インターネット字書きマンの落書き帳
フルートを教えてもらいながら焦らされる話(ミツユミ/BL)
逆転検事1&2がリメイクしたからー!
御剣×弓彦のBLがまた流行(はや)りそうな気がするー!
というか流行(はや)れ!
って気持ちで、過去に書いたミツユミをサルベージしたいと思います。
この話は、オレの隠しきれない変態性が出てしまう。
楽器の演奏ってエロいよね、というパトスが溢れてしまっている話です。
御剣って不器用なのにフルートとか吹けるの、本当に!?
という気持ちを込めながら書きました。
公開していた時は弓彦の一人称視点だったけど、今回は全体的に修正してます。
んだばな、したっけ!
御剣×弓彦のBLがまた流行(はや)りそうな気がするー!
というか流行(はや)れ!
って気持ちで、過去に書いたミツユミをサルベージしたいと思います。
この話は、オレの隠しきれない変態性が出てしまう。
楽器の演奏ってエロいよね、というパトスが溢れてしまっている話です。
御剣って不器用なのにフルートとか吹けるの、本当に!?
という気持ちを込めながら書きました。
公開していた時は弓彦の一人称視点だったけど、今回は全体的に修正してます。
んだばな、したっけ!
『オレンジの旋律』
柔らかなオレンジの照明に包まれた室内に、穏やかなフルートの旋律が流れる。
食事の後にこのささやかな演奏会が開かれた理由は他でもない、一柳弓彦の何気ない一言だった。
『御剣ってさ、見た目はいかにも神経質そうだし、何でもキッチリしてないと済まないって顔してるのに、本っ当に不器用だよな』
折り紙で鶴を作り始めた理由が何だったのか、今となっては思い出せない。
ただ、見本の折り方を見て散々苦労した御剣の折り鶴は1cm近いズレがあったのを見て、弓彦はつい笑ってしまった。
何でも完璧にこなせそうだし、実際そのように教育されてきた御剣が、まさか折り鶴を普通に折ることが出来ないとは思ってもいなかったからだ。
辛うじて鶴の形を保っている御剣作の折り鶴を手にして笑うと、御剣は露骨に不機嫌な顔を見せた。
「別に、私はそれ程不器用ではないつもりなのだがな……」
「でも、こんなズレてるよほら、これ」
笑って差し出す折り鶴は羽の間に大きな隙間が出来ていた。
そういえば、御剣の幼馴染みだという絵本画家の男も、御剣はあれで不器用で細かい作業は苦手にしていると言っていた気がするが、まさかここまで苦手だとは思ってもいなかった。
完璧に見える御剣でも、可愛い所があるんだな。
弓彦はその程度の気持ちしか抱いていなかったのだが、御剣は随分気にしているようだった。
自分が不器用だと認めるのが、本当に嫌だったのだろう。
「私は不器用ではないと言ってるだろう。たまたま、ソウイウ作業が苦手というだけで、楽器なら少しばかり自信がある。楽器は、不器用では出来ないことだろう?」
強めにアピールをする御剣を前に、弓彦は興味津々の顔を向けていた。
「えっ。ホントに? 御剣って楽器できるんだ。オレ、御剣が楽器とか演奏している所、見た事ないけど……何やってるの? ギター?ベース?」
「そういったロックな楽器ではないが……ピアノとフルートを少々な」
「フルート!? フルートってあの、横笛のキンピカの奴?」
「良かったら聞いてみるか?」
「えぇ、でも……オレ、あんまり音楽とかわからないし……」
弓彦はあまり気乗りはしていなかったのだが、彼に不器用さをからかわれたのがよほどしゃくに障ったのだろう。御剣はどこからかフルートを取り出し、それを組み立てはじめたから、もう止めても無駄だと思い、御剣の演奏を聴くことになった。
そうして流れているのが、今のこの旋律だ。
何処かで聞いた事はある、だけども名前は知らないその曲は、弓彦の耳を優しく囁きかけ、随分と気持ちを落ち着けてくれる。
それまで父親の影響で、聞く曲といえば激しいロックばかりだった弓彦にとって、耳をつんざくほどの轟音が響くこともなければ低音のデスボイスでがなり立てることもないクラシックの楽曲はひどく新鮮に思えた。
音楽なんてものにてんで疎い弓彦でも、この曲が良い曲なのはわかる。
御剣の演奏がかなり上手だとということもだ。
その旋律は心地よく、フルートを奏でる指先は柔らかに滑るよう動いていく。
そっと触れる唇や吐息は、弓彦の体を抱く時の御剣の姿と重なった。
優しく、暖かく、弓彦の心も体も全てを受け入れ包み込むような仕草と旋律とが、知らぬうちに普段、弓彦が脳の奥底に閉まっている宝物のような記憶を揺さぶる。
自然と昂ぶる体を前に、弓彦はどんどん気恥ずかしくなっていった。
御剣は真面目に、何の含みもなくただ演奏をしているだけなのに、自分ばかりがよこしまな心を抱き思いを募らせるのはひどく失礼な気もしたからだ。
妙な気を起こすな、そんな風に見たら、御剣に対して失礼じゃないか。
弓彦は小さく首をふり、演奏に集中しようとする。
だが、旋律とともに揺れる艶やかな黒髪や照明の下で露わになる蒼白の肌、穏やかな呼吸とともにフルートの上を滑る白い指先ばかりを、どうしても見つめてしまう。
あんな風に、抱いてくれないかな。
この旋律を奏でるように、滑らかに動く指先を滑らせて、この体を抱きしめてくれたのなら、どんなに幸せなんだろう。
この優しく柔らかな音楽のように甘い言葉を、耳元で囁いてくれたのなら。そうして眠りにつくことが出来たら、どれあけ安心できるのだろう。
そんな思いだけが胸の内に燻っていく。
考えてはいけない、失礼だろう、今はそういう時間ではない。
自分を律しようとすればするほど、思いは強くなっていく。
馬鹿な事考えてる、いけない事だ。
それでも、欲望はどんどん肥大していった。
抱いてくれたら、いい。
優しくしてくれたら、きっと幸せだ……。
「終わったぞ……悪くなかっただろう、イチヤナギ君?」
気付いた時、曲は終わっていた。
御剣は少し得意気に笑うと、弓彦の顔をのぞき込む。
「え! あ、その……良くわかんなかったけど。凄かった! ……と、思う」
すっかり油断していたため、つい曖昧な返事になる弓彦を御剣は呆れたように見つめた。
「何だキミは、楽曲の事をさして詳しくない癖に曲をねだたのか……?」
「な、何だよ。違うだろ、御剣が勝手に吹きはじめたんだって。オレは、クラシックとか全然詳しくないって言っただろ?」
「ム……そうだったか。いや、そうだったな……」
「んー、でも良かったよ本当に。オレは音楽なんてオヤジからロックとかハードコアっていうの? そういううるさい曲しか聞かされてなかったけど、こういう穏やかで優しい曲もあるんだなーと思ったし、くいい曲だなーってのはわかったよ。ちょっと厳しい風に聞こえるけど、ほんとは優しくて、暖かくてさ……御剣の声を、聞いてるみたいだった」
弓彦の風ならい感想を聞き、御剣は少し照れたように笑う。
そして手にしたフルートを弓彦へと差し出した。
「キミも少し吹いてみるかね?」
「ええええ! いや、急には無理だって! その、オレ、こういう楽器は触ったことないし。これって高い奴だろ? 壊したりしたら大変じゃないか!」
「心配しなくても、私が手ほどきをしよう。ほら、こう持てばいい……」
御剣は弓彦にフルートを持たせると、その身体を後ろから抱きしめるよう手ほどきをする。
背中から覆い被さるように腕が回り、耳元には優しく吐息がかかる。
あまりに近すぎる距離で、御剣の声は優しく響き、弓彦の脳髄に甘く浸透していった。
「ポジションはこう、こうだ……指先は……そう、その場所に……」
フルートを隔て、弓彦はほとんどされるがまま、ただ胸の鼓動が大きくなる音だけを聞く。
ひょっとしたら御剣に、この胸の鼓動も熱も気付かれているのではないだろうか。いや、それだけではなく、本当は今すぐ御剣の腕に抱かれ、唇を重ね肌を重ね、安寧の夜を過ごしたいと思っていることも見透かされているのではないか。
もしそうだとしたら、ひどく恥ずかしい。
いつも御剣といる時は妙な感情を抱いていると思われるのは嫌だったし、それに気付かれて距離を置かれるのは絶対に嫌だったからだ。
だから胸の内から湧き出る『へんな感情』をぐっと抑えつけ、必死でガマンをしながら、御剣のフルート授業に身体を預ける。
「……そう、そうだな。あぁ、上出来だ。やはり物覚えはいいな、イチヤナギくんは」
だが、ヘンな事を考えないようにしようと思えば思うほど、御剣との距離は近くなり、身体と身体が密着していく。
心臓が飛び出そうになるほど鼓動が激しくなる中、御剣は弓彦の耳元で優しく囁いた。
「そうだ、それじゃ……少し、吹いてみるといい」
御剣が演奏した曲と同じ、力強くも包み込んでくれる愛情に満ちた言葉に弓彦は思わず振り返る。
「えっ、吹いていいの? これ、御剣が大事にしてる奴なんじゃ……」
「そうだが、別にいいだろう。イチヤナギ君ならな」
今さっきまで御剣が使っていた楽器だと思うと、気恥ずかしさが募る。
だが、変に意識して「これって間接キスになる」などと口にすれば、御剣は笑いながら「やはりキミは子供だな」等と言うのだろう。
確かに自分は子供だが、そうからかわれるのは嫌だったし、少しは大人っぽいと思われたい。
だからわざと鈍感に振る舞い、恐る恐る口を付ける。 さっきまで御剣の唇を預けていたフルートは、まだ暖かいような気がした。
何でもない、ただのフルートなのに否応なく鼓動は高まっていく。
「息を吹き付けなければ音はならないが」
「わ、わかってる……わかってるよ」
そう言い息を吹き付けるが、ただフルートの中を吐息が駆け回るだけ。 音は鳴りそうにもなかった。
「みつるぎー……鳴らないからさ。もういいだろ?」
これ以上続けていたら、恥ずかしくて心臓が爆発してしまいそうだ。
弓彦は早めに練習を諦めると、何とかフルートを御剣へと返そうとする。
だが御剣は、弓彦の焦りなど全く気付かない様子で、再び抱きしめるよう手を握った。
「いや、ポジションが悪いだけだろう……こう、こうだ……」
弓彦の華奢な身体を抱く腕の温もりは、ワイシャツの上からでもわかる。
吐息は耳に絡まり、鼓動はうるさいほど高鳴っていく。
暖かな身体に抱かれて、その指先で優しく触れられていれば、話に集中できるはずもない。
「もう一度、吹いてみてくれないかね?」
そう言われて吹いても、やはり音が出る事はなかった。
当然だろう、弓彦の気はすっかりそれており、フルートどころじゃ無かったのだから。
「……おかしいな。ポジションは間違ってないのだが。吹き方がおかしいのだろうか」
「い、いいだろもう。きっと向いてないんだよ、オレ」
弓彦はすっかり火照った体を悟られまいと、一刻も早く御剣から離れようとする。だが御剣の体は、離れようと思えば思う程近づいていき、ついに御剣は弓彦をかかえると、膝に座らせ手ほどきをはじめた。
「妙だな、間違えていないのだから、音も出ないのはおかしいのだが」
そう言う御剣の指先は弓彦の腕から胸元へ、身体へ、腰へ……まるで楽器を奏でるように滑らかに触れながら、耳に絡まっていた吐息はより暖かく優しく艶やかに変貌していく。
その声も吐息も指先もあまりに優しく、だけれどもあまりにもどかしい。
「ちょっ、まってくれよ……みつるぎぃ、イヤだぁ……嫌だって、オレ……何だか……」
暖かくなっていた身体が、内側からむずむすしてくる。
ついにガマン出来なくなった弓彦の口からは、自分でも聞いた事のないほど艶やかな声が漏れていた。
その瞬間をまっていたかのように、御剣は笑う。
「やっといい声が出たな、イチヤナギ君?」
その顔は何処か満足そうだった。
「やっといい声って。みつるぎ?」
「ガマンしてなかなか自分の思いを言わないキミだからな、少し意地悪してやろうと思ったのだが。案外に耐えたものだ」
その言葉で弓彦は、御剣が最初からこちらの気持ちを見透かしていたことに気付いた。
気付きながら、わざと焦らすような真似をしていたのだ。
「な、何だよ御剣……ずっと、気付いてたのかよッ」
「演奏中からずっと、キミの様子がおかしかったからな」
「ずるっ……ずるいよみつるぎ! 気付いてたならさ、もっと早く言ってくれって。オレ。オレ……すっごくはずかしっ……」
「ふふ……すまなかった、そのかわり。な」
御剣の唇が、自然と弓彦の唇と重なる。
「……その埋め合わせはしよう。どうだ、イチヤナギ君。キミの身体をもっとそばに感じさせてくれるか?」
耳に絡まる甘い言葉と、溶ける程に優しいキスは、全てを許し受け入れてしまう。
「う、うん……わかった、わかったから……今度は、あんまり意地悪しないでくれよ? 」
弓彦は少し甘えた声を出し、もう一度キスをねだる。
御剣の奏でた曲と同じように緩やかで優しく、暖かい夜が始まろうとしていた。
柔らかなオレンジの照明に包まれた室内に、穏やかなフルートの旋律が流れる。
食事の後にこのささやかな演奏会が開かれた理由は他でもない、一柳弓彦の何気ない一言だった。
『御剣ってさ、見た目はいかにも神経質そうだし、何でもキッチリしてないと済まないって顔してるのに、本っ当に不器用だよな』
折り紙で鶴を作り始めた理由が何だったのか、今となっては思い出せない。
ただ、見本の折り方を見て散々苦労した御剣の折り鶴は1cm近いズレがあったのを見て、弓彦はつい笑ってしまった。
何でも完璧にこなせそうだし、実際そのように教育されてきた御剣が、まさか折り鶴を普通に折ることが出来ないとは思ってもいなかったからだ。
辛うじて鶴の形を保っている御剣作の折り鶴を手にして笑うと、御剣は露骨に不機嫌な顔を見せた。
「別に、私はそれ程不器用ではないつもりなのだがな……」
「でも、こんなズレてるよほら、これ」
笑って差し出す折り鶴は羽の間に大きな隙間が出来ていた。
そういえば、御剣の幼馴染みだという絵本画家の男も、御剣はあれで不器用で細かい作業は苦手にしていると言っていた気がするが、まさかここまで苦手だとは思ってもいなかった。
完璧に見える御剣でも、可愛い所があるんだな。
弓彦はその程度の気持ちしか抱いていなかったのだが、御剣は随分気にしているようだった。
自分が不器用だと認めるのが、本当に嫌だったのだろう。
「私は不器用ではないと言ってるだろう。たまたま、ソウイウ作業が苦手というだけで、楽器なら少しばかり自信がある。楽器は、不器用では出来ないことだろう?」
強めにアピールをする御剣を前に、弓彦は興味津々の顔を向けていた。
「えっ。ホントに? 御剣って楽器できるんだ。オレ、御剣が楽器とか演奏している所、見た事ないけど……何やってるの? ギター?ベース?」
「そういったロックな楽器ではないが……ピアノとフルートを少々な」
「フルート!? フルートってあの、横笛のキンピカの奴?」
「良かったら聞いてみるか?」
「えぇ、でも……オレ、あんまり音楽とかわからないし……」
弓彦はあまり気乗りはしていなかったのだが、彼に不器用さをからかわれたのがよほどしゃくに障ったのだろう。御剣はどこからかフルートを取り出し、それを組み立てはじめたから、もう止めても無駄だと思い、御剣の演奏を聴くことになった。
そうして流れているのが、今のこの旋律だ。
何処かで聞いた事はある、だけども名前は知らないその曲は、弓彦の耳を優しく囁きかけ、随分と気持ちを落ち着けてくれる。
それまで父親の影響で、聞く曲といえば激しいロックばかりだった弓彦にとって、耳をつんざくほどの轟音が響くこともなければ低音のデスボイスでがなり立てることもないクラシックの楽曲はひどく新鮮に思えた。
音楽なんてものにてんで疎い弓彦でも、この曲が良い曲なのはわかる。
御剣の演奏がかなり上手だとということもだ。
その旋律は心地よく、フルートを奏でる指先は柔らかに滑るよう動いていく。
そっと触れる唇や吐息は、弓彦の体を抱く時の御剣の姿と重なった。
優しく、暖かく、弓彦の心も体も全てを受け入れ包み込むような仕草と旋律とが、知らぬうちに普段、弓彦が脳の奥底に閉まっている宝物のような記憶を揺さぶる。
自然と昂ぶる体を前に、弓彦はどんどん気恥ずかしくなっていった。
御剣は真面目に、何の含みもなくただ演奏をしているだけなのに、自分ばかりがよこしまな心を抱き思いを募らせるのはひどく失礼な気もしたからだ。
妙な気を起こすな、そんな風に見たら、御剣に対して失礼じゃないか。
弓彦は小さく首をふり、演奏に集中しようとする。
だが、旋律とともに揺れる艶やかな黒髪や照明の下で露わになる蒼白の肌、穏やかな呼吸とともにフルートの上を滑る白い指先ばかりを、どうしても見つめてしまう。
あんな風に、抱いてくれないかな。
この旋律を奏でるように、滑らかに動く指先を滑らせて、この体を抱きしめてくれたのなら、どんなに幸せなんだろう。
この優しく柔らかな音楽のように甘い言葉を、耳元で囁いてくれたのなら。そうして眠りにつくことが出来たら、どれあけ安心できるのだろう。
そんな思いだけが胸の内に燻っていく。
考えてはいけない、失礼だろう、今はそういう時間ではない。
自分を律しようとすればするほど、思いは強くなっていく。
馬鹿な事考えてる、いけない事だ。
それでも、欲望はどんどん肥大していった。
抱いてくれたら、いい。
優しくしてくれたら、きっと幸せだ……。
「終わったぞ……悪くなかっただろう、イチヤナギ君?」
気付いた時、曲は終わっていた。
御剣は少し得意気に笑うと、弓彦の顔をのぞき込む。
「え! あ、その……良くわかんなかったけど。凄かった! ……と、思う」
すっかり油断していたため、つい曖昧な返事になる弓彦を御剣は呆れたように見つめた。
「何だキミは、楽曲の事をさして詳しくない癖に曲をねだたのか……?」
「な、何だよ。違うだろ、御剣が勝手に吹きはじめたんだって。オレは、クラシックとか全然詳しくないって言っただろ?」
「ム……そうだったか。いや、そうだったな……」
「んー、でも良かったよ本当に。オレは音楽なんてオヤジからロックとかハードコアっていうの? そういううるさい曲しか聞かされてなかったけど、こういう穏やかで優しい曲もあるんだなーと思ったし、くいい曲だなーってのはわかったよ。ちょっと厳しい風に聞こえるけど、ほんとは優しくて、暖かくてさ……御剣の声を、聞いてるみたいだった」
弓彦の風ならい感想を聞き、御剣は少し照れたように笑う。
そして手にしたフルートを弓彦へと差し出した。
「キミも少し吹いてみるかね?」
「ええええ! いや、急には無理だって! その、オレ、こういう楽器は触ったことないし。これって高い奴だろ? 壊したりしたら大変じゃないか!」
「心配しなくても、私が手ほどきをしよう。ほら、こう持てばいい……」
御剣は弓彦にフルートを持たせると、その身体を後ろから抱きしめるよう手ほどきをする。
背中から覆い被さるように腕が回り、耳元には優しく吐息がかかる。
あまりに近すぎる距離で、御剣の声は優しく響き、弓彦の脳髄に甘く浸透していった。
「ポジションはこう、こうだ……指先は……そう、その場所に……」
フルートを隔て、弓彦はほとんどされるがまま、ただ胸の鼓動が大きくなる音だけを聞く。
ひょっとしたら御剣に、この胸の鼓動も熱も気付かれているのではないだろうか。いや、それだけではなく、本当は今すぐ御剣の腕に抱かれ、唇を重ね肌を重ね、安寧の夜を過ごしたいと思っていることも見透かされているのではないか。
もしそうだとしたら、ひどく恥ずかしい。
いつも御剣といる時は妙な感情を抱いていると思われるのは嫌だったし、それに気付かれて距離を置かれるのは絶対に嫌だったからだ。
だから胸の内から湧き出る『へんな感情』をぐっと抑えつけ、必死でガマンをしながら、御剣のフルート授業に身体を預ける。
「……そう、そうだな。あぁ、上出来だ。やはり物覚えはいいな、イチヤナギくんは」
だが、ヘンな事を考えないようにしようと思えば思うほど、御剣との距離は近くなり、身体と身体が密着していく。
心臓が飛び出そうになるほど鼓動が激しくなる中、御剣は弓彦の耳元で優しく囁いた。
「そうだ、それじゃ……少し、吹いてみるといい」
御剣が演奏した曲と同じ、力強くも包み込んでくれる愛情に満ちた言葉に弓彦は思わず振り返る。
「えっ、吹いていいの? これ、御剣が大事にしてる奴なんじゃ……」
「そうだが、別にいいだろう。イチヤナギ君ならな」
今さっきまで御剣が使っていた楽器だと思うと、気恥ずかしさが募る。
だが、変に意識して「これって間接キスになる」などと口にすれば、御剣は笑いながら「やはりキミは子供だな」等と言うのだろう。
確かに自分は子供だが、そうからかわれるのは嫌だったし、少しは大人っぽいと思われたい。
だからわざと鈍感に振る舞い、恐る恐る口を付ける。 さっきまで御剣の唇を預けていたフルートは、まだ暖かいような気がした。
何でもない、ただのフルートなのに否応なく鼓動は高まっていく。
「息を吹き付けなければ音はならないが」
「わ、わかってる……わかってるよ」
そう言い息を吹き付けるが、ただフルートの中を吐息が駆け回るだけ。 音は鳴りそうにもなかった。
「みつるぎー……鳴らないからさ。もういいだろ?」
これ以上続けていたら、恥ずかしくて心臓が爆発してしまいそうだ。
弓彦は早めに練習を諦めると、何とかフルートを御剣へと返そうとする。
だが御剣は、弓彦の焦りなど全く気付かない様子で、再び抱きしめるよう手を握った。
「いや、ポジションが悪いだけだろう……こう、こうだ……」
弓彦の華奢な身体を抱く腕の温もりは、ワイシャツの上からでもわかる。
吐息は耳に絡まり、鼓動はうるさいほど高鳴っていく。
暖かな身体に抱かれて、その指先で優しく触れられていれば、話に集中できるはずもない。
「もう一度、吹いてみてくれないかね?」
そう言われて吹いても、やはり音が出る事はなかった。
当然だろう、弓彦の気はすっかりそれており、フルートどころじゃ無かったのだから。
「……おかしいな。ポジションは間違ってないのだが。吹き方がおかしいのだろうか」
「い、いいだろもう。きっと向いてないんだよ、オレ」
弓彦はすっかり火照った体を悟られまいと、一刻も早く御剣から離れようとする。だが御剣の体は、離れようと思えば思う程近づいていき、ついに御剣は弓彦をかかえると、膝に座らせ手ほどきをはじめた。
「妙だな、間違えていないのだから、音も出ないのはおかしいのだが」
そう言う御剣の指先は弓彦の腕から胸元へ、身体へ、腰へ……まるで楽器を奏でるように滑らかに触れながら、耳に絡まっていた吐息はより暖かく優しく艶やかに変貌していく。
その声も吐息も指先もあまりに優しく、だけれどもあまりにもどかしい。
「ちょっ、まってくれよ……みつるぎぃ、イヤだぁ……嫌だって、オレ……何だか……」
暖かくなっていた身体が、内側からむずむすしてくる。
ついにガマン出来なくなった弓彦の口からは、自分でも聞いた事のないほど艶やかな声が漏れていた。
その瞬間をまっていたかのように、御剣は笑う。
「やっといい声が出たな、イチヤナギ君?」
その顔は何処か満足そうだった。
「やっといい声って。みつるぎ?」
「ガマンしてなかなか自分の思いを言わないキミだからな、少し意地悪してやろうと思ったのだが。案外に耐えたものだ」
その言葉で弓彦は、御剣が最初からこちらの気持ちを見透かしていたことに気付いた。
気付きながら、わざと焦らすような真似をしていたのだ。
「な、何だよ御剣……ずっと、気付いてたのかよッ」
「演奏中からずっと、キミの様子がおかしかったからな」
「ずるっ……ずるいよみつるぎ! 気付いてたならさ、もっと早く言ってくれって。オレ。オレ……すっごくはずかしっ……」
「ふふ……すまなかった、そのかわり。な」
御剣の唇が、自然と弓彦の唇と重なる。
「……その埋め合わせはしよう。どうだ、イチヤナギ君。キミの身体をもっとそばに感じさせてくれるか?」
耳に絡まる甘い言葉と、溶ける程に優しいキスは、全てを許し受け入れてしまう。
「う、うん……わかった、わかったから……今度は、あんまり意地悪しないでくれよ? 」
弓彦は少し甘えた声を出し、もう一度キスをねだる。
御剣の奏でた曲と同じように緩やかで優しく、暖かい夜が始まろうとしていた。
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