インターネット字書きマンの落書き帳
日野先輩がアイスをおごってくれる話(日野坂)
夏場にアイスを食べる日野と坂上の話を書きました。
風間と倉田がゲスト出演者です。
コロナ禍の前は、チャリンコに小ぶりの冷蔵庫を乗っけてアイスキャンディを売るオッサン、イベントなんかの時に出没してたんですけどね。
今はもう出てないんでしょうかね……。
そんな郷愁の思いを抱いた、アイス売りのオッサンからアイスを買う話ですよ。
風間と倉田がゲスト出演者です。
コロナ禍の前は、チャリンコに小ぶりの冷蔵庫を乗っけてアイスキャンディを売るオッサン、イベントなんかの時に出没してたんですけどね。
今はもう出てないんでしょうかね……。
そんな郷愁の思いを抱いた、アイス売りのオッサンからアイスを買う話ですよ。
『夏とアイスとアイス売り』
うだるように暑い日、鳴神学園の校門にはアイス売りの男が現れる事がある。
一体どこから来るのかもアイスはどこから仕入れているのかもわからなければ、年齢も定かではない。ただ男だという事だけは誰もが知っていることと、自転車の荷台に大きな冷蔵庫を乗せ、そこから様々な味のアイスキャンディを取り出して売ることは分かっている。
ひょっとしたら怪異に近い存在なのかもしれないが、真夏の暑い日でも部活に励む生徒の前にベルを鳴らして現れるアイス売りは概ね好意的に受け入れられていた。
そして今、そのアイス売りは坂上の前に立っている。
小ぶりな冷蔵庫の中にはキンキンに冷えたアイスキャンディが入っているのだろう。味はイチゴ、メロン、オレンジといった果実の氷菓が多いが、ミルクやカフェオレ味もある。
茹だるような暑さの中、新聞部の活動を終えてもまだ熱気が漂う校門前のアイス売りは教室で見るよりずっと魅力的に思えた。
(食べたいけど、お小遣いもあんまり無いし。どうしよう……)
口元に手を当て、坂上は少し考える。今月は暑さのため冷たいジュースやかき氷などけっこう買い食いをしていて懐には余裕がないが、校門前に現れるアイス売りのアイスは格別に美味しいのだ。迷い葛藤する坂上の肩を、誰かが軽く叩いた。
「よぉ、坂上。アイスが食いたいんだろ、一つおごってやるよ」
振り返ればそこには日野が立っている。坂上の方が先に部室を出たはずだが、迷っているうちに追いつかれてしまったようだ。
「そ、そんな。いいですよ日野さん。悪いですから……」
大げさなくらい首を振る坂上の頭をぐりぐりと撫でた。
「おいおい、俺に遠慮してるのか。気にするなって。坂上はいつも頑張っているし、記事だってキチンとリサーチして丁寧に書いてくれているだろう。ご褒美だと思って、ありがたく受け取ってくれ」
「で、でもっ……」
「ここで断ったら先輩である俺の面子が立たないだろ。ほら、坂上、たまには俺に甘えろって」
そこまで言われたら、断る方が無粋というものだろう。坂上は丁重に頭を下げると
「それじゃぁ、あの……ミルクを……」
おずおず口を開いた。
「わかった、ミルクな。それじゃぁ……」
「ボクはメロンかな」
「はいはいはーい、恵美ちゃんはイチゴ! アイスといえばやっぱりイチゴですよねー」
日野に注文をかぶせるよう、次々と声がする。見ればいつの間にか校門の前には風間と倉田が立っていた。いったいどうしてこの組み合わせなんだろう。
「あ、坂上くん。どうして風間さんと二人で歩いてるんだーっていま思ったでしょ。違うの、部室を出たら、風間さんは何処からともなく現れて一緒に帰ろうなんて言って、嫌ですーって断ったのに勝手についてきたんだから」
倉田はそう言い、風間に対して冷ややかな目を向ける。女の子となれば誰にでも声をかけベタベタと触ってくる風間は、その長身と整った顔立ちをもってしても多くの女子から軽蔑の目で見られる存在であった。
「うぅん、つれないねぇ恵美ちゃんは。そこがキミの強さと可愛さだけどね」
だが風間は微塵もへこたれる様子はなく、アイス売りの取り出したメロン味のアイスキャンディを手に取る。次いで、倉田はイチゴを手に取った。
「おいおい、おまえら勝手に俺におごられるな。まったく……」
そういいつつ、日野は代金を支払うとミルク味のアイスキャンディを坂上に差し出す。
「ほら、坂上。食えよ」
「えぇっ、いいんですか。日野さんは食べてないじゃないですか……」
「あいつらにタカられたから自分の分まで出すのがちょっと厳しくなっちまったんだよ、全く」
ため息をつく日野をよそに、風間と倉田は堂々と自分たちが手にとったアイスを楽しんでいる。あの二人には遠慮がないようだ。手にしたアイスと日野を交互に見つめた後、坂上は思いついたようにぱっと顔をあげた。
「そうだ、日野さん。アイス、半分こしません。日野さんが先に食べるか、僕が先に食べて半分食べたら渡すってのは……」
「半分食べてから渡すのか?」
日野は一瞬、驚いた顔を見せるがすぐに笑うと坂上の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「はは、坂上らしいな。わかった、お前が半分食べたら残りを俺がもらうとするよ。うん、俺も、一人で食べるよりその方がいい」
「はい、わかりました。半分食べたら渡しますからね」
アイスを開ける坂上に、日野は並んで歩き出す。
半分だけアイスを分ける。その意味を深く考えていなかった坂上がそれに気付くのは、日野にアイスを渡したときだった。
うだるように暑い日、鳴神学園の校門にはアイス売りの男が現れる事がある。
一体どこから来るのかもアイスはどこから仕入れているのかもわからなければ、年齢も定かではない。ただ男だという事だけは誰もが知っていることと、自転車の荷台に大きな冷蔵庫を乗せ、そこから様々な味のアイスキャンディを取り出して売ることは分かっている。
ひょっとしたら怪異に近い存在なのかもしれないが、真夏の暑い日でも部活に励む生徒の前にベルを鳴らして現れるアイス売りは概ね好意的に受け入れられていた。
そして今、そのアイス売りは坂上の前に立っている。
小ぶりな冷蔵庫の中にはキンキンに冷えたアイスキャンディが入っているのだろう。味はイチゴ、メロン、オレンジといった果実の氷菓が多いが、ミルクやカフェオレ味もある。
茹だるような暑さの中、新聞部の活動を終えてもまだ熱気が漂う校門前のアイス売りは教室で見るよりずっと魅力的に思えた。
(食べたいけど、お小遣いもあんまり無いし。どうしよう……)
口元に手を当て、坂上は少し考える。今月は暑さのため冷たいジュースやかき氷などけっこう買い食いをしていて懐には余裕がないが、校門前に現れるアイス売りのアイスは格別に美味しいのだ。迷い葛藤する坂上の肩を、誰かが軽く叩いた。
「よぉ、坂上。アイスが食いたいんだろ、一つおごってやるよ」
振り返ればそこには日野が立っている。坂上の方が先に部室を出たはずだが、迷っているうちに追いつかれてしまったようだ。
「そ、そんな。いいですよ日野さん。悪いですから……」
大げさなくらい首を振る坂上の頭をぐりぐりと撫でた。
「おいおい、俺に遠慮してるのか。気にするなって。坂上はいつも頑張っているし、記事だってキチンとリサーチして丁寧に書いてくれているだろう。ご褒美だと思って、ありがたく受け取ってくれ」
「で、でもっ……」
「ここで断ったら先輩である俺の面子が立たないだろ。ほら、坂上、たまには俺に甘えろって」
そこまで言われたら、断る方が無粋というものだろう。坂上は丁重に頭を下げると
「それじゃぁ、あの……ミルクを……」
おずおず口を開いた。
「わかった、ミルクな。それじゃぁ……」
「ボクはメロンかな」
「はいはいはーい、恵美ちゃんはイチゴ! アイスといえばやっぱりイチゴですよねー」
日野に注文をかぶせるよう、次々と声がする。見ればいつの間にか校門の前には風間と倉田が立っていた。いったいどうしてこの組み合わせなんだろう。
「あ、坂上くん。どうして風間さんと二人で歩いてるんだーっていま思ったでしょ。違うの、部室を出たら、風間さんは何処からともなく現れて一緒に帰ろうなんて言って、嫌ですーって断ったのに勝手についてきたんだから」
倉田はそう言い、風間に対して冷ややかな目を向ける。女の子となれば誰にでも声をかけベタベタと触ってくる風間は、その長身と整った顔立ちをもってしても多くの女子から軽蔑の目で見られる存在であった。
「うぅん、つれないねぇ恵美ちゃんは。そこがキミの強さと可愛さだけどね」
だが風間は微塵もへこたれる様子はなく、アイス売りの取り出したメロン味のアイスキャンディを手に取る。次いで、倉田はイチゴを手に取った。
「おいおい、おまえら勝手に俺におごられるな。まったく……」
そういいつつ、日野は代金を支払うとミルク味のアイスキャンディを坂上に差し出す。
「ほら、坂上。食えよ」
「えぇっ、いいんですか。日野さんは食べてないじゃないですか……」
「あいつらにタカられたから自分の分まで出すのがちょっと厳しくなっちまったんだよ、全く」
ため息をつく日野をよそに、風間と倉田は堂々と自分たちが手にとったアイスを楽しんでいる。あの二人には遠慮がないようだ。手にしたアイスと日野を交互に見つめた後、坂上は思いついたようにぱっと顔をあげた。
「そうだ、日野さん。アイス、半分こしません。日野さんが先に食べるか、僕が先に食べて半分食べたら渡すってのは……」
「半分食べてから渡すのか?」
日野は一瞬、驚いた顔を見せるがすぐに笑うと坂上の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「はは、坂上らしいな。わかった、お前が半分食べたら残りを俺がもらうとするよ。うん、俺も、一人で食べるよりその方がいい」
「はい、わかりました。半分食べたら渡しますからね」
アイスを開ける坂上に、日野は並んで歩き出す。
半分だけアイスを分ける。その意味を深く考えていなかった坂上がそれに気付くのは、日野にアイスを渡したときだった。
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