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インターネット字書きマンの落書き帳

   
星野くんはぴば!
星野元風くんの誕生日だったんですね。
お誕生日おめでとう!

それに気付いたら誕生日祝いを何か書こう!
そう思って書きました。

星野と吉川、新堂が出ています。
新堂に対して熱情を抱いている人間が書いたので、新堂のこと「新堂さんは俺の事が大好きに違いない」と勘違いしている男を量産している設定が脳内に存在してますが、俺がそういう病気なので諦めてください。

星野くんはっぴーばーすでー♪

『一人では寂しいもの』

「放課後、屋上に来てくれ。いいか、絶対だぞ」

 午後の授業から姿を見せていない吉川からメッセージが入ったのは、ホームルームがはじまる少し前くらいだった。
 午後の授業は寝ていても文句はいわれないから普段は吉川も出席しているのに、珍しくサボったのかと思っていたが、屋上で何かしていたらしい。
 一体何をしていたんだ、そう思いながら星野はスマホをポケットにねじ込むとのろのろと屋上へ向かい歩き出した。

 星野にはわかっていた。
 吉川は斜に構え不良ぶっているが、本質的には繊細で臆病な性格だ。
 ケンカに強いというワケでもなければ、粗暴な言葉だけしか知らないというほどのバカでもない。

 言ってみれば、極めて普通の少年なのだ。
 普通に授業を受け、制服もいじらず、派手な髪やピアスもやめればごく普通の生徒として生活することも出来ただろう。

 だが、星野は違う。
 生まれつき気性が激しく、怒りだしたら一切に歯止めがきかず暴走するのだ。
 他人からすると些末な下らない事でも、自分のメンツを潰されたと思うと勘弁ならず、まさに相手を殺しても自分の方が正しかったと、そう思えてしまうのだ。
 過去にそうしておこした暴力事件のため、取り返しのつかない事をしてしまった自覚はある。
 その自覚があった上でも「あいつを殴って半殺しにした」という事自体には、何ら罪悪感を抱いていないのも正直な気持ちだった。

 俺を馬鹿にして、メンツを潰した、だから許さない。
 つまるところ星野も、そのような価値観に支配されたつまらない人間にすぎないのだ。

 だが吉川は、そうじゃなかったはずだ。
 口調や態度を見ていればわかる。彼は、辛い思いをしただろうがメンツだけで生きている人間ではない。
 自分よりもっと普通な生活をして、普通な人間として埋もれる事も可能なはずなのだ。

 自分たちはまだ2年生だ。
 進学するにしても就職するにしても、今からもう少し真面目に勉強すれば開ける未来はあるはずだ。
 少なくとも、不良のまま勉強もろくにせず、半ば犯罪まがいの真似事をしてあぶく銭をポケットにねじ込んでいる今よりずっとマシになるはずだ。

 ましてや吉川は自分と違い、ちゃんとした家族もいるのだ。
 吉川は自分をお祖父ちゃん子と言っていたが、それはまだ愛してくれる家族がいる証拠だろう。

 今からでも遅くねぇ、不良なんてやめちまえよ。

 そろそろ、言ってもいいかと思った。
 吉川は不良の性分じゃない。新堂のようにケンカに強いワケでもないし、門田のように一匹狼を気取れる強さもない。また、腕っ節が弱くとも大倉のように知恵と金で権力を得るような要領の良さもないのだ。

 きっと吉川は、下手くそでも地道に努力をして、小さな成果に一喜一憂するような普通の生活のほうがよっぽど向いているタイプだ。

 もし、不良をやめろといって聞かなかったら、吉川の過去を探ればいい。
 星野は一度も吉川の過去、中学時代について触れた事はないが、あの空回りしがちな勢いや不出来な成績、すっとろい運動神経を見ていればわかる。
 吉川は間違いなくイジめられていた側の人間だ。
 不良ぶっていれば少ない語彙で怒声を浴びせるだけである程度周囲がビビるか、面倒な奴だと思って近づかなくなるがだ。
 頭がよくなくとも、運動神経が鈍くとも、見た目でビビらせる事ができればなんとかなるものだ。

 だが、ただそれだけ。
 決して先がある行為ではなく、自分と似たような人間が集まって社会なんて下らないと愚痴を言い合う。それだけのつまらない集団で心の傷を癒やせる。
 たったそれだけのことだ。

 星野は、もうそこから逃れられないのを知っていた。
 自分はつまらない人間でなければいけない。いまさらマトモに戻ったところで、逃れられない罪を背負っているのだから。

 だからせめて、吉川は逃がしてやらなければ。
 こんなどん底の世界が天国であるかのような幻想から一刻も早く目覚めさせてやらなければ。
 重い足取りのまま屋上に向かうと、ぱん、ぱんと明快な音が星野の耳に響いた。

「よー、やっときたか星野。ハッピーバースデー!」

 目の前にはクラッカーをもって笑う吉川がいる。
 屋上にはビニールシートが広げられ、ケーキやオードブル、そして少しの酒が並んでいた。

「何やってんだよ吉川……」
「何って、おまえ今日誕生日だって言ってただろ、ほら、昼休みおまえの先輩がなんか、そうやって絡んでたじゃねーかよ」

 吉川に言われて思い出す。
 昼休み、飯を食おうと思って教室を出た星野を新堂が呼び止めたのだ。

「よー、星野。ほら、おまえ今日誕生日だったろ、これ、プレゼントがわりに喰えよ」

 新堂はそういって、ビニール袋を差し出す。
 中には星野の好物である焼きそばパンやコーラ、よく食べるスナック菓子に甘いものなどが沢山詰め込まれていた。

「よく覚えてたッスね、新堂さん」
「当たり前だろ、可愛い後輩の誕生日を忘れるほど白状な奴だと思ってたのかよ」

 と、いいつつも新堂は苦笑いをする。

「とはいえ、思い出したのは今日の朝だったから、誕生日プレゼントなんて準備できなくてなー……急遽、間に合わせで買った奴で悪ぃけど、ま、受け取ってくれって。その方が気楽でいいだろ」

 そしてそんな事を言うと、手を伸ばし星野の頭をぐりぐりと撫でるのだ。
 新堂とは1年の頃、サッカー部で散々としごかれたが負けじと張り合っていた事が気に入られ、部を辞めた今でも色々と世話をやいてくれる。
 一度気に入った相手の面倒はとことん見る兄貴肌で、時々それが鬱陶しくも思えるが、星野を一人の後輩として見ていて、不良のレッテルを貼らずに接してくれる新堂は鳴神学園でも数少ない理解のある先輩だった。
 ありがたいとは思うのだが。

「よーし、よしよし、相変わらず可愛い奴だなおまえは」

 後輩のことをみんな小動物か何かだと思っているのだろう。誰に対しても頭をなでて笑う新堂は、星野から見ても爽やかで格好良く見える。
 新堂という男は決して整った顔立ちをしているワケではなく、むしろ悪人顔だとか人相が悪いなんて形容の方がよほど良く似合う外見なのだが、仲の良い相手に向ける少年っぽい笑顔は人なつっこさと大人っぽさが同居して、普段よりもずっといい男に見えるのだ。

「ほんと……新堂さん、そういうとこッスよ」

 星野はつい、そう漏らす。
 実際に新堂は気に入った相手を必用以上に気に掛け、近い距離で接する上で無邪気な顔を見せるから、男子生徒からの人気は密かに高いのだ。
 年上で少し不良っぽい先輩、というだけで後輩が憧れるというのもあるのだろうが、その強面の先輩が自分にだけは優しいようなムーブを見せればやはり特別感を得てしまうのだろう。
 かくいう星野も、新堂が甘く笑う姿を見るとドギマギするのが本音だった。

「ともかく、だ。誕生日おめでとうな、いーい1年にしろよ」

 新堂はぐりぐりと頭を撫でて去って行く。
 星野は特に誕生日の話など進んでしないから、吉川はきっとそれを聞いて慌てて準備をしたのだろう。

「急いでデパートとか行ったけど、こんなもんしか無くてよー……ま、でもパーティっぽくはなったべ」
「あ、あぁ。ありがとうな、でも結構金使ったんじゃねーか。お前いつも貧乏だろ」
「大倉さんから貰った小遣いあるからこれくらいな、それに……何かおまえ、あの先輩には嬉しそうに笑ってただろ。俺にはそんな笑わないからちょっと悔しくてな……もーっと俺の方がでっかく祝ってやれるっての、見せつけてやりたかったんだよな」

 吉川は屈託のない笑顔を星野に向ける。
 感情はすぐ顔に出るし、深く考えずに行動する。直情的で短気なところもある癖に、腕っ節はてんで弱い。
 やはり吉川は不良になんて向いてないのだろう。
 だが、それでも。

「……じゃ、乾杯しようぜ!」

 冷えた缶を差し出し笑う吉川を見ていると、思わずにはいられないのだ。

 お前が不良に向いてないのはわかっている。
 だけど、もう少しだけ、自分の友達として傍にいて、一緒に連んでいてほしい。
 それがどんなプレゼントよりも、今の星野が望んでいるものだから。

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東吾
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インターネット駄文書き
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ネットの中に浮ぶ脳髄。
紳士をこじらせているので若干のショタコンです。
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