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インターネット字書きマンの落書き帳

   
いつまでも画面越しにいる英雄(模造リュージ概念)
事件簿、37歳も全部読んでしまいました。
今年はもうずっと金欠です。(挨拶)

金欠はお金がないのとキンダイチくんが欠乏しているの、二つの意味ですね!

さて、今回は兄の撮ったビデオごしにはじめに憧れていたリュージの話です。
兄から聞かされぼんやりとヒーローだと思っていた存在が身近になった。だけどずっとそれから何も変わらず20年が過ぎていく。

そんな埋めようのない溝を抱えているリュージ概念ですよ!



『かわらない距離』

 ボクが初めて「センパイ」と出会ったのは、亡き兄の撮ったビデオの中でだった。

「見てくれ、竜二。不動高校にすごいセンパイがいるんだ」

 兄である佐木竜太は滅多に見せない笑顔になると、センパイがどれだけすごいのか。いかに鮮やかに事件を解決したのかを幾度も幾度も熱っぽく語っていたのは今でもよく覚えている。その時の兄は得意げにセンパイの活躍をまるで自分の活躍でもあったかのように語っていて、あんなに楽しそうで誇らしげな兄を見たのは後にも先にもあれ一度きりだったろう。
 だが興奮気味に語る兄と裏腹に、ボクはどこか冷めた気持ちでそれを聞いていた。
 ビデオの中にいるセンパイの姿はおおよそ非凡な才能をもつ天才には見えない、探偵の印象などどこにもないいたって普通の高校生にしか見えなかったからだ。
 軽薄で手癖も悪いセンパイの様子は真面目な生徒にも見えず、口調も態度も悪童という方が似合っていただろう。
 だから最初見た時は「苦手なタイプだな」としか思わなかった。
 兄もそうだがボクもどちらかといえば人見知りをする方だし口数だって多くない。制服を着崩すような不真面目さは持ち合わせておらず、センパイのように教師から目をつけられるような生徒とは関わった事がなかったからだ。

 だがそんなセンパイが事件になった時にくるりと表情を変えたのに、ボクは一目で引きつけられた。

 軽薄そうだとか苦手なタイプだといった思いは一気に霧散し、ビデオの画面に釘付けとなる。
 事件を目の当たりにしたセンパイはそれほどまでに表情を変え、冷静で理知的な探偵の姿へと変貌していたのだ。

「センパイはただの高校生じゃない。名探偵……いや、ヒーローだ」

 終始興奮気味に語る兄の言葉に、ボクはただ頷くしかなかった。
 ミステリ好きで新旧様々な本を読み高校でもミステリ研究部に率先して入部するのだから兄にとって名探偵といえば戦隊ヒーローのような憧れの存在だったろう。そしてそれは兄と同じような本を読み作品に触れてきたボクにとっても例外ではない。
 兄のビデオでしか知らないセンパイは、ボクにとっても輝くヒーローそのものだった。

 だけどセンパイは兄のセンパイであり、ボクのセンパイではない。
 兄はセンパイの隣で事件を見て解決までの道のりをともに歩む事が出来るが、ボクはそれが出来ないのだろう。

 心の中でう思っていたのは、センパイと出会うのが兄より遅かったからだ。
 ボクはセンパイの活躍をそばで見て時にはセンパイを助ける事も出来る、そんな立場にいる兄に少し嫉妬した。
 ボクにとっては画面の向こうにある空想するだけだった世界に、今の兄はいるのだ。
 ボクはそれが羨ましく、そして妬ましかった。

 それからボクはすり切れる程に兄の撮ったビデオを見た。
 センパイの言葉を暗記するほど見て、その癖や仕草も覚え真似してみたこともある。

 センパイはボクにとって画面の向こうにいる存在であり、手の届かないヒーローだった。

 だけどボクには兄がいる。
 兄がいて、兄がセンパイのそばにいる限りボクはセンパイに近づけないか近づけても「佐木竜太の弟」という枠から出ることはないのだろう。
 漠然とそう思いながら、羨望だけは日に日に肥大していく。やり場のない感情を抱え勉強が手につかない日が続いた。

 そうして冬を迎えた頃、兄が死んだ。
 あっけない程突然に、そして簡単に兄はたった16歳という若さで殺されてしまったのだ。
 センパイの役に立つのだと息巻いて出かけた、その旅行先で。

 出発する前、兄は嬉々として語っていた。
 センパイの力になりたいのだと。。自分のビデオで証拠をつかむのだと。もうすっかり助手になったような顔をしてチケットを大切そうにしまっていたのは覚えている。
 嫉妬しなかったといえば嘘になるが、楽しそうにしている兄を見ているのはボクも楽しかったし、兄のビデオでセンパイの新たな活躍も見られるのだと思うとうれしかった。

 だが兄は殺された。
 犯人に近づきすぎてしまい、証拠隠滅のため殺されたのだ。

 兄の死が伝えられ家族で慌ただしく葬儀や何やの段取りを決めている時、兄を殺した犯人は逮捕された。
 その事件を解決したのもセンパイだったのだ。

 兄という接点が絶たれ、もうセンパイを見る機会は永遠にないのだろうと心のどこかで思っていた。
 不動高校に進学すればセンパイとの接点ができるだろうというのはわかっていたが、センパイはその頃3年生だ。 ミステリ研究部にも好んで所属しているワケではなさそうだし、たった1年でどれだけともに過ごせるかもわからない。そもそも事件と遭遇する可能性だってないだろう。事件を目の当たりにした時は天才的な思考で解決する才能があってもずっと平穏にすごしていれば普通の高校生だ。
 ボクにはずっとヒーローであるセンパイを目の当たりにする機会などこないのかもしれない。兄の死はボクのヒーローが消え去ったコトを意味し、二重の喪失が長くボクを苦しめた。

 だけどボクは出会うことができた。
 憧れのセンパイがボクの前に現れたのだ。
 あるいはそれは偶然ではなく兄の導きもあったのかもしれない。

 センパイは初めて見たボクを兄と勘違いしずいぶん驚いたが、兄と同じように後輩としてボクに接してくれた。  
 そんなセンパイを前に、ボクは思ったのだ。

 センパイのために生きていく。それが兄の意思ではないかと。

 生前の兄はセンパイを多くの憧れとそのそばにいられる誇りをもって語っていた。
 そんな兄の意志を継いでセンパイの活躍を記録できたのなら死んだ兄も喜ぶのではないかと思ったし何よりボクがセンパイのたどる道を記録しておきたいと思った。

 センパイは兄が死んだのは自分のせいだと思っているふしがありボクが事件に首をつっこむコトを歓迎しなかった。むしろついて来ようとするボクを追い払おうとするOKとが多かっただろう。
 兄の死はセンパイのせいではない。
 兄だって覚悟していたし、犯人には「どうして兄さんを殺す必要があったんだ」と問いただしたくなるがセンパイに「どうして兄を守れなかったのか」なんて感情は抱いていない。
 何度かそう告げたコトもあるがセンパイは納得してくれなかった。あるいは、理解しているが感情がおいつかないのかもしれない。

 センパイは人の「良い心」をとても大切にするひとだ。
 だからとても、優しいのだ。

 犯罪を決して許さない正義感。だけど人を許そうとする優しさをもつセンパイはボクの目の前に現れてもずっとヒーローであり続けた。
 ずっと、ずっと。
 ビデオカメラにおさめるセンパイはいつだって輝くボクのヒーローだったのだ。

 だけど、ボクはずっとかわらない。

 センパイにとって友人であり、後輩であり、事件があった時は相棒のように働ける。
 そんな立場を手に入れたというのに、ボクはずっと溝を。いや、深い谷を感じていた。

 センパイにとってのボクはずっと、佐木竜太の弟でありそれ以外にはなり得なかったのだから。

 センパイは兄の命日になると手を合わせにきてくれた。
 あれから20年たった今でも兄の死を吹っ切れていないようで、ボクが事件に関わるのには相変わらず否定的だった。
 以前兄の死んだホテルで偶然鉢合わせした時もひどくボクを心配していたくらいだ。
 すでにそれを過去のことだと割り切ってしまったボクの方がきっとよっぽど薄情だったろう。

 ボクは20年、センパイをそばで見ている。
 だけどそボクは未だにセンパイを近くに感じるコトが出来ないでいた。

 ずっとあの頃と。
 センパイをビデオカメラの画面ごしに憧れていたあの頃と、ずっとかわらない距離感を前にボクはどうしようもなく無力なのだと気づかされるのだ。

 そしてきっとこの無力さを抱いたまま、ボクは年をとっていくのだろう。
 センパイの影に手を伸ばし、永遠にふれることがないままで。

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インターネット駄文書き
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