インターネット字書きマンの落書き帳
イングヴェイの夢男です(自己紹介)
イングヴェイの夢小説です。(たった一行に凝縮された正気のないひとこと)
いや、もうね。
イングヴェイの前ではぼかぁいつでも夢男になりますよ……。
丁重に丁重にイングヴェイをお出しされたのでね……そりゃなりますよ。
夢男に……。
なりますのでなりました。
イングヴェイが唯一愛している男の僕の話です。
もうそれ以外の何でもないはなしです。
イングヴェイの前だったらメスお兄さんに俺はなる……なるよ……!
いや、もうね。
イングヴェイの前ではぼかぁいつでも夢男になりますよ……。
丁重に丁重にイングヴェイをお出しされたのでね……そりゃなりますよ。
夢男に……。
なりますのでなりました。
イングヴェイが唯一愛している男の僕の話です。
もうそれ以外の何でもないはなしです。
イングヴェイの前だったらメスお兄さんに俺はなる……なるよ……!
『甘さと狡さ』
ベッドが軋む男に急かされるよう目を開ければすでに出立の準備を終えたイングヴェイの姿が目に入る。
「もう、行くんですか……」
眠い目を擦りながら身体を起こせば脳の奥底が痺れるような痛みが身体を留めた。
昨晩は数え切れない程に抱かれ喘ぎ狂う程の快楽と覚えきれないほど愛の言葉を囁かれた身体だ、今こうして起きようとする事すら本来なら無理があるのだ。
だが旅立とうとするのならそれを引き留めない訳にはいかない。
彼を待っている女性はそれこそ空に点在する島の数だけいるのだし誰もが彼を独占もしなければ束縛もしないからこそ最高の一夜をともに奏でる権利を得られるというのを理解しててもなお名残惜しい気持ちが勝っていたからだ。
重たい男だと思わるだろう。面倒な男だとも。だがそれでも引き留めたくなってしまうのは自分の中で彼の存在がそれだけ大きくなってしまったからか、あるいはイングヴェイの元にいる数多の恋人たちの中で自分が唯一見初められた同性の恋人である事実が自分は特別に許されているのだという意識を植え付けているからだろうか。
他の女たちが言えない事も自分には許されるはずだ。そんな甘えのような気持ちがどこかにあったからこそ図々しくも引き留めようと思ってしまうのかもしれない。
「あぁ、また来る。行かなければいけない用があるんでね」
そんな自分を前に嫌な顔ひとつ見せず、イングヴェイは笑っていた。
身支度はもう終わっている。すぐにでも旅立てるだろう。
そんな事を思いぼんやりと見ていればイングヴェイは大きな手を伸ばし頭を撫でてくれるのだ。
イングヴェイはよく頭を撫でてくれる。そうされている時はイングヴェイの恋人というより息子になったような心持ちになり、親から親らしいことなど何一つされてこなかったさみしさがほんの少し薄らぐのだ。
実際に年齢はそれくらい離れているだろうし一緒に酒を飲んでいる時に話すのもまた恋人というより親子のような会話がこの頃は増えてきた気がするが、それだけ付き合いが長くなったという事なのだろう。
「今度来るまでいい子にしてるんだぜ、baby」
そう告げ額にキスをされればそれだけで蕩けそうなほどくすぐったい気持ちになる。
だが今はもっと甘い毒に浸っていたい。
その思いは無意識にイングヴェイの手を握りしめていた。
「い、行かないでください。こんな事をあなたに言う権利など俺にないのはわかってますけど……」
イングヴェイの腕は年齢を考えると逞しいと言えるだろう。
未だ衰えることなく現役で騎空団の一員として戦っているのだから同年代の男たちと比べるまでもないほど鍛えられ若々しい身体だといっていい。
だが長年傍にいた自分にはわかる。
全盛期と呼ばれた頃に比べれば随分と衰えてしまっていることも、身体中に無茶をして動くだけでも辛い程の傷を負っていることも。 年齢を考えれば病が芽吹きいつ身体の中で広がるかだってわかったものではない。
空に魅せられたのはわかるが今の彼は派手に戦えるほど頑健でもなければ無茶ができるほど若くもないのだ。
「……俺は……あんたの墓参りをするのだけはゴメンですよ。俺より先に逝かないでください」
このまま行かせ続ければ待っているのは確実な死だ。そんな事はイングヴェイでもわかっているだろう。わかった上で空の果て、戦いの果てに死ぬのが伊達と酔狂を愛する男には似合いの墓標だといった思いが彼をひたすらに歩ませるのだとも。
だがそれでも止めたいと思ってしまうのだ。1日でも長く生きて欲しいと思ってしまうのだ。
これだけ歳が離れているのだから彼を愛した時から自分が置いて行かれる側なのは理解していたはずなのに、いざその時が迫ると彼を失うのが恐ろしくてしかたがなかったのは愛された時間がそれだけ幸福だったからだろう。
そんな自分を蔑む様子も見せず、イングヴェイは目を細めて見つめる。
重い男だとか意気地がないと罵ってくれれば少しは気が楽になるというのにそんな自分でも受け入れようとしてくれるのだから相変わらずこの人はずるいと思う。
ずるいが誰より愛しいと思ってしまう、そんな人だ。
「娘さんのために、行くんでしょう」
久しぶりに自分のところへ来たのだ。その理由は何となく察しがついていた。
空の旅に戻るという時も自分の所へ来て飽きる程に身体を抱き、その後も新たな旅路に出る前は自分の前に現れて愛と喜びを雨のように注いでくれていたのだから。
今日来たのはきっと、探していた「娘」の居場所がわかったからだ。そして娘のためにイングヴェイは命をかけて戦うのだろう。元より伊達と酔狂を看板に掲げるような男だ。旅をして好む仕事は命がけのものばかりなのだが。
「どうして娘さんがそんなに大切なんですか……あんただって本当はわかっているはずでしょう? 娘さんは……きっと、あなたの本当の娘さんなんかじゃ……」
そう言いかける言葉を、イングヴェイは唇で留めた。
言わせなかったのはその言葉を聞きたくなかったからじゃない。それをこちらに言わせないためだ。 もし実際にその言葉を最後まで告げていたら、きっと自分が許せなかっただろう。イングヴェイは恋人に傷ついて欲しくないと常に思って気を回してくれるのだ。
だが、だからこそわからなくなる。
こんなにも愛してくれているのに、どうして血もつながっていない相手に手を差し伸べようとするのか。
10年、いや20年も会っていない恋人のことを名前も姿も思い出も一切忘れないまま覚え続けていられるのだろうか。
命の危険があるのを分かっていてもなお渦中に飛び込んでいこうとするのか。
こんなにも愛しているというのに、自分と寄り添って静かに過ごす未来を考えてくれないのか……。
「俺は、あなたがわからない。こんなに長く一緒にいるのに、あなたの事がなにも……」
なぜ、どうして。その言葉が何度も渦を巻く。
これだけ時を重ねて愛の言葉を紡ぎ幾度も肌を交えているというのにイングヴェイという人間は会うたびに分からなくなってしまうのだ。
それでもイングヴェイは優しく笑うと、今度は愛しい恋人と交わす情熱的なキスをした。
「俺はすべてわかってるさ……それじゃ、ダメか」
イングヴェイは細い目をしてこちらの姿を捕らえる。
すべてわかっている。
それはその場しのぎの言い訳や思いつきではなく文字通りすべてをわかっての言葉だろう。
この青二才の憤りも嫉妬にも近い思慕も肝心な時に傍にいられない無力さも何もかも分かってくれているのだろう。わかっている上で行ってしまうのはやはりずるいと思うのだが、すべて見透かした上で自分の汚いところもすべて飲み込んで愛してくれているのだ。
それがわかっているのなら、彼のわがままも許さないわけにはいくまい。
本当はもっと傍にいたいし、彼のために役に立ちたいとも思う。男なのだから一緒に戦うべきなのだとも。 だが自分ではあまりに足手まといになるのは理解していた。肩を並べて戦うには生まれ持った才能が違いすぎるというのも、自分は前線に立つよりも戦う前の舞台を整えておくほうがよっぽど向いているということもだ。
そもそも共闘できるような相手はイングヴェイの恋人にはなれない。そのような相手を戦場におく危険性を彼はよく知っていたし、彼の恋人であるというのはいつ彼がきても暖かく迎え入れる事ができる故郷のような存在のことなのだ。
故郷である自分が戦場で彼の目の前で倒れるなど、絶対にあってはならない。そのような悲しい思いをさせるために彼を愛した訳ではないのだから。
「……わかりました、俺がわがままなガキのままじゃ、ガキ大将のあなたが暴れまわる事なんてできませんもんねぇ。いいですよ、行ってください。でも……また、戻ってきてくださいね」
その言葉に、イングヴェイは笑う。
「当然だ。今度はお前と酒を酌み交わすのもいいな……ヴォン・ドールの20年ものを準備しておいてくれ」
「難しい注文ですねぇ……ま、いいですよ。ついでに探しておきますから」
もう一度キスをし、それをさよならの挨拶に代える。
軽く手をあげ去って行く背中を眺め、祈るのはまた出会いともに過ごす夢のような一夜のことだけだ。
そうして今、棚にはご所望のヴォン・ドールを置いている。
この上等なウイスキーを二人で酌み交わし、伊達と酔狂に陶酔する夜を思い描いて日々を過ごせる自分はきっと果報者だろう。
琥珀色の液体は瓶の中で揺れ、微睡む日を待ちわびていた。
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