インターネット字書きマンの落書き帳
嫉妬深い自分が悔しくてウダウダしちゃうあらいくん(新堂荒/BL)
平和な世界線でお付き合いをしている新堂×荒井の話をします。
しまーすよー♡
今回の話は、新堂が部活を終わるまで教室で待っていた荒井が、忘れ物を取りに来た袖山と顔を合わせ、「新堂のこと好きすぎてすぐ嫉妬しちゃう自分がやだやだ~」って一人もだもだするのを、袖山くんが「そうだね、それもまた恋だね」みたいなテンションで相談に乗る話ですよ。
新堂のこと好きすぎていつももだもだしている荒井のこと好きかい?
今日から好きになろうぜ!
しまーすよー♡
今回の話は、新堂が部活を終わるまで教室で待っていた荒井が、忘れ物を取りに来た袖山と顔を合わせ、「新堂のこと好きすぎてすぐ嫉妬しちゃう自分がやだやだ~」って一人もだもだするのを、袖山くんが「そうだね、それもまた恋だね」みたいなテンションで相談に乗る話ですよ。
新堂のこと好きすぎていつももだもだしている荒井のこと好きかい?
今日から好きになろうぜ!
『自分だけ嫉妬していると思うから』
放課後、いつものように荒井が教室に居残り本を読んでいると、袖山が入って来た。
「あ、荒井くん。今日は教室にいたんだね」
「袖山くん、どうしたんだい。キミにしては随分と遅い時間なのに教室に来るなんて……」
時刻は午後6時半を回っている。
こんな時間まで残っている生徒は大会を間近に控えた運動部くらいだ。 何かと怪異の噂が多い鳴神学園に放課後、好き好んで居残る生徒はほとんどいないのだから。
「駄目だよ袖山くん、鳴神学園は日が暮れるとますます恐ろしい怪異が出るって専らの噂だろう。食人鬼が現れるなんていうんだ、そんなのに狙われたら大変なのに、こんな時間まで残っていたら危ないよ」
自分の事は棚に上げて、ついそんな事を口にする。
すると袖山は困ったように笑いながら自分の机をのぞき込んだ。
「うん、わかっているんだけどね。部室で詰め将棋をしていたら時間を忘れてて……それで、慌てて帰ろうとしたら教室にスマホを置きっぱなしだったのに気付いたから、怖いけど戻ってきたんだ。スマホはやっぱり、無いと不便だからね」
そして、中に入っていたスマホを取り出す。
袖山はスマホをタップし届いていたメッセージを確認すると、安心したように一息ついて荒井のすぐ隣の席へとこしかけた。
「そういう荒井くんは、新堂さんを待っているの?」
袖山は何気なく聞いたようだったから荒井もまた何でもないような顔で笑ってみせたが、内心ひどく動揺していた。
新堂と荒井が付き合っているという事を知っているのは袖山だけで、袖山は他の誰かに言いふらしたりする性格でもない。
今は放課後も過ぎ教室には他に誰も残っていないし、袖山がやってくる足音が教室にいる荒井にも届いたくらいの静けさだ。他の教室に誰もいないのだから、その話を聞いて茶化すような奴はいない。
それがわかっていても、学校で新堂の話をされるのは何となく気恥ずかしかったのだ。
だが同時に、誰かに話したいという気持ちも荒井は抱いていた。
新堂と二人で過ごす時間は自分たちだけのものだが、その心地よい流れに身を委ねる安心感や肌がふれ合うだけで湧き上がる幸福感は、一人で抱えるには大きすぎてそして温かすぎるのだ。
荒井は少し考えると、袖山になら話してもいいだろうと思い、小さくうなずいて見せた。
「うん……新堂さんの部活が終わるのを待っているんだ。終わったら家まで一緒に帰れるからね」
「そっか……荒井くんも気をつけてね、待っているだけでもさ、鳴神学園は何がおこるかわからないから。あっ、もし一人で心細くなったら、囲碁将棋部の部室に来るといいよ。僕がいるときだったら、一緒にいられるから」
袖山は明るい表情で荒井に笑いかける。
去年はサッカー部にいた袖山だが、今は囲碁将棋部に所属している。体力が乏しく練習について行くのが厳しくなり部を辞めたのだが、何かしら部活をしていたほうがいいと両親に言われ、祖父からおそわった将棋なら少しできるから、という理由で在籍しているようだ。
親に言われて仕方なしに部に所属しているようだが、サッカー部よりよっぽど水が合うのだろう、よくこうして遅くまで部室にこもり、詰め将棋をしたりネット対戦の将棋をしたり、充実した活動をしているようだ。
荒井も何度か手合わせしたが、袖山は将棋に関してかなり強く、荒井の勝率は4割といった所だろう。
囲碁将棋部には在籍しているだけの幽霊部員が殆どで実際に囲碁や将棋を指せる相手は一年の内山という後輩くらいで、袖山はいつも対戦相手に不自由しているのだ。
「そうだね、それもいいかな。うん……でも……」
将棋は良い頭の運動にもなるし、袖山は自分より腕も良い。つまらない勝負にしかならないのなら断っていたが、常に熱戦になるのだから誘われるのは嬉しい。
だが、いつも袖山と一緒にいることを新堂が知ったら、気にしないだろうか。
新堂は荒井と袖山が親友であるのは知っているし、袖山については1年の頃からよく面倒を見ている間柄だから別に嫉妬したり、変に仲を勘ぐったりはしないだろう。そもそも、新堂はそういう面ではひどく鈍感なのだ。
「あっ、ひょっとして、僕と一緒にいると新堂さん、怒っちゃうかな。新堂さんも嫌だよね、自分が練習している間に、僕がずっと荒井くんと一緒にいたら。荒井くんのこと、僕が独り占めしているみたいだもんね」
荒井が考える姿を見て、袖山ははっと顔を上げる。
荒井が懸念していた事に、袖山も気付いたのだろう。荒井はそれが気恥ずかしくなり、ついその場に突っ伏していた。
「う、うん……いや、新堂さんはちょっと鈍感だし、袖山くんの事もよく知っているから嫉妬なんてしないってわかっているんだ。わかっているんだけど……僕がね、袖山くんが相手でも、新堂さんに何も心配されてないと、少し傷つくというか……嫉妬してくれない事に、焦れてしまって……」
「えっ、そうなの?」
驚く袖山に、荒井はこくりとうなずいた。
「僕は新堂さんと違って、すぐに嫉妬しちゃうんだ。日野さんとか、大倉さんとか、西澤さんとかはさ、新堂さんと長い付き合いだから一緒にいるのも不自然じゃないし、栗原くんと一緒にパフェを食べに行くのも新堂さんの元々あった日常だから僕が口だしするのはおかしいってわかっているのに、新堂さんが僕じゃない誰かと一緒にどこかに行った、って話をすると、どうして僕を連れて行ってくれなかったのか、とか、僕に声をかけてくれれば一緒に行ったのに、ってすぐそんな事を思ってしまうのにさ……新堂さんはあんまり、そういうの気にしないだろう。何かそれが、僕がひどく狭量に思えもするし、信頼されているのは嬉しいんだけど、心配されてないのかと不安にもなるし……」
長々と取り留めの無い話をしているのに気づき、荒井は大きくため息をつく。
きっと随分と情けなく、湿っぽい考えをするのだと思われただろう。そう不安になるが、袖山は変わらず優しい笑顔を向けていた。
「うん、わかるよ。荒井くんは本当に新堂さんが好きだから、心配になっちゃうんだよね。仕方ないよ、新堂さんは格好いいからね」
新堂はかっこいい。
袖山に言われて、荒井は改めてそう思う。
そう、新堂は格好いいのだ。
当人は「自分みたいな怖ェ顔した不良を好きになってくれる奴なんて、お前くらいなもんだぜ」と笑いながら言うが、新堂に憧れている生徒は多い。
特に後輩たちは、不良のように斜に構えていながらも、困っている時は黙って助けてくれる新堂を見て「自分だけには優しくしてくれる新堂先輩」等と思う生徒は少なくはない。
しかも新堂は、女子に対しては常に一定の距離感を保っているのだが、男子に対してはやけに距離が近くなるような癖があるのだ。
長らく運動部を続けてきて、合宿で雑魚寝や集団での食事などに慣れているのもあるのだろうが、男子相手だと額がつくほど近づいたり、意図もなく特別な甘い言葉をかけたりする。
自分が他人から見れば充分魅力的で色気のある男だという事に全く気付いていないまま、無防備に好意を明け透けにして気に入った相手には優しくするのが、荒井はどうしても気になって仕方がなかったのだ。
「そう、なんだよね。新堂さんは、自分のこと格好いいんだって全然気付いてないんだよ。だから、気に入った相手にはすぐ優しくしちゃうだろ。それで、新堂さんのこと好きな他の奴だって結構いるし……」
「でも、新堂さんが好きなのは荒井くんだけだと思うよ。心配しなくてもいいんじゃないかな」
「それも、わかっているんだよ。でも、嫉妬しちゃうんだ。自分でもかっこ悪いと思っているし、みっともないと思っている。こんなに狭量だったんだ、って呆れる事もあるよ。でも、どうしようもないんだ……好きになっちゃったんだから……」
袖山は静かにうなずきながら、机に突っ伏す荒井の頭を撫でる。
そうして袖山に撫でられるうちに、荒井の気持ちも幾分か落ち着いてきた。
「うん、仕方ないよ。抑えようが無いくらいの思いだから、好きって言うんだもんね」
袖山はいつだって荒井の話を聞いてくれるし、決して否定もしない。それが心地よいから、つい何でも話してしまう。
「うん、そうなんだ……抑えようが無いくらい好きで、好きだから迷惑もかけたくないし、重い奴だとか思われたくない。でも、新堂さんには僕だけを見ていてほしい。そんな風に思う自分が嫌になっちゃうんだよ……」
荒井は優しさに甘え、力なくそう呟く。
教室のドアをノックする音が聞こえたのは、その頃だったろう。
「おい、荒井。いるのか、部活終わったから帰ろうぜ」
ドアの向こうから新堂が顔を出す。
普段は頃合いを見て荒井がボクシング部の部室へ向かうのだが、今日は荒井が来ないから新堂が迎えに来たのだろう。
時計を見れば、すでに夜7時を過ぎていた。
「お、何だ袖山もいたのか。もう遅いぜ、途中まで一緒に帰るか」
「あっ、ありがとうございます新堂さん。それじゃぁ、校門前まで一緒に帰りましょう」
「何だよ、お前も途中までは帰り道は一緒だろ」
「そうですけど、今日は赤川くんから借りたゲームを返しにいかないといけないんです、ごめんなさい」
袖山は立ち上がりながら、荒井の肩を叩く。
きっと、少しでも新堂と二人で過ごせるように気を回してくれたのだろう。
荒井は袖山に小さく頭を下げながら「夜道は何があるかわからないから、気をつけてね」と、袖山にだけ聞こえるように、小さく囁いた。
長い廊下を抜け、階段を下り、下駄箱を過ぎてから校門で袖山と別れると、荒井はいつも通り新堂と並んで歩き出す。
新堂は電車通学で、荒井は徒歩通学だ。一緒に歩ける時間はほんの10分足らずだが、それでも待つのに値する何ものにも代えがたい時間だ。
今日は何を話そうか。あるいは新堂が何か話してくれるのだろうか。あれこれ考える荒井の肩を、新堂は急に抱き寄せた。
「ど、どうしたんですか、新堂さん……」
荒井は驚いて新堂を見る。すると新堂は、やや頬を赤らめて言った。
「……いや、な。お前が袖山と仲がいいのは知ってるし、それが俺の好きとは違うってのはわかってんだけどよ。俺だって一応嫉妬してるし、俺の知らないお前を袖山が知ってる、ってのはちょっとは悔しいと思ってるんだぜ」
急に何を言っているのだろうと少し考え、すぐに理解する。
きっと教室で袖山と話しているのを、聞いていたのだろう。どこまで聞かれたかわからないし、最初から聞いていたとも思えないが、胸の内に秘めていた言葉を聞かれていたのは何とも言えず恥ずかしい。
「あ、そ、それは、違うんです。袖山くんは、そういうのではないですし、別に僕は……」
「わかってるって。でも、まぁ、そういう風に思う事は、俺だってあるって話しだよ。それと……お前が気にする、ってんなら俺も少し気をつけるようにする。だけどな……俺が好きなのはお前だけだってのは、絶対に変わんねぇから、それだけは……信じてくれ」
新堂に肩を抱かれたまま、荒井はじっとその横顔を見る。
自分ばかり嫉妬して、一人で焦れていると思っていたのだが新堂も自分に嫉妬していてくれているのだ。自分と同じように大切に思ってくれていて、そして自分と同じように、独占欲が強いのだろう。
なんて面倒な男なんだと思う。重たい男だし、束縛する性格なのだろうとも。だけど、それがわかった上で荒井は彼に寄り添うと。
「わかってます、信じますよ。信じますけど、嫉妬をする僕を許してくださいね……僕は、それほど嫉妬深くて執念深い、面倒な男ですから」
そう告げて、笑う。
そんな荒井の笑顔を慈しむように新堂は頬を撫でると、静かに唇を重ねる。
日が沈みすっかり暗くなった住宅街に瞬く街灯は、重なる影を長く伸ばしていた。
放課後、いつものように荒井が教室に居残り本を読んでいると、袖山が入って来た。
「あ、荒井くん。今日は教室にいたんだね」
「袖山くん、どうしたんだい。キミにしては随分と遅い時間なのに教室に来るなんて……」
時刻は午後6時半を回っている。
こんな時間まで残っている生徒は大会を間近に控えた運動部くらいだ。 何かと怪異の噂が多い鳴神学園に放課後、好き好んで居残る生徒はほとんどいないのだから。
「駄目だよ袖山くん、鳴神学園は日が暮れるとますます恐ろしい怪異が出るって専らの噂だろう。食人鬼が現れるなんていうんだ、そんなのに狙われたら大変なのに、こんな時間まで残っていたら危ないよ」
自分の事は棚に上げて、ついそんな事を口にする。
すると袖山は困ったように笑いながら自分の机をのぞき込んだ。
「うん、わかっているんだけどね。部室で詰め将棋をしていたら時間を忘れてて……それで、慌てて帰ろうとしたら教室にスマホを置きっぱなしだったのに気付いたから、怖いけど戻ってきたんだ。スマホはやっぱり、無いと不便だからね」
そして、中に入っていたスマホを取り出す。
袖山はスマホをタップし届いていたメッセージを確認すると、安心したように一息ついて荒井のすぐ隣の席へとこしかけた。
「そういう荒井くんは、新堂さんを待っているの?」
袖山は何気なく聞いたようだったから荒井もまた何でもないような顔で笑ってみせたが、内心ひどく動揺していた。
新堂と荒井が付き合っているという事を知っているのは袖山だけで、袖山は他の誰かに言いふらしたりする性格でもない。
今は放課後も過ぎ教室には他に誰も残っていないし、袖山がやってくる足音が教室にいる荒井にも届いたくらいの静けさだ。他の教室に誰もいないのだから、その話を聞いて茶化すような奴はいない。
それがわかっていても、学校で新堂の話をされるのは何となく気恥ずかしかったのだ。
だが同時に、誰かに話したいという気持ちも荒井は抱いていた。
新堂と二人で過ごす時間は自分たちだけのものだが、その心地よい流れに身を委ねる安心感や肌がふれ合うだけで湧き上がる幸福感は、一人で抱えるには大きすぎてそして温かすぎるのだ。
荒井は少し考えると、袖山になら話してもいいだろうと思い、小さくうなずいて見せた。
「うん……新堂さんの部活が終わるのを待っているんだ。終わったら家まで一緒に帰れるからね」
「そっか……荒井くんも気をつけてね、待っているだけでもさ、鳴神学園は何がおこるかわからないから。あっ、もし一人で心細くなったら、囲碁将棋部の部室に来るといいよ。僕がいるときだったら、一緒にいられるから」
袖山は明るい表情で荒井に笑いかける。
去年はサッカー部にいた袖山だが、今は囲碁将棋部に所属している。体力が乏しく練習について行くのが厳しくなり部を辞めたのだが、何かしら部活をしていたほうがいいと両親に言われ、祖父からおそわった将棋なら少しできるから、という理由で在籍しているようだ。
親に言われて仕方なしに部に所属しているようだが、サッカー部よりよっぽど水が合うのだろう、よくこうして遅くまで部室にこもり、詰め将棋をしたりネット対戦の将棋をしたり、充実した活動をしているようだ。
荒井も何度か手合わせしたが、袖山は将棋に関してかなり強く、荒井の勝率は4割といった所だろう。
囲碁将棋部には在籍しているだけの幽霊部員が殆どで実際に囲碁や将棋を指せる相手は一年の内山という後輩くらいで、袖山はいつも対戦相手に不自由しているのだ。
「そうだね、それもいいかな。うん……でも……」
将棋は良い頭の運動にもなるし、袖山は自分より腕も良い。つまらない勝負にしかならないのなら断っていたが、常に熱戦になるのだから誘われるのは嬉しい。
だが、いつも袖山と一緒にいることを新堂が知ったら、気にしないだろうか。
新堂は荒井と袖山が親友であるのは知っているし、袖山については1年の頃からよく面倒を見ている間柄だから別に嫉妬したり、変に仲を勘ぐったりはしないだろう。そもそも、新堂はそういう面ではひどく鈍感なのだ。
「あっ、ひょっとして、僕と一緒にいると新堂さん、怒っちゃうかな。新堂さんも嫌だよね、自分が練習している間に、僕がずっと荒井くんと一緒にいたら。荒井くんのこと、僕が独り占めしているみたいだもんね」
荒井が考える姿を見て、袖山ははっと顔を上げる。
荒井が懸念していた事に、袖山も気付いたのだろう。荒井はそれが気恥ずかしくなり、ついその場に突っ伏していた。
「う、うん……いや、新堂さんはちょっと鈍感だし、袖山くんの事もよく知っているから嫉妬なんてしないってわかっているんだ。わかっているんだけど……僕がね、袖山くんが相手でも、新堂さんに何も心配されてないと、少し傷つくというか……嫉妬してくれない事に、焦れてしまって……」
「えっ、そうなの?」
驚く袖山に、荒井はこくりとうなずいた。
「僕は新堂さんと違って、すぐに嫉妬しちゃうんだ。日野さんとか、大倉さんとか、西澤さんとかはさ、新堂さんと長い付き合いだから一緒にいるのも不自然じゃないし、栗原くんと一緒にパフェを食べに行くのも新堂さんの元々あった日常だから僕が口だしするのはおかしいってわかっているのに、新堂さんが僕じゃない誰かと一緒にどこかに行った、って話をすると、どうして僕を連れて行ってくれなかったのか、とか、僕に声をかけてくれれば一緒に行ったのに、ってすぐそんな事を思ってしまうのにさ……新堂さんはあんまり、そういうの気にしないだろう。何かそれが、僕がひどく狭量に思えもするし、信頼されているのは嬉しいんだけど、心配されてないのかと不安にもなるし……」
長々と取り留めの無い話をしているのに気づき、荒井は大きくため息をつく。
きっと随分と情けなく、湿っぽい考えをするのだと思われただろう。そう不安になるが、袖山は変わらず優しい笑顔を向けていた。
「うん、わかるよ。荒井くんは本当に新堂さんが好きだから、心配になっちゃうんだよね。仕方ないよ、新堂さんは格好いいからね」
新堂はかっこいい。
袖山に言われて、荒井は改めてそう思う。
そう、新堂は格好いいのだ。
当人は「自分みたいな怖ェ顔した不良を好きになってくれる奴なんて、お前くらいなもんだぜ」と笑いながら言うが、新堂に憧れている生徒は多い。
特に後輩たちは、不良のように斜に構えていながらも、困っている時は黙って助けてくれる新堂を見て「自分だけには優しくしてくれる新堂先輩」等と思う生徒は少なくはない。
しかも新堂は、女子に対しては常に一定の距離感を保っているのだが、男子に対してはやけに距離が近くなるような癖があるのだ。
長らく運動部を続けてきて、合宿で雑魚寝や集団での食事などに慣れているのもあるのだろうが、男子相手だと額がつくほど近づいたり、意図もなく特別な甘い言葉をかけたりする。
自分が他人から見れば充分魅力的で色気のある男だという事に全く気付いていないまま、無防備に好意を明け透けにして気に入った相手には優しくするのが、荒井はどうしても気になって仕方がなかったのだ。
「そう、なんだよね。新堂さんは、自分のこと格好いいんだって全然気付いてないんだよ。だから、気に入った相手にはすぐ優しくしちゃうだろ。それで、新堂さんのこと好きな他の奴だって結構いるし……」
「でも、新堂さんが好きなのは荒井くんだけだと思うよ。心配しなくてもいいんじゃないかな」
「それも、わかっているんだよ。でも、嫉妬しちゃうんだ。自分でもかっこ悪いと思っているし、みっともないと思っている。こんなに狭量だったんだ、って呆れる事もあるよ。でも、どうしようもないんだ……好きになっちゃったんだから……」
袖山は静かにうなずきながら、机に突っ伏す荒井の頭を撫でる。
そうして袖山に撫でられるうちに、荒井の気持ちも幾分か落ち着いてきた。
「うん、仕方ないよ。抑えようが無いくらいの思いだから、好きって言うんだもんね」
袖山はいつだって荒井の話を聞いてくれるし、決して否定もしない。それが心地よいから、つい何でも話してしまう。
「うん、そうなんだ……抑えようが無いくらい好きで、好きだから迷惑もかけたくないし、重い奴だとか思われたくない。でも、新堂さんには僕だけを見ていてほしい。そんな風に思う自分が嫌になっちゃうんだよ……」
荒井は優しさに甘え、力なくそう呟く。
教室のドアをノックする音が聞こえたのは、その頃だったろう。
「おい、荒井。いるのか、部活終わったから帰ろうぜ」
ドアの向こうから新堂が顔を出す。
普段は頃合いを見て荒井がボクシング部の部室へ向かうのだが、今日は荒井が来ないから新堂が迎えに来たのだろう。
時計を見れば、すでに夜7時を過ぎていた。
「お、何だ袖山もいたのか。もう遅いぜ、途中まで一緒に帰るか」
「あっ、ありがとうございます新堂さん。それじゃぁ、校門前まで一緒に帰りましょう」
「何だよ、お前も途中までは帰り道は一緒だろ」
「そうですけど、今日は赤川くんから借りたゲームを返しにいかないといけないんです、ごめんなさい」
袖山は立ち上がりながら、荒井の肩を叩く。
きっと、少しでも新堂と二人で過ごせるように気を回してくれたのだろう。
荒井は袖山に小さく頭を下げながら「夜道は何があるかわからないから、気をつけてね」と、袖山にだけ聞こえるように、小さく囁いた。
長い廊下を抜け、階段を下り、下駄箱を過ぎてから校門で袖山と別れると、荒井はいつも通り新堂と並んで歩き出す。
新堂は電車通学で、荒井は徒歩通学だ。一緒に歩ける時間はほんの10分足らずだが、それでも待つのに値する何ものにも代えがたい時間だ。
今日は何を話そうか。あるいは新堂が何か話してくれるのだろうか。あれこれ考える荒井の肩を、新堂は急に抱き寄せた。
「ど、どうしたんですか、新堂さん……」
荒井は驚いて新堂を見る。すると新堂は、やや頬を赤らめて言った。
「……いや、な。お前が袖山と仲がいいのは知ってるし、それが俺の好きとは違うってのはわかってんだけどよ。俺だって一応嫉妬してるし、俺の知らないお前を袖山が知ってる、ってのはちょっとは悔しいと思ってるんだぜ」
急に何を言っているのだろうと少し考え、すぐに理解する。
きっと教室で袖山と話しているのを、聞いていたのだろう。どこまで聞かれたかわからないし、最初から聞いていたとも思えないが、胸の内に秘めていた言葉を聞かれていたのは何とも言えず恥ずかしい。
「あ、そ、それは、違うんです。袖山くんは、そういうのではないですし、別に僕は……」
「わかってるって。でも、まぁ、そういう風に思う事は、俺だってあるって話しだよ。それと……お前が気にする、ってんなら俺も少し気をつけるようにする。だけどな……俺が好きなのはお前だけだってのは、絶対に変わんねぇから、それだけは……信じてくれ」
新堂に肩を抱かれたまま、荒井はじっとその横顔を見る。
自分ばかり嫉妬して、一人で焦れていると思っていたのだが新堂も自分に嫉妬していてくれているのだ。自分と同じように大切に思ってくれていて、そして自分と同じように、独占欲が強いのだろう。
なんて面倒な男なんだと思う。重たい男だし、束縛する性格なのだろうとも。だけど、それがわかった上で荒井は彼に寄り添うと。
「わかってます、信じますよ。信じますけど、嫉妬をする僕を許してくださいね……僕は、それほど嫉妬深くて執念深い、面倒な男ですから」
そう告げて、笑う。
そんな荒井の笑顔を慈しむように新堂は頬を撫でると、静かに唇を重ねる。
日が沈みすっかり暗くなった住宅街に瞬く街灯は、重なる影を長く伸ばしていた。
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