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インターネット字書きマンの落書き帳

   
影に食われそうな荒井のはなし(新堂×荒井)
平和な世界線でもないけど付き合っているか恋人並の関係にある新堂×荒井の話します。
ここまで挨拶を兼ねた幻覚の説明だよッ。

今回は「影男」ストーリーラインの荒井の話。
身体の中から影男を追い出すぞ~って理由でしょっちゅ刃物で自分を傷つけている荒井と、そんな荒井を見守っていたり支えてたりするような新堂の話ですよ。

恋人というエンドよりもすこししょっぺぇ感じがしますが、たまには湿っぽい感じもいいかなと思っていっしょうけんめいかきました!

影男の話をしている時の荒井はわりと湿っぽくてじっとりしていて、他の話のときより湿度が高くて、フフ……好きですね……。

いつも一生懸命書いてます!
褒めてくれなくてもいいけど、読んでくれたら嬉しい!
新堂×荒井のこと好きになってくれたらもっとうれしい! 今日から好きになろうぜ!



『心は影に変われない』

 えぐるように深く切り裂いた手首から、さらさらと影が零れて行く。 手首を這うように流れる影は壁を背もたれにして座りこむ荒井の影とつながると、まるで荒井の身体が元の住処であったかのようにぞろぞろと列を成し体内へと回帰していった。
 影男と出会ってから、荒井の身体は半ば影にのまれていた。
 今まではぼんやりと自分がどうして影と出会ったのか、どうして影男が自分の中に入り込んで自分に成り代わろうとしているのか覚えていたが今はそれも曖昧だ。 きっとこのまま少しずつ荒井昭二という人間は影に食われて蝕まれやがて完全に影男へと変貌していくのだろう。
 かつてはそれに対し病的なまでの恐怖を抱いていたが、その感情も徐々に薄れていく。それが影男に侵食された結果なのか、恐怖が摩耗し諦めの境地に達したのか荒井にも判別はつかなかった。
 ただ、こうして手首を。時には頸動脈を切り裂いてみるのはまだ僅かながら抵抗する気持ちがあるからだ。
 見知らぬ誰かに身体を乗っ取られて自由にされるくらいなら自分が自分であるうちに死んでしまいたい。荒井はそのように考える男だった。

「よぉ、荒井。相変わらず死に損なってるみたいだな」

 新堂は投げ出されたカッターナイフを拾うとその刃を伸ばす。肌を切り裂いたというのに刃先には血の一滴すらついてはいなかった。

「新堂さんですか……」

 呆けた様子で身体を投げ出す。
 今、自分はどこにいるのだろう。身体の中にいる影を追い出す事ばかりに必死になって周囲の様子に気を止める暇などなかったが、刃物で身体を切り裂くなど正気の行為ではない。人目のある場所で行えばすぐに止められるだろうから、なるべく人のいない場所で普段はやるようにしているが、屋上か校舎裏か、とにかく人のいない場所まで来ていると思うのだが。

「第二体育館の裏手にカッターをもったヤバい奴がいるから何とかしてくれ、って他の生徒に泣きつかれて見に来たんだよ。まさかオマエだったとはな」

 新堂はカッターを片手でもてあそびながら荒井の前へ座りこちらの顔をのぞき込んだ。
 どこか死ぬのに良い場所は無いかとさまよっているうちに影男と出会った場所へ行き着いていたのだろう。最も憎らしい相手と出会いの場を選んでしまうとは皮肉なことだ。あるいはもう、自然とその場を求めるよう脳髄が支配されているのかもしれない。

「死に場所を探してたんですよ……」
「知ってる、影男とやらに支配されてんだよな。以前、俺たちの目の前で手首切った時は見事な手品だと思ったもんだが……」

 新堂はチキチキと音をたてカッターの刃を伸ばすと黒光りする刃物で躊躇なく荒井の首筋を切り裂く。 開いた傷口からは砂鉄のようにざらついた黒い影があふれ出て、ふたたび荒井の身体へすべて戻っていった。

「……本当に死なないんだな、そろそろ全部影になっちまうのかおまえは」
「さぁ、わかりませんよ。僕だって、自分がまだ荒井昭二という一人の人間なのか。影男が荒井昭二を勝手に名乗っているだけなのか、もう判別がつかないんですから」

 手足を投げ出したまま、荒井は空を見る。夏の抜けるような青空は皮肉なほど美しかった。

「そうか。全部忘れちまうんだな」

 新堂はカッターナイフをポケットにしまうと荒井の頬へと触れ、そのまま引き寄せ唇を重ねた。 すでに幾度も唇を重ねているかのように手慣れた様子で舌を慰める溶けるようなキスの後、荒井は呆然と新堂を見る。

「新堂さん、どうして……」
「……忘れたくねぇだろ、とびっきり上等のキスだぜ。ちょっとでもそう思う気持ちがあるならよ、もう少しだけ抗ってみろよ。その影男とやらにな」

 ゆっくり立ち上がると新堂は手を振りながら去って行く。
 自分すらも曖昧になる最中、その背中を眺めながら荒井はぼんやりと思うのだ。

 たとえ自分の全てを影に奪われてしまったとしても、新堂を愛した気持ちは確かに自分のものだったのだと。

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