インターネット字書きマンの落書き帳
青年が語る奇妙な死の物語
出来るだけ短い話を書こう!
そんな企画でかいた短い話を焼き直してBlogにupしておきます。
奇妙な死をとげた富豪が何故そのような死を迎えたのか。
それについて語る青年の話です。
短い話ってのも……難しいもんですよねッ……。
そんな企画でかいた短い話を焼き直してBlogにupしておきます。
奇妙な死をとげた富豪が何故そのような死を迎えたのか。
それについて語る青年の話です。
短い話ってのも……難しいもんですよねッ……。
『与えそして奪うもの』
一つを得れば一つを失う。
父の死を知る前に、この言葉を覚えておいてください。
さて、父は一代で財を成し、権力を得て、そして失脚し、隠居生活を余儀なくされました。
人里離れた別荘に引きこもるようになったのは周囲には人間嫌いと吹聴していたようですが、表を歩くには顔が知られすぎていた事の方が大きかったでしょう。
余生を過ごすには充分すぎるほどのい金を手元に残していましたが、人を人とも思わぬような振る舞いを当然としていたあの人にとって、他人の視線や顔色などをうかがいながら生きるのはさぞ自尊心を傷つけられたことでしょうから。
別荘で暮すようになった父は、最初は退屈しのぎに本などを読んでいましたがすぐに飽きてしまいました。
映画を見たり、美術品を買いあさって飾ってみたりもしたようですが心の隙間は埋まらず悶々と過ごしていた風に思えます。
一番のめり込んだのは、オカルト談義でしょうか。
霊媒師やら祈祷師やら拝み屋やら、そういった話を得意とする怪談師といった人たちが一時期は頻繁に訪れて、随分と長く話し込んでいたのは僅かに記憶に残っております。
しかし、最初こそ熱心に聞いていた話も何年も続けていれば飽きもするものです。
父の場合、学術的興味があるとか歴史や伝統を知りたいといった知的好奇心はなく、ただ心にある空しさを埋めるための娯楽でしかなかったから興味が失せれば飽きるのも致し方ないことでしょう。
彼が現われたのは、ちょうどその頃でした。
「貴方の望む話、私でしたら聞かせられる事でしょう。そのかわり、一つを得ると一つを失う。それが契約ですが、よろしいですね」
怪談話には飽きていた父ですが、奇妙な対価を求める青年には興味をもったようでした。
それなら一つ聞いてみようと。つまらなければ追い返せばいいだけだと。そう思って彼を招き入れてから、父は寝食を忘れる程に彼の話へ没頭しました。
青年の話はどれも恐ろしくもおぞましく、そして面白かったのです。
時に生々しく、時に蠱惑的に、息遣いすら感じるほどに真に迫った語りに父は陶酔し、次の話を求め続けました。
一つの話を得て、一つを失う。
その意味にさえ気付かないまま、彼の語る言葉を聞き続け、日に日に痩せ衰え、歳からするとずっと老け込み、それでも話を聴くのをとうとうやめることができなあったのです。
こうして、父は死にました。
身体にいくつもの穴を開けて、ついに絶命したのです。
一つの話を得るたび、肉体の一部を失う。
父は知らずに少しずつ肉体を奪われて、とうとうその命を落としてしまった。死に際の父は実際の年齢より四半世紀は老け込んだ、ミイラのような身体になっておりました。
それがこの奇妙な穴だらけの死体が出来上がった理由であり、父の死の真実なのです。
さて、ここでお伝えしなければいけない事があります。
実は私はこの男の息子ではなく、私こそが彼に話を与えたものであるのです。
さて、あなたが得たこの話は、あなたから何を奪うのでしょうか。
……なぁんて、冗談ですよ。
心配しなくても貴方からは幾ばくかの時間を奪っただけ。
ですが、どうかお気を付けを。
世の中には私のように優しい人間ばかりじゃない。こうして話をするうちに、一つを与え一つ以上を奪う。そのようなものが跋扈しているのが、今の世というものでございますから。
一つを得れば一つを失う。
父の死を知る前に、この言葉を覚えておいてください。
さて、父は一代で財を成し、権力を得て、そして失脚し、隠居生活を余儀なくされました。
人里離れた別荘に引きこもるようになったのは周囲には人間嫌いと吹聴していたようですが、表を歩くには顔が知られすぎていた事の方が大きかったでしょう。
余生を過ごすには充分すぎるほどのい金を手元に残していましたが、人を人とも思わぬような振る舞いを当然としていたあの人にとって、他人の視線や顔色などをうかがいながら生きるのはさぞ自尊心を傷つけられたことでしょうから。
別荘で暮すようになった父は、最初は退屈しのぎに本などを読んでいましたがすぐに飽きてしまいました。
映画を見たり、美術品を買いあさって飾ってみたりもしたようですが心の隙間は埋まらず悶々と過ごしていた風に思えます。
一番のめり込んだのは、オカルト談義でしょうか。
霊媒師やら祈祷師やら拝み屋やら、そういった話を得意とする怪談師といった人たちが一時期は頻繁に訪れて、随分と長く話し込んでいたのは僅かに記憶に残っております。
しかし、最初こそ熱心に聞いていた話も何年も続けていれば飽きもするものです。
父の場合、学術的興味があるとか歴史や伝統を知りたいといった知的好奇心はなく、ただ心にある空しさを埋めるための娯楽でしかなかったから興味が失せれば飽きるのも致し方ないことでしょう。
彼が現われたのは、ちょうどその頃でした。
「貴方の望む話、私でしたら聞かせられる事でしょう。そのかわり、一つを得ると一つを失う。それが契約ですが、よろしいですね」
怪談話には飽きていた父ですが、奇妙な対価を求める青年には興味をもったようでした。
それなら一つ聞いてみようと。つまらなければ追い返せばいいだけだと。そう思って彼を招き入れてから、父は寝食を忘れる程に彼の話へ没頭しました。
青年の話はどれも恐ろしくもおぞましく、そして面白かったのです。
時に生々しく、時に蠱惑的に、息遣いすら感じるほどに真に迫った語りに父は陶酔し、次の話を求め続けました。
一つの話を得て、一つを失う。
その意味にさえ気付かないまま、彼の語る言葉を聞き続け、日に日に痩せ衰え、歳からするとずっと老け込み、それでも話を聴くのをとうとうやめることができなあったのです。
こうして、父は死にました。
身体にいくつもの穴を開けて、ついに絶命したのです。
一つの話を得るたび、肉体の一部を失う。
父は知らずに少しずつ肉体を奪われて、とうとうその命を落としてしまった。死に際の父は実際の年齢より四半世紀は老け込んだ、ミイラのような身体になっておりました。
それがこの奇妙な穴だらけの死体が出来上がった理由であり、父の死の真実なのです。
さて、ここでお伝えしなければいけない事があります。
実は私はこの男の息子ではなく、私こそが彼に話を与えたものであるのです。
さて、あなたが得たこの話は、あなたから何を奪うのでしょうか。
……なぁんて、冗談ですよ。
心配しなくても貴方からは幾ばくかの時間を奪っただけ。
ですが、どうかお気を付けを。
世の中には私のように優しい人間ばかりじゃない。こうして話をするうちに、一つを与え一つ以上を奪う。そのようなものが跋扈しているのが、今の世というものでございますから。
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