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インターネット字書きマンの落書き帳

   
キミが標的になった時(風間と坂上)
殺人クラブに所属している風間と、そんな事全然知らない坂上の話です。

坂上くんが殺されたら、一人で死ぬのは可愛そうだ!
だから一緒に誰か埋めてあげよう。
坂上くんの好きな人を埋めてあげればいいよねー。

なんて気持ちで坂上に好きな人を聞いたら、思わぬ言葉がかえってきて「それだったら……」と別の方向性に舵を切る風間の話です。

Twitterで出したネタを書いてみたくなったので書きました。
少しでも楽しんでくれたらハッピネスです。

それは愛では無いが、ある種の執着ではある。



『キミが標的になった時、ボクはキミのナイトになろう』

「坂上くん、坂上くんには好きな人とかいるのかな」

 風間は新聞部に他の部員がいないのを確認すると、机に座って問いかけた。
 というのも先日、殺人クラブで次のターゲットを決めるための相談をしている時、坂上の名前もあがったからだ。
 他にも数人いけすかない連中の名前があがっていたから坂上の順番は後回しになるだろうが、殺人クラブの名簿に入っている限りいずれ順番はくるだろう。
 すでに坂上と面識が出来ていた風間は、死ぬなら何か手向けてやりたいと思い、彼の好きな相手を聞いておくことにしたのだ。
 一人で死ぬのは寂しいだろうから、せめて愛する誰かを隣にして一緒に眠らせてやろう。
 そうすれば、きっと寂しくないだから。

「何ですか藪から棒に。好きな人とか言われても……」

 坂上は頬を少し赤くしながら、小首を傾げ考える。
 彼は人付き合いが苦手だと自分では思っているが、これで慕っている生徒は多い。同じ部の倉田は何だかんだでいつも坂上と連んでいるし、鳴神学園屈指の霊媒師と名高い元木早苗には将来の伴侶と呼ばれ慕われている。彼女たちじゃなくとも、密かに憧れれている女子は多いだろう。

「別に、女の子じゃなくてもいいよ。家族とか、友達、ペットでも。ずぅっと一緒にいたいと思う相手って、キミにもいるんじゃないかな」

 坂上のように家族仲も良好な場合、大切な人は家族かもしれない。年に一度は家族で旅行を楽しんでいるというし、親を相手に大きな喧嘩をしたことがないと聞くからおおよそ平穏な家族関係が続いているのだろう。
 また、幼少期からともに生活をしているパグのポヘは、もうすっかり老犬ながら坂上になついており、毎日無理のない程度の散歩を楽しんでいるという。
 父母やパグも大切な存在の範疇だ。いっそ、家族を悲しませないよう全員一緒に屠ってやるのも優しさだろうか。
 そんな事を考える風間を前に、坂上ははにかんだ笑顔をむけた。

「そうですね……それだったら、風間さんかな」

 思わぬこたえに、風間は目を丸くする。
 まさか自分の名前を呼ばれるとは思ってもいなかったからだ。

「えぇ、ボクかい!? ……何でまたボクなんて。いや、ボクは確かに背も高いし顔もいいし女の子にもモテるから、憧れるのもわかるけどねぇ」
「えぇっと……たしかに風間さんは格好いい所もあると思うんですけど、別にそれだけじゃないですよ」

 坂上は手にした資料を机の上でまとめると、やや顔を赤くする。

「だって風間さんはいつも、僕のこと気にして色々話しかけてくれるじゃないですか。本当は女の子が好きなんだから、男のボクに構っている暇なんてないだろうに、いつも僕を見つけると挨拶をしてくれるし、僕に下らない冗談でも色々と話しかけてくれる。僕、そんな風間さんに結構助けられているところがあるんですよ」

 俯いたのは表情を悟られないためだろうが、耳まで赤くなっているのだから本心でそう言っているのだろう。
 坂上の言葉を反芻し、風間はしばし思案する。
 自分はどうだろう。この屈託なく純朴で、まだあどけなさを残す後輩のことをどう思っているのだろうか。
 殺人クラブのリストに名前があがる限りは、誰かが坂上を殺したがっているのは確かだ。殺す理由は憎らしいからだったり、服を汚したからというような単純な恨みであったり、逆に好きだから誰にも渡したくないという我の強い理由だったりもする。果たして坂上はどの理由から目をつけられたのだろう。
 岩下あたりは年下で童顔、押しの弱い男が好きな傾向がある。彼女なら愛しているから殺したいなんて理由で殺すかもしれない。
 果たして誰が坂上の名をあげたのか、それはわからないが、面白いとも思った。
 殺人クラブのメンバー相手に、誰かを守るために殺し合うというのはいかにも意外性があり楽しそうじゃないか。

「そっかー。ボクも坂上くんの事好きだから、相思相愛だねぇ」
「な、何言ってるんですか風間さん。ぼ、僕は別にそういうつもりじゃなくて、えぇと……尊敬しているんです、風間さんみたいに自由で奔放で、自分に自信があるひとになりたいな、と思っているから」
「いーのいーの、ようはボクの事が好きなんでしょ。だったら……」

 全力で、キミを守ってあげるから。
 風間は声には出さず、心の中で呟く。
 日野が率いる殺人クラブの面々は、一応日野に忠誠を誓っているが各々別の思惑で動いている。坂上がターゲットになった時、彼を狙うふりをして殺人クラブのメンバーをこっそり始末する、というのはきっと何よりスリルがあるだろう。
 風間は自分が殺人クラブのなかでも一番弱い部類なのをしっている。下級生の細田や荒井も、日野に気に入られているだけでメンバー入りしている奴だと思われているのも気付いていたし、実際、素手での戦いだったら新堂や細田に勝てず、武器を用いた戦いは岩下にも劣るだろう。有無も言わせず攻撃をたたき込む福沢のような勢いもない。
 そんな自分が突然反旗を翻し、坂上を守るため刃向かったら日野はどんな顔をするだろうか。
 普段から強気な新堂も焦りの顔を見せるのだろうか。自分を見下し馬鹿にする荒井も驚くのだろうか。感情などとうに失ったような素振りを見せる岩下も怒りに打ち震えるのだろうか。
 坂上のためにそうするのは、案外面白いかもしれないしれないし、坂上のためならその価値もある。

「ふふ、楽しみだねぇ坂上くん」
「えぇ、何がですか……」
「なーんでもないよ。なんでも、ね」

 そう、まだ何でもないことだ。
 殺人クラブが坂上をターゲットにすると決まったワケでもないし、決まった後に殺人クラブを裏切るかも決めてない。
 だが、もしそうなったらきっと面白いだろう。
 風間は坂上と肩を組むと無邪気な笑顔をむける。坂上と一緒なら、きっと面白いに違いない。そして、坂上のためなら彼の騎士になるのも悪くない。だいたい、騎士という立場、格好いい自分に相応しいだろう。差し詰め坂上はとらわれの姫君といった所だろうか。
 あぁ、面白い。本当に、面白い。
 早くその日らくればいいと、密かにほくそ笑みながら坂上を抱き寄せるその手は自然と熱を帯びていた。

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