インターネット字書きマンの落書き帳
グレゴールを呼びにくるシンクレアの話
最近、リンバスカンパニーでぽつぽつ遊んでます。
キャラクターが完全固定だったり、戦闘はパズル的だったりして結構楽しいですね。
余ってしまった行動力もモジュールにして後で使えるというのも、忙しい人に便利でいろいろ親切です。
ストーリーは全然親切ではありませんが。
今回は、高台で一人たばこをふかすグレゴールのことをシンクレアが呼びにくる話です。
自分が3章プレイ中だから6章にたどり着いたら矛盾とか出るかもしれないけど、今しか書けない新鮮な二次創作だと思ってくれれば幸いです♥
キャラクターが完全固定だったり、戦闘はパズル的だったりして結構楽しいですね。
余ってしまった行動力もモジュールにして後で使えるというのも、忙しい人に便利でいろいろ親切です。
ストーリーは全然親切ではありませんが。
今回は、高台で一人たばこをふかすグレゴールのことをシンクレアが呼びにくる話です。
自分が3章プレイ中だから6章にたどり着いたら矛盾とか出るかもしれないけど、今しか書けない新鮮な二次創作だと思ってくれれば幸いです♥
『町は夜と霧に包まれて』
グレゴールは一人高台に立つとくわえた煙草に火をつけた。立ち上る煙はすぐさま深い霧のかかった街の中へ溶けるよう消えていき、生ぬるい風がグレゴールの頬を撫でていく。やけに湿った風は微かだが血と硝煙のにおいがするが、この場所ではそれもさして珍しくはない。
誰かの死と暴力を思い煙を噴かしていれば、霧の彼方から聞き覚えのある声が響いてきた。
「グレゴールさん、どこに行ってたんですか、探したんですよ。管理人さんが探してますから、早くバスに戻らないと」
長い石段を登る影は肩で呼吸をしているように見える。息を弾ませながら霧の中から現れたのは金色の淡い髪が印象的などこかあどけなさを残す青年だった。名前は確かシンクレアだったか。あどけなさを残しているといったが実際まだ若年のはずで、ひょっとしたらグレゴールと比べれば親子ほど歳が離れているかもしれない。
だがシンクレアもグレゴールと同じ囚人で、自分たちと同じように危険で計画性のない、あるいは計画性があってもそれが頓挫するような任務に向かわされては何度も死に、そして生き返させられる苦痛を共にしている仲であり、目的のためには死んでも構わない土嚢のような存在にすぎないながら、仲間や同僚と言える存在である。
とはいえ、グレゴールはシンクレアの事をよく知らなかった。それは囚人同士はお互いの過去へ触れないという暗黙のルールが存在していたのもあるだろうし、自分から過去の事や胸の内をべらべらと喋るような人間が一人もいないというのもあったろう。もし仮に過去を雄弁に語る囚人がいたとしても、信じるには値しない。何故ならそれは自分に都合のいい事実で虚飾に満ちており、真実とは限らないものなのだから。
だからグレゴールはシンクレアが何を好むのかも知らなかったし、いつも何を怖れているのか理解してはいない。ただ、いつもバスの座席でちんまりと腰掛けて、周囲に怯えるよう上目遣いで様子をうかがう姿だけがグレゴールの知るシンクレアの全てだった。
「悪いね、探させちゃった? 少し煙草を吸いたくて」
「た、煙草を吸うためにこんな所まで来たんですか。危ないですよ一人で行動するのは……」
シンクレアはグレゴールの隣に並ぶと、高台から広がる町並みに目をやる。日は傾き宵闇の頃合いとなった今、霧が出ているのもあり街全体に影を落とし僅かな灯りがともるだけとなっていた。それを見て、シンクレアは「わぁ」と小さな感嘆の声を漏らし、嬉しそうな笑顔になる。
「ここはすごく景色がいいですね、街が一望できるじゃないですか。グレゴールさんのお気に入りの場所ですか?」
「ん……まぁ、そうだな」
グレゴールは深々と息を吸い、肺いっぱいに煙をためてから一息で吐き出す。隣ではシンクレアが目を細め、広がる町並みを見下ろしていた。
「僕はあまり目が良くないみたいで……今は暗いし霧も出ているから、全然街の様子が見えないんですけど、晴れたらきっと遠くまでいい景色が見えるでしょうね」
屈託なく笑うシンクレアに、グレゴールは静かに目を閉じる。
高台の下に広がるのは、貧困にあえぎ道に転がる浮浪者や犬なのかクリーチャーなのか分からぬものに貪り食われる屍体、盗みや物乞いをする子供たち、片手のない、あるいは片手が虫のような異形に変形した者、罵声をあびせる悪漢、その他諸々の日常という名の暴力ばかりで綺麗な風景などどこにもない。霧や影が覆い隠しているからこそ過酷な現実は見えず、幻想ともいえる街が優しく広がっているように見えるのだ。
シンクレアだってこの街に平穏などどこにもない事くらいわかっているだろうが、まだそれを許容できない気持ちでいるだろうか。それとも、本当にこの街が平和で賑やかな楽しい街だと思い込んでいるのかもしれない。自分以外の皆はマトモにすごし、普通の生活をすれば幸福が享受できると信じているほど若いのだとしたら、それは愚かだが、きっと幸福なことだろう。
「そうだな、だがメガネを作るのはもうちょっと後でいいだろ。お前さんみたいな奴は、少しぼんやり世界を見ている方が似合ってるだろうさ」
グレゴールは煙草を捨て踏み消すと、シンクレアの頭を撫でてやる。
出来ることならこの純粋な青年がそのまま、汚い世界など見ることなくすごすことが出来ればいい。そんな、決して叶わない願いを抱いて。
グレゴールは一人高台に立つとくわえた煙草に火をつけた。立ち上る煙はすぐさま深い霧のかかった街の中へ溶けるよう消えていき、生ぬるい風がグレゴールの頬を撫でていく。やけに湿った風は微かだが血と硝煙のにおいがするが、この場所ではそれもさして珍しくはない。
誰かの死と暴力を思い煙を噴かしていれば、霧の彼方から聞き覚えのある声が響いてきた。
「グレゴールさん、どこに行ってたんですか、探したんですよ。管理人さんが探してますから、早くバスに戻らないと」
長い石段を登る影は肩で呼吸をしているように見える。息を弾ませながら霧の中から現れたのは金色の淡い髪が印象的などこかあどけなさを残す青年だった。名前は確かシンクレアだったか。あどけなさを残しているといったが実際まだ若年のはずで、ひょっとしたらグレゴールと比べれば親子ほど歳が離れているかもしれない。
だがシンクレアもグレゴールと同じ囚人で、自分たちと同じように危険で計画性のない、あるいは計画性があってもそれが頓挫するような任務に向かわされては何度も死に、そして生き返させられる苦痛を共にしている仲であり、目的のためには死んでも構わない土嚢のような存在にすぎないながら、仲間や同僚と言える存在である。
とはいえ、グレゴールはシンクレアの事をよく知らなかった。それは囚人同士はお互いの過去へ触れないという暗黙のルールが存在していたのもあるだろうし、自分から過去の事や胸の内をべらべらと喋るような人間が一人もいないというのもあったろう。もし仮に過去を雄弁に語る囚人がいたとしても、信じるには値しない。何故ならそれは自分に都合のいい事実で虚飾に満ちており、真実とは限らないものなのだから。
だからグレゴールはシンクレアが何を好むのかも知らなかったし、いつも何を怖れているのか理解してはいない。ただ、いつもバスの座席でちんまりと腰掛けて、周囲に怯えるよう上目遣いで様子をうかがう姿だけがグレゴールの知るシンクレアの全てだった。
「悪いね、探させちゃった? 少し煙草を吸いたくて」
「た、煙草を吸うためにこんな所まで来たんですか。危ないですよ一人で行動するのは……」
シンクレアはグレゴールの隣に並ぶと、高台から広がる町並みに目をやる。日は傾き宵闇の頃合いとなった今、霧が出ているのもあり街全体に影を落とし僅かな灯りがともるだけとなっていた。それを見て、シンクレアは「わぁ」と小さな感嘆の声を漏らし、嬉しそうな笑顔になる。
「ここはすごく景色がいいですね、街が一望できるじゃないですか。グレゴールさんのお気に入りの場所ですか?」
「ん……まぁ、そうだな」
グレゴールは深々と息を吸い、肺いっぱいに煙をためてから一息で吐き出す。隣ではシンクレアが目を細め、広がる町並みを見下ろしていた。
「僕はあまり目が良くないみたいで……今は暗いし霧も出ているから、全然街の様子が見えないんですけど、晴れたらきっと遠くまでいい景色が見えるでしょうね」
屈託なく笑うシンクレアに、グレゴールは静かに目を閉じる。
高台の下に広がるのは、貧困にあえぎ道に転がる浮浪者や犬なのかクリーチャーなのか分からぬものに貪り食われる屍体、盗みや物乞いをする子供たち、片手のない、あるいは片手が虫のような異形に変形した者、罵声をあびせる悪漢、その他諸々の日常という名の暴力ばかりで綺麗な風景などどこにもない。霧や影が覆い隠しているからこそ過酷な現実は見えず、幻想ともいえる街が優しく広がっているように見えるのだ。
シンクレアだってこの街に平穏などどこにもない事くらいわかっているだろうが、まだそれを許容できない気持ちでいるだろうか。それとも、本当にこの街が平和で賑やかな楽しい街だと思い込んでいるのかもしれない。自分以外の皆はマトモにすごし、普通の生活をすれば幸福が享受できると信じているほど若いのだとしたら、それは愚かだが、きっと幸福なことだろう。
「そうだな、だがメガネを作るのはもうちょっと後でいいだろ。お前さんみたいな奴は、少しぼんやり世界を見ている方が似合ってるだろうさ」
グレゴールは煙草を捨て踏み消すと、シンクレアの頭を撫でてやる。
出来ることならこの純粋な青年がそのまま、汚い世界など見ることなくすごすことが出来ればいい。そんな、決して叶わない願いを抱いて。
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