあげてください。それでなくても新堂さんは怖い顔しているんですから」
怖い顔は生まれつきだ。むしろ、故郷のウンタマルではこの顔は優しい顔立ちだったのだ。
地球人とそこまで体格や外見の変化がないのだが価値観は違うのだから不思議だ。
ぼんやりとそんな事を考える新堂を一度振り返ると、荒井はどこか悲しげな笑顔をむけた。
「本当に、宇宙ばっかり見てないでくださいね。ここにだって、貴方のことを好きだと思う人がいるんですから」
そして新堂が何も言わぬうちに屋上の扉を閉める。
「そう、そうだよな。わかっているんだ、俺だって……でも」
あきらめきれない心から、自然と通信機に目が向く。
わかっている。地球の人間が自分をもう地球人と認めてくれていることも、このまま地球人に擬態しても何ら問題ない寿命を自分がもっていることも、荒井が自分に思いを寄せ、愛してくれていることも。
それでも故郷を諦められずぐずぐずここで足踏みしている自分を、新堂自身がひどくもどかしく思っていた。
PR
COMMENT