インターネット字書きマンの落書き帳
治安の悪いアントニオと普通の石動の話(※どうぶつが・ひどいめにあいます)
フォロワーが石アン本を携えてサークル参加するそうです。
がんばれ♥
がんばれ♥
フォロワーのサンプルを見て、「俺も石動とアントニオ書きたい」「出来れば治安の悪いアントニオ書きたい!」と思って書きました。
結果として、「フォロワーが見れないタイプ」の二次創作になりました。
……ほんま、ごめんて!
という訳で今回は注意書きをいれます。
・動物が死ぬ描写があります。
・小さい動物が死んでいます。
大事なので!
具体的な描写は避けてますが、動物が死んでいるのは人間が死ぬより辛いからね。
人間も大事にしてあげて!
がんばれ♥
がんばれ♥
フォロワーのサンプルを見て、「俺も石動とアントニオ書きたい」「出来れば治安の悪いアントニオ書きたい!」と思って書きました。
結果として、「フォロワーが見れないタイプ」の二次創作になりました。
……ほんま、ごめんて!
という訳で今回は注意書きをいれます。
・動物が死ぬ描写があります。
・小さい動物が死んでいます。
大事なので!
具体的な描写は避けてますが、動物が死んでいるのは人間が死ぬより辛いからね。
人間も大事にしてあげて!
『無垢な軛』
「最近、児童公園に動物の死体が捨て置かれている事件がありまして……」
ソファーに座る依頼人の言葉を、アントニオはハンモックの上で聞いていた。
依頼人としてやってきたのは、事務所の周辺地区を管理している区長だ。
定年で仕事を辞めた後、地域の活動を主にやっていると言い、区内の費用を預かってゴミ拾いをしたり、祭などがあれば参加者をまとめたりと、細々とした仕事を請け負っているのだという。
区長の話では、一ヶ月ほど前から公園に動物の死骸が捨てられるようになったらしい。
最初は、ペットショップで買ったらしいハムスター類。それから、小鳥。それからは、ゴミ漁りをしていた鴉。そして先日は、野良猫らしい死骸が見せつけられるように引き裂かれ捨てられていた。
「それは、悪い傾向ですねぇ」
話を聞いた石動は、珍しく真面目な顔で区長を見ていた。
石動が所長を務める探偵事務所は、普通の探偵がするような仕事……例えば浮気調査であったりペット探しといった、王道の困りごとにあまり興味は見せず断る事も多い。
名探偵を自称し、ミステリー小説に出るような密室殺人やバラバラ事件といったロマンある殺人事件を解決したい石動にとって、そういった雑務は事件の対象外なのだ。
だから、石動が区長の困りごとという、いかにも普通で地味な調査など、聞く耳持たないものだろうと思っていたのだが。
「最初は、小さな個体だったものが、日が経つにつれ大きな個体となり、さらに残虐性も増している。このタイプの暴力に躊躇がない人間ってのは、人間の倫理観ってのを平然と踏み越えていくものです。このまま放っておいたら、いずれ子供か、女性か、老人か……立場の弱い人間に刃が向く事にもなりそうです」
よどみなく告げる石動を見て、区長はすっかり困った様子で椅子に小さくこしかける。
元々あまり大柄ではない体が、ますます小さく見えた。
「区内でも、子供たちが狙われるのではと不安になる親御さんが増えておりまして……警察にも連絡しているんですが、まだ何も起きてませんから、パトロールの強化くらいしか出来ないようなのです。石動さんが、犯人を見つけてくれればありがたいのですが、あいにくあまりお金がありませんで……」
アントニオは天井を眺めながら、声だけを聞く。
どうやらこの依頼は、区民からの依頼ではなく、区長の個人的な依頼のようだ。
調査や張り込みを長期間、というのは金額的に無理らしい。
全てを聞くと、石動は少し残念そうに眉を顰めた。
「本音を言うと、犯人になってもらってから調査したいんですが……」
「な、何いってるんですか、石動さん。勘弁してくださいよ。それって、誰かが死んでから調査するってことでしょう」
「まぁ、そういう訳にもいきませんよね。今までの犯行時刻や、傾向から、この日なら現れるのではないかという夜をピンポイントに見回りをしましょう。今までの経緯を詳しく教えてくれますか」
石動はモノが置かれたままの机に地図を広げ、区長と相談しはじめる。
公園は、いつも子供たちは遅くても18時頃には誰もいなくなる。
近くの通りは夜間帯でも帰路につく会社員も多いから、妙な動きをする誰かがいれば否が応でも目立つはずだ。
死体は見せつけるように置かれ、無惨に引き裂かれているのだという。
明け方近くだと、新聞配達員が周辺を回るの考えると、夜半から深夜帯に現れているのではないか。
見張りの日取りを決め、段取りの相談を終えた後。
「おい、聞いてただろアントニオ。この日はお前も一緒に見張るんだからな」
そう、声がかかる。
アントニオはハンモックに寝転んだまま、ひらひらと手を振った。
現場は、団地やマンションの近くにある柵にかこまれた児童公園だ。
花壇があり噴水があって整地された散歩コースがあるタイプの広い公園ではなく、中に入ればほとんど隅々まで見渡せ、ジャングルジムや滑り台、ブランコなどが置かれている、まさしく子供の遊び場だ。
そんな所に動物の。それも無惨に引き裂いた死体を置いていくのだから、明らかに子供たちを怖がらせたくてしているのだろう。
「犯人は、ろくな奴じゃないだろうな。臆病者の癖に尊大。弱い者にしか強く振る舞えない卑怯者だが、プライドだけが肥大しているから、頭の中で自分のこと特別だと思っているんだろうさ。だから、特別さを演出するためにこんな、下らない真似をするんだろうさ」
石動はアントニオに聞こえるように言う。
その推測に、アントニオも概ね同意していた。
ただ一つ、違うことがあるのなら――。
――自分のこと、特別だと思っている訳じゃないですよ、きっと。
そいつは――。
命を奪うということを、特別なことだと思っている。
※※※
子供たちがいなくなってから、朝方には動物の死骸が投げ込まれていた。
区長の言葉から、石動とアントニオは子供の姿が消えた頃から公園を見張っていた。
身を隠す場所も乏しい、狭い公園だ。
一歩入ればどこに誰がいるのかすぐわかるような場所だが、公園に入る道がやや奥まっているため、死角になりやすい場所でもある。
こんな場所を知っているのだから、おそらく犯人は近所の人間か。少なくてもこの地区に土地勘がある相手だろう。
「来るなら夜ですかねぇ。朝まで見張るとなると大変でしょうから、大将は先に休んでいてください」
アントニオは、自分が先に見張りに立つことにした。
今日は、近くの駐車場に車を止めている。
夜通しの見張りになるだろうから、車の中で仮眠できるようにするためだ。
「いいのか? 悪いなぁ、いつもお前に任せっきりで」
石動はにへら、と笑うと駐車場へと向かう。
その背中を眺めながら、アントニオは密かに安堵していた。
よかった、これで大将は巻き込まなくて済む。
時間が来たら起こすと言ったが、今日は最初から寝ずの番をするつもりだ。
もし、石動が推理したように、犯人が弱者を虐げることを喜ぶタイプであれば、ただ死体を投げ込むだけではないだろう。
ナイフのような刃物をもってやってくるのは、想像に難くない。
石動はかなり慌てやすいし、うっかりした所も多い。ナイフをもった相手に襲われたら、怪我だけでは済まないだろう。
ナイフをもっていなかったとしても、動物の死体をもってくるのは間違いない相手なのだ。
性根の優しい石動に、無惨な死体など見てほしくもない。
――こういうのは、アタシみたいな人間のほうが似合いの仕事ですよ。
アントニオは空を見る。
すでに緞帳のような雲がかかっていた。
今夜は月のない夜になるのだろう。
身を隠し、息を潜め、目立たぬよう公園を見据える。
夜半過ぎた公園は驚くほど静かだった。 異変があったのは、深夜にさしかかった頃だ。
土を噛みざらつく音をたてるスニーカーの音で顔をあげた時、かすかな血のにおいがする。
――犯人だ。
やはり来た。大きなビニール袋から生臭さを漂わせ、周囲を伺っている。
夜道にばかり気を取られ、物陰にいるアントニオにはまだ気づいてないようだ。
公園にある光の乏しい外灯が、犯人の顔を照らす。
パーカーのフードで血ぬれた顔を隠しているが、明らかに笑っていた。
刹那、アントニオは動き出す。
――あぁ、本当にこいつは阿呆ですよ。救いがたいほどです。
命を奪うということを、特別にして。
殺せるやつは自分しかいない。
他人が出来ないことができるから、自分は特別なんだと思っているんでしょう。
違う、違う。違うんですよ。
命を奪うことなんて、特別な訳じゃないんです――。
歩み寄るアントニオに気づき、犯人はひっ、と息をのみ、ナイフをこちらに向ける。
やはり、刃物をもってきていたか。
手は震え、怯えた顔を向けているのは、アントニオが長身の男だったからだろう。
動物を殺すのに躊躇がない奴でも、自分より背の高い相手に対しては、恐怖心が勝るのだ。
勝てるという確証がないと、きっと恐ろしいのだろう。
「何おびえてるんですか。散々、小さい命をなぶってきた手で」
腹の奥底で、ぐるぐると黒い思念が渦巻く。
ほとんど自然に、能力が発現していた。
目の前にいる犯人は、その場に尻餅をついて苦しがる。
痛い、痛い、何だ、助けてくれ。
血反吐をまき散らし倒れたのは、アントニオが内蔵を少しばかり握りしめてやったからだろう。
触れずにいても、何かを壊せる。
アントニオのもつ能力の一つがそれだった。
「ダンナ、ずっと日本で生活してたんでしょうね。犯罪にも巻き込まれず、暴力とも無縁で――」
だから、命を奪うことを特別だと勘違いできるのだ。
命の価値が路傍の石とさしてかわらない世界なら、そんな考えなど微塵も思わない。
――あぁ、腹が立つ。
殺しを強要されたこともないやつが。一生、殺しと無縁でいられるやつが、好奇心や優越感でその手を血に染めるとは。
アタシは、それを選べなかった。
選ばせてすらもらえなかったのに――。
「ズルってやつですよ、それは」
じわじわと、威力が上がっていくのは自分でも分かる。
嫉妬と羨望が入り交じった感情をダイレクトに体に受けた、犯人はその場で身もだえし、もつれた足で逃げだそうとした。
「殺すなら殺される覚悟もないと。ねぇ、今どんな気持ちですかねぇ。強いものに蹂躙されて、無力のままなぶられるのは。許してほしいですか? ははっ……旦那に殺された動物たちも、そう思ってたんじゃないですかねぇ」
こんな奴、生きる価値なんてない。
殺してしまおう。
自分の能力なら、問題なくそれができる。
こいつを殺したところで、自然死のようにしか見えないだろうから――。
「おい、アントニオ」
するはずのない声が、公園に響く。
振り返れば石動が、ビニール袋片手にたっていた。
「た……大将、どうして……」
「どうして、ってそろそろ交代の時間だろ。これ、おまえも食べるかと思って。肉まんとホットコーヒー。夜だし、寒いだろ……って、誰か倒れてるじゃないか。誰だそいつ!」
「あ……なんか、犯人っぽいんですけど。急に私の前で、もんどり打って倒れて」
むちゃくちゃな話をしているのはわかっているが、目の前に倒れている人間がいたらそれを事実と受け止めるしかないのだろう。
「なんだ、体調が悪かったのか? と、とにかく救急車と。あと警察に電話だ! け、携帯電話を……うわ! 圏外!」
「大将の携帯、電波悪いですからねぇ」
「し、仕方ないだろ! ちゃんとしたのは高いんだ……こ、公衆電話で連絡してくるから、アントニオはそいつを見ててくれ!」
見ててくれって、殺そうとしたのは私なんですが。
大将がいないうちに、とどめを刺しておきましょうか。
ちら、とそんな考えがよぎるが。
「頼んだぞ!」
石動にそれを言われれば、断る事などできない。
「わかりました、任せてください。絶対に死なせませんよ」
アントニオは曖昧に笑うと、犯人の傍らにつきそう。
そして、ゆっくりささやくのだ。
「これに懲りたら、二度と大将を煩わせるような仕事を持ち込まないようにしてくださいよ。アンタみたいなタイプの甘ったれは、本能的に好きじゃないんで……次は、手加減しませんので」
床に倒れる影は、アントニオをじっと見る。
そして痛みと恐怖から、倒れたまま動かなくなった。
※※※
翌朝。
病院に運ばれた犯人は、驚くほど素直に犯行を認めたという。
「はは、スピード解決、というやつだな。報酬も弾んでもらったし、いや、よかったよかった」
上機嫌の石動とは裏腹に、アントニオは暗い顔のままうつむく。
もし、石動が来てなかったら本当に殺していたかもしれない。
ほんの少し、感情が波立った。それだけであれほどの力がまだ出るとは、自分でも思っていなかった。
人を壊すという意味で、アントニオの能力は一流だったのだ。
「大将」
「ん、どうした」
先を進んでいた石動は、足をとめ振り返る。
「もし、アタシが人を殺したら――大将が、捕まえてくれますかねぇ」
泣きそうな顔になって、そう、こぼした時。
石動はにやりと笑うと
「当たり前だろう! おまえを推理で追い詰めて、正しい道に戻してやる。それが名探偵ってやつだからな」
迷いなく、堂々と、まっすぐにこたえる。
正しい道とは、きっと石動のいるところだ。
石動は、たとえ罪を犯しても、アントニオを決して見捨てはしない。
そういう、人だから。
「……最も、おまえが逮捕されたら、俺がおまえをかくまったアレコレソレも明るみに出るからな。できれば、捕まらないようにしてくれ」
「はは……いいじゃないですか。一蓮托生、一緒に獄中生活も」
「おまえとかぁ? ……塀の中じゃジャズも聴けやしないだろ。ほんと、捕まらないようにしてくれよ」
笑いながら、石動は前を歩く。
その背中は、小柄でずんぐりしているのだが、とても大きく見えた。
「最近、児童公園に動物の死体が捨て置かれている事件がありまして……」
ソファーに座る依頼人の言葉を、アントニオはハンモックの上で聞いていた。
依頼人としてやってきたのは、事務所の周辺地区を管理している区長だ。
定年で仕事を辞めた後、地域の活動を主にやっていると言い、区内の費用を預かってゴミ拾いをしたり、祭などがあれば参加者をまとめたりと、細々とした仕事を請け負っているのだという。
区長の話では、一ヶ月ほど前から公園に動物の死骸が捨てられるようになったらしい。
最初は、ペットショップで買ったらしいハムスター類。それから、小鳥。それからは、ゴミ漁りをしていた鴉。そして先日は、野良猫らしい死骸が見せつけられるように引き裂かれ捨てられていた。
「それは、悪い傾向ですねぇ」
話を聞いた石動は、珍しく真面目な顔で区長を見ていた。
石動が所長を務める探偵事務所は、普通の探偵がするような仕事……例えば浮気調査であったりペット探しといった、王道の困りごとにあまり興味は見せず断る事も多い。
名探偵を自称し、ミステリー小説に出るような密室殺人やバラバラ事件といったロマンある殺人事件を解決したい石動にとって、そういった雑務は事件の対象外なのだ。
だから、石動が区長の困りごとという、いかにも普通で地味な調査など、聞く耳持たないものだろうと思っていたのだが。
「最初は、小さな個体だったものが、日が経つにつれ大きな個体となり、さらに残虐性も増している。このタイプの暴力に躊躇がない人間ってのは、人間の倫理観ってのを平然と踏み越えていくものです。このまま放っておいたら、いずれ子供か、女性か、老人か……立場の弱い人間に刃が向く事にもなりそうです」
よどみなく告げる石動を見て、区長はすっかり困った様子で椅子に小さくこしかける。
元々あまり大柄ではない体が、ますます小さく見えた。
「区内でも、子供たちが狙われるのではと不安になる親御さんが増えておりまして……警察にも連絡しているんですが、まだ何も起きてませんから、パトロールの強化くらいしか出来ないようなのです。石動さんが、犯人を見つけてくれればありがたいのですが、あいにくあまりお金がありませんで……」
アントニオは天井を眺めながら、声だけを聞く。
どうやらこの依頼は、区民からの依頼ではなく、区長の個人的な依頼のようだ。
調査や張り込みを長期間、というのは金額的に無理らしい。
全てを聞くと、石動は少し残念そうに眉を顰めた。
「本音を言うと、犯人になってもらってから調査したいんですが……」
「な、何いってるんですか、石動さん。勘弁してくださいよ。それって、誰かが死んでから調査するってことでしょう」
「まぁ、そういう訳にもいきませんよね。今までの犯行時刻や、傾向から、この日なら現れるのではないかという夜をピンポイントに見回りをしましょう。今までの経緯を詳しく教えてくれますか」
石動はモノが置かれたままの机に地図を広げ、区長と相談しはじめる。
公園は、いつも子供たちは遅くても18時頃には誰もいなくなる。
近くの通りは夜間帯でも帰路につく会社員も多いから、妙な動きをする誰かがいれば否が応でも目立つはずだ。
死体は見せつけるように置かれ、無惨に引き裂かれているのだという。
明け方近くだと、新聞配達員が周辺を回るの考えると、夜半から深夜帯に現れているのではないか。
見張りの日取りを決め、段取りの相談を終えた後。
「おい、聞いてただろアントニオ。この日はお前も一緒に見張るんだからな」
そう、声がかかる。
アントニオはハンモックに寝転んだまま、ひらひらと手を振った。
現場は、団地やマンションの近くにある柵にかこまれた児童公園だ。
花壇があり噴水があって整地された散歩コースがあるタイプの広い公園ではなく、中に入ればほとんど隅々まで見渡せ、ジャングルジムや滑り台、ブランコなどが置かれている、まさしく子供の遊び場だ。
そんな所に動物の。それも無惨に引き裂いた死体を置いていくのだから、明らかに子供たちを怖がらせたくてしているのだろう。
「犯人は、ろくな奴じゃないだろうな。臆病者の癖に尊大。弱い者にしか強く振る舞えない卑怯者だが、プライドだけが肥大しているから、頭の中で自分のこと特別だと思っているんだろうさ。だから、特別さを演出するためにこんな、下らない真似をするんだろうさ」
石動はアントニオに聞こえるように言う。
その推測に、アントニオも概ね同意していた。
ただ一つ、違うことがあるのなら――。
――自分のこと、特別だと思っている訳じゃないですよ、きっと。
そいつは――。
命を奪うということを、特別なことだと思っている。
※※※
子供たちがいなくなってから、朝方には動物の死骸が投げ込まれていた。
区長の言葉から、石動とアントニオは子供の姿が消えた頃から公園を見張っていた。
身を隠す場所も乏しい、狭い公園だ。
一歩入ればどこに誰がいるのかすぐわかるような場所だが、公園に入る道がやや奥まっているため、死角になりやすい場所でもある。
こんな場所を知っているのだから、おそらく犯人は近所の人間か。少なくてもこの地区に土地勘がある相手だろう。
「来るなら夜ですかねぇ。朝まで見張るとなると大変でしょうから、大将は先に休んでいてください」
アントニオは、自分が先に見張りに立つことにした。
今日は、近くの駐車場に車を止めている。
夜通しの見張りになるだろうから、車の中で仮眠できるようにするためだ。
「いいのか? 悪いなぁ、いつもお前に任せっきりで」
石動はにへら、と笑うと駐車場へと向かう。
その背中を眺めながら、アントニオは密かに安堵していた。
よかった、これで大将は巻き込まなくて済む。
時間が来たら起こすと言ったが、今日は最初から寝ずの番をするつもりだ。
もし、石動が推理したように、犯人が弱者を虐げることを喜ぶタイプであれば、ただ死体を投げ込むだけではないだろう。
ナイフのような刃物をもってやってくるのは、想像に難くない。
石動はかなり慌てやすいし、うっかりした所も多い。ナイフをもった相手に襲われたら、怪我だけでは済まないだろう。
ナイフをもっていなかったとしても、動物の死体をもってくるのは間違いない相手なのだ。
性根の優しい石動に、無惨な死体など見てほしくもない。
――こういうのは、アタシみたいな人間のほうが似合いの仕事ですよ。
アントニオは空を見る。
すでに緞帳のような雲がかかっていた。
今夜は月のない夜になるのだろう。
身を隠し、息を潜め、目立たぬよう公園を見据える。
夜半過ぎた公園は驚くほど静かだった。 異変があったのは、深夜にさしかかった頃だ。
土を噛みざらつく音をたてるスニーカーの音で顔をあげた時、かすかな血のにおいがする。
――犯人だ。
やはり来た。大きなビニール袋から生臭さを漂わせ、周囲を伺っている。
夜道にばかり気を取られ、物陰にいるアントニオにはまだ気づいてないようだ。
公園にある光の乏しい外灯が、犯人の顔を照らす。
パーカーのフードで血ぬれた顔を隠しているが、明らかに笑っていた。
刹那、アントニオは動き出す。
――あぁ、本当にこいつは阿呆ですよ。救いがたいほどです。
命を奪うということを、特別にして。
殺せるやつは自分しかいない。
他人が出来ないことができるから、自分は特別なんだと思っているんでしょう。
違う、違う。違うんですよ。
命を奪うことなんて、特別な訳じゃないんです――。
歩み寄るアントニオに気づき、犯人はひっ、と息をのみ、ナイフをこちらに向ける。
やはり、刃物をもってきていたか。
手は震え、怯えた顔を向けているのは、アントニオが長身の男だったからだろう。
動物を殺すのに躊躇がない奴でも、自分より背の高い相手に対しては、恐怖心が勝るのだ。
勝てるという確証がないと、きっと恐ろしいのだろう。
「何おびえてるんですか。散々、小さい命をなぶってきた手で」
腹の奥底で、ぐるぐると黒い思念が渦巻く。
ほとんど自然に、能力が発現していた。
目の前にいる犯人は、その場に尻餅をついて苦しがる。
痛い、痛い、何だ、助けてくれ。
血反吐をまき散らし倒れたのは、アントニオが内蔵を少しばかり握りしめてやったからだろう。
触れずにいても、何かを壊せる。
アントニオのもつ能力の一つがそれだった。
「ダンナ、ずっと日本で生活してたんでしょうね。犯罪にも巻き込まれず、暴力とも無縁で――」
だから、命を奪うことを特別だと勘違いできるのだ。
命の価値が路傍の石とさしてかわらない世界なら、そんな考えなど微塵も思わない。
――あぁ、腹が立つ。
殺しを強要されたこともないやつが。一生、殺しと無縁でいられるやつが、好奇心や優越感でその手を血に染めるとは。
アタシは、それを選べなかった。
選ばせてすらもらえなかったのに――。
「ズルってやつですよ、それは」
じわじわと、威力が上がっていくのは自分でも分かる。
嫉妬と羨望が入り交じった感情をダイレクトに体に受けた、犯人はその場で身もだえし、もつれた足で逃げだそうとした。
「殺すなら殺される覚悟もないと。ねぇ、今どんな気持ちですかねぇ。強いものに蹂躙されて、無力のままなぶられるのは。許してほしいですか? ははっ……旦那に殺された動物たちも、そう思ってたんじゃないですかねぇ」
こんな奴、生きる価値なんてない。
殺してしまおう。
自分の能力なら、問題なくそれができる。
こいつを殺したところで、自然死のようにしか見えないだろうから――。
「おい、アントニオ」
するはずのない声が、公園に響く。
振り返れば石動が、ビニール袋片手にたっていた。
「た……大将、どうして……」
「どうして、ってそろそろ交代の時間だろ。これ、おまえも食べるかと思って。肉まんとホットコーヒー。夜だし、寒いだろ……って、誰か倒れてるじゃないか。誰だそいつ!」
「あ……なんか、犯人っぽいんですけど。急に私の前で、もんどり打って倒れて」
むちゃくちゃな話をしているのはわかっているが、目の前に倒れている人間がいたらそれを事実と受け止めるしかないのだろう。
「なんだ、体調が悪かったのか? と、とにかく救急車と。あと警察に電話だ! け、携帯電話を……うわ! 圏外!」
「大将の携帯、電波悪いですからねぇ」
「し、仕方ないだろ! ちゃんとしたのは高いんだ……こ、公衆電話で連絡してくるから、アントニオはそいつを見ててくれ!」
見ててくれって、殺そうとしたのは私なんですが。
大将がいないうちに、とどめを刺しておきましょうか。
ちら、とそんな考えがよぎるが。
「頼んだぞ!」
石動にそれを言われれば、断る事などできない。
「わかりました、任せてください。絶対に死なせませんよ」
アントニオは曖昧に笑うと、犯人の傍らにつきそう。
そして、ゆっくりささやくのだ。
「これに懲りたら、二度と大将を煩わせるような仕事を持ち込まないようにしてくださいよ。アンタみたいなタイプの甘ったれは、本能的に好きじゃないんで……次は、手加減しませんので」
床に倒れる影は、アントニオをじっと見る。
そして痛みと恐怖から、倒れたまま動かなくなった。
※※※
翌朝。
病院に運ばれた犯人は、驚くほど素直に犯行を認めたという。
「はは、スピード解決、というやつだな。報酬も弾んでもらったし、いや、よかったよかった」
上機嫌の石動とは裏腹に、アントニオは暗い顔のままうつむく。
もし、石動が来てなかったら本当に殺していたかもしれない。
ほんの少し、感情が波立った。それだけであれほどの力がまだ出るとは、自分でも思っていなかった。
人を壊すという意味で、アントニオの能力は一流だったのだ。
「大将」
「ん、どうした」
先を進んでいた石動は、足をとめ振り返る。
「もし、アタシが人を殺したら――大将が、捕まえてくれますかねぇ」
泣きそうな顔になって、そう、こぼした時。
石動はにやりと笑うと
「当たり前だろう! おまえを推理で追い詰めて、正しい道に戻してやる。それが名探偵ってやつだからな」
迷いなく、堂々と、まっすぐにこたえる。
正しい道とは、きっと石動のいるところだ。
石動は、たとえ罪を犯しても、アントニオを決して見捨てはしない。
そういう、人だから。
「……最も、おまえが逮捕されたら、俺がおまえをかくまったアレコレソレも明るみに出るからな。できれば、捕まらないようにしてくれ」
「はは……いいじゃないですか。一蓮托生、一緒に獄中生活も」
「おまえとかぁ? ……塀の中じゃジャズも聴けやしないだろ。ほんと、捕まらないようにしてくれよ」
笑いながら、石動は前を歩く。
その背中は、小柄でずんぐりしているのだが、とても大きく見えた。
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