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インターネット字書きマンの落書き帳

   
バザーを回る坂上くんと倉田さん(と、時々爆発する風間先輩)
坂上くんの誕生日が9月18日ですが、特に誕生日とは無関係の話が書けたので置いておこうと思います。

事前に誕生日を祝っていたというのに当日はこの有様。
まさにオレ・クオリティですね。

以前からちまちま開いた時間に書いていた、バザーに遊びにいく坂上くんと倉田さんの話ですよ。
オールキャラギャグ本っぽくしたかったのでわりとほのぼのな内容。
坂上×倉田(倉田に振り回される坂上)みたいな話です。

新堂、荒井、風間が他には出ます。
思想が強いので新堂×荒井の空気は出ていますが、思想が強いということで許してください。


『M市のバザーに遊びに行こう』

 僕の近所にある大きめな公園でバザーが開かれるのを聞きつけた倉田さんから「新聞部のネタになるかもしれないから」という理由で強引にたたき起こされて引きずられるよう連れて行かれたのは日曜日の朝だった。
 道の駅も兼ねているその公園は普段からお土産や食事を求め普段から観光客で賑わっているのだけれども、その日はイベントもあってかいつもより人が多く感じる。

「へー、思ったより盛況だね。じゃ、ちょっとあっちの方見てこようか。ほらほら、行くよー坂上くん!」

 残暑の日差しがまだ厳しい最中、朝ご飯もろくに食べず出かけたから半ばバテ気味だった僕とは裏腹に倉田さんは元気に走り回っていた。
 手には親から譲ってもらったというデジタルカメラが握られていたけれども、本当に譲ってもらったのかただ借りてきただけなのかはちょっと疑わしいな。
 倉田さんは押しが強いから、多分だけど強引に家族から取り上げてきたか無断に借りてきたのだろう。
 そして普通より性能がいいというデジタルカメラを誰かに見せびらかしたかったに違いない。デジタルカメラを使えれば行ける場所なんてどこでも良かったのだろう。
 たまたま僕が暇だったので捕まってしまったのだ。
 まったく、ついてない……こうなると知っていたら嘘でも予定があることにしておけば良かったとは思うんだけれども、もし倉田さんにうっかり「予定がある」なんて言うと何故か「日野さんとデートしている」というコトにされてしまうのだ。
 翌日になって「日野さんと何処に行ってたの?」なんて皆の前で聞かれたらたまったもんじゃない。
 日野さんも「別に坂上とは何処にもいってないぞ」って一言くれればいいものを「さぁ、どこだろうな。当ててみろ」なんて倉田さんを煽るから困ってしまう。外堀を埋められている気分だ。
 僕はまだ彼女はいないけど日野さんと付き合う予定は無いんだから……。

「見て見て坂上くん、けっこう本格的な屋台が出てるよ! ベルギーワッフルにクレープ、コーヒー、ソフトクリームなんかもある! やっぱり人が多い所は違うねー」

 僕の事などお構いなしに倉田さんはあちこちへカメラのレンズを向ける。
 随分とはしゃいでいるけど、今日のバザーは僕が想像していた以上に大規模だった。
 出店やキッチンカーが多く並び普段あまり買えないようなお菓子が売っているのを見るとちょっとした縁日気分になる。
 あ、あのクレープ屋さんはミニ鯛焼きも売ってるのか。母さんのお土産に後で少し買っていこうかな。中身はチョコにクリームか、やっぱりチョコが嬉しいだろう。

「ほらほら、バザーの方も見てみよう坂上くん。思わぬ掘り出し物が見つかるかもしれないし。安く売っている骨董品が実は本物で、一気に億万長者なんてことも……くふふ……」

 ミニ鯛焼きを袋詰めしてもらっていた僕の手を引っ掴むと倉田さんは僕を強引にバザーの方グイグイと引っ張っていった。
 はい、僕の意見なんてないんですよね。わかってます……僕は諦めの境地に達しながら言われるがまま倉田さんの後をとぼとぼと付いて歩くのだ。
 でも、このバザーは結構楽しい。隣にいる倉田さんに引きずられて見て回っていても面白い作品やライブイベントなんかが結構見られるからだ。
 僕はバザーなんていうものは家にいらない古着やガラクタを売るような場所なのだろうと思っていたのだけれどここの店はどこも本格的な店が並んでいて、自分でデザインして手染めした手ぬぐいや風呂敷を売る店があればパワーストーンというのをはめ込んだ手作りの銀細工アクセサリーが売られていたり、タロットカードの占いや見た事もない楽器の生演奏なども行われていて実に賑やかなことになっていた。

「今日のバザーはね、このM市を拠点にしている職人さんや若手のアーティストに多く呼びかけてスペースを出してもらっているんだって。だからだからただの古着屋さんとかじゃなく、自分たちが丹精込めて作った雑貨とか普段は大きめな旅館でパフォーマンスをする人とかが多く集まっているんだってさ。言うなれば、自分の売り込みも兼ねているって事かな」

 歩きながら倉田さんがそう説明してくれた。
 なるほど、若手アーティストの作品を展示しているというのならクオリティが高いのも納得だ。
 僕は遠くから聞こえてくるパンフルートのどこか寂しげな曲を聴きながらそんな事を考えていた。
 若手アーティストの作品が多いならきっと面白い作品もあるはずだ。自分の好きなアクセサリーや役に立ちそうな文房具とかも置いてあるかもしれない。僕としては手で削れる小さな鉛筆削りか鉛筆を削るための小ぶりなナイフがあれば嬉しい。
  新聞部では鉛筆を使う事が多いんだけれども鉛筆を削るためにわざわざ部室の鉛筆削りまで行くのが最近は億劫になっていたからだ。

「お、坂上じゃ無ェか。奇遇だなこんなところで」

 そんな事を考えてあたりをキョロキョロ見回していれば不意に誰かが呼びかけてきた。
 声の方へと目をやれば派手なアロハを着た胡乱な男性が小さな椅子に腰掛けている。色つきのサングラスをしていることや目の前に並んでる商品がいかにも曰く付きの胡乱なものだったことから僕の脳裏にはゲームに出るアブない武器を売る商人の姿が思い浮かんでいた。
 実際、ターバンでも巻いてたら完全に武器商人系のキャラクターだ。商売を始めると「OK、Welcome」なんて胡乱な英語を喋りながらお金をせびってくるに違いない。

「坂上くんもバザーに来てたんですか? あなたでもこんな賑やかな所に来るんですね」

 僕がそんな空想をしていると、すぐに聞き慣れた声がする。見れば胡乱な武器商人の隣には荒井さんが座っていた。
 座っているといっても怪しい商人の風体をしている人より少し後ろにさがってゲームをしているから、無理矢理呼び出されて連れてこられた感じがひしひしとする。
 僕は知らない人に声をかけられた驚きよりもこんな賑やかな場所に荒井さんがいる事実に驚いてた。

「あ、荒井さん。荒井さんもこのバザーに?」

 僕の知る荒井さんはどちらかといえば賑やかな場所は好きではないタイプだ。学校はそれほど嫌いじゃないみたいだし人付き合いも無難にこなせるんだけど、どこか他人に壁をつくるような性格だしどちらかといえば一人でいる方を好むタイプだから人が集まる場所に率先して出向くイメージがなかったのだ。

「意外といった顔をしてますね、僕だって好きでここにいる訳じゃありませんよ。新堂さんに無理矢理つれてこられたんです。今日のバザーでスペースをとっていた親戚が急に来られなくなったから、何か販売するものがないかと言われたんですよ」
「新堂さんに? じゃあ新堂さんもここに来てるんですか?」

 僕の言葉に、目の前にいた胡乱な商人は不服そうに口を尖らせる。

「来てるんですか、じゃねぇ。目の前にいるだろテメェの目は節穴かおい?」

 その声を聞いて、僕はようやく目の前にいる胡乱な商人が新堂さんだという事に気付いた。
 いやいやいや、ちょっとまってください新堂さん、新堂さんの外見でアロハをキめられたら完全にもう裏稼業のバイヤーです。何か荒井さんと並んでるとだんだん武闘派とインテリの極道に見えてきましたよ。

「あ、す、すいません! 制服じゃないから普段と雰囲気が違ったんですぐに気付きませんでした」

 僕は当たり障りのない言葉でその場と取り繕う。
 まさかチンピラに見えたから気付きませんでしたとは言えないだろう。
 その言葉に新堂さんはまんざらでもない様子で笑っていた。

「おう、そうか。まぁ確かに私服で会う事なんて滅多にないもんな……」
「ねぇねぇ坂上くん、何してるの? そんな所で立ち止まってないで、他の所見ようよ!」

 僕が新堂さんたちと話しているのに気付いたのか、倉田さんが小走りでこちらへとやってきた。きっと振り返ったら僕がいなくて驚いて戻ってきたんだろう。

「お、何だ坂上。女連れか? モテるなお前は」
「いいんですか? 坂上くんは確か元木さんがいらしたのでは……浮気は法律で罰せられる事こそありませんが、通俗的に許されることではありませんよ」

 倉田さんの顔を見るなり新堂さんと荒井さんは茶化すように言う。

「ちがいます、倉田さんはそんなのじゃないですし、元木さんともまだお付き合いまでしてませんよ……」
「そんなの!? ひどーい、坂上くんって女の子のこと【そんなの】扱いするんだ。傷ついた……私は遊びだったんだね……」

 余計なことを言わないでくれ、頼むから。また空気がおかしくなる。
 倉田さんをたしなめようと思ったけれど、僕が口を開く前に倉田さんが目の前にいる二人に興味をもったようだった。流石倉田さん、男子が二人並んでいるのに弱い。

「えーと、お二人は? 坂上くんの知り合いですか? あっ、私は新聞部の倉田恵美っていいます! 坂上くんの保護者ですね!」

 堂々と保護者を名乗った。僕は倉田さんに保護されるほどか弱い男だろうか……。

「おう、お前が倉田か。坂上から名前は聞いてるぜ。俺は新堂誠ってんだ。この前の集会で坂上の世話してやったもんだよ」
「あっ! あの七不思議のですね。ボクシング部の新堂さん! 有名じゃないですかー、県大会にも出てるって……」

 新堂さんの名前を聞いたら、倉田さんは少し楽しそうに笑ってみせた。
 僕は集会のあとで知ったんだけど新堂さんはボクシング部で毎年県大会へ行くほどの実力者としてあの広い鳴神学園でもちょっとした有名人らしい。
 噂のなかには「下級生にヤバい薬を売っている」とか「不良を半グレに売って臓器をサバいている」なんておおよそ高校生らしくない噂も混じっていたが、どんな個性も凡才に見えてしまう鳴神学園で有名人であるのはそれだけ期待されているか才知がある生徒だ。将来有名人になるかもしれないのだと思うと倉田さんも嬉しいのだろう。

「えーと、そちらの方もボクシング部の人ですか?」

 倉田さんは今度は荒井さんへと視線を向けた。  お世辞にもボクシング部には見えないし何なら運動部にいたという事実が信じられないような荒井さんだが新堂さんに付き添うなら部の関係者と思っても仕方ないだろう。荒井さんはゲームの手をとめるとようやくこちらへと視線を向けた。

「いえ、僕は荒井昭二といいます。新堂さんと同じく、坂上くんとは集会でお会いしましたよね。あの集会のあと集まった生徒とやりとりをして、良く会っているんですよ」
「荒井さん!?」

 荒井さんが名乗った瞬間、倉田さんは急に色めき立つ。かと思うと明らかにテンションが天元突破した状態で急に早口になっていた。

「荒井さん、七不思議であの、牧場体験の話をした人ですよね? 私、坂上くんの記事を読みましたけど荒井さんの話すっごく面白くて! もー、あの話は私が聞きたかったし坂上くんじゃなくて私が記事にしたいーってすっごく思ったんです! 最高でした!」

 早口になっただけじゃなく、ものすごく食いついて来ている。
 確かに荒井さんの話は七不思議と少し毛色が違っていた。牧場での出来事を語り、学校の七不思議という枠に入れるのは妙かと考えたけど荒井さんの語り口があまりに鮮烈で印象的だったから「学校の七不思議・生徒たちの体験した怖い話」とタイトルをつけ公開する事に決めたのだ。
 だけどまさか倉田さんがそんなにツボに入っていたとは。
 いや、これはたぶんツボに入ったというか倉田さんのことだからきっと何か悪い妄想を考えているに違いない。
 倉田さんは夏と冬にある何かのイベントで自作の本を出しているのだと聞く。主に小説を書いているらしいが、その主役に勝手に僕の名前を使っているらしいのだ。
 時には少しきわどい内容も書いているらしく迷惑していたんだけど、もし倉田さんが荒井さんに興味をもってくれたのなら……。
 ……荒井さん、ごめんなさい。
 今少しだけ「僕じゃなくて荒井さんの話を本にしてくれれば僕の被害がなくなるのにな」と思いました。坂上修一は罪深い男です。
 荒井さんも何かを察したのか、軽く会釈だけすると倉田さんの話を打ち切るようにまたゲームをしはじめた。

「で、ここでは何を売ってるんですか?」

 僕は改めて目の前に広げられた品々を見る。
 胡散臭いラインナップだと思っていたけど、やっぱり胡散臭い。他の場所では統一されたハンドメイド品が多かったというのにここはガラクタのようなものが色々と並んでいるだけだった。
 いくつかのDVDが並んでる他にはやけに立派な装丁の本などが置かれている。かと思えばあちこち名所観光ガイドのようなロードマップがおかれていたり、歪な石のようなものがおかれていたり色々と節操がない。しかも置かれているどの商品もどこか陰鬱な空気をまとっていた。
 不思議そうに商品を見る僕と倉田さんを前に、新堂さんは口をとがらせながらバザーにいる理由を説明しはじめた。

「本当は親父の従兄弟の友人の……何だっけな。まぁいいか、遠い親戚って奴がここで革細工のバッグなんかを売る予定だったらしいんだがな、その前に出たイベントで思いのほか在庫がハケちまった上急遽入院する事になって新作をつくる余裕がないって話だが今さら別のアーティストにスペースを譲り渡す余裕もないし、スペースを空けるのは主催者にも申し訳ないって泣きついてきてよ。それで、俺が売れそうなものを見繕って店を出す事にしたってワケだ」
「まったく、大変でしたよ。突然視聴覚室に連れ込まれて、それから時田くんの映画をいくつかDVDに落としていたんです。時田くんは自分の作品がDVDになって売られるのも喜んでいましたけどね。パッケージの編集もあって本当、大変でしたよ」

 新堂さんに首根っこを掴まれて引きずられる姿は容易に想像が出来る。新堂さんは運動神経が抜群で特に腕っ節は強いのだ。僕より大きな細田さんだって片手で引きずっていけるのだから荒井さんは抵抗することも出来ず拿捕されたに違いない。

「へぇ、じゃぁここにあるDVDは時田さんの作品なんですね?」

 倉田さんはDVDを手にし一つ一つを眺めている。
 作品は「ミイラ男と美女」という学園ホラーもの、「燃えよ正義の拳」というアクションものの他に「怯える男」というドキュメンタリーもあるようだ。
 時田さんは荒井さんの親友らしいのだけれど、時田さんの名前も鳴神では結構知られている。
 何せ1年の頃に映画研究会をつくり撮影機材などを集めて自主映画をつくるという行動力の持ち主なのだ。 映画の評判も自主制作のわりに結構高いらしく、インターネットで一部がupされていたが「高校生の作品じゃない」と評判は上々のようだ。
 何故か作る作品が低予算ノリのマニアックな映画ばかりになっている気はするが、そこが一層マニアに受けているらしい。

「そうですね、ここにあるのは時田くんが去年手がけた自主制作の映画です。今回バザーで販売してもいいかと聞いたら快く受け入れてくれましたよ。自主映画といえばそれまでですが、きちんと見られる映画になっているとおもいますよ。素人の作品ですから荒削りなのは否めませんけれどもね」
「たしか去年の文化祭で流したんですよね。結構面白かったって聞いてます。私、何か買おうかな……えーと、何だろこれ……プリティ霊媒師サナエちゃん?」

 倉田さんは僕より鳴神学園の噂や情報に詳しい。時田さんの事もすでに知っていたようで、ジャケットに書かれたあらすじを眺めていた。

「DVDは時田の作品の他に、岩下がやった演劇の舞台もあるぜ」
「岩下さんの?」
「あぁ、オリジナルの演劇だが、岩下は流石看板女優だな。なかなかの迫力で見応えがあるぞ。坂上もどうだ? 真っ赤なドレスを着た岩下の演技は迫力満点だぜ」

 深紅の衣装、ドレスだろうか。岩下さんの長い黒髪と深紅のドレスはきっとはえる事だろう。
 それに岩下さんの演技に対する情熱は本物だ。以前から一度見てみたいと思っていたが中々機会がなかったのだ。

「つまりそれは、合法的にJKを買うチャンスって事だね新堂」

 等と思っている僕の横から突如風間さんが現れた。
 い、いつの間にいたんだろう。その手は岩下さんの演劇DVDへと伸びていたが、すぐさま新堂さんに打ち落とされていた。

「ノゥッ! 非道いじゃないか新堂、ボクは客だよ。それだってのに手を叩くなんて……」
「岩下から『テメェだけには買わせるな』って言われてるからな。アイツの約束を破ったらどうなるか、お前だってわかるだろう。俺だってまだ死にたくねぇ」

 岩下さんは約束を破るという行為に異常なほど嫌悪を抱き攻撃的になる所があり、約束を守れないといっただけでカッターをもちだし騒ぎになるくらい約束に対して厳しい人だ。
 風間さんだけには渡すな、と言われたDVDを風間さんに渡したら翌日から新堂さんは謎の失踪を遂げるだろう。

「な、何でボクがダメで坂上くんならいいって言うんだ? 意味がわからないよ……」
「そのままの意味だろ、俺にはわかるぜ。おまえはろくな使い方をしないって事くらいな」

 納得しかねるといった風間さんに対して、新堂さんは極めて冷静だった。

「それに、これは岩下から言われているんだ。もし買わせるなら坂上か坂上と同じクラスの内山って奴にしてほしいってな。向こうから指名があるDVDなんだから仕方ねぇだろ」

 指名付きだなんて、僕も内山くんもこなかったらどうなっていたんだろう。
 僕を横に倉田さんは岩下さんの演劇DVDを手にとっていた。

「うちの学校、演劇部も芸能プロが見に来るくらい凄いんですよね。で、内容は外部に全然漏れないとか。そのDVDを買えるなんてこれ、チャンスだよ坂上くん! 幾らなんですか、これ」
「500円だってよ」
「うーん、私と坂上くんで割り勘にしようか。そうしたら私も見ていいよね。私、去年の鳴神文化祭には行ったけど演劇部には入れなかったんだよ。だってチケット制だよチケット制」

 倉田さんは僕に熱っぽく迫る。そんなに珍しいものなら僕も気になるし、今から見ておけば今年の文化祭で役に立つかもしれない。

「じゃあ新堂さん、これ買います。お金は僕が出すからいいよ倉田さん」
「はーい、後で見せてね」

 ポケットに入れた小銭入れからぴったり500円を引き換えに新堂さんはDVDを手渡す。その時僕の耳元で笑いながらそっと告げた。

「一応言っておくぜ。これはお前か内山にだけ売れといわれた1枚だけのDVDだ。そして俺はいま、お前に確かにうった……もしこのDVDにある内容がインターネットにでも流れてみろ。お前の身体が面白い事になるぜ」

 僕の背筋がぞくりとする。
 岩下さんは僕や内山くんを信頼してDVDを預けたのだ。信頼とは約束のようなものでそれを裏切ったら……。

「後で見せて、後で見せてー」

 背後で倉田さんは無邪気に笑っているが絶対にネットとかに流さないようキツく釘を刺しておかなければ、生身の僕に釘が刺されてしまうだろう。

「後で見せてくれたまえよ坂上くん。もしもーし!?」

 風間さんも頑張って何か言っているがこれはもう全面的に無視しよう。
 倉田さんには録画とかしないようにくれぐれも言い含めて、風間さんには盗まれないようしっかり保管しておかなければ……あの人、勝手に人の鞄をあさるからなぁ。
 僕はファスナーのしまる場所に大事にDVDを保管しながら風間さんをスルーを決めこんだ。
 それにしても、急に商品をかき集めたにしては随分と色々ある。「M市美麗トイレガイド」なんて本も出ているけど、これは細田さんが書いたのかな。

「すごい、この美麗トイレガイド、公衆トイレから店舗内トイレまでトイレがあるところのスケッチ、美麗さ、臭い、ウォシュレットの有無から設備充実度まで完全に網羅してる……記事の内容の高さはさることながら、イラストの質! 何このトイレのクオリティ……この才能、寝かせておくには惜しい……是非、私の小説の口絵を書いて欲しい……」

 トイレガイドを読みながら、倉田さんが悪い顔をしている。

「倉田さん、その絵に夢中だけどたぶんその人トイレの絵しか上手じゃないと思うな……」

 僕はついそんな事を言っていた。
 細田さん、何となくだけどトイレ以外のものは書けない気がするんだよな。

「大丈夫よ! それだったら私、トイレから出ない作品を書くから!」

 倉田さんはキラキラした笑顔で何か言ってる。
 まさか倉田さんが細田さんに会わせて小説を書こうとするなんて、それほど魅惑的なトイレを書いていたのだろうか……。

「坂上くんみたいな可愛い男の子がトイレに監禁されたら何もおきない訳ないもんね、くふふ……」

 と、思ったら何かよからぬ方向に話がいっている。細田さんだったら倉田さんを紹介したら「女の子の前だと緊張しちゃうなぁ……えへ、えへ」なんていいながらも満更じゃない様子で受け入れちゃうだろうけど、紹介するのはやめておこう。
 僕がトイレに監禁されよからぬ事をされる小説が世に出回るのだけは避けたいし、その背景がやけに綿密な描写の細田さんイラストなのは謎の屈辱を感じてしまう。
 そんな僕の横で風間さんは広げられた品を物色していた。

「ガラクタばっかりじゃないか、石とか板きれとか……」

 DVDや本のようなしっかりした品もあるけど、確かに一見するとガラクタに見える品もそこには多いのだ。こぶし大の石を手にして怪訝そうな顔を向ける風間さんを新堂さんは頬杖をつきながら見ていた。

「そりゃ、幸運が舞い込むって石だ。金がめちゃくちゃ増えるらしいぜ。500円だな。実際、このバザーでかなり金が稼げてる御利益あるのかもな」
「ふぅん。ま、ボクは大金持ちだから興味ないけどね」

 とか言いつつ、風間さんは素早く石を鞄に詰め込んでいた。
 万引きじゃないか、何て人だ……!
 驚いて新堂さんの方を見ると、新堂さんは指先を口にあて「しーっ」とジェスチャーする。気付いているのに何も言わなかったのか。確かに今の動きはあからさますぎるくらいだけど。

「急用を思い出した! それじゃぁボクはちょっと宝くじを買いに……じゃない、じいやとアフタヌーンティーを楽しんでくるね」

 風間さんは立ち上がると、颯爽とバザーを後にする。大金が転がり込む石を手にしてすぐさま宝くじチャレンジをするつもりなのは一目で分かった。

 「新堂さん、あの石なんだったんですか……」

 僕は気になって聞いてみる。
 すると隣でゲームをしていた荒井さんの方が答えた。

「あれ、夜泣き石ですよ」
「夜泣き石!? それって、細田さんが話していた、あの、トイレにあった呪われた……」
「せっかくなので、禊になるかと思って鳴神学園のいわくつき物品を色々と並べてみたんですよ。これは乗っ取りエクステ、これはイケメンマスク、ルーベライトもあります、全部500円ですよ」
「呪物マニアもいるのか思ったより売れるんだよな、落ちてた謎の結晶みたいなのは全部売れちまったぜ」

 何してるんだこの人たち、鳴神学園の呪物は本物だから不幸まっしぐらじゃないか。
 風間さんは大丈夫だろうか……。

「あっ、向こうで緑色の汁が柱になって吹き上がってる! 何だろう坂上くん、スクープかなスクープ」

 かと思ってたらもう風間さんが爆発してる。

「あーあ、また風間が人の迷惑顧みず周囲に緑の汁をまき散らしてるみたいだぜ」
「困った人ですね、坂上くん、ここにモップとバケツがありますから掃除するように言っておいてくれませんか。どうせまたその辺で復活してると思いますので」

 新堂さんも荒井さんも「まぁするだろうな、爆発くらい」といった顔をしているから手慣れたもんだ。最も、生死にかかわるダメージを負った風間さんは爆発して復活するのが最近は当たり前だからこの反応も頷けるだろう。
 なんて思うのは、僕ももう風間ワールドに引き込まれてしまったからだろうか。

「よくわからないけど、スクープの気配がするよ坂上くん。行ってみよう! 新堂さん、荒井さん、バケツお借りしまーす」

 倉田さんはすっかりスクープを発見した気分になりバケツとモップを手にすると、緑の汁が噴射した場所へと真っ直ぐ走り出す。

「えぇっ、まってよ倉田さん!? あっ、新堂さん荒井さん、ありがとうございました!」

 僕はバザーに出ている二人に軽く会釈すると慌てて倉田さんの後を追いかけた。
 緑の汁が吹き出た地点へ向かえば、パンツ一丁で周囲にあやまる風間さんの姿がある。たぶんだけど、爆発したあと復活した時には全裸だったからパンツだけははかせてもらったんだろう。
 周囲には風間さんの服が若干の緑汁に濡れて落ちていた。

「風間さん、大丈夫ですか」

 僕が声をかけると、風間さんは涙目になってすがりついてくる。

「さ、坂上くんじゃないか。いや、何か急に石が重くなったと思ったら変な磁場が働いてね、つい爆発しちゃったんだけど見ての通りで、少し助けてくれないかな!?」

 パンツ一丁の男にすがられて頼られる状況が人生であるとは思わなかった。
 でもこの風間さんはつい爆発してもすぐ復活する風間さんみたいだ。良かった。時々そのまま行方をくらます風間さんもいるから新しく生えてくるだけマシなほうだろう。

「わかりましたから、一緒に掃除しましょう」
「モップとバケツもありますよー」

 行きがけに水をくんだバケツを取り出し、笑顔になる僕と倉田さんを前に風間さんはかなり不服そうに口を尖らせた。

「えぇ……どうしてボクが掃除なんか……」
「元々は風間さんのスンバラリア汁でしょう? ちゃんと掃除しましょうよ、自分の汁なんですから」
「そうですよー、スンバラリア鑑定したら風間さんだってすぐバレますから、掃除しちゃいましょうよ。バレるとまずいんでしょ、スンバラリア秘密任務中なですから」

 僕と倉田さんに言われ、風間さんはしぶしぶ掃除を始める。
 パンツ一丁のまま掃除をさせてしまったが、他の服は鮮やかな緑色に染まっているしまぁいいか、なんて思いながら僕はバケツを手に取った。

「なんかバザーに来たのに掃除とかさせちゃってごめんね、倉田さん」

 普通、バザーにいったら出ている品物を眺めて楽しんだり、屋台で食事をしたりとのんびり過ごすのを楽しむものだろう。
 知り合いが爆発したからその汁を掃除するなんて事、無いはずだ。
 妙なことに巻き込んでしまった気がして申し訳なくなる僕を前に、倉田さんは屈託なく笑って見せた。

「坂上くんのせいじゃないでしょ、風間さんが勝手に爆発したんだし。それに、私ね。坂上くんと一緒にバザー回れてけっこう楽しかったよ」

 それから、小声で

「……きな人と一緒にいるのが、つまらない訳ないし」

 なんて言うけど、最初の方が聞こえなくて 「いま、何か言った?」 と聞いてみる。

「ううん、別になーんにも。さ、掃除しちゃおっか、すっごいスンバラリア汁が出てるからね」

 そんな僕を前に、倉田さんは少し頬を赤くして笑う。
 僕らの後ろで風間さんは、「ひどいよ、坂上くんも倉田さんもボクのこと全無視かなぁ!?」なんて訴えながらスンバラリア汁を拭いてたけど、まぁそんなこと別にどうだっていいだろう。

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東吾
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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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