インターネット字書きマンの落書き帳
ナンパな風間に呆れる新堂の話
新堂と風間が出る話です。
風間は小さい頃、母親がスナックのママ的な仕事をしていて、店に勤める女の人から「かわいいね」「かわいいね」と言われ育っていてくれたら、自分の容姿に絶大の自身がある風間望が出来上がるのではないだろうか!?
そんな事を思ったので書きました。
風間の態度に呆れている新堂と、実は新堂に救われていた風間の話ですよ。
風間は小さい頃、母親がスナックのママ的な仕事をしていて、店に勤める女の人から「かわいいね」「かわいいね」と言われ育っていてくれたら、自分の容姿に絶大の自身がある風間望が出来上がるのではないだろうか!?
そんな事を思ったので書きました。
風間の態度に呆れている新堂と、実は新堂に救われていた風間の話ですよ。
『忘れるほど些細なこと』
ボクは全ての女性に対して優しいんだよ。
臆面なく語る風間のことを、新堂は軟派な男だと思っていた。
実際に風間が女性に対して優しいのか、という点ではいささか疑問の残る所だが、風間は相手が女子生徒なら誰にでも声をかけ誰にでも甘い顔をし、隙あらば下心丸出しのボディタッチを試みているあたり風間が女好きである事は間違いないだろう。その態度が女子に受け入れられているとは限らないが、好きであるのは間違いない。
「おい、風間。おまえが女好きなのはわかったが、誰それ構わず声かけてるといつか刺されても知らねぇぞ」
だが、それにしても誰それかまわず声をかけすぎる気がする。
あまりの節操なさに呆れた新堂が一応の忠告をしたのは、痴情のもつれで風間が刺されでもしたら見知った顔だから罪悪感も出るだろうと思ったからであり、保身以外の理由はない。
当然、風間は危機感を抱く様子は微塵もなく、新堂の忠告などどこ吹く風で、軽くウィンクしてみせた。
「心配してくれるのかい、ありがとう新堂。だけどね、ボクの心はいつもオニャノコたちへ愛を囁くように出来ているんだ。これはボクの本能だから止めようとしても無駄だし、それで刺されるなら本望って奴だよ」
余裕綽々といった様子なのは、実際の風間は取り合いになるほどモテていないというのもあるだろう。あれで顔だけは良いので、子犬みたいな目でおねだりをされるのが嬉しいからつい甘やかしてしまうといった女子生徒も一定数存在するが、あくまでペットを可愛がる感覚で風間と接しているのであり、誰も彼と本気で付き合うような雰囲気はないからだ。
実際、風間にこれまで特定の恋人がいたという噂は聞かないから、皆そこそこの距離と節度をもって風間に接しているのだろう。
「それにね、新堂。ボクは自分の好きという心に蓋をするのは嫌なんだよ。好きだという気持ちは言葉を尽くさないと相手に伝わらないからね」
風間はひらひら手を振りながら得意げな顔をする。
きっと風間にとって愛を語らうのは使命のようなものだろう。自分のことを愛の伝道師くらいに思っているのかもしれない。実際その態度が行動に出すぎて、数多い女子からセクハラ常習犯として追いかけられているのは本末転倒な気がするが、自分の好きな存在に対してそこまで前向きな表現が出来るのは見習うべきかもしれない。
「逆に尊敬するぜ。俺ももっと、好きな相手に愛の言葉ってのを囁いてやるべきかもなァ」
新堂にはまだ恋人もいないし、誰かを好きになる事も想像できないが、もし誰かを好きになったのならこのくらい正直に伝えた方が良いのだろう。言わなければ伝わらないというし、伝えていても伝えきれない思いもあるのだろうから。
何気なく言ったつもりだったが、風間は虚を突かれたような顔で新堂を見る。まさか新堂が自分の言い分を理解してくれるとは思っていなかったのだろう、彼は照れた様子で頭を掻いた。
「実のことを言うとね、好きだという心に蓋をするな、ってのは受け売りなんだよ」
「へぇ、誰かに言われたからそうしてるのか」
「そうだね、小さい頃に言われたんだ、好きなら蓋をするな、言葉を尽くさないと相手に伝わらないって。だからボクはそうしているんだ、自分の好きに嘘をつきたくないからね」
それが本当なら、伝えた相手もまさかこんな女好きモンスターを生み出すとは思っていなかっただろう。
新堂がそんな事を思っているうちに、予鈴の音がする。そろそろ昼休みも終わる、教室に戻らないといけない頃合いだ。
「予鈴だな、そろそろ教室戻るとするか。面白い話聞かせてくれてありがとうな」
「いいんだ、ボクも懐かしい話が出来て、自分の原点に立ち返った気がするよ」
立ち上がる新堂の背を、風間は黙って見守る。
その眼差しは、何故か優しく温かいものだった。
『些末だが、忘れられないこと』
風間があらゆる女性に粉をかける姿が、新堂には不思議なようだった。
「おい、風間。おまえが女好きなのはわかったが、誰それ構わず声かけてるといつか刺されても知らねぇぞ」
今日も女の子にウィンクしたり手を振ったりとサービスをしていた所、新堂は呆れた顔をする。
思春期になり、あらゆる女性に対して愛想よく振る舞う風間の所作は傍目からすると軟派に見えるのだろう。実際その通りだし、風間自身、大いに女性を贔屓することで他の生徒から顰蹙を買っているのは少しくらい理解している。
だが、風間にとって全ての女性は愛すべき存在なのだ。誰か一人にだけ愛を注ぐというのはポリシーに反する行為であり、風間にとって全ての女性を等しく扱うのは恩返しのような意味合いもあった。
風間がそんな考えを抱くようになったのは、母の影響がある。
風間の母は、世間一般的に水商売などと呼ばれ人によっては軽蔑する仕事についており、時々店に風間を連れていく事もあった。母の店にいる女性は皆、きらびやかで美しく、そして優しく、風間を見ると
「可愛いね、望くん」
「元気だった、望くん」
と皆が優しく声をかけてくれていた。
風間が来るのを知って手作りのお菓子を作ってくれる人もいたし、甘いジュースを飲ませてくれたりもした。寂しい時は撫でてくれたし、楽しい歌を聴かせてくれる事もある。
だから風間にとって母の店にいる女性は皆いい人だったのだが、風間の周囲はそう思っていなかったのだ。
「あのアバズレの息子だろう、顔は母親に似て可愛いが、きっと碌な奴にならねぇよ」
「おまえの母ちゃん、水商売してるんだろ。男をタブラかす悪女だって」
大人は風間を見ればひそひそ囁き、子供は面と向かって悪態をつく。
母も、母の店にいる人たちも、風間にとっては親切な良い人なのに、周りの人間は悪しき様に語る。その事実が悲しくて、だがそんなに周囲に嫌われるようなことを母や、店にいる人たちがしているのかと思うと申し訳なくて、風間は自然と一人で過ごすようになっていた。
「でも、お前はカーチャンのことも、オンナノヒトも好きなんだろ」
俯く風間の顔を上げさせたのは、同じ年頃の少年だった。
運動が好きで、いつも誰かとボール遊びをしているヤンチャそうな少年は普段から公園で他の子供たちと遊んでいたのだが、その日は遊び相手がいなかったからか、それとも風間がいつも一人でウジウジしているのに気付いたのか、ボール遊びに誘ってくれた。ドッジボールだったのか、サッカーだったのか、どんな遊びをしたかは覚えていない。だが、その少年がくれた言葉は、今でもはっきりと覚えている。
「お前がカーチャンとか、そのオンナノヒトが好きなら、自分の好きに嘘ついて蓋する必用なんか無ぇだろ。周りに堂々と言えばいいんだよ、カーチャンは優しいし、オンナノヒトたちもみんないい人だって。おまえが言わないと、伝わるもんも伝わらねぇもんな」
その通りだと思った。
周囲に何を言われようと、自分の好きを否定する理由にはならない。それに、皆は母のことも、店にいる人のことも知らないのだ。
それなら自分が好きだと言おう。愛を語ろう。そうすれば、わかってくれる人もいるだろうから。
「それにね、新堂。ボクは自分の好きという心に蓋をするのは嫌なんだよ。好きだという気持ちは言葉を尽くさないと相手に伝わらないからね」
思えばあの時声をかけてくれた少年は、新堂によく似ている。案外、新堂本人だったのかもしれない。だとしても新堂の性格なら、きっとそんな事は忘れているだろう。
だけど、風間は救われた。
あの時から前を向き堂々と母と、母の店にいる女性を好きだと言えるようになったし、自分の好きに偽りはないと実感できるようになったのだ。
風間の言葉に新堂は呆れと関心の混じった顔をするだけだが、否定する事はない。そんな所も、記憶にある少年によく似ていると思え、ひどく懐かしい気持ちになっていた。
「予鈴だな、そろそろ教室戻るとするか。面白い話聞かせてくれてありがとうな」
風間の言葉をただあるがまま受け入れる。
そんな新堂の背中に、かつて温かな言葉をくれた少年の影が重なる。
やはり、新堂はあの時の少年によく似ている。自分に温かな言葉をくれ、前を向かせてくれて、それからずっと憧れているあの少年は、自分と同じくらいの年頃だった。成長していれば、きっと新堂のような青年になっているのかもしれない。
憧れの面影を追うように、風間は新堂の姿を見送る。
胸にはずっとあの時の言葉が、温かく照らしていた。
ボクは全ての女性に対して優しいんだよ。
臆面なく語る風間のことを、新堂は軟派な男だと思っていた。
実際に風間が女性に対して優しいのか、という点ではいささか疑問の残る所だが、風間は相手が女子生徒なら誰にでも声をかけ誰にでも甘い顔をし、隙あらば下心丸出しのボディタッチを試みているあたり風間が女好きである事は間違いないだろう。その態度が女子に受け入れられているとは限らないが、好きであるのは間違いない。
「おい、風間。おまえが女好きなのはわかったが、誰それ構わず声かけてるといつか刺されても知らねぇぞ」
だが、それにしても誰それかまわず声をかけすぎる気がする。
あまりの節操なさに呆れた新堂が一応の忠告をしたのは、痴情のもつれで風間が刺されでもしたら見知った顔だから罪悪感も出るだろうと思ったからであり、保身以外の理由はない。
当然、風間は危機感を抱く様子は微塵もなく、新堂の忠告などどこ吹く風で、軽くウィンクしてみせた。
「心配してくれるのかい、ありがとう新堂。だけどね、ボクの心はいつもオニャノコたちへ愛を囁くように出来ているんだ。これはボクの本能だから止めようとしても無駄だし、それで刺されるなら本望って奴だよ」
余裕綽々といった様子なのは、実際の風間は取り合いになるほどモテていないというのもあるだろう。あれで顔だけは良いので、子犬みたいな目でおねだりをされるのが嬉しいからつい甘やかしてしまうといった女子生徒も一定数存在するが、あくまでペットを可愛がる感覚で風間と接しているのであり、誰も彼と本気で付き合うような雰囲気はないからだ。
実際、風間にこれまで特定の恋人がいたという噂は聞かないから、皆そこそこの距離と節度をもって風間に接しているのだろう。
「それにね、新堂。ボクは自分の好きという心に蓋をするのは嫌なんだよ。好きだという気持ちは言葉を尽くさないと相手に伝わらないからね」
風間はひらひら手を振りながら得意げな顔をする。
きっと風間にとって愛を語らうのは使命のようなものだろう。自分のことを愛の伝道師くらいに思っているのかもしれない。実際その態度が行動に出すぎて、数多い女子からセクハラ常習犯として追いかけられているのは本末転倒な気がするが、自分の好きな存在に対してそこまで前向きな表現が出来るのは見習うべきかもしれない。
「逆に尊敬するぜ。俺ももっと、好きな相手に愛の言葉ってのを囁いてやるべきかもなァ」
新堂にはまだ恋人もいないし、誰かを好きになる事も想像できないが、もし誰かを好きになったのならこのくらい正直に伝えた方が良いのだろう。言わなければ伝わらないというし、伝えていても伝えきれない思いもあるのだろうから。
何気なく言ったつもりだったが、風間は虚を突かれたような顔で新堂を見る。まさか新堂が自分の言い分を理解してくれるとは思っていなかったのだろう、彼は照れた様子で頭を掻いた。
「実のことを言うとね、好きだという心に蓋をするな、ってのは受け売りなんだよ」
「へぇ、誰かに言われたからそうしてるのか」
「そうだね、小さい頃に言われたんだ、好きなら蓋をするな、言葉を尽くさないと相手に伝わらないって。だからボクはそうしているんだ、自分の好きに嘘をつきたくないからね」
それが本当なら、伝えた相手もまさかこんな女好きモンスターを生み出すとは思っていなかっただろう。
新堂がそんな事を思っているうちに、予鈴の音がする。そろそろ昼休みも終わる、教室に戻らないといけない頃合いだ。
「予鈴だな、そろそろ教室戻るとするか。面白い話聞かせてくれてありがとうな」
「いいんだ、ボクも懐かしい話が出来て、自分の原点に立ち返った気がするよ」
立ち上がる新堂の背を、風間は黙って見守る。
その眼差しは、何故か優しく温かいものだった。
『些末だが、忘れられないこと』
風間があらゆる女性に粉をかける姿が、新堂には不思議なようだった。
「おい、風間。おまえが女好きなのはわかったが、誰それ構わず声かけてるといつか刺されても知らねぇぞ」
今日も女の子にウィンクしたり手を振ったりとサービスをしていた所、新堂は呆れた顔をする。
思春期になり、あらゆる女性に対して愛想よく振る舞う風間の所作は傍目からすると軟派に見えるのだろう。実際その通りだし、風間自身、大いに女性を贔屓することで他の生徒から顰蹙を買っているのは少しくらい理解している。
だが、風間にとって全ての女性は愛すべき存在なのだ。誰か一人にだけ愛を注ぐというのはポリシーに反する行為であり、風間にとって全ての女性を等しく扱うのは恩返しのような意味合いもあった。
風間がそんな考えを抱くようになったのは、母の影響がある。
風間の母は、世間一般的に水商売などと呼ばれ人によっては軽蔑する仕事についており、時々店に風間を連れていく事もあった。母の店にいる女性は皆、きらびやかで美しく、そして優しく、風間を見ると
「可愛いね、望くん」
「元気だった、望くん」
と皆が優しく声をかけてくれていた。
風間が来るのを知って手作りのお菓子を作ってくれる人もいたし、甘いジュースを飲ませてくれたりもした。寂しい時は撫でてくれたし、楽しい歌を聴かせてくれる事もある。
だから風間にとって母の店にいる女性は皆いい人だったのだが、風間の周囲はそう思っていなかったのだ。
「あのアバズレの息子だろう、顔は母親に似て可愛いが、きっと碌な奴にならねぇよ」
「おまえの母ちゃん、水商売してるんだろ。男をタブラかす悪女だって」
大人は風間を見ればひそひそ囁き、子供は面と向かって悪態をつく。
母も、母の店にいる人たちも、風間にとっては親切な良い人なのに、周りの人間は悪しき様に語る。その事実が悲しくて、だがそんなに周囲に嫌われるようなことを母や、店にいる人たちがしているのかと思うと申し訳なくて、風間は自然と一人で過ごすようになっていた。
「でも、お前はカーチャンのことも、オンナノヒトも好きなんだろ」
俯く風間の顔を上げさせたのは、同じ年頃の少年だった。
運動が好きで、いつも誰かとボール遊びをしているヤンチャそうな少年は普段から公園で他の子供たちと遊んでいたのだが、その日は遊び相手がいなかったからか、それとも風間がいつも一人でウジウジしているのに気付いたのか、ボール遊びに誘ってくれた。ドッジボールだったのか、サッカーだったのか、どんな遊びをしたかは覚えていない。だが、その少年がくれた言葉は、今でもはっきりと覚えている。
「お前がカーチャンとか、そのオンナノヒトが好きなら、自分の好きに嘘ついて蓋する必用なんか無ぇだろ。周りに堂々と言えばいいんだよ、カーチャンは優しいし、オンナノヒトたちもみんないい人だって。おまえが言わないと、伝わるもんも伝わらねぇもんな」
その通りだと思った。
周囲に何を言われようと、自分の好きを否定する理由にはならない。それに、皆は母のことも、店にいる人のことも知らないのだ。
それなら自分が好きだと言おう。愛を語ろう。そうすれば、わかってくれる人もいるだろうから。
「それにね、新堂。ボクは自分の好きという心に蓋をするのは嫌なんだよ。好きだという気持ちは言葉を尽くさないと相手に伝わらないからね」
思えばあの時声をかけてくれた少年は、新堂によく似ている。案外、新堂本人だったのかもしれない。だとしても新堂の性格なら、きっとそんな事は忘れているだろう。
だけど、風間は救われた。
あの時から前を向き堂々と母と、母の店にいる女性を好きだと言えるようになったし、自分の好きに偽りはないと実感できるようになったのだ。
風間の言葉に新堂は呆れと関心の混じった顔をするだけだが、否定する事はない。そんな所も、記憶にある少年によく似ていると思え、ひどく懐かしい気持ちになっていた。
「予鈴だな、そろそろ教室戻るとするか。面白い話聞かせてくれてありがとうな」
風間の言葉をただあるがまま受け入れる。
そんな新堂の背中に、かつて温かな言葉をくれた少年の影が重なる。
やはり、新堂はあの時の少年によく似ている。自分に温かな言葉をくれ、前を向かせてくれて、それからずっと憧れているあの少年は、自分と同じくらいの年頃だった。成長していれば、きっと新堂のような青年になっているのかもしれない。
憧れの面影を追うように、風間は新堂の姿を見送る。
胸にはずっとあの時の言葉が、温かく照らしていた。
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